第一話 いっつ ざ わあるど
第一幕 開幕之電鈴  

彼女は、歩いてきた。それも、普通の人間にはまず出来まいという距離を。
もう寒くもない季節だというのに、ぼろぼろのフード付きのマントをすっぽりとかぶり、
顔と、わずかに前髪だけを出している。
髪の色は、燃えさかる炎のような、赤。
金色の瞳と共に、この辺では絶無の、珍しい色だ。
が、その奇異性を考慮に入れても、少し汚れていても、彼女は可愛かった。
歳は16,7くらいだろうが、その大きな輝く瞳と、弾むような雰囲気のせいで、
もすこし年下に見えるかもしれない。
あと、強いて言うならスポーツとか得意そうにも見える。
「えっと・・・」
そう少女はつぶやくと、背にしょったずだ袋から羊皮紙でに書かれた地図を取り出し、
眼前に広がる光景と比べた。
ごちゃごちゃした、石造りの建物が並ぶ町。
そして、そのど真ん中にそびえ立つ、周囲の建物より数段大きな、尖塔の集合体。
その頂点に付いた、金色に輝く、中心に眼の付いた星が眩しかったのか、彼女は少し眼を細めた。
「着いたか・・・。神聖正統パイラ法王国首都ネズラノープル。長かったなあ、旅路もここの名前も。」
そう言い終えた途端、マントの下の腹部に当たる部分から、空腹時になるあの音が、ただならぬ勢いで響いた。
「あれ?」
全身から力が抜ける。
そう言えば最後に食事したの、何時だったっけ?
周りの世界が、ふっと消えた。



第二幕 爆裂唐黍 飲物
どこからか、いい匂いがする。
不覚にもちょっと懐かしさを感じた。
が、すぐ忘れた。
それより遙かに激しい空腹の感じが原因だ。
「・・・っ!」
気が付く。
どうやら空腹のあまり失神していたらしい。あー情けない。
「おきたか。」
目の前に少年が立っていた。
12歳くらい。短めの、あまり綺麗ではない服を着ている。
野生の山猫を思わせる顔の造作だ。
ここでは一般的な金色の髪に少し茶色が入っているのが、それに拍車を掛けている。
「食う?」
そう言って少年は、手に持っていたこの国ではポピュラーなスープヌードル、デンセン麺を差し出した。
屋台などで売っていて、早い・腹膨れる・安いの庶民御用達の食べ物。
匂いが流れてきただけで、また例の音が出てしまう。
「うん。」
あたしは正直に答えた。

で。
「いやーありがとう。正直ほんとに死にそうだったから。ところで・・・どなたさま?」
食べ終わって人心地ついてから、ようやっと名前を聞いた。
失礼だとは思うのだが、やむおえないほどの空腹だったし。
「おれはテラ。この近くの農場で住み込みで働いてるんだ。」
「住み込み?親は?」
「おらん。親父のダイ・ジューバンもフローベラ母さんもおれが生まれてすぐ
鉱山の事故で死んだ。まあ、覚えてもいないんで特に気にしてないけど。」
それを聞いてあたしは、空のどんぶりに目をやった。それじゃ、これだって結構な出費だろうに・・・。
「おねえさんは?」
「あたしはガメラ。ちょっと事情があって旅をしてる。
それにしても、見ず知らずのマント着た女がのびてるのにご飯くれるなんて、
やさしいんだね。」
「ば、ばか。そんなんじゃなくて、たまたまデンセン麺持って通りかかったんだよ。
そしたら・・・」
てれてるのか、やたら慌てている。
「ふふっ、面白いやつだな。」
「何だよー」
と。
突然矢が飛んできて地面に突き刺さった。
「!?」



