13.日本・対タロン決戦

「久しぶりだが。・・・随分と変わったな。だが、変わってない部分もある。」
「それは、割りとお互い様だな。それがいいほうか、悪いほうかは兎も角。」
交差するように向かい合って、村正宗とJUNNKIは短く言葉を交わした。
何れも、強さを増した。だが、JUNNKIの強さは、その様相の変化もあいまって、少し痛々しい強さに見えた。
しかし。
「いいことも、悪いことも山ほどあったさ。けれど、悪いことだって、堪えられるさ。」
「堪えねばならない理由があり、支えてくれる人がいる。堪えられないわけがないな。」
そんなJUNNKIを支えるように傍らに立つ名雪に、安心したように村正宗は頷いた。

・・・本隊の再始動に合わせて継戦から決戦へとその行動を変えた学園特武隊と、生存の為に打って出る事に決めた栄光学院隊。
戦場をほぼ等しくする彼らは、必然的に接触した。
村正宗が率いる事になった栄光学園軍は、基本的にかつて学園特武隊と戦った栄光学院の戦力そのままである。
対して、JUNNKI率いる学園特武隊は、それぞれの因縁ゆえに旅立たざるを得なかった天上ウテナ、葉隠覚悟、そして学園とその近郊を防衛する為に残った一部戦力を除いての、何とか共闘関係を継続してくれた鷹羽高校の戦力と学園特武隊そのものの合成、という形となるため、若干かつてより兵数を減じている。
だが、それでも。お互い、連戦を重ね切磋琢磨した、この戦争末期における最精鋭戦力であることに変わりはない。
それでも、それぞれが目的とする相手はどちらもあまりにも強大である。
栄光学院が狙うのは、彼女ら栄光学院の犠牲の上に得たデータをもって最終計画を為さんとするタロンの主力である。利益狙いの結社であったタロンを新人類掌握の鉤爪として再掌握した鳴海清隆とサグの陰謀は、かつて様々な事件が起こった事から新人類発生誘発の頻度が高く、その密度の大きいこの日本にて行われんとしていた。
かつては数ばかり多く質に劣るとされていたタロンの戦力は、栄光学園のデータを生血を啜るが如く貪った強化で、既に仮面ライダーアギト以上のレベルのアギト級能力者にまで幹部を覚醒せしめそれに準じるレベルまで一般戦力を底上げしている。
そして、学園特武隊が狙うのは、HA残党とロードを率い、北米支部を犠牲として防いだ天界との門の接続を再度行わんとするアスカ蘭率いる上位次元戦力である。HAが残党レベルにまで戦力を減じたとはいえ、ロードの戦闘能力は健在。また、アスカ蘭自身、エルロードにすら勝る存在だ。
どちらにしても、それぞれの勢力に対してそれぞれの敵は、流石に手に余る、といえるだろう。

