run rabbit junk short bad bye 6

「単刀直入に言うぜ。」
ここまでの跳躍を可能とした太い尻尾がくるくると巻き上がって、再び筋力を蓄積する。
右腕は甲殻に覆われ巨大であるが比較的人間に近い構造をしているが、左腕はクレーンじみた巨大な鋏だ。そいつを威圧的に開閉して・・・
「一緒に来な。パイレーツショッカーに入って、この島を獲ろうぜ。フナムシコマンド改造プラントに加えて、俺以外の上級改造人間が増えれば鬼に金棒だ。」
至極一方的な勧誘をかましてきやがった。
「大方、こう思ってるんだろ。改造人間になったんだから、好き放題にその力を使って当然だ。ネオショッカーの残党としても、【征服】をするのは正しい。俺も、ラビットジンって、ネオショッカーの改造人間だ。だから誘う、ってな。」
一方的な言葉に、殴り返すように言葉を吐き返す。
「んなこたあ、どうでもいい。」
切って捨てる。
「クリオネに会わせろ。」
クリオネが、俺と会いたくないのは分かっている。それでも。
この粗雑な男とクリオネが一緒にいる事が、どうしても、それよりも嫌に思えた。
「大体あってるな、お前の指摘。だが、もう一つあるぜ。お前じゃなくて俺が要求する側だって根拠がな。」
こっちの言葉の、あえて一つ前の発言に答えやがって、指を立てて振り、舌打ちの変わりか顎をカチカチと鳴らすロブスタージン。
顔が表情を作るのが難しげなフルフェイスヘルムのせいか、ボディランゲージが少々オーバーで、どうにも神経に障る。
その弾みに、がちゃり、と腰のものが揺れた。バックル付きのベルトに下げるようにした、規格外にでかいホルスターだ。
ネオショッカーを抜けてから鋏型じゃない右手で使う為の銃だろう・・・対サイボーグカスタムと改造人間指で使用可能の改造を施された、パイファー・ツェリスカだぁ?
なんてえ大口径信奉だよ。当たったら、一発でお陀仏だな。
・・・そんな分析は、次のロブスタージンの言葉で脇に蹴っ飛ばした。
「俺のほうが、お前より強い。だからお前は俺に従うことになる。」
ざわっ、と、全身の毛が逆立つ感触を覚えた。髪だけじゃなく、長い耳や、体のあちこちを覆う獣毛が・・・格好つけるにゃあかわいいウサギの毛皮だってのに・・・植えつけられた半人半獣の獰猛な闘争心で高ぶった。
弱いと言われれば。例えウサギでも、戦って生きてきた身としては、腹が立つ。
「マシロ・・・!」
突き飛ばした時計屋が、咽ながら立ち上がるのも早々に俺の名を呼んだ。
言いたいことは分かってる。用心しろ、相手が自信満々ってことは、それだけの根拠があるってこと。
けれど、カリィに言った。俺は俺の望む先に行くという言葉。それは、ここで尻尾を巻いた先じゃない、ってのは確かだ。丸いウサギの尻尾をどう巻くのは兎も角としてだ。
「時計屋。逃げろ。」
「マシロ!」
「庇ってる余裕はねえ!」
自分で言って、成程、時計屋が心配する程度には、緊張した声になっちまってるな、というのを認識して、二言目は思い切り邪険に言い放ったつもりだった。
あくまで、本気で戦うと邪魔だ、フルスピードで暴れまわったら巻き添えにしちまうぞ、ってな。
「ならお前も、」
「いいからどけぇ!!」
・・・言いたいことは分かっていた。そこまでプレッシャーを感じるんなら俺にも逃げを打てと。けれど、尻尾を巻かないとさっき誓った!
だから、離している暇は無いと、ロブスターがフナムシコマンドの死体を使ってあけた穴から、改造人間の腕力で時計屋を外へ投げ飛ばした。ロブスターの奴と違って、怪我しない程度の対地接触速度に加減して。
身を捻ったせいか。捨てられずに懐に戻した、ウィルスで壊れた端末が転がる感触がした。
「ははっ・・・」
そいつが、ゴングになった。ロブスターが笑い、改造人間の速度で右手を動かす。
「いいのか、おい。お前みたいな軽量級が、先手まで譲っちまってよ!」
GBAM!
