第三話 TURN
第一幕 過去回想
闇。
暗闇包まれた森の中。
その中を、ガメラはたった一人で歩いていた。
足を踏み出すたびに、顔をしかめる。
その理由は、今の彼女の姿を見れば何も言わなくともわかろう。
鎧は壊れかけ、自らの血に濡れ、足を引きずっている。右腕もだらりと垂れ下がり、動きそうにない。
思わずガメラは呟く。
「今までの分を取り返されちまったな。」
あちこちでたいまつらしき灯が揺れ、敵が彼女を捜していることをガメラに知らせた。
ずきり。足の傷が痛む。
「こんな所で、やられるかよ・・・」
必死に歩こうとするが、既に彼女の体力は限界に達していた。
とうとう倒れる。
「くう・・・」
起きあがろうともがくガメラ。
その耳に、突然叫び声が飛び込んできた。
「あっ・・・」
慌てて顔を上げたガメラの目に、人影が映る。パイラ国人らしい青年だ。
それを知って必死で身構えようとするガメラ。が、相手の行動はガメラの予想を裏切った。
「大丈夫ですか!?」
そういったのだ。
「・・・ってのが、あたしとダイが初めて会った時のいきさつだ。」
日も暮れ、焚き火を囲んでの、初めての怪獣人側との「平和的な話し合い」で、
ガメラはそう語っていた。
第二幕 状況説明
町からかなり離れた森の中。
そこにガメラ達はいた。
怪獣人軍第二軍と共に。
「なるほど・・・そういうことだったの。」
ガメラに一時的についていくことを決定した第二軍司令官、スーパーは思案顔でうなずいた。
「そ。それでまあ、パイラの人間も捨てたもんじゃない、って思ってさあ。
傷の養生しながら一緒に暮らしてる内になんか意気投合しちゃって。
それでダイもこの戦争をどうにかしたいと思っいて、一緒に頑張ろうってことになって。」
やっぱり少し照れた様子で、頭をかくガメラ。
「でもねえガメラ、それと温泉でギロンと決闘したり、法王庁を爆破したり、
バルゴンを噴水に突き落としたりするのと、どういう関係があるわけ?」
「確かに気になるなあ。」
ぐしゃ。
スーパー、そしてそれまで黙っていたジャイガーにそう言われてガメラはつんのめり、
危うく焚き火に顔面をつっこみそうになった。
「い、いや、それはその・・・」
「突っ走っていったと思ったら・・・」
隣にいるダイ・マ・ジンまで呆れた顔をしている。
それをみて、にやっとギロンは笑った。
「でもまあ、凄くガメラらしいと思うで。いっつもあまり考えんでとにかく行動、
って動いてずっこけるんや。」
「うるさいよギロン!もー。それはそうとして、ダイは一体今まで何してたの?」
強引に話題を変えるガメラ。頬に冷や汗が流れている。
「ん。僕の方は主にパイラの普通の村を巡って、怪獣人に対する誤解を解くことから始めたんだ。」
「誤解?」
「曰く、朝昼晩三食大蜥蜴をばりばり頭から喰う!そしておかずは蚯蚓と蛙!
子供をさらって生け贄に捧げる!眼をあけたまま寝る!遠吠えをする!
