悪逆戦線HV・OVA「悪の博士がやってきた!」   


  (注意・当小説はヘルバーチャオフィシャル設定と異なる場合がありますが、なにぶんにも作者
  がここはまだ不慣れなので記憶違いによる物です。笑って許して。)
 
  ビーッ!ビーッ!ビーッ!
  深夜、もう二時も過ぎた完全な深夜。
  悪の秘密結社HV団筑波支部にエマージェンシーのサイレンが睡眠妨害チックに鳴り響いた。
  「何事だ!」
  筑波支部最高責任者・四天王の不死のゲドーが叫ぶ。
  そして生栗(当然絶叫と共に起きた)、瑠璃、生味噌等戦闘員も駆けつけてきた。
  「む~、眠いにゃ~。なににゃ?なにがあったにゃ?つまらないことだったらひっかくにゃ」
  階級的には四天王より上なのだが大した実権はない総帥見習いのアーク・ダーマがぶつぶつとぼ
  やきながら、半分夢うつつで爪をサイレンを鳴らした当直戦闘員・・・りゅうゆうに向ける。
  「はっ。その・・・何といえばいいのか・・・とにかく外の映像をご覧下さい。」
  敬礼と共にそう答えるりゅうゆう。
  ゲドーはモニターの前に立ち・・・
  「こ、これは・・・」
  そして絶句した。
  強いて言うなら、
  「中腹にいかにもな怪しい洋館が建った学校の裏山位の高さの小山に怪獣の足が四本生えて歩い
  ているような物」が基地のまえにどどんと立っている。
  「何だこれは、どこから来た?・・・いやそれ以前に、此処まで近づく前に気が付かなかったの
  かりゅうゆう!」
  怒鳴るゲドーだが、周囲の状況を落ち着いて見回し、納得した。
  床に涙の川を作りながら倒れ伏すライガーと、アリエッタの物らしきコーヒーの乗ったメイド用
  トレー。
  またぞろいつもの修羅場であろう。
  「まあ仕方がなかったと認めよう。」
  ゲドーは呆れながらぼやいた。だが、正直彼、いやこの基地の者全員に呆れる資格はない。
  これだけ巨大な質量が歩いてきたのに、誰一人として足音で目を覚まさなかったのだから。
  しかもこの物体は、耳をすまさなくても解るほどに音楽を流していた。
  ちなみに曲名は
  (前略)世~界を征服偉~大なショッカー、怪人操~る恐~怖だショッカー♪
  ちゃらっちゃらーっちゃちゃらららん、ちゃらっちゃらーっちゃちゃらららん♪
  ちゃ、ちゃっちゃっちゃ、ちゃららら~、ちゃっちゃちゃ~~~ん♪
  「オー!ショッカー!」のフルオーケストラ・バージョン。
  「・・・敵では無さそうだな」
  この曲に気が付いたゲドーが呟いた途端。
  「そのとおり!!!」
  唐突に映像通信が割り込んできて、モニターの画像が切り替わった。


  その映像に映っていたのは。
  金属製のように見える、八つの瞳(左右に三つずつ、真ん中に二つ)の付いた鉄兜といった方が
  いいような仮面をすっぽりと頭から被り、表地が黒、裏地が赤の襟付きマントを羽織っている。
  そのしたに着ているのは形は白衣と同じだが、マントと同じ表が黒裏が赤の「黒衣」とでも言う
  べき代物、両手足は仮面と似たような材質の鎧のようなものをつけているため肌は一寸たりとて
  見えず、性別はおろか人間かどうかもはっきりしない「何者か」が、研究室のような部屋で椅子
  に腰掛けている光景だった。
  更によく見ると「何者か」の背後には人間と似て非なる者・改造人間が十体ほど控えている。
  そこまでゲドーが見て取ったところで、「何者か」は口を開いた。
  「お初にお目にかかる、HV団筑波支部の諸君!我が輩の名は悪の博士、本日これよりHV団に
  協力する「マッド」サイエンティストだ!」
  「何者か」改め悪の博士は、「マッド」という言葉にやけに力をこめていった。
  「な・・・何・・・?」
  「どうした?鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。この件は、総帥ミスターT、四天王ハッハ
  ノ、戦闘員303号こと生栗によってすでに承認されているのだが?」
  「何だって?」
  ゲドーは傍らの生栗を見た。
  「おい、それは本当か?」
  「は、はあ。確かに近日中に北海道本部に行ってから来るとか言ってましたけど・・・」
  「何故すぐ言わない!」
  「まさかあんなので来るとは思いもしなかったもので・・・それに日程も全然知らせてくれませ
  んでしたから・・・」
  生栗はすまなそうに言った。この場合、生栗に罪はない。悪い尾は電話の一つもよこさなかった
  ミスターTだが、彼にそんなことを求めるのは間違いである。
  「まあ、そういうことなんですよ。」
  モニターのむこうに、北海道本部勤務のはずのハッハノが現れた。
  「!?ハッハノ!お前何でそこにいる!」
  「何でといわれても、総帥の指示で・・・。大作戦をやるからわしと悪の博士と一緒の筑波に行
  くぞって・・・。あんまりせかすから電話する時間もなかったんです。」
  やはり悪いのは総帥だったか・・・とゲドーは思った。待てよ?一緒に?
  「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
  いた。いつもより更にテンション高そうな悪笑いをしている。
  「くははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
  更に総帥悪笑い・・・と思いきや、笑っているのは悪の博士だった。最初が「ふ」でなく「く」
  なところが微妙に違う。
  「その通り大作戦だ!この我が輩が来たからには、あっと言う間に世界を征服出来るぞ!!くは
  はははははははははははははははははははははは!」
  「ふはははははははははははははははははははははは!」
  再びのダブル悪笑いに、いまいち状況が飲み込めないゲドーと取り残されたその他団員達は、た
  だただ立ちつくすのであった。
 
  ちなみにそのころゴモラは、安眠を妨害されて暴れ狂うソドムを必死になって取り押さえてい
  た。

まだ状況が飲み込めずにぼんやりとしているHV団団員の前を、コンテナの山が横切っていく。
  それぞれ「普通用」「本気で戦う用」「なりふり構わない用」と書かれた、VRだって入りそう
  な箱が、足をはやして歩いてくる。
  あの博士のセンスって一体・・・
  その場にいた全員が思った。
  「ハッハノ・・あんなのスカウトして大丈夫なのか?」
  歩くコンテナの地響きに身を任せながら、ゲドーはぼんやりとした声で訊いた。
  「腕は確かだ、と思いますよ。それ以外にはかなり問題がありますけど。」
  ずしん、とコンテナが腰を下ろした。続いて研究所からわらわらと人影がでてきた。
  いや、人ではない。緑色の外骨格を持った、蝗の改造人間達だ。と言っても、結社関係者の恐怖
  の的であるバイクに乗ったバッタの改造人間とちがい、より昆虫らしい、生々しいデザインをし
  ている。そいつらが鋭い爪をがちゃつかせながら、引っ越し宜しく梱包(しかも、足の生えた)
  を解いている有様は、どこかミスマッチのおかしさがあった。
  次々と箱が開けられ、改造が施されたVR、その部品、VR用の武器、布を駆けられた巨大なな
  培養槽、手術台、銃のようなもの、カプセル、銀色の「空飛ぶ円盤」みたい、と言うよりはそう
  としか見えないもの、本当に何だかわからないものなど、次々と運ばれていく。
  一体の蝗怪人が、「本気で戦う用」と書かれたコンテナを開けようとした途端、どこからか注意
  がとんだ。
  「いや、それはいいぞ蝗軍兵38号。博士は今回は「普通用」のみにすると仰せだ。」
  蝗軍兵というのが蝗怪人の名前らしい。
  「キチキチ、解りましたマシーネン・カーネル様」
  そう言って敬礼する蝗軍兵の視線を、ゲドーは追った。
  その先にいたのは、漆黒の軍服に身を包んだ少女。鋭いが同時に美しい、刃を思わせる美貌の右
  半分を、垂らした金の髪で隠している。見ていると、きびきびとした態度で蝗軍兵達に指示を下
  し、効率的に動かしている。
  「・・・部下は優秀なのがいるいるみたいだな。」
  呟くゲドーの横で、ハッハノもその光景を見ていた。
  「ああ、機蝗兵、マシーネン・カーネルさんですね。あの子は優秀な戦術指揮官ですよ。一件冷
  たく見えるけど結構いい人だし。」
  「ちょっと待った、機蝗兵って、あいつも改造人間か!?そうは見えないが」
  「変身できるんですよ、博士の怪人は大抵。」
  ゲドーは驚いた。
  「確かに・・・技術は高そうだな。だが、その割に人間の格好をしているヤツがいないのは何故
  だ?」
  確かに、さっきのカーネル(大佐、という意味)を除けば、全員が人間の姿をとってていなかっ
  た。
  コートの背を破って四本の触手を伸ばし、帽子の下で八つの眼をぎらつかせた蜘蛛怪人、きらき
  らの体にシルクハット、ご丁寧に片眼鏡にステッキまで持って決めたコガネムシ怪人。耳をひこ
  ひことうごめかせ、当たりの様子を興味深げに金色の瞳で見回す狼怪人の娘。嬉しそうに尻尾が
  揺れている。その横をうねっ、うねっ、と体を動かしながらミミズ怪人が通り過ぎ、鞍馬天狗と
  鴉天狗を合体させたような怪人が黒い羽を広げ、頭巾の下から鳥の瞳が光る。
  他にも沢山いるが、一々描写していくときりがない。
  「ああ、それは博士の教育で。」
  ハッハノは少し嬉しそうに言った。
  「教育?」
  「改造された体は、決して醜いものじゃない、美しいものだ。お前等は人間の心を持っている、
  誰が何といおうと化け物じゃない。改造された強い体に誇りを持って生きろ・・・って言うそう
  で。カーネルさんは、まあ特別な事情が有るんだけど」
  「ふん・・・」
  案外まともなヤツなのかもな、あの博士・・・
  ゲドーは後半の発言を心の中で呟き、そこでひょっと気になった。
  「そう言えばあの博士何処いったんだ?」
  そうして暫く探し回った結果。
  「いやー、あれだけの数と戦闘能力をこなすとは、悪の博士さん、あなたもやりますにゃ~」
  「くはははははは、それほどのことはありますぞ!ですが貴公も良いセンスをしていらっしゃ
  る!」
  反崎秋奈と怪人談義で盛り上がっていた。
  「共食いする鮭と熊、総帥に食われるウニ!すばらしい!さらにおもしろさだけにとどまら
  ず・・・」
  そこまで言うと悪の博士はコーヒーを運びに着ていた鴉女を抱き寄せた。
  「うわわわわっ!!??」
  動転する鴉女。そりゃそうだ。だが当の悪の博士には悪気とかやましい気持ちとかは全然ないら
  しい。
  「この黒い髪に泣きぼくろ、美しい羽に、なにより黒いイメージを維持するために常に黒いコー
  トを着用させるこだわり、まさに怪人美!!」
  ただ純粋に怪人としての造形美を讃えているのだ。
  「泣きぼくろは私のせいじゃないけどね。」
  「くはははははははははははははははは!これは一本とられた!くははははははははははは!」
  「にへら(笑)」
  ・・・・・・・・・・・・
  「ハッハノ・・・あんなのスカウトして『本当に』大丈夫なんだろうな」
  「・・・自信もてなくなってきたかも・・・」

