第二話 本来はない多人
第一幕 総統  


怪獣人の集落のなかで、最大の規模をもつ、エイ・ガ・カン。
その住民の全員が、一人の少女の演説に聴き入っていた。
集落の中央、仮設の粗末な建物、実は怪獣人軍の本部の屋上からよく通る声で演説する
その少女の名はイリス、怪獣人軍の総統。
鋭角的な仮面をかぶり、貝のような甲羅のような鎧を着ているのでちょっと見ただけでは
何歳かよく解らない。
少し低いアルトの声と、堂々とした態度を無視して注意深くみれば、なんとか16か17・・・
ガメラと同じくらいの歳だと気付くかもしれない。
それくらい、少女は大人びて見えた。
演説の内容もまたしかり。
民をして、戦士をして、力を与えずにいられない言葉。そして、重要なことが一つ。
ネズラノープルではただの反乱として扱われているにこの戦いは、ここでは自由への戦いなのである。
イリスの言葉、そして、共にある民の心が、それを語っていた。



演説が終わったあと、イリスは自室に戻っていた。
その自室は、仮にも指導者の部屋か、と思うほど質素な作りになっていた。
無言のまま、少し疲れたような様子でイリスは実用一点張りの机の前に腰を下ろした。
それからすぐに、部屋の扉をノックする物が現れた。
「イリス総統閣下、参謀のジグラです。報告したいことが。」
「入れ」
そうして入室してきたのは、頭に魚のような帽子をかぶり、長い青のローブをまとった

ダイエイ戦士らしい女性だ。
「単刀直入にいいます。アンマク要塞攻略作戦の際行方不明となり、死亡したと思われていた我が軍の兵士
ガメラの生存が確認されました。」
「!!」
その言葉を聞いた途端、イリスの様子が変わった。
それまでの威厳のある、近寄りがたい雰囲気が崩れそうになり、本人がそれを押さえよう
としているのがはっきり見て取れた。
「総統・・・」
ジグラが優しい声で語りかける。
「ここには私以外誰もおりません。御無理なされる必要はないかと。」
かたり、と音を立て、イリスの仮面が文字通りはずれた。その仮面の下は、優しげなごく普通の少女の顔。
もう少し詳しく説明するとすれば、その顔は、この世界では何者をも指さない人名で
「ヒラサカアヤナ」に酷似していた、と言える。
その目は、限界まで涙ぐんでいる。
「・・・よ、良かった・・・。てっきり、もう・・・駄目かと思ってた・・・」
耐えきれず、涙がこぼれる。
ジグラは、そんなイリスに慈しむような、そして心配するような目で眺めた。
「すまない・・・だが、今は総統ではなく、ただのイリスでいさせてくれ。
正直、みんなの命運が私にかかっていると思うと、・・・重圧に押しつぶされそうになる。
ガメラも、私のせいで死んだりしていたら、と考えていたんだ。
でも、私にはこの国の惨状を見過ごすことも指導者として出来なかった。だからこそこの戦いを始めた。
皆も、そしてガメラも、私と共に闘ってくれるといった。
でも、・・・やはりつらかった。皆を巻き込んで。」

ジグラは尋ねた。
「しかし、何故民衆や私以外のダイエイ戦士の前では、御無理をしてまで感情を殺されているのです?」
「皆に秘密にしているのは、私自身の自信のなさと、不安を与えたくないと言う心からだ。
お前には隠さないのは、頭のいいお前のことだ、どのみち感づくだろ。
あと、幼なじみのガメラにも隠していない。」
そう言ってから、イリスは嬉しそうにほほえんだ。
「本当に、生きていてくれたんだ・・・」
それを見て、ジグラの表情が曇る。
少しの逡巡のあと、彼女は告げた。
前線から報告された出来事を。
 


