第六話 「モンキー・マジック」
「はっ!やっ!とぉ!・・・閃真流皇応派、咆虎の形!」
軽やかに、滑らかに、パイロットのするままに武術の形を決める爆砕姫。
「うむ。完全に直ったようだな。」
そのさまを見て、姫夜木博士は満足げに頷いた。
前の戦いからこっちずっと修理中だった他の機体・・・爆撃姫、ビストーム、レスキュートも完全に修理を終えた。
パイロットが休養を取れたガクセイバーも、いつでも出撃できるという報告を受けている。
そして。
「とぉ〜〜〜〜〜〜っ!」
「駄目だ駄目だぁ!そうじゃない!いいか聞いてろ、こうだ!とぅおぉぉぉぉぉぉぉぉおぅっ!!!」
「う、確かに響きが段違いだ・・・けど、叫びの練習してどうするんだよ!」
「なにおぉ!叫びを馬鹿にするなよ!叫びとは呼吸!呼吸とは体と心を動かす、いわば基本中の基本!叫ばずしてヒーローへの道は無い!」
「うう、もっともらしい半分うそ臭い半分・・・」
「コウヘイさ〜ん、がんばって〜〜っ!」
「パオラちゃん・・・そんな純粋な目で見られても・・・。ええいもう、やってやるぜ!とぉぉぉぉぉおおううっ!」
向こうのほうでようやく、ついに、とうとう起動したバクサイオーチームが「特訓」を行っている。
今まさに、ガイアセイバーズはようやっとその本来の規模で活動を開始したといえる。
「よっし・・・大丈夫上手くいってる。・・・「コーチ」も、早く・・・」
牡丹の呟きが告げる・・・ただ一人を除けば、と。
「ええ、以上が今月の作業用重機および宅地造成率の状況です。」
「ふむ・・・」
僅かに頷きながら、若い支店長は報告書に目を通した。傍らでは秘書が、帳簿を処理している。
これだけ見れば、一見ごく普通の会社のオフィス、と感じるかもしれない。
だが、「作業用重機」と称されるもののカタログに写されているのは、全長100メートルクラスの生体機動兵器であり、「宅地造成率」の数値は現在までに宇宙人によって破壊された都市の割合と同一の数値を示し、そして何より窓の外から見える光景は宇宙空間だ。
ツイミ不動産。彼らの業務は、未開惑星を攻撃・更地にして他の惑星の住民に売りさばくこと。
・・・早い話が、惑星規模のたちの悪い強引な地上げ屋だ。事実彼らはその侵略当初、ニューヨークに巨大な猫の死骸を置くなどの嫌がらせをし、地球から立ち退くよう書いた巨大看板を中国大陸に突き立て、モスクワとワシントンに巨大化させたダンプカーとトラックを突っ込ませ、壊滅させるといういかにもな手口を使っている。
しかし、地球人はそんな正体とはつゆしらず「ツイミ星人」と彼らを呼んでいた。
「総合的には、よく進んでいるようだな・・・」
地球人的見地からすれば、いや銀河中央の常識からしてもかなり若い支店長・・・ツク=リーンは報告書にざっと目を通し、呟く。紙面から上げられたその顔は、かなりの美形だ。一昔前のスパロボものの美形ライバル的な。「たれ目の鷹」の異名を持つゲドー社のハウザーとはやや異なる。
(ところでこの「たれ目の鷹」というあだ名はあくまで地球の言葉に訳したのであり、「鷹」には本来別の生物が入る)
「ええ、ええ、そのとおりで。ゲドー社の連中は油断して現地軍にやられ、この星の衛星軌道まで撤退しましたし・・・」
「そのおかげで、あたしたちはハウザーを退けたほどの現地人と真っ向から渡り合わなければならない、ということですわね。」
「ぬぐ・・・」
追従に走っていた中年の副支店長・・・ツムラーの顔がゆがむ。そんな様子に冷笑を浮かべるのは、リーンの秘書のサト=ミオ=ガワーだ。
「ふ、それこそ望むところだ。これで私の名も上がる。」
そんな争いの様子を気にすることも無く、リーンは自信満々の笑みを浮かべた。
「これを機に、原住民の抵抗で開発の遅れているあの列島を一気に宅地造成するぞ。ツムラー、目標地域の地図を。」
「はっ。」
すぐさま映し出された、衛星高度から撮影された影山研究所近辺の地図。リーンはそれをしばらく眺め、そして決めた。
「陸、海、空。三方向からの同時攻撃で撹乱、、殲滅する。準備にかかれ!」
「ははっ」
うやうやしく頷きながら、ツムラーは内心で舌を出す。
(ふん、大雑把な作戦だ。まあ失敗してくれたほうが、常務派のスパイとしてはやりやすいがな。)
侵略者のくせに、変なところは企業的だったりする。
「それでは、蝗を基にした地上げ獣イナイナ、団子虫を基にした地上げ獣ダンダン、ミズスマシを基にした地上げ獣スマスマの三体を出撃させます。支店長、判子を。」
地上げ獣は、その惑星で反映する生物(地球の場合は主に昆虫)をベースにバイオテクノロジーで作り上げる、巨大生物兵器・・・いや、あくまで作業機械なのだ。
「うむ。」
ツムラーの差し出した書類に、ぽんと判子をつくリーン。ツク=リーン・・・なんちて。
なんにしろ、やはり会社仕事なのだ。
「地上げ獣ポッド、射出!」
「射出します!」
機動支店から射出された三つのカプセルが、大気圏に突入した。
「ぬっふっふ、新装備の試し撃ちをしてやるのじゃ!さあいけエリアル!」
「さあいけって言われても・・・」
通信機からクリアに響く祖父のしゃがれ声に、エリアルのメインパイロット・美亜は浮かない顔だ。
「300ミリ大型ライフルはともかく、射程がたった400メートルの液体窒素放射器を、冷凍砲って強引に言い張ってる代物や、いつショートするかわからない電撃アンカーなんて、役に立つの?」
「ええい、つべこべいっとらんでとっとといけ!もうじき降下に入・・・む!?」
その時。運が悪いことにエリアルは、衛星軌道から落下する地上げ獣の入ったカプセルとの、衝突コースに入っていた。
ガッコォォォォォォン!
「おわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
きりきり舞いをして吹っ飛ばされ、どこか飛んでいくエリアル。それとは対照的に、地上げカプセルはまったく損傷無く、軌道のずれさえなく落下した。
その時地上では、憂国機団とガイアセイバーズの戦いが始まっていた。
憂国機団は前回の反省からか、量産型だけではなくより上級の、地球防衛の要として製作された「スーパーロボット」を多数投入してきていた。
・・・しかし、一見そういう風には見えないかもしれない。
その原因となっているのは、主力となっている三体だ。
アヌビスクライブ。
エジプトの葬儀の神・アヌビスの名のとおり、ジャッカルを思わせる頭と、馬の代わりに犬を用いたケンタウロスのような、四本足の体を持つ。
憂国機団総帥・三剣流星直属の部下、犬神狂四郎が駆るこれは、まだいいかもしれない。ちょっとばかし奇抜な格好をしているだけだ。
鋼鉄双葉山。
憂国機団大幹部にして巨大ロボット工学の創始者の一人、飯田博士が大東亜戦争中に独力で建造したロボット兵器で、デザインはその当時のまま、アナクロそのもの。
カーキ色の配色に、戦艦の艦橋のような頭部からは測距儀がはえ、外装式の火器を山ほど抱えた、寸胴なボディの持ち主だ。
征服獣一号。
これはもう、名前からして何を考えているのかよくわからない。外見も、一斗缶みたいな四角なボディに頭、ぜんまいねじのようなアンテナ、安っぽい半透明パーツと、ブリキのロボットそのもの。
鋼鉄双葉山のように建造時期が古いのではなく、新しく作られたのにこのデザインなのだ。
まあ、開発者の名前が「吉外太郎」とくれば、ある意味納得・・・してはならない。この苗字は「よしがい」と読むのであって、他の読み方をしてはならないのだ。断じて。危ないから。
そのほかの部隊も、諜報用と言う名目で作ったものの考えてみれば諜報活動に巨大ロボットなんて目立つものどうやって使うんじゃいと後から気が付いて放棄されたものを奪取した忍者ロボット部隊や、流星総帥につぐ幹部・皇聖院舞の私設メイド部隊など・・・
なんだか本当に精鋭なのか言っていて疑わしくなってきたが、他にも前回襲撃時にも参加していた卯月と睦月の、他の四人を含める六人姉妹や、前線指揮官のミス・ラーなど、上級士官の数は確かに多い。
それに対して、我らがガイアセイバーズも負けてはいない。
「天に日輪が輝く限り、この世に悪は栄えない!鋼鉄機神バクサイオー参上!」(ショートバージョン名乗り上げ)
「レスキュート高見柚子、がんばりま〜すっ!みんなっ、がんばろー★」
「閃真流皇応派第十六代目・桜小路牡丹、いざ参る!」
「がっお〜ん!み〜あ〜、いくろ〜!」
「あたいと戦おうなんて、10年早いってことを教えてあげるわ。二度とあたいに逆らえないよう、徹底的にね! 四条沙羅沙、爆撃姫、いくよっ!」
「チェエエエエンジッ、X−1!スゥイッチ、オン!ゲッP−X、ゴーッ!」
「女子高生だった私たち、何の因果かスパロボパイロット・・・流星(ほし)の心が許さない!ガクセイバー参上!」(声・とも)
次々と出撃し、大見得を切るガイアセイバーズ。猿皇を除けば、初の揃い踏みである。一体でも凄まじいものだが、数がそろえばさらに壮観だ。
「うおおおおお〜〜〜!ブラボォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「これこそがスパロボ軍団!これこそが醍醐味よ!」
「よかった、巨大ロボットエンジニアをやっていて、本当によかった・・・」
「大成功ーーーーーーーーーー!」
肩を組み、男泣きを始める博士たち。女性陣は、思いっきり引いた。
「ふっ、何がガイアセイバーズか。何が正義の味方か!」
びしぃぃぃっ!とバクサイオーを指差す征服獣一号、だがさまにはならない。
「そのような機動兵器を持ち、地球征服を企まぬ者がどこにいる!」
そして、言葉はまたそれに環をかけて。
しばし、コクピット内でつっぷすコウヘイ。
「あんたら、元地球防衛ロボだろ〜が!」
それが義憤から蜂起したという話だろうに。
「それ(地球防衛)はそれ、これ(地球征服)はこれじゃ!両方とも、男の、ロマ〜〜〜〜ンッ!」
「ええい、少し黙れ!貴様がおると話がややこしくてかなわん!」
邪険に征服獣一号を押しのける鋼鉄双葉山。レトロロボ同士の喧嘩だ。
「なんじゃと!もともと大東亜戦争用にロボットを作っとった軍国老年がなにをぬかす!」
「じゃかましいわい!貴様ごとき趣味の征服と、わしの崇高な愛国心と科学者魂を一緒にすな!」
じたばたと短い手足を振り回し、押し合いへしあいする二体。
・・・なんだか、ほのぼのした映像だ。
「ともかく、ゆくぞぉ!」
「眩きは月の光日の光!正しき正大義の名の下に、我ら鉄忍暗黒天!」
ずらり並んだ忍者型ロボット軍団。そのうち一体だけデザインの違う、やや細身の忍者が脇に下がった。
「闇楓の影美様、貴方様は舞さま直属としての任務を。」