  なにはともあれ荷物の運び出しは終了し、準備も整ったので、各幹部と悪の博士の呼ばれた主だ
  った戦闘員は、ミスターTと悪の博士の言っていた「大作戦」とやらの説明を受けるため、作戦
  会議室に入っていた。
  会議室をぐるりと見回し、欠員がないのを確認しながらまずミスターTが言った。
  「ふははははははははははは、それでは今回の作戦の説明をするぞ、皆の者しっかり聞くがい
  い、おどろくぞ。」
  そこまで言って、ミスターTは悪ワインを一口飲んだ。
  そして、続ける。
  「題して、「HV団に敵対する組織全部叩きつぶしちゃおう作戦」!!国家であるDNA・RNA各
  軍事施設・劇場版で邪的に邪魔だったAVIS残党・「っぽい教」を信奉する新鮮組・狂動物保護
  団体ツナヨシ(犬含む)・青の騎士かいしょー・キャス子仮面・そして宿敵Aフォースを一度に
  叩きつぶそうというまさに超超弩級の作戦よ!ふはははははははは!!」
  「そんな無茶な!!」
  ゲドーは呆れた。どう考えても無理だ。
  「無理ですって、そんなに一辺に攻勢とるほどの戦力はないです」
  ライガーも同意見らしい。
  更にまくし立てようとする二人の声を、高笑いが遮った。
  「くははははははははははははははははははははは!!!だからこの我が輩が支援に来たのであ
  ろう?このワシの手に掛かればこれくらいたやすいわ!」
  悪の博士である。ひとしきり高笑いすると、傍らの、頭に烏帽子大の以下の胴体部ににた増加頭
  脳ユニットをはやし、後頭部から髪の毛のように十本のイカの触手をのばした大人しげな少女怪
  人からストレートウィスキーの入ったグラスをもらい、グッと呑んだあと板チョコをかじった。
  仮面につけられた牙を剥く口が開くが、中の顔は影の具合で見えない。
  「しかし・・・」
  「のおライガー。」
  なおも渋るライガーに悪の博士は老獪な口調で言った。
  「これほどの大作戦に参加し、しかも成功させたなら・・・「きゃー!ライガー様すてき!!私
  をお嫁さんにして下さい!きゃは!」とかアリエッタちゃんに言われるぞぉ」
  「ぬほーーーーーーーーーーーーっ!!!やりますやりましょうやらいでか!!!」
  あっけなくライガーは懐柔された。そのまま妄想モードに突入してしまう。
  のたうつライガーを、全員が無視した。
  「まあ、ゲドー殿、落ち着いて我が輩の戦力、我が輩の作戦を聞くのだな。」
 
  「まず、DNA・RNA軍施設は、我が輩の手勢の蝗軍兵達が搭乗するVR獣(我が輩の作った改造
  バーチャロンの名だ)「バイパン星人Ⅱ代目(つーだいめ、と読むのが通だ)」で攻撃させる。
  サイファーより早い機動性に分身機能、スペル@ン反射光板を備え、ナパームロケット弾にマイ
  クロブラックホールキャノン「重力あらし」で武装したVRが数十だ、八@裂き光輪でもないか
  ぎりあっけなくけりが付く。」
  そう悪の博士が言った途端八つの眼の内の一つが光り、空中にそのVR獣・・・バイパー2をベ
  ースに両手を鋏型の武器マウントに変え、頭に奇妙なV字型発光器官をつけたVRの姿が映しだ
  された。
  「続いてAVIS残党だが、これは正直どうにでもできる。が、Aフォース共と合流されたり、そこ
  でバイトしてたりしたら厄介だ。鞍馬鴉!」
  唐突に悪の博士は、傍らに控える鞍馬天狗と鴉天狗を合成したような鴉の改造人間、鞍馬鴉を呼
  んだ。
  「お主の配下の鴉共を使って居場所を探れ。見つけたら・・」
  そこで再び、傍らのイカ少女を見やる。
  「ふむ、イカンゴフ。お前は実戦はまだだったな。まあ本来看護および食事まかない用だから仕
  方ないが・・・。一度体験してみるのも悪くはあるまい。よし、お前に我が移動研究所の指揮を
  任せる。軽~く踏みつぶしてこい。」
  イカ少女・・・イカンゴフは頷いた。
  「はい、ご主人様。命に代えましても。」
  「我が輩のことをご主人様と呼ぶのはよせと、何度もいったではないか。」
  「でも」
  口ごもるイカンゴフ。
  「我々は主従ではない。同志なのだ。」
  「でも・・・」
  「まあいい。」
  悪の博士は少しめんどくさそうに話を打ち切った。
  「新撰組に関しては・・・まああれはザコだ。四天王のゲドーとライガー以外の二人に適当な戦
  力を付けて出してやれ。それで充分。」
  HV団四天王の半分をして、「適当な戦力」という悪の博士。それは単に、残りの二人が小説に
  あまりでてこないからまだよく憶えていないだけという理由だった。
  「ツナヨシに対しては・・・アーク・ダーマ殿、貴殿にやってもらおう。我が輩の最新型、まだ
  結社バリスタスにも渡していない新怪人を三人つける。来ぉ~~~~い、キャッツ・ガイ!!」
  悪の博士が叫ぶと同時に、天井を破って三体の怪人が現れた。
  「ふ、ふぎゃああああああ!!」
  アークは絶叫した。いや、アークだけではなく、他の物も多かれ少なかれ叫んでいた。
  某美人怪盗三姉妹に、名前だけ似たその怪人達は・・・
  ネコミミだった。肉球グローブだった。尻尾つきだった。怪盗三姉妹に似たぴっちりした服だっ
  た。そして。
  それぞれ髭、はげ、覆面の、むきむきのマッチョマンだった。
  「うっす、キャッツ・ガイっす。よろしくっす。」
  しかも変な方言だった。
  「これからアーク姉の指揮下にはいるっす。よろしくっす。」
  「い、嫌にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
  アークは絶叫した。
  「悪の博士さん、ひょっとしてネコミミに何か嫌な感情を持っているにゃん!?」
  「いや、別に?何か問題があるか、この三人に?」
  「よろしくっす」
  「助けてにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
  叫ぶアークを後目に、悪の博士は説明の締めくくりに入った。
  「残りの単独ヒーローは、Aフォース基地を襲撃すれば呼ばなくても出てくる。かいしょーはゲ
  ドー殿に新兵器を渡すから、それで対処してもらおう。なに、一騎打ちの邪魔ではないから安心
  したまえ。キャス子仮面、東宝ランナー、石垣老人など要注意人物はこちらで対処する怪人を当
  たらせる。以上で作戦説明を終わる。解散、準備にかかれ!!くはははははははははははははは
  はは!」
  「ふははははははははははははははははははは!」
  ミスターTと悪の博士の、二度目のダブル悪笑いで会議は締めくくられた。
  会議の後、悪の博士は生栗を呼び止めた。
  「貴殿には特別任務かある、話すから我が輩の部屋に来るように。」
  不幸な生栗、またも貧乏くじのようだった。

