run rabbit junk short bad bye 3
「意識は戻ったか?現状を説明するとな、下手したら、クリオネだけじゃなくこの島がもう居なくなっちまいかねない状態なんだがな。」
感傷に浸ってる暇はないってところなんだろうな、普通なら。って内容のことを、時計屋は言いやがった。
「あぁ、そうか。すまないが、クリオネを探すのに忙しいから、ちょっと手短に説明してくれねぇか?」
「おい!?」
だが生憎俺は、感傷に浸る以外のことをしてる暇のない状態だったんだ。
時計屋が、切羽詰った突っ込みの声を上げる。成程、事態は俺の気分転換を誘った誇張じゃなく、本当にやばいらしかった。
「だぁ、うるせぇな!保険屋としても、営業が失踪したってんなら、探すのは業務のうちだろう!例えクリオネがテロってたとしてもだ、それは・・・」
それはそれで探す理由になる、というのが普通だったんだろう。
ただ俺は、どちらかといえば、あれがクリオネの仕業だとばれないかもしれない、なんてことを言おうとしてたんだ。元鞘に戻る可能性を捨てられなくてな。
本当に、自分でも不思議なほど、感傷と未練に囚われてた。
クリオネが側に居ないってことを認識したとたん、心臓が一泊打つごとに、胸のうちで声が叫びやがるんだ。
こんな筈じゃない。あんな別れじゃ終われないと。
「、だったにせよどっちにせよ、これは見とけよ!」
「っ」
そんな自分に、つきつけるように時計屋は電子端末を突きつけた。
クリオネとであった頃には、この荒っぽい島では耐久性自慢で売り出して評判だったゴルフボール型端末は、剛性を売りにした球体デザインが「落とすと転がって無くし易い」「小さすぎて端末としての発展性に乏しい」という理由で廃れて久しい。
とはいえ、それを使い続ける懐古趣味者はこの島には俺らを含めて結構いるようで。そういう奴相手の商売も成り立っている。
捻って空けたゴルフボール型端末か引きずり出されたのは、折りたたみ式の薄型ディスプレイ。本体の8割って金額の「それもう買い換えろよ」といいたくなるような一品が目の前で開かれて、この島の現状を伝えるニュースを示す。
「・・・海賊。」
俺は眉を潜めた。海賊。かつて自警団に追い払われた存在。・・・過去の事件を。黒い鎧に複雑な心と過去を覆った改造人間の事を思い出す見出しだ。
あいつが追い払った、海賊がまた現れたらしい。かつての一団と同一か、別の集団かは未だにはっきりしていないということだが。
そいつらが、手荒く町を荒らしまわっている。海賊行為、というよりは、殆ど侵略行為だ。商館砦を襲うカリブ海族全盛期の行為に近いが、規模が違う。この海の家は寄り合い所帯の都市国家に近い。
この、海賊共は。
「海の家を、丸ごと攻め取ろうとしてる、か。」
各地で治安警察や呑龍と交戦中、と、画面には表示されていた。
子犬や篭手が忙しがってたのはこれが理由か。カリィの奴、この機に地獄にショバ変えてくれねぇもんかな。
「あぁ。状況は分かったな?」
「分かった、じゃあな。」
「って、おいこら!?」
そして俺は跳躍した。跳躍(ジョウント)じゃなくて跳躍(ジャンプ)だが、生身の人間である時計屋には到底追いつけない事に変わりはない。
時計屋はあの情報でまともに判断をしてくれることを願ったらしいが、生憎俺は、まともとも真っ当とも、どうにも縁遠い気質(たち)だったんだ。
ただ、それでも、見せてくれた情報には感謝しなきゃあならないな。
そこには、鍵があったからだ。
海賊軍進撃の影に、破壊工作あり。
市・警察・マフィア要職者、続々暗殺・爆殺さる。
秘密にしていた非合法行為中を狙った犯行により、阻止できず。
暗殺によって露になった数々の癒着・違法行為により、混乱発生。
マフィア武器集積所、物資集積所などの拠点も次々破壊。
政治家の非常用脱出路などを逆用した奇襲行為。
知らない奴には、分からないだろう。
けれど、昨日の記憶と照らし合わせれば分かる。
こいつは、クリオネの・・・
跳躍。
何でクリオネがそんなことをしてるのかは、とっ捕まえて聞く。
だから今は、其処に追いつく。それだけを考える。
街の空を脚力で切り裂き重力に抵抗しながら、俺は長い耳を大きく開いた。
改造人間の知覚能力を全開にする。本来ならば、都市単位での索敵を可能とする力だ。あんまり巧く使いこなせては居ないが、今使いこなさずして、どうするってんだよ!
