「あああああ、無茶するなって!おい、傷口開いてるぞ!」
「絶対安静なんですよ!し、死んじゃいますよ!」
生栗とイカンゴフの制止を振り切り、重傷のみを引きずって急ぐカーネル。
「お前、もう無茶はしないっていっただろう!」
生栗の必死の制止も、カーネルを止められない。
「そうも言ってられないんだ!事はHV団の存亡に関わる!それに・・・それに・・・」
(それに、我々の結束にも。)


悪逆戦線HV実写版 血塗られし者達 第二回「疑惑」 


「どうだ?」
「やはり、戦闘の規模自体はそこまで大きくなかったようですね。恐らく敵は、単体。」
一夜明けて、HV団科学陣は総力を挙げて現場の検証に入っていた。すでにHV団全体にも第一級警戒体勢がしかれている。

「それはそうだろう、ここから筑波支部は近い。大規模戦闘なら基地からでも確認できたはずだ。」
白戦闘員の報告を受け、当然といった様子で黄泉が頷いた。
「となると・・・、敵の戦闘能力は相当なものになりますね。それだけの数であのカーネルさんをあそこまで痛めつけたんですから・・・」
JUNNKIの発言に、憤懣やるかたないといった風の博士が続ける。
「敵改造人間の戦闘能力は、並のMRユニット十体分以上、と言うことになるな。」
「十体分!?」
えーちゃんが仰天する。
「そんな怪人、一体ドコの誰が作ったのじゃ!?」
「確かに・・・それは難問ですね。」
黄泉が考えながら、といった様子で呟いた。
「そもそも、現在の所人体改造・・・それも、パイロット用の反射神経向上や、強化義手・義足などではなく、純粋に戦闘用の改造人間の製作を行えるほどの技術力を持っているのは、きわめて限定されています。それも・・・」
「我が輩、えーちゃん、BGカンパニー、反崎、・・・いずれも味方だ。」

悪の博士の発言に、空気が凍り付いた。
「ほ、本当に改造人間なのかにゃ?」
反崎が呟く。
「例えば、アンドロイドとか・・・」
「いや。現場から血液が採取された。間違いない。」
その言葉に、更に反崎は表情を曇らせる。
「・・・つまり・・・」
いずれの者も、その先を口に出すことをためらう中、一人博士が独白を続けた。
「裏切り行為、にしては愚かな話だ。こうも簡単に容疑者が絞り込まれるのは周知の事実。となると、むしろ事故、改造中の逃亡、か?」
何故か、反崎の顔色が青い。他の者もこの事実の前に表情が引きつっているが、特にひどい。だが、推理に夢中になっている博士は気が付かないでいる。

「しかし、此処まで高度な技術となると・・・」
HV団でもっとも戦闘的な怪人を作る事で名高い悪の博士でも、これほど強力な怪人は滅多に作れない。素材が優秀だったフェンリルや蠍師匠、体の安全を無視した改造を施した機蝗兵の他は。
「しかしこれではまるで・・・」
まるで、新たなる、HV団にとってのMRユニット、HV団を滅ぼす者。

「博士!!」
突然の、この場にいないはずの娘の声に、博士の思考は断ち切られた。はっとして声の元を見る。
足下もおぼつかないというのに、カーネルが来ていた。開いた傷口からしみ出した血が包帯を染め、痛々しいことこの上ない。
「か、カーネル!?絶対安静だと伝えたはずだぞ!何故此処にいる!」
慌てて叫ぶ。その動揺ぶりは、いつもの自信たっぷりの様子とはほど遠い。
「すいません、どうしても博士に会わなければ行けないって・・・」
やっと追いついた生栗が荒い息をつく。
「申し訳ありません、博士。」
イカンゴフが頭を地面に打ち付けんばかりに深く下げる。
「いや・・・いい。」
博士はあきらめ、否、認めた。
理由は、カーネルの目。今までの、自暴自棄な色とは違っていた。だが、逆に震えている。
疑惑に。
それは、今の我々と同じ感情。今は真実をぶつけ合うしか、これをただすすべはない。
「昨日のこと、話してくれるか?」
だが、その真実は・・・
「・・・敵は、MRです。それも、「衝撃を与える者」の。私のOシグナルが反応しました。」
一人の少女に打撃を与えるには、十分だった。




HV団筑波アジトに寄り添うように立つ、悪の博士の移動研究所「神を突き刺すバベルの塔」。
博士の目標を現す名を持つ、その建物の医療区画の、病室。
その、癒されるべき部屋の中で、マシーネンカーネルは一人、自分の色を痛感していた。


血塗られし者達 第三回 「黒く、さらに赤く」


病室は、白か、そうでなくても淡く、優しい色彩で統一されている。
先刻までは開いた傷口からの血で赤いまだらになっていた包帯も、取り替えられて白い。
だが。
カーネルは思った。
(それでも、私の色が、薄れることはない・・・)

悪の博士。
私のこの体と、この居場所をくれた存在。
私が傷つけられたことに怒り、皆を引き連れて出撃していった。

皆・・・仲間。
私と、共に闘うと言ってくれる者。
私のために、闘ってくれる者。
私が、そのために闘う者。

HV団。
私達全体を、受け入れてくれた人達。
私達に必要な人達、そして、私達を必要としている人達。

・・・生栗、磁力・・・

・・・私が愛する者。

・・・私を、愛してくれる者。

「何人・・・殺した・・・」

(!!!)

「その腕で・・・そのゴチャゴチャした体で・・・貴様は何人を殺した・・・!?俺を刺した腕で、俺を蹴った脚で・・・!何人の、罪もない人を・・・!」

怨嗟の声。

私と同じ思いを抱く者。

私と同じ者?