「たたた、大変アルネ長官!」
  Aフォース放送係レオナルド根岸・・・もといベンジャミン伊藤が、そう叫びながら長官室へ飛
  び込んでいった。
  「何っ!」
  昨晩から沖田と「徹夜でウルトラセブンDVDオリジナル全話はおろか平成版から私が愛したウ
  ルトラセブンまで全話観賞」の暴挙を行っていた三笠屋は、すっかりキリ@マ隊長な返事をし
  た。
  「所属不明改造VRの大群が各軍事施設を襲撃しているでゴワス!DNA・RNAどちらも軍主力は
  もう壊滅状態の模様、更に電波ジャックによる謎の映像が流されているでゴワス!」
  そこまでベンジャミンがしゃべった時、まだウルトラセブンを写していたテレビの映像が切り替
  わり、悪の博士の仮面が大写しになった。
  「くははははははははは!!我が輩の名は悪の博士、HV団の新たなる同志だ!このたびは世界
  征服のため、HV団にとっての邪魔者を排除することに決定した。既に正規軍主力はほぼ壊滅、
  HV団に抵抗していた組織も同様の哀れな運命を辿った・・・・次は対アジム防衛機構Aフォー
  スの番だ!!せいぜい、無駄なあがきをすることだな。そうでなければ面白くないというもの
  だ。くはははははははははははははははははははは!!!!!」
  そういうと、電波ジャックは唐突に終了した。
  「ち、長官・・・」
  「くっくっく・・・此処まで真っ向きって正義に挑戦するとは、見上げた悪党ぶりだ!木っ端微
  塵に粉砕してくれる、全機スクランブル!!」
 
  そのころ、HV団の攻撃を受けた各施設は・・・
 
  DNA・RNAの場合
  執拗な攻撃により、完全に廃墟になった基地に立つ、VR獣「サイ・ファルタン星人」指揮官専
  用機で、通信設備を集めた頭部が奇怪な形を取っている、サイファー改造機である。頭部以外は
  基本的にバイパン星人Ⅱ代目と同じ改造が施されているその期待に乗っているのは、悪の博士怪
  人軍団戦術指揮官、カーネルクリーチャーだった。
  「こちらカーネル。博士、予定通り各施設制圧完了。多少の損害は受けましたが、全員分身脱出
  装置により無事です。これよりAフォース基地の攻撃に移ります。」
  大戦果と言っていい報告に、悪の博士は不満げに答えた。
  「はなからこの手のドラマで防衛軍は役立たずと決まっておる。それより、損害が出たというの
  はどういうことだ?バイパン星人Ⅱ代目にはスペ@ゲン反射光板を装備させたはず。」
  「まあたしかにダンツェンなど名のある若手といえど、我々に比べればその練度は児戯そのもの
  でしたが、問題は反射光板だったのです。」
  「何?」
  「普通のVRはス@シウム光線なんて撃ってきませんから。実弾か普通のレーザーでは、せっか
  くの反射光板も宝の持ち腐れです。」
  ・・・・・・
  ・・・・・・
  しばしの沈黙の後、悪の博士は絶叫した。
  「しまったああああああ!!普通のレーザー反射板か時空歪曲式攻撃転移装置にするべきだった
  か!!!」
  カーネルはあくまで冷静に続ける。
  「前者はともかく、後者は「互いに相手を一方的に上回りすぎる戦力は投入しない」というこの
  世界の紳士協定に違反するおそれがあります。どっちにしろ、撃墜されるほどのダメージを受け
  た機はおりません。全機問題なく作戦に投入できます。」
  その報告に、悪の博士は漸く落ち着いた笑みを浮かべた。これはすぐ動転すると言うより、感情
  の起伏が激しいためだ。
  「ふむ、そうかよし。流石だなカーネル、見事な指揮だ。では早速第二次攻撃準備に移れ」
 
  新鮮組の場合っぽい(笑)
  「うわあああああああ、や、やめろおおおおお!!!」
  目の前で繰り広げられるあまりに凄絶な光景に、アクニンダーもクロスも、瑠璃も、戦闘員も、
  ただ呆然と立ちすくんでいた。
  いつもの通り性能八割引のVRを蹴散らし、教祖っぽいを追いつめ、「お館様」とやらをおびき
  出した。
  「おびき出すだけでいい。後は我が配下がケリを付ける。最高に屈辱的で、拭えぬ敗北感を与え
  るケリをな、くははははははははは!」
  そう、悪の博士からは言われた。
  しかし、これほどとは・・・
  指定されたポイントに敵をおい込んだ途端、地中から出現したバルベースのVR獣、バモラ。
  元になったのは生栗のVR、ゴモラと同じ名を関するものらしいそのVR獣は、圧倒的な腕力で
  白兵戦用の「尻尾」ではり倒した2Pテムジンっぽいに組み付き、コクピットをこじ開け、そし
  て・・・
  「いやああああ、お、お館様が・・・」
  叫ぶ教祖っぽい。目を伏せるHV団員達
  「お館様が貞操の危機っぽい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
  そのVR獣のパイロット、ミミズおかまは、雌雄同体に改造されるだけあり、いやそれ以前に名
  前通りのやつだった。
  屈折悪のライバル美少年的口調から目を付けられていたお館様がどうなったか・・・
  おまりにむごたらしく、誰も語ることは出来なかった。
 
  ツナヨシの場合
  「よ、よし、もう敵には充分ダメージを与えたにゃ。Aフォースの方にむかうにゃ!!」
  「・・・そうっすか?」
  キャッツガイはアークの判断に疑問を抱いた。
  襲撃した途端出てきた犬は、キャッツ・ガイの暑苦しい、化学兵器以外の何者でもない男の汗の
  匂いを敏感な嗅覚で思いっきり吸い込み、そのまま失神してしまった。
  Drオカモトは、キャッツガイの姿を見た途端、
  「猫に対する侮辱だ!!オノレ人猿の分際で!!」
  と怒り狂い、しまいには脳の血管がぷっつり言ってダウン(所詮人だの獣だのといった些細な差
  に縛られているとは、まだまだ未熟よのう!という口の悪い博士の挑発も原因かも知れない
  が)、担架で運ばれていった。
  こういう効果を狙っていたため、キャッツガイは機体自体はVR獣ではなくアークの乗っている
  黒い稲妻のコピー品を使用していた。
  もう邪魔者はない思う存分基地を壊せる・・・ところがここでアークは早くも撤退を命令したの
  である。
  「うっす、まだ敵基地は残っているでごわすが?」
  「い、いいにゃ。どうせもう対したことは出来ないにゃ、早く帰るにゃ~~~!」
  何はともあれ何を置いても、早くキャッツ・ガイから離れたいアークだった。
 
  AVISの場合
  「DEATHよ・・・」
  「は、JARAN様・・・
  「屈辱だ。これほどの屈辱を受けたことが、他にあるか!?」
  「御意」
  去りゆく移動研究所の背を見ながら、JARANは憤った。
  それはやってきた。そして、彼らを見た。
  破壊された基地。失われたVR。爪に灯をともすかつての首領と幹部。
  結果、移動研究所暫定指揮官・・・イカンゴフは目に涙をためた。
  「お願いです博士、彼らは余りにも可哀想です。見逃して上げて下さい!」
  そしてその願いは受理され、移動研究所は振り上げた足を納め、帰っていった。
  「DIOが暴れなければ、こんな目には、こんな目には・・・くそーーーーーーっ!!DIOの「線
  がやたら多くて意味もなく濃くて「ドドドドドド」って効果音がむやみやたらと多い漫画の主人
  公もどきヤローーーー!!!弁償しろいや命ではらえーーー!!」
  「J、JARAN様お気を、お気を確かに~~~!!!」


