第三話 紅の流星機〜やまぴかりゃー、その理由〜
「とゆ〜わけで!憂国機団の撃退に我々は見事!成功したわけだ!」
「これを成功って言うのか・・・?」
自分のロボットが戦ったというわけでもないのに(というか思い切り足を引っ張ったのに)胸を張るトラキチと、冷たくあしらうコウヘイ。
この場合、コウヘイが正しい。
爆撃姫は機体を支えるホバーがつぶれて、自重と砲撃の反動に耐え切れず攪坐。
爆砕姫とビストームはぼろぼろの状態で無理な動かし方をしたせいでエンジン燃え尽きてフレームもがたがた。
レスキュートも損傷が激しく、飛んだらそのまま空中分解しそうだ。
そしてバクサイオーは、猿皇を巻き込んで吹っ飛んでいる。
「なに、パイロットに死者はいない。これくらい直せばいいよ。」
話しかけてからまだ名乗ってもいないことに気づいたのか、
「私は姫夜木大悟。姫夜木研究所所長で、君のお父上と同じくロボット工学を研究していてね、このたびの正義のロボット部隊「ガイアセイバーズ」結成となったのだよ。」
「結局名前そっちにしたんですか・・・」
うむ、と山羊髭に丸眼鏡の老人がうなづいた。
「そしてわしは二人の友人で、魔窟堂野武彦じゃ。」
トラキチ・姫夜木博士博士共に白衣だが、魔窟堂老人は和服姿、浮世離れした感じはするが科学者といわれると少し違う。
「ええと、魔窟堂さんは何の・・・?」
「わしは「オタク」じゃ」
・
・・
・・・
「そ・・・そうですか」
コウヘイは、深く突っ込まないことにした。こういうときつっこむと後悔するのは、父親でこりている。
「そして我が弟子、猿顔のシラノ=ド=ベルジュラク、愛とオタクの野生の、姫夜木研究所が誇るPGIシステムロボ猿皇のパイロット、猿藤吾郎じゃが・・・」
魔窟堂老人は、ちらっと視線を走らせた。
ベッドの上に白い猿、否全身包帯ぐるぐる巻きの猿藤吾郎が横たわっている。
「・・・またすごい怪我っすね〜。どうしたんですか?」
「うむ。バクサイオーと違い脱出装置のついていない猿皇から持ち前の野生の勘とパワーで飛び出したのはよかったんじゃがの・・・」
呆れ顔のトラキチが続ける。
「ばらばらになって四散したバクサイオーの拳が直撃。地面にたたきつけられた後猿皇の頭、バクサイオーの胴体、猿皇の下半身につぎつぎに折り重なって・・・」
そこで姫夜木が目を丸くし、今気づいたといわんばかりに叫んだ。
「一体なんで生きとるのかね、君は?」
「うるへ〜〜〜〜〜っ!!」
叫ぶ猿藤。
「おかげで「BEO計画」は当分延期となってしまった。責任とって今後は猿藤君のかわりになるよう、馬車馬のように働きたまえ。」
「い、いやそりゃ責任はあるかもしれないけど・・・「BEO計画」って、何ですか?」
それを聞かれたとたん、姫夜木はそりゃもう自慢げな表情になった。
「うむ!飛行ユニットを取り付けた新型猿皇・爆撃姫・爆砕姫が合体し、史上最強のスーパーロボットとなる計画である!だが猿藤君が高所恐怖症のため新型機にのれない・爆撃姫パイロット四条沙羅沙君の拒否などにより難航していたのだが、今回のことでトドメさされたといえよう!」
「それって、俺がどうこうするより前にすでにもうだめじゃん・・・」
コウヘイはあきれ返った。
「お師様・・・おいたわしや。」
その後ろでは、
「ぼ、牡丹・・・」
ギプスで固められた手をのばし、枕元に招くしぐさを猿藤はした。
「なんですか、お師様?」
「今度から俺のことは、コーチと呼べ。」
「はい、コーチ!・・・でも、なぜですか?」
「師匠は一緒に戦える。コーチは、何か傷があったり持病があったりで戦えねぇ」
「そう、ですか・・・。はやく「お師様」に戻ってくださいね!」
「ああ・・・待ってな。」
そういって猿藤は、何故かレイバンのサングラスを着用した。そうすると不思議に「コーチ」ッぽくみえる・・・人もいるかも。
「君は」
そんなやりとりを猿藤とかわしていた少女に、コウヘイは尋ねた。短い髪の、あのときの通信では格闘ロボ・爆砕姫に乗っていた人だ。
「爆砕姫パイロット、桜小路牡丹です。退魔拳法・閃真流皇応派第十六代目継承者でもありますが、まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる。先ほどからの口調といい、ずいぶん礼儀正しい性格のようだ。だがそれとは無関係に、コウヘイにはひっかかるところがあった。
「退魔拳法?」
「ええ。」
非常に真面目に、牡丹は答える。
「いわゆる人と人との戦いを目的とした普通の拳法と違い、閃真流は人を守り魔を払う拳法。皇となり守り導く皇応派、人の可能性を極める人応派、神をも超えるといわれた神応派の三つの流派がありましたが、今では皇応派以外の二つは絶えてしまっているとききました。」
魔窟堂も、それに頷く。
「うむ。確かに表の歴史に現れぬが、閃真流の戦いはわしが仙術を極めた崑崙山にも知れ渡っておるゆえな。」
「仙術!?」
ますますうさんくさげなめで見るコウヘイを猿藤がたしなめる。
「うそじゃねえぜ。じっちゃん、ためしに一つやって見せたらどうだ?」
「うむ。」
そういった魔窟堂の声は、コウヘイには不思議な聞こえ方をした。前から「う」が、後ろから「む」が聞こえたのだ。
そして、気がついたら目の前から消えた魔窟堂が後ろにいた。瞬きするまもない一瞬、魔窟堂はコウヘイの後ろに回りこんだのだ。
「これがわしが身につけた「芸」の一つ。「加速装置」じゃ。」
それ仙術!?というつっこみを、コウヘイはできなかった。どっちにしろ並大抵の技ではない。
「う〜にゃ。」
そして、そもそも人ではないような、尾ととがった耳をもつビストームのパイロット、ミーアだ。
「にゃい。みーあ。こーはー、みーみゃうん。」
自分を指差したり、こっちをじっと見るようなしぐさをしているところからすると、どうやら自己紹介をしているつもりらしい。
だがコウヘイには、まるでわからない。
「え〜っと・・・???」
頭をかく。