違う。

(そうだ、私は・・・)

ヒトゴロシ。

(罪もない人達を、殺してきた・・・町を灼き、村を滅ぼし、仲間、友人、家族、恋人・・・人々の結びつきを壊し、悲しみに塗りつぶしてきた。自分たちのために。自分たちの願いのために。思いのために。あいつは、ただの被害者に過ぎない。だが、私は・・・)

こんなにも、罪深いのに。
許される可能性など、はっきりと零なのに。

(それでも、自分の大切な者を壊した相手に怒りをぶつけ、そして・・)

今では安住の地も仲間も得て、人を愛してまでいる。
まるで、自分は罪のない人間だというように、素知らぬ顔をして。それどころか、悲劇のヒロイン気取りで。

(醜い・・・)

はっきりとそう思った。自分は、醜い。

だから、今は生栗を遠ざけている。こんな自分を、見られたくない。
だが。

(そもそも、そう思うこと自体、狡い。)

これが私の本性。それを見られて、嫌われるのを恐れている。やはり、醜い。

(でも・・・)

例え、醜くても、狡くても。

(それでも・・・)

それでも、私は・・・


「な、何だとぉぉぉ!?」
体からキノコを生やし、うつろな目をして徘徊する人々の群の中、胞子の煙を立ち上らせるグロテスクなキノコの改造人間。
高層ビルの屋上に待機し、町を睥睨する狙撃者。
改造人間の集団を付き従える、異形の服装のマッドサイエンティスト。
だが、そこに現れるべき者は現れず、ただ届いた報告に、博士は驚愕した。


血塗られし者達 第四回 冷酷さ、それは


悪の博士が、今回の作戦に投入した怪人は、
単分子ワイヤーとニードルガンによる安定した攻撃力を持つアラネス。
大遠距離での精密狙撃を得意とするアンボ13。
悪の博士怪人軍団の中で最大の力と生命力を誇るフェンリル。
強力な光線を自在に操るゴールド侯爵。
猛毒から洗脳まで、様々な胞子攻撃と分裂増殖を行うマッシュ・茸。
無敵の格闘能力を持つ蠍師匠。

重傷を負ったマシーネン・カーネルを除けば、事実上怪人軍団の全主力が投入されているといっていい。少なくとも、博士は謎の敵相手に使えると思った戦力は全部出していた。
それほどまでに博士は怒り、かつ敵の戦力を評価していた。改造技術の高さだけではなく、戦士としての敵の情念に。

作戦はこうだった。
ようは、マッシュ・茸の洗脳胞子で敵が潜伏できそうな近隣地帯全域を制圧する。敵は我々と闘うつもりなのだから、騒ぎを起こせばヒーロー気取りででてくるはず。
そこで予定調和破砕装置を作動させてご都合主義なしの勝負に持ち込み、全力で叩きのめす。
また、でてこなければ最初の胞子攻撃で洗脳されてしまっているわけだから、多少面倒だが一人一人調べていけば、いつかぶつかる。ぶつかったらあとは他の関係ない人間の洗脳を解き、そいつは洗脳したまま殺してしまえば一巻の終わり。
はっきりいって力押しの作戦だが、博士はこれでいいと考えていた。なぜなら、いくら細かい作戦を練ったところで、どうせヒーローとやらはなぜだか突破してしまうし、第一相手に対する情報が少なすぎるから、作戦の立てようもない。
さりとて、情報が集まるまで待っているつもりも毛頭なかった。悠長なことをしている間に、幾つもの組織が滅んでいったから。最初の内に、敵がまだ成長段階の内に全力で倒す、それが最上の策なのだ。


だが、作戦は当初の計画とはまるで違った方向に流れてしまった。
敵がでてこない。
さりとて、捕獲した人間の中に改造の形跡のある者はいない。
首をひねっているところに、いきなり基地からの通信。博士のいない間は神刺塔の艦長(あるいは指令か?移動基地なのでどちらか判然としない)をつとめている蛇姫からだ。
「博士、襲撃されたよ!」
「な、何だとぉぉぉぉぉ!?」
爆発音、破壊音、絶叫、炎の燃えさかる音、肉の引き裂かれる音、悲鳴のBGMが、問答無用の事実を告げる。
「まさか、ヤツか!?」
「間違いないね、明らかにタイプMR!バイクで神刺塔に突入、守備隊が応戦してるけど、苦戦どころか圧倒的に劣勢だよ!早く戻って来な!このままじゃ危ないよ!」
確かに、今の神刺塔は戦闘力の高い怪人を軒並み引き抜かれている。BGカンパニーやHV団怪人も加勢するだろうが、それだけでは明らかに止められない。
完全に裏をかかれた格好になった。
(このタイミングの良さ、我が輩達が出撃したのを明らかに見計らっている!ということは・・・)
敵は、怪人に襲撃されている町を見捨てて、無視して平然と攻撃に向かったことになる。
(な、なんて奴だ!)
予想外だった。おおかた、正義の味方気取りの若造と、高をくくっていたのだが・・・。
(何故、そこまで?戦いの目的が、正義のためとかではないのなら・・・)
私怨?
(おそらくそれだ。自分を改造した相手への復讐か?違う!だとしたら我が輩という科学者の出払った神刺塔を攻撃するはずがない。何か別の目標が・・・)
不意に、昨日の報告を行ったカーネルの表情が思い出された。変にぎこちなく、まるで何かを隠しているような・・・
(そうか!)
おそらく、昨日の戦い、カーネルには我が輩に報告されていない何かがあったに違いない。だとするなら、あのときカーネルを襲ったのは、敵として特別な何かであったわけで・・・
(目標は、カーネルか!!)
彼女は、元「新たなる衝撃を与える者」幹部である。その時代のことで狙われているとしたら、確かにあの娘の性格からすれば、そして現状を考えれば報告しづらいだろう。あの場には、HV団の主だった団員が全員・・・生栗も・・・いたわけだし。
(まずい!糞っ、こんな簡単なことに気が付かなかったとは!!)

「全軍転進!神刺塔へ戻る!!」

(はたして、間に合うか!?!?)





「第三隔壁、突破されました!!」
「一号から三十七号までの防御用自走レーザー砲、壊滅!」
次々と突破されていく、神刺塔防御網。
防衛の指揮を執っている蛇姫は、吸いもせずに持ち歩いている銀煙管の、龍をかたどった吸い口を噛んだ。
「・・・なんてこったい!」
上忍鞍馬鴉の式によって運営される鴉忍軍の偵察鳥の映しだした映像をにらみつける。
当たるを幸い全てを破壊しながら突き進む敵の姿に、どこか狂気のような者を感じて、蛇姫は顔をしかめた。

