【断片6】

「馬鹿な!何故、何故……!」

 デスファードとキルファードとの闘いに乗じて後退したガイアソルジャー・バロンは驚愕した。そこには、七星闘神ガイファードと……既に倒されたメタルファード・スティンガーとメタルファ―ド・レオの残骸。

 必然戦闘するガイファードとバロンだったが、忽ち圧倒されるバロン。猛然と至近距離に接近しての連打連打連打。カポエイラのジンガのリズムを切り刻む、拳の短打と鋭過ぎるローキック!

「何故だと?」

 ガイファードとデスファード・キルファードの戦闘能力は互角の筈だと動揺するバロンに、ガイファードは力強く言葉を返す。

「愛する者を、仲間を守ろうとする心、それが俺の力だ!」

 それはかつて、デスファードと戦った時にも口にした、ヒーローとしての彼の心を駆動し、気を高め、戦いに勝たせしめる原動力!

「うおお……!?」

「王気!」

 ジンガのリズムを断たれ、よたついて後退するバロンに、ガイファードは構える!

「激竜衝!!」

「ぐわーっ!!」

 王気炸裂!蝙蝠じみた肉体を切り裂かれ、ガイアソルジャー・バロン、爆発四散!

「たかがリング如きで……ルチャ如きショーが、勝てると思うな!!」

 ムラマサVSスパイラスU、スパイラルネットで形成されたプロレスリングでの戦い。

 反逆に怒る山住吼。ムラマサが襲い掛かる。手にした刀で猛然と斬撃!

「モニカと山住の、人間同士なら勝てなかったろうさ、だけど!」

 モニカはスパイラスUとしての体を跳ね躍らせる。

バク転、ロープへ、コーナーポストへ!それらの上を蜘蛛というよりは俊敏なネコ科の獣のように、あるいは飛翔する猛禽のように走り回る。そしてそれは……

「ええい、何故当たらん!?」

(当てるような動きを、してないからさ!)

 身体能力で勝るムラマサの刀を回避させる。ムラマサは古武術と剣術の達人だ。身体能力だけではなくその腕前もモニカを上回る。だが。

 モニカはキルファード=凪に教わった事を噛み締め走る。剣術とは要するに人対人の技術だ。木々の間を飛び回るムササビや山猿を相手にする事を想定していない。ならばそういう動きをすれば、相手の技量は半減以下。

「ならば、食らえ!」

「スパイラスビームっ!」

 だがムラマサが衝撃波を放つ。飛び道具ならばそれは無関係と。しかしそれをモニカは予期していた。スパイラルビームを放って相殺する。

 気を扱うのがそう得意ではないモニカだが、迎撃のみに専念するならば相手の攻撃を打ち消す事は可能だ。それに、スパイラスのスパイラスビームはかつてのものとはいえガイファードの王気・極星拳を打ち消した。ムラマサの攻撃を打ち消す事は可能!

「そっちが凶器OKだってんならな!」

 だがそれでも、攻撃せねば勝てぬし、間合いに入れば危険を増す。故に反撃は布石を以て行わなければならぬ。スパイラスビームを即座に発射できる気力をチャージしながら、それとは別の生体機能である蜘蛛の巣を放つ。スパイラルネットで異空間を形成するには気力を使うが、それを込めずに単純に投網として使うのならばチャージを保ったまま可能。

「鋭ッ!」

 気力を込めて蜘蛛の巣を切り裂くムラマサ。糸に粘りつく事を許さず切り払う腕前は流石に達人だ。

「せいりゃあっ!」

「ぬぐっ!」

 だがそれは布石!それまでの跳躍から一転、モニカは猛烈な勢いを維持したままマットを滑り、マットにへばり付くように回転、水面蹴りをムラマサの足に見舞った!

 剣術は対人技術、その手をここでもモニカは使っていた。蜘蛛のように地面を高速で這う。この攻撃はムラマサにとっては迎撃しにくいものだ。痛撃!苦悶するムラマサ。しかし身体能力的にこの程度ではまだ有効なダメージにはならない。

「おぉおっ!」

「舐めるなっ!」

 立ち上がりながらのモニカのエルボーに、即座にムラマサは掌打をあわせてきた。手合いの間合いでは古武術には勝てぬ。そのまま突き放し刀の間合いに戻そうとする。させじと掌打を打ってきたその手に応じ組み付く。相手の腕を掴む。刀を使わせない、零距離、組み討ちの間合い!

「そっちこそ、舐めるな!オレの、ルチャ根性ッ!」

「ぐっ!!」

 頭突き!保身無き一撃に、ムラマサが怯んだ。狐面めいた頭部に罅が入る。だがそれはモニカも同じだ。蜘蛛の頭を被ったような外骨格部分に罅が入る。だがそれを一切恐れぬ。苦痛を無視する。覚悟の力で。それ故にダメージの苦痛で動きが鈍ったムラマサより一手先んじる!

「うぉおっ!!」

「ぐわっ……!!」

 ムラマサの刀を持つ腕に対して渾身のアームブリーカー!もがくムラマサと蹴りの応酬をしながらも、離さず腕を折りに、折りにいく!刀を手放させる!

