秘密結社バリスタス第一部第一部最終話「世界征服英雄」

「ごめんね・・・お母さん、怖い格好で。」
そう切なげに呟くと、機蝗兵は夫の腕に抱かれた幼い我が子を見つめた。
敵の襲撃で壊滅したアジト。攻防戦の直後に逆襲が決定された今、一度変身を解除すると再調整が必要になるため、変身を解除するわけには行かなかったのだ。
まさか鋭い爪の生えた手で、赤子を抱く訳にはいかない。
「そんな顔するなよ。今生の別れって訳じゃないだろう・・・お、と。」
「うぅっ、う〜っ・・・」
静かに腕を揺らしなだめようとする磁力だが、さっきの戦闘、そして基地崩壊の爆発に怯え手かぐずる優はなかなか泣きやまない。
だから。
カーネルは。
歌を、歌った。遥か幼い日、まだ彼女が幼く、故郷が平和で、組織の一員でもなかった頃母に歌ってもらった、もうどことも解らない彼女の国の歌を。
静かに、優しく、そして芯の強さを持った、不思議な、だが明らかに子守歌と解る歌。
「・・・」
不安が消えた表情で、とろとろと眠りにつく我が子を見、カーネルと生栗は一瞬顔をほころばせ。
そして、戦士の顔になった。
子守歌を軍歌と変えて。彼等と彼等の友らと子が、生きることの出来る世界を勝ち取るために。


「世界征服英雄」OPテーマ   
  

  「『悪』の味方」
 
  たとえ正義が無くなっても
  私達はこの地に今生きて いる
  悪の一文字背中に背負い
  必死に一途に生きていく
 
  愛の哀しみ 恋の苦しみ
  友情の痛み 信頼の悩み
 
  全てを抱え 傷つき傷つけ
  共にあらんとただそれだけを
  世界に捨てられた迷い子達の
  必死の産声闇に響く
 
  光に灼かれて 風に斬り刻まれて
  怒りの赤 愛の炎燃やし
  悲しみの黒 慈しみの夜に抱かれ
  それでも命を諦めないで それでも世界に絶望せずに
 
  生きる、生きる 世界征服・英雄(ヒーロー)  