水中に粘液の幕を作ってその中で生活する!等々・・・あれ、どうしたの皆さん?」
みんなは、ひっくり返っていた。
そして立ち直る。
「なんぢゃそりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「教会だよ」
それに、テラが答えた。
「教会の人が、よくそういう話をしていた。」
「・・・・・・・・・」
「ガメラ姉ちゃんと一緒に旅をしてから、大嘘だってわかったけど・・・」
「まあ、そういうこと。
ともかく苦労した甲斐あって、大分仲間も増えて、それでガメラを探した、って訳です。」
第三幕 世界急転
話を聞き終わり、神妙な顔つきで何か考え込んでいるスーパー、そしてジャイガー。
それと同時刻、エイ・ガ・カンにある怪獣人軍司令部。
「準備は出来たか?」
いつものアルト、「総統」イリスの声がジグラに尋ねた。
「は。回復した第一軍及び予備の第三軍、そして私を含めた総統閣下直率のエイ・ガ・カン防衛用の第四軍、
すべて稼働状態に入りました。いつでも予定通りネズラノープル再攻撃に出発可能です。ですが・・・」
そこまでいって、不意にジグラは顔を曇らせた。
「この作戦において、ガメラが妨害をかけてきた場合・・・」
「そうなったら私自ら奴を倒す。」
「!し、しかし総統、総統とガメラは!」
叫ぶジグラに、イリスは仮面を被った顔を向けた。
「解っている、だが、私は総統、なのだ。」
ほんの少し、声が震えた。だが、「仮面がはずれる」様子はない。
「閣下・・・」
ジグラは、もうそれしか言うことは出来なかった。
そしてまた同時刻、ネズラノープル法王庁、法王の間。
部屋の真中にある巨大な玉座に腰掛ける、トランプの王様のような顔をした豪奢な服の男、
そしてその脇に立つ黒い僧服に身を包んではいるものの、僧とはとても思えない殺気を放つ、痩身の男。
この二人こそ、玉座に腰掛ける方がパイラ教団当代法王ザノン、痩身の男が大臣兼教団守護隊司令官、ギルゲである。
ギルゲが少し聞いただけではもの柔らかな、だが明らかに違う声で切り出した。
「法王猊下、予想通り異教徒共が集結を始めました。チャンスです。」
「そうか、万事任せよう。これ以上異教徒二話が国土を蚕食させるな。」
答える法王。見かけから想像するより甲高い声だ。じろり、とギルゲをにらむ。。
「しかし、本当に勝てるのだろうな?
今まで当たってきたのは正規軍とはいえ、連中ことごとくこれを破っているそうではないか。」
それを聞き、ギルゲは笑った。すべてが自分の思うがまま、と言った笑みで。
「ご安心を、猊下。切り札がございます。」
「おお、では例の・・・」
「はい」
にこやかに答えるギルゲ。
その背後に立つ影が、一つ。
その影は、非常に特徴的な鎧を着ていた。
第四幕 軍団集結
「ダイさん、来るよ怪獣人軍だ!凄い数だ、ネズラノープルに向かってる!それにパイラ軍も!」
木に登って辺りを見回していたテラが叫んだ。
「予想より早い・・・これじゃ合流が間に合わないな・・・」
ダイがぼやいた。結局完全にこちらの味方になってしまった怪獣人第二軍と一緒に
あらかじめ待機していたダイの味方達と合流するつもりだったのだが、これでは間に合わない。
困っているダイを見てガメラが豪快にいった。
「なあに、合流しなくたって大丈夫大丈夫。何とかなるって。」
楽天的である。
だが、その脳天気さがここまで彼女を前進させ、結果として怪獣人の一部とパイラ人の一部の歴史的和解を現出したのだ。
「さっ、いくぜ!」
「あのー・・・」
今しも出発しようとしたガメラにおずおずと一人のハイパーが声をかけた。
「私達イリス様達と、おなじハイパー達と戦うことになるんでしょうか。」
「いや」
ガメラは、自信を持って言った。
「それはない。イリスの性格は、あたしが一番よく知っている。」
ガメラ達が向かっている間に、戦いは始まってしまっていた。
「「「者共、ここで負けたら後がないぞ、かかれ〜〜〜〜!」」」
正規軍の最後の部隊が集結し、息もセリフもぴったりの三将軍の指令の元攻撃を掛ける。