風を、音を、音が叩く街の肌を捉える。
さっきのニュースでは交戦中という事だったが、今の街はだいぶ静かだ。一旦ひと段落したか?銃声は無い。その代わりに聞こえるのは。
「・・・え?」
瞬間、己の感覚を疑った。なぜなら、その時町全体のあちこちに感じたその気配と音はは、間違いなく・・・
(まさか!?)
空中で身を翻す。飛蝗野郎(スカイライダー)程ではないが、空中機動にはそれなりの自負がある。
高層建築の壁を壊しそうな勢いで蹴る。電線に繊細に足を引っ掛け、かすかに軌道を変える。空中で耳や手足を操り空気抵抗を変動させ、落下機動を変化させる。
降下する。その気配が、幾つか固まっている場所だ。まさかとは思うが、この感覚が正しければ。其処にいるのは・・・
「ギッ!ギギィッ!」
・・・同属。いや、違う?だが・・・余りにも似ている。
襤褸屋の屋根を突き破って飛び降りた場所に居たのは、全身を黒い皮膜で覆った徒手空拳の人型の怪物達。
短い触角、黒皮膜の中からぎょろりと覗く眼球、辛うじて知的生命体であることを証明するようにその身を装うベルトとブーツ。
俺の。改造人間ラビットジンの製造元の、新たなる衝撃を齎す者(ネオショッカー)の簡易量産型改造人間(せんとういん)、アリコマンド。
(似てる!けど違う!)
色素の薄い、けど日差しで難儀するほどやわじゃない改造された目が、薄暗がりを見抜く。
聞こえていたのは、新たなる衝撃を齎す者の技術系統で製作された改造人間特有の、排熱機構が立てる音だ。それが、同属の気配。
此処から先は視覚の出番だった。見据えるそいつらは、確かにアリコマンドに似ている。だが、部分部分に薄汚いダークグレーの装甲を纏い、口元にマスクを嵌め、水際の海賊的環境に適応しているように見えた。そして、腰のベルトバックルの文字は、元々の「NS」ではなく「PS」。
(蟻じゃねえ・・・フナムシか?)
身を屈めてごそごそと潮風の漂う暗がりを蠢く様は、磯を這い回るワラジムシめいた水棲甲殻類を思わせた。
しかしそれ以上考察を続ける時間は無かった。
「何・・・うわっ、こいつらまた!?」
俺が着地した音を聞きつけたのだろう、呑龍の連中が顔を出し・・・大方この場所にフナムシ共は集まって様子を伺っていたのだろう。そして、再度の襲撃を呑龍は警戒していた。
つまり空気とガスがいい感じに隣接していたところに、俺って火花が飛び込んだわけで。
「ギィイイッ!」
「敵、ぐわああっ!」
パ、パン!
一瞬後に、フナムシコマンドの手刀が叫びを上げるマフィアの喉首を抉った。もんどりうってのけぞるマフィアの苦悶の指が引き金を弾いて、弾丸が天井を叩く。
「いやがったぁ!来るぞ、撃てぇっ!」
「ギシャアッ!」
「おっと、ちょ、これは・・・!」
背中からはマフィアどもの銃口がずらり。前方には、マフィアどもと俺を、等しく闖入者と睨みつけるフナムシコマンド共の血走った眼光。
んなことやってる気分じゃねえってのに。
今回も、ドタバタが始まりやがった。