第三幕 宣伝 ・・・映像断片  

「!?」
急に飛んできた矢からテラを守るように、ガメラは立ち上がった。飛んできた方向を見定める。
「だれだ!!」
その声に答えるように、近くの木の陰からぞろぞろと兵士が出てきた。
都市の外は農地以外は基本的に森なので、隠れるのも容易だっただろう。
いずれも金色の星のマークのついたプレートメイルを着て、腰に剣を下げ、中には弓矢を構えている者もいる。
そして最後に、馬に乗った、隊長らしき40代らしき口ひげの中年が現れ、言った。
「だれだ、とは変わったご挨拶だなバルゴン。我々に攻撃を仕掛けたのはお前だろうに。覚悟せえ!」
「一寸待てい!!」
「?何だ?」
「人違いだよ。少しはよく前を見たら?」
「ぬうっ!我らをおそれて言い逃れする気か!男らしくないぞ!ってバルゴン、
お前女か。・・・・・・あれ?確かにサイズも足らんし格好も違う。
そして何よりあいつが子供を連れ歩くわけないし・・・。貴様ら偽物だな!」
ガメラは心底呆れた声で言った。
「人の話を聞けー!」

この隊長が事実を認識するのに、しばらく時間がかかった。

「イヤー人違いとはすまんことをした。それならそうと早く言ってくれれば」
「言ったって!!何なんだよあんた!」
「そうか。わしは首都防衛軍隊長マーシャ・ウチューというものだ。
それはそうと、少々口が悪いですぞ貴女。それとそこの少年。
見たところ農夫のようだが仕事ほっぽってなにやっとるのかね?
全く最近の少年少女は!」
「人のこと言えるのかよ。」
聞こえないくらいぼそっと、テラが言った。
それに変わってガメラが言った。
「では、その隊長様が何であたし達を兵隊で取り囲ませてるんですか?」
「うむ、じつはな・・・」


第四幕 印 大映  


そうして隊長は語った。もうこの世界では知らぬ者か無いことだが、
今まで神聖正統パイラ法王国に従ってきた辺境の一民族、怪獣人族が反乱を起こしたこと。
その反乱の指導者はイリスと言う女性だと言うこと。
怪獣人族の女性の一部には、怪獣人族の、パイラ法王国の国教、国の名にもなっている
パイラ教とは違う多神教の神々の力を借りて、普通の人間の数十から数百倍の力
と、さらに様々な特殊能力を使う者達がいること。イリスもその一人だと言うこと。
そして、ここからは秘密にされてあまり知られていないことだが、実は反乱軍との戦い
はこの女性達の活躍でパイラ軍の連戦連敗で、既にこの近くまで敵が近づいていること。
その軍の中のバルゴンと言う名のその特殊な女性・・・彼女らは自分達のことを彼女ら
のその多神教からとってダイエイ戦士と名乗っている・・・が単独で攻撃を仕掛けてきていること。
等々。
だが、ガメラは気づいていた。
隠しているのか隊長自身知らないのか、反乱の原因が語られなかったことを。
さらに知っていた。その原因、怪獣人族の地で起こっていることを。
それはともかく、隊長がそこまで話したとき、不意に向こうの森から虹が立ち上り、
爆発音が響いた。
「何だ!?」
隊長が怒鳴った。
そして、テラは聞いた。ガメラの口から、こんな言葉が発せられるのを。
「・・・バルゴン・・・!」




第五幕 歌 制作者達之名  


そして、隊長は気が付いた。
バルゴン捜索のため、部隊をいくつかに分けて行動していたことに。
「そうか、他の隊がバルゴンと接触したか!おい、行くぞ!そこの二人はどこにでも隠れとれ!」
というやいなや、馬を駆って走り出した。兵士達も慌ててついていく。

「ふむ・・・」
「どうする?ガメラ。大人しく隠れとく?」
「いや。あたしは一寸やることがあるから。テラ、あなたはここにいて。」
ぶう、とテラはふくれっ面をした。
「ここまでまきこんどいて、そりゃ無いだろガメラ。俺も見るくらいはいいだろ!」
その言葉と態度に、ガメラは一瞬何かを期待するような表情になり、そしていった。
「解った。その代わり、危険なまねをするな。危なくなったらあたしが守るから、
すぐ逃げろ。そして・・・できれば、何を見ても驚かないでくれ。」
ガメラは思った。この少年ならあるいは、あいつのように・・・。