第二幕 事態  


「そうか・・・。ガメラは、パイラと怪獣族とを真の意味で友好関係にしようとしてたのか・・・すごいなあ。」
「ん。これはある奴からの受け売りなんだけどね。テラに解ってもらえて嬉しいよ。」
「でもガメラ、一つ聞いていい?」
「ん?」
「何で今俺達温泉にいるわけ?」
そう。彼らは今、カイテイ温泉という温泉に来ていた。
「しかたないじゃん。あのままネズラノープルいたらまずいし。誤解を解くために一時身を隠さなきゃ。
それにはこういう所が案外いいの。行きつけの温泉宿なんて、意表をついてるでしょ。」
そう言ってガメラはそうせざるを得ない現状を再認識した。
あのあと空から降りてきたギャオスは、日射病でいきなりダウン。
普段は緑に発光してる髪が赤くなってたってことは、よほど長時間日光浴びてたな。
日光に耐えられないくせに仕事熱心なんだから。
でも、まずいな。バルゴンもぐったりしてたし、あれじゃあたしが反乱したってことになって
理由なんてつたわらないだろうなー。イリス、あたしのことどう思うだろ。
「でも、法王庁でのことは誤解じゃないような気が・・・」
「あたしもそう思う。」
仕方ないんであのあと、マーシャ将軍を引きずって法王庁に乗り込んで、パイラ側を説得、いや、脅迫かな?
とにかくしようとしたんだけど。
法王ザノンも、大臣のギルゲも思いっきりあたしのこと蛮族扱い。
まあ、考えればあいつらがことの発端だし、説得、か脅迫?に応する訳ないか。
でもそのあと口げんかから乱闘になり、しまいにゃ法王庁が半壊するほどの大騒ぎになったのは、まずかった。
でも、やはりあの二人だけはどうにも許せなかったし、な。
あーあ。やっぱ頭使う仕事ってあたし向いてないのかも。
「あいつ」みたいにはいかないなー。これじゃ両方から追われちゃうよ。
せいぜい収穫といったら、マーシャ将軍が三つ子でキララとミータンという名前の弟がいて
そいつらも将軍だってことが解ったくらいかな。あの男、馬鹿だけど悪くはなさそうだったしな。

とか考えてるガメラは知らなかった。
最精鋭と呼ばれる怪獣人第二軍のダイエイ戦士達が、ここに慰安旅行に来ていることを。   


第三幕 人間関係  


ギロンは、大浴場の鏡に映った自分の姿、つまるところ日々の鍛錬の成果を眺めた。
おおむねよし。
訓練のたまものであるその引き締まった身体は、いつも彼女の思い通りに動いてくれる。
彼女はきりっとした目鼻立ちや艶のある黒髪といい、プロポーションといい、申し分ない美人なのだが
本人にとってそっちは関心の外らしかった。
ほんの少しの時間だけそんなことを考えた彼女は、早速身体を洗おうとした。
その時、後ろから声がかかる。
「ギロンお姉さま、お背中流しましょう。」
自分のことそう呼ぶ奴は、とりあえず一人しかいないはずだ。
「スペース、その呼び方やめろやっていったやん。」
辺境の怪獣人族の国の、さらに西の方オー・サカの出身であるギロンは
生まれ故郷の地方独特のイントネーションをもつ方言で抗議した。 
二年後輩のスペースだ。たしか、今年で13。つぶらな大きい目が特徴的な結構可愛い子だ。
「いいじゃないですか、お姉さま。」
「変な噂が立つやんか!特にハイパー連中に!連中各村の神というより、うわさ話の神に仕えてるって感じやしな。」
「私はお姉さまと一緒に噂になりたいな。まあそれはおいといて、早速かからせてもらいます。」
そういって背中をこすり始めるスペースに、ギロンは思わずため息をついた。
あーあ、べたべたされるの解ってたんやから、他のが入るまで待てば良かった。
でもトレーニング終わって汗かいてたしなあ。
それにしても、何が悲しゅうて女に好かれなあかんねん・・・。そんなことをとりとめもなく考える。
ちなみに本人は知らないが、彼女を慕っている同僚は結構多い。
そのさっぱりした性格や、戦闘の時に見せる勇敢さ、強さが原因だ。
「相変わらずおきれいですね。」
「気色わるいこというなや。それよりはよ流せよ。」
「はーい。でもその前に、美容にいいマッサージをば・・・」
とかなんとかいいつつ、スペースはギロンの身体を触りだした。
「ふひゃあっ!こ、こらどこさわってるンや!ふぁ・・・ちょ、や・・・やめんかい!!」
ごん!
ギロンが手加減して放った(力がはいんなかったのかも)肘がスペースの頭に当たった。
「いたっ!」
「やめろって前も言ったやろが!今度やったらゆるさへんで!」
スペースはまっすぐな目で言った。
「あたしお姉さまになら羽と足を切り落とされて輪切りにされても悔いはありません!」
「そうじゃないやろ!!」
あーあ、と思った矢先。
ギロンの耳は遠くの方で聞き慣れた声が響くのをとらえた。