「沖縄に向かった影磁天魔王と三貴子たちが、戻る。」
手短にまずJUNNKIがバリスタス側の現状を告げた。
「俺達としては、短時間ではあるが、折原軍とバリスタスの間に入る。巧く呑ませる必要がある。」
それに対し、村正宗も告げる。
栄光学園はタロンを離れ、栄光学園は折原軍に協力する。
と同時に、バリスタスとも不言ながら共闘する。
うまくやれば、北米で激突した両軍が、この事態にあってもある程度の共闘が可能となる、というわけだ。
「俺達は、サグと清隆の・・・タロンの首を取りに行く。奴らはクーデターでタロンの上層部を抹消して組織を掌握している。裏を返せば、残っているタロンの支配者層はあの二人だけ。連中の首を切れば、タロンはそれで瓦解する。残党は残るだろうが、そいつらをしらみつぶしにするのは戦後でいいだろう。」
そう言って、村正宗はJUNNKIに謝った。
「簡単な方を取って、難敵をそちらに任せてしまう。影磁天魔王が参戦するとはいえ、辛いだろう。」
「いや。願ったりかなったり、さ。」
それに対し、JUNNKIは戦意で応じた。
「清隆の力に、今のお前なら対抗できるだろうし。こっちとしても、アスカ蘭は殴ってやらないと気がすまねえ。それに、美樹の奴が、ハンターJと連絡を取ってな。・・・彼女も、アスカ蘭に抗う腹積りらしい。」
「ハンターJ・・・不動ジュンが?」
彼女と美樹とバリスタスの少々込み入った因縁が存在する。だが。
「お前の疑問もわかるさ。あのアスカ蘭相手に、戦力になるのか、ってことだろ?・・・それに関してはまあ、心配すんな。」
僅かに首をかしげる村正宗に対し、JUNNKIはそう答えた。
「俺達が、流石に感知できないところでも、因縁や成長が山ほど渦巻いてんだ。・・・あっちも大変だったみたいだぜ。」
「ああ。」
その言葉を、補足するように肯定したのは、カーネルだ。
夫持ち子持ちで死ぬわけにいかない上に、義父たる第六天を失った彼女は、ある意味この戦乱で、バリスタスの中で最も苦労をしたといえる存在であるが。
「私は、そのうちの一部をこの目で見た。懐かしき仇、スカイライダーも。古き同胞、ラビットジン も。この戦いの中を生きている。それとはまた別の労苦と成長も、ハンターJたちの元にあったのだろう。」
それは、また別の物語であり、語られるものもあれば語られぬものもあるであろう。
「・・・」
その言葉に、村正宗は眼前の学園特武隊の、数多の傷の対価に精鋭の力を得た軍勢を見た。
そして、顧みて栄光学園の面々を見た。
彼女たちの強さと、その陰に流された涙を思った。
「ならば、その労苦で得た強さで、笑顔を作らなきゃあな。」
「ああ。」
そして、二人とそのそれぞれの軍勢はすれ違った。それぞれの戦場へ向かうために。

