ため息。
寝返り。
ため息。
寝返り。
ここ一、二時間ばかり、ひたすらそれを繰り返す。
「はぁ〜・・・」
また、ため息。
そして、寝返りにももう飽きた。電気を消せばひたすらに暗い宇宙要塞アクシズの一室。
ベッドの上で半身を起こしたリューネは、父が残したものの一つ・・・顔も覚えていない、早くに死んだといわれている母の写真入りのロケットを手に取る。
開けもせずに、本来写真が入っているのと反対側についた宝石飾りのようなものをいじくる。
そして、悩んだ。
それがもたらした、もう二つの父の遺産・・・

究極ロボ二号機と、DC総帥の位に。


スーパーロボット大戦DC 第三話 「遅刻した朝の曲がり角なんかでよくあるお約束の」


「・・・以上のレポートからも、もはやオデッサが我々の軍事施設として使用不可能なことは明らかだよ。マ=クベ中佐が保管されていた資源を搬出してくれなければどうなっていたことか・・・」
「守備隊も事実上の壊滅状態。我々は地上への足場を失ったことになる。地球に残存する部隊の回収も難しい。」
「その上、我らが総帥ビアン=ゾルダーク閣下が全死なされたのだぞ。一体どう責任を取るつもりなのかねっ!?ハマーン君!」


あれから二週間が過ぎた、DC軍アクシズ要塞。
連邦軍の核攻撃により、オデッサはその基地機能を消失。DC地上軍は宇宙へと退かざるを得なかった。
宇宙空間でも先の「星一号作戦」によりソロモンを失い、DC=連邦間の攻守はここに完全に逆転したといっても過言ではなく、迎撃指揮を取ったハマーン=カーンは査問にかけられていた。

「DC SOUND ONLY」と赤い文字で書かれた板状の立体映像が、暗室に立つハマーンの周囲を取り囲んでいる。
(威圧感を与えたいのだろうが・・・むだなことだな)
心中、わずかにハマーンはむなしさを感じた。ソロモンを失ったとはいえ、地球「上宙」の制宇宙権はまだDC側にある。それなのにあの局面で連邦の弾道ミサイルを迎撃できない道理などなかったはずなのだ。
誰かがどこかで命令系統をちぎりでもしない限り。
兵力にしてもそうだ。DCの情報網が連邦の動きを捉えてから、兵力を回すのに十分な時間はあった。そして本国には、ありもしないルナツーからの連邦の攻撃に備えた部隊が大量に控えている。
命令系統が違うせいで、ハマーンはそれらの部隊に小指の先ほどの影響力もなく、動かせなかったが。
その部隊への命令権を持っているのは、今ハマーンを取り囲んでいる鉄板たちだ。
駆けつけたのは各地の地上軍残存部隊と、DC副総帥直属の機械獣部隊、総帥親衛隊と、総帥じきじきに持ってきたテスト中の新兵器、ヴァルシオン。

はたから見てしまえば、笑ってしまうほど簡単なことだ。ようは各国の勢力争いに、純粋に理想を信じた馬鹿が痛い目を見ただけ。

ハマーンの口元が、自嘲の笑みに彩られる。

そして、わかっていながら何も出来なった無能が、まな板の上で逃げ遅れているだけ、か。
自分の身を案じた部下たちの顔がよぎるが、それすらも今は自嘲のネタにしかならない。

「しかし。」

反論の声に、ハマーンは隣の男を見つめる。顔色と目つきの悪い白髭の老人、副総帥Drヘルだ。
これで親衛隊長デラーズがいればあの場にいた上級指揮官はそろうが、姿が見えない。総帥の死に責任を感じているのだろうか。

「結果論でだが、この戦い連邦に与えた損害は、我が軍の被害を上回るものであった。今はなき我が学友ビアンならば、そう判断しただろうな。」
「ほう・・・これはこれは副総帥。」
鉄板の一枚が、ギレン=ザビの声で驚いた。
「いつおこしで?」
「たった今だよ。あいにくとグールには単体での大気圏離脱能力があるのでな。」
「・・・何があいにくなのか、いささか判別できませんが。」