私信(これも作品の一部。載せるときは一緒に・・・というか今回の言い訳)
こんなネタやるんじゃなかった。
かいててむちゃはずい。
でも面白い設定だと思ったんだがなあ。
思いつきに留めるべきだったか?



第四幕 独白  

「はふううー・・・」
ガメラは肩までお湯につがって頭を湯船の縁に預けた。
当然のことながら、テラは男湯なので今は一人だ。
天井の明かりをぼんやりと見つめる。
「これからどうするか・・・」
なんもおもいつかん。
いや、まじで。
こうしてみると、とことん自分は細かいこと考えるの苦手だなあ、と再確認してしまう。
第一、今考えるといきなり前線に変装して現れて説得を行う、という行動自体がまちがってたかも。
説得も全然うまくいかないし。
まあ、いかなくて当然かも知れない。
パイラ教の成立からこっち、我々は常に異教徒としての迫害を受けてきた。
それこそ、小は乗合馬車の乗車拒否から大は歴史上何度か話し合いが決裂するたびに行われてきた戦争。
自分を含めたダイエイ戦士が、その神の力を使うすべを発見したのは七年前。
それ以前では、常に一方的な虐殺といえる戦いであった。
だからこそあたしもイリス、あの幼なじみの計画に乗ったのだ。
だが。
「知らなかったんだよねえ。あたしもイリスも」
虐殺等の情報は、あっちの一般人には殆ど知らされてないってことに。
そしてそれにより間違った差別意識が植え付けられる。
大臣のギルゲが情報操作を行っていたのだ。
恐らく、将軍も何も知るまい。
そして、話を聞いたときにはあまり信じれなかったけど
法王庁に乱入したときに見た文書にははっきり書いてあった。
今まであたし達を迫害し続けてきた武装集団は正規の軍隊ではなく
法王と大臣の私兵とも言うべき教団守護隊だったのだ。
連中、ホントに仮にも聖職者なのだろうか。
なんにしろ、このまま戦ってもこれではいかん。問題は解決しない。何とかしなくてはいけない。
彼女にそう語った青年の顔が、急に鮮明に思い出される。
鮮烈な恋しさと共に。
「あいつと話がしたいなー。」
そう呟いてから、慌てて付け加える。誰も聞いていないのに。
「決して色恋沙汰とかではなく、これからどうしようってことでだからな。」
もっとも心の中では、その発言を否定していたのだが。
・・・・・・
「ってそうか!そういえばこの事実はなしてないじゃないか!
これじゃうまくいかんわ!あー、あたしってどうしてこうなんだ!」
思わず叫んだ。
その声が洗い場にいた人の耳に届いた。