「ミーアはね、コウヘイさんに「よろしく」っていってるよ。」
横合いからかかった解説に、ミーアは嬉しそうに頷く。
「ゆーずーゆ、たうたー。」
「うん。なんてことないよ。」
「ちょっ・・・意味、わかるの?」
「うん。」
会話を成立させていたのは、レスキュートに乗っていた、小学生ほどの女の子だ。
「あっ、はじめまして。ごろちゃんのいとこの高見柚子って言います。よろしくお願いします。」
「あ、どうも。」
ミーアと会話が成立させられる以外は、かなり普通だ。双思ったコウヘイは安心して挨拶を交わす。
「それであの、ちょっと聞きたいことが。」
「なーに?」
「ミーアちゃんって、一体・・・」
「あ、それは・・・」
問われたとたん、それまで快活を絵に描いたようだった柚子の顔が僅かに悲しげになった。
「ミーアさんは、ある研究所で生体強化実験として人工的に作られた、人間に動物の遺伝子を組み込んだ亜人間なんです・・・。」
口ごもる柚子の代わりに答えたのは、妙齢の女性。黒く長くつやのある髪と清楚な容貌からは、とても巨大ロボットの関係者には見えない。
だがその優しげな声には、聞き覚えがあった。たしか基地からの通信で、自爆前に猿藤と会話していたはず。
「研究所自体は違法行為が発覚して閉鎖になったのですが、証拠隠滅を図った科学者の手であと一歩で処分されそうになったミーアちゃんを、パイロットにってお父様が引き取ったんです。」
「・・・・・・」
そんな過去など微塵も見せず、ミーアは暗くなった場ににこにこと笑みを振りまいている。
「みーあ、だいじょぶ。」
たどたどしいながらも、はっきりとそういった。
僅かに、空気が和らぐ。
「そっか・・・猿藤さんとかも・・・同じように・・・サルのDNA・・・」
「違うわぼけぇぇぇぇぇ!!」
がすっ、と猿藤にギプスで殴られるコウヘイ。殴ったほうも殴られたほうも平等に痛そうだ。
もっと空気が和らいだ。
「こげざるげんき〜。」
「こげざる言うな!」
ひとしきり、笑いがさざめく。
「はー笑った・・・。」
が。
妙なことに気づいて、コウヘイの笑いは固まった。
「え・・・と、あれ?「パイロットにってお父様が引き取ったんです。」って・・・ことは、え?姫夜木大悟博士の・・・」
「はい。娘の紫音です。」
コウヘイは、しばし遺伝子の不思議について大真面目に悩んだ。
「信じらんねぇ・・・」
「・・・俺も始めて聞いたとき、そう思った。」
ベッドに寝ている猿富士が同意した。というか、誰でもそう思うだろう。
「申し訳ねぇお嬢さん、これからって時に役立たずになっちまって・・・」
「いえ、猿藤さんが生きていただけで十分です。養生してくださいね。」
本当に真摯な優しさを感じさせる紫色のいたわり。見ていたコウヘイすらそう思うほどなのだから、励まされた猿藤はいやがおうにも思いを募らせる。
「なんのこの猿藤吾郎、お嬢さんのためならこの程度の怪我気合で治してごらんに・・・」
「別に入れなくてもいいわよ、地球と紫音はあたしが守ってあ・げ・る」
「さ、沙羅沙さん・・・」
割り込んできた声に、紫音は前半部に起こるべきか後半部に反応するべきかとまどった。
紫音と同じような長い髪。だがその顔は清楚な紫音とは微妙に違う、気の強さと色気が絶妙に交じり合った「妖しさ」があり、コウヘイはすこしどきりとした。
「あの
「男に名乗る名前なんてないわよ。」
「・・・へ?」
話しかけるどころか声を出したとたんにそういわれてコウヘイは固まった。
「ああ、こいつは四条沙羅沙。聞いてのとおり徹底的な女尊男卑を貫く同性愛者だ。」
「・・・・・・」
確かに、猿藤に対する扱いがキツイ気がしたが・・・ってことは、紫音に対する感情は・・・。
なんとなく押された。にじり下がった。まあ沙羅沙のそれはそれとしても、
「もっとも海外の大学で博士号をいくつもとった才媛であることもまた大きな事実。それプラス彼女の美しさを考えれば、ささいなことだよ。」
「男なんかにいくらほめられても嬉しくなんてないけどね。」
いや、姫夜木博士と沙羅沙の今のやり取りから聞くに、やはり巨大ロボットの操縦というのはよほど特殊な才能がなければ無理なのではないだろうか?
コウヘイはそう思い、それに巻き込まれる自分について少し思い悩んだ。
「あれ?あのゲッP−Xってロボットに乗っている人たちは?」
あたりを見回しても、これで全員である。不審に思ったコウヘイに、姫夜木博士が答えた。
「ああ、彼らは基本的に別働隊として行動してもらっている。彼らの基地だけ関東近郊ではなく静岡・富士にあってな。」
「うらやましいのう。あの伝説の土地に基地を置けるとは」
魔窟堂老人は、なにやら感慨深げに天を仰いだ。
「ああ、伝統だよな、じっちゃん。」
頷く猿藤。
「巨大ロボット研究所といえば、富士の裾野・・・」
トラキチも姫夜木も、うんうんと頷く。
「何だよ、そりゃ・・・」
「「「なにっ知らんのか?!」」」
「うわっ!」
何気ない発言に過剰反応され、コウヘイはのけぞった。
「ううむ、本当に知らないようだな。」
「これではジャスティの上昇率に不安が残るぞ。どうするのだトラキチ?」
「ふっふっふ、大丈夫だ。すでに手は打ってある。」
なにやらごにょごにょと会話する博士二人と「オタク」一人。
いやさ、おたく三人か?
「コウヘイっ!」
「何だよオヤジ。」
「前回の自爆事件を思い起こせばわかるように、まだまだお前はスパロボのパイロットとしては・・・未熟ッ!」
「ポーズまでつけて言わなくていいって。」
「そこで!お前をスパロボパイロットとして特別コーチをを呼んでおいた!」
「特別コーチ?」
「ああ、だが奴は必ず少し遅れて来るんだ。」
トラキチは妙なことを言った。
「時間を守らない人なのか?」
「いや、ちがう。その方がヒーローっぽいからだ」
「はあ?ヒーローっぽいから?」
「そうだ、ヒーローっぽいからだ!奴はそうゆう男なのだ」
その時!どこからともなく音楽が流れてきた!
