「本当に頼りになるんでしょうね!その人達って!」
逃げるK−5を必死に追うアジャンタに対して。
「まあ昔の彼なら町ごと敵を灰に変えているころだろうけど、今の彼なら多分大丈夫だと思うわ。」
ランコの答えは、なんかもうむちゃくちゃ、といった感じである。
「な・・・どういう人なんですか?」
「あー、厳密に言うなら人じゃないわ。」
あまりにすかぱーなランコの様子に、白鳥沢隊長も不安を感じたらしく、水島に耳打ちする。
(・・・なあ水島、誰なんだ?そいつ。お前が信頼しているところを見るとよほどの奴らしいが、ランコの言葉を聞いていると不安になってきてな。)
(隊長、忘れたんですか?ほら、一年前の・・・)
(ああ、ヴァグーラ戦争事件なら憶えとるが・・・)
(その時、人間界への移住で、世話してあげたでしょう?)
(ああ、なるほど!!)
「じゃあ、桜花さん達みたいな?」
人ではない、とするならばこの世界でまだ「ロボット」と呼ばれているイーデアなのか。だが、ランコの答えはそれも否定する。
「いえ・・・「魔神(ディーバ)」よ。」
オペレーション3「輝く竜」
水島たちが向かい、そして逃走した邪進化イーデア・従属神K−5の目標とされた町。
その町外れに立つ一軒の家に、一組の男女が居た。男は、ややウェーブのかかった柔らかな黒髪の下眼光刃のように鋭く、鼻筋の通った細面の顔をしている。体はしなやかだが身のこなしは戦いの場数を踏んだ風格を漂わせ、人相は相でもないがイメージはどこか水島に似ていなくもない。女のほうは褐色の肌、大人の女の色香と同時に知性を感じさせる、魅惑的な顔と体の持ち主。
イーデ来襲の騒ぎでほとんどの人が避難し、人影もまばらな町に居残るというのは、かなり変わった好意である。無謀、といえるかもしれない。
だが彼等はただの人ではない。逆に人々の避難を助けるべく、ここでイーデアが来るのを待っているのだ。
「そうか。」
促すような、女の目。男は頷く。
「分かっている。放っておくわけにはいくまい?」
「では。」
緊張した面持ちで席を立とうとする女を、男は鷹揚に引き止めた。
「まあ待て、まだ少し時間がある。折角お前が作ってくれた昼飯だ、食べてからいくことにしよう。」
「・・・嬉しいです・・・。」
女の浅黒い頬が、遠めにも分かるほど紅潮する。そんな女の様子を男は、とてもいとおしく思い、眺めた。
「うむ、美味かった。」
「お粗末様です。」
米一粒も残さず平らげ、男は満ち足りた表情を浮かべる。そして、ぽつりと呟いた。
「一年ぶりの戦いか・・・。」
「本当に、平和な一年間でしたね・・・」
その一年の平和さを象徴するかのように、女の表情は実に和やかだ。逆に言うならば一年前までは戦いをしていたとは思えないほどに。
「ああ、今までの俺の人生からすれば、考えられないほどにな。・・・しかし、すまんな。平和な「新婚生活」とやらは、ここまでらしい。」
T「いえ・・・私は、貴方と一緒ならば別に何処でもかまいませんわ。」
その言葉に男は、心底嬉しそうに笑い、そして女の名を呼んだ。
「そうか・・・では、征くぞ、モリガン!」
「はい、ギレウス様!」
「ぜい、ぜい、ふ、ふっふっふ・・・。」
笑うK−5。
「本体さえやられなければ、ワシは何度でもよみがえることが出来るのだ。今度は邪魔は入るまい。いけ、ガビット!人間共を狩り集めるのだ!」
その命令のままに、生き残った僅かなガビットたちが町に散らばっていく。
鋭い爪をぎらつかせ、ある一軒の家に狙いを定めるガビット。だがその前に、奇怪な、背中から翼を生やしたようなシルエットが立ちふさがる。
「ぬ?何だ?」
一瞬己の目を疑うK−5。それは・・・まさにシルエットそのままのものであった。鋭い、刃鉄を寄り合わせたような面構えを持つ、背中からこうもりのような翼を生やした龍と人間のハーフ。
そして一瞬一閃。龍の腕のうろこが剣を形作ったと見るや、最後のガビットたちはあっという間に切り刻まれていた。
「ぬぁにぃぃぃぃぃっ!?」
「ふん・・・貴様もよくよく不幸な奴だな。よりによって、この俺の住む町にやってくるとは・・・」