第五幕 好敵手  


そろそろあがろうかな。
そう思ったガメラが立ち上がったとき、彼女の目はずんずんと足音をたてそうな勢いでこちらにやってくる
かつての同僚の姿をとらえた。
そいつは怒鳴った。
「ガメラぁーー−!ここにいたんか!」
大浴場にいるせいばかりでもない響く声だ。それにあの独特のイントネーション、間違いない。
「なあんだギロンか。温泉で彼女とデートとは、相変わらずだね。」
「だれがスペースとデートするかい!あいつは女やぞ!ええかげんにせえ!」
ガメラは笑った。
「わかったわかったって。ただの冗談さ。他の奴らならともかくあたしは本気にしてないよ」
それでもまだすこしぶすっとした顔でギロンは呟いた。
「なら冗談にしても言うなや。気にしとるんやから。悪気がないんならええんやけどな。」
そう言って渋々帰るギロン。
が、すぐさま向き直る。
「って帰ってどうすんねん!やいガメラ!お前の悪行に関しては色々聞いたで!
かつてのライバルとして許すわけにはいかんわ!勝負や!」
「しかたないな、解った。」
そういいつつも、ガメラは心の中では猛烈にぼやいていた。
あーあ、また前と同じパターンだ。
大体ライバルといったっておまえが勝手に言ってるだけじゃないか。
ほんとにもお。

だが、実はガメラは知らないものの前回と同じなのはそれだけではなかった。
今回もまた、横から見ているものがいたのである。
歴史は繰り返す。
「始まったわよ、ジャイガー。この勝負あなたどう見る?」
そう言ったのはネズラノープルで日射病で倒れたギャオスによく似た服を着ていた。
だが、ハイパーではない。
ブラウンの服とハイヒールの靴、赤いサングラスは全くの別物だ。
「どう見るもこう見るもないすよスーパー隊長。
ギロンは元からガメラをライバル視してますけど、結局勝ったことないじゃないっすか。
300戦全敗」
これは怪獣人軍の中ではよく知られた話である。ギロンとガメラの仲の良い決闘という名で。
その事実を告げたのは小麦色の肌に目深にかぶった帽子が特徴のダイエイ戦士、ジャイガーだった。
「確かにあの二人の決闘ごっこは有名よ。その結果も。でも今回は違うわ。
何としてもギロンに勝っててもらわないと。」
その言葉の言外の意を読みとったジャイガーはうなずいた。
「まーかせて。その手の後方支援と裏工作にかけてこのジャイガーの右に出るものはないから。
あと一応の用心としてハイパーとスペースにも命令だしときます。」
「ふふふ。あなたもだいぶ解ってきたようね。ま、それでこそ私の部下にふさわしいってとこかしら。
やっぱり勇将の下に弱卒なしって本当ねえ。
それこそ日光に耐えられないような貧弱な妹とは格が違うって所かしら。
ほーーーーっほっほっほっほっほ!」
ジャイガーは小声で呟いた。
(これさえなけりゃいい上司なんだがなあ。
妹と仲悪いのはともかくその高笑いだけはやめてくれないかなあ)
この姉妹の不仲も、怪獣人軍では常識であった。

 

第六幕 一服  


がちゃがちゃと音を立てて、ギロンは自分の鎧を着た。
鱗状で、体と肘から先、膝から先を覆う。
そして、兜。
戦場において、ガメラ以外のいかなる相手にも負けたことのないその勇姿を特徴づけるそれは
かなり普通の兜とは異なっていた。
ヘルメット部分のてっぺんから、呆れるほど巨大な刃物がつきだしているのだ。
それも剣や刀というより鉈か包丁かまさかりといった感じの。
この兜による頭突きが、ギロン最大の武器であった。
その威力は城門や石壁とて木っ端みじんである。
その物凄く重いであろう兜を、ギロンは軽々と持ち上げて被る。
そしてこれからその武器で戦う相手をはったとにらみつけたら。
「ぷっはーーーーーーーっ!!やっぱこれだねーっ!」
そいつはお風呂上がりの牛乳を堪能していた。
「くぉらガメラ!何牛乳のんどんねん!馬鹿にしとんのか!」
そうがなるギロンの手に、ぱし、と瓶が収まった。
「お前の分もかっといたから、そう怒るなって、ほれ」
「・・・・・・」
どういう表情を浮かべるべきか解らない様な顔でギロンは手の中にある牛乳瓶を見つめ、そして飲み始めた。
その様子を、ガメラはじっと見ている。
ギロンも、牛乳を飲みながら横目でそんなガメラを見ていた。
お互いに、相手を見ながら色々考える。が、結局その扱わされた言葉は、
「ふう。さあて、じゃ勝負や!外に出るで!」
と、
「はいはい」
という、その考えとは無関係な物だった。
そして、外へと出ていく二人を、売店の売り子に化けたジャイガーが見送った。
「何で気づかないかなあ、二人とも。」
同じく売り子に化けたスーパーが、きっぱりと言い切った。
「馬鹿だからよ」
「・・・まあ、確かにそうなんですけどね。」
「それより、細工は完璧でしょうね?」
ジャイガーは大きくうなずいた。
「ええ。牛乳にしっかりしびれ薬の「スノーマーク」を入れときましたから。」