「音楽だ!しかもこれは獣神ライガーの入場テーマ!?」
「上だ!奴はかならず高いところから登場するぞ!!」
コウヘイは上を見上げた。
「ハッハー!待たせたなーーー!!」
確かに屋根の上から叫び声が上がった。見ると、ちょうど太陽を背負うような位置に男が立っている。逆行で表情はよくわからないが、首に巻いた赤いマフラーがたなびいているのが印象的だった。
だがコウヘイは、別なことにも気づいた。見上げるときに見えた壁の時計が、いつも学校に行く時間をとっくに過ぎていることに。
「やべっ!時間だ、学校行かなきゃ。」
かばんを引っ掛け、走りさるコウヘイ。
取り残される、屋根の上の男。
「ちょ、ちょっと待て!!」
男はあわてて飛び降り。
ごきっといやな音をさせた。
「ぐはあああああああああっ!!」
のたうち回る男。五分ほどして起き上がったが、すでにコウヘイの姿はない。
「うおおおおおおおおおお、カムバ〜〜〜〜〜〜ック!俺の出番〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
男の妙に響く叫びだけが、むなしく残った。
「ったく・・・」
時間がぎりぎりなので、近道で裏山を横から抜ける。直線距離はともかく曲がり角も信号もないこっちのほうが、急いでいるときには信頼できる。
「そりゃ、スーパーヒーローになれるってならすごいとは思うけど、そんな簡単になれるもんじゃねえだろっての。オヤジも何考えてるんだか」
走るコウヘイ。と、自分の前を走っているやつがいることに気がついた。白いジーンズに、淡い茶色の革ジャンパー。均整のとれた長身は、決して低くはないコウヘイより高い。
「お、勇二じゃん。」
声をかけられた少年は、一挙動で走りながら振り返った。そのままコウヘイをむいて後ろ向きに走る。
振り返る動作といい、後ろ向きでもまるで落ちないスピードといい、体を相当鍛えているのが明らかだった。
「コウヘイか。」
「珍しいな、お前いつももっと学校つくの早いじゃん」
魔神勇二。魔神という苗字は、はっきり言って少し珍しい。格闘部のエースで、去年は学生格闘技全国大会で優勝したほどの使い手だ。
はっきり言ってこういうやつのほうが、よっぽどヒーロー向きだと思うのだが。
コウヘイはそう思った。もっとも友人をあの変人オヤジに売るつもりは毛頭ないが。
ああいう手合いを相手にするには、勇二は少し真面目すぎる。
「今日は少し、鍛錬に身を入れすぎた。」
「あ〜、そういや今日の夕方だっけ、兄さん帰ってくるの」
コウヘイの言葉に、勇二はうれしそうに頷く。精悍な顔が、わずかにほころんだ。
「ああ。一年ぶりだ。久しぶりに会う兄さんに、腕を見てもらいたくてな」
そういうと勇二は、拳を繰り出す動作をした。小気味よく空気を切る音がする。
「その勢いなら、今年も優勝できそうだな。」
感心するコウヘイと対照的に、謙虚に勇二は首を振った。
「いや、俺は兄さんに比べればまだまだだ。」
勇二の兄、勇一にいたっては世界総合格闘技世界チャンピオンである。なんでも、古武術の使い手らしい。
なんとなく、牡丹のことを思い出した。なぜかはわからないが。
そうこうしているうちに、神社についた。今はもう忘れられた古い神社で、神主も巫女もなく、なんて名前なのかも何を祭っていたのかも、さっぱりわからない。
そのはずの神社に、人がいた。
栗色の髪を程よく伸ばした少女で、巫女の服を着て箒を持っている。がそれで掃除をするという様子もなく、ぼんやりとたたずんでいる。
まるで時に忘れられた浦島太郎のように。そんな様子のせいか、彼女はまるで幻のような、よく見れば向こうの風景が透けて見えそうなはかなさを持っていた。
「?」
「あんな人、いたっけ?」
それでようやっとこっちに気づいたかのように、つと巫女姿の少女は近寄ってきた。
まっすぐな瞳でコウヘイたちを見つめる。
「・・・貴方たちに、運命の時がめぐりつつあります。」
いきなりそういわれて、面食らわない人間は少ない。
「何だって?」
コウヘイのほうを向き、彼女は言う。
「貴方の運命は、もう始まった。あなたは、はずれにいる中心。巻き込まれることにより、巻き込む。人を集わせ、運命をまわし、進ませるもの。貴方は、世界をかえる。」
勇二のほうをむき、彼女は言う。
「貴方の運命は、これから始まる。哀しみの運命と凍える力の扉が、貴方の前に訪れる。でも。たとえ傷つく扉でも、愛と呼べる思いを信じれば、その出会いが、明日に変わるから。」
あたかも予言のごとく告げる彼女の顔には、哀しみとも励ましとも取れる表情が浮かんでいる。
「がんばって。」
風が吹いてきてよく聞こえなかったが、彼女はそういい・・・そしてその風にかき消されるように突然消えた。
「えっ!?」
「!」
あわてて周囲を見回すが、もうどこにもいない。
「えっ、あ、あれぇ!?さっきの女の子はぁ!?」
「・・・まるで、気配を感じなかった・・・」
だが次の瞬間、一気に勇二の目が鋭くなった。
「ん!そこか!」
背後のひときわ大きな木にむかって、一気に踏み込む勇二。
「きゃう!」
そのとたん、期の後ろから人影が転がり出てきた。さっきの巫女ではない。小学生くらいの小さな女の子だ。かわいいデザインのワンピースを着ている。
大きな綺麗な瞳と白桃を思わせるすべやかな頬、この年頃の少女の可愛さをすべて備えているといえるかも知れない。
「おっおっ、お兄ちゃん!?」
「な、なんだ恵か。」
鷹の鋭さを持っていた勇二の表情が緩む。
「あ、勇二の妹の・・・」
「はい、恵です。」
ぺこりとコウヘイにお辞儀をする恵。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、お弁当忘れたよ。」
そういって、恵はひょいと弁当箱を取り出し、勇二に手渡した。
「お兄ちゃんたら、修行場からそのまま学校いっちゃうんだもの。」
「あ、ああ・・・すまん。」
にっこり笑う恵に、なんだか勇二は恥ずかしげだ。それを見てコウヘイはあることに気づいた。
「恵ちゃん、学校は?」
「開校記念日。」
こともなげに恵は答える。
「休みの朝だというのに、すまないな恵」
「ううん。なんでもないよ。」
にっこりと笑う恵。
「それよりお兄ちゃんたちこそ、早くしたほうがいいよ?」
「え?」
「学校。」
