大気圏へ、また一機の人造物が降下していく。
それは、少し前に降下した、女神と見まがうばかりのヴァルシオーネと違い、酷く単純な形をしていた。短い翼と背びれのついた楕円形の胴体、四角い、二個の風防と一つの発進口が見ようによっては怪獣の顔に見えないこともない、灰色の大型機。
その様を映像で見るギレン=ザビに、秘書のセシリアは念を押すように告げた。
「副総帥が地球へ向かわれましたが、いかがいたしましょう?」
慎重なセシリアの口調に対し、ギレンの声は実に簡素。事務的に、当然であるように。
「ほうっておけ。あの老人は友の死に殉じたいらしい。」


第四話「ヴァルシオーネ対マジンガーZ」


「あいっ・・・たぁあ・・・」
気がついたとき、猛烈に頭が痛かった。
状況を把握する。
目、耳、その他感覚器、骨、筋肉、異常なし。出血なし。おでこにたんこぶ1。
場所は、ヴァルシオーネのコクピットの中。
そこまで確認して、リューネの思考は停止した。
「あ・・・?」
コクピットのハッチが開いていた。そこからさしこむ地上の光が、人のシルエットで区切られている。
「おいっ!大丈夫か!」
その声。
「ああ、よかった。生きてるみたいだな・・・」
その声に。気遣うその声に。自分を「DC総帥の娘」でなく、誰とも知れない一人の少女として扱うその声に。
心が動いた。
「あ、大丈夫。」
とりあえずは、そう答える。そして、見た。
元気そうな青年である。風貌からして、たぶん日本人だろう。黒い髪は艶光り、昔でいうところの「緑の黒髪」というところか。その髪をさっぱりと短くまとめている。
「しっかし、いったい何なんだ?唐突にロボットで落ちてくるなんて・・・」
ロボットで落ちてくる。それを聞いて、一気に今度は記憶のほうが動き出した。有る意味、強烈に恥ずかしい記憶が。
「あわ、それはその!」
慌てて立ち上がろうとする、途端。
がっつん!
「うが・・・!」
「あや?」
青年の顎に思い切り頭突きをかましてしまった。仰け反ってもんどりうち、転落する青年。
恐る恐る、下を見る。・・・結構、高い。
「だ、だいじょ〜〜〜ぶ〜〜〜っ!?」
今度はあべこべに、リューネが青年を介抱する羽目になった。

「それで・・・貴方、誰?このロボット、連邦のMSではないし、日本のスーパーロボットとも違う。まるでロボットというより巨大生物みたいな、神秘的な感じがある」
「そういうお前こそ何なんだ?こんなロボット、俺が知っている地上世界には無かったぞ!?」
「・・・地上世界?」
話がすれ違う。
暫くリューネが彼と話し合って得た情報は、かなり意表を突くものであった。
彼の名はマサキ=アンドー。そしてこのロボットの名は魔装機神サイバスター。地下・・・といっても概念的なもので、「海と陸の狭間」とでも言うべき異次元世界の存在。剣と魔法というファンタジーのような世界に何故か巨大ロボットが存在するその世界、セフィーロやキラキラ神霊界と並ぶ大陸世界ラ=ギアスの魔法兵器なのだという。
元々この地上の住人だったマサキは、ひょんなことからその異世界に召還され、魔装機神のパイロットをしていたのだという。彼が異世界に召還されたのは戦争が始まる前だったので、急速に発展したこっちの世界のロボットを見ることがなかったので、あれだけ驚いたのだ。