驚愕するK−5に対して、龍は余裕の色すら伺える、落ち着いた声だ。そしてそれに乗じるようにもう一人、黒い髪に褐色の肌、そして人に非ざる黒い羽を持つ、夜色の天使とでも喩えられそうなな美女ががするりと現れる。
「ギレウス!」
駆けつけてきた水島の声に、黒い龍は嬉しそうに答える。
「おお、一純か!」
「え!?み、水島さんの名前って、いずみっていうんですかぁ!?」
アジャンタの素っ頓狂な声。水島は一瞬しまったという表情を浮かべ、苦々しげに額に手をやった。
「・・・言って無かった、よな・・・。はは、変な名前だろ。自分でも似合ってないと思う。」
苦笑いするしかない水島だが、今回はからかわれなかった。アジャンタは
「いえ、とっても可愛いと思います。」
と、嘘をついている様子もなく答えたのだ。
「むっ。(怒)」
それを見て昔思いっきり水島の名前をからかってしまったランコは、しまったという重いと嫉妬とかいろいろな感情を混じらせて頬を膨らます。
そして、険悪な視線がアジャンタにちくちくちくと突き刺さる。冷や汗を流しながら話題を転じるアジャンタ。
「そ、それは置いておいて、あの人達は一体何なんですか?機械でも、人間でもないように見えますけど・・・」
「そ、そうだ!貴様、何者なんだ!」
「えーと、物凄く凶暴そうな顔をした黒い竜がギレウス、鴉みたいな羽を生やした色っぽい女の人がモリガン。結婚一年、未だにアツアツ新婚気分の「天津神(アマツカミ)」よ。」
「嘘言うな!どっから出てきたんだその「天津神」というのは!」
ランコの説明にいつものごとくつっこみを入れる水島。
「「凶暴そうな顔」と「新婚気分」は、嘘じゃないと思うけど。」
「し、失礼な事を言うなよ・・・。」
そしてさらにランコはぼけ倒し、水島は表情を硬直させる。もっとも、対象であるギレウスとモリガンは、そう気にした様子はない。
「ええと・・・全然訳が分からないままなんですけど・・・」
がアジャンタにとっては当然まるで説明にならず、結局水島が説明しなおす羽目になる。
「・・・彼等は「魔神(ディーバ)」一種の精霊というか自然神で・・・イーデアの君には理解しにくいと思うけど・・・」
が、うまく説明できない水島。
「ま、ああいう生き物だと思えばいいわ。」
それを見かねてか、今度はランコの発現は少しはましになっていた。
「一年前、彼等の住んでいる世界・・魔精界の支配者、炎魔皇帝ヴァグーラが彼を倒すと予言された伝説の輝竜戦鬼、ナーガスを倒すためと地上征服のため、こちら側に攻め込む事件があったんです。」
「ギレウス様は、ナーガスを倒すためだけにヴァグーラに「作られ」憎しみを植え付けられ、戦っていました。」
「それでそこからギレウスさんを解放したのが、モリガンさんの想い・・・」
「ロマンティックよねぇ・・・」
「それで、戦士としてそれまで宿命づけられていた戦いから解放された俺は、愛するモリガンと共に生きることにした。その際、人間界での生活を提供してくれたのが、炎界軍の人間世界派遣部隊と戦い、魔精界の事情に詳しかったパッパラ隊、ということだ。その時の恩義もあるので、協力する・・・というわけだ。」
(とはいえ、この世界とディーパの接触は、それが最初じゃないんだけどね・・・)
一人呟く江口の声は、誰にも聞き取られることはなかった。
「ええそうと分かれば・・・いくぞ、K−5!」
「こしゃくなぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声とともに一気にk−5五人が飛び上がった。散らばりながら突破しようとする。
「甘いっ!」
突入してきた一匹を、梅花・菊花の機関砲・速射砲が捕らえた。全身に弾丸の嵐を撃ちもんどりうつK−3。がすぐさま立ち上がり、口から真っ白い息を吐き出した。
「!??」
その息を浴びた梅花の全身が凍りつく。白い息の正体は空気中の水分を凍結させた極低音だったのだ。
さらにK−3は凍りかけの梅花に手足の刃で攻撃をかける。戦車砲の直撃にも耐えうる梅花の装甲が軋みをあげて砕けた。
「ぐははははは、マイナス250度の息を浴びれば、たとえイーデアの体でもガラスのように脆くなるわ!砕いてやる!!」
再び刃を繰り出すK−3。がその腕が突然切り落とされる。
