秘密結社バリスタス第一部
外伝「血のバレンタインの惨劇」

注意・当エピソードは劇中の時間軸と関係のない、ストーリーの中には入らない外伝です。
これはいつの出来事なのか、とか詮索しないように。
バレンタインデー時事ネタ話。劇中、時事ネタはなかなか取り込めないので。

「きっ、緊急事態・・・まぼぉ〜〜〜〜!」
どて。ころころころ。
大慌てで走ってきたぬいぐるみ・・・もとい秘密結社バリスタス第三天魔王まんぼうが、敷居で蹴っ躓いて走り込んできた勢いのまま床を鞠のように転がる。
場所は第六天魔王悪の博士の研究室・・・という事だが、研究室らしい雰囲気は余りない。確かに雑然と書籍が積み上げられてはいるが、それと机くらいしか設備はない。基本的に博士はほとんど全てのことを自分の頭の中だけでやってしまい、結果だけ後でアウトプットするからだ。
といえば聞こえはいいのだが、その思索に耽る間の博士の姿は何やらぶつぶつと呟きつつ当たりをうろうろと歩き回るという気色の悪いもの。恐ろしげな仮面に派手な服装も相まって実に怪しげだ。
「くく・・・あ、失礼。一体どうしたというのです?まんぼうさん。」
そんな悪の博士の様子を微塵も気にすることがないらしく、一緒に何やら話をしていた影磁が振り返る。ユーモラスなまんぼうの仕草に、陰気な形相に珍しくも笑いが浮かんでいる。
「ま、まぼ・・・カーネルさんが、カーネルさんが・・・」
「彼女が、何か?」
「厨房に入っているマボッ!!」

!!!!
一瞬で絶対零度に凍り付く影磁。戦術指揮官マシーネン・カーネルの料理の殺人的下手さ加減は彼も身をもって知るところであり、それは既に組織内に置いて伝説と化している。
曰く、「究極の兵器」
曰く、「前アジト壊滅の真の原因」
曰く、「神殺しの味」
それら数々のキャッチフレーズが脳内を駆けめぐる。
「ををををををっ・・・・」
普段のクールさ加減は何処へやら、失血死寸前の人間のように顔色が悪くなる。
この事実の前には彼女の義父であるところの悪の博士もやはり動転するかと思われたが。
「あぁ。バレンタインデーとかいうことで、手作りチョコに挑戦しているとのことだ。まぁあやつら夫婦、ごたごたが多すぎてなかなか結婚前恋人らしいこともできなかったからな。それで改めて・・・」
「兄者兄者それどころではむぎゅ」
一人で納得している博士に、胸鰭フリフリまんぼうが詰め寄る。
が、当の博士は極めて落ち着いた顔で、まんぼうのふかふかした顔を手で押した。ぬいぐるみそのまんまのまんぼうの顔はめり込んで口が見えなくなり、同時に越えも聞こえなくなる。
「安心しろ。こんな事も有ろうかと、既に対策はとってある。厨房の使用許可を申請されたときにフェンリルにレシピを持たせ、カーネルめに同行させたのだ。」
「フェンリルさんを?それは、かえって逆効果というものでは無いでしょうか。それにカーネルさんの料理下手はレシピ程度でどうこうなるものでは・・・」
ある意味し語句もっともな質問をする影磁。なにしろ料理上手で専門家のイカンゴフさんが付き添っていても爆発事故を起こしたカーネルである。
「問題ない。ああ見えてフェンリルは一人暮らし長かったせいで自炊出来るし、加えてチョコとかの本場ドイツ出身。そして何よりあのレシピはただのレシピとは訳が違う」
と、博士の長広舌に聞き入る影磁。だが、内心(えっ!?フェンリルさんってドイツ人だったのか!?)と驚いていたりする。一般的なドイツ人イメージとはほど遠いし、日本語ぺらぺらだし。
「見るがいいこのレシピ。ミリグラム単位で分量をしるし、秒単位で混ぜる時間・加熱する時間などを指定した、その名を時限爆弾組立仕様!「新たなる衝撃を与える者」での教練で身の回りのもので爆発物を作る術に長けた我が娘にはまさにぴったり」
「まぼぉ、なるほど。所でひょっとしたらカーネルさんの料理が毒だったり爆薬だったりする理由って、その教育のせいかも知れないマボ。無意識のうちに爆弾や毒薬の製法を混同してしまうとか。だとするなら逆に初めからそう思わせる作り方なら、今作っている気になって混同はしないはずマボね。」
ぐっと胸を張る悪の博士と、納得するまんぼう、だが。
影磁は。
「・・・博士。では何故そのレシピが「ここに」あるのですか?」
「あ」
冷徹な突っ込みを入れる。
ぽかんと大きく口を開けた博士、仮面のデザインがいかめしいだけかえって阿呆に見える。
「どうやら代わりに別のレシピを渡してしまったようだな。多分ここにおいてあった、ええと・・・」
と言いながら、博士は既に窓を開け、マントを大きくはためかせて翼に変形させている。
「待つまぼぉっ!」
がしっ!
しがみつくまんぼう。
「えぇい離せまんぼう!」
「兄者一体何のレシピだったまぼぉぉっ!?」
「・・・後光院=アリスン=メルセデス=ローズマリー=フォン=ランコ著「恋のレシピ」」
「うおあああああああああまぼぉぉぉっ!?!?!?」

そのころ、厨房。
自動車が入りそうなほど大きな鍋の前で、カーネルが何やら調理らしきことをしている。
「ふむ、ミイラの粉末と荒塩、ミミズとサフランは入れたな。後は・・・」
今までさんざん料理で失敗をしてきたが、今度こそうまくいく。何しろ、博士からいただいたレシピ通りにやっているのだから。
そう固く信じるカーネルは、既に臭いに敏感なフェンリルが悪臭で昏倒しているのに気付いてもいない。まっすぐな目でレシピを見ていた。
博士が以前旅した異世界で入手した、おせち料理で次元歪曲を起こし大陸の四分の三を吹き飛ばした女の書いたレシピを。
「ここで巫女さんの格好に烏帽子を被り歌う、か。愛、それははかなく〜、愛、それは激しく〜・・・これでよし。これでチョコ魔獣が出てくるから」

キシャーッ!!

チョコの表面から鋭い目と牙の生えた口を持つ化け物の顔が浮かび上がり咆吼するのを、カーネルは満足げに眺めた。
「蓋をする・・・と!」
ごっす!
改造人間の怪力に任せて厚さがメートル単位の蓋が怪物にぶつけられ、押しつぶすように閉じられる。
「そして、仕上げの呪文は・・・」

そのころの研究室。
「わーっ!!」
「は、離せぇぇぇっ!!」
「地獄には一緒にいくまぼ〜〜〜〜っ!!」

「パルプン」
「お待ちを、フロイライン・カーネル。」
ギャリソン・矢木の活躍?により、事は何とか事前にくい止められたのだが。
この件でまたもカーネルさんは自分の生活能力のなさに絶望しかけるは、六天魔王のうち三人までもが逃亡してしまい基地ががら空きになるわと、さんざんなバレンタインとあいなったのである。

ちなみに、そのころのイカンゴフさん。
「よーし、出来たっ。」
沢山作ったチョコの大きさは、全部同じ。
今年も某蜘蛛氏は、苦労しそうである。

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