「遅かったじゃないか、隊長さん。もうこっちは片づいちゃったよ。」
楽しそうな、それでいて少し怒っているような少女の声が響く。
その声を発しているのは、ダイエイ戦士独特の生物のような鎧・・・
いや、実際彼女らの鎧は彼女らの意志と同調して動く、生きた鎧なのだ。
なにしろ、壊れてもしばらくすれば直ってしまうほどのそれをまとった、
青い髪をした、少し鋭い刀のような感じのする少女だった。
この少女、バルゴンの場合、その鎧はかなり攻撃的な姿をしていた。
頭を覆う部分からは何本もの棘が生え、身体を硬質な茶色が覆う。
左手には鞭のような物を持っているが、それは太く大きく、
どちらかというと爬虫類の尻尾のようだった。
そして、右手。
尻尾のような左手の武器と対応するかのように、右手は巨大な鼻先に角の生えた爬虫類の顔と化していた。
どっちの手にしろ、普通の人間には両手を使っても、いや、数人がかりでも持ち上げられまい。
しかし彼女は、その状態でひょいと右手を隊長に向けると余裕の表情で言い放った。
「ひょっとして、怖じ気ずいてる?」
事実だった。
兵士達もそうだった。
なぜなら。
バルゴンを中心にして、半径・・・いや、とてもそんなんじゃ計れない。
とにかく、辺り一面、倒された兵士で地面が見えないほどであった。
どうも別れて行動していた部隊を一つずつ全部片づけていて、さっきの爆音は最後の仕上げだったらしい。
「安心しろ、殺した訳じゃない、気絶させただけだ。総統イリス閣下は、敵であれ味方であれ死は好まない。
それに一般人を巻き込むのもお嫌いだ。我らの目的はあくまで占領であって、破壊ではないからな。
だからこそこんな山奥までお前達をおびき寄せた訳なんだが・・・
何しろ、町中で戦ったら絶対ひどいことになるからな。」
にい、とバルゴンは笑みを浮かべた。
それだけで兵士達が後ずさる。
「もっとも、閣下も法王一族は許す気はないそうだが。正直手ぬるい気もするが、
あとはお前達を蹴散らして、ネズラノープルを占領するのみ。」
実際手ぬるすぎる、とバルゴンは思った。我らの受けたことに比べれば。
「さて・・・」
バルゴンが一歩踏み出したその刹那。
「ちょっと待ったぁバルゴン!」
突然、別の少女の声が響いた。


第六幕 本筋その一  


バルゴンは怪訝そうな顔をしてそれを見た。
まあ、無理もあるまい?
戦闘中にいきなり名指しで呼び止められ、そっちを向いたら、
12歳くらいの少年を連れた頭からすっぽりフード付きマントかぶった少女が立っているのだ。
「何だ、お前?今忙しいし、危ないからあっちいけ。」
が、マントの少女は続けた。
「そうはいかないよ、バルゴン。そこの兵隊さん達への攻撃をやめてもらおう。
わけあって名を明かす訳には行かないけど、話があるんだ。」
「ほう?」
よし、とマントの少女・・・ガメラは思った。バルゴンは興味を持ち始めている。
何とかこっちの話を聞いてもらえそうだ。
が。
「おお!ガメラさん!何だかよくわからんが、助けに来て下さったのか!」
この隊長の言葉が、すべてを台無しにしてしまった。
「ガメラ・・・?」
眼を細めてバルゴンは目の前の少女を凝視した。
「あーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!っががが、ガメラ!
お、お前生きてたのか!」
「生きてたって、どういうこと?ガメラ。」
テラはきいた。考えてみれば、このガメラ、全くの正体不明だ。
「まあ、ともかく。」
ガメラは、強引に話を変えようとした。
「おいガメラ!生きてたのは嬉しいけど、『助けに来た』、ってのはどういうことだ!
まさか、裏切ったのか!?」
無駄だった。
「違う!そうじゃない!あたしは・・・」
ぼう、とバルゴンの棘が光を帯びる。
「問答無用・・・。裏切り者は生かしておかん!!食らえ、破壊の虹!!」
瞬間、七色の光芒が周囲の人間の眼を灼いた。
光がおさまり、テラは目を開けた。
「あ・・・」
目の前に、ガメラの姿。
その姿は激変していた。周りの情景も。
バルゴンの放った光が、辺りを焼き尽くしていた。木がかなり倒れ、地面もえぐれている。
普通の人間がこんな物を受けたら、まず即死だ。さっきの爆音はこれのせいらしいが、

