いつか、どっか、知らない場所で。
目覚まし時計の電子音がなった。
誰も止めないまま、電子音は切れた。
今度は金属のベルが、同じ金属で激しく叩かれる音。
徒労の末、ベルも力尽きた。
時計仕掛けで、上から水が降ってきた。
降っただけだった。無駄だった。
しまいには、その「部屋」にあった家具が全部倒れこんできた。
・・・倒れこんだ後は、また沈黙。わずかな寝息を除いては。
「いいかげんおきんくぁあこんぼけがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
男の野太い怒声。飛び蹴り。本来なら囚人処刑用の特殊な椅子に流すくらいの電圧の電気。
それでようやっと、変化が訪れた。
「うぅうう・・・ん・・・。」
伸び。ため息。
「あぁ、危うく寝過ごしてしまうところでした・・・。」
「もう、地球侵略の時間ですね。」
爆裂機甲天使クロスレンジャー第X1話「高速」
地面が揺れる。ここ東京では、そこまで珍しいとも言えない。
ただし、それが地震なら、だ。
これは地震ではない、爆発だ。それも大規模なものが連続して発生せねば、こうは揺れない。
キュラルラルラルラルラルラルラルラルラッ!
爆発の原因が、天を焦がす炎と夜の闇の間で、咆える。全身金色をした、巨大な機械仕掛けの三つ首龍だ。ビルよりも高いところで三つの首をうねらせ、それぞれの口から雷光を発してビルを爆破している。
「は〜い、がんばってくださいね〜〜〜。戦略業霊無(せんりゃくごーれむ)「王義銅鑼」さ〜ん」
大混乱の町に、まるでふさわしくない声が聞こえた。のんびりして、優しそうで、眠そうな。
「私たちの地球征服のためですから〜、はりきって破壊してくださ〜い」
声と会わない、その言葉。発するのは、白い女性。
ゆったりとした、白い法衣あるいはローブのような服を身につけている。肌の色も、まるで日に当たったことなどないかのような、抜けるような白さ。髪の色も、銀色に近い薄い色。
唯一色があるのは桃色、頭にかぶった、先に丸い飾りのついた垂れた円錐状の帽子・・・よく見るとナイトキャップだ。
してみると身につけた白いローブも、実は寝間着かなんかなのかもしれなかった。
「それにしても・・・」
ぼんやりとした表情で、女性は辺りを見回した。妙に高い視界の中で、都市のあちこちが燃えている。
まるで空中から見下ろしているような。そして事実そうだった。彼女はまるで魔法のように、あるいは本当に魔法で、空中に浮かんでいる。
非常識な事態のようだが、事実として今まさに爆音が響き炎が渦巻き、一国の首都が壊滅しようとしている。
だが。
最近はそれも、日常になりつつある。
ある日から突然、世界征服を企む秘密結社とか、人類絶滅を目指す宇宙人とかがあふれかえり、激闘を繰り広げる世界になってしまったのだ。
激闘を、繰り広げる。何と?
それは、今のところこの世界が滅んでいない理由(だという説がある)
人類に残された最後の希望(かもしれない)
悪を切り裂く正義の味方(と主張している)
その名も・・・・・・!!!
「待てっ!!」
鋭い叫びが、阿鼻叫喚の町を貫いて破壊者の耳に突き刺さる。
どか〜ん。
ぼか〜ん。
ずず〜ん。
遠くのほうで、むなしく爆発音が響く。
「ま・・・待てっ!」
再び叫びからやり直し。
じりじり。
めらめら。
「待てっていってるだろ!!」
がらがら。
瓦礫になったビルが崩れる音。
「えっ・・・あ。」
それで、ようやっと白い女性は気がついた。
「ああ・・・すいません、ちょっとうたた寝てを。もう起きましたから、続き、お願いしま〜す〜」
この返事に、今度は相手のほうが押し黙る。
「・・・どうする・・・?」
「何を?」
「いや、何をってお前、変じゃないか、あの敵。」
「た、確かに・・・寝てるしね・・・」
「どうするの?お兄ちゃん。」
「ともかく巨大メカで町を壊しているんだから、ほっとくわけにもいかないだろ!いくぞ!」
「思いっきり出鼻をくじかれた気がするが・・・やるか!」
「わかったよ陽司君!」
「うん・・・。」
ビルの屋上に立つ人影。背中に白銀の翼を生やし、それぞれ赤、青、緑、桃色を基調としたスーツとヘルメットに身をまとった四人。
それはまるで、悪魔との戦いに赴こうとする天使の軍団。
「地球の平和を乱すもの!」
リーダーらしき赤い「天使」が叫ぶ。
「天の翼が許さない!」
その横に立つ、小柄なピンクの天使が続ける。一人だけの女性らしく、ブーツまでスーツがつながっている他の三人と違い、下半身はミニスカートだ。もしも背中の翼が飾りでなく、本当に飛べるのならパンツが見えないか心配になる格好だ。
「悪の野望、この拳が打ち砕き!」
ひときわ巨漢のグリーンの天使が、叫ぶと同時に拳を突き出した。
「この剣が十字に切り裂く!」
続いてややスリムなブルーの天使が、柄と刃、それに鍔をあわせると十字架形となる剣を振る。
そして、順々に名乗りを上げていく。
「レッドエンジェル!」
「ピンクエンジェル!」
「グリーンエンジェル!」
「ブルーエンジェル!」
そして一拍おいて、全員一斉に叫んだ。
