第四話「ジュリエットたちのリ・クルス」
あれから、一週間がたち。
前回の戦いの後も、学校は一応続いていた。露天の青空学級、戦後よく見られた光景が、宇宙人の襲来で各地で再発しつつあった。(憂国機団は、基本的に軍事基地ばかりを目標とし民間人攻撃を行わない。宇宙人のそういう攻撃に対し下、迎撃を行うことも多い)
とはいえ、その光景はあくまでさびしい。幸いにして死者はなかったものの、けが人は多く、入院したものも少なくない。
またそれと同時に疎開したもの。
漫研の御鏡、美術部の鬼守、弓道部の朽縄・・・他にも櫛の歯が欠けるようにいなくなり、クラスの数はいつもの半分を割った。
あの日謎の男に襲われた勇二は、学校を辞めた。それどころか、行方をくらませてしまった。
家もない。
あの日は、兄の帰ってくる日でもあった。
だが。
その兄があの後消えた謎の男・・・烏丸羅剛と名乗った・・・を追ってどこかへと出かけ、帰ってきた途端魔神一家を・・・自分の家族を惨殺し、家に放火して自殺したとは。
温厚そうな勇二の父も母も、ばらばら死体となって発見された。あの妹の恵にいたっては、兄を探して遅れて帰った勇二の目の前で絞め殺されたという。
その直後、退学届けを出して勇二は消えた。
残ったクラスメートには勇二と同じ格闘部のものも多く、後輩の美咲やマネージャーの秋月など、心配で心配でたまらない様子だ。
ガクセイバーに乗っていた七人も、また。
肩に傷を負った榊さんは入院。そして一番幼く体力のなかったちよちゃんと、後半の大暴走時ほとんど一人でガクセイバーを動かしたかおりんも、過労で倒れた。
木村(彼はガクセイバーの入った隕石の第一発見者で、もともと教師。ゆかりとにゃもはそれを分析するために後から来た、高校教師は仮の姿というやつらしい)によれば、「すぐ直る」そうだが・・・
片方は自分の感知し得ない、何か深い裏がありそうな事件。
もう片方は、ある意味自分がそこまで窮地に追いやったと言っていえないこともない。少なくとも稼動するロボットが後二体いれば、もう少しましな戦いが出来た可能性はある。
そう思えば、あまり学校にいたい気分ではなくなる。さりとて、家に帰っても・・・
影山研究所は、てんてこまいの有様だった。せっかく結成した「ガイアセイバーズ」も、ロボットが動かなければ石の狸である。
が、現在可動機ゼロ。
突貫工事に継ぐ突貫工事で修理を進めているが、とてもではないがおっつかない。
何しろ部品は全部単品生産、材料も特殊合金だのレアメタルだのの目白押し、とどめに一回形に出来たのが奇跡といっていいくらいの超高度技術の結晶体である。
「はぁ、リアルにスーパーロボットを運用するのって、こんなに疲れるものなのねぇ。」
影山研究所唯一の女性研究員、雨宮シズクが大仰にため息をつく。眼鏡が似合う知的な容貌なのだが、機械油をべったりと化粧している。
「とほほ、もう三日寝てないです。」
他の研究員もぼやきがちだが、
「なんのなんの三日くらい!」
と、博士たちはやたらと元気だ。なんと行っても好きなことだし、深夜アニメと同人誌製作で鍛えられたおたくどもだし。
不思議なことに一番ばらばらになったバクサイオーの修理の進行が、一番早かった。自爆したとはいえ、メインの動力区画などがブラックボックス化されていて無傷だったためと、他のロボットよりずいぶん作りが単純だったのだ。
バクサイオーの修理にかかりきりなので、父はあまり言ってこない。だが進む修理は、いやでもロボットに乗ることを連想させる。
「・・・・・でも、やっぱオレにはムリだよ・・・・それじゃ」
「コウヘイ・・・・・・そうか、わかった・・・ムリには止めん、だが、オレはここで待っているぞ、お前が戻ってくるのを・・・」
「どうぞ、御勝手に・・・」
そういって、あの妙な赤マフラーの男・・・アンドーと名乗った・・・の特訓の申し出をけってしまった。
自分でも理由はよくわからない。面倒くささか。いや・・・不安か。
コウヘイは何故か足が向きかけていた勝手にアンドーが「地獄山」と呼んで特訓の場所としている裏山を降りた。
「しかしこのまま家に戻ったら、オヤジになに言われるかわからんしな・・・・・・う〜む、どうしたものか・・・」
コウヘイは仕方なくしばらく散歩しながら考えることにした。
「う〜〜〜〜〜〜む・・・・・それにしても腹減ったな、朝から何も食ってねえんだった・・・。」
シリアスの長続きしない男だった。
「しかも、いつの間にか隣り街まで来ちまったじゃねーか」
コウヘイが教会の前を通りかかったその瞬間・・・・
ドン!
