第一話 「胎動」
「我が愛しのリューネよぉ!今こそわしがお前に幼い頃から行わせてきたはっきり言って非人道的訓練の成果を見せるときが来たぞ!!」
などと怪しい声が、DC軍オデッサ基地近郊の山中に木霊した。
声を発したのは、がっしりした体格と濃いひげを持つ、意志の強そうな壮年の男性。彼こそ、DC軍総帥・ビアン=ゾルダークであった。
「思えば小さい頃から良く耐えてきてくれた。こんなに立派に育ってくれて、リューネ、お父さんは、お父さんは・・・うっうっう」
「そう思うならするなよ!」
傍らの少女が怒鳴る。怒る彼女は当然被害者・・・ビアンの娘、リューネである。金色の少し癖のある髪に青いバンダナを巻き、快活そうな顔の頬を膨らませている。16歳という年齢の割には発育のよい肢体をジーンズとタンクトップで覆っているのも、そんな快活さを強調している、
とにかく、彼女の父ビアンは黙っていれば威厳あふれる容姿の持ち主だが、中身あるいは言動はかなり変だった。事実彼は軍団を率いるのはもっぱら各コロニー国に任せ、自身は研究に没頭していた。
本来科学者であり、己の研究を貫くためひたすらアグレッシブに行動していた結果、DC総帥にまで納まった男である。
そこまで政治的に有能だったわけではない彼の行動としてはこれで正しかったわけだが、これが逆に各国間の派閥争いを激化させ、DCの衰退を招いたともいえる。
「ようは親父の作った「ヴァルシオン」とやらを動かしてみせればいいんだろ。」
それはその成果たる「究極ロボ」一号機、ヴァルシオンのテストのため、今まで鍛え上げていた娘を伴ってわざわざ自分でオデッサまで降りてきたことからも伺える。
「しっかしもうじき敵のオデッサ攻撃が始まるんだろ、こんなことしてていいのか?部下にも内緒で・・・」
あきれたといわんばかりの声で、リューネは振り仰ぐ。
ジオン軍の陸上艦、モビルスーツ数対の運用能力を持つギャロップの輸送カーゴからはみ出るほどの巨体を持つ、父の作ったロボットを。
その様子をヴァルシオンに対する関心と考えたビアンは、ことさらに胸を張った。
「だからこそ急いでやるのだ、ワシのヴァルシオンを大活躍させるために!」
「ったくこのスパロボオタク。」
ぼやくリューネ。
「まあまあ、ビアン博士の長年の夢なのですし。」
「くりりんは黙ってて!」
脇から入った仲裁を、0.05秒ではねのけるリューネ。
「く、くりりんと呼ぶのはやめてください。」
心底いやそうに、くりりんと呼ばれた男は顔を引きつらせた。もともと紫の髪が妖しくどこか耽美的な雰囲気を持つ美形顔なのだが、だいなしである。
「最初にこのあだ名つけた親父に言えば?」
「本名クリストフ=グラン=ビルゼイア!くりりんと呼んで何が悪い!」
「悪いです!」
「ま、好きこのんで親父に協力するってんだから、これくらい我慢しなくちゃ。」
父親に誰よりも苦労させられているリューネは、少し面白そうにウィンクした。
「・・・・・・」
苦い顔で沈黙するクリストフ。
「ぷぷっ・・・」
不意に、笑い声。それはなんと、クリストフの肩にとまる青い羽の鳥から発せられている。
「チカ・・・」
にらみつけるクリストフ。
「ひぇ、すいません。」
そう鳥は人語で話すと、首をすくめた。だがゾルダーク親子はそれを当然のこととして受け止めている。
「まあそれはおいといてリューネよ、さあ乗れすぐ乗れ早く乗れ!」
「はいはい。」
急に用件を思い出した父に内心がっかりしながら、リューネは仕方なくロボットが納められているカーゴのほうに歩き出した。
ずずぅぅぅぅん・・・
重厚な音とともに、ヴァルシオンが大地に降り立った。深い赤を基本色にした重厚なデザインで、たくさん生えた上にそそり立つ鋭い突起物が、まるで動く城塞がごとき雰囲気をかもし出している。片手に持った分厚く長いバスターソードが、凶悪に煌く。
「どうだ!究極のスーパーロボット、ヴァルシオンの勇姿は!わくわくしてくるだろ!」
胸を張る親父。
「デザインが悪役っぽい。あたしやだこれ、おりる。」
一瞬白黒反転して硬直する親父。
「ガガーン!リュ、リューネ〜そんなこと言わないでくれ〜、お父さん悲しいよ〜、ショックのあまりこづかい全額カットしちゃうぞ〜」
はた迷惑なことを除けばある意味かわいらしいともたれる父親の様子に、リューネは微苦笑を浮かべる。
しかたがないなぁ、という気持ちがだんだんと増えて、不快感を包み隠していった。
「わかったわかった、ちゃんとやるから。」
「うむ、それではたのむぞ」
ようやくのこと、起動テストが始まろうとした、そのとき。
「な、何だあれは!?」
連邦軍の無線が飛び込んできた。この時代暗号解読技術が発達しすぎて、互いに会話をしながら戦闘が出来る。
このことはプラスにもマイナスにも働くが、今回はDC側に幸いした。いや、連邦側に不幸だったというべきか。
「!」
「さては連邦の先遣隊か!」
ペガサス級改造型・トロイホースを中心に、軽量さと扱いやすさゆえに広く採用されている連邦の新型量産機の一種、GMコマンドの部隊が展開している。
先遣隊といえど、かなりの量だ。
