秘密結社バリスタスいんたーみっしょん
「さて、それでは。HUMA極東総本部陥落を祝してっ!!」
「かんっ、ぱぁ〜〜〜〜〜〜〜い!」
「乾杯!!」
一斉にわき起こる乾杯の唱和。
それだけ訊けば、ごく普通の規模の大きな宴会、と思えたかも知れない。だがその光景を見て、それが「普通の」宴会だと思う者はまず居ないだろう。
なぜならその場にいる者は皆一様に、人と獣と機械の融合体、すなわち改造人間だったからだ。しかもほとんどの(負傷者・変身している姿では食事に支障を来す者など)者が正体をあらわにしており、はたから見れば百鬼夜行の恐ろしさである。
だがよく見れば、外形の捕らわれない心を持つ人ならば、そんな彼等の様子がとても穏やかで、人ならぬ顔にも満足げな喜色が浮かんでいることが解るだろう。
そう、これは紛れもなく彼等の祝いの宴。何しろまっとうに世界で生きることを拒絶された存在である彼等が、その世の秩序と正義の象徴と呼ばれながら腐敗の極みに達していたHUMA、その最大の基地を襲撃し、圧倒的に少ない戦力にも関わらず完膚無きまでに粉砕してしまったのだから、喜びに湧かない方がどうかしていた。
「くはは!くはは!くはははははは!くぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁっ、くははっ!」
普段から感情表現が大仰な悪の博士など、もう笑いまくりである。パーティーが始まってからこの方、体をのけぞらせ大口あげて延々笑い続けている。
「勝った、勝ちましたよ!私達、勝ったんですよね!?」
対照的に同じ六天魔王の一人、lucarや博士の部下のイカンゴフなど、感動の余り泣いている者もいる。
「ふーむ・・・」
そんな中、影磁は一人考え込むような仕草をしていた。そこに彼の部下である鎧武人が、床をみしみしきしませながらやってくる。
「おうおう!祝勝会だってぇのに相変わらずしかつめらしい面ぁしやがって!どうしたってんだ、飲め、食え!」
全然上官に対する態度ではない鎧武人。どうやらもう酒を飲んでいるらしい。影磁の頭部をヘッドロック気味に抱え込んで引きずり回し、顔になすりつけるように料理を食わせようとする。
「だぁぁぁぁっ!やめんか馬鹿者!くそ、だれだこの酒乱に飲ませたのはっ!!」
暫くもてあそばれたすえ、ようやく影磁はそのきついコミニュケーションから解放された。と言うか、鎧武人が勝手に酒飲みによそに言ってしまったのである。
「まったく・・・」
様々なソースでマーブル模様になってしまった顔を必死で拭う影磁に、今度はシャドーが近づいてきた。切り離して飛ばすことの出来るナックルシザースを使って、遠くに老いてある皿の料理をとりながら。
「どうしました?影磁さん。」
ゴキブリの因子を持っているせいか、肉や魚の骨やデザートのメロンの皮まで食べてしまうシャドーの様子にやや呆れる影磁。とはいえそんなことを気にしていても困るので、話を先に進める。
「うむ。ふと思ったのだがな。確かに我々はHUMA撃破に成功した。だがその第二次目標であった敵基地並びに戦略兵器の奪取には、失敗したと言った方がよいのではないかな?」
「それは、まあ。だが二次目標だったわけだしな。」
「それどころか、今我々は本部基地も失った状態にある。そんなおりに・・・」
すこしおいて、影磁は周囲を見回した。その辺の廃ビルを占拠して飾り付けた会場。その一回から最上階まで全部に怪人・戦闘員達がひしめき、その彼等に十分行き渡るだけのごちそうが並んでいる。
「この料理代、どこから捻出するのだ?」
「言われてみれば・・・」
そう言いつつも、食うことはやめないシャドー。
「それにこの料理、海原雄山主催の美食倶楽部に並ぶ勢いで最近台頭している、「HINODE」のものだろう?あの味皇料理会きっての俊英、味良陽一の店。美食倶楽部と違い「どんな値段でもそれに見合う以上の美味」をモットーとしているとはいえ・・・」
彼が今食った料理には、高級な食材がかなり使用されている。この質で、この量となると・・・
「あ、それは問題ないマボよ。」
ぷみょん、ぽよん。
擬音ではなく実際にそんな音をさせながら、現れ出たる白身魚。
もはや改造人間なのか何なのかもよく分からない、変な生き物「まんぼう」。
「あが〜」
そのまんぼうが口を大きく開ける。と、その中から大量の紙幣や貴金属がどんどん出てきた。
「なっ!?これは・・・」
「いやー、あれだけご乱行してればHUMAの連中そうとうため込んでるとおもってまぼね、ちょっと探ってみたら案の定!まっとうな秘密結社を慰めるのに充分なお宝があったって寸法マボ。」
「な、なるほど・・・」
可愛い顔して以外と油断のないまんぼうに、目を白黒させる影磁。一方シャドーは代金の心配がないと知った途端、羽を開いてとっとと料理の山に突撃を賭けてしまった。
「基地に関しては、兄者に何かあてがあるみたいマボが・・・兄者〜?」
「くはははははは!くぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
まだ笑っていた。
どごっ!!
