run rabbit junk short bad bye 4


尻尾を立てろ!
じゃあ無かった、耳を立てろだったな、ボーボ。のっけから関係の無い思考をして0コンマ0何秒かを浪費しながらも・・・改造人間は戦闘状態に入れば思考の速度そのものが常人よりも加速するのだ、それを何ぼか無駄にする俺みたいな馬鹿もいるが・・・俺の体はその時点で腕も脚もばらばらに動き出していた。
右手はストライクガンを抜くと同時に目一杯振りかぶるような形で全力で肩を後ろに回す。銃口が睨むのは呑龍の阿呆共。ノールック射撃なのは自慢の耳が何とかする。無茶な姿勢なのは改造人間筋力が何とかする。どっち道本気で殺すつもりはない、ただ、こっちが殴り合いをする間に流れ弾を飛ばして欲しくないってだけだ。
背後目掛けて威嚇射撃の火花を散らしながら俺は飛び出した。通俗活劇(ハリウッド)じゃあ派手な爆発を背景にすることが多いが、それに比べりゃささやかなもんだ。
「ギシャ・・・」
聴覚で呑龍の連中がこっちの着弾に慌てふためくのを見るのと同時。視覚上ではフナムシコマンドが叫び、装甲に覆われた手刀突きを左右同時に大顎のように振りかぶって繰り出そうとしていた。
だが、遅い。地面と水平に跳躍した俺は既に両腕の間合いの内側。そのままの勢いで膝蹴りを打ち込む。攻撃の為の叫びを息の詰まった苦悶に変えて倒れる一人目の向こう、まだ対応しきれていないもう一体に、振りかぶった姿勢で撃っていたストライクガンをハンマーのように叩きつける。
分厚い対銃弾装甲に当たった。改造人間の腕力で叩きつけたとはいえ、一発では倒れない。
「寝ろっ!」
上からの衝撃から立ち直りきらない間に、アッパーカット。改造人間としてそう上等の作りというわけではない俺だが、それでも簡易型(せんとういん)を、殺さず鎮圧する事くらいは出来る。
そして、出来るなら今、やる必要がある。捕まえて、情報を得る!
「く、くそ、てめえ・・・!」
「ぎぃ!」「ぎぃっ!」
ようやく遮蔽物の陰に隠れた呑龍どもが今になって誰何をしてきた。だが、そいつにいちいち答えてる暇は無さそうだ。
フナムシコマンド、三体目と、四体目。二体を倒す間に流石に体勢を整えたか。拳と、蹴り。
だが両方とも正面からだ。捌く。完全に訓練されたアリコマンドであれば、この場合左右からの同時攻撃を選択しただろう。多少の装甲と水中適性を積み増して改造度としては此方が上の積りなんだろうが、錬度は俺が居た頃の組織のレベルじゃ・・・
「ギィイッ!」
だが、とはいえそれでも、装甲は伊達じゃねえみてえだ。膝蹴りを見舞った一体目が立ち直って後ろから襲い掛かってくる。
同時に、呑龍の連中が、銃撃をせずに携帯を手にとって何か叫んでいるのを聞き取った。
正面の連中も、全力で突っ込んでくる。連携を考えてる程の頭脳は無いようだが、それでも結果的には挟み撃ちの格好だ。
選択肢は幾つもあった。後ろ蹴りで一人目を今度こそ倒しながら前二人と打撃戦。屈みこんでの回転水面蹴り。
だが、俺が選んだ行動は。
「ついてこいっ!」二発打ち込んで気絶させた二人を引っつかんで、跳びながら目の前の一人の水月に蹴り。爪先を食い込ませて更に跳んで相手の顔面に蹴り。相手の頭を踏んづけて、空へ跳ぶ。
前へ。
進んでいたい。あいつのところに。その思いが、後ろへ振り返る選択肢を選ばせなかった。
そして、それだけでなく。
「前に俺を捕まえた時と、おんなじ手口だなあ、ええおい・・・!」
メフィストの遺産の件で、俺を捕まえて締め上げたとき。あん時もあいつは回りごとやりやがった。