「ぐぶえええええええ!て、手がぁぁ!?」
「させるもんかぁっ!」
妹の危機に、桜花が額に装備された桜3型光学熱線砲でなぎ払ったのだ。菊花といっしょに梅花をかばうようにして、のたうつK−3の前に立ちふさがる。
「吹き飛べ、化け物!」
轟然炸裂!桜花の熱線砲と菊花の速射砲が同時に叩き込まれ、K−3を炎が飲み込んだ。
「きぇぇぇぇぇぇぇ!」
水島たちの方にもK5の一体、K−4が襲い掛かった。ガビットとは比べ物にならない破壊力で刃が振り回される。
が、機関砲すら見切る水島の目はその動きを捉えた。
「何の!」
首を狙う刃を弾き飛ばすと相手の懐に潜り込み、空母の装甲もぶち抜く拳で思い切り殴りつける。
弾けるように吹き飛ばされ、地面を何回もバウンドするK−4。
「ぐべええええええええ、はっ!?」
吹っ飛ばされたのは、丁度白鳥沢隊長の目前。焦りながらもK−4は冷凍ブレスを吹き付ける。
K−4は思った。さっきもこの手を使うべきであった。人間風情この力を持ってすれば一撃で凍らせられたものを。
「バリヤーーーーーーっ!」
「ほげ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
白鳥沢隊長のはげ頭が光り、何故だかどういう原理か分からないが冷凍ブレスをはじき返した。自分の技で凍りづけになってしまうK−4。
「な、」
「な、何ですかそれは〜〜〜〜っ!」
水島と、そして真面目にK−5と戦っていたアジャンタがほとんど悲鳴のような疑問の声を上げる。
対して白鳥沢隊長は泰然たる者だ。
「人間40歳を超えるといろんなことが出来るようになる!」
と、胸を張る。
精神的に物凄いダメージを受けたような気がして、一瞬動けなくなるアジャンタと水島。
「今だ!死ねアジャンタぁぁぁぁ!!」
そこを狙って突っ込んできたK−5。
だが、そのK−5に逆にK−1とK−2が突っ込んできて激突した。もつれ合うように落下する。
「な!?き、貴様ら何をしておる!」
「「馬鹿な、ワシらはあのギレウスとかいう奴に攻撃を仕掛けたはず、それが何故!?」
混乱する三匹。その耳を、涼やかな笑いが通り過ぎる。
黒い羽の麗人、モリガンだ。
「私の魔神力は光の屈折率を操作すること・・・貴方達が攻撃しようとしたのは、この私の作った蜃気楼。」
「おのれぇい!」
失地挽回とばかりにK−1,K−2の冷凍ブレスがモリガンを狙い・・・そして、突如張り巡らされた光の壁に遮られた。
「何!?」
「ありがとう、モリガンさん。おかげで私の武器、結界鋲が展開できたわ。」
前半はモリガンへの感謝、後半は敵への最終勧告。明確に声色をきめながら、アジャンタは精神を集中させる。
結界鋲。そのなのとおり鋲あるいはナイフを思わせるものが光を発し、その光がいくつもつなぎ合わされて結界が作り出されている。
それがアジャンタの集中と同時に変化を見せた。それまで面を形作っていた光が、各々の鋲に収束し、刃となる。
「堅い守りの光の壁を、集中すれば薄く硬く鋭い刃となる・・・点の結界鋲!」
「ぎぃええええええええええええ!」
光刃が嵐を巻き、三体をずたずたに切り裂いた。
その時だった。
「とぅお〜うっ!」
「ど、どっかで聞いたような声が・・・」
妙に響く男の声。その声を聞いた途端、一瞬でアジャンタの顔が面白いほどに青ざめる。
「何!?」
まさか、と水島も思った。だが。
現れたのはやはり、チョッパーグラスにふんどしの軍団員を引き連れた、覆面レスラーもどきの男。
「嫉妬の星の聖なる使者、しっとマスク&しっと団見ッ参!」
「ああ、やっぱり」
初対面のときの悪夢のような様子がトラウマになったのか、青くなって頭を抱えるアジャンタ。
「またしょーこりもなく現れたわね、この変態集団!」
「お前達の相手をしている暇はない!」
「そうよ。大体あなた達、今世界がどういう状況か、分かっているの?」
「例え世界がどうであろうと!アベック倒して西東!それが我等、しっと団だっ!」
まるっきり聞いちゃいないしっとマスク。
ともかくパッパラ隊がしっと団にむかおうとした。
と、突如水島の戦場で培った勘が最大限に警報を発する。何者かがこちらを狙う意志。
(後ろ!?)