  そしてついに、Aフォースへの攻撃が開始された。
  挑みかかってくるVR獣の数の多さ、性能の高さ、そして練どの高さにAフォースは最初から圧
  倒されていた。
 
  「くらえっ!」
  かいしょーは目の前の量産型らしきVR獣に剣を振るったが、そのVR獣は両手に付いた大きな
  鋏でそれを防御した。そして、かいしょーを無視して飛び去っていく。
  (くっ・・・何という手練れ達だ。HV団の戦闘員とは格が違うどころか、どいつもこいつもエ
  ース並の反射だ。一体・・・)
  これが、改造人間の力だった。高度に改造を施された神経系とくに反射神経は、歴戦のエースで
  も捉えきれない動きを軽々と可能にしていた。さらに、強化された体は人間がやったら死ぬ無茶
  な加速にも耐える。基本自体が違っていた。
  事実、試しに超強力バリアー発生VR獣「キングライルス三世」に乗ったミスターTは、バリア
  ーが空気まで遮断してしまったため中で窒息、エマージェンシーシステムがはたらき脱出装置で
  射出されたらまだ展開されていたバリアーに激突して黒こげ、さらに機密保持のための自爆に巻
  き込まれて、早速イカの看護婦さんのお世話になっていた。
  (だが、何故私を避ける?)
  「何故私を避ける、と思っているだろう?」
  いきなり敵の司令官らしい軍服の少女に通信で言われ、かいしょーは慌てた。
  「お前にはお前用の相手がいる。せいぜい新兵器の実験台になってもらおう。ゲドー殿、出番
  だ。例のカプセルを使用せよ」
  量産型・・・バイパン星人2代目がさーっといなくなり、その影からゲドーのSTがずいと洗わ
  れた。
  「実験台って・・・。ところでカーネルさんとやら、このカプセルは何なんだ?「コクピット内
  であけるだけでいい」って言われたけど・・・」
  カーネルは沈鬱な表情で答えた。
  「博士が言うには、「アジムとゴ@ラ細胞とデビ@ガ@ダム細胞を混ぜてゲッ@-線を照射した
  もの」だそうだ。パイロットごと機体を食って、暴走して暴れ回る。死んでも死んでも体に換え
  のあるあゲドーにしか実験が出来ないと仰せだ。・・・がんばれよ。」
  「な、何だって!!がんばれるかそそんなあぎゃぶえげぼごぼぐちゃじずるずぶずぶ・・・・」
  後半はもう声になっていない。映像も途絶え、浸食するアメーバのようなものがSTを巨大な怪
  物へと変えた。
  「お・・・おのれ!!」
  ぶに。
  かいしょーの怒りの一撃はぶよぶよした元STに何のダメージも与えず、逆に元STに剣を浸食
  されてしまった。慌てて、でも騎士の誇りなので手を離せずにいるかいしょーに、トドメの一
  撃。
  ただ単に殴られただけだったが、機体は大破したあげく数百メートルはぶっとばされ、近くの森
  に落ちた。その場所を見て、カーネルは完璧に予定通りに事が運んだのを悟った。そこには、情
  報をリークしておびき出した「あの」稲元がいる。もう、かいしょーの運命は決まったも同然だ
  った。だが、カーネルの表情は晴れない。
  「博士・・・今回の作戦、何故「殺すな」と・・・」
  つぶやきが戦場の空気に消えていく。
 
  「はっ!!」
  気合いと共にフェンシング・スタイルで突き出された剣が、易々とAフォースのVRを貫いた。
  ただ一撃で、完全に機能は停止している。刀身からゆらゆらと炎の立ち上るその剣は、水色と
  オレンジに塗られた派手なVR獣「ファイヤーモムジン」(テムジンタイプ)に握られている。
  「ふっ、フェンシングは貴人のたしなみ、あなた方が私に剣で勝とうなど身分の違いをわきまえ
  たまえ。本当は青騎士とやらと手合わせしたかったのだが・・・実験台と有れば仕方有るまい」
  余裕綽々、パイロットの大金持ちで貴族のコガネムシ怪人、「ゴールド侯爵」は口ひげ(触角)
  を撫でた。シルクハットにもモノクル、微塵の好きもない貴族っぷりに、直視と隠密行動が出来
  ないキンキラボディが文字通り箔をつける。
  「この勝利・・・HV団のアリエッタに捧げよう!!」
  「ちょっとまてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
  どごーんっ、と派手な音を立てライガー(アリエッタ命)のボーンマスターが着地する。
  「どういう意味だ、その発言!しかも呼び捨て!!」
  猛り立つライガーを目前にしても、侯爵の余裕は消えない。
  「ふっ、聞けば彼女は野獣のごとき下賤で凶悪なストーカーにつけねらわれているそうではあり
  ませんか。か弱き婦女子をそのような輩から守護するのは、騎士のつとめというもの。」
  「ぬううう・・・」
  強力ライバル出現に、暗い炎を燃やすライガーだった。
 
  東方ランナーは、不意に凄まじい闘気を感じた。
  (後ろ・・・?いや、上か!)
  慌ててそちらのほうを見ると、積み上げられたVRの残骸の上に、一体のテムジンベースのVR
  獣が腕を組んですっくとつま先立ちしていた。黒いボディーに、頭部から巨大な二本の角、背中
  にはためく赤マント。
  そいつは、いきなり通信回線を開き、奇妙な映像を送ってきた。コクピットはがらんとした広い
  部屋で操縦桿どころかボタン一つなく、その中央に後頭部から毒針をお下げ髪のように垂らした
  蠍の怪人が、VR獣そっくりのポーズで立っている。開発主任の目で見た東方は、即座にこれは
  パイロットの動きを直接VRの動きとするシステムだと見当をつけた。
  「ワシの名は蠍師匠!!東方ランナー、貴様にVRファイトを申し込む!!」
  「いいだろう!」
  どこかから、VRファイト、レディーッ、ゴォーッ!という声が聞こえたような気がしたが、確
  認は出来なかった。なぜなら、
  「ダー@ネスフィンガー!十@王方牌大車輪!超級覇王@影弾!!石破@驚拳~~~~~
  ~!!!!!!」
  次の瞬間には訳の分からないワザを連続で食らって宙を舞っていたからである。最後に、
  「馬~鹿弟子がぁ!」という声が聞こえたような気がした。弟子じゃないのに。
  流石にこの状況でも、Aフォース上級幹部は手強く反撃してくる。
  事実、沖田参謀長のMOAER-EASY2が、ついにVR獣の一体を破壊することに成功した。脱出どこ
  ろか、コクピットごと派手に炎上する。
  「ああっ!!」
  その近くで無限に存在するパラレルワールドから弾薬を転送することにより無尽蔵のミサイル射
  撃を誇るVR獣・「ベルクロン」に無理を承知で乗り込み、馬力に振り回されて打撲傷だらけに
  なりながらもミサイル無差別爆破を満喫していた爆弾参謀ハッハノは悲鳴を上げた。
  (あれは・・・たしか狼娘フェンリルが乗っていた「ベムジン」・・・なんて事だ!)
  だが、倒した沖田も、慌ててその沖田をうとうとしているハッハノも知らなかった。
  ベムジンは、ただ単にテムジンに口から青い光線をはく力をつけただけの滅茶苦茶弱い(かつ安
  い)VR獣だということ。そして、悪の博士が何故そんな物にフェンリルを乗せたかということ
  を。
  「も~~~~~っ!よくもベムジン壊したな!!」
  その怒っていても陽気さを感じさせる声は、激しく燃えさかるベムジンのコクピットから聞こえ
  てきた。
  「え?」
  唖然とするハッハノの目前で、コクピットからフェンリルは無傷で出てきた。
  そして、何と素手でVRに殴りかかった!
  「お返しだよ!フェンちゃんパーンチ!」
  ばきゃっっっっっっどーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!
  沖田機は消えた。いや、正確には消えたかと思うような超スピードで垂直にぶっとばされたの
  だ。
  上をにらみ、フェンリルは眉根を寄せた。
  「冥王星までとんだと思ったんだけど・・・残念、月にぶつかったかぁ。」
  ・・・何故ベムジンにフェンリルを乗せたか。それは、フェンリルに本来VRは要らないからだ
  った。もっとも、本当は全員に必要ないのではないか、とデータを見たら人は言うだろう。
 
  そして、VRを使わない怪人が他にも一人。
  びしっ!!
  びしっ!!
  びしっ!!
  そいつの手に掛かって、次々とVRが狙撃されていく。大口径の液体火薬弾頭ニードルライフル
  が寸分違わず、眉間に風穴を明けていく。
  それが今回の彼に与えられた「依頼」。VRのみを壊すこと。
  今日も彼・・・アンボイナ怪人アンボ13の仕事は完璧だ。
  太い眉の下の、スコープいらずに改造された細く鋭い目が、ぎらりと光る。
 