頷き、その「闇楓」と呼ばれたロボは消えた。
「いいのか?一体でも多いほうが勝率が上がるぜ?」
ふっと気障に笑う、ゲッPX2パイロット疾風仁(はやて じん)。多勢に無勢というのに、クールさを微塵も崩していない。
「ふ、我らだけで十分よ。鉄忍の力、思い知るがいい!」
叫びが残像と共に消え、全部の鉄忍たちが一斉に走った。凄まじいスピードで、実質十体ほどの鉄忍が、百体ほどにさえ見える。
「見たか!十連十分百烈身!!死ね、ゲッPX!!」
言葉と同時に放たれるは、雨アラレの巨大な手裏剣。これも分身しているため、まるで嵐のように降り注ぐ。
寸断される、ゲッPX2・・・と見えた途端、ばらばらになったはずのX2が消えた。
「何っ!?」
「ふっ、分身はなにも忍者の専売特許じゃないぜ。」
と、これも十対に分裂したX2が、飛び掛った鉄忍たちを囲むようにたっている。
「なるほど、少しは出来るか。だが、数の差はどうする?」
確かに、十対一という数の差事態はいまだ厳然として存在する。
だがそれに答えX2は、すっとその鋏状の腕を掲げた。
「こうするさ・・・Xシーカーッ!」
同時に十体のゲッPX2が同じ動きをする。そして、放たれたいかずちが互いに絡み合い、巨大な網を形成した。
「ふ、不覚!散れ、散れぇぇぇぇい!!」
慌てて回避する鉄忍。だが、半数近くは巻き込まれた。装甲の薄い機動性重視の機体が砕け散る。
「どうだ!」
「ええい、まだだ!たかが半分に減っただけだ!」
「もう半分もすぐなくなるぜ!」
「ほざけ!」
切れ切れに声と剣戟の音を響かせながら、分身同士が凄まじい斬りあいを展開する。
と、そのど真ん中にカプセルが落下した。消し飛ぶ鉄忍とX2。
「うわっ!!?」
他に、空中で開いたのが一つ。海に落下したのが一つ。
くるくるくる。
水面上をすばしこく動き回る地上げ獣スマスマ。しかし、それ以上の行動を見せる気配は無い。
「・・・何をしているのだ、スマスマは?」
「何をといわれましても・・・」
リーンの質問に、ツムラーは額の汗を拭く。
「あれは水上専用で、船舶への攻撃用ですから・・・」
「・・・つまり、陸には上がれないと?」
「はあ。」
「馬鹿者〜〜〜〜〜〜!そんなのが一体なんの役に立つというんじゃ〜〜〜〜い!」
端正な顔をギャグ調に崩して怒るリーン。イメージで言うならばSD影一段といったところか。
「陸・海・空を命令したのは支店長でしょ〜〜〜〜〜!?」
「普通そういう場合使うのは水陸両用だろ〜〜〜が!」
とかなんとか言っているうちに陸上からの砲撃であっさり破壊されてしまうスマスマ。
だが、残りの二体はかなり強力だった。
「うわっ!!」
地響きと共に、つぎつぎと押しつぶされる憂国機団のロボット。それと戦っていたバクサイオーも、空中高く吹っ飛ぶ。
「な、だ、大怪球フォーグ○ー!?」
ではない。似ているけど。巨大な、黒い球体。それがごろごろと高速回転しながら、まるでロードローラーのように町もろとも全てを踏み潰していく。
空中に弾き飛ばされたコウヘイ。それを次なる攻撃が襲う。
「あれは・・・・!?」
空中にいる地上げ獣は、他の地上げ獣とはやや違うデザインにまとめられていた。モチーフとされたイナゴよりは、人間型に近い均整の取れた体格をしている。
「か、仮面ラ○ダー!?それも第二期シリーズの、スカイラ○ダー!?最近漫画化されなければ知名度が低いだったという・・・て、ことは!」
当然、キックだ。
「ッだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
強制方向転換、地面に向かって急降下だ。っしてそこにはまたダンダンが。
上、下、上、下、上、下、上、下、上、下、上、下、上・・・・
「ぎょえ〜〜〜〜!」
「おちつけコウヘイ!」
激しくシェイクされて意識朦朧のコウヘイの耳に、基地にいるアンドーからの通信が聞こえた。
「し、師匠!そんなこといったって相手は仮面ラ○ダーと大怪球フォーグ○ーっすよ!?ぽっと出の俺なんかがかなう相手じゃ・・・」
「馬鹿者!!」
一喝とともにアンドーの熱い拳がコウヘイの頬を打った。コクピット内でもんどりうつコウヘイ。だが。
「し、師匠、通信機で話しているのに今一体どうやって」
「そんなことぁどうでもいい!!いいか、所詮そいつらはまがい物に過ぎん!熱い魂をもってかかれば、必ず勝てる!」
「ンなこといわれても・・・」
あきらかにどうでもよくないし。いや、そっちとは違うか。
「コウヘイさん!」
そんなコウヘイを吹っ切らせる一言。パオラちゃんだ。
「私、私には仮面ラ○ダーよりコウヘイさんの方がヒーローです!がんばって!」
男として、ここまで言われてやらなければもう死んだほうがましである。コウヘイは、死を選ばなかった。
「わかった・・・やってみる!」
そういうと、それまで防御のために固めていた手足を、大の字に開いた。こと防御から考えれば、完全に無防備だ。