「いやー、ロボットがいる異世界から返ってみたら、元の世界のほうにもロボットがいたなんて。こっちの世界にサイバスターを持ってきたら驚かれるかと思ったんだけど、この分なら全然そんなことも無さそうだな。」
と、朗らかにマサキは笑った。一見信じがたいような話だが、明らかに地上の技術体系とは違う、まさに魔法としか説明の付かない技術で動くロボットを実際に目の当たりにされては、信じる以外にない。
そして、それ以外にも確かに、彼が異なる世界にいたという証拠があった。
「それだって、こっちのほうは絶対とおもったんだけどなぁ」
「マサキあんた人を驚かすために地上に来たのニャ?」
と、ツッコミを入れたのは人ではなく、白い猫だった。それが、まるで人間のようにぺらぺらとしゃべっている。
このしゃべる猫。白黒併せて二匹の彼と彼女は、ファミリアと呼ばれる一種の使い魔で、魔装機神の操縦のサポートを行う、パイロットの精神から作られた分身なのだという。他にも彼のいた世界にはファミリアと呼ばれる妖精まで居るらしい。
「ん〜、別に驚かないなぁ。」
が、リューネはあまり関心のない様子で頭を軽くかいた。それに、流石に不思議そうにもう一匹、黒い猫が首をかしげる。首に巻かれたリボンの鈴がちりと鳴った。
「何でニャ?地上世界にはファミリアもフェラリオもいないって、マサキ言ってたニャ?」
「ん〜?でもあたしの親父の助手、しゃべる鳥飼ってたわよ?ファミリアで、名前はチカだって言ってたし、きゃ!?」
「チカ!?おい、ひょっとしたらその男、シュウって名乗ってなかったか!!」
唐突に、マサキの表情が変わった。それまではむしろひょうきんな様子だったのが、唐突に殺気だった。
胸倉を掴まんばかりの勢いで詰め寄られ、リューネは慌てて答えた。
「あ、えっと。最初そう名乗ろうとしてたけど、親父は正体知ってたみたいで、クリストフ=グラン=ビルゼイア略してくりりんって呼んでたけど。」
「く、くりりんだぁ!?」
流石にその無茶なあだ名には毒気を抜かれたか、マサキはへたへたと地面にくずれおちた。
「あたしも変だ変だとは思ってる・・・」
「あのシュウがくりりんとはにゃあ・・・」
「どーゆう人だったんにゃ、リューネの父親って?」
それを訊かれた途端、リューネはそれまでの昂揚しほぐれた気持ちが、すっと冷たくなっていくのを感じた。父の最後、科せられた使命、そこから逃げてしまった自分。
「オヤジは・・・。宇宙人と戦うため都会って地球支配を企んだ、悪の親玉って事になって、死んじまったよ。それであたし、オヤジの作ったこのヴァルシオーネを押しつけられて、オヤジの作った軍団、DCから逃げてきたんだ」
自分のそれに勝るとも劣らない、リューネの抱える複雑な事情に、思わず気圧されたような表情を見せるマサキ。
「で、マサキ、クリストフとあって・・・どうするつもりだったんだい?」
視線を合わせられない。硬い声で問うリューネに、マサキはつらそうな、怒っているような声で答える。
「あいつは・・・俺が、殺す。殺さなきゃ、いけないんだ。」
「敵討ちか何か?」
「・・・・・ああ。」
そのマサキの表情は、別人のようにこわばっていて。なんとなく視線をそらして立ち上がりながら、リューネは言った。
「どっちにしろ、あたしはそこからおん出てきちゃったんだ、残念だけど力にはなれないみたいだ。」
と、その時!
