第十七の断片「仕る!」

「戦況は、どうなっておる。シャドームーンはまだブラックサンにとどめをさせぬのか…?」
「もう、まもなくの筈に御座います。何卒ご容赦を、お平らに、創世王陛下…」
日本某所大深度地下。ゴルゴム本部。異形の心臓を思わせる姿をしたゴルゴムの長、創世王が唸るようにじれた思念波の声を上げ、大怪人ビシュヌが平伏してそれを宥める。ゴルゴムの悲願にして最終作戦、シャドームーンのブラックサン=仮面ライダーブラック抹殺による新創世王の誕生。それさえ成せばゴルゴムの世界支配は成るがこれにしくじればゴルゴムは滅ぶという正に乾坤一擲の大一番。さしもの創世王も、じれるのも無理はない。
しかもその作戦が、しかとブラックを打ち倒したにも関わらず未だトドメを刺しきれず、正義側の、もう残党と言っても差し支えないHUMAの生き残り達に保護されブラックが運び回されているのだ。
よりにもよってこの、HAと上位次元勢力が大攻勢をかけてきているタイミングで。ゴルゴムにとって幸いな事にその攻勢はバリスタス相手に集中しているもののそれでもゴルゴムと上位次元が不倶戴天であることに変わりはなく、ましてHUMA残党とそれと共闘するのえる派日本勢力とHAも敵対関係にあるのだ。
既に上位次元との交戦で相当量の戦力を消耗している。シャドームーンはエルロード級一体までなら遭遇しても失われはすまいが、現状では殺戮を求め暴れまわるグロンギ王ダグバと比べまだ劣る以上不測の事態も危惧される上、万が一にも瀕死のブラックをシャドームーン以外の者に殺されては儀式が破綻する。事実上位次元との交戦による兵力損耗の殆どが逃げ回るHUMA残党を巡っての奪い合いであり、ある意味ゴルゴムと上位次元・HAとの対立が皮肉にもHUMA残党を守っているとさえ言えた。
(とはいえ創世王様の苛立ちも分かる…)
上位次元来襲による霊的状況の乱れで未来視の能力を阻害されているビシュヌも焦燥で身も千切れんばかりである。
「前線のダロム、バラオム両名と連絡を試みます、暫しお待ちを。」
「急ぐがよい」
ゴルゴムにとって苛立つ時間が流れていく。

「うぬ…!邪魔立てするか、貴様等!」
利用された格好となった仮面ライダースーパー1を間に挟むような勢力状況のハカイダーを含むロウレス・Q連合軍とHOLY・人造人間部隊・上位次元連合軍の激突という状況に熾烈な戦乱吹き荒れるロストグラウンド、その二者の戦闘とは少しく離れての滅人同盟ロストグラウンド支部、不退転戦鬼軍団本拠、ガラン城。
軍団の長にして滅人同盟三大幹部の一人・葉隠散は、強化外骨格・霞の中の形相を怒りに歪め叫んだ。
互いに愛憎恩讐因縁渦巻く、このガラン城に遂に乗り込んできた弟・覚悟との決着の戦い。それにロード共によって無粋な横槍を入れられたのだ、無理もない。
「螺旋!」
「因果!」
襲い掛かるロードを、散は螺旋で、覚悟は因果で迎撃する。大地の力を纏う螺旋はさしものロードの防御力も内部から爆砕し、カウンターである因果はロードの攻撃力をそのままロードに返すことでその肉体を破壊する。
「覚悟、拙いぞ!敵ロードの用いる神聖霊子は、我等霊体の天敵。強制的に昇天させられてしまう、一発も食らうわけにゆかぬ!」
「それは向こう(散)も同じこと。しかも、どうやら其れだけでは無いようだぞ…」
強化外骨格に憑依しそれを制御・装着者を支援する三千の英霊の警報に冷静に答える覚悟。その視線の先には大老・知則の報告念話を受ける散の姿。
「何だと、ネオグラードが!?」
「はっ、このままでは保たぬやもしれぬ、と…!」
滅人同盟本部、南極のネオグラード。そこにもロード達が攻撃を仕掛けて来ており、更に戦況は滅人同盟不利、とのことに、さしも豪胆な散もこれは拙いと認識せざるを得ない。
ブレイン党とゾーンダイク軍が本拠をおくネオグラードはブレインロボとゾーンダイク艦隊によって守護され、巨大兵器の類による攻撃に対しては鉄壁の防御力を誇っているが、人間大の相手に内部に入られた場合の防御はゾーンダイク軍の遺伝子改造生物とオーストラリアで壊滅したスーパーサイエンスネットワークの残党くらいで、かなり脆い。だが本来なら南極という過酷な環境が特殊な少数勢力による潜入以外は艦船や大型輸送機などでしか接近を許さず、寒冷地対応をした少数特殊部隊であればネオグラード内部の逆に温暖な環境と内部戦力で阻むことが出来、輸送機や軍艦はゾーンダイク艦隊やブレインロボの餌食だ。それ故に通常の相手にはこの防御体制で問題無かったのだ。だが、自在に空間転移して上位次元から直接現れるロード相手では…!
「知則!今すぐGガランに戦術鬼部隊を積載、救援に向かえ!」
即座に指示を下す散。仏像型巨大ロボであるGガランは莫大な輸送力を持ち、そこに戦術鬼を積んで行けば救援の一手となりうる。だが。
「しかし散様、御身とこのガラン城は!?」
それは事実上総出撃であり、散が尚も此処に退かず残るのであれば、おいて行くことになってしまうということだ。
「私は残る!退かぬ!覚悟からも、ロード共からもな!これしきの事にそれ以上は不要よ!」
「は、ははぁっ!」
彼らの長の言葉に、散の絶人の技前とそれに対する自信を知る知則は即座に従う事を選んだ。城が鳴動し、Gガランの出撃体制に入る。
(不思議なものだ…)
対して実際の散の心中は今少し複雑だ。確かに、勝ち残ってみせると考えていた。だがそこにおける戦力計算において、散は自分だけを頼みとした訳ではなかった。
(不倶戴天のはずのお前を頼るとはな、覚悟)
弟もまた、今はロード共と戦うものと、自分でも不思議に思いながら散は確信していた。
(不思議だ。)
そして奇しくも、不思議の思いは覚悟も同じ。
(決して許せぬ悪鬼と。命を捨ててでも討つと誓ってきたのだが)
今こうして再び兄弟二人で地上の敵と戦う事に、こみ上げてくるこの奇妙な喜びは何だろう。
「…ハァァッ!」
「仕る!」
微妙な変化を共にしながら、二人は今はともにロード共に立ち向かう。