「兄者、いつまで笑っているまぼ」
「おう、基地だったな。」
問答無用で一撃かます弟、全然動じない兄。
なんかもう非常識兄弟なので、この二人が揃うと周囲の人間は大変疲れる。どっちもうるさいし。
「とりあえず、我が輩が世界征服を達成したときに我等の宮殿にするため、早手回しに浜名湖湖底「衝撃を与える者」本部基地跡に建造させておいた地下宮殿をぶっ!?」
げしっ!
「兄者っ!!また組織の金を勝手に!!」
「やかましい!結果オーライではないか!」
「そーゆー問題ではないまぼ!大体兄者はいつもいつも・・・!」
またも騒ぎ始める、騒がしい兄弟。
「ええい、少しだまっとれ!まだ話すことがある!」
「むぎゅる」
柔らかいまんぼうの顔を体にめり込ませるように押さえつけ、漸く博士は一息ついた。
「ともあれ影磁殿。我等の勝利により、世界は大規模な激動を・・・黄金の混沌依頼の新たな時代が始まろうとしている。現に今、我等の力を見た各組織・各次元世界の者共が次々と我等に同盟・共闘の申し込みをしてきておる。別にHUMAの戦略兵器を手に入れるまでもなく、我等の力は倍増するであろうぞ。くははははは!」
実に嬉しげに、八つの目を細め人間の頭くらい丸ごとほおばってかみ砕けそうな仮面の大口開けて笑う悪の博士。その様を見て、影磁は一つの推論を思いついた。
(ひょっとしたらこの男、はなからHUMA戦略兵器を手に入れる気など無かったのかも知れないな)
その可能性は大いにあった。あの時は追いつめられていたから誰も気にしなかったが、そんな物の全面使用に踏み切れば確かに敵は倒せても、地球環境に深刻な影響を与え、ひいては危険視されて同盟による戦力強化も望めなかっただろう。
で、あるならば。あの時戦略兵器奪取を叫んだのは、あくまで皆の心に希望という目標を与え、戦意を昂揚させるための善意の嘘、か。
(全く、食えない奴だ。)
とはいえ、そんな男が敵ではないというのは、悪くない。
静かに笑う影磁だが、その笑いは周囲に気取られることはなかった。
なぜなら、周囲はもっと大騒ぎ大笑いだったから。
「すおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜・・・。もぐもぐもぐ・・・・」
「ああああああっ!食い物テーブルごと吸い込むんじゃありません!星の@ービィですか貴方は!」
大幹部の威厳放り出して食いまくるまんぼうとシャドー。
「あれ、カーネルちゃんお酒飲まないの?」
未成年なのにビールの泡で口の周りを真っ白にしながら、フェンリルが首を傾げる。以前はずいぶんと深酒をすることが多かったカーネルだが、今日は宴会だというのに一滴も酒を口にしていない。
「ああ。子供が出来たし、何より今は酒など飲まなくてもそれ以上に幸せなのだ。」
にっこりと笑うカーネル。浴びるほど酒を飲み、泣き、痛めつけるように体を鍛え、いつも一人で死地に赴く、以前の荒んだ復讐鬼の面影はもうほとんど払拭されている。
つられて、フェンリルもにっこりと笑う。
「ふーん・・・このビールおいしいねぇ、本場ドイツから取り寄せてもらった甲斐があったよ。ほら、私ってその本場の出身じゃん?」
「・・・貴方がドイツから出国し博士の配下に加わったのは、確かまだ子供の時ではなかったか?」
「ぎく。」
実はそのとおりで、彼女自身単に浮かれているだけでお酒の味などよく分からない。それを的確に指摘されてしまい、フェンリルは冷や汗をかいた。
「って言うか、未成年なのに飲むなよ。」
傍らで大きなロブスターを食べていたJUNNKIが口を挟む。彼自身は確かに酒には手をつけず、もっぱら食うことに専念している。
「もー、ジュン君ったら。ボク達悪人だよ?法律に従ってどうするのさ。そりゃ確かにボクまだ未成年だけど、もう体は十分大人だし、キャパシティは自分で理解してるし、カーさんより年上だし・・・
「何!?」
最後の一言を聞きとがめ眼をむくJUNNKI。犬耳童顔天真爛漫のフェンリルと、確かに小柄だけれど大人びたクールな容貌で、それに子持ちのカーネルさんを見比べて、フェンリルのほうが年上とはどうしても見えなかったのだ。
どうでもいいが、フェンリル。マシーネンカーネルをカーさん呼ぶな。母さんみたいでは・・・といってももう本当に「母さん」なのだが。
「本当だよ。カーさんが17でボクが18、イカさんが24で蛇姫姐が29くらい。」
「・・・マジかよ・・・」