教団守護隊はまだ影も形もない。第一、三将軍は教団守護隊が来ることすら知らなかった。
対する怪獣軍は、まずジグラが前に出た。
「食らえ、地震発生光線!」
言うなり構えた杖から光が地面に放たれ、吸い込まれた瞬間。
「じ、地震だ〜〜!」
地鳴りが起き、本当に立っていられないほどの揺れとなる。
パニックに陥るパイラ軍。
「お、おのれ!」
「ひるむな!これでは相手も攻撃は無理!落ち着け!」
そして、地震がやんだ。
「よし、かか・・・」
れ、と言うつもりだったミータン将軍だが、
敵陣に二人の見慣れないダイエイ戦士が出てきていた。
一人は水色の薄手の服で頭に縦に長い先の別れた独特の、イカの足を束ねたような帽子を被った赤毛の少女で、
もう一人は・・・いや、よく見るともう二人だった。
銀色の髪をした鏡で映したようにそっくりな少女二人が二人羽織のように二人で一つの
昆虫のような巨大な鎧を着ていた。
赤毛の方が口を開いた。
「ようやっと私達の出番ね、レギオン。訓練の甲斐があったわ。」
銀色の髪の二人が答える。二人の声が綺麗にハモっていた。
「「その通りねバイラス。ボク達の力、見せてあげよう!」」
それを聞いて、ミータン将軍ははっとした。
「いかん!攻撃しろ!」
が、相手の動きも早かった」
「ん〜〜〜〜〜〜っ・・・」
レギオンが力んだ。頭に被っていた兜の全面が開き、ばちばちと周囲に配された触手と放電する。
「えいっ!マイクロウェーブ・セル!」
じばばばばばばばん!!!
凄まじい放電と共に青白い光が放たれ、大爆発が起きた。
「どわーーーーーー!」
「今度は私の番だ!」
そういってバイラスが乱れた敵隊列に飛び込んでいく。何とか反撃しようとするパイラ軍だが。
ばし!ばし!ばし!ばし!
手足にプラスして頭に被った帽子の触手が伸び、周囲をなぎ払う。
「それーー!」
「はっ!」
「うわ〜」
パイラ軍の壊滅は時間の問題だった。
と、その時!
「待てーーーーーーーい!」
マーシャ将軍がいつか聞いたことがある声が響き渡った。
第五幕 以心伝心
そしてマーシャ将軍は見た、かつて自分を助けた少女の姿を。
「おお、ガメラ殿!」
そして怪獣人軍の兵士は見た、裏切り者の姿を。
「ガメラ!!」
そして総統イリスは見た、かつての幼なじみを。
「・・・・・・・・・」
はらはらしながら、そのイリスをジグラが見つめている。
不意に、イリスの目が細まり、次の瞬間、信じられない物を見たように見開かれた。
「?」
それに気付いたジグラは、イリスの視線の先を目で追った。
「!?」
そこにいたのは、怪獣人第二軍と、ふたりのパイラの人間だった。
一人は十二歳くらい、もう一人はもっと年上、十八、九歳といったところの、どちらも男である。
「そ、総統。これは一体・・・」
ジグラの問いに、イリスはただ一言だけいうと、ゆっくりと歩き出した。
「待っていろ」
そして、ガメラも。
そうして二人で森の中に入っていく。そして、完全に見えなくなった。
その場にいた全員が、緊張した面もちでそれを見送った。
ここで、全てが決まる。
そう思った。
が。
「で、何の用?」
「ふざけるな!」
その瞬間そんな会話が聞こえ、全員がこけた。
空気が、変わりつつあった。
第六幕 七転八倒
部隊から離れた森の中、かつての幼なじみ同士は向き合った。
まずガメラが口を開いた。
「で、何の用?」
に、と笑いかける。
「ふざけるな!」
イリスは激高して叫んだ。
「よくも私を、ひいては怪獣人全体を裏切ったあげく部下達までたぶらかしてくれたな!」
「違うよイーちゃん」
「イーちゃんなどと呼ぶな!私とお前はもうそう言った仲ではない!敵なのだ!」
ガメラは微笑んだ。
「イーちゃんはイーちゃんだよ。虫取りにいっても虫が可哀想で何もとらなかったり、
蛙に驚かされて失神したり、他の人が怪我をしたのを見ただけで泣いちゃうイーちゃんじゃないか。」
イリスはそれを聞いててきめんに慌てた。必死にガメラの口をふさぐ。
「ずわーーーーーーーーーーーっ!やめろ黙れいうな!