顔を見合わせる男二人。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「忘れてたぁ〜〜〜〜〜!!」
全力疾走に入る。
「いってらっしゃ〜〜〜い」
「よく出来た、妹、だな!」
走りながら切れ切れに、コウヘイ。
「ああ・・・感謝している。」
走る勇二を見ながら、コウヘイはさっきの謎の巫女の言葉に、一抹の不安を覚えた。
(巻き込まれるとか俺に言ったのは、確かに当たっている気がする。だったら、勇二への予言も正しいのかもしれない。しかし・・・)
少なくともいいことではない。
勇二にあの巫女が言った言葉は、そう思えたのだが。
同時刻。
地球の衛星軌道上。
そこは、少し前までは人が手を伸ばしようやく届き始めた場所であり、幾多の人工衛星が人類の科学文化を支えるために周回していた場所だった。
だが、今そこを支配しているのは人類ではない。
地球を我が物にせんと襲来した、侵略宇宙人の前線基地なのだ。
そして今日も、全長数キロにも及ぶ巨大な宇宙戦艦から、地上に破壊をもたらすための超科学兵器が、
「艦長ぉ〜〜〜〜!この間の戦闘結果、一体どういうことなんですかぁ〜〜〜〜〜っ!!」
地上に破壊をもたらすための超科学兵器が発進し、
「おっおっ、落ち着けシモーヌ!」
「これがおちついていられますかっ!こんな未開惑星の侵略で、損耗率20パーセントなんて異常すぎますっ!」
地上に破壊をもたらすための超科学兵器が発進しようとして、
「その20%のうち、15%は整備不良が原因だっ!!」
「いまの経理状況を考えてください!もう駄目です限界です!今月はもう一切の消費は出来ません!出撃禁止はもちろん、レーダーも哨戒機も禁止、電力消費も最小限維持ですっ!!」
「しかしシモーヌそれでは侵略不能」
「人身売買市場で首に値札つけて並びたいんですかっ!それもこれも・・・き〜〜〜〜〜〜っ!!」
「でっ、デボノバ!副官なら私を助けろ!」
「・・・私の膂力では頭に血の上った経理部長を止めることは不可能と思われます。」
「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
発進しようとして、いなかった。
「ぜい、ぜい、ぜい・・・」
「大変ですな艦長」
美形な顔を引っかき傷だらけにして荒い息をつく男に、かぶると身長が60センチは高く見えるだろう筒型の頭巾を目深にかぶった、青い顔色の男が気遣う。
その後ろでは、大騒ぎした挙句につんのめってコンピューターのディスプレイを顔面で叩き割り、失神している金髪の女性。
額から生えた触角が、ぐったりとたれている。
この三人が地球を狙う宇宙人の一派、銀河帝国侵略委託会社ゲドー社A級戦艦オルクスの実質的指導者、艦長アバルト=ハウザー、参謀デボノバ、経理課長シモーヌ=トレファンの三人である。
・・・事実である。
地球人側にはほとんど知られていないのだが、地球側で「ゲドー星人」と呼称される宇宙人は、銀河帝国の政府に偏狭惑星の侵略を委託され、報奨金をもらって収入とする、一「会社」にすぎないのである。
それも、破綻寸前、この仕事で赤字出したら銀河会社更生法を適応され倒産確実の。
この事実を地球側が知ったら、「それでこの苦戦か」と恐れおののいたであろう。
だが。
現実問題として、恐れおののいているのはゲドー社側だった。
「それにしても、まさかこんな銀河辺境の惑星に、ここまでの軍事力・技術力を持つ集団がいたとは、予想外ですな。」
「ああ。それもどうやら、我々の出現を予期していた節がある。」
普通ならば、恒星間航行技術すらもっていない未開の惑星に、ここまでてこずることはありえない。戦艦も「降下兵」と呼称される機動兵器も、会社とて侵略を生業とする以上正規の軍隊と変わらぬレベルにそろえているのだ。(オルクスの場合、財政難で整備不良の旧式ばかりだが、それでも千年単位の技術格差があるはずである)
それなのに。
この星には文明レベルから考えれば異常なほどのこちらの技術力に肉薄する戦闘能力を持つロボット軍団が多数存在し、果敢に迎撃してくるのである。
原住民が複数勢力に分かれて仲間割れをしていなければ、下手したらもう倒産していたかもしれない。
「まったくもって不幸なことです。どういうわけか、こんな辺境の惑星に目をつけている軍団が、他に二つもありますし。」
「まったく、頭が痛い」
侵略者の中でも、「ゲドー星人」は勢力が最も小さい部類に入る。他に地球人側の呼称では「ツイミ星人」「宇宙悪魔帝国」の二つが存在し、そのどちらもオルクスの保有する兵力よりはるかに強大だった。
それでもオルクスが生き残れたのは、「たれ目の鷹」と呼ばれた艦長ハウザーの指揮能力の高さと、堅実な参謀デボノバのアシスト、そして経理部長シモーヌの筋金入りのドケチ経費削減など、資金・兵力のないない尽くしを補うマンパワーの力であった。
ちょうど憂国機団やガイアセイバーズが驚異的なれど宇宙人には及ばない技術力を、彼らなりの正義と熱血で押し切っているようなものだ。国家の軍隊にいたっては、もうそれしか対抗手段はない。
とはいえ、限界は近い。
「侵略しなければお金はもらえず、侵略したら損害で足が出る・・・弱りましたな。」
「うむ・・・」
この状況を打開する策は、ないわけではない。だが士官学校に学んだ珍しい「軍人」であるハウザーには、あまり気乗りしない策だった。
「しかたがありません。原住民勢力の空白地帯を適当にたたいて、お茶を濁しましょう。」
「やはりそれしかないか・・・」
という決定がはるか大気圏の上でなされたせいで。
コウヘイと勇二が学校に着いたら。
校舎が燃えていた。
「うわぁ!?」
「何だと!」
上空を、とても地球人のメカには真似できない軌道で宇宙人のメカ・・・大気圏外から降下、戦闘の後再び大気圏を離脱して母艦に買える能力をもつ「降下兵」が乱舞する。
時々一部が崩壊を起こす校舎から、まだ生徒が逃げ続けている。
「おっおっ、おぉぉぉ!?」
「これは・・・!」
「おいコウヘイ!見てるか!」
唐突にトラキチの声。びっくりしたコウヘイは周囲を見回したが、父の姿はない。
が、身をよじった拍子にポケットの中の異物感に気づいた。手を突っ込んでみると、小さな無線通信機が入っていた。手のひらに収まるようなサイズだが、小さなカメラとテレビを備えリアルタイムの映像交換が可能なタイプだ。
