最終章 決!
第一幕 大危機
「う・・・ぐふっ・・・」
暗く冷たい闇の中。
ぞんざいな石畳の上。
同じ材料の天井の下。
不必要に太い鉄格子と、分厚い石壁の間で。
ガメラは倒れ伏し、呻いていた。
「ぐ・・・」
エビのように体を丸め、急に反り返りのたうつ。
「っが・・・はあ・・・はあ・・・、む・・・」
震える口が、何とか言葉を絞り出す。
「・・・む・・・無理だって・・・このタイトルで『大ピンチ』って読むのは・・・?はっ!?」
がばと跳ね起き、途端に再度倒れる。
「い、痛っ、痛いたたた、く、くそ、何か変な夢だった・・いや、そうじゃない!
あの変な奴に殴られて・・・ここは!?」
とりあえず、ガメラが何の夢を見てかような寝言?をいったかは永遠の謎となった。
「くうう・・・体中にがたが来たみたいだ。動けやしない・・・でも、寝てるわけにも行かないな・・・」
そろそろと体を動かそうとするが、わずかに動かしただけで激痛が走る。
「駄目だ。でもあいつ、一体何なんだ?あの腕といい、何よりあの格好はどう見てもあたしらと同じ
怪獣人それもダイエイ戦士だよな?」
暫く考える。
結論。
「ま、おおかたあの陰謀マニアのギルゲあたりがなにかしたんだろ、はあ、痛い、呼吸するのもつらいわ、こりゃ。」
「誰が陰謀マニアかねガメラ君!」
「ぐああああああああああああああ!!!」
いきなり怒鳴り声と同時にドアを思い切りぶつけられ、ガメラは絶叫した。
第二幕 大喧嘩
「ふっふっふっふっふ・・・」
痛む体に扉をぶち当てられてもがくガメラに、ギルゲは笑う。
その傍には、甲羅型の鎧を身にまとった少女が無表情で興味なさそうに立っていた。
「もっと上品な言葉遣いを心がけた方がいいよガメラ君。」
にこやかな、だがガメラがイリスに向けた笑みとは違う笑いだった。
「陰謀マニアを陰謀マニアっていって何が悪い!」
「なら私もあなたを教義に従って異教徒、つまり「悪魔」と呼ばせていただくよ?」
「結構。かえって偽善に虫酸が走らずにすむさ。」
全く表情を変えずに言うギルゲにガメラは言い返した。
「それより一つ答えろ。イリスや他の怪獣人、テラやダイ達はどうした!!」
「答える義務はないだろう?」
「確かにないね。」
「でも、ま、教えて差し上げてもいいでしょう。「悪魔」さん、静かにして耳を澄まして下さい。」
ガメラは静かにした。ギルゲの言うことに従うのは置いておいて、とにかく仲間が心配だった。
静かにして、二秒、三秒・・・
かすかに響く、肌が、肉が打たれる音。
声が聞こえないのが、かえって痛々しかった。
そして、ガメラの歯が鳴る音。
「てめえ・・・・・・」
「何が起こっているかは、ご想像にお任せいたします。ですが、間違いようはないかと。」
そしてギルゲはゆっくり馬鹿丁寧に御辞儀をすると、牢の出口へ向かった。
「刑は極刑と決まっていますが、日取りがまだでしてね。
公開処刑に丁度いい日になるまでここでお待ちいただきたい。」
一度も振り返らずにそのまま歩き、牢の戸を閉めながらギルゲはまた続きを口にした。
「見張っておけ。そして少し遊んでおけ。」
第三幕 大衝撃
「・・・・・・」
『少し遊んでおけ』そう命令されたにもかかわらず、甲羅をまとった少女はただ黙って立っていた。
そして、ガメラをじっと見つめている。
「・・・どうしたんだ?」
ガメラは聞いた。
「何で黙っているんだ?」
「・・・」
更に暫く沈黙を守ったまま、ガメラを彼女は見つめた。
「しゃべれないのか?」
「・・・いや、話せる。命令理解に必要なだけは教わった。」
「!」
いきなり、少女は話しかけてきた。だが、そんなことより彼女が言った言葉の意味がガメラを驚かせた。
「め、命令理解って・・・お前、一体・・・」
「何を驚いているんだ。それより質問がある。答えろ」
が、当の相手はまるで当然といった風な顔で、きわめて事務的に言葉を続けた。
「答えろって・・・、そ、その前にあたしの方の質問に答えてくれないか?」
ガメラは慌てて質問を返した。どうしてもこの少女の正体を知りたかったのだ。
「・・・交換条件で、交互にというのならいい。」
彼女は、素っ気なくそう答えた。
「・・・いいよ」
第四幕 大問答
「お前は誰だ?」
そう、ガメラは問うた。ごく簡単な問いだった。
「・・・?・・?・?????」
が、相手は悩んだ。
「おいおい」
「考えてみたら・・・一度も名前で呼ばれたこと無かった・・・」
「おいおいおい!」
やっぱりかあ!?