どぉぉぉぉ・・・んん・・・・・
という遠い地響きと爆音に続き、ロケットの噴射音、空気を裂くレーザーの作る独特の振動、機関銃、大砲、そして、巨大ロボットの足音。
戦闘音だ。

今でも思い出す、盟友ビアンのことを。あいつが死んだなどと、とても信じることは出来なかった。
小さいころから、自分の人生は酷いものだった。貧困な生まれ、冷たい親。学校に言っても陰気な容姿から苛められ、努力してテストで百点をとっても教師にすらしてもいないカンニング呼ばわりされる始末。
狂的に学問に打ち込んだ。それだけが、自分への誇りの支えだった。誰にも負けなかったが、いつも孤独だった。
大学にいって、初めて恋をした。だが、恋した女はよりによって同級生の兜のやつと日本に居たころから恋仲だった。心底呪った。誰のアドバイスで光子力理論が完成したと思っている!(これに関しては後にマジンガーZが敵として現れてから、死ぬほど後悔した)
そんなわしにはじめて出来た友と呼べる存在、それがビアンだった。
わしより一回りも若い男だったが、才能もあり、なによりとことんまで度量の広い男だった。初めてあけずけにわしの心の中に入り込んできた男だった。学会でつまはじきにされていたわしの才能、そしてそれいぜんにわしという一人の人間を認めてくれた存在だった。気がつけばわしは、思い出すだにおぞましい人生を奴に吐露していた。それすら奴は笑わず、いや真剣に受け止めてくれた。わしの追い詰められた心から生まれた狂気の野望は、奴と出会うことにより昇華され二人の、そして後に多くの仲間を持つ志へと換わっていった。
わしもやつの結婚を祝い、妻が死んだ時は通夜の席で一緒に泣いてやった。
同病相哀れむと世間は言うかもしれない。だが言おう、奴はわしの友だった。呪って呪って呪いぬいた世界の中で唯一呪えなかった、「仲間」だった。
そのビアンが、死んだ。

「んどわあああああっ!!」
爆発!爆発!爆発!
鉄の城・・・マジンガーZが地響きを立てて走る。そのすぐ後ろを、連続した爆発が追尾していく。
そして、さらにその後を追っていくのは・・・グールだ。全長数百メートル級、ジオンなどコロニー国家の戦艦にも匹敵する大型機が、地面すれすれをマジンガーZを追い掛け回して飛んでいるのである。
かなり無理のある、そして凄まじい光景だ。
「ちっくしょ!こちとら隕石調査しにきただけだってのに、なんでこんな目にあわなきゃならねぇんだっ!!」
「説明くさいセリフをぬかすなぁぁ!!!」
「そうだわさ兜!」
敵味方からつっこみ。味方のボスと、敵のDrヘル。
「死ね兜ォォォォォッ!!」
Drヘルの叫びと共に、追突するような感じでグールの鼻先がマジンガーZを弾き飛ばした。前のめりに飛んで倒れるマジンガー。
「甲児君っ!!」
グォオオオオオオオオン・・・
アフロダイAのパイロット・弓さやかのさけびを引き裂くように、轟音を立ててグールが急上昇する。そして機首を引き起こしたそのままの勢いで反転、再び突っ込んできた。その巨体からは信じられないほどの機動だ。
「ちっくしょう、Drヘルの奴、いつもとは桁違いの気合いの入れようだなっ!!」
叫ぶ兜。
「戦闘!Drヘルのグールが・・・何で!?」
その飛び立つ機影を確認し、リューネは驚愕した。DCの既に撤退したこの地域に、何で副総帥が来ているのか解らなかったのだ。
「知り合いなのか?」
「ああ。オヤジの友人なんだ!」
マサキの問いに答えながら、慌ててリューネはヴァルシオーネのコクピットに飛び込んだ。
「おい!どうする気だ!?」
「決まってるだろ、助けに行くんだよ!この辺りは確か光子力研究所の近くなんだ、マジンガーZと戦ってるンだったらグールが危ないだろ!!」
「いやでもお前、そこから脱走してきたんじゃなかったのか!?」
「今はそんなこと言っている場合じゃないだろっ!」
その言葉に、マサキははっとなった。
そして。
「・・・そんなら俺も手伝わせてもらうぜ!シュウの野郎の手がかりも掴めそうだしな!」
そう叫び、ファミリア二匹と共にサイバスターのコクピットへと飛び込む。だが、実際には口で言っただけの理由ではなかった。
リューネのその、ある意味では馬鹿と言えないこともない程の潔さと気っぷのよさ、そして他者のためになろうという公徳心。そこにふと、以前の自分を見いだしたから、だった。

「ロケットパーーーーーンチッ!!」
ゴガンゴガン!
