天之兄妹小説(シリアス編)

(劇場版から1年後の話)






その日柾利は、家で一人暇を持て余していた。

天之家のもう一人の住人である水奈は、2日前修学旅行に行ってしまっていて居ない。



「・・・あの頃に戻ったみたいだ・・・静かで・・部屋の雰囲気が暗い」



柾利がぽつりと呟く。

あの頃―――水奈が居なかった数年間・・・



「明日には帰ってくるのにな・・・」



苦笑しながら窓辺に移動する。

夕日に赤く染まった空が、徐々に暗くなっていく・・・











残光が消える一瞬、唐突に一塊の濃い『闇』が空を横切っていった。



「!、あれは・・・っ!」



急いで外に出る柾利。

『闇』は町の上空を物凄い速さで通り過ぎて行った。



「禍津神っ!!」



町に目をやり、そう叫ぶ。

『禍津神』―――中津国(地上の世界)に災いをもたらす邪悪な神。

空間の歪みと、人の心の闇とが融合し生まれてくる存在。



「陽極、転身!」



白い勾玉を掲げ、陽極神に変身する柾利。

背中の翼を広げ、『闇』の後を追う。











1分後

『闇』は町からかなり離れた海岸の上空で動きを止め、四方に大きく広がり始めた。

まるで夜の闇をより深い暗黒にするかのように。



(何をする気だ?)



少し離れた所で止まり、剣を出し身構える。

その気配を感じた『闇』は、変形途中の体の一部を大きな触手に変え陽極神に襲い掛かる。





「こんな物っ!」



手にした剣で向かって来た触手を斬り裂く。



ブアッ



「なっ!?」



斬った触手の先から『闇』が溢れ出し、陽極神を飲み込んだ。











「うっ・・・・・・」



陽極神が目を開けると、目の前に『闇』が広がっていた。

一寸先も見えないような、遥か彼方まで見渡せるような奇妙な感覚がする。

気が付けば足が地面に付いていた、確かに空中にいたはずなのに。



「ここは・・・」



辺りを見回すが、特に何も見えない。

とりあえず、様子を見に動くことにした。

と、前方から何かが迫ってくる気配がする。



(・・・何か来る、しかもかなりの数だ)



顔を強張らせて、身構える。



「ゴアァァァァァ!!」

「オオオオオ・・・!!」

「ギャアァァァッ!!」



左右、後方から巨大な獣のようなものが飛び掛ってきた。

半分闇で隠れているが、先代パステリオンが戦った業霊無によく似ている。

とっさに空中へ逃れ、攻撃を加える。



「破邪裂斬弾!」



翼から無数の光刃を放つ。

光刃が獣に触れ、その体を切り刻む。

だが、切り裂いた傍から新手が現われ、次々に襲い掛かってくる。

今度は飛べる者も居るようだ。



「上下左右関係無しか・・・ならば、蛍火!!」



両手を交差させると、空中に無数の小さな光が出現する。



「散れ!!」



本来とは逆の使い方、一転に集めず周囲に拡散させる。

並みの爆裂呪文の10倍の威力を持つ魔法球、それが多方向に散らばり周囲の獣を粉砕する。

だが、次から次へと獣は襲い掛かってくる。





(きりが無いな、それに力を抑えるのもそろそろ限界が近い・・・)