そこに、鋭くつっこんでくるイナイナのキック。
「うああああああああああああああ!」
紙一重。それを脇に抱える形でコウヘイは捕まえ、相手の勢いを生かしてジャイアントスイングのように放り投げた。
今度は、イナイナがダンダンにぶつかる番だ。キックの体制のままだった脚が、ダンダンの装甲表面でぐしゃりと潰れる。
それでも衝撃を吸収しきれず、反動で中天に舞うイナイナ。
「爆砕袈裟斬りチョォォォーップ!」
真っ二つになり、爆発するイナイナ。ダンダンは勢いをとめられず、そのままの勢いで転がっていってしまった。
「ふぃ〜〜〜〜・・・」
額の汗をぬぐうコウヘイ。基地でその光景を見て、微笑むパオラ。
そのときコウヘイの目に、何かが映った。一瞬、ありもしないものが見えたような、目の前の空間が揺らいだような。
「?」
目をこすったら、それは消えた。何かもう一体巨大ロボットがいたような気がしたのだが。だが、今はそれどころではない。
「ダンダンは・・・?」
「死ぬがいいわっ!」
飯田博士の叫びと共に、鋼鉄双葉山が動いた。がっきとばかりにつかみ出したのは、口径46センチ、戦艦大和の主砲に匹敵する大きさの「機関砲」だ。旧日本軍の百式短機関銃をそのままスケールアップした代物で、当然連射できる。
どがどがどがどがどがどが!
「!」
すばやく榊がガクセイバーのバリアを作動させた。荷電粒子砲すらはじき返したバリアーは、若干揺らぎながらも46センチ砲弾をはじき返す。
「ぬう、さすがは宇宙技術の産物よの。」
「反撃だ〜〜〜!いけ〜〜〜!」
お返しとばかりに、ガクセイバーが動く。ともの意識が十二人の突撃する分身を生みだす。
「ぬおっ!?」
鋼鉄双葉山はよけそこない、百式短機関銃が砕け散る。チャンスと見たともは、一気にガクセイバーを前進させた。
「とっつげきぃ〜〜〜〜!」
まさにともらしく、どたどたと走り夜。それに気が付いたよみは、ある事実に思い当たって青ざめた。
「突撃って、おい待てとも!」
「へ?何だよよみ!?」
「突撃ったってガクセイバーに接近戦用の武器なんてないだろ!」
「あ?」
そのとおり。特に意識はしていなかったが、九人の考えた武器はみな遠距離で使うものだった。まあロボットの武器といえばビームという感じはあるが、それとバリアでもって遠距離から戦うのが、正しい戦闘スタイルといえる。
「馬鹿め!自らこの鋼鉄双葉山、最強の兵器の前に身をさらすとはな!」
と飯田博士が言った途端、鋼鉄双葉山に変化がおきた。胸部装甲版が左右に開き、巨大なパラボラが姿を現したのだ。
そこから発射されたのは、音。それも可聴領域外の、数十万サイクルの特殊音波。
バリアーも機体の装甲も役に立たないそれは、コクピット内部、さらにはパイロットの体内まで進入していく。
「うあああああああああ!!!」
「あ、頭が・・・・・」
「痛い痛いイタイイタイィィィィ!」
のたうち回って苦しむ七人。パイロットへの攻撃が有効打となるガクセイバーにとって、最も効果のある攻撃といえる。
「ふはははは、どうじゃ?わしの作曲した紫外音楽の味は。脳味噌沸騰させてアホ死にするがよいわ!」
「ああああああああああ!!」
「くっくく・・・トドメをさしてやるわ。」
そういってもちだしたのは、巨大三八式歩兵銃。口径は35.6センチと機関銃より少ないが、砲身の長さでは圧倒的に勝る。そして、その先端には鈍く煌く銃剣が。
「串刺しになるがいい!」
凄まじい勢いで突き出された銃剣を、しかし何とか身をよじってかわした。しかし二度三度繰り返されれば危ない。
「む?」
だが、本来なら一撃とてかわせる状態ではないはず。僅かながら紫外音楽に不協和音が混じっている。眉をひそめる飯田博士。
「これは・・・ガクセイバーの口からも音波が出ておるのか?」
「ああ・・・そうか!!」
ガクセイバー七つの技の一つ、神楽の音波砲。それが苦痛の叫びに反応して作動しかけているのだ。
「音波には、音波!いくぞ、がーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
びりびりと二種類の波動が空気を揺らし、複雑な共鳴現象を起こす。それに耐え切れずに周囲の憂国気団ロボやビルが次々と吹っ飛び、そしてついには・・・
「ぬおおおおおおっ!!!」
鋼鉄双葉山のパラボラスピーカーが、耐え切れなくなって壊れた。さらに振動が起こり、胸部全体が爆発する。
「ワシの鋼鉄双葉山がぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
よろよろと倒れこむ鋼鉄双葉山。
「よぉっし、とどめぇ!」
次々とガクセイバーの攻撃が命中する。悔しさに、飯田博士は歯軋りして唸った。
「わしらは待ち続けたんだ… 何年も待ち続けたんだ! 闇の底をはい回り、血の涙を流し、手塩に掛けて積み上げてきたその答えが、これかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