同時刻、電脳上仮想空間、秘密結社タロン最高幹部会議。
「…資源と生産の確保は以上の通りだ。…」
「…収入は兵器物質の類の影響で増加、だが戦闘による損害が保険を越えて尚収入に倍して大、か…」
「…株式市場の混乱を加えればそれどころではない。既に国が数カ国潰れるレベルの損害が…」
「…しかも皮肉にも此方を守るための戦力が、逆に古代怪人どもやロード共を引き寄せていると言うではないか、こうなればいっそ…」
「…だがこれ以上の戦力の消費はそれこそ危険だ。この戦いが終わった後、バリスタスもその同盟組織も残るまい。古代怪人共も上位次元に滅ぼされるだろう。生き残るのは我々だ。だがその後の上位次元をどうする…」
「…我々の目的は世界の掌握であって君臨ではない。天使どもが君臨したいのであればさせてやって、実利を取ればよかろう…」
「…あの原理主義者共にそんな妥協が出来るのか?…」
「…上位次元はアメリカと結んだ。アメリカは我々と同じ人間の価値観だ。そこから金と利でいくらでも崩せよう…」

普通の秘密結社であれば、個性ある幹部が組織の理念でもって語るところであろう。だがここタロンでは、財界の大物という表の顔を隠した匿名で、会社のような金と利が語られるばかり。ハウンド部隊に語った理想など無い、この澱みがタロンの中心であった。
「…問題はこの場には呼ばなんだサグと鳴海清隆よ。きゃつらは明らかに個人的欲望を優先して暴走しておる…」
「…だが組織の武力を事実上取り仕切るは奴らだ。将来的にある程度切り捨てるとしても、現段階では交渉のためにもまだ奴らは入り用。どうする…」
味方を切り捨てるおぞましい算段、いや、彼らに味方など無くそも利用しあうだけの関係が交錯しもつれ合ってタロンという巨大な一塊を成しているだけというべきか。
「…頃合いを見て切り捨てるよりあるまい。問題はその日時だが…」
そして、彼等の意見がそう固まりかけた、その時。
「これは、皆さん。本日最高幹部会議があると言う通知は此方には来ていませんでしたが、どのような議題で?」
「な、鳴海清隆?!」
不意にそこに、話題の対象である鳴海清隆本人がログインしてきたのだ。一瞬場がざわつきかける。だがそこは老獪な最高幹部達、それを何食わぬ様子で飲み隠し、此度の会議はお前には関係のない内容だから通知せなんだだけだ、としれっと言い繕うが。
「いや、分かっていますよ」
それに対し清隆が返したのは。
「皆様方の考えている事くらいは。」
朗らかな微笑みと。
「だから、手を打たせていただきました。」
「ぎゃああああああああ!!?」
「あばばばばばば、ぐわ−っ!?」
「グエーッ!?」
虐殺。
アクセスしている幹部達を画面越しに殺す、瞬間暗示。無論幹部たちも最高クラスのその手の攻撃に対する対策はとっていたのだが…

「今の我々に対しては、対策など何の意味もない。」
後からログインしてきたサグが断絶した最高幹部達のアクセス痕跡に嘲笑を浮かべつぶやく。
「ええ。栄光学園で培った研究データ、その全てを中央に提出していると思っていたんでしょうね。監査役を既にこちらが洗脳していたとも知らず」
サグに対し悠然と笑む清隆。タロン最大の超能力者であるサグと、「洗脳探偵」と呼ばれる事象・認識改変能力を持つ清隆。彼らはその力を、栄光学園で培った研究データによって、爆発的に増大させていたのだ。
「かくてタロンの金と力は俺たちの目的の元に、という訳だ。俺の欲望、アギトの力への全人類の完全覚醒、超能力者の世界と。」
その為に同じ超能力者であるソネットを切り捨てたサグが言う。
「私の願い、事件の解決。争いも混乱も、およそどんな類の事件もない平穏な世界」
そのために肉親である歩も、部下である紫暮も切り捨てた清隆が言う。
「これまでは利益を維持する為に使われてきた組織タロンの余力が、全て戦力生産と戦闘と征服の為に使われる。」
そうなれば、実質組織としてのタロンの戦闘能力は、清隆とサグが中央に対し隠匿していた戦力や技術も合わせて、十倍にも膨れ上がるだろう。
「成るぞ、世界征服は。初めて、我らタロンの手によって!ふは、ふはははははっ!!!」
電脳空間の闇の中、サグの豪笑が轟き渡り。
「ええ…確実に、そして絶対に。何となれば…」
清隆の予言が静かに響く。
「バリスタスは滅び、それにより上位次元の地球での目論見も、また破綻するのだから。」

 

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