ガメラは先程からの不吉な予感が的中したかも知れないと言う思いに駆られた。
その時、甲羅の少女はこういった。
「名前、つけてもらってなかったな・・・」
「・・・誰に?」
「父にだ。」
「父って、誰?どんな人?」
「ザノン、かギルゲか・・・」
「は?」
瞬間言われたことが解らず、ガメラは聞き直した。
「私は、ギルゲとザノンの娘、だ」
「はあああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?!?!?!?」
ガメラの頭の中に、「おえっ」とくる光景が浮かんだ。
次の瞬間、必死に頭を振ってそのイメージを追い払う。
「本当は、違うんだがな」
ガメラのもがきは、その言葉が聞こえるまで続いた。
「・・・というと?」
バタバタしたせいで荒くなった息を押さえ、ガメラはきいた。
「単にあの二人に育てられただけだ。」
「そ・・・そうか・・・」
ガメラは今まで生きてきた人生の中で一番安堵した。最悪の事態は避けられたようだ。(何の?)
「もういいな?今度はこっちが質問するぞ?」
「え?ちょっとまって!?」
「駄目だ。答えろ。」
第五幕 大雑把
そして二人のとんちんかんな問答は続いた。
「そもそも、そう言うお前は誰なんだ?」
「はあ?」
真顔で聞き返され、ガメラは呆れた。
「お前、自分が戦う相手のことも知らなかったのか?それよく戦う気になったな。」
「父上らの命令は絶対だ、私はそれに従うだけだ。」
当然、といった顔で少女は淡々と言った。
「そう言うもんかねえ。ま、質問には答えてやるよ。あたしはガメラ。怪獣人族のダイエイ戦士だ。」
名前を言ったガメラに、更に質問がなされる。
「じゃ、ガメラは何で私に倒されなければならなかったんだ?」
ガメラはずる、と姿勢を崩した。
「何か気になる物言いだなあ。・・・ま、いいや。話すと長いんだが・・・」
そしてガメラは、今までのいきさつを全部語った。
一々細かいところまで語ったので、かなり時間がかかった。
「・・・というわけだ。」
「・・・」
ようやっと話が終わり、聞いていた方は思案顔になった。
「・・・」
話していた方も思案顔になった。
相手がそれについてどう教わっているかが、彼女の頭脳を悩ませたからだった。
その時。
バタン!
扉がまた開いた。
第六幕 大馬鹿
扉が開いた。
その先には、当然さっきのと同じようにギルゲが立っていた、
二人を見る鳴り怒鳴った。
「離れろ!」
「はい」
すぐ少女は命令に従った。
ギルゲの側にきた少女に、更に怒鳴りつける。
「馬鹿者!お前は単純だから迂闊に口車に乗るなとあれ程言って置いたろう!」
「はい、すいません父上」
「折角蛮人から離れて文明社会で暮らせる用にしてやったのだ、お前のために。
好きこのんで近づくでないぞ」
「誰が蛮人じゃい!」
怒るガメラ。
「すんでる土地が首都からやたら遠いからか!?方言話すからか!?
家の建て方が違うからか!?」
その怒りをギルゲは軽く受け流すように、実に簡単に言った。
「そりゃ、頭から大蜥蜴をかじったり子供を生け贄に捧げたり目を開けて寝たり遠吠えするところだ。
正直、人間のすることとは思えんよ。」
「一寸待てい!」
ガメラは思った。
(おいおいおいおい、まさかとは思うが・・・マジか?マジでそう信じてたから・・・)
「とにかく、やってしまえ!これ以上放っておくとまた暴れるかもしれん!」
「ん」
命令をされた少女は、少し嫌そうに身構えた。
「・・・すまんな。命令には逆らえない。」
「逆らえば?」
ぼそりと言い訳っぽく言う相手に、簡単にガメラは言った。
「へ?」
「だって、どう考えてもお前ギルゲより強うそうじゃん。出来ないはずはないだろ?