その叫びは、事実であるがゆえの重みで、等しく若い少女の心にのしかかった。
「う・・・」
「なんか、かわいそう、ですね・・・」
ひるむちよ。暗く沈む、コクピット。それを振り切るように、ともがいつものように無意味に速い決断をした。
「殺しはしない、悪いやつ!」
そういって、攻撃態勢を解除する。
「で?どうするんだ?」
だがその後についてまるで何も考えていなかったらしく、そういわれたともはすぐに固まった。
一秒。
二秒。
三秒。
「でも死ね!悪いやつ!」
「おいこら!」
どうも脳がオーバーヒートしたらしく、いきなり攻撃に戻る。が、その攻撃は鋼鉄双葉山には届かなかった。
「・・・・・・お退きを、飯田博士。我々はまだ貴方の頭脳を必要としています。」
一瞬にして十二人のともの分身を叩き落したのは、さっき鉄忍暗黒天たちに指示を出していた、闇楓とかいう上級くのいちロボだ。
「ぬう・・・覚えておれ、覚えておれよ!このわしに情けをかけたことを後悔させてくれるわぁ!!」
煙を吐きながらプロペラを出し、よろよろと飛び去る鋼鉄双葉山。それを見届けると同時に、闇楓も後退した。
ほっとするまもなく、今度は地上げ獣ダンダンが迫った。巨大な体を元となった団子虫そのままに丸め、そのまま猛然と転がってくる。
ただでさえ巨大な地上げ獣だ、踏み潰されたらたまったものではない。
「危ないっ!」
直線的な動きだったので、横へと回避するガクセイバー。
「うぉら、もらったぜぇ!」
「えぇ!?」
慌てて後ろを振り返ったちよの目に飛び込んできたのは、荒々しい一撃。アヌビスクライブがその武器である巨大ハンマーを振り回し、たった今よけたダンダンの回転体当たりを打ち返したのだ。
グシャア!
地面にめり込んで身動きが取れなくなるガクセイバー。だがダンダンは止まらず、いや止まれず、そのままの勢いでガイアセイバーズ基地となった影山研究所に突っ込んでくる。
「いけない!バリアーを!」
ガクセイバーチームの黒沢参謀が動いた。すばやく基地の装備として持ち込まれたバリアーを展開する。
ぱり〜ん。
が、あっさりやぶれた。飛び散るバリアー。
「なによこれ〜〜!」
「ま、おやくそくってやつでしょ。」
ゆかりの投げやりな声と共に、思い切りダンダンが激突した。
グワ〜〜〜〜ン!!!
「きゃああああああ!」
衝撃で、研究所が揺らぐ。オペレーティングをしていた紫音やパオラなど、何名かが弾き飛ばされた。
ダンダンは、アヌビスクライブに吹っ飛ばされた時点の衝撃で内部構造を損傷したらしく機能を停止した。だがそのアヌビスクライブが、ダンダンの後を追って研究所に接近する。
「動くなてめぇら!動くとこの研究所叩き潰すぜ!」
たった今地上げ獣を吹っ飛ばしたハンマーを掲げ、狂四郎は犬歯をみせるように、威圧的に笑った。これでは、バクサイオーたちは動けない。
「へっへ・・・勝ったな!」
「ぬええええい、ちっくしょお〜〜〜〜!!」
ベッドの上、猿藤が唸る。が、それ以上のことは出来ない。全身が包帯とギプスで固定されており、なにより動けるほどやわな怪我ではない。
「お嬢さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
がたがたがたがたと、エクソシストを呼びたくなるほどにベッドが揺れる。と、急にそれが静まった。
「お・お・お!?」
どこか痛いところをひねるぶつけるなりしたらしい。顔色が変わり、いやな汗が流れる。
「行きたいようじゃな、猿藤。」
「じっちゃん!?」
と、そこにひょいと魔窟堂が現れた。別段仕事が無いので戦闘時も自由に行動している彼だが、今回は何か特別らしいのが表情から伺える。
「猿藤よ、見てのとおり状況はピンチじゃ。」
「そりゃわかってるぜ。」
「味方のピンチに華麗に復活!それこそヒーローというものではないかな?ましてや、それがおぬしが思いを寄せる女だとしたらなおさらじゃ。」
「そ、そりゃそうだけどよ・・・」
猿藤の声が弱まる。改めて自分の情けない現状を把握したらしい。
「この有様じゃどうしようも・・・」
その反応を予期してか、魔窟堂はふふと笑んだ。
「そんなお主に五老峰・もといご朗報じゃ!」
そういうと、なにやら妖しげカプセル剤を取り出す。変に中華妖術的な文様などがついていて、大変飲みにくそうだ。
「これぞこのワシが錬丹術と漢方薬の奥義をもって調合した秘薬!名付けて「江田島塾魂・死んだと見せかけ復活龍玉丸」じゃ!どんな怪我でも一発完治!」
「な、なんだか怪しげな名前だが、確かにききそうな気がするぜ!ようしじっちゃん、それをくれ!」
ギプスで固められた手を伸ばす猿藤だが、魔窟堂はまだ渡さない。
「甘いの、猿藤。昔からこの手の薬にはハードかつヘビィな「副作用」がつき物じゃぞ?」
「のおっ!そうだったぜ。・・・でい、一体どんな副作用だってんだ?」
「うむ、それはな・・・この薬に使われているある温泉成分のせいなのじゃが・・・」
FORCEGATE,OPEN!