「殺してはいない」と言う言葉から察するに、手加減して撃ったらしい。
しかし、ガメラは立っていた。
だが、テラはそれがガメラか、少し信じられなかった。
まとっていたマントが吹っ飛んでいる。
その下にあったのは。
バルゴンより遙かに軽装でほとんど服ながら、身体のあちこちを覆う生物じみた装甲。
亀の上顎をかぶったような頭、手、足、甲羅の付いた腹部。
そして、身体の前にさし出された、巨大な甲羅そのものの盾。
「かい・・・じゅうじん・・・」
思わず、テラはつぶやいた。
「ああ」
ガメラは低く唸るように答えると、甲羅の盾を背中に背負った。
それを見たバルゴンはうめいた。
「ち、さすがにやるな。だがまだまだこれからだ!」
言うと同時に、左手の鞭をふるった。
「うわっ!」
慌ててよけるガメラ。
「だから違うって!話を聞け!」
「うるさい!」
今度は右手、爬虫類の頭を突き出すバルゴン。
「ぐっ!」
今度はまともに当たり、ガメラはすさまじい勢いで吹っ飛んだ。
木に当たった途端、ばきばきと音を立てて木が折れる。
「まてい!この程度じゃすまさんぞ!」
それをバルゴンが追いかける。
「なんなんじゃ、一体。」
そうマーシャ隊長が呟いたとき、既にめきめきばきばきという壮絶な戦闘音は森を突っ切り
町に向かいつつあった。


第七幕 本筋その二  


「どうしましょう隊長?」
「うーむ」
たしかに、どうすべきか迷う状況ではある。
バルゴンに部隊が壊滅させかけられたと思いきや謎の少女が止めに入り、しかも正体は怪獣人、
つまり本来は敵のはず。
それで裏切り者とか何とか騒いだあと、突然戦い始めたのだ。
しかも、戦いながらネズラノープルにむかいつつある。
「今こそチャンスです!闘っている二体をもろともに仕留めましょう!」
「しかしあのガメラとやらは味方に出来うるのでは?」
「怪獣人が信用できるか!」
「だが・・・」
「いっそほっときますか?共倒れになっても良し、どっちかが勝ったら
その時対応を決めると言うことで」
「ほっといたら被害が広がらないか?」
「隊長!ご決断を!」
「隊長!」
決断を迫られ、隊長は決めた。
とにかく追いかけて、現場見て決める。
はっきり言って、当然のこと。
えらい時間がかかったが。

テラは、動けなかった。
殆ど腰が抜けかけていたのだ。
目の前にダイエイ戦士の破壊力を見せつけられて。
怪獣人、そしてダイエイ戦士に関する、いろいろな噂が頭を駆けめぐる。
それらは主に教会にいる、法王国の僧侶が教えてくれた、少々ぞっとするような話だが
目の前であれだけ暴れられると、何だか信じれそうになってくる。
それと同時にテラの胸には、疑問の感情が渦巻いていた。
ガメラである。
いきなり行き倒れていた、思いっきり普通に自分と会話した、ご飯のお礼を言った、ガメラ。
いわゆる怪獣人の、世間のイメージや、教会の話とは全然違う。
しかも、バルゴンと何やらもめて、戦い始めてしまった。
いったい何なんだ、どうすればいいんだ!
何なんだ、の答えはしばらく得られなかったが、どうすればいい、の答えは、すぐに得られた。
それは、地面に刻まれたガメラの意志。
ガメラの立っていた位置と、自分の位置。
避けるでなく、盾で防いだこと。
ガメラの立っていたところの後ろ以外、派手にえぐられた地面。
そして、自分がその破壊されていない所にいること。
それが答えだった。