第七幕 決闘  


そして、戦いが始まった。
「いくでガメラ!手裏剣攻撃!」
言うなりギロンは頭の刃の側面に着いている十字型の投擲用ナイフ、手裏剣を凄いスピードで同時に二枚投げた。
それがガメラの体に突き刺さるかに見えた次の瞬間、ガメラの手から凄まじい勢いで高熱の火炎が吹き出した。
火炎の勢いに負けて手裏剣が吹っ飛ばされ、地面に落ちた瞬間落ちたところの草が焦げる。
これが前回使うことの無かったガメラの技、火炎噴射だ!
「何回もやって、もう手の内は大体読めてるからな。」
不敵な表情でガメラが呟く。
「次はこっちからだ!」
そう叫ぶとガメラは、今度はギロンめがけて火炎を放った。
「ちいっ!」
目の前に迫る火炎を、ギロンは慌てて回避した。が、炎と一緒に間合いを詰めてきたガメラが、滑走しながら拳を打つ!
一発、二発、三発!三連続で直撃する。
「どうした!ギロン!」
「舐めるなーーーっ!」
ガメラの一言に逆上したギロンが、頭の刃を砕けよとばかりに振り下ろす!
実は、これこそがガメラの狙いだった。ギロンの攻撃は確かに破壊力に優れるが、重い物を振り回すため隙が大きい。
一発しのげば、ほぼ無防備の状態となる。
振り下ろされる刃を甲羅の盾で防ぐ。
盾と刃がぶつかる瞬間、わずかに盾を傾け、甲羅の曲面を利用して滑らせる。そこに隙が・・・
瞬間、世界が白くなった。
何が起こったのかと思ったら、地面にひっくり返っていた。
見ると、ギロンが振り上げた足をゆっくりとおろしていた。
「・・・手の内がわかてるのは、そっちだけやないんやで。」
この言葉にガメラはショックを受けた。
「「あ、あたしの動きが読まれた!?それもギロンに!?」
「うるさーい!確かにお前相手には三百戦全敗だけどなあ、うちだってこれくらいのことは出来るで。」
「そういう大口は、勝ってから叩きなさいよ!」
そういって、ガメラは立ち上がった。否、立ち上がろうとした。
出来なかった。
(な・・・?)
確かにギロンの脚力は強い。一度だったか、ジャンプ一発で敵要塞の城壁を飛び越え
そのままの勢いで頭の刃で櫓を切り倒したことさえある。
が、いくら強いからと言って、意識ははっきりしているのに体が動かない、という状態の説明にはならない。
(薬か!?)
だとしたら一体何時?
「ほーーーーーーーーーーーーーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!
どうやらうまくいったようね!」
突如として響いた甲高い笑い声に、ガメラは何とか動く首をそちらに向けた。
みると、第二軍司令官スーパーと部下のジャイガーが、ギャオスハイパーの大部隊を率いて立っていた。
全員、超音波メスの発射準備に入っている。
「ふっ、薬で麻痺したあなたなんて、粘着テープにかかったゴキブリより無力!さあみんな、やっておしまい!」
命令一下、鉄をも切り裂く超音波メスが雨あられと発射される。
「邪魔すんな!!!」
が、それをギロンが頭の刃ではじき返した。
はじかれた超音波メスがバスバスとハイパー達の足下に突き刺さる。
「きゃーっきゃーーっ!」
「ガメラはうちの獲物や!お前等には渡さん!やいジャイガー!」
「は、はいっ」
ジャイガーは慌てて答えた。
「・・・こういう小細工をやると言ったらお前しかおらへん。とっとと解毒剤渡してもらおか。」
抑えた声でそういうギロンには、凄まじい迫力があった。
「わ、わかった。これだ。」
その迫力に屈したジャイガーは、一粒の錠剤を取り出した。
「これなら即効でよくなる。」
「そうか。じゃよこせ。」
そういってギロンはジャイガーから薬をひったくると、ガメラに飲ませた。
「後悔するぜ。」
とガメラは闘志にあふれた顔で言った。
「いいさ。勝つから。」
ギロンも負けずに言い返した。
 