うつむきながら歩いていたコウヘイは不意に教会からでてきた少女にぶつかった。おとなしげな顔立ちにショートヘア、白いゆったりしたワンピース。
「あ、ゴメン」
「・・・・・・・」
尻餅をついて倒れた少女に、コウヘイは手を差し出した。
コウヘイの手につかまって少女は起き上がった。
「大丈夫?」
少女はコクコクと首を縦に振り、申し訳なさそうに大きく礼をした。
「キミが頭下げることないよ、今のはオレの不注意だし」
コウヘイの謝罪に横に首を振り、その娘はもう一度礼をして去って行った。
「変なコ、かわいかったけど・・・ここの教会の子かな?・・・・ん?」
コウヘイは足元にペンダントが落ちているのに気がついた。
拾い上げ、ペンダントについていたフタを開けてみると、さっきの少女の写真が入っていた。
少女の隣には二人の男女の姿もある。おそらく少女の両親だろう。
「さっき、ぶつかった時に落っことしたのか」
このままここに置いていこうかと一瞬コウヘイは思ったが、
おそらく彼女にとって大事なものなんだろう。
そう考えると、とてもこんな道端に置いて行けるわけがなかった。
「仕方ない、とりあえず、教会に行ってみるか」
コウヘイは教会のドアをそぉ〜と開け、こそっと覗き込んだ。
奥に一人のシスターがいるのが見えた。
少しポッチャリした体型で、非常にやさしそうそうな女性であった。歳は30代後半ぐらいだろう。
「あの〜、スイマセン」
「はい?」
「えっと、さっきこの教会から出てきた女のコがこれ落として行ったみたいで、とりあえず教会に届ければいいかなと思って」
「ああー、パオラちゃんのね、どうもありがとう」
「いえいえ、それじゃオレはこれで」
(パオラっていうんだ、さっきのコ、変わった名前だな)
その時グ〜とコウヘイの腹が鳴った。
シスターはクスッと笑い、
「アラ、お腹空いてるの?よかったらお昼食べていく?」
と、親切にも声をかけてくれた。さすが神に仕えるもの。
金のないコウヘイは御言葉に甘えようとしたが、
「いえ、そんな、けっこうですよ」
と、口が勝手にしゃべってしまった。
(しまったぁぁぁぁ、断っちまった!オレのバカバカバカ!このまま帰ったって、オヤジにメシ抜きを言い渡されるかもしれんのに・・・・オレは神が与えたこのチャンスを逃してしまったぁぁぁぁ)
コウヘイは心中で叫び、心中のた打ち回った。人前で無ければ実際そうしていただろう。
「遠慮しなくていいのよ、パオラちゃんの大事なペンダントを届けてきてくれたんだもの、そのお礼と思って」
「え?そうですか、わかりました、それじゃ、お言葉に甘えて」
(やったぁぁぁ!神は我を見捨てなかった!)
