序章 足下の非常事態
ずずずずずず・・・
「ふーーー・・・。」
桜花の作った味噌汁をすすりながら、水島一純中尉は平穏を満喫していた。
パッパラ隊に来てから、こんなに平和な朝が、ほかにあっただろうか。
この平和は、まさに奇跡というべきバランスで成り立っていた。
白鳥沢隊長は、自室でいつもの少女漫画を書いている。
隊員たちは、昨日ランコが、
「桜花に負けない料理を作れるようになる」ための特訓につきあわされて、全員入院。
ランコは、それを元に、さらに料理の(ランコが作ると、料理じゃなくなるが)特訓中。
従って、今朝食堂にいるのは、水島、マイさん、桜花だけ。トラブルメーカーがいないということが、これほどありがたいとは。
そして、桜花。
一時はランコと対立しどうなることかと思ったが、幸いうまく居着くことができた。
世はすべてこともなし。
そう水島がおもったときだった。
「しくしく・・・・・」
足下から、突如泣き声が聞こえてきた。
「ひっ!」
不死身のくせに(本当のところ、原因はそれなのだが)お化け嫌いな水島は一瞬驚いたが、すぐに安心した。こんなこと出来るやつが、一人いる。
とびかげだ。
「こらっとびかげっ!おまえだろっ!」
そういった瞬間、水島は意外な物をみた、いや、見てしまった。
本当に泣いているとびかげを。それが発端とも知らずに。
オペレーションX1 時間軸上でバナナをふむ。
とびかげが泣いている・・・
この異常な事態に対応できず、水島は口をぱくぱくさせた。
なにしろ、あのとびかげが、である。
いつも駄洒落をいい、ミサイルでも爆弾でも何でも食べ、巨大化し、分裂し、バラバラになっても再生し、変身し、やたら「あっはっは」と笑う、あのとびかげがである。
水島は目をこすり、自分の頬をつねった。泣いているとびかげはまだいるし、しっかり頬も痛い。
これは現実だ。
そう認識したとたん、水島はいやな予感がした。また何か事件になりそうな予感が。
「あれー?とびかげちゃん何泣いてるの?」
水島はぎくっとした。この声は。
ふりむくとそこには、美少女の姿をした歩く爆弾、自称コンバットエンジェル,後光院・アリスン・ブランディー・メルセデス・ローズマリー・フォン・ランコが立っていた。
しかも手には、下手な料理という名の猛毒。
どうも特訓の成果を水島に食べさせに来て、とびかげに気をとられているらしい。
水島は少しほっとし、同時にランコと同じ疑問をもった。
「ほんとに一体どうしたんだ?」
とびかげはきゅうに泣きやむといった。
「いやー、桜花さんの働く姿をみていたら、つい昔のことを思い出して・・・」
ランコがいった。
「隣村のよしこちゃんとか?」
「なんだ、それ。」
とびかげは短い手の、さらに短い指をふった。
「いえいえ。よしこちゃんといえば力うどん。桜花さんといえば、芹沢博士の妹さんです。なつかしいなあ、女子勤労隊で働いてるのをよく見ましたよ」
水島はなーんだ、という顔をした。
また冗談の嘘ばなしか、と。
「おんやあ、信じてませんね」
とびかげが詰め寄った。
「あたりまえだろ、50年前の話だろ、それ。何でおまえが見れるんだよ。」
ランコもいった。
「そうよねー。」
とびかげがにやり、と笑った。水島はとびかげの数々の奇行を思い出して、顔に縦線がはいった。
「なら、証拠を見にいきましょう」
「え?」
水島とランコの声がハモり、その瞬間、時間が弾けた。
オペレーションX2 人間的な、あまりに人間的な
「う・・ここは?」
ふと気がついた水島は、あたりを見回した。
白い砂浜。
椰子の木。
輝く太陽。
・・・思いっきり南の島だ。
「どうしてこんなとこに・・。たしか、とびかげが・・」
そう考えこみ始めた水島の耳jに、
「ねー、水島くんも泳ごうよー!」
脳天気なまでに明るい声が飛び込んできた。
「ランコ!」
見ると、一緒にいたはずのランコが、水着姿になって泳いでいる。
「おまえ、なにやってるんだ!」
「え?」
「どうしてこんなところに?とか考えないのか?」
ランコは少し考える顔をした。
「んー、とにかく季節感を大事にするランコちゃんとしては、海があれば泳がずにいられないのよ」
水島は頭を抱えた。
「あのなあ!・・・って、とびかげはどこだ?」
「ここですよ、水島君」
「わっ!」
いきなり後ろから声が聞こえた。いつものことだが、やはり驚く。
しかしそんなことにかまっている暇はない。