血塗られし者達 第五回 場

「どけぇええええええ!!」
ぐわっしゃああんと派手な音を立てて、蹴り飛ばされた自走砲台が壁にぶつかって壊れた。
「ひ、ひえ・・・」
腰をぬかしかけるHV団戦闘員。さっきからレーザー砲、メーザー砲、つり天井、放電、火炎放射、毒ガスなどアジトにあるありとあらゆるトラップが作動したが、敵はびくともしなかった。前回カーネルが与えたはずの傷も、綺麗さっぱり回復している。
いくら反崎博士の設計による「世界征服長銃」とはいえ、ただの銃しかもっていない戦闘員に、一体どんな抵抗が出来るだろう。
「あわわ、ウデムシ怪人様、お願いします!」
慌てて彼らの部隊を指揮する怪人にすがろうとする戦闘員。腕全部に盾を装備して、逃げ腰に構えていたウデムシはあせった。
(まずい・・・相手の方が足が速い!)
絶対逃げ切れない。殺される。さりとて、闘って勝てる相手には全然思えない。
「ひえええええ!」
だんっ、と敵が駆けだした。思わず目をつぶってしまうウデムシ怪人。
だが、敵は来なかった。
「・・・?」
見ると、敵は自分たちを無視して奥の方へと進んでいっていた。まるで眼中にない、といった雰囲気で。
不意に、戦闘員の一人が呟いた。
「あ、あっちは医療区画じゃ・・・?」

「やっぱりそうかい・・・」
その報告を得た蛇姫は呟いた。やはり、敵の狙いはマシーネン・カーネルに間違いない。通信で博士が告げたとおりだ。
敵の狙いは解った。だが。
「問題は、それでどうするか、だな」
傍らのハッハノの発言に、蛇姫は頷いた。
「解っているじゃないか、坊や。」
問題は、まさにそれなのだ。カーネルを見捨てるわけには行かない。だが、現在の戦力では敵の進撃を阻止できない。
「ええい、どうすれば・・・」
頭をかきむしるハッハノ。博士はまだ来ないし、怪人軍団につぐ陸戦能力を持つ部隊、マダムXのA'sはそもそも筑波支部にはアリエッタを除いていない。
玉砕覚悟で全部隊を投入すれば時間は稼げるだろうが、あまりに被害が大きくなりすぎる。

「待てい!ここから先へは、この悪の博士怪人軍団上忍鞍馬鴉と!」
「あたい、みみずおかまが通さなくってよ!」
立ちふさがる、居残り組のHV団怪人。この二人を除けば、残った怪人にまともに戦闘が出来るのはいない。
「せいっ!!」
みみずおかまが腕に装備された溶解液にまみれた鞭を繰り出し、鞍馬鴉が忍者刀で斬りかかる。
「邪魔だぁぁぁぁぁ!!」
「!!」
ミミズ道を掴み、そのままふりまわして鞍馬鴉に叩き付ける。
「「がはっ!!!」」
壁をぶち抜いた二人はそのまま神刺塔から転落し、戦闘から離脱してしまった。もっとも、特殊合金製の壁をぶち破るほどの勢いで投げつけられたのだから、例え転落しなくても戦闘は不可能だったろう。
「ふん・・・」
軽く笑い、再び医療区画を目指して進み始める。Oシグナルがカーネルの存在を教えているのだ、迷いようがない。
「!バッタンジン・・・いや、違うか。」
医療区画まで、一本道となった廊下。
そこに立ちふさがる、緑色の壁、蝗軍兵の集団。

その光景を見て、蛇姫は驚いた。
「こらっ!攻撃命令は出していないだろう!あんた等にどうにかなる相手じゃないよ!」
通信機をひっつかみ、叫ぶ。

壁のマイクから聞こえてくる蛇姫の声に答えるように、蝗軍兵達は口々に叫んだ。
「お前だな、カーネル様を闇討ちにしようとしたのは!」
「よくも我等のカーネル様を!」
「我等蝗軍兵が相手だ!カーネル様に代わって、貴様を倒す!」
ざっ、と一斉に爪を付きだし、身構える蝗軍兵達。そ簡易改造人間とはいえ、この数だとかなりの戦力である。
その言葉を聞いて、敵は恐ろしい表情を浮かべた。
笑ったのだ。狂気というのも空々しい、笑いを浮かべたのだ。
「そうか、お前等はあの女の部下か・・・。丁度いい・・・」


どすっ。
「はうっ・・・」
同時。
鈍い音を立てて、イカンゴフの柔らかい腹部にカーネルの拳が食い込んだ。
そのまま倒れ込むのを支え、たった今まで自分が横たわっていたベッドに寝かせ、カーネルは呟いた。。
「すまない。だが・・・どうしても行かなければならないんだ。・・・これは、私のせいでおこった戦いだから。」



ベッドの下に置いておいた、普段は軍服の腰に下げている軍刀をひっつかみ、カーネルは病室を飛び出した。
白い廊下を駆ける、包帯を巻かれた白い体。
(私のせいで!)
そして、赤と黒の前で立ちつくす。
燃えさかる炎、ぶち巻かれた血液を背景に立つ、敵のシルエット。


血塗られし者達 第六回「痛み」


カーネルの姿をその赤い目に捉え、彼は笑った。
どさどさ、と手に持っていたものを放り投げる。それらは、ごろりと二人の間に転がった。
「・・・・!!!」
カーネルの青い瞳が、限界まで見開かれた。頭髪が逆立つほどの、鮮烈な怒りと悲しみ。
目の前に転がるもの。それは。
蝗軍兵達の、首、だった。
「き、貴様ァ!!」
カーネルは剣を抜いた。悪の博士の手によって作られたそれは、当然凄まじい切れ味を誇る。少なくとも、普通の改造人間なら容易に切り裂くだけの威力はある。
「私の部下を、仲間を!許さん!!」
叫び、斬りかかる。怒りにとぎすまされた太刀筋は、だが敵には届かなかった。

ドォン!

「くふっ!」
腹部を一撃されて、カーネルはよろめいた。慌てて刀を構え直すが、どう考えても手足が届く距離ではなかったはずだ。
「・・・な!?」
敵の笑みが深くなる。
「変身もせずに、刀に頼るって事は・・・」

ズバァッ!