「爆裂機甲天使、クロスレンジャー参上!!」
ビシッ!とそろってポーズを決める。
「すぴ〜・・・」
が、相手は寝ていた。
いっせいに脱力し倒れるクロスレンジャー。
「うう・・・やっぱりイエロー足りないから・・・」
呟くレッド。確かに、いわゆる「戦隊ヒーロー」の場合、「五人で五色」というのが基本である。最近は途中から六人目が入るのが流行だったり、三人で二人が別に加わるのもあるが。
「そういう問題じゃないだろ!おい起きろ!」
ブルーが飛び上がって空中で静止したまま眠る器用な女性の頬をぴたぴたと叩く。
「えうっ!あ・・・」
びくっと身を震わせ、再び目を覚ます。
「ああすいませ〜ん、また寝てました。いえ、聞いてはいたんですよ。クロスレンジャーさんですね?私は・・・」
やはりおっとりしたペースを崩さないまま、女性も名乗りを・・・
「すぴ〜・・・」
あげる途中でまた寝た。
「起きろ〜〜〜!!!」
ぱんぱんぱん。
「ほほが熱いですね〜・・・すいません、夜型なもので〜」
何とか起きた。
「私、ここからみて異次元にある・・・・・・・・・「神聖魔法国ヴァジュラム」から来ま・・・した、魔法将軍I・リー・・・・・ン、と申します、ふぁあ〜〜〜」
途中何度か途切れたのは、そのつどうとうとしていたからだが、それでも一応名乗りは終わった。
「えぇと、移住のためこの星を征服しますが・・・。邪魔、します?」
「もちろんだ!」
「では・・・」
すぅ・・・と空中をすべるように移動するI・リーン。そして同時にその口から「呪文」が刻まれる。
「ルーハー・ザステル・デス・デル・・・」
リーンを中心とした空間に、目に見えない「力」が集まっていくのが、科学的手段では無理でも「気配」で伝わってくる。
「くっ・・・させるか!」
ブルーがすかさず剣を構え、翼を広げ飛び上がる!が。
「おい、ちょっと待て。」
レッドに足をつかまれ失速、ビルの屋上に叩きつけられた。
「何しやがる!」
「いや・・・」
怒るブルーエンジェルに、レッドは疑問を投げかけた。
「・・・俺たち、正義の味方だよな?」
「ああ、そうだが」
「正義の味方が、相手が魔法の呪文唱えてる時に攻撃していいのか・・・?」
「うっ!!」
ヘルメットからのぞく口元からでもわかるほど怒りを浮かべていたブルーの表情が、たちまち引きつった。
「悪役さんたちは、正義が名乗っている間、ロボットが合体している間は決して攻撃してこない!そんな悪役さんたちに卑怯なまねが出来るか!?俺には出来ない!正義の味方としてというより、人として!!」
熱弁するレッド。正しいような気もするが、間違っている気もしないでもない。
「う、む・・・」
悩むブルー。
「正義を名乗るものが、卑怯な手段で勝っていいのか!?どう思うブルー!」
レッドの問いに真剣に悩みかけて、ブルーは気がついた。
呪文、続いてる。
「うわっ!危ねぇっ!!」
あわててレッドを突き飛ばし自分も逃げるブルー。
「いった〜・・・なに突き飛ばしてるんだよ・・・」
「あれ?」
しかし、魔法による攻撃なんて来ない。
「ま、まさか・・・」
いやな予感がして、恐る恐る振り返るブルー。
「リーンさん、寝てるよ〜?」
ピンクに指摘されるまでもなく、一目瞭然。神聖魔法国ヴァジュラム将軍I・リーンは、呪文を唱える途中で眠っていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「いや〜、陽司君どうすぶっ」
困ったようなグリーンの言葉の語尾が変だったのは、別に書き間違いなどではない。
悩んでいる間ずっと暴れていた戦略業霊無「王義銅鑼」の撒き散らした大きなコンクリの破片が直撃しただけだ。
・・・大問題か。
「わ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
王義銅鑼の破壊光線を吐く三つの首が、それぞれレッド・ブルー・ピンクに狙いを定める。
「こんなときイエローがいたら〜〜〜!」
確かに、一人余る。
「無理言うな〜〜〜〜〜!」
だがなぜか、今までイエローになった人はなぜか毎回再起不能の大怪我を追って交代している。
とうとう交代が間に合わなくなって4人で来たのだが・・・。
「デル・デル・ファイエル!!」
キュドォォォォォォォォォン!!
唐突な叫びと共に、桁違いのエネルギーをもつ炎が沸き起こり、業霊無を黒焦げにした。
「ま、まさか新たなる戦士!?」
たしかにありがちな展開ではあるが、違った。
「え?あれれ〜?」
轟音というのも生ぬるい音の打撃で、よううやく完全に目が覚めたらしいI・リーンの前にやはり宙に浮かぶ、リーンとは正反対に黒いカラーリングの女性。
黒髪をポニーテールにまとめ、つややかな褐色の肌をしている。
「D・アーネさん!」
リーンが驚きの声を上げた。好意的な知り合いであり、同郷であることが読み取れる声音だ。クロスレンジャーに緊張が走る。
「どうしたんですか?」
「・・・どうしたもこうしたも。お前こそ今頃何やってるんだ!?」
「はい?」
「もうとっくに戦いは終わってるぞ!?」
「・・・え?」
彼女は、戦いに寝坊したらしい。