  VRのいらない怪人達・・・それと似たような者が、さらにこの戦場に投入されようとしてい
  た。
  
第七話 Aフォース本部前攻防戦その四   
  


  「さあて、そろそろ博士さんのために道を作らにゃいけないねえ。あれを使うか」
  派手な羽根飾りをつけたインディアンのような格好の改造スペシネフVR獣、ジェロニエフ。
  そのコクピット内で、蛇姫は紅を退いた唇をにいっと広げた。
  何処か気怠い雰囲気の笑い。服装にもそれは現れていて、和服をかなり着崩して着ていて、所々
  鱗の生えた艶のある肌をかなり露出させている。この格好では操縦しにくいだろうとか、片手が
  蛇の頭でうまく操縦桿つかめるのかという心配を封じる見事な操縦で、たまたまよってきたVR
  をあしらう。
  「あれを使うのか!?組織として、あれを使うのはプライドに反する行為のような・・・」
  カーネルから通信。かなり不機嫌な口調だ。
  蛇姫が何か言おうとする前に、博士が割って入った。
  「耐えろ、カーネル。目標のため堪え忍ぶのが組織というもの。たとえあれが、お前の仇の仲間
  に「よく似たもの」であろうとな。」
  「・・・はっ。」
  カーネルは、暫く葛藤するような表情を見せたが、結局は頷いた。
  「じゃ、いきますか。霊子ジェネレーター、最大出力!次元横断招来機、作動!目標固定確認、
  倍率体積比一千倍、数量比十二倍、知能操作リモートコントロール・・・招来開始!!」
  そしてそれは作動し、名前通りの効果・・・別次元にいる何者かをこちらの世界に強制的に招来
  する・・・を発揮し、招き入れた。
  次元的に、同じセガ系に属するが故にきわめて近い、
  せがた三四郎を!!
  しかも、倍率体積で一千倍(身長約17,8メートル)数で十二体(べルクロンと同じ理屈で、
  数はいくらでも増やせる)の。
 
  せっがた~三四郎♪せっがた~三四郎♪せっがさったああん、しろっ♪
  「セガサターン、しろーーーーーーーっ!!!」
  音楽に乗って、知能をリモートコントロールされ、次々AフォースのVRを投げ飛ばす、巨大な
  せがた三四郎。
  悪夢だった。

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第八話 Aフォース本部前攻防戦その五   


  一機のVRが、逃げていく。
  怯えきったパイロットの操縦通り、無様に逃走していく。
  逃げられるはずはないのに、ただ怖くて、怖くて、必死に逃げまどっていた。
  何故、逃げられないのか?
  それは・・・
 
  「こ、ここまでくれば・・・」
  そのVR乗りはそう呟くとVRを止め、びくびくと辺りを見回した。
  だが、もろい希望はあっけなく砕け散る。
  「馬鹿め、逃げられるとでも思っているのか?」
  「ひっ!!」
  叫ぶパイロットの目の前に、凄まじいスピードでVR獣「タイランスボック」が着地する。
  「ひっ、ひいいっ!!」
  あっと言う間に現れた敵に、必死にパイロットは銃弾を撃ち込む。
  だが、まるでダメージを与えられない。
  「あ・・・ひ・・・」
  攻撃が無駄だとわかり、呆然としながらも後ずさる目標を見て、VR獣のパイロットは、蜘蛛と
  合成された顔でにやりと笑った。
  通信回線に強引に割り込んでいるので、その笑みもまた目標を怯えさせる。
  「無駄なことを・・・。大人しくお前も餌食になれ。」
  そういうと更に恐怖をあおるように、「蜘蛛」は片手に捕らえた者・・・さんざいいたぶってか
  らずたずたに切り裂いた、目標の仲間を地面に叩き付けた。
  ぐしゃ。
 
  今回「蜘蛛」が悪の博士からもらった任務は、次のようなものだった。
  「劇場版において戦艦クロイハトコトトモニを大破させ、かつミスターTに不遜な態度をとった
  不届き者に「悪の恐怖」を教育してやること。」
  彼は優秀な戦士として任務には私情を挟まず実行するだけだ。目標が誰かとか詳しいことは、彼
  にとってはどうでもいいことだった。。
  だがそれでも、この任務を与えてくれた博士の信頼を喜んだ。
  事実博士は任務遂行用に「時空発生式予定調和破砕装置」を特別に下賜したことでも明らかなよ
  うに、「蜘蛛」の事を一番信頼しているといってもよかった。
  「時空発生式予定調和破砕装置」・・・「ヒーローだから」「正義だから」「主役だから」・・
  ・そのような理由で過去幾多の敵が悪の組織の完璧と思われた作戦からご都合主義的に逃げ延び
  た事を激しく憎む博士の怒りが作り上げた傑作、空間を時限的に切り離して隔離し、その中での
  み「お約束」をいっさい排除する、まさに悪の最終兵器。未だ範囲や持続時間、エネルギー最充
  填時間などに問題はあるものの、こういった任務には充分に実用に耐えた。
 
  さて、こいつも片づけてしまおう。
  蜘蛛は心の内で呟き、これからの過程を考えた。
  己の無力を思い知らせた上で、仲間の死を見せつけて死を暗示した。あとは発狂寸前になるまで
  激痛を与え続け・・・潰す。
 
  ゆっくりと迫るVR獣をどうしようもなく見ながら、不幸な者は昨日たまたま見た「仮面@イダ
  ー」を思い出した。怪人に人が追いつめられ、殺されるシーン。
  同じだ、と思った。
  恐怖に怯え、とうとう見つかり、無駄な抵抗をし、そして、そして。
 
 
  作戦は終了した。
  予定調和破砕装置とVR獣を止め、煙草を吸う「蜘蛛」の傍らで、AVIS攻撃から帰還したイカ
  ンゴフが、バラバラになった遺体をつなぎ合わせて蘇生させている。今回の任務はあくまで「教
  育」であり、殺しではないからだ。
  「・・・相変わらず大した腕だ。」
  「蜘蛛」は煙草を一吸いし、ぼそりと呟いた。
  「い、いえ、ご主人様から力を分けていただいただけで・・・私なんて全然大したことありませ
  ん!」
  何気ない賛辞を、イカンゴフは過剰に否定した。
  「「ご主人様と呼ぶな」と博士は言っていたが?」
  再び「蜘蛛」がつっけんどんに呟く。イカンゴフは困ったのと悲しいのと半々位の顔をしてうつ
  むいた。
  暫く沈黙のまま時が流れる。
  手術は終わった。イカンゴフは恐怖と苦痛に歪んだ遺体、いや、もう蘇生はした「敵」の顔をな
  でた。
  「いくら敵でも・・・可哀想です・・・ね。」
  イカンゴフの言葉に、「蜘蛛」は怒ったように声を荒げた。
  「甘いんだよ、お前は!優しすぎる。自分がどんな目にあって博士に助けてもらったのか、人間
  がお前に何をしたのか、忘れたのか!?」
  蜘蛛の大声にイカンゴフはびくっと首をすくめた。少し震え、半泣きになりながら謝る。
  「ご・・・ごめ、ごめんな、さい・・・でもわたし・・・どうしても・・・駄目ですよね、自分
  から悪の怪人になったのに、これじゃ・・・」
  「な、何も泣いたり謝ることはないだろう!ただお前はいい人すぎると言いたかっただけ
  で・・・そのだな・・・」
  今度は「蜘蛛」が口ごもる。
  「はい・・・解りましたアラネスさん・・・」
  イカンゴフが口にした、「蜘蛛」の正式な名前。蜘蛛の学名からとったその名前は何だか薄幸の
  美少年みたいで、本人に全然合っておらず、本人はそう呼ばれるのをいやがって、普段は自分の
  ことをただ「蜘蛛」と呼ばせていたのだ・・・が。
  「その名前で呼ぶなといったろお!!きしゃああああああおお!!」
  「きゃーーー!!すいません!!」
  反射的に牙をぐわっとむいて怒鳴るアラネス(に・・似合わない)に仰天したイカンゴフは慌て
  て自分の修理・補給・メンテナンス用にエンジェランを改造したVR獣「ローラン」に乗って飛
  び去っていった。
  「・・・く、またやっちまった・・・」
  飛んでいくローランを見ながら、「蜘蛛」は求愛と威嚇で同じポーズをとるハエトリグモの因子
  が混ざっているせいで感情表現が極端に下手な自分を呪った。
  「くそっ。」
  ぼやき、吸い殻をひねり潰す。
  「!」
  その時、不意に彼の口ひげのレーダーにそれまで無かった反応を捉えた。
  「これは・・・!?この反応はヤツか!一体どうやって此処に・・・そうか、我々か、あるいは
  せがた三四郎共を召還したときの時空間の乱れが・・・まずいな。」
  最初こそ動転したもののすぐに冷静さを取り戻したアラネスは、すぐさま自機を発進させた。
  