・・・実は表情に飢えがもろに出ていたとは、気づかないコウヘイだった。
「もうすぐ、パオラちゃんが材料買って、もどってくると思うわ」
「パオラちゃんってコはここの教会のコなんですか?」
「いいえ、あのコのご両親は、異星人の攻撃の被害に遭われてお亡くなりになられたの、それで身寄りのないあのコをわたしが引き取ったの」
「そ、そうなんスか・・・」
こんなところにも、戦禍は爪痕を残している。コウヘイは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
「それにしても、おもしろい服着てるわね、最近のハヤリ?」
コウヘイは自分が、他人から見ると実に不思議な格好をしていることをすっかり忘れていた。無理に着せられたパイロットスーツ。
「え、これですか、これはえ〜と・・・・」
コウヘイが返事にこまっていると、タイミングよく少女が買い物を終え、帰ってきた。
「おかえりなさい、ハイ、これパオラちゃんの大事なペンダント、この人がわざわざ届けてくれたのよ」
パオラはペンダントを受け取ると、申し訳なさそうにコウヘイに頭を下げた。
「礼なんか別にいいよ、もともとオレのせいで落としたんだし」
「だからねパオラちゃん、お礼にお昼ゴハンを一緒に食べようって言ってたところなの、ねっ、え〜と・・・名前、まだ聞いてなかったわね」
「影山コウヘイっす」
「改めて自己紹介させてもらうわ。わたしはシスタークレア、このコがパオラちゃん」
「よろしくー、パオラちゃん」
コウヘイが手を振ると、パオラは少し頬を赤らめ、恥ずかしそうにニコッと微笑んだ。
「さ、パオラちゃん、コウヘイ君もうお腹ペコペコみたいだから、早速作りましょ」
そう言い、二人は奥の部屋に入っていった。
その並んだ後姿を見ながら、コウヘイは一瞬何かを忘れているような気がしたが、無視した。
ちなみにその頃・・・
ヒュ〜・・・聞くからに身を切るほど寒そうな、風が裏山を吹き抜ける。
「ふ、風が身にしみるぜ・・・へぇーっくしゅ!」
むなしく立ち尽くすアンドー。
「ガツガツ!モグモグ!ムシャムシャ!」
早送りというよりは、コマ落としとでも言うべきスピードでコウヘイの手と口が動き、空になった皿が積み重なっていく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人ともコウヘイの豪快かつトレンディーな食いっぷりに言葉をなくし、ポカーンとしていた。
「ふ〜、食った食った」
「フフフ、どうでした?お味の方は」
嫣然とシスターが問いかける。コウヘイは、にかっと笑い答えた。
「スゲー、うまかったっス!うちおふくろがいないからこんな料理食ったの久しぶりっスよ」
その言葉にパオラが一瞬、ピクっと反応する。
「特にこの肉ジャガが最高っス」
「それはパオラちゃんが作ったのよ」
「へぇ〜、パオラちゃんって料理上手いんだ」
ひょいとパオラのほうを見るコウヘイ。
パオラは視線を下げると、顔を赤くして照れた。
「さて、そろそろ帰ろうかな」
満足を伸びであらわし、コウヘイは席を立った。
「あら、もう少し居ればいいのに」
「いや、あんまり長いこと居さしてもらうのも悪いし、お昼ゴハンありがとうございました」
ぺこりと、礼。
「でも、コウヘイくん」
「はい?」
「今、すごい雨よ」
「はい?」
コウヘイは玄関に行き、ドアを開けてみると、ザザーと音を立て大雨が降り注いでいた。
「いつの間に・・・気づかんかった」