部下たちや敵に聞こえたらどうする!」
「可愛い人、って思われて親密度が上がる」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ばたばたともがくイリス。もがいた拍子に、「仮面」がはずれかけた。
「!」
慌てて「仮面」を押さえるイリスに、ガメラはもう一度笑いかけようとした。
が、それより先にイリスが怒鳴った。
「いい加減にしろ!」
怒鳴るやいなや、イリスが動いた。かぶりなおした仮面を片手で押さえ、もう片方の手甲から鋭い刃物を飛び出させた。
背中の鎧から延びた長い触手が蠢き、先端に光がぼお、と灯る。
「勝負・・・」
イリスが続けて何事かいおうとしたとき、ガメラは突然予想外の行動に出た。
いきなり鎧を脱ぎ捨てたのだ。(服は着ている。がっかりした奴は死刑)
「な!?」
そして、いった。
「最終決戦、はしない。」
「あ・・・・・」
瞬間、イリスの「仮面」がはずれた。
ガメラの笑みが、脳天気に深まる。
「白い鴉、見つけたよ?とっても沢山。もうすぐみんな来る。」
・・・
イリスは複雑な表情を浮かべた。
ばん、とその肩をガメラが叩く。
「ま、小さいことも今までも気にしない気にしない!とにかく、これからはうまくいくって事よ!」
第七幕 絶体絶命
「・・・」
イリスは、未だ思案顔だった。
ガメラは、ただそれを黙ってみている。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
そしてとうとう、イリスは口を開いた。
「・・・何といったらいいか、巧い言葉が思いつかないんだが・・・」
「いいっての、あたしたちがしゃべっているのは言葉、セリフじゃないんだから。
小説の登場人物じゃあるまいし、そんないい言葉ポンポンでないっての。」
イリスはふ、っと笑った。
「ははは・・・たしかにそうだ。」
そしてまじめな顔に戻る。
「乗るよ、お前の話に。」
「やったーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ガッツポーズを取るガメラ。イリスはそれを眩しげに見つめていた。
これで全てがうまくいく、ガメラはそう確信していた。
その光景を見るまでは。
本隊に戻ったガメラ達の舞にあったのは、えぐれた大地、倒れ伏す仲間達、周囲を取り囲む、黒い僧服の軍団。
そして・・・
「お・・・おまえ・・・」
そして、どう見てもダイエイ戦士にしか思えない、それも、亀の甲羅のような生体鎧をまとった、長身の少女。
「最重要目標補足。攻撃開始。」
全く感情の色のない声でそう言うと、その少女は唐突に攻撃を仕掛けてきた。
「ぬっ!!?」
イリスの四本の触手が超音波メスを一斉掃射する。
「・・・・・・・」
全く無言のままその少女は腕に持った盾を構えて突っ込むと、そのままの勢いで体当たりをした。
ずどどどどどど、・・・どーーーーーん!!めきめき、ずしん・・・
「イ、イリスーーー!」
それだけでイリスは数十メートルは吹き飛ばされ、なぎ倒した木々に押しつぶされた。
「このっ!!」
拳を握りしめるガメラ、だが出来たのはそこまでだった。
「・・・っがっ・・・は・・・・・・」
次の瞬間には、距離を一瞬で詰めたそいつの拳がガメラの腹にめり込んでいた。
炎を帯びたその拳に、ガメラの腹鎧が砕かれる。その嫌な音が消えるのと同時に、ガメラの意識も消えていった。
・・・く、くそ・・・これじゃ脈略がなさすぎるぜ・・・はなしなら、できがわるいってとこだ・・・な・・・
最後にガメラは、そんなことを思い浮かべていた。
第三話終わり
第四話に続く。