run rabbit junk short bad bye 5
・・・その二つの音が、交差した、まさにその時・・・!
ZZZZ・・・・・MMMMMM!!!!!!
「な!?」
「うおっ!?」
その二つを塗り潰して余りある轟音が響き渡った。
俺もカリィも、同時にそっちを見た。
・・・ビル一軒が轟音を立てて倒れていく様を・・・!
直後、カリィの表情が変わった。驚愕に。慌てて近場に着地し、通信端末を引き抜く。
飛んでるカリィと違って跳んでるこっちは、そこまで機敏に対応できないが、懐の通信端末が振動するのを感じた。
・・・面倒だ。メールなら兎も角、この振動パターンの設定は電話だ。
そして、ほぼ確実にかけてきてんのは時計屋だ。
出れば十中八九、猛烈に小言を言われる。
(ったく・・・!)
ちょっと表情が引きつるが、今はまずこいつを確保することが大事だ。
「俺は俺が望む先に行くさ!あばよカリィ!」
再度、強引に跳躍。捨て台詞は、正直強引だ。俺自身、俺が望む先なんて、分かっちゃ居ないんだから。
ダン!
いずれにせよ、屋根を再度蹴って・・・宙を舞いながら、片手でフナムシコマンドを保持したまま・・・数瞬躊躇して携帯端末を手に取る。
やはり、電話だ。メールじゃない。・・・番号表示を見る。クリオネじゃあ、無かった。
何を贅沢言ってやがる、と、自重する。
そのうえで、電話に出ようとして。
瞬間、目を大きく見開いた。縋りつくように。嘘じゃないかと問うように。
同時着信で、メールも来ていた。そして、それは、クリオネの、アドレスだった。
携帯を持つ手が震える・・・こんなに自分が弱いなんて、思いもしなかった。
一瞬迷う。時計屋の電話に出るのと、クリオネのメールを確かめるのと、どっちにしようかと。
一瞬後、時計屋の電話を受ける。メールは後でも読める、と、考えて。
・・・本当は、怖かったのかもしれなかった。中身を、確かめるのが。
「おいマシロ!またおっぱじまってるぞ!」
「ああ分かってる!というか、たぶん俺が火をつけた!」
ビルが崩れただけでは、恐らくないのだろう。おおよそ、一時収まった戦火が、そこらじゅうで再燃したに違いなかった。
だが、戦火を得ただけじゃなく、一応戦果も得た。
「その代わり手掛かりは手に入れた!それもってすぐ戻る!だから小言は後にしろ!クリオネからもメールが来てる!」
「手掛かり!?それにクリオネっておい・・・」
ピッ。
通話を切る。まあ、再度かかってくるかもしれないが、あるいは配慮するかもしれない。
心臓が跳ねる音が、乳房と胸郭の下から聞こえた。クリオネからのメール。
息を呑んでから、指を押し込む。
開いた。
「危険。コンピュータウィルス攻撃を受けて、」
一瞬、画面にそう表示が出て。
バシッ。
「え」
消えた。
「え?」
ボタンを押す。電源を押す。反応、一切無し。
「・・・・・・」
クリオネからのメールが、ウィルスで。
つまりそれは。
「クリオネ・・・」
そんなに、俺を。拒絶するのか。
もう一度、跳ねる。
少し、跳躍の起動が乱れた。少しだ。少し乱れて・・・ちょっとアンテナに肩をぶつけて、少し着地に失敗しただけだ。
跳躍した後の起動に、水が数滴散っただけだ。
「・・・痛ぅ・・・」
立ち上がって、跳ねる。
体が痛いだけだ。
そう、必死に自分に言い聞かせた。時計屋と会うまでに、自分が騙されることを祈りながら。
そして、時計屋と合流して。
フナムシコマンド相手の尋問は、至極短時間で済んだ。
正直拍子抜けするレベルで、全部吐いた。肉体の性能は兎も角として、兵士としてはアリコマンドよりは相当下だ。
常識どおりなら、この後こいつは始末するに限るが。
「分かった。んじゃ、出て失せな。・・・・んだよ。据え物を斬る趣味はねえなんて気障な事を言う柄かってか?そう思ったんだから、仕方ねえだろ。」
平然とそんな常識を無視した俺の行動と、こけつまろびつ逃げてゆくフナムシコマンドを見ながら、少し奇妙な表情をしていた時計屋にそう言うと。
「いや。それでいい、って思っただけさ。」
時計屋の奴は、そう答えた。真っ直ぐな表情からして、皮肉じゃないらしい。