「ぬおおおおおおっ!?」
肘の部分から分離して飛び立ったマジンガーZの鉄拳が、グールのどでっ腹を何度もUターンしてぶち抜く。
光子力ビームで灼かれ、強酸を噴射するルストハリケーンで溶かされ、既にグールは満身創痍の有様になっていた。
「反重力エンジン出力低下!」
「ビーム用エネルギーバッテリー破損、弾薬も誘爆を始めています!!」
同乗し指揮を手伝っていたあしゅら・ブロッケンの両名が叫ぶ。あくまで、爆音に負けまいとしての大声であって、動揺の色は見られない。
そしてそれら報告を訊いても、Drヘルはやはりうろたえの様子は見せない。
「そうか。これまでのようだな。・・・すまんの、つきあわせて。」
そう。彼等はここに戦いに来たのだが、勝つために来た、とは言えなかった。ギレンが言ったように、死に場所を探しに来たと言った方が正しかった。
そして、その目的がもう少しで達成されると言うとき。
「ちょっと待ったーーーーーっ!!」
叫びが戦場をつんざいた。
同時に、森林をかき分けるようにして躍り出る二体のロボット。片方は擬人化された白銀の猛禽、もう片方は巨大な金属の女神。
「ふぅ・・・何とか動くようになったわね、ヴァルシオーネ。」
聞こえないように潜められた安堵の声。それとはある意味正反対と言っていいような堂々とした仕草で、リューネは。
「Drヘル。オデッサであんたの部下にいったはずだよ、簡単に死のうとするなって。」
再度起動させてみたら、今度は変なコンピュータの妨害を受けることなく動き出したヴァルシオーネのコクピットの中。リューネは力強い笑みを浮かべた。
「リ、リューネ殿か。」
「あたしのオヤジは、絶望で自棄になって死んだ人間を、地獄で友とは認めないと思うよ。」
「ぬ!?」
いきなり。ヘルが何か弁解じみたことを言う前に、リューネは核心を突いた。
「むっ、っく・・・」
機械獣を作り、DC副総帥として執務し、軍団を率いる彼の頭脳。それをフルに回転させても、これに言い返すことは出来なかった。
「あたしもさ、正直今のDCの連中には腹が立ってる。でもそれで死んじゃったら、そいつ等にしてみれば思うつぼ、あたし達からすれば馬鹿みたいじゃない。戦いってのは、生きるためにするもんだよ」
「ぅう・・・」
機体の指揮所の中で、がっくりとうなだれるDrヘル。
「す、すまぬ・・・リューネ殿。諭された・・・」
「さて、納得したところでとりあえず帰ろう・・・とは、いかないみたいねぇ。」
僅かに頬に汗が伝う。ぼろぼろのグールには戦闘は無理、ヴァルシオーネはようやっと動くことは動いたがあるいたり走ったり出来るだけで飛ぶことも武装を使う事も出来ない。
敵はボスボロットはほとんど戦力にカウントされないとしても、支援機のアフロダイAと、何より黒金の城と呼ばれる驚異的防御力・攻撃力のマジンガーZ。まずい。
「新手!?、アフロダイミサイル!」
「どりゃあああ、ボロットパーンチ、だわさ!」
「わぁっ!?」
早速その二体がかかってきた。慌てて回避しようとするリューネ。
と。唐突にその間に、蒼白き閃光が満ちる。
「サイ・フラーッシュ!!」
光を浴びたアフロダイとボロットが、強烈な打撃を浴びたように吹っ飛ばされる。だが、同じ光を浴びたヴァルシオーネとグールには、何の影響もない。
「きゃあっ!?」
「のわーーーーっ!?」
そして、その光の発生源が言う。
「どうだっ!魔法兵器サイフラッシュの力は!」
「マサキ・・・っ、ありがとう!」
その姿と声に、それまで感じたことのないほどの、うきうきと沸き立つような喜びを感じるリューネ。通信ディスプレイに映ったその笑顔に、マサキはちょっと照れた。
一方唐突に戦闘介入したサイバスターを、兜はいぶかしむ。
「何だ?見慣れないメカだな。新しい機械獣か?いや、機械獣にしちゃ格好よすぎる・・・」
確かに機械獣はどちらかといえばシンプルな代物だが、制作者を目の前にして随分なことをいう兜。だが確かに白銀の猛禽を思わせるサイバスターのデザインは、黒金の城と讃えられたマジンガーとは正反対ながらも、匹敵する以上のかっこうよさを持っている。
「ともかく、いくぜ!」
光子力ビームとミサイルを同時発射するマジンガー。だが、サイバスターはまるで重力の影響を受けないかのように軽やかな機動でそれらをかわしきった。
「早い!?」
「遅いっ!」
互いに叫ぶ、二人のパイロット。。
「いくぜっ!シロ、クロ!ハイファミリアっ!!」
「「了解ニャ!」」
マサキの叫びと同時に、サイバスターの背中から二機の独立攻撃ユニット・・・ファンネルのようなものが飛び出した。だが実際には全然違う者で、あの二匹の猫型精霊が変化したものなのだ。
キューン、キュキューン!
