「しかし・・・落ち着いて考えたら・・・歩いてイーストシティーまでいくのぉ!?」
前回あれだけ計器よく出発しておきながら、ランコはいきなりぶうたれていた。
「仕方がないでしょう、私達は陸軍なんだから。隊にあった複葉機は空母フレドリクソン相手の戦いで潰しちゃったし、オートジャイロもメガント相手の戦いで無くしたし。」
「戦車は?」
水島の説明。だが、ランコは頬を膨らませなおも食い下がる。
だが、それに対して今度は江口が怒った。
「あんたが桜花と喧嘩したりなんだりするたびにぶっ壊して、もう一台も残っていないわよ!あげく上層部は;「どうせ戦車あっても壊すだけだし、死神に人造人間に、ペンで敵を倒すような超人や個人で衛星兵器だのICBMだの持ってる人間がいる部隊に、戦車なんて要らないだろ。」;とかいって、予算びた一文もつけてくれないのよっ!」
白鳥沢隊長がああなのでそのへんの折衝をかなりまかされている江口は、ストレスが相当たまっているらしい。
「たるんでますね。非常時の備えを怠るとは、スットン軍人の恥の服溜まりです、上層部は。」
「まったくだ。」
桜花の憤慨に、珍しく険のある表情で水島がはき捨てる。この非常時に自分達を除き軍は見たところまるで活動できていない。それが腹立たしいのだ。
「そーよそーよ!このランコちゃんに徒歩を強いるなんて、A級戦犯ものの怠慢よ!」
「あ、あのな〜・・・」
一人だけぜんぜん違うところで怒るランコ。水島の険相も崩れる、が、逆に今度は疲労の色が浮かぶ。
それまで黙っては端を聞いていたマイであったが、このときつと首をかしげた。
「でもおかしいですわね、この前隊長さんが町に出かけるときに確かにジープをお使いになっていたはずなんですけど・・・」
「え?」
聞きとがめる江口。
そして、緑色の瞳で不振そうにじろりと隊長を睨む。
焦った隊長は、
「い、いや別に、少女漫画の持ち込み用の原稿積みすぎてパンクさせたりとか、ワシの作品を没にした編集部を爆破する際にうっかり巻き添えにしてしまったりとかは、してないぞ。」
と、ごまかそうとして逆に真相を言ってしまった。
「隊長!!」
「こりゃ、予算つかなくて当然だわ・・・」
水島が怒鳴り、江口が苦笑する。
いつもの自体といえば相だが、それに慣れていない新参者はただ唖然とするのみであった。
「あんたがたって一体・・・」
「これは、とんでもないところに厄介になってしまったような・・・」
「大体、行軍なんてのは宮本達みたいな筋肉馬鹿の仕事なのよね・・・って、そういえばあのバータレたちどうしたの?」
今頃になってランコが言い出した。本当はしっと団の姿で何度もあっているのだが。
「私達が来たときには、もういませんでしたよ。」
梅花が証言する。一応あって入るはずなのだが。
「そういえば、この騒ぎが始まったとき既にいなかったような。」
「ああ、あいつ等ならこの事件の直前に全員で休暇申請して町に出て、それっきり音信不通だ。」
実は、それは一番最初、アジャンタと遭遇するきっかけとなった打倒水島作戦会議のためだったりする。
「き、気が付いてなかった。」
げんなりする水島。でもまぁ、実際戦闘時は居ても居なくても変わりないのだから、気づかなくても仕方はないかも。
「今頃イーデアの餌になってんじゃないの?」
「そんな・・・」
「いーのいーの、あんな見かけだけの筋肉な女・金・飯の煩悩三重奏集団、居なくなった方が余のため人のためよ。」
一体どんな人たちだったんでしょう・・・と、思わずしっと団を連想して汗を浮かべるアジャンタ。だが、それが実は正しいと知ったらもっともっと汗をかくことだろう。
「そんな人達もいたんすか。あえなくて残念っす。でもま、今は水島様一筋っすから。
そんなモアイの発言に水島は一瞬ぞくっとし、
「あんたみたいなホモはしっと団の褌とでも世界の果てで仲良くしてなさいっつーの!」
直後ランコが爆弾を投げつけモアイを吹っ飛ばした。
「あひ〜っ!!」
山の向こうまで飛んで消えるモアイ。
「ふっ、悪・即・爆!」
ビッとポーズをつけるランコ。
「アホねぇ・・しかし・・・」
そこで、江口は不意に真面目な表情をし、口を閉じた。だが意識自体は活発に活動させる。
(レイさん・・・)
江口が頭の中で発した「言葉」が、牧野レイの脳に響き渡る。
(何?・・・ああ、江口さんね。珍しくテレパシーなんて使って、どうしたの?)
