突撃!パッパラ隊2

第三章 戦争編

ミッション7 何処かから何処かへの階段


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シーン1 Dark

 スットン共和国、ガール半島、山奥、深夜。
 月もなく曇った、全き暗黒の夜。
 地獄まで続いていそうな闇の中、蠢く影が一つ・・・二つ・・・また一つ。
 ぞろぞろと、冥府からよみがえった亡者の群のように、次々と影が集まってくる。
 実際、彼らは亡者と言って差し支えなかった。既に死んでいるはずのもの・・・消息不明だったはずのもの・・・国際指名手配を受けているもの・・・いずれも、社会から存在が消えた者達だ。
 もっとも、見かけもある意味で人間離れしていると言えば言えた。
 大半が、チョッパーグラスに褌一丁の半裸の屈強な男達・・・十八年前に壊滅したはずのしっと団の正装であるが、闇の中で見ると格別に不気味だ。
 他にも、やはり褌姿でチョッパーグラスの代わりに何故か腰に大根をくくりつけているものもいる。国を追われた、かつて世界征服を企んだ悪の外道勇者カズマ・デーレアムの部下達の格好だが、しっと団の服より更に卑猥だった。
 そんな褌軍団に混じって、派手な鎧兜に身を固めたり僧形に六角鉄棒・陣笠型ヘルメットを被った、旧神聖魔法国ヴァジュラム軍の姿も見られる。彼らは比較的まともに見えたが、内に秘めた復讐心と狂気は、そのほかの連中よりむしろ強く、ぎらぎらと目を光らせている。
 そして、それぞれに何処か狂った集団を束ねる、三人の男。
「時は、もうじきに満ちる。」
 ごつい長身を僧服に包んだ、禿頭の男、以前ヒミツキチ島に現れた元神聖魔法國ヴァジュラム枢機魔法院大僧正アントナン・ギガイルが口を開いた。
「全ては、計画通りに進んでいる。度重なるパッパラ隊S及び周辺諸国家への攻撃で、データは充分に整い、内応する同志の引き込みも完了した。」
「げへへへへへへへへ・・・・・・」
 アントナンの隣に立っていた、下品な顔つきの小男が更に下品な笑いを漏らす。外道勇者、カズマ・デーレアムであった。
「あとは実行を待つばかり・・・ハーレムの夢よもう一度だぜえええええっ!!げへげへげへげへげへ・・・」
「・・・楽しみだな。」
 カズマの笑いに、だぶだぶと中年脂肪ののった声が相づちを打つ。
 ぶよぶよの腹が、ほとんど首なしでくっついた、目の周りを炎で彩られた白いマスクの下で揺れる。しっと団総統、しっとマスク。十八年の間にずいぶんと太ったが、これは脂ではなく、徳川嫉妬之守助平衛と同じく、しっとエネルギーで膨張しているのだ。
 それが、この不穏な会合の目的を如実に語っていた。
「ぐくくくくく・・・・・・・いよいよ、いよいよだ!!全てがわしらの手に!がはははははははははは!!」
 しっとマスクの不気味な笑いに、点がおののいた化のように雷鳴が轟き、稲光が走る。
 閃光に、たまたま彼らの会合場所に修行目的の山籠もりで居合わせたが故に血祭りに上げられた、「鬼斬り」達の剣が持ち主の血に染まった刀身を晒した。


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シーン2 こういう日が来るとは

「似てるな・・・」
「た、確かに似てる・・・」
 その日、科学喫茶タチバナでは、ちょっと異常な事態が起こっていた。
 年齢以外は姿形がそっくりな、二人の褐色の肌の女性・・・ヒミツキチ島大酋長・シロガネ・リーナと、神聖魔法國ヴァジュラム皇后・Dアーネである。
 髪の色と、微妙なアイラインの違いを別にすれば何から何まで同じだった。
「いや〜、おっちゃんのところに私そっくりの娘がバイトに来たって聞いたけど、まさか此処まで似ているとは・・・」
 半ば呆れたように言って、Dアーネはどさっと椅子に腰掛けた。下級軍幹部の出身なので、行動は実に自然で庶民的だ。
「わしも驚いた。昔のお前を見ているようだよ、正直。」
 わははは、とマスターは笑い、その間にDアーネの注文したサンドイッチを作り、コーヒーを入れた。
 それを純也が運び、Dアーネのテーブルに置く。ぱくっ、と一口。
「うん、うまい!料理の腕は相変わらずだねえ、特訓の日々を思い出すよ。」
「うむ、料理も科学の内だからの」
 そうなのか? 純也は疑問を憶えたが、とりあえずおいておくことにした。
 それよりも更に気になることがある。
「あの〜、お知り合いみたいですけど、マスターって・・・」
「それはまだ秘密。伏線じゃ。」
「なんですかそれ・・・」
 はぐらかすマスター。それと同時に品のいい店のドアが開き、それに付いた鈴がりん、となって来客を知らせた。
「よーっす!純也!今日もきたぜ!」
 純也の姉妹達の元気な声・・・ 全てはいつも通りの日常だった。