「オヤジ!」
勝手に通信機を忍ばしていたことに対する反応は、目の前の非常事態で吹っ飛んでいる。
「どうやら侵略宇宙人の一派、ゲドー星人のようだな。」
トラキチの冷静な分析を、コウヘイは無視した。目の前で校舎が燃えている。それどころではないと、全身全霊が叫んでいた。
「こんなときに、ロボットは使えないのかよ!」
「お前がバクサイオーを自爆させなければ、使えたはずなんだがな。」
うっとつまるコウヘイ。そんなコウヘイを見て、トラキチはにかっと歯茎を見せて笑った。
「大丈夫だ。まだ手がある。・・・もうじきその学校の仲間が、動く。」
「ってことは・・・」
コウヘイは、それまでつきあってきた「ロボット製作者」の行動から、一つの予感に思い至った。
「まさか!」
画像のトラキチの笑みが深くなる。
「そう。」
そして、カメラを通して、学校の方角を見据えた。
「見るがいいコウヘイ。立ち上がるものを!」
「あっ!」
再度学校を襲った衝撃波に、小柄なちよの体が飛ぶ。成績の良さを認められて、特別に高校に進学してきた小さな同級生。そんなちよを襲った打撃に、一緒に非難していたゆかりは悲鳴を上げた。
「ちよちゃん!」
倒れこんだちよ。その上に、折れたコンクリの柱が左右の壁からちよめがけて倒れこむ。
「きあーーーー!!」
ちよに出来たのは、左右で髪の毛を結んだ頭を抱えてうずくまる、ただそれだけだった。そしてかおりにも、何も出来なかった。
だが、柱はちよを押しつぶすことはなかった。
「え?あれ?」
きょときょとと周囲を見回し、周りの人間の視線が自分の上に集中していることに、ちよは気づいた。
「・・・大丈夫か?」
「さっ・・・榊さん!」
ちよとは正反対の、長い髪、すらっとした背丈の、寡黙な女性。
普段どちらかというと控えめな表情を苦痛にゆがませ、倒れこんできた二本の柱を担ぐように支えている。
ちよは大急ぎで柱の下から逃げ出した。
「さっさっ、榊さん!はは、早く逃げてください!ちよちゃん脱出しましたから!」
かおりが叫んだ。榊に対して思春期の少女特有と一部男性に妄想されているアレな感情を持っている少女にとって、この光景はきつすぎる。
だが榊は、暗い顔で首を振った。
「駄目だ・・・。」
そういって、上を見やる。
「あ・・・」
かおりは絶句した。鉄筋コンクリートの柱、その鉄の部分でつながっているから、柱が倒れたら引っ張られるようにして天井が同時に崩壊する。
これでは逃げられない。柱を離した瞬間に天井に潰されてしまう。
「あああああ、あわわわわわ!?」
混乱するちよとかおり。
「う・・・」
重みに耐え切れず、榊がよろめく。
「さ、榊さ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!」
「たぁりゃああああっ!!」
「うおおおおおっ!?」
間一髪。柱をつながった天井のコンクリごと蹴り飛ばし、救出する勇二。コウヘイも一緒に来ている。
「相変わらずすげぇな、お前は・・・」
その強靭な脚力に唖然とするコウヘイ。
「先輩〜!」
煙の向こうから、声が聞こえる。たしか勇二の格闘部の後輩、仁藤美咲の声だ。
「美咲か!?」
「こっち、手伝ってください!視聴覚室に人が閉じ込められて・・・!」
「わかった!」
すぐさま走っていく勇二。コウヘイも、
「はやく逃げろよっ!」
と言い残して、後を追う。
「コウヘイさんのゆうとおりです、早く逃げましょう。」
ちよが、そういったときだった。
「いや、逃げないの!」
といわれたのは。
「へ?」
「あ、ゆかり先生!」
担任のゆかり先生が、そこにいた。
「逃げないってどういう意味・・・」
榊の疑問に、ゆかり先生は無駄に胸張って答えた。それはもう、堂々と。
「いい!どんなに逃げたって、地球は丸いのよ!逃げても、いずれ元の場所に戻るだけよ。」
こんな答えで。
「さすがにそこまで逃げないと思いますけど・・・」
「だーもー!そーじゃなくて!」
地団太を踏むゆかり先生。
「こっちきて!」
「え!?え!?え!?」
わけもわからずゆかりに引っ張られる三人。
「とあ〜〜〜〜〜〜っ!」
ゆかりはしばらく三人を引きずって走ると、廊下の壁に向かって三人を投げ飛ばした。
「うあ・・・!」
が、なんと。その壁が扉のように開いて、その向こうにはまるでサンダーバード基地のような(最近は「帝国華撃団のような」か?)シューターが。
ただし、扉が開いたのは三人の顔が壁と激突してからだったが。
「あらまあ。」
「あらまあじゃないですよ〜・・・」
観音開きに開く扉に押されながら、ちよがうめいた。
「あぁ!?」
「よ。」
案内された部屋には、いつもクラスで仲良くしていた仲間・・・おおらかですこしぼけた大阪、むやみやたらと行動的で無駄に元気なとも、突っ込み役のよみ、水泳部の神楽が待っていた。
まるで軍の司令室のようなつくりに、きのうまで日常を共にしたクラスメートがいる。違和感のある光景だった。
「みなさんもここに!?」
ちよのといいに答えたのは、よみだ。煙にまみれた眼鏡をふいている。
「あぁ。こっちは体育の黒沢先生につれてこられたんだけどな。」
確かにそこには、黒沢先生もいた。だが、普段のスーツ姿から、この施設にふさわしく見える軍服のような格好に変わっていた。
振り返ると、ゆかり先生も同じ格好をしている。
どちらも、普段呼んでいた「にゃも」「ゆかりちゃん」ではない。
そして、二人は声を合わせるように言った。
「ようこそ、「ガクセイバー」司令室へ!」
「ガクセイバー?」
「細かく説明している時間はないわ。とりあえず・・・」
ゆかりがまた壁を開いた。そこは、何かのコクピットのような部屋へ通じている。
「おぉ!」
いかにもなメーターがたくさんついたコクピットに、驚きの声が漏れる。
「すごいな〜・・・ところでこれ、なんやのん?」
大阪の派手なボケに、全員がつっころんだ。
「これは巨大ロボット「ガクセイバー」のコクピット。あんたがにはこれに乗って戦ってもらうわ。」
「えぇ〜〜〜〜っ!!」
よみが大声を上げた。
「なんで、あたしたちが!?軍隊でもないのに!?」
「・・・しかたないのよ・・・」
怒声に近くなっていたよみの声は、思いのほか沈うつなゆかりの声に掻き消された。