咄嗟にアジャンタを突き倒し、その体の上に覆いかぶさる。ほぼ同時に水島の背を刃のごとき鋭い極低温のブレスが吹き付ける。
「ぐあっ、ああ!」
「水島さん!?」
「み、水島君!」
アジャンタとランコの叫び、その間、低い笑い声が地を這う。
「ぐくくくく、口惜しや、あと少しでアジャンタを亡き者に出来たものを・・・」
「K−5!まだ生きていたの!?しぶとい奴ね!」
「いえ、よく見て。桜花のレーザーに切りおとされたはずの腕が生えているわ。何らかの手段で回復したのよ。」
江口の緑色の瞳が移すK−3の腕は、たしかに完全再生している。
「バイオ・コアか!」
アジャンタが悔しさと怒りに頬を染める。バイオ・コアとは邪進化イーデアのエネルギーである人間の生命力を凝縮したもの。つまり、K−5は人を食って体を回復したも同じなのだ。
「なら、もう一度倒すのみ!」
という桜花に、一度は倒されたはずのK−5は余裕の笑みを浮かべた。
「くく・・・お遊びはこれまでだ!今までの分たっぷりとお返ししてくれるわ!見るがいいアジャンタ!貴様より六芒聖神にふさわしい、このK−5の真の力をっ!!」
と言うなり、K−5を中心に空中に飛び上がり。
融合し始める。そして・・・南方の島々の神の面を思わせる、巨大な顔状の姿に。
「合体したぁ!?」
「なんて力・・・これが、奴の正体!?」
空中でただならぬ威容を放つその姿に、圧倒されるアジャンタと江口。
「合体って・・・昔のスーパーロボか!?」
思わず叫ぶ白鳥沢。同時に、K−5も。
「死ぃねぇぇぇぇ!!」
巨大な顔から、五体分の収束された冷凍ブレスが放たれる。空気中の水分を氷の刃と化したそれは、町の建築物を貫通しながら襲い来る。
「ぬおおおおおおお!?」
今度は変なバリアーでも支えきれずに吹き飛ばされる白鳥沢隊長。
そしてそれはK−5の顔の向きに従い、町をなぎ払いながら今度はアジャンタと菊花を捉えた。
いや、アジャンタの結界鋲が破られたのを見た菊花が、盾になるために飛び出したのだ。重量3,2トン、桜花達三姉妹の中で最も重装甲を誇る自分なら、という思いもあったのだろう。
だが相手は気体、遮ろうとしても遮れるものではない。結果として二人とも巻き込まれてしまう。傷つくアジャンタ、菊花は吹き飛ばされはしなかったものの速射砲も間接部も凍り付いてしまい身動きが取れなくなった。
「おのれ、ならば私が・・・!」
光線砲を使おうとする桜花を押しのけ、ランコが前に出た。
「うん?なんだお前。そんな豆鉄砲でこのK−5様を倒せるものか。貴様の力などなど所詮周りを飛び回るだけのハエと同じ。大人しく死ねぃ!」
「死ぬのはあんたよ。」
きっ、とランコは顔を上げ、合体K−5の巨大な顔面をにらみつけた。その瞳には、怒りの炎が渦巻いている。
「「あたしの」水島君を傷つけた時点で、あんたの生存権は否定されてるのよ!」
「あたしの」に思いっきり力を込めて言うなりランコはマシンガンを放り捨て、ポケットから小さなスイッチを取り出した。
「後光院財閥自家用衛星兵器、ツングスカ・フォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!!!!!」
轟!!!!!!!!