轟音と閃光が通りを満たした。流石に速い。雷を操る超能力を自分の神経に応用して、改造人間並みの思考速度を実現しているとはいえ、部下の連中のもたついた報告から考えれば、大方最初の銃声を聞ける距離に居たと考えたほうがいいだろう。
「・・・!」
地上に居たフナムシコマンドが、横殴りの雷光に呑まれて、火が通って白く茹だってぶっ倒れる。
「噂をすれば影、ってわけか・・・カリィ。」
地獄にショバ変えを願ったところが、相変わらず元気なこの様か。
「どんな噂してたんだよ、トヴァ。巻き込む積りだったのに。」
相変わらず見た目と音色だけはジャンクなスィーツより甘いショタ顔&ボイスで、カリィは頬を膨らませて言った。
些細な軽口を咎めるようなノリで、こっちを黒焦げにするレベルの電撃を放ちながら。
「とりあえず、手掛かりを茹で蟹にしちまうテメェはアホだって噂さ。」
「・・・お前のゴキブリ生命力を目安にしてたんだよ。」
通りに居た他のフナムシコマンドは全滅だ。一度死ぬ前に北米でニアミスした「尚強者(ストロンガー)」程じゃあないが、こいつの電撃は強力だ。
そんな電撃を、お前なら死なないだろうとホイホイ打ち込んでくるからたちが悪い。最も、今回ばかりはそいつが手掛かりを潰しちまう結果になったわけだが。つくづくこいつ、俺を何だと思ってやがる。
「そいつを寄越しなよ。この海賊どもには、幇の香主が何人もやられてるんだ。少しは便宜を図ってやってもいい。」
「解決すりゃあ、死んだ連中の分の席次を上げられるから、普段よりはお優しくしますってか?生憎、こっちにもこっちの都合がある。」
「都合?」
美形だからこそなおさら邪悪に見える形に、カリィは顔をしかめた。こっちの言葉の端々から、当たる確率も当たらない確率もある邪推をするのがこいつの悪い癖で。
「・・・馬鹿で頑固なお前が、普段の倍ほども馬鹿で頑固になるのは、決まって身内の命がかかってる時だ。身内でなくても、ちょっとでも情にほだされた奴相手でも随分頑固になるけど」
誰が。
俺はいつでも頑固だ。
というか、いつでも馬鹿だ。
「どれだけお前が頑固なのかを図れれば、手掛かりになるかな?」
そんな内心の反論を、それが浮かんでる表情を見ながらカリィの奴は無視した。半ズボンの似合う足と華奢な手指に、バチバチと雷光が散った。
「てめぇに付き合ってる暇はねぇっ!」
俺はウサギだ。だから、脱兎の如く逃げても問題は無い!
「そんな都合ボクが知るかよ!」
俺の脚が安コンクリを凹ませた。アイツの電撃が凹んだコンクリを砕いた。
俺が空中を弾丸のようにかっ跳ぶ。同時にカリィが雷を纏って飛んだ。有り余る電流によるイオノクラフトと磁力操作の組合せによる飛行。

跳躍。BBBBB!!
跳躍!ZZZZZZZZZ!
跳躍!!ZAP!ZAP!・・・ZBBBBB!!

脚で道路や壁を蹴った後は空気抵抗と慣性に従うばかりの俺の跳躍より、カリィの動きは飛行であるだけに空中ではより自由だ。
単純な瞬間最大速度ではこっちのが上なんだが、まして荷物まで背負って重量も空気抵抗も稼いでいるだけに、振り切りきれない。
「邪魔だっつってんだろ!」
「それはこっちのセリフだ!」
宙返りしながら撃った鉛弾がカリィの電熱で空中で蒸発する。カリィが放つ雷も、だが、こっちをギリギリで捕えきらない。
病院の壁を蹴って跳躍する。入院患者の爺さんが、妙にシリアスな顔でこっちを見た。
「お前のせいで一億無くしたせいでピンチになって、お前のせいで幇の秘密が露になった混乱で持ち直した。いい加減お前との付き合いも長いな!」
火薬と電気の爆ぜる音の向こうから、カリィのボーイソプラノが響いた。
成程、言われていれば長い付き合いだ。
「丸ごと全部振り回されてばっかりの無駄骨揃いだったけどさ・・・実際、どこへいくんだいウサギちゃん!何かしたのか、ウサギちゃん!」
ずきり。皮肉が突き刺さった。
普段なら、気にも留めない。俺は馬鹿だからと。
何かしたのかと言われても、そもそも何をすればいいのかも分からずに生きてるようなもんだしな!と。
「いい加減、誰かの食卓に上って、栄養って形で何かの役に立ったらどうだい、ウサギちゃん、ってなあ!」
隣のクリオネの事も何も出来ないで。
クリオネが最初からこうする積りだったってンなら、お前は一体そいつに何が出来たんだ。
クリオネが変わらずこうする積りだったんってンなら、お前はクリオネを何も変えられなかったのか。
お前はクリオネの何だった?
お前は何だった?
お前に居た意味はあったのか?
お前は何故生きている?
(〜〜〜〜っ!!)


白い歯が噛みしめられて軋んで鳴った。
その音は、カリィの雷気が立てる放電音に比べればはるかに小さい。


・・・その二つの音が、交差した、まさにその時・・・!

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