普段あれだけ無邪気な(悪く言えばバカな)ゆかり先生だからこそ、その一言に何かを納得させる力があった。
「これ、ゆかりちゃんが作ったの?」
さりげなく話題を変える。
「まさかぁ。」
「じゃ、黒沢先生?」
「体育教師に出来るわけないじゃない。」
断言するゆかり・確かに事実なのだが、黒沢は少し腹が立った。
「じゃ、誰が・・・」
かおりの疑問は、妙に甲高い男の声でぶちきられた。
「ようこそー!それは私ー!」
小さな丸眼鏡。使い古しの歯ブラシのようにぼさぼさの髪。病人のようにげっそりとこけた頬と、土気色の肌。
古文教師・木村。古文教師なのに何故か今日は白衣。
「!」
「ぎゃ〜〜〜〜!」
「いやだ〜〜〜〜!」
「うわうわあああ!!!」
「死ぬ、死んじゃいますぅぅぅぅぅ!」
「木村のロボットなんかにのれるかぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「助けてぇぇぇぇぇぇ!」
逃げ惑う七人。
「・・・それじゃ、ここで一緒に木村と埋もれて死ねる?あんたら。」
さらっと、ほんとにさらっと言ったゆかりの一言で、七人は・・・
あきらめた。
コクピットに乗り込む。
「・・・ところで「ガクセイバー」って、どういう意味?」
「選ばれたパイロットが「学生ば〜っかり」だから。」
・・・・・・
それはともかく、崩壊した校舎の瓦礫を吹き飛ばし立ち上がる、「青い一本角の」巨大ロボット。
「え!?あれぇ!?」
外部カメラで機体を確認した神楽が驚きの声を上げる。
「どうした?」
「予告とタイトルじゃ「紅の」流星機じゃん!何で青いんだ!?」
「予告?」
きょとんとするちよ。神楽が何を言っているのかよくわからない。
「これは・・・コミック・小説・ラジオドラマ版や。」
「ドラマCD?」
今度は大阪が。またちよは首を傾げるしかない。
「ガクセイバーはコミック・小説・ラジオドラマとOVAでデザインがまったく違う、稀有なロボットんやで〜。」
「・・・何言ってるんだ?大阪。」
普段の大阪とは違う精緻な解説に、みなが首をかしげる。
「ねてへんよ、ちゃんと起きてました。」
そしてぽかんとした表情になる大阪。
「・・・あれ?ここはガクセイバーのコクピットや。」
「なんだ、寝言か。」
などと、ついついいつもの彼女たちのペースになったが、ここは戦場だった。
ガン!
背部から空飛ぶカブトガニのような「降下兵」の体当たりを受けてよろめくガクセイバー。宇宙人側のあつかいでは偵察用の、ガイラスだ。
ガツン!
続いて正面からもう一撃。
「うわっきゃぁあああああ!おひょおおおおお!どっひぇええええええええ!
必要がないほど、ともが叫ぶ。ただでさえ七人乗りでせりふが多いのに、うるさくて仕方がない。
急角度で旋回し、再度攻撃を仕掛けようとするガイラス。
「おっ、おい!これ、どうやって操縦すればいいんだ!?」
通信機を見つけて、よみが叫ぶ。
「んなもん、てきとーよてきとー!」
「ガクセイバーは、操縦者の思念を感知して動くわ。想像して、ガクセイバーの活躍を!そうすれば、そのとおりに動く!」
ゆかりとにゃもの、正反対だが意味的にはそこまで変わらない指示。
「武器も、想像したとおりになんでも実現するわ!あなたたちの想像力が、ガクセイバーの力になる!」
そうこうしている間にも、また一機ガイラスが突っ込んでくる。
ガイラスの機体から、不可視の電磁波が収束されたたきつけられる。並みの電子機器なら一撃でクラッシュ、機能を停止してしまう電磁パルスだ。
だがパイロットの心を動力とするガクセイバーには、効果がない。
「え〜と・・・ええいっ!」
そのガイラスに、よみの掛け声と共にガクセイバーの目から発射された高出力レーザー光線が突き刺さる。黒煙をふき、よろめくガイラス。
「おおっ!」
「やりましたね〜、よみさん!」
「え、ああ・・・」
沸く、コクピット。だがともだけは、不遜な顔つきをして腕を組んでいる。
「だめだなぁよみは。」
「何だと!」
「目からビームなんて、いまどき古いよ。」
確かに、古いかもしれない。
「見てろ!これが新世代のロボの技だっ!」
いつもと同じ、むやみやたらとはりきったともの声がコクピット内を占領し、ガクセイバーに激しいエネルギーを与えた。
「うおりゃああ!十二ともちゃんウルトラ暴走女子高生アターック!」
「なんだそりゃ!?」
ともの叫んだわけわからない技名に、周囲が驚くまもなく。
ガクセイバーを中心に曼荼羅のように展開した十二人のともの分身が、すさまじいスピードで空を飛び、二機のガイラスを一度に撃墜した。
「みてのとぉ〜〜〜りっ!」
胸を張るとも。唖然とする、とも以外の世界のすべて。
だがさすがに訓練された兵士はすぐ正気に立ち返った。
キロメートル級の宇宙戦艦に使用される対艦ミサイル、重粒子ビーム砲、ビームパルスが一斉発射されてガクセイバーに迫る。
「!!」
ガン!ガン!
・・・・・・
「大丈夫、跳ね返した。」
「うそっ!」
腕を顔の前でクロスさせたガクセイバーの体に、ぼんやりとした光の幕がかかっている。それが盾となって粒子ビームやミサイルをはじいたらしい。
「榊さん、すごいです!」
「いや、バリアーって、よくあるから・・・」
「いや!とものあほ武器よりよっぽど役に立つ!」
「そうだな。」
「なんだと〜!二機撃墜したんだぞ〜〜!」
もめながらも、反撃に移る。
ふたたび十二人の分身ともが殺到するが、降下兵の群はそろって空中に退避した。ともの分身は本人そのままになにも考えず直進し、どっかへいってしまう。
上空から次々と攻撃を加える降下兵。バリアーで防御するが、なかなか反撃の糸口がつかめない。
「このままじゃ駄目です、私たちも飛ばないと!」
「そやな。よーし、飛ぶんや〜〜〜。」
「え?」
なんか気の抜けた大阪の声とともに、ガクセイバーの側頭部に、小さな翼・・・というよりは、ちよちゃんのお下げそっくりのものが生えた。
「飛ぶで〜〜〜〜」
ちょこまかぱたぱたとそれを羽ばたかせ、ガクセイバーは飛んだ。
「うおわっ!」
それも、単体で大気圏突破し、最新式のジェット戦闘機の三倍以上のスピードで飛び回る降下兵よりはるかにすばやく、いきなり一機の降下兵の後ろを取った。
「くらえっ!」
目からのレーザーが連続して命中し、よろめく降下兵。
「ええい、なかなか・・・」
しゅぱぱぱぱぱっ!