FORCEGATE,OPEN!
往年のいい感じのワンダバをBGMに、再び格納庫の扉が開く。
「猿皇改で出るぜ。」
「し!しかし・・・」
「今更高所恐怖症なんて・・・へっ、気にもなんねぇよ。」
「こんな、体じゃあ、な・・・」
短い会話の後、赤いロボットが飛び出した!
「ぬおおおおおおっ!?」
唐突な体当たりを食らい、今まさに攻撃せんとしていたアヌビスクライブは吹っ飛ぶとどうと地に倒れこむ。
からまりそうな四本の脚をもがかせ起き上がると、すぐさま飛び込むは驚ける光景。
「猿てめぇっ!?怪我で動けねえんじゃなかったのか!!」
「ごろちゃん!?」
「え、猿藤さん・・・?」
そう。まさに狂四郎の言うとおり。目の前に立っているのは、猿藤にしか操れないはずのロボット、猿皇だった。
しかも、強化パーツ「猿迅丸」と合体し、飛行可能となった改造型だ。サルの癖に(違う)高所恐怖症の猿藤は、これに乗れないはずではなかったのか。
「愛の戦士猿藤吾郎、見参!!」
だが、確かにそう名乗りを上げ、猿皇は武器の如意棒をびしりと突きつける。
「犬神・・・てめぇは絶対許さねぇ!今回で長いライバル因縁けり付けてやらぁ!」
叫ぶ猿藤。だがその時、コウヘイはおかしなことに気が付いた。せっかく名乗り上げだというのに、猿藤は通信を音声のみにしている。おまけに故障でもしているのか、その声がえらく高い。聞きようによっては少女の用でもあったが、頭に浮かぶ猿顔がその連想を阻んだ。
「お師様!」
「牡丹・・・」
走りよる爆砕姫。心底嬉しそうな牡丹と対照的に、沙羅沙はむしろ驚きが先にたっているようだ。
「ちょっとあんた、高所恐怖症だったんじゃないの!?」
「へっ・・・・・・」
それに答える猿藤の声は悟りきったような、深い絶望を味わったような、何かしらあったことをうかがわせる声で、コウヘイはますます疑問が増える。
「もうそんなことを、気に出来る体じゃねぇのさ、俺は・・・。」
ふっ、と薄く笑う。さすがにこれは何かあったと気が付いたらしく、牡丹、紫音、柚子の顔から喜びの色が消えた。沙羅沙は最初から気にしていないが。
「なぁにをごちゃごちゃいってやがる!大口叩いといて、怖気ずいたか!?」
いらだったらしく、犬神が猛った。得物の巨大ハンマーをぶんぶんとバトントワリングのように振り回す。凄まじいまでの機体性能と、それを操る操縦者の力量がわかる。
「どいてな、牡丹。」
「お師様・・・ご武運を。」
その一言に、猿藤はずいと一歩前に出た。
「さあ、おっぱじめようじゃねぇか!けりつけられるのはどっちか、教えてやるぜ!なんだったら全員でかかってきても・・・」
「よく咆える「犬」はなんとやらだぜ。」
「・・・ってめぇぇぇ!!!」
猿藤の静かな挑発に、犬神はキレた。
「潰れやがれっ!アヌビスハンマーーーーーーーッ!!!」
ギン!
振り下ろされた大質量を、猿皇は如意棒でがっきと受け止めた。と同時にその勢いを体でさばいて、流れるような動きで間合いを詰める。
「がぁっ!?」
「うおおっ、 こいつが俺の!愛と・怒りと・悲しみのぉ!!大聖咆哮撃・改!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
一瞬棒が数百本に分裂したかと見える速度で、アヌビスクライブに連続攻撃が叩き込まれる!
「おおおおおおおおおおおおっ!?」
「うりゃりゃりゃりゃぁーーっ」
ガッキィイイン!