「このっ……!」

「ぬうっがっ!」

 アームブリーカーから腕をかけ替えてコブラツイストにいくか?蹴り足同士を絡めてキーロックや脇固めにいくか?じりじりとした攻防!一見地味だがこれこそは格闘家こそが最も使いこなせるファラーを宿した改造人間の戦いの真骨頂であり……

「せいやぁっ!!」

「ぐわあっ!?」

凪から拳王流の蹴り技の読み合いを教わったが故に、そして何より己のルチャの身のこなしを改めて信じたが故に、モニカがその読み合いに奇跡的に勝った!その両方の読みを一気に覆しての飛びつき腕十字!

ミューティアンの速度と体重の乗った強烈な負荷に、さしものムラマサもたまらず刀を取り落とす!

「ッ!」

即座にそれを蹴り飛ばして、リングの外へ落とすモニカ。

「おのれ、馬鹿な、お前如きにこの俺がここまでてこずる等と……」

「てこずる、じゃねえ」

 唸るムラマサに、モニカは啖呵を切った。

 言葉もまた拳だ。相手の感情を支配しろ。相手がどう出るかを誘導しろ。凪の教え。

「オレは、お前を、倒すんだっ!」

 突っ込んでくる相手に、フライングクロスチョップッ!

 体重の乗った一撃に、片手を負傷したムラマサは防ぎきれぬ!顔面に食らってよろめく相手にフランケンシュタイナー!決まった!モニカの両足がムラマサの頭を挟み、リングに叩き付ける!頭突きから継続しての連続しての頭部へのダメージ!

「ぬがっ……!?」

 狐面めいた顔に罅が入る。続く混乱。その瞬間にはモニカは追撃を放っていた。相手より一拍早く立ち上がり、本来のルチャのそれよりも鋭く短く、実践的殺法として洗練させたセントーン。それは言わば拳王流の〈鋭い弧〉の理念の様に、相手の攻撃に割り込み続ける。相手のうつ伏せ仰向けを問わず、跳躍した体を本来の目標では無く頭にぶつける!脳を揺らし続ける!

「っ〜〜〜!!」

 腕を振り回し、振り払おうとしながら尚立ち上がるムラマサ。ガイアソルジャーとミューティアンではそれ程身体能力が違う。

「もう、いっちょっ!!」

 その腕を取り圧し掛かるようにしてのてこの原理を決めての脇固め!更に腕を痛めつけ、

 ボグン!

「ぐあああああっ!」

 折った!遂に!技のかけ方に拳王流の理念を込めた実戦ルチャが、ムラマサの古武術を上回る!

「があああっ!」

「ぐっ!」

 だがそれでも尚、ガイアソルジャーは伊達ではない。折れてない方の腕を振り回し、折れた腕の傷口を強引にひねって、モニカを、スパイラスUの体を気力を込めて滅茶苦茶に殴りつける!

「あぐっ……!」

 基礎身体能力が圧倒的に違うスパイラスUとムラマサでは、こんな力の篭り難い状態の打撃でも結構なダメージとなる。ファラーの力で気力をエネルギーに変えられるのであれば猶更だ。

「覚悟の上!」

 だがそれをモニカは受けた。受け止めた。技を食らい受け止める事を一つの前提とアするルチャ・プロレスを会得しているからこそそれが出来た。

 そして。それは狙い通りだった。ここで打撃に気力を使わせる為に。此方の気力を使った攻撃に対抗する手段としての気力を使う余裕を奪う為に。

「ぬんっ!!」

 スパイラルビームを、手からではなく、肘や足裏から放つ。相殺はさせない。敵への攻撃ではなく敵への攻撃を加速する為に用いる!

 相手の腕から肩を掴み、離さない。殴る為に潜り込んできた相手の体に下から腕を回す。本来持ちあげる事容易ならぬ体格差をスパイラルビームで補う。ムラマサの体を、引っこ抜き抱え上げる。頭から叩き落す為に。即ちそれは!

「スパイラルスターボムッッ!!」

 相手を抱え上げ諸共の落下の衝撃を全て相手の脳天に集中して叩き付けるノーザンライトボムのミューティアン強化版!リングを構成する蜘蛛糸をたわませる反動と天上目掛けてはなった蜘蛛糸の引っ張りと気力の噴射を全て載せて、漫画めいて高く飛んで

稼いだ位置エネルギーに更に加速落下を込めての……正に必殺技!!

「馬鹿なぁあああああああああっ!?(ミューティアン如きに、こんな、力が!?)」

 ムラマサの絶叫。ガイアソルジャーである己が、ミューティアンであるスパイラスUに負ける等信じられぬという。

 だがそれは、間違いであった。

 力は兎も角。技量もあった。覚悟もあった。そして、気力もあった。飛翔トラッカの狭間、モニカはリングの観客席を見ていた。それは、ファラーを通じての繋がりか、奇跡か、幻想か。……己のルチャの師匠の姿、スパイラスになる前の姿を、一瞬モニカは見ていた。それは師匠が彼女に伝えた気力。それが、何より強く強くモニカの気力を増した。

スパイラスUがムラマサに勝ったのではなく、モニカが、山住に勝ったのだ。

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