 



第八幕 逆襲  


早くも薬が効いてきたガメラは、起きあがり、身構えた。
同時にギロンも。
スーパー達はそれを遠巻きに見ていた。
「どうしましょう?スーパー様。」
ジャイガーが疲れたような顔で尋ねた。
尋ねられたスーパーも多少げんなりしている。
「ああなったらもう止められないわ。好きにやらせるしかないわよ。」
その二人とは対極的に、スペースは実に生き生きしていた。
「ギロンお姉さま、頑張って!」
と、声援まで送っている。
その声を聞いたギロンの表情が、困惑したようにゆがむ。まあ確かに、リアクションに困る。
困ったあげく、ギロンは叫んだ。
「さあ続きや、ガメラ!こいや!」
同時にだっ、と走り出す。
ところがガメラは、ギロンが思っても見なかった行動をとった。
甲羅を投げ捨てたのだ。
目を丸くするギロン。
「油断して悪かったな、ギロン。」
そうガメラはいい、ギロンに真っ正面からぶつかっていった。
いきなりのことに動転しながらも、とっさに刃を振り下ろすギロン。
が、次の瞬間、ギロンは更に驚愕することになる。
ガメラが、左右から平手で挟むようにして刃を受け止めていたのだ。
この世界で初めて行われた真剣白刃取り、であった。
が、すぐにギロンは落ち着きを取り戻した。
「面白い、それでこそ!」
そのまま強引に力を加えてゆく。
耐えるガメラ。が、じわじわと押されてゆく。だんだんと刃が顔に近づいてゆく。
20センチ、19センチ、18センチ、17、16・15・・14・・・13・・・・
12・・・・・11・・・・・・10!
10センチまで刃が接近したところで、ガメラが動いた。
素早くギロンの刃を横へ払う!が、払うのを見越していたかのようなギロン横殴りのパンチがガメラの顔面を襲う。
だがガメラはそれを手で受け止める。そして腕関節を決めながら後ろをとり
羽交い締めのような体勢に入ると見る間にガメラは跳んだ。
足の裏から火炎放射を行い、一気に上昇。そのままの勢いで地面にたたきつける!
凄まじい轟音、そして土煙。
ガメラが動いてからここまでわずか数秒、であった。
土煙の中からガメラが姿を現す。
「こちらの想いを伝えるためにも、お前に答えるためにも、本気でやらないとな」
そう呟きながら。
  
 


