【断片2】

「プロジェクト・ファラーゴーストを達成すれば、我等こそが、世界の支配者となるクラウンの中における卓越した指導的位階を占める事になるだろう。秀でた力を持つ者こそが、それに値する。私も、彼も、君も、君達も!それに値するのだ。計画は最終段階に突入する。一層の奮励を以て、この基地の警備を、作戦の準備を全うしてもらいたい!」

 急速に設備を再構築・再稼働させられた旧クラウンミサイル基地。かつて全世界にファラーをぶちまけるべく用意されたミサイルが並べられていた空間は、今や最新科学とオカルト儀式が融合した奇妙な空間となっていた。そこに、構成員、研究員、ファング、ガイボーグ等が並び、居並ぶそれらを前にして男が演説していた。

 如何にもエリートスポーツマンじみた容姿で褐色のクラウン軍服を纏う男。そいつを、タンクトップと作業ズボン姿の褐色の肌の美少女・・・・その容姿は、明らかにスパイラスⅡの人間の顔の容姿を残した部分に類似している・・・・は、一同の末席に座していた。組織における彼女の立ち位置は旧式人間兵器であるミューティアンであるが為だ。しかし、その目には、単純な下級戦闘要員のそれではない複雑な感情があった。

(アイツが・・・・)

 演説者を見るその目には。演説者、山住 。その傍らにはメタルファード・レオに加え、腰にサイを下げた鋭くシンプルなデザインの軽装金属装甲で体を覆ったメタルファード・スティンガー。そして、蝙蝠の羽根で出来たタキシードを纏う髑髏の死神、といった恐ろし気な姿をした、クラウン最新のファラー・機械化・ガイアネットによる霊的な気エネルギー付与を施されたガイアソルジャーの一体、ガイアソルジャー・バロン。それを従える山住 吼は必然この基地この計画の指導者であり、そしてそれだけではなく、計画の要であるガイアソルジャー・ムラマサでもあり、そして。

(アイツが、いや、アイツも、オレの敵。)

 スパイラスⅡ、モニカ・マルタ・カルデロン・ウエルタは、胸の内呟く。過去の記憶がよみがえる。まだクラウンに攫われる前の、貧しく、荒れた、しかしまだ人だった日常。

 それを奪っていった、路地裏の殺人鬼。あいつが、自分を斬り、助けようとした自分の恩師も斬り・・・・こんな姿にした。

(叶わないって思ってた。敵わないって思ってた。けど。)

 師匠が改造されたスパイラスを殺したガイファードも勿論敵だ。だけど、あいつも敵だ。組織の道具にされながらも、反骨心は消えなかった。でも、生身の人間どうしてもかなわなかったのに、今ではミューティアンとガイアソルジャー、圧倒的な力の差がある。だが。

「~♪」

 モニカは傍らに立つ背の高い女を見上げた。思いっきり不真面目な表情で演説を聞き流している、蓬髪長髪黒髪の着崩した修験者めいた道着の美女。

(・・・・もしか、したら。)

 モニカは回想した。彼女……キルファード=石動 凪の、思ってもみない言葉を。

「困りますね。そんなミューティアン一匹の為に、貴重な戦力を浪費されては。」

「ハッハ、本気で殺す程歯ごたえのある奴じゃないさ。」

 そのままミューティアン・レオを変身せずに撲殺せんばかりであった凪に、割って入ったのが吼であった。抜く手も見せぬ居合いで凪の首筋に日本刀の刃を添えるが、その吼の刃を、凪は肘から先を変身させその手甲でいつでも防げるように腕を割り込ませていた。

「そしてあれだ。つまり、あんたの認識としちゃ、スパイラスⅡは浪費していいものな訳なんだな?」

「・・・・それを理由に、組織の上下を無断で揺らす勝手な振る舞いが許されると?」

 相手の言葉の隙に噛み付く凪と、妖気を滲ませそれに対し威圧をかける吼。その様は、キルファードが存外頭が回る存在である事も示していて。それに驚いたモニカが、会話の中デモノ扱いされていることへの悲憤を抱く暇もなく、それは方便というように、大胆極まりない発言を凪はした。

「だったらつまり要するに、こいつが、レオを傷つける値打ちのある奴だったらいいんだろ?こいつ、アタシがもらう。弟子兼小姓だ。ガイファードでもガイアソルジャーでも殺せる戦力にしてやる。それでいいだろ?」

「……!」

 しばし二者は睨み合った。凪はメタルファード。吼はガイアソルジャー。だが、凪は組織の大敵ガイファードと、それと唯一互角の勝負ができたデスファードの同型だ。その戦闘能力はガイアソルジャーにもひけは取らぬと噂されている。

 ・・・しばしの威圧戦の末、吼は凪の言葉を呑んだ。

 そうして、オレ=モニカは、凪の弟子になった。

「ふぁ~あ」

「!!」

(うわ~あ!?)

 ……こうして今全力で大あくびをして、取り巻きのメタルファード達と吼に睨まれてるあたり本当に頼りになるのかなんだか心配になってくるが、あの強さは本物の筈だ・・・・筈なんだ、オレ。めげるな、オレ。

 ……そう思って、少し、胸が痛んだ。オレにルチャ・リブレを教えてくれた、あの人。すさんだ記憶の中で、母さん(マードレ)とたった二人、大事だって思った人。あの人以外の人を師だって思う事に、少し心が疼いた。

 そして。

「いやぁ、お前料理旨いな!アタシもニューヨークで武者修行してたころ似たようなの食ったが、それよりずっと旨いぞ!それとあれだ、組み手できるくらいには片付いたな!」

「オレはおさんどんでもメイドでも家政婦でもねー!?あとアメリカナイズされたタコスでメキシコ料理語るなよ!?」

 その後どうすりゃこうなるんだってくらい路地裏の廃材置き場じみた有様になってた凪の私室を片付けた挙句飯まで作る事になって、それとはまた別の苦痛を感じる羽目になったが・・・・

「懐かしいなあ。あんときゃ、ギャングの地下興行潰して、銃弾掻い潜ってはギャングの意趣返しを殴り潰してたもんだが・・・・あ、銃弾を避けるコツってのはな。要するに、相手が引き金を引くぞ、って時に避けるんだ。散弾銃相手なら大きめに避ける。自動小銃とか短機関銃相手の時は、それに加えてあと上下動と遮蔽だな。だから一度だだっ広いテキサスの郊外で自動小銃持ってる相手とヤった時は、いや、やばかった。砂をうまく使っても、足に一発当たってな。動脈外れてたからよかったが・・・・」

 と、ナチュラルに語る様子は、与太者のハッタリ嘘武勇談、ではない。それにしては、あまりにも気負いが無さ過ぎて・・・・鍛えれば出来る事をさも当然の如く語ってるようにしか聞こえなかった。

「……」

 いつしか、オレは引き込まれていて。むしゃり、と、最後の一口を食い終えると、凪は。

「それじゃ。やろうか。」

 そう言い。

 修行が、始まった。

(でげででっでっでーでっ♪←七星闘神ガイファードのCM入る時のBGM)

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