「フフフ、もう少し雨が止むまで、雨やどりしていった方が」
「いいみたいですね」
答えながら、コウヘイは一瞬何かを忘れているような気がしたが、無視した。
ちなみにその頃・・・
ザザ〜・・・
台風並みの大粒の雨。あたると痛いほどだ。トドメに暴風も。
「ふ、雨が身にしみるぜ・・・へぇーっくしゅ!」
むなしく立ち尽くすアンドー。
そして、いつの間にか雨も止み、日が暮れていた。
「雨も止んだみたいだし、そろそろ帰らないと・・・」
扉から顔だけ出して上を見上げがら、コウヘイ。
「そう残念ね、玄関まで送るわ、パオラちゃんはそこで待ってて」
クレアはパオラをその場に止め、玄関まで見送りに来てくれた。
「パオラちゃんがあんなに楽しそうにしているの久しぶりに見たわ。コウヘイ君・・・よかったらまた来てあげてね、お願い」
そういうクレアの言に、コウヘイは一抹の疑問を覚えた。
「オレの方は全然かまわないっスけど、パオラちゃん・・・そんなに楽しそうだったスか?なんかオレ一言もしゃべってもらえなかったし、嫌われてるのかも・・・・」
「ううん、そんなことないわ。ずっとそばにいたわたしにはわかるの、すごく楽しそうだった、パオラちゃん・・・・。それとねコウヘイくん、パオラちゃんはしゃべらなかったんじゃないの」
「へ!?」
形を変えた疑問がコウヘイの脳を占領する。そしてその真実の答えは、あまりに悲しくて。
「しゃべれないのよ、あのコ・・・ご両親が目の前で殺されたショックで言葉を失ってしまったの、お医者さんは精神的なものって言ってらしたから、あのコの心次第で治るはずなの・・・だからコウヘイくん、あのコの友達になってあげて・・・そうすれば、あのコの心も少しは・・・」
いつの間にかクレアの目に涙があふれていた。それがコウヘイの答えを決める。
「クレアさん・・・わかりました!オレもできるかぎり協力します、パオラちゃんの心の傷が少しでも癒えるように」
そう、自分に何か出来るなら。
「ありがとう・・・ありがとうコウヘイ君」
どういうと、クレアは何度も頷くようにお辞儀をする。
そんなクレアが見送るなかコウヘイは家路へともどっていった。
ちなみその頃・・・
「へ・・・へ・・・へぇーっくしゅ!」
だら〜んとアンドーの鼻から鼻水がたれる。
「ズズ・・・地獄山の夜は冷える・・・へぇーっくしゅ!」
むなしく立ち尽くすアンドー。
「コラァー、なぜ帰ってきたぁぁぁぁ!!!」
夜の影山研究所。トラキチの怒声が轟き渡る。
「特訓なんて馬鹿げたことやってられっか!」
負けずにコウヘイも怒鳴り返す。
「そんな根性なしに育てた覚えはないぞ!このバカ息子がぁぁ!だからお前はアホなのだぁぁぁぁ!」
「うるせぇぇぇ!なんとでも言え!オレはもう寝る」
吐き捨てるようにして部屋に入ろうとしたコウヘイの背中を見るトラキチの目が、ぎらりと光った。
「ええい!楽に眠れると思ったか、くらえトラキチ・コレダー」
懐に手を突っ込み、いつものスタンガンを抜こうとするトラキチ、だがそれより早くコウヘイが動いた。
「フ、何度も同じ手を食らうか!必殺コウヘイ・コレダー!」
ビリビリビリ!
「おおおお!」
青白く発光、痙攣の後ひっくり返るトラキチ。
「こんなこともあろうかとオレも買っといたのさ、スタンガン」
「フ、見事だ・・・この父を超えるとは・・・ガク」
トラキチは散った。
「ふ〜、これでゆっくり寝れるってモンだぜ」
草木も眠る丑三つ時・・・
ドゴォォォォォン!!!!