突如上空、いやさはるか大気圏外から飛来した巨大質量が、それと比べれば本当に微々たる物である合体K−5をまさに踏み潰した。
クレーターが出来、大地が揺れ、衝撃波があたりを襲う。
「あ〜〜〜っはっはっはっはっはっはっは!」
その猛風に髪をなびかせながら高笑いするランコは、なんというか、ともかく、凄かった。
「この連中に何言っても無駄か・・・ん!?」
「こら〜っ!てめぇら〜!」
唐突な蛮声。古い作りの魚屋の前に立っていた一人のしっと団員が吹っ飛ばされ、中から威勢の良い若者が出てきた。銛と包丁を引っさげ、ねじり鉢巻をしている。頬っぺたに付いた十字型の傷といいよく動く表情といい、元気な子供のような印象がある。
「わけわかんねー格好でずかずか現れて、いきなり人ん家の雨戸ぶっこわしてくれやがって、あの雨戸はひい爺ちゃんの代から有る由緒正しいもんなんだぞ!」
一気にまくし立てると、キッとパッパラ隊のほうを向き、有無を言わさぬ口調で一方的に言い放つ。
「おう、軍人さん方!助太刀するぜ!」
「わ、わかった。よくわからんが、分かった。」
少なくとも勢いだけは、白鳥沢隊長すら退くほどあった。ギレウスも苦笑する。
「何だか太輔を思い出すな・・・」
そんな中、水島は彼のことを知っていたらしく、比較的冷静に声をかけた。
「・・・ズックさん、ですね。大魔王グラートン三世を倒し、現在世界で唯一公国から「勇者」の認定を受けているという・・・」
「ええっ!家の大将みたいなマイナー田舎者勇者、何で知っているんでやんすか!?」
そういったのは、もちろんズックではない。彼の肩辺りのところをふぃよふぃよと浮かぶように飛んでいる・・・ふぐちょうちんみたいな妙な奴だ。水島の知識を借りれば、それは今ではめっきり珍しくなった半霊子生命体、妖精・・・名はハチ。はっきり言って、一般的妖精イメージへの冒涜としか思えない格好だが、勇者ズックに関する記述には確かにそうあった。
「うるせえ馬鹿!」
「たしかに、魔王はフグ毒に当たって死んだだけで、ほとんどまぐれみたいな勝ち方だったわよね・・・」
同じく事情を知っているらしい江口も、あまり期待していない感じだ。
「で〜いうるせえ!畜生、いくぜハチ!
「・・・はいはい、分かりましたでやんすよ・・・」
「あ、アホが増えた・・・」
ハチとランコ、何故か同時にげんなり。対してズックは威勢良く、しっと団員と乱闘を始めた。
「誰でもいいから、雨戸弁償しやがれ!」
殴る殴る殴る殴られる、蹴る蹴る蹴られる。確かに喧嘩としては強いが、あくまで常人レベルでしかない。やっぱり、まぐれ勇者かもしれない。
「よしっ、勇者ズックを援護する!射撃開始!」
江口の号令一下、パッパラ隊の全火器が火を噴く。連射、連射、連射。なんだかズックも巻きもまれているような木が駿河、構わず連射、連射、連射。
「って、かまわんかい!」
叫ぶズック。しっと団もろとも蜂の巣にせんばかりの勢いで銃弾が飛んできて、戦うどころではない。
「わがままねぇ・・」
「どこがじゃ!」
「しかたがありませんね、接近戦を挑むしかないでしょう。」
水島が言う。その様子は背中一面に重度の裂傷と凍傷を負っているとは見えない。事実、痛みを押し隠しているのだ。
だがそれがかえって、それを分かる人には痛々しい。だからこそ遠距離戦を選択したランコは、それが悔しい。
「ねえ・・・」
すっ、と飛びながら脇を通り過ぎようとするモリガンに、ランコは苦笑いのような表情で機関砲を撃ちまくりながら声をかけた。
「何?ランコさん。」
戦いのさなかだというのに、そのつややかな褐色の顔に浮かぶ表情は穏かと言っていいだろう。それは何故か。
彼女は満たされているから。
「・・・いや、やっぱりいいや。」
「?」
(恋の悩みは、自分で解決してこそだもんね)
「すいません、巻き込んでしまって。」
すまなそうに言う水島に対し、ギレウスは唐突に言った。
「俺達はよく似ている、そう思わないか?水島よ。」
一瞬きょとんとする水島。だが、答えを返す。
「え?・・・ええ。共に戦うためだけの存在として、父親に育て上げられた。」
「そうだ。殺すことしか知らず、血の中をはいずり回り、人並みの感情など知らずに生きてきた。
「・・・」
ギレウスが改めて告げる二人の「残酷な共通点。」思い出したのか、僅かに水島はうつむき口をつぐむ。だが、ギレウスはそのうつむいた顔に上から笑いかけた。甲殻じみた鱗に覆われた顔なのに、不思議と表情が理解できる。
「だが、そんな俺達でも「誰かのために戦う」戦場を選択する事ならできる。それが嬉しいのは、俺もお前と同じだ。」
つまりギレウスは、そういいたかったのだ。水島の顔がぱっと明るくなる。
「ああ・・・そうだ、そうだな。」
「貴っ様ぁ!結婚などしおって、うらやましいぞう!」
「そうだそうだ!」
「てめえだけいい目みやがって!」
一方、モリガンと一緒のギレウスに、口々にののしりを加えるしっと団。実は正体がパッパラ隊隊員だけはあり事情を知っていて、そしてしっと団であるが故に他人の幸せを許せない。
だが、相手が悪かった。
「やかましい!」
一喝!