「・・・別に慈悲深くイイコトをしたわけじゃねえよ。アイツがこれからどうなるかも知らねえし、アイツがこれからする事の責任も取れねえんだ。」
それこそ、秘密をばらしたアイツは結局殺されるかもしれないし、あるいはアイツが軍団に戻って、敵をまた殺すかも知らねえ。
そいつが分からないのに放り出すなんざ、ある意味無責任の極みってもんだが。
「馬鹿でも半端でもいいさ。お前がお前だ、ってこったよ。」
憎しみにも怒りにも支配されていない。お前はお前のままだ、そうあるにこしたことはない、って思うのさ、と。
「っ、ば、ばっきゃろ!やんちゃでもいい、のびのび育ってくれればみたいな事言ってんじゃねえ!?俺はお前のガキじゃねえんだぞ!?」
微笑しながら言った時計屋に、思わず怒鳴り返した。頬が多分赤いのが熱さで分かるのが倍恥ずかしい。
「ともあれ、えらいことが分かったな。ハッ、パイレーツショッカー、ってか。」
俺は話題を切り替えようとする。フナムシコマンドから聞いたところによると、海賊団の本当の名は、PSというイニシャルの意味は、パイレーツショッカー。
その名の通り、マシロがかつて所属していた組織の系列の生き残り・・・正確に言えば、組織崩壊時に基地の自爆から逃れるべく冷凍睡眠装置に入って、現代偶然にそれが発掘されて復活した海兵部隊。
多数のフナムシコマンドと通常兵器に加え、マシロ・トヴァ=ラビットジンと同格かそれ以上の、上級改造人間、ロブスタージンに率いられていると。
「だが、そんなこたぁ、どうでもいいんだろ?」
「・・・」
そう時計屋が言って、俺は思わず眉を潜めた。
確かに、そうだ。元同属とはいえ、んなことを・・戦闘力的な脅威という点を除けば・・・気にする事はない。やりあうならやりあう、それだけだ。
だが、そうである俺を、時計屋は諌めようとしていたのではなかったか?
「さっきと言うことが違うじゃねえか。」
「さっきとお前が違うからな。厳しくは出来ねえよ。」
「・・・あんなこた、気にしちゃいねえよ、下っ端の色目だろうが。」
捕まえたフナムシコマンドが、クリオネについて聞いたとき、ボスの情婦だと思うが詳しく知らねえ、といったことなんて。
俺は、信じない。
「そっちじゃねえよ。馬鹿。ケーキを買って貰ってはしゃいだとたんべしゃっと落とした子供みたいな顔してるほうさ。・・・クリオネからのメール、良くない感じだったんだろ」
「・・・やっぱ、バレてたか。」
「バレバレだひょ、ったく。」
二人の溜息が入り混じった。
「・・・携帯、ウィルスで壊された。あいつ、俺に来て欲しくないんだ、本当に。」
観念して、俺は時計屋に告げた。
一泊の沈黙。
だが、直後、時計屋は、思案をめぐらせ、俺を気遣い労わる表情で、何か言おうとした。
しかし、それと同時。
「あぶねえ、時計屋ぁっ!」
俺の耳が立った。全身の毛が逆立つ。音が伝えた外の様子を、脳が把握しながら体が動く。それくらいの、ギリギリ。
時計屋の前に立つ。そうしないと間に合わないんで、一歩踏み出すと同時に時計屋を掴んで引き倒し無理やり自分の後ろにやった。
同時に、時計屋の体をカウンターウェイトにして、全力の回し蹴りを放つ。
壁をぶち破って、砲弾になって飛び込んできた、さっき追い払ったフナムシコマンドの肢体にだ。そうしなきゃ、弾けねえ。
ズガンッ!
弾き飛ばされた死体が、最初に打ち破ってきた壁から75度横の壁を今度は内側から打ち破って外に飛び出した。
強化改造されてる骨と腱が軋む程の、強烈な衝撃だった。やらなきゃ、時計屋は粉々だったな。
「・・・てめえが。」
「ああ、そうとも。」
外を戸惑い歩いていたフナムシコマンドに、恐らくは腰の後ろから生える太い尾で体を弾いての跳躍で一気に飛び掛り。
クレーンじみたあの腕で、砲弾のように弾き飛ばしたのだろう。
俺の耳がさっき捉えた唐突な出現と砲弾化を、今、扉を開けて現れた、この甲殻類型の武者鎧を纏ったような改造人間がやった方法を考えるならそうだろう。
「パイレーツショッカー頭領、ロブスタージンだ。クリオネの奴から話は聞いてるぜ?ご同輩。」
そしてそいつは、そう名乗りを上げた。