「な、なんだ!?」
ものスゴイ爆音と地鳴りにコウヘイは目が覚めた。
「外からだ・・・」
窓の外を見てみると、夜中なのにまるで朝のように空が明るくなっていた。
それは、炎によるもの。
「まさか、異星人か!?」
コウヘイはベッドから飛び起き、研究室に向かった。
研究室にはTVを見ているトラキチの姿があった。姫夜木博士は通信機を持ち出し、泡を食った様子で連絡を取っている。
「何があったんだ!?オヤジ」
「異星人が攻めてきたらしい、ニュースによるとかなり近くだ、隣り街は相当の被害を受けてるみたいだ」
「隣り街!?」
「ああ、だが安心しろ、ヘタに逃げるよりこの研究所にいる方が安全だ。今姫夜木が宇宙ロボット研究所に連絡している。今回はゲッP−Xに任せよう。」
だがコウヘイにはそれどころではなかった。頭の中を昼間あったシスターとパオラの姿が、ぐるぐると頭の中をめぐる。
「隣り街・・・って、まさか!?」
コウヘイはパジャマのまま研究所を飛び出した。
「お、おい!どこ行くんだ、外は危険だぞ!」
「頼む、無事でいてくれよ」
コウヘイは途中、落ちていた自転車を拾い隣り街へと急いだ。
一方、もう一人隣り街を目指し走る者がいた。
「やばいぞ、急がねば・・・」
ゴゴゴゴゴ・・・
街は火の海と化していた。
「ハア、ハア・・・ついた、教会だ」
教会はすでにボロボロに崩れ、ガレキの山となっている。
「パオラちゃーーーん!クレアさーーーーーん!」
コウヘイは必死で二人の名を叫んだが、返事は返ってこない。
「くそ、そりゃないだろ・・・せっかく友達になったのに・・・彼女達が何したってんだよ・・・パオラちゃーーーん!クレアさーーーん!」
その時!
コウヘイの頭上から崩れた建物の鉄柱が降ってきた。
ゴォォォォ・・・
「う、うわぁ!」
コウヘイは目をつぶり、手で頭を覆った。
・・・・・。
降ってこない・・・
コウヘイは不思議に思い、恐る恐る目を開けた。
そこには片手で鉄柱を支えているアンドーの姿があった。
もう片手にはパオラがかつぎこまれている。
「アンドーさん・・・パオラちゃん・・・!?」
「このコは さっきそこで倒れていたのをオレがみつけたんだ」
そう言い、アンドーは鉄柱を地面に投げ捨てた。
「もうこの街にはこのコ以外生存者はいないようだ、ほかの者はすでに避難している、お前も早く逃げろ」
「あ、あの・・・もう一人、もう一人女の人を見なかったっスか?ここのシスターなんですけど」
「ああ、見たさ、そのガレキの向こうで」
「え!?」
コウヘイはとっさにガレキの向こう側へ行こうとした。
「行くなコウヘイ!言ったはずだ・・・このコ以外生存者はいないと・・・」
「そ・・・そんな、ウソだ!」
「ここはもう危険だ、行くぞ!」
「ウ・・・ウソだぁぁぁぁぁ!!!」
「行くぞ!コウヘイ!!」
アンドーはコウヘイの腕をひっぱり、連れ出した。
「・・・・・」
「まったく、なんて無茶なことしやがるんだ、このバカ息子が」
「・・・・・」
研究所に戻ってきた二人を、ぶちぶちと叱るとも愚痴るともつか無い態度で出迎えるトラキチ。コウヘイはうつむいて黙ったままだ。
結局隣町を襲撃した宇宙人(「宇宙悪魔帝国」だったらしい)はゲッP−Xと交戦する前に、撤退したらしい。・・・取り逃がしたと言っていえないことも無かった。
「そう怒るなトラキチ、コウヘイにはコウヘイの事情があったんだ、それに無事だったんだしイイじゃないか」
「そーゆー問題じゃない」
対してアンドーは鷹揚な態度を見せたが、トラキチはまだ何か言いたげだ。しばらく考え、アンドーはトラキチの心を読む。
「じゃあ、コウヘイのことが心配だったのか?」
「ん、んなワケないだろ!コウヘイにもしものことがあったら、バクサイオーのパイロットがいなくなるだろうが!それを考えてたんだよ」