そして、最後の一発が叩き込まれ、アヌビスクライブは仰向けに吹っ飛んだ。
「さらば我が敵(とも)よ……なーんてな、とっとと死にやがれっ! 」
そう啖呵を切ると、猿藤は如意棒を収め、背を向けた。
「猿藤さん・・・、っ後ろ!」
ひと時安堵しかけた紫音の声が、再び悲鳴に変わる。連撃を受けたはずのアヌビスクライブが、立ち上がったのだ。
「話にもならねぇな・・・その程度の腕で俺を攻撃しても無駄だぜ!」
そして、再びハンマーを振り上げる。
が、猿藤は振り返らない。代わりに一言。
「あんた・・・機体が煤けてるぜ。」
「な・・・おああああああ!?」
確かに全身から煙を吹いている、と見るだにアヌビスクライブ全身の装甲にひびが入り、大爆発を起こす。
それを見ると同時に、憂国機団は勝機を失い、撤退していった。
「まて〜〜〜!わしゃまだ戦っとらんぞぉ〜〜〜〜!こらぁ〜〜〜〜〜!」
とわめく吉外太郎をひきずって。
そして、戦闘終了後。
がしゅっ。
と音を立てて、猿皇のコクピットが、開く。
「お師・・・様!?」
「ごろちゃん、なの?」
「遠藤・・・・さん?」
皆の反応が、そろってフリーズする。
「ん、まあ、そう、なんだけどよ・・・」
コクピットからの反応も、同じく途切れがちだ。
そしてその声は、・・・通信の声そのままに。あれは無線機の故障ではなかったのだと。
そしてまあ、映像を切っていた理由も頷ける。いきなりこんな姿をさらされたら、戦闘どころではなくなっていただろう。
猿藤吾郎は・・・美少女になっていた。
それもなんかいわゆる「魔法少女」のコスプレを露出度高めにアレンジしたような服で、髪の毛なんか染めたのとは明らかに違う綺麗な「ピンク色」だ。
なんというか非常にアレというか妄想爆発というか、な、格好で、しかもしれが完全にはまりきっていて、おまけに美少女であるという事実は厳然としているという、なんとも困ってしまう存在。
そして。
中身は猿藤吾郎だ。
「・・・つまりその、魔窟堂のじいさんの秘薬とやらで、怪我全回復の代償にそうなったと?」
「どうもそうらしいぜ・・・」
がっくりと、力尽きたようにうなだれる猿藤と、それ以上にげんなりしているコウヘイ。
そこに駆けつけてきたトラキチ、姫夜木博士もまた、驚きの声を上げた。
「おおっ!?そ、その姿は・・・」
「へへ・・・笑ってくれや・・・」
すっかりやさぐれてしまった猿藤に対し、二人は確かに驚いていたが、むしろその視線はぎらぎらしている。
「ま・・・」
「ま?」
「「魔法のパイロット・阿寒湖まりも」ちゃんではないかぁぁぁぁっ!?」
「へ?」
声をそろえて驚愕する親父たちと、その意味がよく理解できないコウヘイたち。
が、どうやら猿藤はそれに気が付いたらしく、慌てて自分の姿をもう一度確認している。
「ああっ!?そ、そういやあ、このかっこは!」
「いや、あの、・・・何なんだよ、それは?」
「知らんのか!」
トラキチは、「くわっ!」と目を見開き、コウヘイに迫った。
「お、いや俺は・・・猿藤?は、知ってるのか?」
姿が姿なので「猿藤?」と妙な疑問符が入ってしまう。
まあそんなことは気にせず、美少女になった猿藤は緊迫した面持ちで頷いた。
「ああ、伝説の同人漫画・九品仏大志作「魔法のパイロット阿寒湖まりも」・・・じっちゃんに見せてもらったことがあるぜ。魔法使いの美少女とロボットという一見あざとい組み合わせ。しかしその実は精密かつ迫力あふれる戦闘描写、巧妙な伏線と意外性を併せ持ちながらあくまで楽しめるストーリー展開、精緻な主人公たちの内面心理描写に戦うことの意義などの様々なテーマをこめた、大傑作があったと・・・」
「いや、そんなマジに語られても・・・」
「何しろ、それまで絵日記一枚満足に書けなかった俺が、思わず感想文を原稿用紙五十枚分も書いちまったくらいだからな。」
それは、確かに凄いかもしれない。というか、それ以前が駄目駄目のような。
「どうやらその時の記憶が、女性化した肉体をその形へと持っていったようじゃな。」
「じ、じっちゃん!」
元凶、魔窟堂野武彦現る。
「ワシも驚いた、いやさむしろこれは嬉しい誤算じゃわい。我が青春のヒロインが!生きて、しゃべっておる!これに勝る喜びやあらん!」
感動のあまり涙すら流す魔窟堂。それとはまったく違う意味で、猿藤、いやもうすっかり外見は「阿寒湖まりも」か・・・は、泣いた。
「うっうっ、ひどいぜじっちゃん、喜ぶなんて。俺が、俺がそんな思いでこの体になったか、知ってるだろぉ・・・」
(お嬢さんを守るために、・・・愛のために、恋を捨てて・・・)
「う・・・」
中身が猿藤でも、見てくれは美少女である。それがしゅんと悲しげな表情をとるものだから、周囲の人間の胸に激しく罪悪感をかきたてた。
もっとも木村やアンドーなど、それをしっかり撮影して悦に入っている剛の者もいたが。
「お、お師様。この桜小路牡丹、お師様がたとえどんな姿になろうと、一生懸命ついていきます。ですから、ご安心ください。」
「そ、そうだよごろちゃん!大丈夫、前より可愛いってば!」
「牡丹・・・柚子・・・フォローになってねぇ・・・」
「でも事実、可愛いわよ・・・うふふふふふ・・・」
「へ?」
一瞬背筋に悪寒が走る笑いを聞き、慌ててまりも(猿藤)はあたりを見回した。
沙羅沙だ。沙羅沙が静かに、だがずいぶん色っぽい笑みを浮かべている。
「お、おい沙羅沙、お前何を・・・」
「うっふっふ、まりもちゃ〜ん、ちょっとおいでぇ〜〜〜」
まりも(猿藤)の手をつかむと、沙羅沙はずるずると引きずっていく。
ばたん、がちゃ。
近くにあった用具室というか物置に、まりもを放り込むと自分も入り、扉を閉める。流れるような手馴れた動作だったため、周囲がなにもする時間が無いほどに。
「うおっ、ちょっ・・・」
「ふふふ、大丈夫。安心して私に任せて。痛くしない、いえむしろ気持ちのいいことなのよ?」
「う、うわ〜〜〜〜!やめろ馬鹿!」
「可愛いわよ、まりも・・・」
「うおおお〜〜〜!やめろジョッ○ー!ぶっとばすぞ〜!」
「あん、もう!暴れないの!」
どたんばたん、ばきっ!げすっ!パン!パン!パン!