第八幕 本筋その三  


「あちゃあー、あの二人市街地に突入しちゃいましたよ、あ、ほらほら、建物が破壊されてる。
どうしましょう、ギャオス第一軍司令官?」
この比較的脳天気な声は、ネズラノープルの上空で発せられた。そう、空。
そこに怪獣人の集団がいた。
十人ほどで、全員三角形のベレー帽のような物をかぶり、コウモリのような羽をはためかせている。
「まったくバルゴンの奴、一旦怒ると歯止めがきかないからな。
もっとも、この場合仕方あるまい。正直、私もかなり腹が立っている」
そう答えたのは、ギャオス第一軍司令官と呼ばれた少女だ。
文字通り怪獣人軍の部隊の一つ、首都攻略を目指す第一軍の司令官である。
よく見ると、彼女は似ているようで他の九人とは違った格好をしている。
他の者が薄い紫の服を着ているのに彼女だけ青だ。
髪の色も九人の黒と違って、茶色っぽい赤だ。色と言えば、少し顔色も悪い。
他にも色以外の違いは多いが、一番大きな違いは、彼女だけ羽が背中から生えていて
腕の下にくっついてはいないと言うことだろう。
「ガメラが生きていたと思ったら、いきなり裏切るなんてな・・・。」
「ほんとに、そうですね。」
傍らにいた九人の内の一人がため息のように呟いた。
すると、つられたようにおしゃべりが始まった。
「ええ、スペースちゃんとギロンさんの関係より、もっと信じられないですね。」
「え!?なにそれ!私知らないよ!」
「なになに?」
「ねえ、教えて。」
「知らないの?第二軍にスペースって子がいるじゃない。
あの子がね、同じ部隊のギロンさんに戦いの時助けてもらってからね
ギロンさんのこと、お姉さまって呼んでるって・・・」
「えー!うっそー!?きゃー!」
「禁断の関係、ってやつね。でもでも、実際ギロンさんってかっこいいよねー。」
「うんうん。ギャオスさんはどう思います?」
ギャオスは、・・・怒っていた。
「ばかーーー!!いまんなこといっとるばあいかあ!
だいたいお前ら、作戦中に私語は慎めと、あれほど私が口を酸っぱくして言ってるのに、まだ学習せんか!」
「すいませーん。」
「どうしてお前らハイパーはこうなんだ!」


第九幕 本筋その四  


上空で暢気な会話が続けられているとも知らずに、バルゴンとガメラの戦いは続いていた。
「だあああ!」
ぶううんっ、ズッドーン!!
裂帛の気合とともに振り下ろされたバルゴンの尻尾鞭はたまたま通りに面していた民家の壁を粉々にうち砕いた。
「いい加減死ね!」
「やだ!」
そう受け答えしながらガメラは考えた。
まずいな。バルゴン勘違いのせいで完全に逆上している。
こっちの話も聞いてくれないし、何よりこれじゃ周りに迷惑!なら・・・
「仕方ねえ!相手してやろうじゃないの!」
とりあえず取り押さえて、話はそのあとだ!
バルゴンもガメラも、あまり話し合いに向いた性格ではなかった。
「やかまし!」
突き入れてくる蜥蜴頭を下からはじき、がら空きになったボディーに思い切り肘撃ちを入れる。
「ぐぬっうう!」
それでもバルゴンは強引にガメラを振り払おうとする。
が、ガメラもそうはさせない。
振り回される鞭をかいくぐり、パンチやキックを見舞う。
だが、確かにガメラは攻撃をすばやく避け、自分の攻撃を確実にヒットさせているもののバルゴンはそれでも暴れ狂う。
「くっ、相変わらずタフだな、バルゴン」
ここは一発大きいの決めるしかないな。
素早く後ろに跳びずさり、間合いをとる。
「くらえ!」
バルゴンの「破壊の虹」と同じように、たいていのダイエイ戦士は強力な技を持っている。
ガメラのそれは、両手足から噴射される高熱の火炎だ。
手を突きだし、手の平をバルゴンに向ける。
「火炎噴・・・おっと!だめだ!」
こんなところで使ったら、火事になる!
が、その隙をバルゴンが見逃すわけがなかった。
「なめるなあ!」
再び蜥蜴頭攻撃が突き出される。
「くっ!」
体を反らせて辛うじて避けるガメラ。が。
「甘い!!」
バルゴンの声と共に蜥蜴頭の口ががばと開き、すさまじい勢いで舌が飛び出る!!
ぎりぎりで避けたガメラに、これをかわす余裕はなかった。
「がっ!」
まともにくらい、近くの店の中につっこむ。
「まだまだ!!」
さらに、その舌の先から霧状の液体が噴霧され、途端にそれを浴びた物が凍り付いた。
ガメラの足も、その氷の中に固められ、身動きがとれなくなる。
バルゴンは笑う。
「っははっはっはっっは、どうだ、冷凍液の威力!思い知ったか、裏切り者め。」
ガメラはぎり、と奥歯をかみしめた。
まずい・・・
あいつにこれがあるの、すっかり忘れてた。