肩口が何かに斬られた。鮮血が腕を伝う。
「変身する程体が回復していないな?」

ドスッ!
「ぐはっ!」
バキャッ!
「がっ!」
ザクッ!
「うっ!」
ズブッ!
「くう・・・」

目に見えない打撃が、斬撃が、次々と変身できないカーネルの体に叩き込まれる。

「な・・・これは・・・」
相手の攻撃を見切れず、呻くカーネル。
「風は俺の友、風は俺の力・・・」
歌うようにそいつが答えると、広げた掌の上に小さな竜巻・・・サイクロンが発生する。
「俺は風。貴様に死と破滅を送る風・・・」
風の戦士、MR達は時に自らをそう呼んだ。真の意味で、その力が発現している。それは、本来の力。王なる改造人間、世紀王のコピーとして、作られたが故の力。
訓練により、無限の進化を行う改造人間、MR。実戦を糧として、更に急速な成長を遂げていた。
「く・・・」
二度目の大量失血で、早くも目の前が暗くなりかけている。
それでも、へし折られた脚で立ち続け、砕けた拳で剣を握り、敵を、もうよく見えない瞳で必死ににらみつける。
決して、屈することなく。
そんな様子は、敵にとって不満だった。
(これでは駄目だ、これでは・・・)
「カーネルーーーーーーっ!!」
絶叫、そして銃声。
「がっ!?」
衝撃にたたらを踏み、それでも素早く向き直る敵に、声の主は更に連続して引き金を引いた。
「な、生栗!?」
カーネルの驚愕の声には、わずかだが確かに、喜びの色が浮かんでいた。
そして、それを聞いた者もまた。
喜びを笑みに乗せた。


一緒に来た残存戦闘員部隊、ソドムとゴモラ、反崎怪人達が敵に総攻撃を仕掛ける中、生栗は今にも倒れそうなカーネルに肩を貸した。腰にさっき使った対改造人間用の拳銃をしまいながら改めて、カーネルの体の軽さ、華奢さに驚く。
「ば、馬鹿者・・・何故来た、生栗、あいつは私を狙っているのだぞ、危険だ・・・」
「だから来たに決まってるだろうが!」
弱々しく呟くカーネルを、少し怒った風に叱咤する生栗。
その様子を、怪人についてきた反崎秋名は、ただ見ていることしかできなかった。


血塗られし者達 第七回 奪われた代価


カーネルは生栗が助けに来たことに、むしろ怯えていた。
それまでの彼女の人生は、得ることの出来た小さなモノが目の前で砕け散る、の繰り返しだった。
生栗も、失うかも知れない、という恐怖。それも、自分のせいで。汚れきった自分の、罪のせいで。
そして、この状況、生栗を好きになるきっかけとなった仮面のバイク乗り達との戦いに、似ている。
まるで、「「アレは取り消しだ。今度が、お前に与えられた本当の運命なのだ」と、何者かが言ったように、カーネルには感じられたのだ。

ズドッ、バーン!

「!!」
瞬間、もはや爆発と言っていい暴風が吹き荒れ、戦闘員と怪人達が吹き飛ばされた。
「これだけの力を与えてくれたことに・・・異までは感謝すらしていますよ、反崎教授。」
薄ら笑いと共に吐かれた言葉に、戦慄が走る。
「か、カマドウマ男ぉ・・・」
後が続かない。反崎は、呼吸困難に陥った金魚のように口をぱくぱくさせた。
そして、目・・・カマドウマ男の赤い複眼が、カーネルを支える生栗を捉えた。
「それがお前の奪われるべきモノか!」
雄叫びと共に、渦巻く風が生栗を襲った。
「わあああああっ!!」
腕を絡ませて生栗の首を捕まえるカマドウマ男。。
「ぐぐっ・・・」
息が詰まり、もがく生栗。

「な、生栗ぃっ!貴様、生栗を離せぇ!」
我を忘れて再度斬りかかるカーネルだが、力の差がありすぎた。蹴り倒され、踏みにじられる。
「がふっ!ごっ・・・があああ!」
折れた骨が、臓腑をえぐる。血を吐き、のたうちながらも、それでもカーネルは抗い続けた。
「そうか・・・そんなにこの男が大事か、お前は・・・」
そう言うが早いか、カマドウマ男は空いた手で生栗の腕を取り、一息にへし折った。
「あああああああああああああ!」
「や、やめろぉ!」
二人の叫びの二重奏を聴きながら、カマドウマ男はゆっくりと言った。生栗の体を、壊しながら。
「悲しいか?苦しいか?恐ろしいか?・・・自分の無力が腹立たしいだろう?・・・それは全部、俺が味わったことだ!貴様が爆破したコンビナートの炎の中に両親を失ってから二十年、ずっとずっとだ!」
踏みにじられながらも必死にもがいていたカーネルの動きが、ぴたりと止まる。
(あ、あの時の・・・)
皮肉である。彼女が業火の中に部下の戦闘員を失った戦いで、カマドウマ男もまた肉親を失っていたとは。
愕然とするカーネルに、続けてカマドウマ男は言い放つ。
「いや、この気持ちは、貴様が容赦なく殺してきた罪もない人々、その人達を失った者、全てが味わった感情だ!」
ギロチンが落とされた。
(もう、おしまいだ、知られた・・・生栗にも、私が、醜いって、血塗れの、人殺しの、化け物・・・もう、思っても、もらえない・・・私も思えない・・・汚いよね、私は・・・近づけないよ・・・)
砕けた心のかけらが舞う。
終わった。そう思いながら、それでもカーネルには言うしかできなかった。
「わ、私は、闘うしか、殺すしか生きる道はなかった、無かったんだ・・・私も悲しかった、苦しかった、恐ろしかった!言い訳にもならないことは解ってる!けど、お願いだ・・・生栗は、生栗は、助けて・・・許して、お願い・・・」
激痛でもうろうとした意識の中、生栗は思った。
(女の子みたいだ、女の子みたいに、カーネルが泣いている・・・)
女の子みたい?いや、カーネルは最初から女だったのだ。生栗が実感として捉えていなかっただけで。
「知ったことか!貴様はもっともっと味わえ、苦しめ!そして知れ、貴様のような化け物が、悪鬼が、自分だけ幸せを持とうなど許されるはずがないということを!」
エゴの固まりの発言。しかし、それはカーネルの弁解も本質的に代わりはない。そして、人が皆抱えるもの。
そう、人が捨てられないもの、感情の結果なのだから。
だから、生栗はなおも動いた。おれかけた腕を回し、対怪人拳銃を強引に抜く。
発射。胸板にまともに受けて、よろめくカマドウマ男。ダメージにはならないが、生栗の狙いは別にあった。
「うおおおおおおおおっ!!!」
瞬時にカマドウマの脚から逃れたカーネルが、最後に残された力を振り絞って、鋭い爪を突き出す!