「なあっ!?」
「何一つ己を乗り越える努力もせず苦しみもせず、ただ他者をうらやんでばかりいる貴様等の戯言など聞く耳もたん!そこまで俺が憎いならばかかってこい!このギレウスの全力をもって貴様のそのちっぽけで醜い炎など消し飛ばし、肉の一かけらも残さず食らいつくしてくれるわっ!!!」
咆哮と呼ぶに相応しい、ギレウスの叫び。それだけで人を殺せそうなほどに鋭い視線、がしがしと音を立ててかみ合わされる牙、翻る鬣。
「ひ、ひ、ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!」
本気の暗黒龍の恐ろしさに、しっと団は一人残さず震え上がった。彼らがやっているようなお遊びのテロリズムではなく血みどろの命の奪い合いをしていた相手から、しかも最初から人間とけたの違う生物としての闘争本能・戦闘能力をまざまざと見せ付けられる。
「さ、流石元悪のライバル幹部、貫禄が違うわねぇ。」
味方のランコすらも、その迫力にはちょっと押されそうだ。
「お、おのれっ!こうなったら・・・東北ミヤギ先生、おねげえしやす!」
しっとマスクの呼び声に応じて、ビルの陰からやたらとかっこつけた様子でその「東北ミヤギ」とかいう変わった名前の男が現れる。能力職を基調とした野戦服に、何故か巨大な筆を背負っている。
「ふっふっふ、おらに任せるべ!」
「こんなこともあろうかと、暗殺者派遣組織のガンマ団から、殺し屋を一人レンタルしておいたのだっ!!」
マスクの上にすらにじみ出るほどの量の冷や汗を必死でぬぐいながら虚勢を張るしっとマスク。だがそれに帰ってくるのは、嘲弄のみ。
「ふん、己で戦う事もできんのか・・・」
「う、ううううるさいわい!」
声が震えているしっとマスク。
「さぁて、それではこの必殺の武器「生き字引の筆」の力、とくと」
「煩い、灰になれ!」
ボン。
ギレウスの口から発せられた火炎で、あっさり黒焦げになるミヤギ。
「なんじゃ、わしがペン対筆で勝負しようとおもっとったのに、つまらん。」
「・・・・・・」
こちら側まで飛ばされてきていた白鳥沢隊長がぼやく間分くらい、しっと団は状況を理解できずに沈黙した。そして直後、恐慌が満ちる。
「ひええええええええ、い、い、一撃で!?」
「うそだろ!?」
しっとマスクすら、声も出ないほど。そんなしっと団を、ギレウスは上空から威嚇するように睨み付ける。
「・・・失せろ。二度は言わん。」
「お、覚えてろ〜〜〜〜〜!」
その一言で、しっと団は算を乱して退却していった。あまりの弱さに、苦笑いすらこぼれる。
「や、やったか・・・」
「ふふ〜ん、どうよ!」
安堵するアジャンタに、思いっきり胸を張るランコ。
「あたしにかかればこんなもんよ!それそれ見なさい、欠片も残ってないわ!」
アジャンタを引っ張るようにつれてきて、クレーターの中を見せるランコ。
「ま、水島君の妻を張るなら、これくらい出来なきゃ駄目よ!お〜〜っほっほっほ!」
「え、あ・・・」
思いっきり対抗心むき出しのランコと、何故か焦るアジャンタ。それは、狙い側にとっては格好の隙であった。
「あの、その、私はそんな・・・・っ!?」
突如、クレーターの底から放たれた氷のニードルがアジャンタの装甲服の隙間に突き立った。
「あぐぁっ!?」
「えぇ?!!」
倒れふすアジャンタ、動転するランコ。そして、クレーターの土の下から、再び復活したK−5が現れる。
「うかつだったな!死んだふりよ!体が再生・進化するまでのなぁ!」
その言葉のとおり、K−5は巨大な顔面状の姿から二本の角と単眼、鋭い爪の生えた手足を持つ、巨大なロボットのような姿に変化していた。
「そんな・・・」
「しつこい奴・・・」
「散々邪魔しおって!今度こそ潰してくれるわ虫けら!」
合体・再生したK−5の爪が伸びる、標的は傷ついたアジャンタと前に出ていたランコ!