一体への攻撃に集中している好きに、背後から別の降下兵に撃たれた。つんのめるように落下するガクセイバー。
「うおわ!」
落ちた先は、学校からかなり離れたところにある港だった。超音速の戦闘では、戦う範囲というものが相当広くなってしまう。
大波が起き、沿岸部に派手に打ち寄せた。
ガクセイバーが水中に没した地点を囲むように動く降下兵たち。粒子ビームとミサイルでは、水中の敵への攻撃はやりにくい。
と見る間に、ガクセイバーが落下した地点の海面が沸騰したように泡だった。
「がーーーーーっ!!」
幅数百メートルにわたって、大気が震えた。神楽発案の、非指向性高振動破砕音波砲・・・というよりは、本人の意識からすれば「でかい声で一喝」といったところなのだが、ガクセイバーがそれをやるとかなりの威力になる。
巻き込まれた降下兵が、全身にかかる高振動で内部メカおよびパイロットにダメージを受け落下するが、咄嗟にかわした機体もかなり残っている。海中のガクセイバーからの攻撃を避けるため、内陸に着地する。
ざばっと大波を立て、ガクセイバーが再び浮上した。海面すれすれを飛んで再び陸上に着地し、同時に攻撃。
「えぇーいっ!」
飛行に使用していたお下げ?を、ミサイルのように発射したのだ。これはちよが考えた。
二発のミサイル化したお下げ?は、螺旋を描くように動き、降下兵の群のど真ん中で融合、炸裂した。
さらに損害が続出する降下兵軍団。反撃するも、バリアーで攻撃の大半が無効化される。
「何だ、あの兵器は!?」
驚愕するハウザー。
「デボノバ、データ検索!」
「は。」
すでに捜査に入っていたデボノバは、すぐ答えをはじき出した。
「以前リリス王国で確認されたという、試作型思念具現化兵器に似ていますな。例の「D」のモデルになったといわれてる。」
「リリス王国だと?ずいぶん以前に滅んだ国ではないか。」
「ええ。その滅亡直前に開発されながらも、結局運用不能の烙印を押されて消えたはずなのですが。」
「運用不能だと?」
「ええ。あれはパイロットの思念、すなわち精神エネルギーを媒介として外界に具現させる兵器で、完成すれば事実上無限の稼動時間と出力を得るはずでした。が。」
「どういう問題があったのだ?」
「動かせるほどの思念エネルギーを、発生させることが出来なかったのです。何百人寄ってたかっても。」
ハウザーは、無言で映像を見つめた。
「それが地球にある理由は、捨てられたものが漂着したとか理由はつけられよう。だが、なぜ動いているのだ?原住民にあれをどうこうできる技術などありはすまい」
しらっと、デボノバは答える。
「そうでしょうな。おそらく故障も直さず、そのまま使っているのでしょう。エネルギーロスの激しさが、それを証明しています。ようは、それでも動くほど現地人の精神力が強いのでしょう。精神力といっても思い込みとか勢いとか逆上とかそんなものでしょうが、無駄に強いという点ではこの上なく。ちょうど、艦長の妹君のような方が乗ると手に負えなくなるようで。」
「なんと滅茶苦茶な・・・」
僅かの間ハウザーは逡巡したが、すぐさま決断を下した。
「全機連絡、電磁パルス・粒子ビームでの攻撃を中止。格闘戦モード!」
戦闘スタイルをすぐさま変更する味方機を見すえ、ハウザーは呟く。
「リリス星の技術に、慣性制御はない。衝撃でパイロットにダメージを与えれば、エネルギーが尽きる。」
なるほどと言いたげな様子で、デボノバがうなづいた。
「そうすれば、鹵獲も可能になるかもしれませんな。予算の足しになるでしょう。」
「うどわはー!おひゃ〜〜〜!むぎょえ〜〜〜〜!」
「ああうっさい!だまれとも!」
よみが怒鳴り散らすが、本質的な問題はそっちではない。
それまでビーム攻撃を中心としていた敵が、いっせいに接近戦を挑んできたのだ。遠距離での戦いならバリアーを使って有利にことが運ぶのだが、殴ったり鞭でひっぱたいたり体当たりをかけたりする物理的な攻撃では、対処の仕様がない。
そしてこれだけいっぺんに攻撃を仕掛けられては、よけることも難しい。
立て続けの攻撃に、ガクセイバーの装甲がゆがんでいく。だがそれよりも、コクピット内で振り回されるほうがよっぽど大変である。
「きあ〜〜!く、くるま〜〜〜!」
「ああちよちゃん、ここはゆかり車じゃないのよっ!」
錯乱するちよを通信で必死になだめるにゃも参謀。
「それどーゆー意味よー!!」
「わあっ、こら暴れてる場合じゃないでしょ!?」
かえって司令室にも混乱が波及する。
「思念エネルギー、最低限値の1,13倍まで低下!」
あと少しエネルギーが下がれば、稼動すること自体が不可能になり、ガクセイバーは停止してしまう。
「どーすんの!?どーすんのよ!?」
わめくゆかりをまるで無視して、木村はいかにも司令っぽいポーズで、状況を注視している。
ただし内心で何を考えているかはわからないというよりはわかりたくもないが。
がつんっ!