ぶざ、と人の肉を貫く音。
飛ぶ血飛沫。
「はははははははははは!」
感極まった、といった風な、カマドウマ男の笑い。
カマドウマ男は、避けきれないと悟るや生栗を掴み、カーネルの前に突き飛ばしたのだ。

カーネルの最後の一撃は、生栗 磁力を貫いていた。
「あ・・・あ・・・あ・・・」
膝から崩れ落ち、壊れた機械のようにがたがたと震えるカーネルを見下ろしながらカマドウマ男はあざ笑った。
「とうとう自分の男も殺したか、本当にお前は悪魔だな。」
「ああああああああああ!」
戦意どころか、意志自体を喪失したように見えるカーネルの無防備な首筋に、満面の笑みを浮かべながらカマドウマ男は手を伸ばした。
(完璧だ・・・完璧にやった・・・これで最後だ、マシーネン・カーネル!)


「ええいっ、この糞野郎、鬼畜、ストーカー、外道、変態、独善者ぁ!逃げるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
天井に空いた大穴に向かって激昂して怒鳴り散らす悪の博士。その視線の先にあるのは、己の生み出した竜巻を使って浮遊する、カマドウマ男の姿だった。
戻ってきた主力部隊も各々の武器を構えているが、発射することが出来ないでいる。
「邪魔が入るなら、帰るまでだ。俺の目的はあの女だけ、そしてこれが有ればいつでもあいつをおびき寄せられるからな」
そう博士の怒号を受け流すと、カマドウマ男は「これ」、怪人達が攻撃できないわけを抱えて、まるでNMR-0の様に飛び去っていった。
カマドウマ男が抱えていった者、カーネルをいつでもおびき寄せられるもの。
それは、重傷を負って気絶した生栗だった。

血塗られし者達 第八回 ダークネス

バッシィィィン!
「!?!」
ドサッ。
「は、博士ぇ!?」
戦闘後処理後に開かれたカマドウマ男製造に関する反崎秋名死神大教授の査問会議。
その場で博士の取った行動に、同席した全員が戦慄した。
反崎がカマドウマ男を作った理由を、「ロマンだにゃ」と答えた途端、博士はいきなり何も言わずに反崎を張り飛ばしたのだ。
反崎が肉体的にはまだ子供だということも、自分の手が装甲された強靱な代物であるということも承知の上で。
軽いからだが吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
「あ・・・」
一瞬何が起きたか解らずに、反崎は呆然とした。
「博士何を・・・!!」
制止しようとした者達は、動くこともできなかった。博士の全身から立ち上る盲目的なまでの、戦場同然の殺気と怒りに、縛られたように動きが止まる。
「・・・」
ギュイイイイイインッ、どすっ!どすっ!
「ふわぁああ!?」
全くの無言のまま、博士は杖の石突き代わりのドリルを反崎に突き刺そうとした。慌てて避けた反崎の体がたった今まであった壁に、ドリルが風穴をあける。
ジャッ!
ずどん!
「きゃあああああ!!」
今度は先のパラボラから放たれた破壊光線が炸裂する。
必死に逃げ回る反崎。なおも八つの目からの怪光線や、鋭い刃物であるマントの縁、鞭のようにのびる鋭い指の毒針で攻撃する博士。
「はうっ?」
いつしか、反崎は部屋の隅に追いつめられていた。突然の恐怖に泳ぐ瞳には、牙の集合体である口からゆらゆらと黒い陽炎の様な物を立ち上らせ、冷酷な、獲物を見る目で反崎を眺める博士しか映らない。その姿は普段より更に恐ろしげに変化して、どんな改造人間、いや全ての兵器と比べてもなお恐ろしかった。
科学者である反崎には、その陽炎の威力が解った。博士が「闇の怒り」と読んでいたもの・・・精神具現による破壊。博士の極端に強靱な精神により、その威力は物理法則を超えるほどだ。
その姿と共に、人の心の闇。なまなかな科学で超えられるものではない力。
「あ、あう・・・」
反崎は恐怖した。体がぴくりとも動かない。
殺される、殺される殺されるコロサレルコロサレルコロサレルコロサレル!!
ぐかっ、と博士が口を開いた!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

反射的につぶった目を、反崎はおずおずと開いた。そこに映るのは、ふだんと変わらない博士。
「解ったかね反崎殿、これが貴殿の戯れに巻き込まれた者が最後に感じた感情だ。」
ひっしにこくこくと頷く反崎。
「解ればよい。お主は、まだ幼いから解らぬだろうが・・・人はこの闇を超えて進まねばならないのだ。」
そういうと、博士はマントを翻して歩き出した。
「付いてこい、反崎殿。これにて査問は終わりとする。」
有無を言わさぬ様子でそう言って。
「・・・何をするのかにゃ?」
おずおずと尋ねる反崎に、振り向かずに博士は答えた、少し照れているようにも、やりすぎを反省しているようにも見える。
「我等はマッドサイエンティスト。であるならば、この状況でやるべき事は一つだ。」



「う・・・あ?」
傷の痛みで目を覚ました生栗が最初に見たものは、黒い闇と、窓から差し込むらしい弱々しい光に浮かび上がる、赤い瞳、長い触角の改造人間の姿だった。

血塗られし者達 第九回「生栗 磁力」

まず、生栗は自分の体を調べた。

カーネルから受けた傷は、案外深くない。貫いたのはカマドウマと生栗の位置関係から、臓器から離れた肩のあたりだったので(つまり、カマドウマの心臓を狙ったカーネルの攻撃に対して引っ張られた生栗の肩がその辺にあったわけだ)いますぐ死ぬと言うことは無さそうだ。
だが、傷口は広く深い。骨もこの分ではやられているだろう。カマドウマにひねられた腕も複雑骨折で、内出血が始まっているが、この程度ならまだ持ちそうだ。
もっとも、妹の彩に今までさんざんやられてきた生栗だからこそ、「この程度」と言えるのだが。