「おいとびかげ、ここはどこなんだ」
「そうよ、いったいどこなの?とびかげちゃん。」
とびかげは自分の服を指さした。
「これをみてください」
水島は、何気なくとびかげの服を見て、首を傾げた。
いつもの服じゃない。
いつものとびかげは青い忍者服だが、今日は違う。水島たちの濃緑色の軍服とも違う、カーキ色の軍服(ただし、いつもの二等身)を着ている。
水島は、それをどこかで見たことがあるような気がした。たしかあれは・・・。
「思い出した!それ、スットン帝國の軍服じゃないか!」
「その通りです」
とびかげはさらりといった。
ランコが首を傾げた。
「ねー水島君、スットン帝國って?」
「スットン共和国の50年前までの名前だ。そんなことも知らないのか、おまえは」
「ちよっと忘れてただけよ。そういえば、桜花はスットン帝國の秘密兵器だったわね」
「で」
水島はとびかげの方に向き直り、続けた。
「で、とびかげ、その格好はどういう意味なんだ?」
またとびかげはさらりといった。
「そのまんまです」
水島は少しむっとした。
「そのまんまって、それだけでわかる訳ないだろ!」
「ふふっ、私には解っちゃったわよ」
「え?」
ふりむくと、ランコがシャーロック・ホームズの格好をしていた。
そういえばランコってしょっちゅう着替えるけど、服はどこにしまってるんだろう。
自信満々、ランコは
「ずばり!とびかげちゃんは50年前スットン帝國の軍人で、芹沢博士やその妹や、その他の色々な博士が住んで研究をしている研究所がある秘密基地の隊長をしていて、そこで芹沢博士の妹と知り合ったってことを証明しようと私と水島君を50年前の世界につれてきたのねっ!」
と、これだけ長いセリフを一息で言い放った。
「んなわけあるかーっ!」
と、水島はつっこみを入れた。が。
「よくわかりましたね、さすがランコさん」
と、とびかげはいった。いってしまった。
「あ、あのなあ!タイムスリップなんて、そんな簡単にできる訳が・・・」
そう言いかけて、水島は途中でやめた。とびかげに常識が通じないのは、今までで充分解ってるから。だが、いくらなんでも・・・そう水島が考えてると、不意に目の前の密林から、どう見ても50年前のデザインの装甲車がでてきた。
そして、その装甲車の扉があき、二人の軍人、服装からして将校が出てきた。一人はかなり年をとっていたが、白鳥沢隊長のようながっしりした体格の、髭面の男だ。もう一人は、水島と同い年くらいの青年で、すこしおっとりした感じのする、きれいな顔をした、華奢な体の持ち主だった。
そんな対照的な二人がそろってこういうのを聞いて、水島はとびかげとランコが言ったことが本当だと信じるしかなくなった。
「おかえりなさいませ、とびかげ隊長!お迎えにあがりました!」
オペレーションX3 秘密兵器のある日常
とびかげに敬礼した二人の将校の、大柄な方は、水島とランコに気づくと、驚いていった。
「芹沢博士!?ど、どうしてここに!?それにその少女、どうみても我が国の人間ではないではないですか!一体どうしたのです!」
もう一人の方は、あわてた様子もなく、二人を見ている。
そこではじめて水島は、自分が芹沢博士にそっくりなこと、ランコがハーフで、スットン人にみえないことを思いだし、あわてた。
「あの、それは・・・」
水島が何か言おうとした途端、とびかげが口を開いた。
「はっはっは、大丈夫ですよ、二人とも気にしないでください。」
そんなあいまいな言い方で、気にならんわけがあるか・・・。
結局、とびかげのいいかげんな物言いと、ランコの不用意な発言(どんなだったか知りたい人は、作者にeメールで聞くと・・・嘘です、教えません)により、かなり時間がかかったものの、水島はとびかげの部下として、ランコは同盟国、シュバルツランド第三帝国の軍人として、(だってドイツっぽいし、いいよね、これくらいオリジナルでも)何とか認められた。
「これは失礼した、わしはこの秘密基地の防衛にあたっている独立第二戦車連隊隊長、大海原岩雄だ。よろしく。」
「僕は同じくここを防衛してる独立第一歩兵連隊隊長、白銀誠志郎です、よろしくおねがいします。」
話し方からで解るだろうが、大柄の老人が大海原岩雄で、小柄な青年が白銀誠志郎である。(どこかできいたような名前なのはわざとです。)
「早速基地へご案内しましょう、装甲車にどうぞ。」
早速装甲車に乗り込む。