七つの超能力を使いこなす、江口夏海。その能力は極秘にせざるを得ないため、パッパラ隊の前では一度見せざるを得なかったテレポート以外使うことはない。
だが、それを「知っている」牧野意志相手には、この超能力テレパシーも遠慮なく使うことが出来た。それでも、使う必要に迫られること自体少ない。
(貴方は知っていたのですか?あの男、茂合父蔵の正体・・・)
江口の「意識」が牧野の脳に響いていく。牧野はそれをやんわりと受け流した。
(・・・さあ、どうかしら・・・)
(とぼけないで下さい!・・・貴方が知らないはずはないわ。あのプロジェクトに関わっていた、貴方が。亡命した王女エスリーンからディーバのデータを取り、あの男、拳帝を分析し、そして、私や、)
(ええ、知っていたわ。)
(なら・・・)
(いいえ、それとこれとは無関係よ。・・・正体はどうであれ、あの人はあの人、一人の人間。・・・違う?)
(そ、それは・・・)
「にっしても、あのハイパーオヤジみたいにモアイが強くなくて助かったわ。もしあの力があったら、絶対あいつ世界中の美少年狩り集めたわよ。そう、もう大魔王のごとく!」
「!!」
ランコ本人には、何気ない発言。だが江口は、それを聞いた途端テレパシーを中断してしまうほど驚愕した。
「そしたら苦労したでしょうね〜、死神か、ってな位強いもの、あのオヤジ。」
「そ、そこまで言う・・・?」
「!!!」
ぼやく父蔵。それとは対照的に、顔をこわばらせる牧野レイ。まるで江口と鏡で移したように同じ反応だ。
この時・・・
自分が偶然にも事の真相をほぼ言い当てていたということに、
ランコさんはまだ気が付いていませんでした・・・
わわうわううわう、わ。
「ん?とびかげちゃんなんか言った?」
首をちょいと傾げるランコに、飛び影はいつ者どおりの茫洋たる笑みを浮かべ返した。
「いえいえ、何でもありませんよ。」
(はー、びっくりした・・・)
(・・・ふぅ)
牧野と江口は、胸をなでおろす。冷や汗も僅かに流れていた。
「ん?」
「・・・・・・・・・」
と、ランコは水島がさっきから緊迫した表情で押し黙っているのに気がついた。重苦しい感じが嫌いなランコは、調子をよくしようと声をかける。
「どうしたの?水島君。あ、ひょっとして「死神」って例え、気を悪くした?だとしたらごめん。」
「静かに!」
「へ?」
きっ、と水島は周囲を見回した。同時に、聴覚でも周囲をうかがっているらしい。
「博士!」
桜花もまた、人間の五十倍の聴覚と、昼間でも軌道上の衛星兵器を探知する視覚で周囲を探っている。
「ああ、誰か来る。」
低く呟いた水島は、次の瞬間猛然とダッシュした。
「そこかっ・・・!?」
「た、助けて下さい!このままじゃナナシさんが、ナナシさんが!!」
「え、・・・お、女の子?」
が、飛び出してきたのは・・・一人の少女だった。
オペレーション4「イレイザーとハンター」
二本にざっとまとめた髪型といい、地味で汚れた服装といい、どうも向こう側、千年大地から来た人間らしい。年のころは十台半ばといったところだろうが、童顔なせいか発育が悪いのか、声や口調より子供っぽく見える。
手短にヤティマ=ティ=ボゥと名乗った少女は、半分パニックになっているといえるほど大慌てで話した。自分の友達の、ナナシ
それを聞いたアジャンタの顔色が変わる。