「しかし、お前達の目的は何なんだ?」
カマドウマ男の発した問いが、生栗にカマドウマ以外にも人がいることに気付かせた。
よく闇に目を凝らすと、確かにもう二、三人、奇妙なシルエットが見える。だが、いまいちよくわからない。
「敵基地からの俺の逃走に応じて、幽子力レーダーを妨害したり、この廃工場を提供してくれたり、今度はカーネル以外の敵を引きつけるため偽装攻撃を仕掛けるという。一体、何故そこまでする?」
この会話で解ったことがかなりあった。カマドウマに協力者が生まれたこと。
そいつらは霊子力レーダーを妨害できる力があること。
敵意を関知する、レーダーと言うよりは一種の予感・予知のような力を妨害できる、つまり何らかの魔法に近い力を持っていると言うこと。
この場所は何処かの廃工場らしいことなど。
「細かいことは気にしない方が身のためなぁの。君の行動は、十分かおす達の利益になってるぅの。」
追記。協力者は変な話し方。カーネルがいなくなる・・・悪の博士怪人軍団の弱体化を望む集団。
「まあ、確かに俺は貴様等が何だろうが知ったことじゃないな。悪魔だろうがなんだろうが、あの女を殺す手伝いをしてくれるならいい。」
カマドウマの声に答える、さっきとは違う声。
「では、我等はこれにて。」
すっ・・・とかき消えるように、影達はいなくなってしまった。


暫くして、カマドウマ男は生栗に話しかけてきた。
「ふ・・・お前も災難だな、あんな女に関わったばかりに・・・」
「別に。この程度の修羅場くらいなら慣れてるからな。」
「ふん、虚勢を張る。どうせ、ショックだったんだろう?」
「言っておくがな、俺は、あいつの過去のことなんて気にしない!」
「仲間を見捨てない、という自己満足か?」
「そう言われてもかまわない。もし見捨てたら、俺は俺が軽蔑し、命がけで逃げ出してまで闘うことを誓った者と、同じ存在になってしまう。それは絶対に嫌だ。」
「所詮悪人か。」
「俺が悪人なら、お前もそうだ。その覚悟は出来ているんだろうな。」「・・・・・・・・・」
「どうなんだ!?相手を悪人にして、自分は高みにいるつもりか!」
「できているさ。」
「・・・」
「戦いは、そういうものだろ。俺もあいつも、同じ穴の狢。だが、それでも俺はあいつを殺す!俺の両親を殺したあいつは許せない、それだけだ!・・・所でお前は、あの女をどう思っている?ただの自己満足行為の対象か?」
「・・・いや。
「じゃあ、何だ?」
「最初はそうだったかも知れないが、あいつは・・・あいつは俺の・・・」
「来た!」
不意に、カマドウマ男は会話を打ちきり立ち上がった。

ズドン!と爆音と共に、天井に穴が空いた。


「私は、オペラ座の怪人・・・」
病み衰えた月が、かすかに、そして残酷に異形の姿を照らす。
その中に更に黒々と影を浮かばせながら、マシーネン・カーネル、いや。機蝗兵は、
「思いのほかに醜いだろう?」
微笑んでいた。

血塗られし者達 第十回 「DARK」

「来たか・・・」
心底嬉しそうに身構えるカマドウマ男の前に、カーネルはふわりと着地した。
「あ、あれ・・・」
生栗は目をこすった。確かに目の前にいるのは機蝗兵、カーネルの変身した姿なのだが、何か違う。
「あ!」
生栗は気付いた。
(色、か!)
暗くてよくわからなかったが、カーネルの普段は緑色の装甲は、周りの闇と同じ漆黒に変化していた。所々に赤いラインが走り、機械部分が銀色に際だってぎらついている。
「だがこの怪物は、地獄の業火に焼かれながら・・・」
先程からカーネルは、「オペラ座の怪人」の一説、怪人の独白を暗唱していた。
愛する人のために殺人を重ねた、醜く悲しい怪人のセリフ。
一旦言葉を止めると、カーネルは生栗に歩み寄り、抱きしめた。
「それでも、天国に憧れる・・・」
素早く立ち上がり、カマドウマ男に向けて向き直る。
「私が罪人であれ、化け物であれ、私は生栗を愛している!誰にも傷つけさせない、奪わせない!お前の事情は知っているが、私は死なない!生栗も殺させない!私は全力でお前を倒す!だが、お前達の呪いは引き受けてやる、お前が私を殺したいならそれでいい、全力でかかってこい!!」

晴れ晴れと、カーネルは言った。血塗られし、闇の中の愛の言葉を。
例え世界が認めなくても、恨まれても、犯した罪の咎で殺されてもかまわない、それでも愛を抱き、それでも生きることを、彼女は誓った。