第九話 Aフォース本部前攻防戦最終段階・前編   


  既に、決着は付こうとしていた。
  AフォースのVRは三笠屋長官のMOEARをのぞき全滅。
  それに対して、HV団、というか悪の博士怪人軍団はほとんど損害皆無、残るは一人のみと一部
  の部隊は早々と帰り支度を始めていた。
  「ぬ、ぬうう・・・」
  周囲を見回す三笠屋長官。十二人の巨大せがた三四郎、サイ・ファルタン星人、ジェロニエフ、
  ベルグロンに周りを取り囲まれている。
  「ええい、この程度の逆境で正義は負けないのだ!部隊を下がらせたことを公開させてやる!食
  らえ対Aレーザー!!」
  叫びと同時に、超高出力のレーザーが発射される。
  「セガサターン、しろーっ!!」
  必殺の対Aレーザーは、巨大せがた三四郎に「捕まれ、投げ飛ばされた。」軌道を変化させて地
  面に当たり、意味もなくクレーターを作る。
  「な・・・馬鹿な!なんじゃそりゃ!」
  三笠屋は呆気にとられた。光を掴むなんて、そんなこと物理的に不可能だ。アインシュタインが
  見たら狂い死にする。
  動転する三笠屋に、カーネルは冷たく呟いた。
  「馬鹿な?そのセリフをお前等「正義の味方」とやらは一体何回言わせたと思っている?貴様等
  が重ねてきた「ご都合主義」の数の多さを、悔いて、死ね。」
  カーネルの言葉に合わせ、一斉に巨大せがたが構える。
  次の瞬間には、三笠屋が宙を舞うか地面に叩き付けられるかと思われた、その時!!
  またも陳腐で安易な奇跡「ご都合主義」は「正義の味方」に肩入れした。
  「待てぇ~い!」
  野太い声が空気を震わす。
  ドルンドド、ドルンドド、ドルルルルン・・・!
  バイクの排気音が轟き渡る。
  そして。
  巨大せがた三四郎およびVR獣達は、何かに吹っ飛ばされた。
 
 
  「くっ、何が起こった!?」
  破壊されたサイ・ファルタン星人のコクピットからカーネルはよろよろと立ち上がった。
  ジェロニエフ・・・大破。次元横断招来装置損傷。
  巨大せがた三四郎・・・全滅。
  ベルグロン・・・少し離れて立っていたため吹っ飛ばされた巨大せがた三四郎に激突しただけ
  で、小破以上の損害を受けたようには見えない。
  「あたたたた・・・たまんないねえ。一体何だい?」
  蛇姫はぼやきながら大破した自機を強引に起こした。口調はのんびりしているが、既に体内に仕
  掛けられた霊子ジェネレーターの「探査魔法」を起動させている。何しろ敵はAフォースの攻撃
  にはにびくともしなかったVR獣を破壊したのである、ただ者ではない。
  量子力学的に思念を解釈し、それを操作することによって現実物質に影響を及ぼす霊子理論によ
  る索敵データは、奇妙な数値を示していた。
  「?なんだいこりゃ、改造人間?反応は蝗軍兵ににてるけど・・・一緒に機械、それも内燃機関
  を積んだヤツ・・・バイク?ってことはまさか!?」
  示されたデータに慌てて反応した方向を見る。カーネル、ついでベルクロンのハッハノもそっち
  を見た。
  変わった形のバイクに、「濃い」顔立ちの男がまたがっている。せがた三四郎にそっくりな
  男・・・
  それは・・・
  「誰だ?あいつ・・・」
  ハッハノの疑問に重なる蛇姫の言葉が、回答となった。
  「おや・・・本郷さん。もう和菓子屋は廃業で?」
  そいつは、答えた。
  「・・・自分によく似たもので悪事をはたらかれてはたまらないからな。いくぞ怪人!」
  そういうと男は両腕をゆっくりと旋回させた。誰もが知っている、あのポーズ。
  そして、響き渡る声。
  「ライダー・・・変ん身!!」
  光がほとばしり、男は本来の姿・・・バイクに乗ったバッタの改造人間、その「最初の一体」へ
  と変貌していた。

  
第十話 Aフォース本部前攻防戦最終段階・後編   
  


  「な・・・な・・・!?」
  ハッハノは驚愕した。
  だって、目の前にいる、あれは。
  どう考えても。
  仮面ラ@ダー一号。
  「な、何故にこんな所に!?」
  「たぶん・・・」
  蛇姫の出した結論は、この気配を感じたアラネスの推理とほとんど同じ者だった。
  「あたし達がこの世界に来るときに使った「ゲート」かせがた三四郎を招来するのに使った「ゲ
  ート」、どっちかに紛れ込んだんだろうさ。まずいねえ、強引に別世界にきたもんだからいわば
  「力の縮尺」みたいなものが狂ってるのか、相当強いよ、これは。」
  「ど、どうするんですカーネルさん!」
  返事はない。それはそうとHV幹部は彼女のことを「カーネルさん」と呼ぶことが多いが、それ
  って日本語にすれば「大佐さん」と呼んでるわけであって、少し変かも。
  それはともかく、返事はなかった。
  「カーネルさ・・・ん?」
  様子が変だ。それまでいかなる時も沈着冷静に部隊を指揮していたカーネルが、感情をむき出し
  にして仮面ライダーをにらみつけている。
  その瞳に浮かぶ色は、憎悪。歯が食いしばられ、怒りのあまり手足がわなわなと震えている。
  ハッハノの知る普段の彼女とは余りにも違う姿。
  「え?え?」
  強いて言うなら、それは復讐に燃える人間の表情。
  その姿が閃光に包まれ、次の瞬間にはマシーネン・カーネルは本来の姿、改造人間機蝗兵へと変
  貌していた。
  鋭い爪、鋸歯、腰からスカートのように生えた羽。なめらかな体のラインをぴったりと覆う緑色
  の外骨格は、所々機械化が施され、随所から武器のようなものが飛び出している。
  さっきまで帽子と前髪で隠されていた顔の半分が、蝗の大きな複眼のある顔で仮面のように覆わ
  れている。残ったもう半分がそのままなのが、奇妙な美しさを見せていた。
  「ライダーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
  叫び、機蝗兵は@面ライダーに飛びかかった。手の甲の部分から鋭い刃が飛び出し、ライダーに
  斬りつける。
  ぎりぎりで避けた仮面ライ@ーの脇を衝撃波が駆け抜け、地面が割れた。
  「むうっ!!出たな怪人!」
  「ネオショカー初代日本支部長ゼネラルモンスターが一子、カーネルクリーチャー!貴様等に潰
  された全ての者、我が父と同志たちに代わって、貴様等を殺す!」
  「望むところだ!」
  凄まじい戦闘が始まった。拳が、爪が互いの体に連続して叩き込まれる。たまにはずれた一撃が
  地面にクレーターや裂け目を作り、威力の次元を周囲に知らせる。
  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 
  「な、何がどうなってるわけ?」
  さっきから全然状況について行けないハッハノはぼやいた。視界の片隅に、同じくついていけな
  いでいる三笠屋が呆然と立っているのが見える。
  「説明してあげようかい、坊や?」
  蛇姫がいった。
  「誰が坊やだよ」
  ハッハノは相手の語尾を気にした。若造扱いされてたまるか。
  その心理を呼んだように蛇姫はいった。
  「あの娘に比べりゃ、あんたなんか坊やどころか赤ん坊さね。あの娘は、西暦1979年から戦
  い続けているんだから。」
  「せ!西暦1979年って・・・彼女今いくつ?」
  「十七か、八だったっけ?」
  「勘定が合わないでしょうが!」
  無視して蛇姫は話を続けた。
  「ネオショッカーって秘密結社、知ってるかい?」
  「はあ・・・まあ。ショッカー系列の秘密結社・・・だったと思いますが。」
  「当時、あの子はそこの中東支部で支部長をやっていた。」
  閃光が煌めく。機蝗兵が目のレンズから強力なレーザー砲を発射したのだ。
  「そう、ショッカー系列。その組織達をことごとく滅ぼしてきたのが、あのバッタ共だってのは
  知ってるだろ?」
  ハッハノは納得した。ような気分になった。
  「そうか、それで・・・」
  「馬鹿。そんな甘いモンじゃないよ。」
  所属組織を潰された恨みか、というハッハノの予測を蛇姫は一刀の元に切り捨てた。
  「彼女はね、ある国の内戦で孤児になって、ネオショッカーの幹部に拾われて生き延びたんだ。
  その彼女を拾った義父が、ライダー、といっても今あそこにいるのと違う、「八人目」に殺され
  たんだ。」
  「それで、敵討ちとしてあの連中を・・・」
  「倒そうとしたのさ。」
  ハッハノの早合点をいさめるように無視し、蛇姫は語り続ける。
  「あの子は必死に頑張ったさ。部下の死を組織のを誰より悲しむ、優しい子だったのに。だがね
  え、敵は圧倒的に強かったのさ。小さい頃から苦楽を共にした部下も、彼女を支えてくれた恋人
  も、皆殺しにされたそうだよ。彼女自身も命を捨ててまで戦ったのに、それでもヤツは死ななか
  った。本当なら絶対に死んでるだけのダメージを与えたのに・・・「ご都合主義」ってやつさ」
  凄絶な過去の吐露に、ハッハノは打ちのめされながらも必死に口を動かした。
  「い、命を捨てたって・・・」
  「彼女は再生怪人なのさ。当時、博士はネオショッカーの協力していて、あの子の改造の設計図
  を書いたそうだが、ネオショッカーの技術力では博士の設計を百パーセント実現は無理でね。倒
  された、って聞いたとき、博士は苦しんだそうだよ。万難を排してでも自分で手術するべきだっ
  たって・・・。それで再生・強化改造をしたんだけど、今度苦しんだのはあの子のほうだったん
  だ。何十年かぶりに復活したら差し違えて倒したと思った、仇が生きていて、自分の板組織は壊
  滅してたんだから。死んだ部下に合わせる顔がないって苦しんで、苦しんで・・・」
  「・・・そして、戦う道を選んだ・・・」
  「そうさ。悲しみを憎しみで燃やし、死で全てを忘れようとする、修羅の道を・・・」
 