「本当なのね!?それは!」
ヤティマの肩を掴み勢い込んで確認するアジャンタ。ちょっとびっくりした様子で、ヤティマはかくかくと頷いた。
「は、はい。私達のためにイーデアと戦ってくれたナナシさんを、こっちの世界に来る前から私を守ってくれたナナシさんを・・・イーデアハンターだっていうギャンザってひとが、「こいつもイーデアだ」って・・・それと後、こちらに来てから知り合った蓮花さんと桃花さんって人も・・・!」
「あの二人もか!」
シュバルツランドの破壊天使と呼ばれた、二人の生体ロボット。相当の戦闘能力を持っていたはずなのだが・・・
「あの元六芒聖神、Dデシベルを倒すほどの力に、戦いの時に見せたZのラビリングニードル・・・間違いない!」
「伝説の戦士、対イーデア独立停止ユニット、ZMAN・・・とか言うのでしたな。」
戦いの合間にアジャンタから教わったことを反芻する白鳥沢。
「でもさあ、そんなに強いなら、なんであっさり捕まっちゃったの?」
「戦いの後で、疲れていたのもありましたが・・・ナナシさんは、人間相手に戦える人じゃありません!ナナシさんにとって、私達人間は仲間なんです!それなのに、あの人は・・・」
泣きそうになっているヤティマの頭に、ぽんと水島は手を置いた。静かに、体温を伝わらせ、落ち着かせる、
「なんにせよ、見過ごすわけには参りませんね。」
その言葉に、ズックも同意した。鉢巻を締めなおし、いかにも客を呼びなれた魚屋の生きのいい声で叫ぶ。
「ああ、ここで見捨てたとあっちゃあ魚屋がすたる!」
「魚屋が?」
「いやいや、有り難うございます。我々危うくこの人間もどきのイーデアに騙される所でした。少なくはありますが、どうぞお礼を・・」
わしわしともみ手をしながら、中年の村人が何度も礼をした。極力「腰の低い善良な村人」を演じているようにも見える。
「いや、いらねえ。」
そうつっけんどんに手渡された包みを押し返したのは、意外と若い少年だ。短く刈り込んだ髪と太目の眉、鋭い瞳。やや額が広い。
「おお、なんと・・・」
村人を無視し、ギャンザは顔に荒々しい喜悦をみなぎらせた。掌に包んだ、Dのマークの入ったひし形の結晶を高く掲げ笑う。
「なにしろ、遂に手に入ったからな・・・刻印のバイオコアがよ!これでおれはもっともっと強くなれる!」
「くっ・・・返せ!それはオレのだぞ!!」
だがそれ・・・Dの刻印のバイオコアは、本来ギャンザが持っているものではない。それは、ギャンザの足元に立てられた杭に縛り付けられている、少年が持っていたものだ。炎のように赤く、ほさぼさと立ち上るような髪の、やや眉の太い、ほっぺたに傷をつけた、目の大きな少年。普段なら元気そうなどと喩えられよう。ぼろぼろに殴られ、縛り上げられてなど居なければ。
彼が、ナナシだ。ヤティマは自分の名前も思い出せなかったその少年に、そう名づけた。
「うるせえカスが!」
「ぐっ・・・」
いきなりギャンザは蹴りを見舞った。縛り付けられて衝撃をどこにも逃がせないナナシの腹に、ギャンザの脚がめり込む。ナナシは呼吸の止まった口を大きく開くが、それ以上に体を動かせないまま悶絶した。
「けっ!人間より弱いとは、お笑いだぜ!」
口ぶりからすると望みがかなったはずなのに、どこかいらいらしているようなギャンザ。
「ちょっと!なんであたし達がカス呼ばわりされなきゃいけないのよ!