「フ、そう言うことにしといてやるよ」
変にあせった様子で、下がってもいない眼鏡を上げるトラキチ。それを見て、アンドーは僅かに笑う。
「・・・・」
「コウヘイ・・・シスターは必死に生き、そして死んだ・・・そのおかげでこのコは生きている」
「・・・・?」
「実はな・・・ガレキの下でこのコを守っていたんだよ、シスターは・・・」
静かにアンドーは呟く。
「!?」
驚いて顔を上げるコウヘイに、ゆっくりと、詳しく続けた。
「シスターが彼女の上にかぶさっていたんだよ、彼女をガレキから守るために自分を身代わりにしたんだろう・・・オレが発見した時にはすでに息を引き取っていた」
「・・・・・・・」
コウヘイは再びうつむき、手は握りコブシを作っていた。
「だれも一人で死んでゆくけど、一人で生きてゆけない・・・オレはシスターの代わりになれるのか・・・彼女にとって」
搾り出すような、声。それに応じるアンドーは、驚くほどに、優しく。
「それはお前しだいだ・・・・」
「・・・・・」
「コウヘイ!失ったものを数えるな、残ったものを数えよ!・・・地獄山で待っている、気が向いたら来い」
そう言うと、パオラをコウヘイの腕へと移し、去っていった。
「・・・・・」
アンドーが去ってから1時間が過ぎた・・・
すでに時計は深夜5時を回っている。
今日の出来事が頭の中で駆け巡り、
コウヘイはベッドに入ったまま眠れなかった。
「・・・・」
(しゃべれないのよ、あのコ・・・ご両親が目の前で殺されたショックで言葉を失ってしまったの、お医者さんは精神的なものって言ってらしたから、あのコの心次第で治るはずなの・・・だからコウヘイくん、あのコの友達になってあげて・・・そうすれば、あのコの心も少しは・・・)
「・・・・」
(コウヘイ・・・シスターは必死に生き、そして死んだ・・・そのおかげでこのコは生きている)
「・・・・」
(それはお前しだいだ・・・・・・・・地獄山で待っている、気が向いたら来い)
研究室のドアが開いた。
「なんだお前、まだ起きてたのか」
バクサイオーの修理をしながら、研究室に入ってきたコウヘイにトラキチは言った。
「・・・・」
うまく言い出せないらしく、コウヘイは口ごもった。
「用がないなら寝ろ、そんな顔してそこに居られるとこっちまでテンションが下がっちまう」
息子がうまく言い出せるように・・・わざと冗談めかして、トラキチは水を向ける。
「なあ、オヤジ・・・頼みがあるんだ」
「ん、なんだ」
修理をしながら、背中で答える。
「オレ、しばらく留守にするけど、そのあいだパオラちゃんのこと任せていいかな」
それが意味するところを理解したトラキチは、皆まで聞かない。
「・・・・・・そうだな、帰ってきたら食事当番と掃除当番、一週間連続でお前がやれ」
それは、コウヘイの心にも届いて。
「・・・すまねぇ、じゃあ、任せたぜ」
「コウヘイ!」
そういいおいて駆け出そうとする息子を、父は鋭く呼び止めた。
「?」
振り返るコウヘイ。目に飛び込むは、励ますような父の笑み。
「地獄山の夜は冷える、カゼひくなよ」
「ああ」
「来たか・・・」
薄闇の中、さらに黒い影となって浮かぶアンドー。裏山とはいえ町の明かりから離れ、その暗さにはそれなりの凄みがある。
「・・・・・・ひとつ聞いていいか?」
問いかけるコウヘイ。だがその口調に迷いは無い。
「なんだ」
「本当にヒーローになれるのか?本当に強くなれるのか?」
「強くなりたいのか・・・」
最後の確認、といわんばかりに、アンドー。僅かに過去と思いを重ねるようだ。
「強くなりたい!誰も傷つけずにすむくらいに・・・」
コウヘイの声。それを聞き、むしろアンドーのほうが踏ん切りをつけたような様子を見せる。
「いいだろう・・・・よし、特訓開始だ!」
「おお!」
「でも眠いから明日からね」
「おい!」
・・・次回を、待て!