第九幕 意外  


「お前達はどうするんだ?」
ギロンを撃退したガメラは、スーパー達の方に向き直り、言った。
「やっぱおれと戦うか?」
その言葉に、ハイパーが何か言おうとしたとき。
「一寸待てや、ガメラ。勝負はまだついとらへんで。」
不意にそんな声が背後からかかった。慌てて振り向くガメラ。
「・・・・・・」
「さあ、こいやガメラ!」
「で、あたしがかかっていったとして、あんたはどうするの?」
「勿論戦うんや!」
「逆さのままで?」
逆さ?そう。
ギロンはさっきの攻撃で自慢の頭の刃が地面に突き刺さり、運が悪いことに
兜の留め金が頭頂部にあって埋まっていることも手伝って逆立ち状態のまま身動きがとれなくなっていたのだ。 
「うるさい!パイラの連中の奴隷に情けなんか受けれへん!いいからこんかい!」
「火炎放射」
ぼん。
身動きできないギロンを、火炎放射が直撃。
手加減された一撃なものの、やはりきつかったらしく煤けたギロンはぐったりしてしまった。
呆れ顔でもう一度振り返るとガメラは言った。
「ま、アレはおいといて。」
ひょいとそっちの方を向いたジャイガーは、一瞬顔を引きつらせて、
「あと、あっちもおいといて。」
と呟いた。
だが、その場にいる全員に、「あっち」の声が聞こえてくる。
「ギロンお姉さま、お怪我をなさってますわ。手当しますから鎧脱がせますね?うふふふふふふふ」
「わーーーーっわっわわっ!やめろスペース!人が身動きとれないのをいいことに・・・」
がちゃがちゃ、かちゃん。何かがはずれる音。
「軟膏を塗りますから、動かないでくださあい。」
「く、くそっ!ああ、兜が脱げたのにダメージで体が動かな、ひゃああ!
うあ、ちょ、はああ、こら、後で酷いぞ!んん、本当に、はうう、やめろおおおおお!!(泣)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その場にいた全員が、何となく動けなかった。
そっちを見ることも、止めることも、こちらの話を進めることもできなかった。
気まずい。
一寸でも隙を見せたら即死しそうな気まずさだ。
が、その気まずさを破る者が現れた。
「おーい、ガメラー、どこー?」
その声にガメラは戦慄した。あの声は!
「くるなテラ!こっちは今一寸色んな意味で駄目だ!」
「え、なんだって?よく聞こえないよ?」
まずい!まずすぎる!
にしても、裏でこれだけ大騒ぎしているのにあいつ平気で風呂に入っていたのか・・・
「おいスーパー、お前司令官だろ!早く何とかしろ!」
「わ、わかってるわよ!スペースこれは司令官命令よ、今すぐ治療?をやめなさ〜い!」
「はーい。」
いかにもしぶしぶ、といった雰囲気のスペースの声。
「はあ、はあ、はあ、た、助かった・・・」
そこにテラがやってきた。
何とかまにあった、と言えよう。(何がどう、とか、そもそも何があったの?と言う質問は受け付けません。作者談)
ところが、テラと一緒にもう一人やってきた。優しそうな整った顔立ちの、パイラ国人らしき青年だ。
騎士風の剣を下げているが、鎧は着ていない。普通の服だ。
「あ、ガメラ。なんかこの人がガメラのこと知ってて会いたいって言うもんだから一緒に来たけど、だれ?」
そう紹介された青年は、ガメラに向かってゆっくりと微笑んだ。
「久しぶり、ガメラ。」
「あ・・・」
それを見た途端、ガメラの表情が変わった。最初唖然とした顔になり、次に幸せな笑みに。
「ダイ!ダイ・マ・ジンじゃない!会いたかった!!」
そういって、ガメラは何とそのダイという青年に抱きついた。
「え〜〜〜!!?」
「ええ〜〜〜〜〜!!??!!?」
「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?!???!?!??!?」
その場にいた全員が叫ぶ。
そして、抱きつかれたダイも慌てている様子、いや、むしろ照れているに近い。
そして、慌てていった。
「が、ガメラ。その、あの、一寸待って。今は再会を喜ぶどころじゃないみたいだよ。
この騒ぎを聞きつけてキララ将軍の部隊がこっちに接近してるらしいんだんだけど。」
「え?」
見ると、遠くの方に土煙。騎兵隊が猛スピードで走っているらしい。
「ま、まずっ!?」
これにはガメラも慌てた。
「これ以上の騒ぎはまずい!テラ、ダイ、逃げるよ!」
「ちょっとまちなさい!」 
と、スーパーが叫んだ。
「な、何よ。」
「どうもあなたに詳しく説明してもらいたくなってね。私達もついていくわよ!」
「わかった。じゃ一緒に逃げましょ」
こうして、ガメラは一時的なことかも知れないが第二軍と合流した。
現場に到着したキララ将軍が見たのは、派手に荒らされた温泉宿の前庭だけだった。

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