「うう、そうだよ〜・・・」
と、縛り上げられたのがもう二人居た。シュバルツランドの天才「可学者」、シルヴァーナ=ダーゼンシュタイン製作の生体アンドロイド、桃花と蓮花だ。対桜花級用に高い戦闘力を持たされた二人が捕まる・・・それすなわち、ギャンザという少年の力を示す。
「簡単なことじゃねえか・・・」
ふと笑うと、ギャンザは叩きつけるように言った。
「てめえらがイーデアだからだ、イーデアである事自体が理由なんだよ!」
「ちくしょう、何でだよ・・・何で、こんな・・・」
「ギャンザ様!」
うつむき、悔しげに呟くナナシ。そこに、村人の一人が慌てて走りこんできた。
「何だ?」
「ま、ま、又イーデアが・・・」
と見ると、村を囲むようにガビットが群を成している。
「頼みますギャンザ様!」
怯える村人を無視して敵を見据え、ギャンザは好戦的に咆える。
「けっ、ザコが!一掃してやるぜ!」
だが、それだけではなかった。
「ん・・・?何だ!・他にもいる!?」
「くぉらぁ!ちょっと待てそこのデコガキwith愚民!」
巨大なスピーカーまで使った、大喝一声。村の建物が消し飛ばんばかりのその声は、ランコのものだ。
「な、誰がデコガキだ!てめぇらは何だ!」
「ぐ、愚民とはワシらのことか!?」
言い返すギャンザと村人達だが、ランコの爆風声の後ではその反撃もいかにも弱弱しい。
「ナナシさん!」
「ヤティマ・・・」
必死に叫ぶヤティマに、ナナシは散々殴られ晴れ上がった顔を僅かに上向かせ、答えた。その様子が、ヤティマの瞳から涙を絞る。
「なんだ、イーデアとつるんでた奴か。仲間連れてきやがって・・・けっ、どうやらそっちもイーデアの仲間らしいな。この世界のイーデアはバイオコア持ってねえからイースターの餌にもならねえが、
「・・・やかましい、貴様は少し黙れ。」
「!」
「ひゃっ!?」
「ひえっ!」
まるで、剣だった。ギャンザの長広舌を叩ききった、水島の低い声音。それは、それだけで人を殺しかねないほどの凄まじいさっきを含んでいた。
(い、一瞬、一瞬だけど、物凄い殺気だった・・・)
(こ、このオレがびびっただと!?馬鹿な!ありえねえ!)
驚きを隠せず、傍らにいながら水島の顔を恐る恐るうかがうアジャンタ。
顔を引きつらせるギャンザ。
「ともかく!めんどくさいから説明はさっ引くけど、あんた!むかつくのよ!」
無茶苦茶な怒り方をするランコ。それだけ「怒っている」ということはストレートに伝わるかもしれないが・・・
「ら、ランコさん落ち着いて。それじゃ話し合いの余地も何も」
「話し合う必要はない。」
簡潔に、珍しく桜花がランコに同意する。
「けっ、話し合おうだぁ!ふざけんな!」
「それに、向こうにもその気は無さそうだ。」
わが意を得たりとばかりにランコは頷き、武器を掲げ叫んだ。
「さあ、はりきってあのデコガキぶっつぶすわよ!」
「けっ、ザコ共が、オレのイースターの敵じゃないぜ!」
ギャンザが叫ぶと同時に、彼の持っている卵のような石?から、まばゆい光とともに何か大きなものが現れる。それは、馬の頭を持った大蛇とでも言うべき格好で、全長は頭だけでも4,5メートル、胴体は案外小さいが全体で14,5メートルはあろう。それが彼の言うイースターだ。
イースターの口の中から急激に熱と、光が収束し始める。
「食らえぇ!バーニングプラズマァッ!!」
ギュゴォォッ!!
そして叫びの通り、プラズマの奔流が発射されガビットの群を一撃で消し飛ばした。
負けじとばかりにランコが四連装の使い捨てロケットランチャーを持ち出した。四本の煙の糸を引いてミサイルが飛んでいき、残っていたがビットも吹っ飛ばす。
「これ見ても、まだ信用できないわけ?」
「出来るわけねえだろ!イーデアも!イーデアとつるむ奴も!全員まとめて敵だ!」
「ほぉ〜〜〜」
ランコの声が、怒りに微妙に振動しながらうわずる。顔も一見笑っているようだが、その実かなり怖い。
「・・・よく分かったわ!あんたみたいな馬鹿に生きてる価値はない!」
「ち、ちょっとランコさん!」
いきなりギャンザに衛星兵器の照準を合わせようとするランコを止めるアジャンタ。が、それを単に混乱と受け取ったギャンザは猛然と突っ込んできた。
「死ねっ!イーデアっ!」
「確かに私はイーデアです、でも!私も、他のみんなも、人の仲間です!信じて下さい!」
手を広げ、イースターの前に立ちはだかるアジャンタ。
「人間みたいな口聞いてるんじゃねえ!食らえ!」
「アジャンタさん、危ない!」
「きゃっ!」
話を機構ともしないギャンザを見切り、咄嗟にアジャンタを突き飛ばす桜花・・・十万馬力で。大丈夫だろうか?