「じゅ、銃を使うんじゃねぇ!」
「麻酔弾だから大丈夫よ。それとも、スタンガンのほうがお好み?」
「そ〜ゆ〜問題じゃね〜〜!!うおお、畜生!負けてたまるかぁ!!」
・・・なにやら熾烈な?戦いが繰り広げられている。
「ちょちょ、ちょっと!何してるんですか!?」
さすがに銃声が聞こえたのには驚いてか、パオラが気まずい雰囲気を打ち破って中に入る。
「あら、パオラちゃん。こういうこと興味あるの?」
「え・・・え?!」
「うおい!ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
いきなり耳に入った不穏当な言葉に、慌ててコウヘイが飛び込む。
「男は来ないで!」
バババババババババ!
その途端、沙羅沙の持つ銃から連続した発射音が響き、慌てて飛びのいたコウヘイが少し前までいた後ろの壁に、たくさんの穴が開いた。
「うわあああっ!い、今の実弾か!?」
その穴・・・弾痕を見たコウヘイが叫ぶ。
「その通りよ。チェコ製短機関銃・VZ−71スコーピオン。蜂の巣になりなさい!」
「ひええええええ!」
「ち、ちょっと沙羅沙さん!」
今度は紫音がとめに入った。コウヘイの前に両手を広げて立ちふさがる。
それを見ると沙羅沙はすぐさま殺気立った表情を引っ込め、慈愛あふれた微笑を浮かべる。
「大丈夫大丈夫、わかったわ。優しいのね紫音・・・好きよ、そういうとこ。」
「なっ!?さ、沙羅沙さん!?」
「「愛は万人に。信頼だけはある人に」・・・それにしても女の子が多いと、毎日楽しいわねぇ〜」
短機関銃を足に巻いたホルスターに押し込むと、沙羅沙は飄然と出て行った。
「はあぁ・・・危なかったぜ・・・」
雑多に詰まれた機械部品や整備用具の山の中から、ごそごそとまりも(猿藤)が這い出してきた。頭から埃をかぶり、顔には機械油がべたっとくっついている。
「あ、猿藤さん。ずいぶん汚れちゃってますよ?お風呂に入ったほうがいいです。」
「ん、そうみてぇだな。」
「ええ。一緒に入りましょう。戦闘も疲れたでしょうから、お背中お流ししますわ。」
「ええええっ!?」
「そうですね、私もモーショントレース用のスーツは蒸れて、汗が・・・。」
「あ、柚子も。」
「ええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
まるで当然のように進む話に、コウヘイは叫んだ。叫ぶしか出来なかった。
まりも(猿藤)にいたっては、完全にフリーズ状態である。
一瞬、「女になってよかった!!」という考えが力いっぱい脳内を独占しわずかな「いいのか!?」という考えを粉砕し、だがその後「俺は男として見られていないんだな」という寂しさと、「男に戻れるなら戻るべきか、それともいっそ・・・」という考えが。
「女のまま=ウハウハだけど恋の成就は出来ない。男に戻る=この幸運を手放す。」
そこで思考が堂々巡りし、そのままついていってしまったまりも(猿藤)。
そんなまりも(猿藤)を見送るほかの男性の心は・・・
「ウラヤマシ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
という木村の叫びに代表されると、はっきり言い切れた。
ちなみにその後まりも(猿藤)は風呂場で先にいっていた沙羅沙と遭遇し、またも追い掛け回される羽目になる。
天罰?
などとうかれさわぐ(?)ガイアセイバーズと対照的に、憂国機団司令部は大いに暗くなっていた。
「・・・犬神が敗れるとはな・・・・・・」
報告を受けた流星は、しばし沈黙した。
「いかがいたしましょう、神行太保?もはや「ガイアセイバーズ」を名乗るやつら、無視できる勢力ではありませんな。」
やや哀悼の表情を浮かべる流星と異なり、雲水はどこまでも冷徹だ。
「うむ。もはやこれ以上の犠牲は今後の戦略上容認できない。・・・幽羅帝に連絡を。」
その流星の一言で、司令部は大きくざわついた。雲水も、驚きの表情を浮かべる。
「では、まさか!?」
「そうだ。」
決意を持って、流星は頷く。
「鉄甲龍(ハウ・ドラゴン)を動かす。」
次回予告
第七話
沙羅沙
なんだか今回、あまりストーリー進んでないんじゃない?
牡丹
それは・・・確かに、私たちの出番も少なかったですし。
柚子
変化といえば、ごろちゃんが女の子になったくらいだよねぇ。
まりも
ああ、俺の名前表記はもうまりもになっちまったのか・・・
ツク=リーン
失礼な。我々の登場、という重要事項があったではないか。
アンドー
ロボットだって揃い踏みしたし。・・・ということは、ここからが本番ということか?
パオラ
次回あたり大きな動きがあるかも、ってこと?
トラキチ
そういうことだ。何しろ、あの鉄甲龍(ハウ・ドラゴン)が動き出したという。
コウヘイ
なんだよ、その「はうどらごん」ってのは?
魔窟堂
それは次回・・・・「冥王襲来」を、お楽しみに!じゃ。おぬしは、時の伏線を見る・・・
まりも
伏線?
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