「ふふふふふ・・・」



不意に前方から、悪寒がする声が聞こえてきた。



「さしもの陽極神も、1人ではうまく力が出せないようだね」



「何だ、お前は?」



「おや、見破られていたか」



目の前の獣の一体が、人型に変わった。

その姿は他の八百万の神々とそれほど違いは無かった。



「この禍津神達の長はお前か?」



「そうだ、わたしがこの神々の長、千早(ちはや)だ」



「俺に何の用だ、こんな風に閉じ込めて攻撃してくるとは」



その問いに、千早はさも当然そうに答えた。



「我らが行動するのに君達が邪魔なのだよ、だから倒すことにした」



「・・・・・・」



その自信たっぷりの声に、軽く困惑する。



「1年前に大きな力が手に入った、だが2人揃っては難しい、だからどちらかを狙うことにした」



「大きな力・・・」



「ヒルコ様の出現さ、あれは良い力になった」



さも可笑しそうに言う、「ヒルコ様」と言う言葉にも侮蔑の色が見える。



「もう君が自身に課した制限時間は過ぎている、どうやら私達の力の方が上回っているようだ」



言われてみれば、もうすでに5分を過ぎている。

それなのに時空の崩壊は起こっていない。

おそらくここは禍津神達が作り上げた異空間。

それが崩壊しないと言うことは、元の時空よりも力の許容量が大きいということ。



「もう君は外に出られない、ここで死ぬしかないよ」



千早が冷淡に言い放ち、獣の中に消えていった。

それと同時に、今まで攻撃してこなかった獣達が攻撃を再開した。



「・・・出られない?」



剣を振り、周囲の獣を薙ぎ払う。

少なくとも、こいつらに殺されることはないだろう。

そのまま駆逐していこうと前進する。

その時



「お兄ちゃーん」



「水奈!?」



振り返ると、そこには修学旅行に行ったはずの水奈――陰極神の姿があった。



「どうしてここに?」



「嫌な予感がして急いで戻ってきたの、そしたらこんな事になってるから」



心配そうに水奈が言う。

何にせよ、水奈が帰ってきたことによりこの戦いは早く終るように思えた。





「お兄ちゃんが誰かに殺される位なら、私が殺そうと思って・・・」



「なっ・・・!!!」



ドスッ・・・



陰極神の杖が陽極神の腹部を貫く。



「水・・奈・・・」



「驚いたかい?ヒルコ様の力を応用して君の一番愛しい存在を探して出したんだ」



上の方から千早の声が聞こえる。



「でもまぁ、君を刺しているのも他の者達と同じボクの分身だけどね」



陽極神を見下しながら千早が降りてきた。



「流石に純度が高いね、君のお父さんと同じ禁忌から生まれたヒルコ様の力は」



「なに・・・?」



「知ってるよね、イザナギとイザナミが兄妹の神であったことは?」



心底嫌らしそうな声で千早は続ける。



「兄妹と姉弟の違いはあるけど同じ汚らわしい者同士、気に掛けてたんだろうね」



冷やかすように千早が言う。



「そう言えば、今君を刺しているのも禁断から生まれた者の子の姿だったねぇ」



そう言って他の獣に陰極神の胸を一突きさせる。

陰極神が闇に消え、杖も消えた。



「さあ、1人は死んだ、今度は君の番だ」



傍に寄り、傷口に刃と化した手を付きつける。





バチィ・・・ン





「ギ、ギャアア!」



陽極神の体から衝撃が走り、弾き飛ばされる千早。



「貴様・・・父さんやヒルコを侮辱しただけでなく、偽者とはいえ水奈を殺したな・・・」



雰囲気が変わっていた。

腹部の傷が物凄い速さで塞がり、体から恐ろしいまでの力が出始めた。



「な、なんだ!その力はぁ!?」



問いに答えず、物凄い形相で千早を睨み付ける陽極神。



「くっ・・・や、やれ!我が同胞達よ!!」



号令を出し、全ての獣を総動員させ攻撃してきた。



「G・フレア!!」



ゴオッ!!!!!!



言葉と共に辺り一面に炎が走り、獣達を焼き払う。

向かって来る者は全て炎の餌食にされていく。

先代パステルブルーに放たれた物とは比べ物にならないほどの火炎。

リボン状にまとめられた髪は弾け、熱波になびく。



「イレイザーフォース!!」



ギュドドドド・・・ッ!!!!!!



「ひ、ひぃぃ・・・」



続け様に乱射される消滅の光。

最早恐怖するしか無かった。

千早は・・・禍津神達は陽極神を甘く見すぎた。





紅蓮の炎を繰り、全てを滅ぼし尽くす、恐るべき破滅の神。





それが今、制する者無く、怒りのままに暴れ狂っている。

もはや戦いでは無い、圧倒的な力による虐殺。



「天上天下・・・」



千早の方を向き、剣を振り上げる。



「真・破壊神剣!!!!」



巨大な斬撃。

それが千早を消し飛ばし、『闇』そのものを両断し消し去った・・・

























翌日

水奈の帰って来る日。

天候は雨。



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