「きゃああああ!」
「させるかぁ!」
咄嗟に飛び出し、ランコに迫るK−5の爪を蹴り飛ばす水島。だが、咄嗟に動けないアジャンタより水島を狙うべきと判断したK−5のもう片方の腕が水島を掴みにいく。
空中で身をひねり、回避しうとする水島だが、背中に受けた傷のせいで一種動きが鈍った。
「くっ・・・おあああ!」
巨大な腕に堂をわしづかみにされ、うめく水島。
「おのれ!よくも博士を!」
突進する桜花にむかって、K−5は手を突き出した。
「動くな!」
叫びながら、見せ付けるようにK−5は腕に力を込める。
「ぐぅ、う!」
「博士ぇ!」
悲鳴を上げる桜花。黙って入るが、ランコも思いは同じだ。それも、自分のせいでこうなったのだ。声は出さないというよりは出せない、悲しさに呼吸が止まりそうだ。
「ぐっくっくっく・・・動くなよ、まとめて氷漬にしてくれるわ!」
笑いながら、冷凍ブレスの発射体制に入り、K−5は叫んだ。攻撃の言葉ではなく、勝利の雄たけびでもなく、激痛の絶叫だ。
「うぎゃあああああああっ!わ、わしの腕がぁっ!!!」
「この俺のことを忘れていたな!」
「ギレウス!」
しっと団を片付けて急遽とって返してきたギレウスが、腕の鱗を変化させた剣、竜騎槍鱗ランス・ドラグナーでK−5の腕を切り落とし水島を救い出したのだ。
ランコ、アジャンタ、桜花達パッパラ隊のみんなが喜びの声を上げる。
その様にギレウスは満足げに目を細めるや、すぐさまK−5に向かった。
「おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇ!こうなったらまずは貴様からさっ!食らえ冷凍ブレス!!」
わめきながら合体再生K−5が冷凍ブレスを放つ。それまでの形態に比べ、さらに強大さを増した一撃だ。
だがギレウスはそれに真っ向から立ちむかった。
両手を突き出すようにして、体内の炎の魔神力を集中する。かつて殺意と憎しみで燃やした炎を、今は、仲間を守るために。
「炎・竜・焼・牙!サラマンドラバーン!!」
ギレウスの腕から、凄まじい炎の竜が放たれた。かつてのように暗黒竜の黒い炎ではなく、鮮烈なまでに赤い炎の竜。それはK−5の冷凍ブレスをものともせず飲み込みながら突き進み、
「ばっ、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
K−5の巨体を飲み込み、完全に蒸発させた。
こうして、ガール半島方面に現れたイーデアは、ひとまず殲滅されたのである。
「終わった・・・。」
「ええ・・・。」
「だが、こいつ等は敵のほんの一部に過ぎない。それでこの騒ぎでは・・・」
図太い白鳥沢も慄然とせざるを得ない。
「通信が混乱していて状況に皆目見当が付かないけれど、大変な騒ぎになっているでしょうね。」
戦いが終わってから通信装置をいじっていた江口が、通信機のヘッドホンを外しながらため息をつく。雑音混じりで聞くに堪えない混線だらけの電波を必死に拾おうとしていたのだ、耳も痛くなる。
「竜玉通信もこう離れていては使えないから、イーストシティーにいるナーガスやエスリーンと交信することもできん。」
鎖骨の間あたりの位置についている、同属との共感・交信を可能とする龍特有の器官・龍玉に手を当てながら、ギレウスの表情は渋くなる。
「通信が混乱?何で?」
ランコが首をかしげるのも無理は無い。この時代、地球の95%を支配するシュバルツランドとスットン共和国の井田には、特殊な事情、ありていに言えばシュバルツランド皇帝ミラルカ=ボーダーが水島を好きだからという単純な理由で和平状態が保たれており、多数の人工衛星ネットワークによる通信網があるはずなのに。