猛烈な轟音と共に、呆れるほどの大口径弾が射出される。人間の握力と手首の耐久力、拳銃にそこまでの大口径を採用する理由などを考えれば、趣味の極み。悪し様に言えば、人間を殺すための道具に淫する人間の愚かしさの形のような銃。
だが、改造人間の膂力は、そんな銃を更に対改造人間用にカスタムした代物を、易々と使いこなす。
「舐めやがって!何がクリオネだぁ、俺様を前にしてよお!」
ロブスターの怒号ごと、飛び越えるように小跳躍してかわす。時計屋一人に裂いた時間程度じゃ、相手の動きを耳で察する俺の速度は手遅れにはなら無い。
そして、その銃弾は、脚を狙って放たれていた。従える、と言っていた以上、あの大口径対改造人間銃では、胴に当てて殺しかねない射撃は出来ない。コマンドを運用してるってことは、連中の海賊船にはある程度の改造人間があるから、手足がもげた程度の「教育」なら、直して使える、って訳か。
生け捕り狙いの相手に対して、応じる義理はねえな。死ななくても知りたいことは聞きだせるが、殺しても海賊を瓦解させて・・・クリオネを引っ張り出せるチャンスは作れるんだからな!
銃弾を飛び越えた俺は空中で身を捻る。ロブスタージンは一発ぶっ放した直後から突進体制に入っている。間合いが急激に迫る。
BLAMBLAMBLAM!
空中で、今度はこっちが銃を連射。前段顔面狙い・・・全部防がれる。巨大な鋏を盾のように掲げている。そいつに当たった弾丸が、金床に当たったみたいに砕け散った。
そうなるのは予想できていた。対改造人間カスタムの施された銃の特殊弾でも、重装甲の突撃型や拠点防衛型の改造人間相手では、装甲の隙間を遠さ無い事には有効打になりゃしない。だからこそ、目にまぐれ当たりするか、当たらなくても隙を作れれば、と思ったが。
同時に、ひゅん、と空を切るように、長い触角が翻ってきた。あれで知覚の補佐が出来るというと、前者を防がれただけじゃなく後者も望み薄、か!
「っ、知るかっ!てめえなんて、興味ねえんだよ!!」
鋏の盾を払い落とすように、踵落とし・・・蹴った脚のほうが、逆に痛くなる。ウサギの改造人間である俺の脚は、全身で一番筋力のある部位だが、その一撃で、辛うじて鋏の構えが外れた。空いた頭部に、拳を叩きつけにいく。手甲に隠された門歯型高振動ブレードを展開。
首筋を狙う。相手が銃を持った腕で、腕同士をぶつけるようにして払う。
「痛っ・・・!」
こうなることも、覚悟出来ていた。腕同士の激突、それだけで分かる圧倒的なパワーの差。正面から殴り合ったら、あっと言う間に殴り倒される。
それが、こいつがああも自信満々な理由だ。
同じネオショッカー製の改造人間ではあるが、アイツは敵の攻撃を跳ね返しながら突撃して敵を粉砕するために作られた生粋の正面戦闘、突撃用の改造人間。
対する俺は、バイクの運転能力を買われ、バイクごと跳躍できる脚力を与えられた、機動戦闘、遊撃用の改造人間。それも、同系統でありながら決闘用・粛清用の改造人間としての戦闘能力まで与えられた飛蝗男=仮面ライダーと比べれば、あからさまな旧式だ。
「ふんっ!!」
ロブスターの奴が鋏を大きく広げて宙を舞う俺を捕えようとする前に、ロブスターの肩を蹴って跳躍。
(正面からの殴り合いじゃ)
(バイクも無しじゃあ)
「ハッ、テメエの女の積りか!?女々しいぜウサギ、クリオネは俺様のもんだ!てめえみたいな軟弱が!勝てるはずがねぇだろう!」
「やかましい!」
相手がそう思っていることが伝わる。自分の内からも、そういう疑惑がいやらしい蛆のように沸く。それでも、ロブスターの挑発に怒号を返す。
それ以上に。クリオネを自分の所有物扱いするこいつが気にくわねえ。絶対、痛い目に・・・あわせてやる!
跳躍。
跳躍!
跳躍!!!
「がちっ・・・!」
舌を打つ動作の代わりに、ロブスターが顎を鳴らした。俺は跳ねる、跳ねる、跳ねる。床を、壁を、天井を蹴り、空中を旋風のように巡りロブスターをかく乱する。
GBAM!
パイファー・ツェリスカの銃声。だが、着弾して壁にクレーターじみた大きな弾痕を刻んだのは、それよりもはるかに後ろだ。
宙を舞いながらリロードを済ませる。ロブスターの奴は、銃口を振り回すのに忙しくてそれが出来ない。そして、此方を中々補足出来ないようだ。
だが、仮にもアイツも戦闘員を率いる士官改造人間。直ぐに適応してくる。2発撃った。5発しか装填できないアイツの銃の弾切れにはあと3発。そいつを待ってる余裕はない・・・!