甲高い音を立ててハイファミリアは飛び回り、マジンガーZに四方八方から光線を浴びせかける。
「ちっくしょうちょろちょろしやがって!でも、こんなもんじゃマジンガーZはやれねぇぜ!」
攻撃を受けながらも尚元気を失わない甲児。確かにマジンガーの分厚い装甲はハイファミリアのビームをうけてもびくともしない。
「マサキ〜、駄目にゃ全然きかないニャ〜!」
「弱音吐くな、シロ!」
ファミリアを叱咤するマサキ。マスターの心の一部であるファミリアが弱音を吐くということは、マスターの心にも弱音が生まれ始めていると言うこと。そんな自分に対しても、マサキは叫んでいた。
「でもマサキ、一体何で私達戦わなきゃ行けないのニャ?はっきりいって地上の戦いなんて関係ニャーよ?私達。」
「そうでもないぜ。リューネが言ってただろ、DCにシュウの野郎がいたって。ここでDCを助ければ、一気にシュウの所までいけるかもしれないぜ!」
「それもそうにゃけど・・・わにゃっ!?」
グワァーーン!!
一瞬の隙をついて、サイバスターのボディにもろにロケットパンチがめり込んだ。
「うおおおっ!?」
「マサキッ!!でぇ〜〜〜い!!」
マサキの叫びを聞き、咄嗟に片っ端からその辺の木や岩を引っこ抜いて投げつけるヴァルシオーネだが、超合金Zはそんなことではびくともしない。
「馬力はあるみたいだけど、武器はなんもついてねぇみてぇだな。まるで女ボスボロットだぜ!」
女ボスボロット、女ボスボロット、女ボスボロット、女ボスボロット・・・
甲児の発言が、脳内で木霊する。
「い・・・言ったなぁぁ!!」
自分が直接けなされたわけではない。ヴァルシオーネは、あくまで父親から一方的に押し付けられた代物でしかない。だが。
こんな状況で、これが実力と思われて嘲られるのは許せない。
そして何より、この機体は。父の・・・
必死に機械を操作するリューネ。と、ディスプレイに文字が現れた。
「バトル・インターセプト・アシスト・ナビゲーション・・・英語になって無いじゃない、これ。まあいい!」
確かに、全然英語ではない。単語の組み合わせが滅茶苦茶だ。
何か、これを起動させるかとコンピューターが問いかけてきている。今よりましになる可能性があるなら、やるしかない。
「起動!」
スイッチを押した。すると、
「ん?待てよまさかこれって!」
ディスプレイに、でたらめな単語のつながりの頭文字が並んでいく。
「BIAN!?」
「わはははははははははは!!」
唐突な笑い声が、コクピットいっぱいに満ち溢れる。そして、閃光。
「お・・・お・・・お・・・」
リューネの前に、ホログラフィが浮かんでいた。人間の顔だ。彫りの深い北欧系の壮年男性で、濃い髭を生やしている。
「究極大天才科学者!ビアン=ゾルダーク、ここに再臨!」
そいつは・・・はっきりきっぱりそう名乗った。そして続ける。
「ど〜もコロニー国家上層部でくさい動きがあったでの。一旦外部から連中のたくらみを見るために、脳をこの機体内に移したのだ。オデッサに行っていたのは、わしがこのヴァルシオーネから操っていた精巧なアンドロイドというわけだ」
あまりのことに硬直してしまうリューネ。
「というわけでリューネよ、これからはわしのことはマシンファーザービアンとおうっ!?痛い痛い、痛いぞリューネ!」