ひときわ大きな、本来ならば長距離侵攻用の降下兵ウィーバーのけりが、ガクセイバーの頭部を直撃した。
ビルを二、三個まきこんで、地響きを立ててガクセイバーは転倒した。
「うあっ・・・」
コクピット内で、鈍い呻きがもれる。それと同時に神楽は、鼻に何か生暖かいものが落ちてくるのに気がついた。
より目になってみるが、鼻の頭というのはやはりよく見えない。手でこする。
血だ。
ぱた、ぽたっ、と、まだ上から落ちてきている。
ガクセイバーが仰向けに転んだこの状況で上ということは、前の席に座っていた人間の血だ。
「・・・榊っ!?」
コンクリートの柱を受け止めたと聞いていたが、やはりそんな状態で巨大ロボットに乗って振り回されれば、ただですむはずがなかった。
「きにゃ〜〜〜〜〜〜!」
ちよの甲高い悲鳴が、コクピットにこだました。
「敵兵器、機能停止を確認しました。」
「よし、回収しろ。」
母艦からの司令に従い、降下兵たちがガクセイバーに接近する。
「どーすんのっ!どーすんのよぉぉ!!」
大騒ぎのゆかり。汗を浮かべるにゃも。
だが、木村は笑った。
こいつが笑うと、すんげ〜気色悪かった。
「勝ったな。」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「おうわぁ!?」
唐突にガクセイバーから、怒った蛇の吐く息のような声を出した。驚いて飛びずさる降下兵。
ゆっくりと瓦礫の中から起き上がるガクセイバー。その色は青から赤へ変化している。額の一本角が割れて二本のいわゆる「ガンダム型」の角に変化した。
「が、ガクセイバー、再起動!」
「凄い、五倍以上のエネルギーゲインがあるわ!」
「足なんて飾りだったってことか・・・」
「どういう意味?」
「さ・か・き・さんにぃぃぃ・・・」
ガクセイバーの口(?)からもれるのは、普段は比較的地味な、かおりの声だった。沸騰するマグマのような怒りに、普段とはまるで違うドスの聞いた声になっているが。
「なぁんてことすんのよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ウィーバーが真っ二つになった。
ガイラスがつぶれた。
キケロスが砕けた。
ギーガーが爆発した。
口から青白い熱線を乱射し咆えまくりながら、スーパーロボットというよりは怪獣のようにガクセイバー、いやさかおりは暴れまわった。
恐怖の行進は、榊さんが目を覚ますまで続いた。
「はーっ、はーっ、ぜーっ、ぜーっ、」
「と・・・とまった・・・」
敵より多く町をぶっ壊しながらも、結果的には撃退に成功した。・・・たぶん。
「駄目駄目、このてーどで満足しちゃっ!!」
とーとつに、まったく唐突にともが叫んだ。
「へ?」
「追撃だ!元からたたなきゃ駄目なんだっ!」
「お前は少し考えてから話せ。」
よみに冷水のような言葉をぶっ掛けられ、ともはもどかしげに説明に入る。
「つまり!何匹か敵逃げたし!上にまだいる宇宙人の母艦を見逃す手はないっちゅーことよ!」
びっ、と天を指すとも。思わずつられて、上を見上げる。
「宇宙戦艦を落とぉす!必殺技できめる!きめなきゃなんない!」
「お前、マジで言ってるのか!?このガクセイバー一機でどうにかなる相手じゃ・・・」
「いや、やろう。」
珍しく、榊が異議を唱えた。
「・・・次が来たら、もう・・・」
傷口を押さえる手が、力を失って震えている。
「榊さん・・・」
血の気を失った顔ながらも、ちよの表情は決意へと変わっていく。
「そうだー!やりかえせー!」
叫ぶ神楽。かおりにおいたってはすでに戦闘態勢全開である。大阪でさえ、なにか納得したような表情を・・・彼女の場合、なにか別な考えをしている可能性が七割ほどあるが・・・していた。
「・・・確かに・・・やるっきゃ、ないか。」
よみも重々しく頷く。
そして、いかなる思考の結果か。
ぼん。
そんな気の抜けた音と共に、それは現れた。
オレンジ色。縦長の楕円形というか紡錘形というか、不可思議な形の体。
楕円形の目。辛うじて猫っぽい口。だらんとした触手状の手。短い足。
「お父さん!?」
「・・・お父さん?誰のですか?」
「・・・ちよちゃんの。」
「私の?」
そして、「お父さん」は飛び立った。
「高エネルギー体、急速接近!!」
「そ、そんな。この大きさで、大型戦艦数隻分のエネルギーがあるなんて!?」
オペレーターの悲鳴。瞬時にハウザーは反応した。
「周回軌道変更!全火器使用自由、迎撃開始!!」
オルクスの巨大な船体が身震いを立てて移動を開始し、同時に普段は経理部権限で使用を禁止されている幾百ものレーザー機銃と迎撃ミサイルが発射された。
しかし無駄だった。かまわずに突進するちよ父は、レーザー機銃もミサイルもはじき返した。
「ふっ、赤いやつらめ・・・」
意味不明な呟き。それとほぼ同時に、ちよ父は高速を保ったままオルクスに激突した。
そして、衝撃波と熱エネルギーで周囲に多大な被害を撒き散らしながら、オルクスを貫通した。
「うわああああああああっ!!」
「大破!大破!メインエンジン、しょ、消失!第二第三サブエンジン、機能停止!」
「一から三の降下兵格納庫で火災発生!」
「ミサイル格納区画で、対艦ミサイルの誘爆が始まっています!」
「くっ・・・」
「艦長!」
「やむをえん、弾薬庫・格納庫破棄!!一旦、月機動まで退避する!」
「かぁんちょぉ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「うわっ、シモーヌもうおきたのかっ!?ま、待てこれはうわらばっ!予想不可能な性能的げヴぉっ!ごはぁぁぁぁ!!」
その日、オルクスの艦橋では、陰惨な打撃音が耐えなかったという。
「すげー・・・」
裏山。ガクセイバーと降下兵との戦闘に巻き込まれないように非難した生徒たちは、そこに集まっていた。
みな、ガクセイバーを見上げている。
「ふぅ、それにしても何とか全員助かったみたいだな・・・」
コウヘイはため息をつく。安堵と、・・・なにか別の感情が複雑に入り混じった。
戦わずにすんだのか、戦うことも出来なかったのか。
同級生の勇二は、非難に救助に活躍したではないか。
自分に何が出来たか。何か出来るのか。何をするべきなのか。
そう、思い悩み始めたとき。
当の勇二が目の前に吹っ飛んできた。
「うわっ!」
「ぅぐっ!く・・・」
激しく地面に打ち付けられ、うめく勇二。そして。
「くっ、くっ、くっ・・・」
笑い声。だが、それとは裏腹に、吹き付けてくる感情は明らかに・・・殺気だ。
気配だけで生をむしりとるかのような、冷たさをはらんだ殺気。
銀色の髪をオールバックにまとめて後ろで縛った、紫の服を着た男だ。鍛え上げられた体が、着衣の上からでもはっきりとわかる。そして何のために鍛えられたのかは、その顔がはっきりと明かしていた。頬に走る一本の傷と、それよりさらに鋭い、ある種の凶器をはらんだ目が。
「だ、誰だ・・・お前は・・・」
苦しい息の下、勇二が何とか搾り出した言葉に、そいつはこう答えた。
「俺はお前の・・・死神だ。」
続く
予告編
コウヘイ
今回俺、ぜんぜん活躍してないような・・・一応「主役扱い」の一人なのに・・・
トラキチ
作者は一体原作者のOJO太郎さんにどう申し開きをするつもりなんだろうな?
作者
・・・葛藤はしてる、ということで。それと、やはりバクサイオー初陣が遅かった原作へのオマージュ。
コウヘイ
おいおい!
安藤
それじゃ原作で第二話から活躍していた俺はどうなるんだ〜〜〜!
トラキチ
そのほかにも、ONLY YOUのキャラ出したり、ガクセイバーにあずまんが大王混ぜたり・・・
作者
それこそが、共演作品の妙というもの。
というわけで次回「ジュリエットたちのリ・クルス」・・・ご期待ください。
コウヘイ
こら!いきなり終わるな!
戻る