「初めから、そのつもりだ!死ね!」
ズバーン!
「!」
カマドウマ男の起こした真空の刃が、空中で砕け散った。
カーネルが掌をつきだしただけで。
「「な、何だその力は!?」」
奇しくも同じ疑問を発したカマドウマ男と生栗。
「・・・コピーキングストーンの力を、全開にした。それにより・・・世紀王の力が一時的に使えるようになる。」
そのカーネルの回答に、生栗は驚愕した。普段からコピーキングストーンのせいで力と引き替えに活動時間の限界が生じ、血反吐を吐いて苦しんでいるというのに。
「な、なんて無茶するんだ!!!そう言うことはやめろって、何度も・・・」
「無茶じゃ、ない。」
皆まで言わせず、カーネルは続けた。
「確かに、全身に常に激痛が走り、再強化を受けた体へのダメージも相当な者になる。だが、現在こいつに荷担したらしい連中が攻撃を仕掛けてきている。こちらに避ける戦力は、私だけだ。ならば・・これ以外に道はない。それに・・・」
カーネルの両手に、光が宿る。
「私は、生きるために闘う!そう決めたんだぁあ!!!」
決意の叫びと共に、凄まじい光・生体思念エネルギーの奔流がカマドウマ男を襲う。
「コロスッ、バッタンジン!!!」
竜巻に乗って、カマドウマトコは攻撃をかわした。向こうの倉庫が爆発するのと同時に、一気に間合いを詰める。
「シャッ!」
以前より更にスピードを増したキックとパンチの嵐。拳も脚もエネルギーをまとい、その破壊力は凄まじい。
「おおおおおおっ!!」
だが、今やカーネルも同じだけの力がある。
「があっ!」
カーネルの爪がカマドウマ男の脇腹をえぐる。装甲の熱い胸部を避けた、巧みな攻撃。傷に突っ込んだ手から波動を発射し、ダメージを倍加させる。さらに、手の甲から出したナイフで傷口を広げる。
「ぐおおおっ!」
今度は逆にカマドウマ男の蹴りがカーネルの羽をちぎり取った。腰部に内蔵されている飛行用のユニットが一緒になって引きずり出されてきた。腰から太股に血がだらだらとたれる。更に今度は、顔面に風圧による大砲のような一撃。昆虫の複眼がレーザー発信器ごとつぶれて、赤いかけらが舞い散る。
互いに激しく相手の体を削りあう。外骨格にひびが入り、骨がきしみ、皮膚がやぶれ、肉がちぎれる。
ただ、力をぶつけ合う。それしかできないのだから。
「はぁっ!」
いきなりカーネルが剣を繰り出した。内蔵武装のナイフではない。何もない虚空から、いきなり剣を「掴みだした」のだ。
「ぬっ!」
かわすカマドウマ男。一旦間合いを取ろうとする。だが、すぐさまカーネルの手の中の武器が、剣から巨大なボウガン状の武器に変化する。
「な、これが世紀王の力か!?」
「もらった!!」
ボウガンから放たれたのは、エネルギーをまとった矢。カマドウマ男を取り巻く風の障壁を、貫く!
「やった・・!」
トドメを刺すため、走り出すカーネル。
だが、カマドウマ男は倒れてはいなかった。
逆に、ボウガンにエネルギーをつぎ込み、防御が手薄になった隙を狙って真空刃を一閃する!
ずばしゅ、と血潮の吹き出す音。
カーネルの右手は、肘の所から落ちた。
「・・・・・!!」
息を呑む生栗。だが。
「腕一本は覚悟の上だ!」
かまわず、カーネルは左手でカマドウマ男の顔面を狙う。必中の間合い、確実にカマドウマ男の顔面がぶち砕かれるはず。
ぐしゃり。
「ぐふふふふふ・・・」
ぶちぶち、と肉がちぎれる音。寸前まで迫ったカーネルの爪を、カマドウマ男は銀色の大顎でかみ砕いていた。
ぐるぐると顎をうち振り、手を食いちぎるカマドウマ男。
「ぐ、うううっ!」
とうとう手が引きちぎられた。咄嗟に脚をつきだしカマドウマ男を蹴り飛ばそうとするカーネルだが、腕が無くなった以上脚で攻撃するしかないことは見抜かれていた。
めしゃり、と膝関節に横からの一撃。曲がるはずのない角度に脚が曲がる。
ザリっとカーネルの手足の鋸歯がカマドウマを捉えるが、皮膚が切れる以上の効果はない。
よろり、とカーネルは膝を突いた。必死に顔を上げ、カマドウマ男をにらみつけるが、手足を失った状況で何が出来るだろう。
ひざまずくような姿勢のカーネルに、カマドウマ男は勝利を実感した。一撃でトドメを刺し、相手の体を木っ端微塵に粉砕するため風力エネルギーをかき集める。
それが、とどめの一撃となった。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンンンン!!!!!!
まるでロケットの発射のような、衝撃波を伴った轟音。
みしり、と何かが砕ける音。
「が・・・?」
カーネルに取ってではなく、カマドウマ男にとっての。
相手が勝ちを確信した瞬間、カーネルは即座に行動に移っていた。咄嗟に残ったキングストーンのエネルギーを折れた足にかき集めて爆発させ、反対側の脚での全力跳躍、それによる体当たり。
皮肉にも踏んだ修羅場の数が生んだこの違いは、カマドウマ男のエネルギーベルトの破壊、という結果となった。
「あが・・・」
よろよろ、と後退するカマドウマ男。その胸のコンバーターラング、風力エネルギーの蓄積機関が急激に膨張した。
「なががががげああ、ご、ごんあ、馬鹿、な、い、イヤだ死にたくない、まだ、まだ復讐が、・・・おどうざ・・・おがあざんんん・・・ぐぶぁああああああああ!!!!!!!!」
爆発。
暴走した風力エネルギーが、カマドウマ男の全身をバラバラの肉界と化すまで切り裂いた。


そして同時に、カーネルの全身からも血が噴き出す。

タイムリミットだ。





ダークブルーのVRの大群が、HV団基地・特に神刺塔にしつこく攻撃を仕掛ける。
「もおおおおっ、何なのこいつ等!邪魔するなっ!!」
カーネルが先に行ったことを知り、慌てて出撃しようとした途端に敵に遭遇し、怒るソドム。
「一体、ドコの連中でしょう・・・?ただ者じゃないようですね」
いぶかしげにゲドーが独り言を言う。
万物爆砕光線で蹴散らしながら、博士は呟いた。
「親衛隊、それもライシスの手下共だな。少し長引くか・・・カーネルが気になるな。よし。」
コクピット内に立てかけてあった笛を取り、吹き鳴らす。

血塗られし者達 第十一回「そして今夜も・・・」

「ちょ・・・おい!!」
全身から血を吹き出して崩れ落ちたカーネルを、磁力は慌てて抱き止めた。
「生栗、大丈夫か・・・」
「それはこっちのセリフだぁぁぁ!!」
怒鳴る生栗。
「そうか、よかった・・・」
「良くない!」
カーネルの体からはまるで間欠泉のように血が噴き出している。自分の乾いた血で汚れた肌の上に、更にカーネルの鮮血が塗り重ねられていく。
「解ってる・・・」
珍しくカーネルは同意した。自嘲とも無念ともとれる、複雑な笑いを浮かべて。
「折角・・・また生きるつもりで、戦えたのに・・・やっぱり駄目か・・・私・・・ぐほっ、げはあっ!」
激しく喀血する。
「お、おい、しゃべらない方が・・・」
「ふ・・・急に、命が、惜しくなって、来たよ・・・ごほっ、だって、生栗・・・磁力・・・貴方と一緒に生きたいから・・・ふう゛っ、貴方を、愛してしまったから・・・」
「あ・・・」
せめて、これだけは言いたいという風に言葉を絞り出すカーネルに、磁力は心臓がはね回るのを押さえることが出来なかった。
「な・・・なら生きろ!死ぬな!」
とにかく、そう言う。
「お前は私に生きていて欲しいのか・・・」
大量の血を失い、紙のように蒼白になった顔なのに、恥ずかしげな、照れたような表情は、美しかった。
「ありがとう」

そして、カーネルは笑った。まるで、告白を受けたように。

血塗れで、病的に顔色が白く、顔の半分はバッタの外骨格で、深い傷を負っていてもなお、その笑顔は美しかった。

「当たり前だ!お、俺も、お前と一緒に生きたくないわけがないと思うけどそれはつまり単に心配なだけとか可哀想なだけとかじゃなくて、ソドムとか妹とかいるけどええと・・・・・・・・・」