いやなにらみ合いが続く。今回の戦いで、Drヘルも気がついたらしい。
「・・・ともかく。」
「ともかくですか。」
「連邦のダメージは純軍事的被害だけにはとどまらない。」
そういうとヘルは節くれ立った指で立体映像装置を操作した。
「これを見よ」
小さな映像が現れた。マジンガーZを擁する光子力研究所の所長、弓教授。演壇で何か話している。
「例の核攻撃に対して、それまで連邦に協力していた各スーパーロボット研究機関が離反。ロンド=ベルからのスーパーロボット引き上げ、日本の連邦からの独立による独自の防衛を宣言しおった。」
再び装置をいじるヘル。今度写ったのは連邦軍内でも良識派と言われるブレックス准将だ。
「元ロンド=ベルMS部隊を主軸として、ブレックス准将が反連邦組織エゥーゴを設立しおった。地球の連携はがたがただ。」
そこで、映像は終わった。
「結果論だが、な。」
沈黙する板。
「・・・まあ、それはよいとしましょう。では・・・」
「総帥亡き後の指導体制、ですか?」
「!?」
唐突に、第三の声。
「な、誰だ貴様は!?」
「ビアン博士の助手です。」
クリストフだ。居並ぶコロニー国家最高権力者たちも、まるで眼中にないかのように堂々としている。
「助手ごときが、何のようだ!?」
「総帥の遺書を預かっています。」
とがめる鉄板の群を一瞥し、クリストフは軽く笑った。
「何だと!」
「馬鹿なっ!」
何故かざわめく。単純にあのビアンが自分の死後のことを、いや自分がしぬ可能性を考えていたことが驚愕なのだが。
「リューネさん?」
「何よ?」
主の後ろに立っていたリューネが、不機嫌そうに呟く。何も知らされずいきなり連れ出され、今までずっとこの「裁判」とやらを見せられてきたのだ。
いいかげんにしてくれ、というのが率直な感想である。
「ちょっと拝借」
「あ」
鉄板の群のざわめきがさらに強まる中、リューネがぶら下げていた、父の残したロケットを手にとるクリストフ。写真を見るでもなく、ふたとは反対側をいじる。
「これでよし。」
クリストフがつぶやく。と、次の瞬間、宝石飾りのようなものが発光した。光が、空中に像を結ぶ。
それは、ビアン=ゾルダークの映像だ。
「あ〜、さて。もし万が一、いやさ億が一兆が一、このわしが志半ばにして倒れた場合について、言い残しておくことにする・・・」
始まった。言い回しはいつもどおりだが、確かに遺書らしい。記録されたのは、表示された日付によればオデッサ作戦の前日。
「まず、アクシズ基地第七格納庫にて、わしの最新にして最高傑作、ヴァルシオンを超える究極ロボ第二号製作を開始させた。設計図どおり機械が自動製作するから、おそらく二週間後には完成するだろう。その性能たるや・・・」
以下延々新型ロボットの自慢話が続いて一同げんなりし、とうとうクリストフが早送りした。
「・・・さて、我が新作の説明はこの辺にして、次にうつろう。」
ちょうど次の話題に入ったところで、タイミングよくクリストフが通常速度にする。緊迫が辺りを包んだ。
「次の総帥を我が戦闘愛娘リューネとし、その命令に絶対服従するように。以上だ!反論は許さん!なおリューネに拒否権は認めない。周囲が反対する場合リューネの体内に無断で移植した取り出し不能日常生活に支障なしの、人工知能付自爆指令電波発信装置が作動、すべてのコロニーにこれまた無断配置した対宇宙人用素粒子爆弾を自爆させるシステムになっている。以上!」

それで映像は終わった。鉄板はみな石版になった。ヘルが「昔からあいつはそんなやつなんだよな」と言わんばかりの表情で頭をかいた。ハマーンがうつむきながら屈折した笑いを漏らした。クリストフは実に愉快そうだった。

そんな中、

「あ、あのバカオヤジいつあたしの体にそんなものを!?総帥!?あたしに総帥やれってぇ!?」

とわめきまくるリューネの声が流れていた。



「あ〜〜〜〜〜っ・・・」
数時間前の青天の霹靂を思い返し、頭を抱えるリューネ。
ぽつりと、呟く。
「オヤジ、あたしに何期待してるんだよ・・・」
うすうす感じていたが始めて直接目にした、腐った現実。
私が次期総帥になると決まったときの、いやでも伝わるほどの失望と混乱。
混乱の極みと化した地球。
もはや収拾がつかない。
未知の宇宙人。
来るのかこないのかもわからない。