途中でビアンの言葉がぶちきれた。リューネががつんがつんディスプレイをたたき出したからだ。どうも機体に痛覚があるらしい。
「馬鹿っ、馬鹿っ、馬鹿親父っ!あ、あたしがどれだけ悲しんだと・・・思ってる!」
「ビアン〜〜〜〜〜〜〜!!」
泣かんばかりのリューネ。だが、Drヘルにいたっては本当に大泣きしていた。
それに気付いたビアンは、ヴァルシオーネの腕を動かしてしっかりと機体頭部を指差した。
「ヘルよ、わしはここだ!ここにおる!」
「び、ビアンよぉ〜〜〜〜っ!!」
もう言葉にならないらしく、老いた科学者は杖にすがって心底に嬉し泣きをした。
「どうしたヘルよ、男児たるもの何を泣く?」
そのやり取りを聞きながら、なんとなくリューネは今コロニー圏で人気の格闘漫画「機動武闘伝Gガンダム」の、主人公と師匠のセリフを思い浮かべていた。
ともかく再会の儀を終えたリューネそしてビアン。きっとばかりにヴァルシオーネの顔をマジンガーZに向ける
「さあて、甲児!こっちの能力はこれで全開になった・・・やめるんなら今のうちだぞ!」
「へっ、やってもいないうちからやめられるか!ブレストファイヤーーッ!!」
ゴオオオオオオオオオオッ!!
空気が激しく揺らぎ、マジンガーZの胸部の赤い放熱板から、MSや機械獣程度なら見る間に熔解させてしまう強烈な熱線が放たれる。
それをヴァルシオーネは、空中機動を交えた機敏な動作で軽々と回避した。勢いに任せて空に舞い上がり、飛び方を覚えた鳥のように、歓喜すら感じさせる曲芸飛行をして見せた。
「凄い・・・凄い!これなら・・・」
それまで戦いの時に感じていた憂鬱な感覚、それを忘れさせそうなほどのヴァルシオーネの操作感に、リューネの精神は高揚を憶えた。その感覚を癒し制御するためにしばしマジンガーを翻弄するように宙を舞ったあと、リューネはしっかりと目の前の相手を見据えた。
「やれるっ!」
一瞬で機体システムを把握したリューネ。しなやかな指が踊り、武装システムのタッチディスプレイから兵装を選択した。
「ヴァルシオーネの武装はヴァルシオンと違いリューネ、お前の戦闘スタイルや個性に合わせるため「本来の武装から若干変更・改良まで施してある。」。どんといけぃ!」
機体の電子頭脳となったビアンのアドバイスが、集中するリューネの脳にすんなりと入り込む。同時に入った選択肢の視覚情報とそれは合わされ、確認され、決定された。
機体を急降下させる。ヴァルシオーネを迎え撃つためルストハリケーンの発射態勢に入っているマジンガーZ。その口に、側頭部に装備されたニードルランチャーを打ち込む。噴霧機構が故障し、ルストハリケーンは使用不能になった。
その弾着とほぼ同時に、ヴァルシオーネはマジンガーZの目の前に着陸していた。マジンガーZの頭部風防の中で、パイロットが舌打ちするのが見えた。
そして、ヴァルシオーネは、二つの機体を見比べたならば普通の人間が絶対想像しないであろう行動に出た。
マジンガーZにつかみかかったのだ。
「マジンガーと力比べしようってのか!!おもしれぇ乗ってやるぜ!」
ぐぐっ、と黒い両腕にかかる力が上がった。最大出力六万五千馬力が唸りをあげる。
マジンガーZの豪腕と比べあまりに華奢なヴァルシオーネの腕では、とても抗すべくもないように見えた。
が。
ヴァルシオーネは一瞬引くと、素早く腕を外側にひねった。
ばきばきっ!