惑乱する磁力。
自分を落ち着けようと、自問自答する。
「つまり、俺はこいつが・・・こいつを・・・どうなんだ?」
頭から湯気がでそうなほど考え込む。だが、冷静になろうとすればするほど、カーネルの先程の言葉がぐるぐると脳裏を巡る。
「愛している、のか?」
自分の心境を顧みる。仲間としての感情や、ソドムへの想いとかと、違うココロが確かにある。その二つも大切だが、それとは違った意味で大切な想いが。
「なんだかんだ言って、俺もこいつと同じだったのかも、知れないな・・・。そう言う意味で、俺もこいつに、こいつを癒すことで、救われたのかも、な・・・」
護る物を得た、そう誇らしげに語るラディルの様子が浮かぶ。
「やっぱり俺は、カーネル、お前が好きだ、愛してるんだ・・・」
「ぐうっ、げふぉっ、ごほっごぼっ、ぐっ!!」
「!!、お、おい!!」
不意にカーネルのせき込みが激しくなった。際限なく喉から血が湧き、呼吸が出来なくなりかけている。
「く、苦し、ぐうふっ!」
助けを求めるように、生栗に震える手を伸ばそうとする。
「かっ、じりょ、く・・・苦し、・・・寒い・・・」
だが、彼女の手は、もう、無い。
・・・・・・
「!」
その様子を見た瞬間、生栗はカーネルに口づけをしていた。唇の冷たさに驚きながら、そのまま気管にたまった血を吸い出す。
べっ、と血を吐き捨てる生栗。
正確には、キスでも何でもない。だが、それが何より嬉しい。
ちかちか、とカーネルの体が発光し、変身が解けた。ベルトの服収納機能が損傷したのか、一糸まとわぬ姿である。とうとう、限界が来たらしい。
「・・・・・・!!」
必死に、この世につなぎ止めようとするように、生栗はカーエルを抱いた。抱きしめた。
折角得た者を、失う悲しみを、共有して。

「はいはい、助けが来たまぼよ。」

・・・へ?
唐突に、間抜けな声がした。
こ、この声は・・・
「まんぼう!?!?」
いつの間にかいる、悪の博士の弟の怪人?まんぼう。ぼてっとした体を、細いひれで支えているよう巣がかなりコミカル。
「な、まんぼう!何時此処に!?」
「ふっふ、それだけが取り柄じゃないまぼ」
意味もなく濃くしぶい笑みを浮かべるまんぼう。確かに、こいつの特技は
「いつの間にかいる」と・・・
「ほい、培養槽」
にゅもっという、かなり独特な効果音と共にどう考えても自分よりでかい水槽を口からだすまんぼう。
「これに入れば、万事怪傑まぼ。」
字が違う。だがそんなことはどうでもいい。
「ほ、本当か!」
「第一、キングストーンのエネルギー切れば元の体に戻るけど崩壊は止まるまぼ」
・・・・・・
「さ、二人とも入った入った・・・まぼ」
強引に「まぼ」をつけて、ひょうひょいと二人を培養槽に放り込む。
「がぼっ、ちょっと待て、何で俺まで!?」
一瞬肺に液が入るときむせてから、(肺に液が直接酸素を供給するので、呼吸はかえって楽になる)生栗は抗議した。
「これ、普通に人の怪我にもきくまぼ」
「・・・だ、そうだ。」
呼吸困難の収まったカーネルが言う。その顔は、何だかとても嬉しそうだ。死地から生還できたのだから、当然といえば当然だが。
何となく頷く生栗だが、次の言葉にまた驚いた。
「さ〜て、それでは生栗宅まで二人を送るまぼ。」
「な、二人ぃ!?」
こともなげに、まんぼう。
「カマドウマとその後の襲撃騒ぎで、神刺塔の居住区が派手にやられちゃって、まぼよ?」
にま、とたらこ唇が面白そうに笑う。
「いやまぼ?」
「・・・いやなのか?生栗?」
心細そうにカーネルが問いかける。
「い、いや、断じてそんなことは!!」
慌てまくる生栗。にまにまと、博士に似た笑い方をするまんぼう。
「そうか。」
嬉しそうに、カーネルが笑う。
「式は、いつにする?」
「・・・へ?」
生栗が凝固する。
「し、式って・・・」
おそるおそる、問い返す。
「・・・結婚式に、決まっているだろう?」
きょとんとして、カーネルがとんでもないことを言った。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
驚愕の余りのけぞり、水槽の壁に後頭部を強打する生栗。
その様子を不思議そうに眺めながら、カーネルは続けて言った。
「親兄弟親戚ではない男女が同じ屋根の下で暮らす、そんなことが結婚以外にあり得るか?」

カーネルの頭は、古かった。

「しっかり、さっきの返事は録音したまぼ。」
そういって、今度は腹の中から録音機を取り出すまんぼう。
「あああ・・・・で、でも博士は?」
「おもいっきり承認。」
今度は、はんこを押した書類。
「我が輩こと悪の博士は、我が娘マシーネンカーネルと生栗磁力の結婚を承認する」と書いてある。
頭を抱え絶叫する生栗。
「うがああああああっ!!あのオヤジ、絶対この事態予想してたな〜〜〜〜〜!!」
「生栗・・・愛してる、って、言ってくれたよね。だから・・・」
はにかんだ笑みを浮かべるカーネル。
「え、・・・俺、心では確かにそう思ったりしたけど、何で知って、ええ!?」
「もろ声に出してたまぼ。ちなみに録音済み」
「ああっ、本当だ!確かに、()でなくて「」!!」
わかりにくいギャグ。
「さてそれでは、二人の愛の巣へレッツゴー!!まぼっ!!」
培養槽を再び飲み込み、ふぃよふぃよと風船のように飛ぶまんぼう。
「あああああああああっ、お、俺はどうすればいいんだぁぁぁ!認めるべきか、それともぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?」
完全にパニクる生栗。
「磁力・・・」
もう何も聞こえないよすで、生栗の胸にすがりつく、恋する少女の顔をしたカーネル。

親衛隊が何か更に企んでいようが、カマドウマ男の死体を回収して何かしようとしていようが、とりあえず・・・


何といえばいいんだろう?

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