「辛うじて拾った交信から判断するに、衛星軌道上に突如大質量の天体が出現し、シュバルツランドのものを中心にかなりの量の人工衛星を踏みつぶしたみたい。後光院財閥系のはまだ少し残っているけど・・・」
「・・・マザーまで来ているの?だとしたらアルカディアや、Zの印まで・・・?」
どうやらそれは、本来アジャンタの居た千年大地にあったものだ。そんなものまで出てきているとは、今回の騒ぎは思ったより規模が大きいらしい。
「何にしても、このまま此処にいても情報が皆目分かりませんね。付近の敵は今ので最後だったようだし・・・」
水島の提案に、白鳥沢は大きく頷くと断を下した。
「うむ。我々パッパラ隊はこれより、首都イーストシティに向けて転進する!」
「「転進」が「退却」の代用じゃなく初めて正しく使われた、記念すべき一瞬ね。」
案外細かいことを知っているランコだった。
「我々も、つきあわせてもらおう。」
黒い龍から人間の姿に戻った(といっても龍の姿のほうが本性なのだが)ギレウスが言う。魚屋勇者ズックもそれに従った。
「俺は踏みとどまって店を守る・・・と言いてえ所だが、これじゃ品物も入ってこねえ。しゃあねえから、おともするぜ。」
「私達はどうしますか?」
「勿論ついていくっす!水島様のいるところなら何処へでも!」
るりぃの問いかけに、無駄にぐぐっと力をいれて答えるモアイ。
「あんたはまだ狙ってたのかぁ〜っ!!」
その結果。
ズダダダダダダダ!
ランコの叫びとともに、またも劈くようなマシンガンの響きがこだまするのだった。。
「ふむ、K−5は敗れたか・・・。」
そんな光景を遠くから見つめる神官モリモト。その顔はたった今までちょろちょろ逃げ回っていた小物の顔ではない。
「とりあえずはOZ様にご報告するとして・・・ここまでは計画通りですね。あとは私が手を下さずとも、これからどんどん戦乱は加速するでしょう。原初の火は既に手の内、あとは・・・パンドラの箱を手に入れるのみか・・・」
そのころ、それとはまた別の場所で、やはり思考をめぐらすものが居た。いまどき珍しい中世風な装束を纏った、一人の王である。
「歴史が、動くな・・・。」
にやり、と笑う。
「ふふ、遙かな昔、神は人を作りたもうた・・・。だがっ!歴史は「王」が作る物なりっ!」
カッ!
我へ強い光が、一瞬その王の、べたっと四角張った、目ばかり大きい、薄いひげを生やした顔を、ひどく威厳のある者に見せる。
とはいえ、その閃光は王様が押したスイッチによって作動した、個人的趣味により演出装置なのだが。
「とはいえ、ズックだけではの〜・・・。また新しい勇者でも募集するか。ちょうど城下町に腕のいい自称聖騎士と(たぶん)ダークエルフがおるらしいし・・・」
再び普通に室内灯に照らされ、何やらぶつぶつと呟きながら思案する王は、またいつものべたっと四角張った、目ばかり大きい、薄いひげを生やした顔をしていた。
ランコ
ってな感じで思わせぶりなセリフと共に、プロローグとでも言うべき三話はおしまい!
次回予告!
イーストシティーにむかって行軍する私達の所に、Zのマークをつけた少年がイーデアの一群を倒した、という情報が飛び込んでくる。;アジャンタによると、その少年は伝説の<B>対イーデア独立停止システム「Zイレイザー」</B>で、「人類の希望」とでも言うべき存在らしいの。
でも現場に行った私達を待っていたのは、住民に袋叩きにされる記憶のない少年と、変な怪物つれたロボット殺人マニアだった!?
ちょっと!これって一体どうなってるわけ!?
次回オペレーション4「イレイザーとハンター」
って、誰よあんた!
ヤティマ
プレイして下さい!