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シーン3 遭遇

「ひどいわね、これは・・・」
 派手に地面にぶち蒔かれた血に、江口少将は顔をしかめた。
 江口の臨時の部下・・・度重なるしっと団などの結社の暗躍に対して「四国同盟」が極秘裏に設立した対策多国籍部隊の隊員達・・・も、似たような表情を浮かべていた。
 正直、派手なのは血の量だけではない。
 地面にはクレーターが出来、木々はなぎ倒されまるで隕石が落ちたような参上を呈している。
「たしかなのね?」
「はっ。病院に収容された対鬼特殊部隊「神剣組」の証言からも、連中であることは間違いないかと。」
「妙ね・・・」
「はっ?何が、でありましょうか?」
 江口のに布告をしていた部下は怪訝そうな顔をした。
「神剣組は手練れよ。それをああもあっけなく、しかも周りを此処まで破壊して倒すような力のあるヤツが、連中にいたかしら?」
 確かに、十八年前のしっと団の戦力から考えるに、それは無理な話だ。勇者の武具を持っていないカズマにも、やはり無理だろう。
「アントナン・ギガイルでは?」
「無理ね。アントナンの使う魔法は妖獣系、攻撃対象はあくまで目標物だけになるから、周囲は案外無事なことが多いもの。戦略業霊無だって此処まではしない。それに・・・」
 それに・・・ 一旦口ごもってから、江口は恐ろしい結論を出した。
「破壊跡、残存エネルギーから考えるに、これをやったヤツの強さは、桁が違うわ。パステル・クラスかも知れない。」
「!!」
「これは・・・予想より大変なことになるかも。水島君、いや総司令に連絡を!」
 自分の発言に戦慄する江口だが、彼女がもし真実・・・この攻撃が、非常に手加減された代物である事実を知ったら、動揺は更に深まっただろう。


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シーン4 蝉の抜け殻・前編

「で?どうなんだ?」
 瑠希亜はそう小声でいうと、ぐぐっと純也に詰め寄った。
「どうなんだ、って言われても・・・何?」
 店に入ってきて、注文を取ろうとしたらいきなりこれである。純也でなくても「何?」であろう。
 だが瑠希亜はそうは思わないらしく、まだるっこしそうにあしをばたばたさせた。
「だ〜か〜ら〜!!」
「しっ、静かに。」
 思わず声のトーンを上げる瑠希亜恋子が制止する。
 今度は凛名が、彼女にしては静かな声で話を続けた。
「つまり、純也の愛しのリーナちゃんとの関係はどうなったの?って聞きに来たのよ。」
「いっ、愛しのって!」
「お兄ちゃん静かに。」
 今度は鹿野美が止める。
 にしても・・・
「初めて『お兄ちゃん』って呼ばれた気がする・・・」
 事実です。
「今のお兄ちゃんならお兄ちゃんって呼べそうな気がするから。」
「なんだよそれ」
「つまり以前は・・・」
 ・・・
「ま、その辺のことはおいといて」
 沈黙を瑠希亜が強引にふりはらった。
「本当に、どうなのよ。前回ははぐらかされたけど、今日は逃がさないからね。」
「逃がさないって・・・関係ないじゃないか。」
 抵抗する純也に凛名は詰め寄った。
「関係大ありよ。あなたのこと心配なのよ、色々と。姉妹だから。恋のアドバイスくらいあたし達にも出来るし、さ。」
 だが、彼女らの母がかつてシュバルツランド戦闘家老にしたアドバイスを考えるに、とても有用とは思えないが。
「・・・僕とリーナさんはそんなのじゃないってば・・・」
「ネタはあがってるんだから。恋子の合法な方の(?)ホームページでとったアンケートでも今「スットン一はたから見て恋人以外の関係に見えない二人」ってなってるんだから!」
「何時の間にそんなアンケート・・・」
「ぐだぐだ言わない!!」
「言うよ!さすがにこれは!」
 純也のリアクションを、それまで一言も言わずにじっと観察していた蘭美香が、ふうとため息を付いた。