迫りくるは、無数のアギト。だが、彼らは、仮面ライダーとなったアギトとは違う。
肉体ばかりの新人類。神の種族の如き力を持ちながら、強制的に力を覚醒させられてタロンの洗脳に操られる傀儡と、新人類の力だけを得た、旧来のままの貪欲なタロンの兵士たちだ。
「おらぁ、御礼参りに来たぞぉ!こないだボコられた借りを返しに来たぜぇ!」
だが、それに対し、彼らとの交戦経験のある本田愛を筆頭に、栄光学園軍は恐れなく突貫した。
「ハイパーボリア、ゼロドライブ」
「空気爆弾!」
後に続く者達もまた、その異能を全力でふるう。だが、それらは、アギトどころか、タランテラやゴルゴーンにも模倣され搭載されたもの程度でしかないのではないか。
なのに。
だが、しかし。
「これは・・・何たる様だ!?」
自らもアギトの姿に変じたサグが、理解不能、と仰天の叫びをあげる。
一体一体が仮面ライダーに匹敵する能力を持っている筈のアギトたちが。
一方的に押し負け、蹴散らされているではないか。
彼女ら栄光学園軍が、折原軍とバリスタスの間を巧妙に縫うように攻撃を仕掛け、かなりの兵力をタロンとしては折原軍とバリスタスへの備えとして展開せざるを得なくなっているのだ。
それでも、減ったとはいえ数的劣位となっているわけではない。未だアギトたちの数のほうが多いのだ。それに加え、タランテラもゴルゴーンもいる。であるのに、この一方的な差は。
「簡単なことだ。単なる、練度の差だよ。」
「一文字、紫暮。」
車椅子から、よろりと立ち上がる色白痩身の少女を、サグは見た。
「お前たちが、私たちをこき使い、のうのうとふんぞり返ってデータを得ている間、私たちはずっと戦い続けていた。そんなお前たちが今さら力を得たところで・・・F1マシンに一般人を乗せても、事故を起こすだけのことだ。それよりはましであっても、以前の敗北のような消耗しきった状況ではなく、体勢を立て直した状態であれば。急拵えの付け焼刃で討てる程、私の。仲間たちは弱くない。」
「いち、もんじっ・・・!?」
その、赤い瞳を見て。サグは一瞬怯んだ。かつて、陥れ、ライダーキラーへと改造した、仮面ライダー二号、一文字隼人。彼女の、父。伝説の英雄。
それが、全盛期の姿を取って目の前に現れたが如き感覚を覚えたのだ。
目の前にいるのは、病み衰えた一人の少女でしかないにも関わらず、気力だけでそれほどの迫力を。
「それが、どうした!アギトは最早いくらでも増やせる!増やした全てを、我らは従える事が出来る!」
そんな己の怯みを吹き飛ばすようにサグは怒号し、豪語した。
「貴様らが仮に一人で100のアギトを倒しても、此方はその数倍のアギトをかき集める。貴様らに勝利は無い!」
それは、ハッタリではない。今ここにある戦力は、確かにバリスタスと折原軍への備えで減少しているが。両軍のかなりの部分が、古代怪人軍との交戦で拘束されている事は把握していた。故に、最低限度の戦力を残して戦力を引き抜けば、この程度の一時的優位など、僅かの時間で覆す事が出来るのだと。
「呼んで来る迄に、お前たちが生きていればな。」
それに対して、紫暮はそう切って捨てた。
「今の御影村正宗は。私たちとの日々が己の刃を研ぎ澄ましたと言ってくれた。今の村正宗ならば、清隆にその刃を届かせる。そして、お前は、私が倒す。アギト共はやってくる前に、司令官二人を失い、四分五裂だ。」
「最早満足に動かぬその病身で、この俺を殺すだと?今や、お前は満足に霊子気力を纏い身体能力を強化する事もままならぬ。変身した肉体や超能力バリアの内側を直接攻撃する俺のバリアクラッカーを使うまでもない。捻って終わりだ!」
「いかにも、今の私は最早まともに体が動かぬ。指揮権も委ねねばならぬほどの身だ。だが、後一撃くらいは出来る。その程度の女相手だ。そう言うなら、やってみればいい。私も、やってみたい事がある。弟に、一手指南を受けたのでな。」
サグが、仕掛けた。
空間を無視して直接作動する念力と、アギトのパイロキネシスを双方同時制御した爆撃。
タロン最大のエスパー幹部としての彼の能力は、アギトの超能力的側面を十全に引き出す。その力は、仮面ライダーアギトのバーニングフォームをすら上回るだろう。
だが。
心伴わぬ力に、何ほどの意味があろうか。
そして、心伴う力が、どれほどの耐久力を齎すか。
紫暮は、教わっていたのだ。
双拳が握られる。
片拳を立て、片拳を肘に沿える。最早全身に纏うことのできぬ、衰えた気力が、拳に握りしめられる事で金剛石の如き圧縮された輝きとなった。
仮面ライダー二号の構え、ライダーファイト。握りこまれ圧縮される霊子がブラックホールの如く、周囲の霊気を砕き引き留める。
サグの放った超念炎が、霊力の螺旋に砕かれ、紫暮によって掌握される。すなわちここにおいて、アギトの殻を纏ったサグに、サグの超能力と紫暮の技が、合わせて変える事になる。
アギトの仮面の下で、サグの顔が驚愕に引きつり。

「ライダー・・・パンチ!!!」

突き出された紫暮の拳が、砕いた霊子を砲として打ち返し。
サグ・アギトは、粉みじんに砕け散った。

「・・・父様。」
やりましたよ、と、天を仰いで紫暮はつぶやいて。
が、っしゃ!
直後、力尽きたように車椅子に崩れ落ちた。
「紫暮様!」
「大丈夫だ、大丈夫・・・ただ、流石に今はもうこれ以上は無理だ。ここから先は、お前たちに護衛の手間を取らせる事になる・・」
車いすを支えるゆまに、そう答え、口元に湧き出た血をぬぐう。己の力で傷ついて尚、だが、その表情には、生きんとする意思の色。
「何をおっしゃいますか、本来指揮権を預けたっていうんならおとなしくしてるものですよ、もう!」
「・・・少しばかりはな、意地を張りたかったのだよ」
手間を取らせるなんて何言ってるんですかと憤慨するゆまに、紫暮は薄く笑い。
そして、更に先の戦場を、遥かに見た。
今度こそ、後を頼んだぞ、村正宗、と。