案の定アジャンタは派手な土煙を上げ、機を何本かへし折って倒れる・・・。
それに、ギャンザ有利と見た村人達は、強いほうにつく。水が低いほうに流れるように。
「おお!ギャンザの超魔術だ!」
「獣神イースターだ!すげぇ、刻印のバイオコアで更に強くなってる!」
「いいぞ〜!やっちまえ〜!
「・・・」
「・・・」
流石に表情が険悪になってくる、水島とギレウス。近くに居るほうまで恐れをなしそうな顔だ。
「一回きれちまった群衆は、怖ええな・・・」
汗をかくズック。だが、次のランコの発言にさらに大汗かくはめになる。
「かまうことはないわ。所詮非武装なんだし、デコガキ倒せば後はどうとでも!」
「ら、ランコさん・・・」
マイが思わず止めに入る。つまりランコは、ギャンザ倒した後非武装の村人を思う様蹂躙したり玩弄したり拷問したり虐殺したりすると行っているわけで。
「己の身を捨てて少女を救おうとした少年を迫害し!我が同盟国民に危害を加えるその所行!断じて許すまじ!」
「ならどうするってんだ!言って見ろ!」
大喝する桜花。組み込まれた規定以前の、心が怒りに咆えている。物言いが半世紀前でも、その炎は今も新しい。
「天誅を加えてくれるっ!」
「はっ!天誅!?その腐れた電脳ぶっつぶしてやるぜ!」
桜三型光学熱線砲と、バーニングプラズマの光が数条交錯する。連続して起こる爆発。
「ちぃ、どこだっ!」
互いに、相手の姿を見失ってしまう。が、この場合ギャンザを探す桜花より、自分以外誰でもいいから攻撃すればいいギャンザのほうが有利。
案の定、先にギャンザが梅花と接触した。
「イーデアがっ!」
「イーデアじゃない!」
短く叫び返し、回避する梅花。いくら特殊合金の装甲に身を包んでいても、数万度に達するプラズマの直撃を受けてはどうしようもない。
そういう意味で一番悲惨なのは、動きの鈍い菊花だった。
「おらおらっ!」
「何で、こんな目にあわなきゃいけないんですかぁ!ロボットってだけで・・・」
看護用として作られたるりぃには、到底静止できる光景ではなかった。
「無益な殺戮はやめて下さい!」
だから、飛び出してしまう。
「ふざけんなクソイーデア!」
空気を震わせて、イースターが突進する。巨体だ、食らえば華奢なるりぃなど粉々になる。そして、彼女は反応できない。
ぐぁん!
固いもの同士が激しくぶつかる音。
イースターの突進は、しかして黒い鱗に覆われた両腕に止められた。
「力だけに頼る者は、いずれ破滅するぞ?」
僅かに目を細め、笑うギレウス。自分に数倍するイースターの突進を食い止めながら、まだ余裕のある風情だ。
「んなこと、オレに勝ってからほざきやがれ!」
ギレウスを振り解くと、ギャンザは一旦距離をとった。そして同時に、イースターの口から今までで最大級の閃光が収束され始める。
「まとめてふっとびやがれぇ!!!
ギャンザが叫ぶ、そして大きくイースターの口が開かれる。
そのタイミングを、水島は完全に読んでいた。方向は、アジャンタたちの居るほうと分かっている。
「うおおおおおおおおっ!!」
叫び、突撃。戦車をらくらくと貫く拳に、さらに破壊力を上げるため手榴弾を握りこんで弾帯を巻きつけている。
それがもろに、開け放たれたイースターの口につきこまれた!
爆発!