「見たこともないタイプだ・・・」
トロイホース隊司令官はうなった。識別パターンにないまったくの新型で、おまけにえらく強そうで凶悪な外見をしている。
「DCの新兵器か・・・!?。よし、攻撃準備!」
「し、しかし・・・!」
副艦長は口ごもった。艦長よりははるかに実戦経験の多い副長は、はっきりと理解していた。
どう考えても、向こうのほうが強そうだということを。
「え〜い、うるさい、いくぞ!あれを撃破すればさらなる昇進まちがいなし!」
だが艦長は無視した。付け届けや袖の下でとんとん拍子に出世した「エリート」は、自分より階級が低い人間にあれこれ言われるのがいやだったのだ。
敵艦の様子を見て、ビアンはものすごく嬉しそうに笑った。
「ほほう、このヴァルシオンと戦う気か!リューネ、軽〜くやっつけてしまえ!」
「ええい、もう!!」
何で偶然連邦軍と遭遇してしまうのか、リューネは己の不運をのろいながらヴァルシオンを起動させた。
いくら訓練を受けているとはいえ、実戦はこれが初めてだというのに。
「あの程度の敵、小指の先だけで全滅させてみせい!まさか負けるわけがないだろう!」
はっぱをかける父の声を尻目に、リューネの戦意はどん底だった。
「あぁも〜・・・しかたない!」
嫌々ながらも、訓練された体はいったん戦うとなったら即座に行動する。指が滑らかにボタンの上を踊り、レバーを操作する。
「クロスマッシャーっ!!」
互いに絡み合うように螺旋を描きながら、すさまじいエネルギーが発射される。
轟然、炸裂。
だがその一撃は、トロイホースの艦橋ぎりぎりをかすめてはるかかなた、無人の森に命中した。クレーターになるほどの大爆発でも、これでは意味がない。
「・・・・すっごい威力・・・・」
一瞬だけリューネは気圧されたようにつぶやいた。だがすぐ決然とした表情になり、無線機をとる。
「連邦軍の連中、今の見たか!そっちの装備でかなわないのは理解できただろ!」
言うなり、近くにいたGMコマンドの手からマシンガンをむしりとり、自機にむけて発射する。
傷一つつかない。
「攻撃も通用しない!死にたくなかったら逃げろ!手出しはしないから!」
叫ぶリューネ。
叫びつつも、内心では戦士として訓練された「部分」がささやいている。
「逃がしても、また立ちはだかる。殺せ。」と。
リューネはそんな思いを打ち払うように激しく首を振った。なぜ父は、自分をDCの戦士として育てながら、人間的な感情を残したのだろう。
だから苦しむ。戦いを拒否する思いがのこる。それが機械になるよりましだとしても、やはり苦しい。
「・・・かった。ここは退かせてもらう。」
気がつくと、連邦軍は要求を受け入れたようで、通信が入っていた。
艦長席に座っている男がなぜかがんじがらめに縛り上げられて猿轡をかまされて後頭部に大きなこぶを作り失神しているのが、リューネは気になった。
状況は大体推察できたが・・・あとでどうなるのだろうと、本来関係ないのに危惧してしまう。
「ああ、これですか。」
通信機のウィンドウに移ったリューネの視線に気づいた副艦長は、笑って言った。
「あなたのさっきの威嚇射撃の際に腰を抜かしましてね。戦争神経症ということにしておきましたから。」
に、と笑う。だいぶん人格が練れているようだ。あるいは、前もやったことあるのかもしれない。
「ははっ、なら大丈夫だね。・・・じゃ。」
「ええ、部下たちに代わり感謝します。」
「まったく、わざわざ敵を逃がすとは・・・」
連邦軍が去り、コクピットからおりたリューネにビアンがぐちる。
だが、その表情はまんざら娘の行動を否定しているわけでもなさそうだ。
「まあ、お前は正しい選択をした。わしはそう思う。」
「親父・・・」
「地球征服後に対宇宙人のコマとなるものは出来るだけ残しておきたいからな。なにしろ我々の地球だ。たとえ連邦軍であれ、将来的には我らが所有物なのだからな」
がたっと、リューネはコクピットから降りる足を踏み外した。ちょっとはプラスの方向に傾きかけた評価がすぐさま倍マイナスになる。
「親父!!」
「はっはっはっはっは!」
なぜか笑う父親に、リューネは少し頭痛を覚えた。
「でも、ま。相手より圧倒的に強くないと手加減は出来ないから・・・そういう意味では感謝、かな。・・・ヴァルシオンの性能に。」
そんなリューネの呟きを耳聡く聞きつけ、ビアンはさらに笑う。
「フハハハハハハハハハ!そうだろそうだろ!わしのヴァルシオンは無敵だ!リューネ、この力、お前の物だぞ!」
「いらない」
リューネはきっぱりといった。あごをはずしたような表情で固まっている父親に、
「前から言ってるけど親父の趣味とかDCとかスパロボとか興味ないんだっての!」
言い張る。
「ともかく・・・」
場を和らげるように、クリストフが割って入った。
「早くこの場を後にしませんと。連邦のオデッサ攻撃が近いですよ、総帥。」
「う、うむ、そうだ、な。」
そして、オデッサへと向かう集団がもう一つ、歴史に加えられた。
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