物語言語総合定義集

言葉。それは本来、軽々しく濫用するものではない。わが国においては「言霊が宿る」外国においても「言葉を使うのは重い棍棒を扱うより難しい」と言われている。

だが物語において、しばしば決めとなるべき言葉が安易に繰り返され、やがてそれはパターン化し、形骸化し、失われる。

そこで、それらの持っていた意味、あるいは本来あるべき意味とは何かについて、僅かに想いを巡らせて見た。

「英雄」「ヒーロー」「正義の味方

ある意味、これほど使い古された言葉も無いだろう。その性で最近では様々なアナーキーな解釈が生まれ、我々を混乱させている。

それは、それで良い。だがそういう「問いかけ」に対して、「答え」を返さければならないだろう。

英雄、ヒーロー、正義の味方・・・理想的な存在として描かれることの多い彼らの役割、意味。それを、我輩はいくつ者作品から得たものを取り合わせこう考えた。

それは、「示す者」である、と。理想の地平と現実の足元の間、我々よりほんの少し前に立ちながら、進むべき道を示し続ける存在であると。その道は未来であると同時に過去であり、踏み外してはならない道徳でもある。

故に、彼等が忘れ去られてはならない。それは大切なものの消失であるからだ。

逆に言うならば、「敵」とは、「問う者」である。今の規範となっているものは正しいのか、どうなのか。問いかけ、そして大半の場合理想を示す英雄に倒される。まれにこの二者は立場を逆転する。すなわち、時に主人公が問いかける側ともなりうるのだ。

「漢」

漢字の漢と書いて「おとこ」と読み、それにただの「男」にはない特別な意味を付加するようになったのはいつからだろう。

いつからかはさておき。この「漢」というもの、明確に「どういうものである」となかなか説明しにくい。

ただ、いわゆる「男らしさ」の究極領域である、という解釈ならばあながち間違いではなかろうが。いや、むしろ「雄雄しさ」すべてか。それは精神的なもので生物的なものではないから、女の「漢」もいるかもしれないことになるが・・・?

「勇者」

「英雄」ヒーロー」「正義の味方」と似たような意味合いととる場合も多く、むしろそれが本来の王道かもしれないが、ここはあえて独自の意味を持つ土地手考えてみると、確かにその形が見えてくる。

それは、勇者とは「奇跡を起こす、低確率を引っくり返す存在」という要素が介在すると思われてくる。

こういうと一見「勇者王ガオガイガー」からの発想かと思われるだろうが、それだけではない。牧野博之氏の漫画「勇者カタストロフ!」においても、似たような表現が散見される。劇中の王様のセリフで、このようなものがあるのだ。

「歴史に名を残す勇者というのは、ある意味とんでもない大馬鹿者かもしれん。まともな人間なら自分のやろうとしていることがいかに困難か気づくはずだからの」

ここからも、勇者とは困難を、不可能難事を乗り越える存在であるということが伺える。そしてそれは、勇者という文字の本来の字義にもまた関わってくる。「勇者」・・・勇気ある者。それがそもそもの意義であり、そしてそれとこれまでの定義づけは矛盾しないのだ。勇気を持って挑む、そして達成する。「断じて行えば鬼神もこれを退く」の諺の通りに、勇者とはその「勇気」が奇跡を起こす、故に「勇者」、と。

「覚悟」

「覚悟とは本能を凌駕する魂の事なり!」

と、のっけから言い切ってしまったが、これは漫画「覚悟のススメ」からの引用。「覚悟」という言葉をタイトルに持ってくるように、この話この言葉で、「覚悟」の意味は簡潔に言い切られているといってもいい。

ただ、これだけでは(簡潔すぎて)分かりにくいという向きもあるので、ここは若干の注釈を・・・そのためにはまず

「魂」

という、この一文字の定義を先に済ませておくとしましょう。魂とは、この場合宗教的なものではない。いや、それよりもなお崇高なものだ。「企業戦士YAMAZAKI」においてのセリフより抜粋。

「心は捨てられても魂は捨てられまい」

「何を捨てようが、どう変わろうが、これだけは譲れないという最後の一線! 心がどんなに傷つこうと、決して傷つくことのないひとかけらの魂がアナタにもあるはず!」

これと同じようにこの場合の魂も、信念に近しい己の中の規範、人間だけが持ちうるもの。

そして本能とはこの場合生存本能と解釈するのが正しいと思われる。

つまり、生存本能・・・死ぬかもしれないという恐怖から通常ならば逃げるところを、心の規範から許せないが故に立ち向かう、そのあえて踏みとどまる精神を「覚悟」という、と。

「侠気」

「人間は獣の一種だから、元来は皆臆病。居自分の命を守ることしか考えない。ところが長い歴史の間に、優れた人間はその本能を凌駕する精神を身につけた。それが「侠気」という鎧ですね。そういう人間が現れなければ歴史は作られないから」

浅田次郎「珍妃の井戸」より抜粋。上の「覚悟」と類似しているが、これはこれで説得力がある。

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