そして、なにより。
初めて参加した、戦場。

「あたしに・・・人の生き死に、背負えっての・・・?」

自分の判断で、自分が傷つき、あるいは死ぬのはまだいい。
自分の命令で、他者が傷つき、あるいは死ぬ。たくさんの人が。

それは、恐ろしかった。
たとえ戦略・戦術・政治に関する十分過ぎるほどの知識と訓練を、父から叩き込まれていたとしても。

「ああ・・・っくしょう・・・」
頭をかきむしり、リューネは立った。



「やれやれ、ことは容易ではありませんな。」
「先代総帥の遺命とはいえ、一介の小娘にDCを預けるなど。」
「決定事項なのだ。新総帥に対して無礼ではないのかね?ふっふっふ。」
「これはこれは、先代総帥が政治に無関心だったのを、もっとも喜んでいた貴国が。」
「何をおっしゃる。我々は誰も出来ないでいたから進んで舵取りを買って出ただけですよ。」
「それなら、今後は安心できますな。我々がお手伝いいたしますゆえ、ゆっくりと敗北を重ねた国力を復興するといい」
「実戦経験もなく後方にいた軍にすべてを任せるわけにはいきませんな。なぁに、まだまだ我々は大丈夫ですよ。」

などと、ハマーンたちが退出した後も真綿で包んだ刃物でつつきあうような会話を続けていた各国代表は、いきなりの爆音と振動に一瞬その立体映像をぶれさせた。

「何だ!?」
「脱走です!?」
「誰が!?」
「・・・総帥です!」


「・・・やっちゃった・・・」
遺言書のもう一方、究極ロボ二号のコクピットでのリューネのつぶやきである。
究極ロボ自体は、第七格納庫の壁を破って地球上宙の宇宙空間。
星間物質が希薄に漂う華氏三度の空間に躍り出た究極ロボ2号「ヴァルシオーネ」は、一号ヴァルシオンとはまるで違う姿をしていた。
動く城塞とでも言うべき重厚なヴァルシオンと異なり、ヴァルシオーネはさながら鎧をまとった戦女神とでも言うべき姿をしていた。スリムで躍動的なデザインのボディと、明らかにリューネに似せて作られた、本物の女性のような顔を持っている。
額に取り付けられたティアラのようなアンテナが、まるでDCの皇女を喧伝するかのよう。
最初見たとき、リューネはどうしてこんなに違うメカをほいほい作れるのか、父親の頭脳に一抹の疑問と、自分そっくりの顔にかなりの恥ずかしさを覚えた。
コクピットの中は、基本的にヴァルシオンと変わらない。慣れた手つきで、起動・姿勢制御の手続きをとる。
「ピー。メインシステムが凍結されています。」
・・・・・・
「え?」
あわててもう一度操作するが、同じメッセージが繰り返される。
ヴァルシオーネは地球攻撃のため衛星軌道上まで来ているアクシズの、地球側に向いた第七格納庫から発進した。
それが制御不能となると・・・
「うっ、うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
重力に引かれ、ヴァルシオーネは地球に向けて落下した。減速も突入角度も何もない。初期加速はついているため、自由落下よりたちが悪いかもしれない。
大気圏突入。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、燃える、溶ける、燃え尽きるぅぅぅぅぅぅ!!」
パニック状態になって叫びまくりながらも、手だけはしっかりあちこちの操縦装置やコンピューターをいじっている。
反応なし。
ヴァルシオーネの装甲は大気圏突入の熱に耐えているようだが、この勢いでたたきつけられれば下が地面でも海面でも関係ない。
機体が木っ端微塵にならなくても、中の人間は確実にお陀仏だ。
「ひぇえええええええええええええええええええええええええ!」
と、唐突に目の前に、白銀色のロボットが現れた。
「へ?」


「よっし、転移終了。・・・待ってろよ、シュウ!必ず俺が・・・」
白銀色のロボットのコクピットでは、青年が一人。
「ええと場所は・・・って、直上、高速移動物体接近!?」
「マサキ、よけてにゃ!」
猫が二匹。何故か、口をきいている。
「へぇえ!?」


二体のロボットは、衝突した。

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