「ありがとうございます。手間が、省けましたよ。」
一刀を引っ提げ、己の前に歩み出た村正宗を見て、尚余裕の表情で鳴海清隆は呟いた。
「頂点が二人いては、指揮が混乱しますからね。僕の頭脳も、いちいちと彼の同意を待っていては速度を活かせない。紫暮さんは、本当に最後まで役に立ってくれますね。」
眼前の村正宗等、見ていない、という風に。
その態度は、傲慢でも驕りでもない。必然だ。目の前の現実など、鳴海清隆にとっては、己が異能「洗脳探偵」で、いつでもいくらでも改竄できる事柄に過ぎない。
事実、それにより、以前村正宗を一方的に打倒している。
だが。
「黙れ。そして見ろ。」
それは、これまでのことだ。
これからの事ではないと、村正宗は宣言した。
その手には、刀。
「見ましたよ。」
その言葉に、鳴海清隆は改めて彼を見た。
「そして、宣言します。それで終わりです。」
そして洗脳探偵の力を使いにかかる。現実改竄。村正宗の模写として何人か造られた実験体のそれを更に上回る力。
しかし!
「否!」
瞬間、閃光。
村正宗の姿が変じた。
チャクラの宝玉を宿す、心の力が織りなす鎧に。GS装甲。亡き第六天の心理外骨格と同種の力だ。
「お 前 を 滅 び だ !」
斬!!!!!!!!!!!
清隆が叫び。
村正宗が刀を振るった。
はたからみれば、それだけだ。
だが、それは、驚愕の事態だ。「洗脳探偵」が、発動しなかった。
否。
「斬られた・・・!?」
「そういうことだ。」
あらゆるものを断つ霊光刀の力で。
発動した洗脳探偵を「斬った」のだ。
それは以前ではできなかったこと。「無限に成長する」という、GS装甲の力。
村正宗の、心の力だ。
「今の俺は・・・神をも断つ刀だ!」
「っ・・・!」
それでも、鳴海清隆は、まだ、彼我の力が逆転したとは思っていなかった。
村正宗に向けて力を発動すれば、それを切り落とされるのだとしても、己に向けて力を使うのであれば。
この力は、他者の無力化だけではなく自己の絶対化、無敵化にも用いる事が出来る。村正宗本体以上の身体能力を得て、その刀をかわして攻撃を打ち込めば。

金属音が響いた。

「・・・何をした・・・?」
村正宗が、刀を振るい、そしておさめたのだ。だが、鳴海清隆を斬ったのではない。その間合いには無い。
だが、清隆の表情は、恐怖に引きつっていた。
村正宗は思った。今、此方が「斬った」事に気づいたのは、流石の思考力だ、と。
だが、何の意味やあらん。
心の善良ならざる知恵は、ただの邪知というものだ。
故、消え去るべし。慈悲は無い。
鳴海清隆は、生まれて初めて、恐怖し、混乱し、絶望していた。

「一体何をしたぁ!?」
突然、30秒後より先のことを、予測したり考える事が出来なくなった。
これは、何が、一体。

「未来斬。」
村正宗は宣告した。
「お前の未来を斬った。先の斬撃より30秒後以降の未来を切り捨てた。あと10秒。それより先のお前は存在せず、消滅する。」
「そんな・・・!?そんな、馬鹿な!?」
それは、正に神をも斬りうる力。
未来の否定、存続の、存在を絶対的に否定する刃だ。
「やめてくれ、何でもする・・・」
「もう、遅い。」
驚愕でもつれた舌で命乞いをしようとした状態のまま、鳴海清隆は消滅した。

「・・・」
しばし、柄を握り、手の震えを抑える。
これから先。御影村正宗は、これほどまでの強大な力を、制御していかなければならないのだ。
無論、これほどの斬撃を常に放てるわけではない。心の力であるGS装甲が、今回は、度重なる蹂躙に、圧倒的な冒涜に、最大限度を超える程の抗う力を発揮させてくれていた。だから、出来たことだ。
だが。世界をも斬りかねぬ刃の、使い方を誤らぬよう、常に覚悟していかねばならないことに変わりはない。
「やって、やるさ。」
だが、それは出来る、と。村正宗は誓った。
「さあ。戦いを終わらせて。・・・これからのことを、話に行こうか。」
今をともにある者達とも。
かつてともにあり、これから再開する者達とも。
終わらせる刀を封じる者として、終わらないこれからの未来を、良きものとしていかねば、と。
誓う、村正宗であった。


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