第十幕 結末   


「さてと。何か言い残したいこととかあったら聞いてやるぞ、裏切り者?」
身動きがとれなくなったガメラに対し、バルゴンは言った。
「せいぜい裏切った言い訳でもさえずるがいいさ。」
絶体絶命の危機でも、ガメラは臆することなく言い返した。
「だから裏切りとは違うんだっての。まあいい。
とにかく言っておくが、このまま戦いを続けて、仮にパイラを丸ごと征服したとしても
私たちの理想とした世界は作れないぞ。」
「何!?」
「私達怪獣人に対する偏見は、征服で取り除くことは出来ない、ってことだ。
最初は私も私達を邪教徒扱いする教会を倒せばそれですむと思っていたんだが。」
はっ、とバルゴンはそれを鼻で笑った。
「敗北主義にしか聞こえないな、ガメラ。
それじゃ何か!『どうか差別しないで』と泣いて頼むのか?」
「違う。そうじゃない。人々の意識を変革する、ってことだ。」
「過去私達はそうしようとし、常に裏切られてきたじゃないか。鴉はいくら洗っても白くならないよ。」
「だが・・・」
「もう話は終わりだ。」
ふたたびバルゴンの頭部の棘が光を帯びる。
「死ね!」
そして放たれる、破壊の虹!
「くっ!」
「ガメラぁーーーっ!!」
突如二人の間に割り込む影。
次の瞬間。
「わあああああ!!」
光線を食らったのは、バルゴンの方だった。
「ガメラ、大丈夫か?」
「テラ!」
そこにいたのは、大きな鏡を背負った少年。
「さっき盾になってくれたお礼に来たんだ。あれも光なら、鏡で跳ね返せるだろうって思って。」
「それはそれとして、どっからその鏡を?」
「いや、」
そういって、テラは辺りを見回した。つられてガメラもそうすると、辺りに服が散乱している。
「たまたまここが服屋だったんで、試着用の鏡を持ってきたんだ。」
「ああ、なるほど」
そうガメラが納得したとき。
「まだだ、まだだガメラ!」
急にバルゴンが立ち上がった。が、かなりダメージを受けたらしく、鎧の表面が焦げている。
そんなバルゴンにガメラは言った。
「これがあたしの答えだバルゴン。白い鴉もたまにはいるんだよ。
少なくともあたしの知ってる限り二人は・・・。」
「うるさーい!」
それでも向かってくるバルゴンの鞭が、狙いをはずしてガメラの足の氷をうち砕いた。
足が自由になる。
「この!」
叫ぶと同時にガメラの足から炎が吹き出し、身体を跳躍させる。
「わからずやーーーっ!!!」
その勢いで空中で錐もみ回転し、凄まじい速度の体当たり!
「っわああああああああああっ!」
これをまともに食らったバルゴンが吹っ飛ぶ。
どっぽーーーーーーん。
「え!?どぽん?」
慌てて外にでると、バルゴンが広場の噴水の中にいた。
「がぼお、ぶくぶはっったたたたすけ・・・あぶっぐはっ!うぐっ水飲んだ!! 」
しかも溺れて。
深さ三十センチに満たない水で。
さらに。
「ガメラ殿ぉーーーあとはお任せ下されい!」
溺れるバルゴンを隊長達が槍の石突きでつついてるし。
「やめろ!そいつホントに泳げないんだから、早く引き揚げんと溺死するぞ!」
慌ててそうガメラが言ったとき。
上空から影が舞い降りた。

第二話に続く

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