その一方、飲み食いに飽きた連中が遊びを始めている。カラオケやら何やらの機材が持ち込まれ、隠し芸大会なども開かれ始めていた。
「では一番。風見志郎。手袋をつけたままギターを弾くぜ」
じゃん、じゃん、じゃんじゃかじゃっじゃ、じゃん、じゃん、じゃんじゃかじゃっじゃ、じゃんじゃんじゃんじゃじゃじゃじゃんっ、じゃんじゃじゃ・・・
確かに、手袋をはめたままの手なのに器用にギターを引きこなしている。曲になっているし音ずれもしていない。相変わらず彼の得意曲「二人の地平線」の・・・
「って、ちょっと待てぇい!!」
思わず普段の冷静さをかなぐり捨てて影磁が叫ぶ。
「どうした?」
「何故貴様等までここにいるっ!?」
「いちゃまずかったかい?」
ちゅーちゅーと機械油を吸いながら、ドリル頭のロボットが笑う。
「小さい事だろ、気にするなって。」
むしゃむしゃと柔らかく焼けたスペアリブをかじりながら、エメラルド色の髪の少女が機嫌良く笑った。
「気にならんことがあるかっ!!」
それに対して怒鳴る影磁は一見大人げないようにみえるが、事態が事態である。
このバリスタス、悪の秘密結社の宴会会場に。気が付かない内にヒーロー連中が混じり込んでいたのだ。仮面ライダー達、アルフェリッツ姉妹とロア・マークハンター滝、宇宙刑事やロムやドリルやレイナ達クロノス族も一緒である。
「何時から紛れ込んでたんですか!」
「え〜。HUMA基地を陥落させた跡、爆発から脱出したときからずっと一緒だったけど?」
何で気付かなかったんだ。
「まぁよいではないか、今夜は無礼講だ。」
と、後ろから幾分酔っぱらった声が影磁にかけられた。振り向くと、声の正体は悪の博士だった。三貴子の蛇姫と、呑気に小さな切り子硝子の杯で日本酒を酌み交わしている。
「無礼講と言われてもな・・・」
「きゃつ等とて祝いの席を血で汚すほどに無粋ではあるまいて。なぁ?」
「まぁな。今日は飲みに来た、それだけだ。」
ひょいと杯を向けながら、その実彼独特の挑発によって人を試すような独特の口調と目つきをする悪の博士。はなから別にそんな気はなかったらしく、風見は軽く肩をすくめた。
「それにしても・・・」
気を取り直すと同時に、影磁はふときがついたようにくびをかしげた。
「仮面ラーイダV3、うん!?」
いいかけて唐突に、影磁は口を押さえた。そしてもう一度、発音を試してみる。
「仮面ラーイダ、ラーイダ・・・。どうやら、顎部外骨格の構造に問題があるようですね。うまく発音できません。」
それも、偶然にも彼が己の体を作るとき参考にした改造人間「カニレーザー」である、「破壊者」幹部医学博士Gの口癖と同じだ。
「ぷっはは、そりゃ本当か。面白いじゃないか・・・」
昔を思い出したのか、くつくつと端正な顔をほころばせる風見。
「まあいいです。仮面ラーイダV3、こうしてみると、今回来た仮面ラーイダは三人だけのようですが、他の面々はどうしたのです?」
確かにそうだった。仮面ライダーといえば何か大きな事件が有れば昔はあっという間に全員集合したものだが、今ココにいるのは目の前の風見と、隠し芸大会でライドルの演舞をしているXと、少ない生身の部分にあっと言う間に酒が回ったのか、長身を床に横たえぐっすり寝入っているZXだけである。
「そうだぜ。本郷や一文字の奴はどうしたんだ?」
と、彼等ライダーの友人である滝も割り込んできた。
「ん、まぁ、色々あってな。本郷の奴は警視総監をやってる。それは知っているだろうが、あいつももう年だからな。改造人間として変身するのは、大分苦しいらしい。アマゾンの奴は南米で「最後の大隊」や「蝉の王」という組織と戦っている。結城の奴はタヒチで奥さん子供に囲まれて病気療養中、沖の奴は宇宙開発に出かけたきり帰ってこないし、一文字と筑波と茂にいたっては行方不明で連絡つかねぇ。まったく、寂しいもんさ」
「・・・そうかよ・・・」
重苦しい滝の返事で、やや場が暗くなってしまった。
と、それを吹っ飛ばすように博士がにんまり笑う。
「そうか、どうも有り難う。これからの世界征服に大変参考になった。」
その言葉に、思わず風見がはっとなる。本来そう言う情報を聞き出すつもりもあったのに、逆に相手に先を越されてしまった。
「あっ・・!てめ!」
「くぁーっはっ!聞ーちゃったぁ聞いちゃったぁ!!」
「こらてめぇ忘れろ!忘れやがれこんちくしょー!」
「くははははは!悔しかったら忘れさせてみい!」
どたばた走り回る風見と悪の博士。思わず、周囲にも笑いがこぼれた。
ともあれ、祭りの夜は更けていく・・・