それに親としても反抗期があった方が娘の成長を確認できるってもんだし・・・」
じっとギルゲの方を振り返る。
「・・・い、いらんわい反抗期なんぞ!」
引きつった顔でそう言いながらにじにじとギルゲはバックした。
そのまま出口までいき、一気にだっ、と走って逃げにかかろうとする。
「あ!」
叫ぶ暇も有ればこそ、あっという間に壁の向こうにギルゲは消えた・・・が、その方向から声が響いてきた。
「一寸待った。ここは年貢の納めどき、踏み倒さないで下さいよギルゲ大臣」
「な!?だ、ダイ・マ・ジン!!貴様一体どうしてここへ!
ここまでの道は教団守護隊がガードしていたはず!どうやって突破したのだ!」
「いや、なに。顔を下から上へなで上げただけですよ。とにかく、覚悟!」
「なんじゃそりゃ、って、ぐわっ、ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
・・・・・・
その声を聞き、ガメラは投げやりにいた。
「おーい、ダイ、程々にしといた方がいいみたいな感じだぞ〜〜〜」
第七幕 大団円
戦い?は、全く盛り上がりを見せないまま、あっけなく終わった。
事実は小説より退屈なり。
すっかり忘れられていたテラが、牢屋に忍び込んでダイを救出。
既に集結はしていたけど状況に置いてけぼりを食らっていたダイノ同志達と合流。
それが、怪獣人族と共についに立ったのだ。
捕獲したダイエイ戦士達に思いっきり気を取られていた教団はこれに対処できず、あっけなく降伏した。
王族、大臣達は軒並み処罰されたが、「信じられないことに誤解だった」ため、命までは取られなかった。
その後、怪獣人族とパイラの民は一つとなり、仮に両種族合同の直接民主制による政治が行われることとなった。
そして・・・少し時は流れた・・・
ポン、ポン、ポン!
ぱぱぱぱーん、ぱぱぱぱーん、ぱぱぱ・・・
景気よく花火が鳴り、音楽が流れる。
所は旧法王庁を改造して作られたパーティー会場。
そこは、大量の人出でごった返していた。
何のパーティーか?
答えは、ここが元法王庁、つまり教会もかねている事からも明々白々であった。
「いやー、まさかあの二人が結婚するときが来るとわね〜・・・」
客の一人、スーパーはそう感慨深げに呟いた。
「そうだな・・・」
「本当、実感がわかないけど・・・」
「ある意味当然じゃないか。」
「だってさ・・・」
応じるダイエイ戦士達。今日は私服だ。
「いいわね〜、結婚式!」
「あたしもはやくいい彼みつけたいな〜」
「そうよね〜。でもさでもさ。」
「静かにしろ!新郎新婦の入場だぞ!」
いつものごとくがやつくハイパー達を黙らせるギャオス。相変わらずきまじめな苦労人である。
「はーい!」
そして教会の大門が開き、
「ああ、ついにこのときが来たんですねお姉さま・・・」
「アホ〜〜〜!うちは結婚するなんて、一っ言もいっとらんやんけ〜〜〜!嫌やーー!助けて〜〜〜な〜〜〜〜!」
・・・出てきたのはギロンとスペースだった。
「お幸せにーーーー!」
「うるさいわーー!」
必死にもがくギロンだが、恋する乙女の力は強かった。
体格に劣るスペースにずるずると引きずられていく。
「所で、ガメラはどうしたんだ?」
ふ、と思いだしたようにイリスは傍らのジグラに尋ねた。
選挙で執政官に選ばれた後も、やはりよきパートナーとしてジグラと仕事をしていた。
「はあ、何でも北の方で事件があったとかで、テラやダイ、あとこの間ようやっと「ヘイセイ」って名前が付いた
ギルゲの娘と一緒に・・・」
「相変わらずだな、あいつも・・・。」
北の国境。
派手に当たりをぶちこわし、高笑いする黒髪で三つ編みの、ダイエイ戦士によく似た格好の少女。
「はっはっはっはっはっは、あたしはゴジラ!ここから少し離れた国、トーホーから来た!
強い奴を捜しにだ!そこのお前、強そうだな。あたしと勝負しろ!」
その視線の先に立つ物が一人。
その少女は炎のように赤い髪と金色の瞳を持ち、亀の甲羅のような鎧に身を固めていた。
彼女の名は、ガメラ。
そして、ガメラは言った。
「来いよ。」
異世界怪獣的少女大戦ガメラ 完