  そうこうしている内に、戦いは決着へとむかっていた。
  びゅうっ!
  機蝗兵の手から飛び出した、鋭いギザギザの付いた細い金属・・・糸鋸のようなものが仮@ライ
  ダーをからめ取った。捉えた敵の体に食い込み、ダメージを与えながら締め上げ動きを止める。
  「むうっ、動けん!ぐっ、ぐわああああ!」
  勝利を確信する機蝗兵。反対側の手から今度は螺旋状のドリルを出す。
  「死ねっ、仮面ライダー!!」
  機械音を発し高速回転するドリルが突き刺さる・・・寸前、機蝗兵の動きが止まった。
  「ぐふっ!!がっ・・・がはっ・・・」
  突如、機蝗兵は喀血した。苦痛に歪んだ口から鮮血があふれ、胸を汚す。
  「撤退しろ、カーネル!」
  博士からの通信だ。
  「それ以上はクローニングした体が保たん。ライダーを倒すだけの力を得るため、半機械化の上
  コピーキングストーンを埋め込んだ副作用なのだが・・・。退け!」
  機蝗兵は呻いた。
  「し、しかし・・・」
  「死に急ぐな!・・・お主の真の目標は、そやつだけではあるまい?」
  「わ・・・わかりました・・・」
  糸鋸を巻き取り、よろよろと後退する機蝗兵。
  「ハッハノ!!お主のベルクロンにカーネルを乗せて下がれ!!」
  「は、はい!」
  慌ててハッチを開けて手を伸ばし、既に変身も解けたカーネルを収納する。
  「早く帰らないと・・・おわっ!?」
  「にがさんぞ怪人!ライダーキーック!!」
  仮面ライダーが追いかけてきた。落とされる!
  ドバン!
  「ぐおっ!」
  後一歩の所で、仮面ライダーたたき落とされた。
  「・・・ここは、まかせろ。」
  アラネスだ。アラネスが必殺の単分子ワイヤーネット弾で、空中の仮面ライダーをたたき落とし
  たのだ。
  「退け、仮面のバイク乗り。いかに貴様とて既にダメージは相当なもの・・・この上で俺と戦え
  ば・・・少なくとも相打ちまでは持ち込んでみせる。予定調和破砕装置を使えば、正義の味方と
  て死の運命から逃れることは出来ないぞ」
  「ぬう・・・・」
  暫くにらみ合った後、エンジン音をひびかせ、全ての結社の敵は去っていった・・・
  「よくやったアラネス、あとはこの我が輩、悪の博士に任せるがいい。」
  「だから、その名前はやめて下さい・・・」
 
 
  基地へと撤退しながら、膝の上に横たえた少女の体を見る。悪という運命の重圧に耐えるには、
  それは余りにも華奢ではかなく見えた。
  ただ、運命の過程でそうならざるを得なかった悪の中にでも、気高く必死に立つ心が彼女を支え
  ている。
  真摯なその姿に、「本物」を見たハッハノは、自分を鏡で見れない気分になっていた。

  
第十一話 突入!正義更正所   
  


  「うおおおおお、は、離せ!このままでは大気との摩擦熱で二人とも燃え尽きてしまうぞ!」
  「くははははははは!この悪の博士がフレーム一から組んだオリジナルVR超人「Aフォースキ
  ラー」はこの程度の摩擦熱では装甲のツヤすら失せんぞ!軟弱よの三笠屋!!」
  「あちちちちちちち!ちょっとこら、離せこのマッドサイエンティスト!!」
  「うわあああああああ、地下は嫌だ~!!改造も嫌だ~!」
  ・・・具体的にどういう状況なのかというと。
  悪の博士の乗騎「オリジナルVR獣Aフォースキラー(完全単品生産、他の機体と同じ部品はい
  っさい使っていないオリジナルVR。赤と金で塗装された鋭角的な鎧のような体、手には奇妙な
  デザインの何かに例えようもない刃物、VRには珍しい他にはスペシネフくらいの独立した二つ
  の緑の瞳をもつ。)」が生栗のソドムと三笠屋のMOAERを抱えて凄まじい勢いで上昇していって
  いるのである。
  その勢いたるや、全員がほぼ同時に言ったセリフが終わった頃には既に大気圏を突破して宇宙空
  間に出ていたくらいである。
  そして。
  「そおれ、突入じゃあ!」
  「うわーーーーーー!!!」
  そして、一気に逆落とし。目標は、Aフォース本部をぶち破り、地下正義更正所への突入!
  博士は平気だが、他の人間にはたまったもんじゃない。
  薄れゆく意識の中で生栗は、出撃前のことを回想していた。
 
  「特別任務、ですか?」
  「そうだ。」
  「一体どの様な・・・」
  「我が輩はこの戦いで正義更正所に攻撃を仕掛ける。」
  「ええっ!!」
  「貴殿もその攻撃につきあえ」
  「そ、それはつまり・・・」
  「本来我が輩の力を持ってすればAJとセブン全員とマスターZと同時に戦っても勝てるが、貴殿
  の妹は貴殿自身の手で決着をつけろ。」
  「・・・・・・」
  「安心しろ。「法則」でも、悪に寝返った者とその縁者の戦いでは、悪が最初は優勢というパタ
  ーンがある。常に圧倒的に低い悪の勝率から考えれば充分に高い確率だ。それでももし負けるこ
  と有れば・・・」
  「ま、負けること有れば?」
  「改造をもって強化とす!機械合成怪人ジシャクイガグリに改造してくれるわ!」
  「ひ、ひえええええええ!」
  「まあ、勝ったら褒美をやるからそう怯えるでない」
  「ほ、褒美とは?」
  「ただでこの悪の博士の改造手術を受ける権利を授けよう。機械合成怪人ジシャクイガグリに強
  化改造してやろう、ありがたく思え!」
  「結局同じじゃないですか~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!}
 
  回想が終了し、生栗の意識がとぎれかけた、丁度その時。
  一同は轟音と共に基地へと落下した。

第十二話   
  


  「き、貴様・・・正義に逆らうゴミクズの分際でよくも此処まで我をこけにしてくれたな・・・
  かくなる上は我等絶対の正義の全力を持って貴様を滅してくれるわ!!」
  わめきながら三笠屋機械・・・否AJはMOAERを強引に起こした。
  「全力?何処に全力があるのだ?」
  悪の博士は小馬鹿にするように聞き返した。
  「な、何!これは!?」
  見ると正義更正所にいる洗脳された人々が呆れるほど大量の「手紙」で埋まっている。
  「ちょっと前に挑戦状を百万通ほど電送したのだが、おかげで綺麗さっぱり埋まったようだ
  な。」
  AJは笑った。
  「ふん!これしきで参る正義ではないわ!」
  実際その言葉通り大量の手紙の山の中から次々と表面を発狂物質で覆われたVR・・・セブン達
  が這い出してきた。
  全員烈火のように怒っている。どうやら相当ひどいことが書いてある挑戦状だったらしい。
  「てめえ!よくも好き放題やってくれたな、絶対殺す!」
  「無礼者め・・・我が刃のサビにしてくれる!」
  「ふっふ。やってくれるじゃないのさ!」
  「・・・殺す」
  「いくらお兄さまを連れてきてくれたといっても、許せませんよ!」
  「我等が三笠屋様と正義に刃向かう者は、生かしておけませんな!」
  「その通り」
  すごむセブンを見ても、悪の博士は全然気にしなかった。
  それがどういうことかというと・・・
  「発狂物質が通用しない!?」
  「こんなものがきくはずが無かろうが!我が輩は『マッド』サイエンティスト!もうとっくにい
  かれとるから効きようがないわ!!そして、そうである以上、ここは我が輩の狂気の領域、生栗
  もまた我が内にあり、貴様等の下らぬまやかし、狂気もどきなど届かぬ。」
  「む・・・」
  「そも正義とは何か!!悪とは何か!!」
  詰まるセブンとAJを見据え、悪の博士は唐突に大音声で怒鳴った。
  「・・!?」
  「国家であれ組織であれ、各々の基準となる信念を持って存在している!信念とは、行動の規
  範、道徳的概念など多岐にわたる!言うなれば義!一つの社会の中では、この一つの義によって
  支配されるだが、二つの「社会」が有る場合は・・・。Aフォースの義は「HVを倒し、現行世
  界を守護する」こと、HV団の義は、「Aフォースを倒して世界を征服し、自らの理想とする世
  界を築く」こと、本来これら二つの目的に、国家観の戦争にはどちらも理由があるように上下の
  別はない!!!」
  ここで博士は一旦言葉を切り、VRの操縦に使っている石突きにドリル、先端飾りにパラボラの
  付いた笛型の長い杖をぶん、と振った。それによって起こる笛の風鳴りに合わせて「Aフォース
  キラー」がばしっとポーズをとった。
  「正義とは、「正しい」義と書く!だが先に述べたとおり義に上下無し!すなわち世界の完全な
  る統一がない限り、正義とは『自らの義のみを絶対と誤解し、それを他者の上にかぶせることに
  より他の義を否定する、傲慢な愚者のたわごと』に過ぎぬのだ!!!!!」
  偉大なる説得の後、反省することを知らない愚者・・・セブン達は戦闘態勢に入った。
  「まあ、貴様等に我が輩の高尚なる説諭が理解できるほどの脳細胞があるとは思えなかったが、
  な。面白い、我が輩と戦うつもりか。力の差を知らないと言うのは・・・哀れよの」
 