その途端、マジンガーの両腕はあっさり肘から取れてしまった。
「何ぃ!?」
「ロケットパンチなんてギミックがあるんなら、外れるのも道理だろ?」
もいだマジンガーの手を放りながら、リューネは笑う。
だが、甲児も笑った。
「そうだったなぁ!ほんとにもげたかと心配したぜ!ロケットパ〜ンチッ!!」
叫びに勢いを得たように、捨てられた両腕が蘇った。断面から炎を噴出し、両側から一気にヴァルシオーネに迫る。
が、同時にリューネも動いていた。ヴァルシオーネはロケットパンチが届く前に、マジンガーZにむかい突貫する。同時に、腕を横に何かを投げるような手つきでふるった。
一瞬。僅かな陽光の反射で辛うじて視認できる細い、だが同時にコロニーの張力維持などに使用され、戦艦すらつり下げる事が可能な単分子ワイヤーがうなりをあげて飛び、ロケットパンチをからめ取り微細な力加減で誘導する。
結果ロケットパンチは同士討ちの格好で激突してしまった。
「なろっ!?」
驚いた甲児だが、いきなり手をもがれたときに相手の力を体感したので、動転までは行かない。すかさず両腕断面からの小型ドリルミサイル、目の光子力ビームで応戦する。
走りながら勢いに乗って前転し、かわすヴァルシオーネ。あっという間に至近距離まで来てしまった。腹の下から迫ってくる格好なので、口から吐く強酸のルストハリケーンは使えない。
それならば必殺の!
「ブレストファイヤーーーー!!」
がっつん!
その一瞬の情景を詳しく表記するとこうなる。
マジンガーがブレストファイヤーを発射しようと腕を振り上げ胸を突き出す。それと同時にリューネがマジンガーの胸についた二枚の放熱板の間を思い切り蹴り、マジンガーをのけぞらせる。そして黒い胸部装甲と白い胴体部装甲の継ぎ目が開いたところに、思う様拳をぶち込む。
ぐりぐり強引に拳を推し進め、光子力炉ではなくそれにつながれた発電機構と予備バッテリーをもろともに叩き潰した。
マジンガーZの外見にはほとんど損傷はなく、また光子力炉も稼働しており、パイロットも無傷である。だが、マジンガーZは完全に機能を停止していた。
「うおおおおおっ!」
「急いで!撤収するよ!」
倒れるマジンガーZに背を向ける格好で、大慌てでリューネは号令した。
本当は、倒したマジンガーZのパイロットが気になっていた。戦闘後の、この微妙な罪悪感はどうしてもリューネには忘れることの出来ないものだった。
だが今はそれどころではない。敵陣ど真ん中であり、自分と味方のほうが切迫して危ないのだ。かなり損傷してはいるがまだ何とか飛行可能なグールに発進をせかし、
「ん・・・?そこっ!!」
シュバッ!