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シーン5 蝉の抜け殻・後編

「純也・・・」
「な、なんだよ姉ちゃん」
 妙にしんみりした様子で語りかけてくる蘭美香の珍しい態度に、純也は驚いた。
「あたし・・・、お前のことあきらめるわ。」
「へ?」
「いや、決して気持ちが醒めた訳じゃないんだ。あたしの心は、今でもお前を思って熱く燃えている」
「・・・はあ。」
 どう反応していい物か、純也には解らなかった。
「でもさ・・・」
 そこで蘭美香は、少し間をおいた。
「あたしじゃお前を幸せには出来ない。あたしがお前に何かすると、何故か換えってお前は落ち込む、退く、・・・悲しむ。」
「・・・」
「でも、あいつといるとお前は嬉しそうだ。生きているのが楽しそうに、生き甲斐を見つけたように、見える。悔しいけどあたしにはできないことを・・・お前を幸せにすることがあいつにはできる。出来ると、あたしは判断した。だから知りたいんだ。教えてくれ・・・頼む!」
 そう振り絞るように言うと、蘭美香は初めて純也に頭を下げた。方向性はともかく、彼女は何処までも純也の力になりたかったのだ。
「・・・うん。わかった。」
 純也は語った。
「自分の気持ちがわからないんだ・・・」
「?つまり?」
「リーナさんに対する気持ちが・・・本当に恋愛感情なのか・・・友情なのか・・・自分より強い人に対するあこがれなのか・・・自分でもよくわからないんだ。まだ、自分の中ではっきりしないんだ。」
 そういうと、純也はうつむいた。
「違うね」
 そう蘭美香は言い切ると、うつむいた純也の顔を両掌でつつみ、上に向けた。
「純也・・・まだ本当の気持ち隠しているでしょ。」
「!?そ、それは」
「ほら、赤くなった。あたしが何年あんたのお姉さんやってると思ってるの。幸せにする方法以外はあんたのことは大抵解るんだから。」
 蘭美香はそういうとにこっと笑い、純也のなめらかな頬をむにむに揉んだ。
「ごめん・・・」
「あやまんないあやまんない。」
 そう言われて、純也は安心したように微笑み、話し始めた。
「確かにリーナと一緒にいる時間が楽しくて、かけがえのない物だと思う。」
「うん。」
「リーナには色々大切な物をもらった気がする・・・離れたくない・・・やっぱり、好きなんだと思うけど・・・」
「けど?」
「僕は、リーナに何か出来るのかな?僕がリーナのことを好きでいいのか、って。」
「大丈夫大丈夫、純也、あんたはあの子を充分助けたじゃないか!胸張っていいよ。」
 純也はそれを効いてまだ少し不安そうに、でも希望を持って尋ねた。
「そうかな?そう、だよね?」
 蘭美香は莞爾と笑った。
「そうだとも!そうと覚悟が決まったら左早速告白タイムだ!おーい、リーナー!!」
 そしていきなり叫んだ。
「うわわわわわ!待ってまだ、ちょっと!!!」
 が、リーナは来なかった。
「・・・・?」
 その疑問を、ひょいとやってきたマスターが答えた。
「リーナ君ならさっきお使いいったから、多分夕飯頃まで帰ってこないぞ」

 へなへなへな。

 それまで気張っていた六人は一気に力が抜けた。
「・・・今日もう遅いし、明日にしよっか。」
「う、うん」
「明〜日があるさ明日がある〜」
「歌うな鹿野美!!」
だが、その「明日」にどんなことが計画されているか、神ならぬ姉妹は知る由もなかった。

第7話 終わり 第8話に続く


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次回予告(声・しっとマスク)

 ついに我等の時が来た。
 冥府から亡者の軍勢がよみがえり、大地を埋め尽くし、世界を自らの色に染めていく。
 欲望野望羨望が混ぜられた漆黒に。
 その戦力の前に、平和の砦はあえなく落ち、戦士達も一人、またひとりと黒い激流に呑まれていった。

 次回 突撃!パッパラ隊2 第三部戦争編 第八話 「パッパラ隊S、壊滅す」
 ・・・終わりは今、始まった。

ぐはははは、儂におそれをなして退くか?