「グエエエエエエエエエエエ!」
苦痛のおめきをあげ、のたうつイースターその上に乗っていたギャンザは、体制を崩す。
「うおおおっ、ちくしょ・・・」
「ののしっている時間はないぞ。」
イースターの突撃を真正面から止めた、ギレウスの豪腕。
肉を打つ鈍い音とともに地面に落とされたギャンザを待っていたのは、ランコの仕掛けたかなり非常なトラップだった。
苦痛と肉体的損傷の、バランスを悪魔的に考えつくされた爆発音が、何度も響いた。
結果、ぼろぼろになって縛り上げられたのは今度はギャンザのほうだった。
「ち、畜生・・・」
「一つ言っておこう。」
胸倉を掴んで立ち上がらせると、水島は手加減脚でギャンザを一発殴った。そしてから言葉を叩きつける。
「殴られればいたいのは、ロボットでも人でも同じだ!そもそも、同じ「意識」を、「心」を持つ者に、体が生身か機械か有機機械かなどで差を付けられるか!」
ぱ、と手を離す。地面に座り込んだギャンザは、明らかに納得していない口調で呟いた。
「同じ、だと・・・」
「分かったら遠くのお空に飛んでいきなさい!」
と、そこにランコがお約束の髑髏マークつき爆弾を投げつけた。
爆発!
「おっと、危ねえ!」
「あ、逃げるな!
「はっはっは!憶えてやがれ次はこうは「あの・・・前・・・」
ギャンザの捨て台詞に、マイさんが割り込んだ。
「な!?」
「おんどれかぁ!うちらのヨメ虐めくさったのは!」
「なめたまねしくさりよってからに・・・」
そこに立っていたのは、貴信のごとき怒りを纏った、二人の人造人間。杏花、薔薇花。二人とも女性型なのに、何故桃花と蓮花が嫁なのかは気にしてはいけないらしい。
「「ぶっ殺したるわ!通天閣クロスチョップ!!!」」
衝撃波。いや波など生ぬるいものではない、衝撃怒涛とでも言うべきものがギャンザの居た辺りを丸ごとなぎ払った。
「あーすっきりした!おーっほっほっほ!」
本人が気に入っている割にまるで似合わない高笑いをするランコ。ほんっとーに、心底からすかっとしているようだ。
「杏花!」
「し、薔薇花!?」
桃花と蓮花の反応はある意味対照的だった。純粋に喜んでいる桃花に比べて、蓮花はなんだかあり型迷惑のような、もっとはっきり言えばいやそうな格好をしている。
「来たったでぇ!桃花〜!」
「い、何時の間に此処へ?」
問う水島に、嬉々として薔薇花は答えた。
「妻のピンチを救うのは夫のつとめやでぇ!」
「だって。」
「・・・」
指を刺すランコ、頭を抱える水島。
答えになっていないような気がするのだが。
「桃花ー!大丈夫やったか!?変なことされへんかったか!」
「うん、大丈夫だよ。」
泣かんばかりの勢いで抱きしめ、頬擦りし、撫でる杏花。にこにこと、嬉しそうに笑う桃花。
「怖かったやろ・・・さあ、うちの胸に飛び込んで来い!」
「飛び込むか〜!っていうかそっちから抱きついてるじゃない!」
押し倒さんばかりの強烈な抱擁にじたばたと手足を振り回して抵抗する蓮花。
いんたー・みっしょん!
わお〜ん!
とはいえ、安心した様子で水島は一息ついた。
「皆これだけ騒げるなら、大丈夫みたいですね。」
水島の言葉に、やや憔悴した表情ながらも姉よりよほどしっかりした蓮花が同意する。対して、桃花はへたんと地面に座り込んでいる。
「ええ、大丈夫。」
「お腹が空いた以外はね〜・・・もう動けない〜」
「それであっさり捕まってたのか・・・」
有機体で構成される彼女達は、活動に大量の食料を必要とする。能力の上下も激しく、空腹時には人間と大差ない能力まで落ち込んでしまうほどだ。
ある意味構造としてはイーデアに近い。
「おう、オレも、ハラ、へったぞ・・・」
その証拠のように、ナナシも空腹を訴えていた。その様子はやはり普通の少年と変わるところがない。
「あ、あ・・・」
その様子、自分達を無視して進む状況に慌てふためく村人達。
「さて、そろそろいくか。ナナシ達はつれていくぞ。おいておけないしな。」
「あ、そーそ−、ついでやけどな。むこうの方にシルヴィー姉さんとうちの電球が飛空艇でまっとるで。あんまり遅いんで迎えに来たんや。」
「そっちを先に言いなさいよ!」
言い争うランコと杏花の影で。
「・・・ひ、ひどいどす・・・そのセリフくらいあてに言わしとくんなはれ・・・」