急にヴァルシオーネを反転させたリューネが、まるで天井裏の忍者でもみつけたような声で頭部ニードルランチャーをぶっ放す。
が、相手もまた事実忍者なみかそれ以上だったらしい。ニードルは黒光りする鋼鉄の腕に受け止められた。ご丁寧に一本一本指に挟んでとめている。
「ま、マジンガー?」
そのシルエットを見たリューネはそう言うしかなかった。確かにマジンガーZは足元に転がっている。だが、そこにいるのもまた明らかにマジンガーだ。
いや、よく見ると微妙に違う。頭一つ分くらい立っているほうが大きく。全体にあちこちとんがっている。はっきり言うと、こっちのほうが新型らしいというか強そうな格好だ。
「誰、あんた!」
「大空が遣わした偉大な勇者、グレートマジンガー!」
なんだか妙な声だった。言いなれてないというか、ヒーロー的シチュエーションに慣れていないというか。
「あっそ、じゃあね〜!」
特に興味もない。ので、さっさと去るリューネ。
「な、なにっ!?」
相手は動転しているが、知ったことではない。
「ま、待て、おい、こらっ!!」
「サヨーナラー!!」
グールも、サイバスターもそれに倣う。あっという間に、その場にはひっくり返ったマジンガーと、棒立ちするグレートのみが残されたのだった。

そして、その後のグール司令室。
「シュウどこだ!シュウはっ!!」
「ななな、なんじゃ〜〜〜い!?」
唐突に踊りこんできたマサキにがっくんがっくん胸倉をゆすられ、昏倒寸前のDrヘル。
「こ、こら貴様、何をする!」
慌ててとめに入るあしゅらとブロッケン。またリューネも、マサキを引き離した。
「どうどう、おすわり!」
・・・心なしか人間の扱いではないが。
「全く一体なんなのです!この粗野な餓鬼わ!」
ずももん。そんな効果音でもつきそうなあしゅら男爵のドアップにもめげず、リューネはきっぱりといった。
「あたしと親父の命の恩人。」
「どひぇえええええ!お許しをぉっ!!」
イキナリ平身低頭するあしゅら・・・どっかでみたような展開だ。(第二話あたり)
「な、なぁリューネ。こいつ・・・一体なんだ?」
ぎこちない口調で、リューネに尋ねるマサキ。まぁ、あしゅらに迫られては初めての人はたいていこうなる。
「あぁ、そりゃまあこんな変な生き物見るの初めてだと思うけど、怖くないから安心していいよ。」
「変な生き物っ!?!?」
「あ」
リューネの言葉に、激しくショックを受けてしまうあしゅら。部屋のすみっこしゃがみこみ、下を向いてしまう。
「ほら、けっこう可愛いところもあるし。」
「は、はあ・・・」
可愛いのだろうか。というかリューネ、わざと?
ともかく、構っていても仕方がないのでヘルが返答する。
「クリストフなら無理じゃ。」
「何で?!」
愕然とするマサキ。
「それが、ビアンの遺言・・・といっても生きてるのが分かっちまったら遺言じゃないのだろうが・・・を公表した後、あやつ行方をくらませおった。」
「何だってぇ!?」
唐突に大声を出したのはリューネだ。
マサキではない。
「り、リューネ・・・」
そんなに、俺の願いを。
とか思ったマサキは間違っていた。
「そう!そうだった!親父は死んでない!つまり!あたしは総帥を継がなくていいんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
目の中でシャンデリアが百個揺れているレベルの光がきらきらし、リューネは万歳三唱する。
「そうはいかん。」
「へ?」
唐突に、格納庫の窓からヴァルシオーネ・・・つまり、ビアンが顔を出す。美少女ロボの顔とリューネと同じ声、親父口調が激しくミスマッチ。
「何しろ、今のわしはマシンファーザーだからな、人ではない。そして人の体はとっくに死んでおる。」
「・・・・・・」
「法律的には問題なくわしは死んでおり、がっちりばっちり遺言は遂行される。」
「・・・」
「つまりリューネ、お前は紛れもなく」
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
泣き叫ぶリューネ。
と、それを無視してマサキはサイバスターのコクピットに入っていた。
「む?何のまねだ青年?」
ヴァルシオーネ=ビアンが首をかしげる。
「シュウの野郎がDCにいないってんなら、もうここに用はないぜ。世話になったな、あばよっ!」
「えぇ〜〜〜〜〜っ!!」
慌てて格納庫窓に駆け寄るリューネ。だが、問答無用でサイバスターはグールの格納庫壁をぶち破り、飛んでいってしまった。
「あ〜〜、マサキぃ、ちょっと〜〜〜!!あたしこれからどうなるのよ〜〜〜〜〜〜!!」
「それはもちろん総帥」
「いやぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!」

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