 
  その時、たまたま巨大化大好きGRは、Aフォース基地の近くを通り過ぎようとしていた。
  そして、目を奪われた。
  基地の上空に、数万倍に拡大された悪の博士の姿・・・巨大な精神エネルギー体がわき上がって
  いる!!
  「うおう!!何と見事な巨大化!!」
  そしてその足下、つまり基地の地下から凄まじい光線の奔流が何度も何度も地表をぶち破っては
  虚空に消えていく。(もし三笠屋がAJになっていなかったら、その光がM78星雲人のみが使え
  る究極の破壊光線に酷似していることに気が付いただろう。)それはもうVRの戦いという次元
  を超えた何か、だった。
  「うわっち!」
  その光景に見とれたままVRを走らせていたGRは、いきなり何かに蹴っ躓いてこけた。
  「あたっ!!何だ・・・うわああ!」
  それは・・・風体と雰囲気が似ているから仮面のバイク乗りと間違われ、戦闘開始直後にマシー
  ネン・カーネルに完膚無きまでに叩きつぶされてしまったキャス子仮面のなれの果て、だった。
 
 
  「うおおおおお、ば、馬鹿な!」
  AJは驚愕した。自分を含めてセブンのVRは全員後一撃で木っ端微塵といったレベルまで追いつ
  められている。なのに目前の「Aフォースキラー」はツヤすら失せていない。
  「せ、正義が・・・正義が・・・」
  二の句が継げない。
  「当然の結果だ。」
  悪の博士は酷薄に告げた。
  「さてと生栗、此処まで弱らせればお前でもどうにでもできよう。貴殿の妹を好きにするがい
  い。」
  返事はなかった。
  「・・?」
  生栗は、此処に落下したときから終始一貫して気絶していたのである。
  「・・・・・・」
  しばし黙考。
  「やむを得ぬ、こいつが何とかならないことには今回の目的は達せられないが・・・時間だな。
  パソコン仮面!」
  悪の博士は基地との通信を開き、配下の仮面怪人、パソコン仮面を呼び出した。
  「はい博士」
  「帰るぞ。我が輩が転送したら最終VR獣「Zん」でここを焼き払え!」
  悪の博士の発言にパソコン仮面は慌てた。
  「な、そんな博士あれは次回のドラマCD版(あるいはソノシート版)にとっておく予定だった
  のでは!?今からでは準備が
  「起動!」
  無視して博士は司令用の笛を吹き、Zんに起動命令を伝えた。
  「さて、「正義」諸君!」
  悪の博士は再びAJ達に向き直り、晴れやかに言った。
  「今回は我が輩の勝ちと言うことにして、もう帰ろう。だが我が輩は必ず帰ってくる、必ず来る
  ぞ。くぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
  そういうと生栗の乗ったソドムを抱え、Aフォースキラーは足下からゆっくり転送していった。
  
第十三話(最終回)未だ報われぬ戦士達のために   
  

  最終的結果報告
  敵被害 DNA 軍事力の大半を喪失。少なくともVRは全滅状態。
      RNA 同上
      新鮮組 VR 大量撃破(総数が不明なので全滅したかは謎) お館様 精神的大打撃
      ツナヨシ VR あーる・犬・イイ! 失神 Drオカモト 入院
      AVIS JARAN及びDEATH 精神的打撃
      かいしょー VR中破、稲本の刑
      キャス子仮面 VR全損 本人重傷
      Aフォース VR全滅 セブン全VR大破 MOAER大破 基地壊滅 農園クレーター化
            正義更生所 陥没 囚人全員圧死 
  「ふはははははははは!!トドメはさせなかったとはいえ、まずは大勝利といったところか!流
  石は悪の博士!」
  上機嫌のミスターT、悪ワインがぶ飲み。
  実際まさに大戦果である。一説には、この戦いで世界中を合計したVRの数が十分の一以下に減
  少した、といわれるほど。
  だが。これほどの戦果を挙げながら何故「トドメは刺せなかった」のか?ここで、味方の損害を
  見てみよう。
  味方損害
  ゲドー クローニング中 VR全損

ミスターT バリアに衝突、黒こげ。されどイカンゴフの介護によりあっさり全快復
  生栗 失神 ソドム 小破(引きずり回されたのが原因)
  新鮮組攻撃作戦参加者 精神的に軽度の負荷(見せられた・・・から)
  ハッハノ 打撲(ベルクロンに振り回された) VR獣ベルクロン 小破
  フェンリル VR獣ベムジン全損
  蛇姫 VR獣ジェロニエフ大破 召還した巨大せがた三四郎 全滅
  マシーネン・カーネル 体細胞再生中 VR獣サイ・ファルタン星人 全損
  HV団筑波基地 格納庫発進口使用不能
  最終VR獣Zん 撹挫(博士が強引に格納庫内でZんを起動したため格納円盤から膨れ上がった
  一見青いゴム風船に見える「Zんの卵」が発進口に詰まり身動きできなくなった。これによりH
  V団怪VR全機出撃不能)
 
  ・・・確かに怪VRが出撃できなくなったのは痛いが、悪の博士のVR獣軍団主力は、未だ健在
  のはずである。
  何故か?
  答えは、VR獣の性能にあった。異常なまでの高い戦闘能力を誇るVR獣だが、その代償として
  整備・修理・エネルギー充填等に恐ろしく手間がかかり、事実上一週間に一度、三十分間ほどし
  か動かすことが出来ないという致命的欠陥が存在したのだった。それというもの悪の博士が絶対
  的な性能を追い求めるあまり「それ以外の細かいこと」に原子の直径ほども気を払わなかったか
  らである。
  だが・・・
  珍しく(千年に一度くらい)今夜のミスターTはさえていた。戦勝パーティに盛り上がる(怪人
  イカンゴフは厨房数個分の調理能力を持つので、準備は楽だった。)周囲の会話に耳を澄ます。
  「博士、何で俺出撃させてくれなかったんですか!」
  キノコの怪人ががなっている。確かに、戦場で見かけていない。
  怒るキノコに対して博士はなだめるように答えた。甘いものと酒を一緒に食う癖があるらしく、
  ビールのつまみに何故かかりんとうをかじっている。
  「仕方が無かろうに。お前が戦闘したら、この筑波基地まで腐@に没するではないか。」
  @海・・・なんともはや。
  その体の何処に入る、と思わず突っ込みを入れたくなるような量の料理を 詰め込みながら、上
  機嫌でまくし立てるフェンリル。
  「いやあ、正義にも案外やるヤツがいるんだねえ!あのお爺さんボク相手に引き分けに持ち込む
  とは大したモンだ!」
  「ふん・・・そうか。ワシも手合わせしたかったな」
  蠍師匠が相づちをうち、その隣ではアンボ13が道具(自分のラッパ口)を手入れしている。
  ・・・正直怪人だけでも攻撃を仕掛ければ落とせたのではないか?
  だが、悪の博士はそれをしなかった。
  ふーむ・・・
  珍しく(一万年に一度くらい?)真剣に考え込むミスターtの横を、不意に席を立った悪の博士
  が通り過ぎていく。
  「!!!」
  外の空気を吸いに行くらしい悪の博士の後ろ姿を、ミスターTは驚愕と共に振り返った。
  すれ違うとき、小声でだが確かに、悪の博士はこういったのだ。
  「今はまだ「正義」を滅ぼすことは出来ぬ。全ての悪の「物語の法則」からの解放には、まだ準
  備が要る。だが、必ず。その時はマスターZを打ち倒し、この組織の真の実験を、貴殿に」
  確かに。
  「くはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
  通路の向こう、もう夜の闇に覆われた領域から、悪の博士の笑い声が響いていた。
 
  終
 
  次回予告
  秘密結社HV団、様々な「悪」を抱える者達が集うところ・・・野望のため、復讐のため、運命
  のいたずらのせい、遊びで、恩に報いるため、理想のため・・・
  そこには様々な人間模様が渦巻いている。
  そんなHV団の日常を伝える新番組ラジオドラマ(結局こうなりました。最終的にはCD発売も
  検討中)「徒然なるヘルバーチャ日記」
 
  近日放送開始
 

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