と、ワットの人造人間三姉妹のうち唯一京都弁の桂花が涙に暮れていたりする。
「では、お先に。」
そういって、アジャンタが飛空挺の法へ向かったのを確認し、水島は暗いため息をついた。
「さて、優しい連中は先にいったか。」
「お、お待ち下さい!こ、このまま置いていかれたら、私達は・・・」
取りすがる村人に、ギレウスは竜眼から鋭い視線を注いだ。
「当然だろう?貴様等はあのギャンザとか言う男に己の安全を全て賭けて、ナナシを切り捨てたのだ。その賭の代価は当然自分たちで支払うべきだ。違うか?」
「な・・・」
呆然とする村人。
「勝手にイーデアに襲われるなりなんなり、醜い判断の代償として醜く死ね。」
「そ、そんな!お待ちを!も、もういたしません!信じて下さい!」
「信じろか・・・ナナシもそう言ったのだろう?」
先ほどギャンザに無、桁のト、何ら変わらない仮借ない殺気の視線。
「あひ・・・」
平凡な村人達は、その一睨みだけで失禁してしまう。
「貴様等のような連中を守る義務など無いわ!」
はき捨てるように、最後にギレウス。言い終えると、つかつかと歩み去る。
「そ、そんなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「水島く〜ん、何やってるの?早くしないといっちゃうよ?」
「・・・ああ、分かっている、分かって居るとも・・・すぐ、いくさ・・・」
(私達は、何のために戦っているのだ?こんな連中を守るためか?)
(・・・・・・・・・・少なくとも、味方をを守るためさ)
そのころ、ぶっとばされた負け犬、ギャンザさんはというと・・・
「ぐっ・・・畜生・・・何なんだあいつ等・・・」
何とか、生きていた。だが、負けたことに変わりは泣く、相手の力の凄さは戦士としてはっきりと分かっていた。
が、そんなことを考える暇はなかった。突然の気配に、振り返るギャンザ。
「・・・」
「な、何だてめぇは!?・・・イーデアか?人間か?どっちにも見えやがる・・・」
確かに、そういえる。あまるにも妙で、不思議なものがそこに立っていた。
奇怪な頭巾と覆面、体つきがまるで読めないローブ。正体不明だが、イースターのコアは人間かイーデアかを見分ける力がある。だが、それが働かないのだ。
「私は君と同じ者だ。物理的にも、精神的にもな。」
「なんだと?」
ローブの怪人が、口をきいた。まるで幽霊のような、気色悪さの有る声だ。
「私の名は、Drクエーサー。君と同じくイーデア、ロボットを嫌い、・・・それでいてその力を使っている者だ。まあ、君は腕にイーデアを寄生させているだけで、私は脳を除けば全て機械化されたサイボーグ、という点が違うがね。」
「それで何のようだ?」
つっけんどんなギャンザに、あくまで丁寧にクェーサーはもちかけた。
「簡単だ。目的が同じ・・・あとは言うまでもあるまい?」
だがそれに、ギャンザは。
「・・・だったら、なんでてめぇイーデアつれてやがるんだ?敵じゃねえのか?」
きっ、と近くの木をにらみつける。いや、性格に掃きの陰に隠れた一人のアンドロイドを。
隠れていたことがばれたので、現れたのはシルクハットを被りコートを纏った青年型アンドロイド。片目はモノクルを思わせるレンズになっている。
「これはこれは、気付いていましたか。おっと、殺気立たないで下さいよ。私はイーデアではありません。Drの「道具」です。」
「道具ぅ?」
丁寧な口調で相告げる相手に、ギャンザは片眉と語尾を上げた。クェーサーが補足説明を加える。
「そう道具だ。決して私に逆らわない。そう「作った」のだ。君のイースターよりも忠実なくらいだよ。くくく・・・
イースターと同じという文句が気に入ったのか。にやり。ギャンザは笑う。
「そうかよ・・・なら、乗ったぜ!」
次回予告!
イーストシティーにたどり着いた私達は、予想より更に厳しい現実に戦慄する。
そして世界の危機を形にしたかのように、イーストシティーに迫り来るイーデア軍団に、巨大殺戮ロボット・タイタロスの脅威。
苦戦する私達。
だが・・・!
次回、「決戦イーストシティー」
君は、Zの鼓動を感じる!
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