【断片1】
生まれた時から、どん底だった。
故郷は物心つく前に潰れた。
育ったのは異邦だった。
母(マードレ)は搾取されていた。
周りにいるのは敵だった。
だから。
だから翼が欲しかった。どん底から空に至る翼が。
だけど、翼があるように見えたあの人は無残に殺されて。
・・・・翼なんてない、醜い虫けらになっちまった。
「ウォオッ!」
「ぐあっ・・・・!」
殺伐とした強化コンクリートの薄暗い地下空間に、陰惨な打撃音が響き渡った。打撃を与えたのは鋼鉄の獅子の如き怪人、打撃を受けたのは、蜘蛛の外骨格を鎧として纏ったような姿をした少女だ。鉄獅子が一分の肌も表さず完全に人ならざる姿をしているのに対し、蜘蛛娘は人の容姿に近い部分をかなり残して居り、また、金属質ではなくより生身に近い印象だ。
鋼鉄の獅子はトンファーを振り回し、蜘蛛娘は素手。背丈の段階で既に頭一つ以上の差がある上に武器の差まである。それはリーチに大きく反映され、蜘蛛娘が必死に繰り出そうとするレスリングめいた動きの手も突進も蹴りも、ある時は激しく旋回し繰り出され、ある時は握り方を変えて振り下ろされるトンファーに叩かれ、掴もうとした手を、前に出ようとした頭を、蹴り足を打ち据えられて、苦悶の叫びを上げた。
・・・・蜘蛛の外骨格に縁取られた少女の顔は、生命力溢れる褐色の肌で気が強そうだが、それでも、愛らしいもので、それが苦痛に歪む様は痛々しく。
「ふん!練習相手にもならんわ!」
しかし、それをむしろ嗜虐的に楽しんで、鋼の獅子は怒号する。その背後には、蹲る蝦蟇とも恐ろしい鬼面とも取れる紋章が刻まれた壁。
そう、ここは、世界征服を企む悪の秘密結社クラウンの基地。戦う二者はその改造人間、蜘蛛の鎧の少女は組織の世界征服戦略の要であった異星生命体ファラーを寄生させた人造超人ミューティアン。鋼の獅子は、サイボーグ化した人間であるガイノイドにファラーを寄生させた更なる超人メタルファード。いずれも超人だが、メタルファードのほうが一世代分強化が進み強い・・・・!
秘密結社クラウンは、今正に新たな計画を発動せんとしていた。鋼の獅子、メタルファード・レオはその為に集められた戦士。だが、蜘蛛娘、ミューティアン・スパイラスUは・・・・
「そりゃあああっ!!」
殺してもかまわぬ、と、レオは嗜虐性を露にする。既にミューティアンは第二級戦力にも及ばぬ数合わせだ。戦闘員ファングと同じだ。より新型であるガイアソルジャーが主力化されたとはいえ、己は未だに現役の戦力だ。だから、こいつ等、己の戦力を整えるための手段としても使用してもかまわぬだろう、と。過度の暴力と煮え滾った感情を込めて、スパイラスUの顔面にレオはトンファーを振り落とそうと・・・・!
がっ!
「・・・・中々、楽しそうな事してるじゃないの。」
そのトンファーを振るう鋼の腕が、止められた。傍らから割って入った、女の手によって。
女は、笑った。牙を剥く獣のような嗜虐的な笑みで。長い黒の蓬髪を靡かせ、ボロボロの道義をだらしなく着崩して、長身に見合う豊かな乳房の谷間と、引き締まった腹筋を惜しげもなく晒した、美しくも獰猛な美女であった。
「き、貴様は。」
「・・・・キルファード。」
女が名乗ったのは、コードネームだ。彼女もまた、秘密結社クラウンの改造人間。しかし、未だに変身していないにも関わらず・・・・異形のレオが気圧されていた。
「組み手か。いいね。遊ぼうじゃねえか。子猫ちゃんよ。」
女が、牙を剥いた。
その後の光景を、スパイラスU・・・・翼無き蟲の娘・・・・モニカ・マルタ・カルデロン・ウエルタは、驚愕と共に見守った。
「ハッハァアアアッ!」「ぐおあああああっ!?」
猛々しい女が、肘を曲げた拳を前後に重ねる様にびしりと構えた直後。戦場は彼女に支配された。レオがトンファーを振りかぶる、その時には既に、彼女は、振り被るために踏み出したレオの足に痛烈なローキックを見舞っていた。それで崩れた打撃に、鋭い腕を合わせる。トンファーを振ろうとした腕を弾く。そして直後、ローキックを見舞った足を、振り上げると見せかけミドルキック、ミドルキックによろめいた所にハイキック!もがき繰り出される相手の両腕を、制する鋭い打撃の連打連打連打!
変身すらせずメタルファードを圧倒する女を、スパイラスUは驚愕の表情で見つめていた。その脳裏に、同じ様に圧倒的な、恐怖の記憶が過ぎった。
惨めな己を、惨めな己の同類を蹂躙する、恐るべき影、煌く刃。
しかしこの女は・・・・かつての恐怖の記憶と、似通って強く、しかし、どこか決定的に違って見えたのだった。
運命は、ここから始まる。
(でげででっでっでーでっ♪←七星闘神ガイファードのCM入る時のBGM)
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