「らぁああっ!」
「ぐっ!」
壁を蹴って飛び移る過程に、ナチュラルに。
ロブスタージンを壁として混ぜる。蹴撃、激突!たたらを踏むロブスタージン。そこから二回、壁と天井を蹴って、もう一回ロブスタージンを踏む!
「このっ!!」
バシンと空を切る鋏。ロブスタージンから飛び離れながら二発銃撃。無意味だ。だが、相手は意味があるかどうかを一瞬考える。それで十分。
今度は一度飛んで蹴る。次は四度、その次はもいちど二度飛んで、蹴る!
「畜生が!お前程度に、いくら蹴られたってなあ!」
ロブスタージンが吼えた。蹴るタイミングを変えて、蹴る場所もその都度変えて。ランダムな打撃だからこそ、ロブスタージンにも読み切らせない。
けれど、読みきらせないだけだ。思い切り蹴っても、有効打になりゃしない。とはいえ、貫通はしなくても衝撃が通っていないという事はない。あいつ自身が強がるほどには無敵と言うわけでは無い筈だ、が。
「るっ!せえっ!」
それでも、戦果が足りない!寄り踏み込んだキック・・・相手の銃を蹴り飛ばす。
「蹴られたってなあ・・・!」
まずい。
踏み込みすぎた。ロブスタージンの触角が、鞭のように絡みついてくる。銃を失っても、もとよりそんなものは跡付けで。改造人間の真の武器は、肉体そのものなんだから・・・!
ステップを踏む。コンクリの床が脚捌きに削れる。絡みつく鞭の拘束の話から・・・逃れた!改造人間の戦闘機動での最高速度は音速を超えるが、くねって絡もうとする鞭は、その中では比較的遅い部類、
「一発で逆転なんだよぉらぁあっ!!」
ガッ

・・
・・・
「〜〜〜っ、ぐ、あっ!!?」
一瞬意識が飛びかけた。気絶しない為に、自分がまだ動けることを確認するために苦悶をかみ締めて叫ぶ。
鋏が。鋏で、斬られる警戒はした。その合わせ目を基準に、そこから避ける為の体捌きをした。
それに対して繰り出されたのは、鉄槌。鋏を鋏として使わず、閉じたままその装甲大質量をスレッジハンマーとして叩きつけられた。
頭が、揺れる。気を、失いそうだ。失ったら、駄目だ。尻尾を巻くより、情けない。失ったら、届かない、クリオネに、届かないっ・・・!
「しゃはあっ!」
ロブスタージンの鋭い吐息と笑いの入り混じった獰猛な声。全身をうねらせて切り返したハンマーが、今度は下から掬いあげられるように脇腹を叩いた。
女の平均よりゃ引き締まって太いし、改造人間だが、それでも女の細さが残ってる腰が、客観的に見りゃくの字に曲がってんだろうな、と、認識する思考が苦痛の波に現れる。
「げぼっ!?」
喉と、骨と、体液が鳴った。外骨格に覆われた複眼のくせに人間らしいロブスター野郎の目に、嘲笑するような色が混じる。女をねじ伏せて喜ぶ男の目だ。
歯と、脚と、拳が鳴った。
「ぎいっ!?」
今度は、ロブスターが悲鳴を上げる番だった。前に一歩踏み込んで、地面を踏み鳴らしながらのアッパーカット。
苦悶が、退くという行動に繋がるものと、更なる大振りの一撃を見舞おうとしていたロブスターに。
虚仮の一念がモロに突き刺さった。両腕を旋回させる。前に足を踏み出す。
右っ!
左ぃっ!!
顎下。脇。装甲の隙に何発か通る。ダメージが、ようやく入る。
「ぐぎ、この女(アマ)ぁっ!!」
怒号と共に、ハンマーがもう一発振ってきた。右肩が、骨の外れる音を立てやがった。
痛え。だけど、進まないと。道理を考えたら。ようやく有効打を与えられたとはいえ、相手が与えてくる有効打との比率と。双方の耐久力差を考えたら。
「あぁああああっ!」
吼えて、左右に体を振り回しながら、拳を見舞おうとする。認めない、認めないと。
もがくような俺の視線が、不意に揺らいだ。
間合いが、離れたのだ。
「・・・おい、見ろよ。」
殴られた弾みで一歩退いたロブスタージンが、斜め後ろを見て笑っていた。
馬鹿な俺は、踏み出した一歩を空振りさせてたたらを踏みながら、釣られてそっちを見た。
そこには。
クリオネが。
「内助の功、ってか?」
居た。
銃を、構えて。
その、表情は。逆光の中で。
銃声。
弾丸が食い込む感触。
よろめいて。光の加減が変わって、今度こそ、クリオネの、顔が、見え
・・・
ロブスタージンのハンマーブロウが、俺を吹っ飛ばした。

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