「・・・好機、至れり!」
がっつん!
博士の心理外骨格が会議テーブルを打ち砕く。
「基地を失ったのは確かに痛い・・・だが!これを期に逆襲を仕掛けHUMAを殲滅、逆に連中の基地を奪えば十分事足りる!しかも協力者チェルシー女史の言に寄れば極東本部の連中、惑星間弾道ミサイルR1号からプルトン爆弾スパイナー、超毒ガス・ギラードガンマーに至るまで!禁断の大量破壊兵器を山ほど備蓄しているという!これをぶんどれば世界征服に王手をかけたも同じ事よ!!」
「確かに。協力者あり、情報あり。なにより大義あり、申し分ない。」
「ええ!」
シャドーの言葉に、lucarが同意を示す。
彼女はそもそもこの「ほころび」を最初に見つけた人間なのだ。
「しかし、好機ではあっても勝てるとは限りませんぞ。」
しかし、組織のご意見番的存在、影磁の意見は相変わらず辛い。
「進入ルートが判明しても、そこを守備するトラップは健在。本拠となれば防衛戦力も強大。第一回作戦のような総力戦になってはわがほうの消耗も激しすぎる。例えHUMAに勝ててもその後別組織に潰されるのは火を見るより明らか。」
「ならばこの状況を捨て置けというか!我等を頼りしものを見捨てると!そのようなものに世界征服の権利などあろうか!」
ぐわぁっ、と牙をむき怒る博士。
掌を差し出し、それを影磁は落ち着けた。
「落ち着きたまえ。何も無理だとかやらないほうがいいとか言っているわけではない。ようは作戦が必要だと言っている。」
「ふむぅ・・・」
どか、と再び席に腰を下ろす。
「とはいえ、確かに基地の情報が入ったのは好都合。進入ルートの特定は既に出来ています。となると、後の問題は。」
JUNNKIが指を折って数え上げる。
「第一に、防衛用トラップの解除。
 第二に、基地を守護する戦隊巨大ロボット軍団の排除。
 第三に、基地を襲撃した再生怪人軍団と、謎のガーライルフォースマスター部隊。
 そして最後に、ロム=ストール、アルフェリッツ姉妹、マークハンター・・・そして未確認ながら「仮面ライダー」などの一部有力ヒーローへの対策。」
「第一に関してはまるで問題はない・・・」
にいいいいい、と博士がチェシャーキャット笑いをした。
「チェルシー女史の協力で、コンピューターの情報が入った。ハッキングで基地機能を掌握するのにそれほど時間はかかりはせん。」
「第二ですが。博士、確か満州でGR級重ロボットを発掘したとのことでしたが・・・」
「あぁ、「大帝」な。」
がりがり。鋭い爪が、後頭部の装甲を掻く。
「テスラ式動力機関の解析、ならびに修理は完了したのだがな。操縦機構に遺伝子認識システムがついていて、特定家系のものにしか操縦できん仕組みになっておる。使えんな。」
「じゃあ、あれにつぎ込んだ予算は・・・」
「気にするな。それに、別に策はある。我が軍団がそれは責任持って何とかしよう。」
「でもお金・・・」
「やかまし。一流の悪が銭などに拘泥するな。」
「となると問題は第三。これは、苦しい要素ですね。折角研究段階にあった自己繁殖式量産型怪人ラプトルノイドと、恐竜怪人ルストダイノが実戦投入可能になったとはいえ・・・」
苦い顔をするシャドー。そのせいで彼等は基地を失い、また戦闘員などかなり兵力にダメージを受けている。
「やはり問題はない。」
と、またもチェシャ猫笑いをする悪の博士。その場にいなかったくせに。
「我が能力の一つ「魂の闘場」を用いれば、いかな我等が先達たる「黄金の混沌」の改造人間を模したとはいえ所詮は意志無き人形、押さえ込んでみせるわい」
「無敵ですね貴方は・・・」
あきれたような、そして僅かに羨望を感じさせるような影磁の声。確かに、何でも出来るといわんばかりの万能ぶりである。
「いや、そうでもない。」
不満げ、で有ると同時に何処か嬉しげな、変な声音で博士はそれに回答する。
「この「魂の闘場」にしろ「恐怖の夜」にしろ防御力にしろ、心理外骨格の能力の一切はどちらかといえば心無き、あるいは未熟な精神に不相応な力を持つ者を薙ぎ払うのに適した力。シャドー殿の話にあった「仮面ライダー」や蠍師匠と戦ったロム=ストールのような「本物」相手には恐らくまるで効果を現すまい。つまり我が輩は奴らに対しては事実上無力・・・故に貴殿らに任せるが、よろしいかな?」
「是非もない」
にっ、と列席した幹部達が笑う。その笑いの意味は、博士の声に混じる微妙な色と同じものだ。
すなわち、他者に必要にされると同時に他者を必要としたい、人の心。
そしてこれで結果的に、最後の課題への対策も決まった。

ならば、進むのみ。

その、秘密結社バリスタスとHUMA極東総本部の決戦が迫る、同時刻。
それとは関係の薄い場所で、もう一つの動きが生まれ始めていた。
「・・・と、言うわけだ。特甲隊長官西村右京氏の報告と、これまでの一連の事件の結果、もはやHUMA極東総本部長官城町満並びにかなりの数のその周りにいるHUMA構成員と関連する宇宙刑事機構職員が背任行動をとっていると見て間違いはない。」
「はー、それであたし達戦史研究室に依頼を、と。そりゃ確かに警察が表だって動くのは難しいわよねぇ。レスキューポリスの装備じゃHUMAにゃ勝てないし、頼みの綱の宇宙刑事機構も信頼できないんじゃ・・・」
「こら桜。お前警視総監相手に。もう少し口の効き方を考えろ。」
と、深刻そうな壮年の男の声と脳天気そうな女の声、そしてその女の声に被さるように野太い男の声が響くのは、紛れもなく警視庁・警視総監室だ。
話題を切り出し、今目の前に相対する二人に「仕事」について語りかけている壮年の男が、警視総監であることに疑いはない。太い眉と彫りの深い顔立ち、いわゆる濃い顔立ちという奴だが年齢地位に不相応なほど俊敏に鍛え上げられた体が、その顔の印象を威厳・・・それも、警視総監という称号すら軽く見えるほどの深く重い威厳・・・としている。
だが、その相手というのはどうにも不可思議、ちぐはぐなコンビだった。名乗った肩書きからして、まずおかしい。戦史研究室とは警察ではなく自衛隊の過去の記録などの研究分析を司る機関、それももう廃止されたはずの機関である。
そしてそんな消滅したはずの組織の名を名乗る二人は、見事なまでに好対照をなしている。男のほうはまだ、いい。身長2メートルを超える全身筋肉の塊の巨漢で、いかにも自衛官らしき屈強な面構えをしている。
だがもう片一方のほうは、自衛隊どころか大人にも見えない。バリスタスで例えるとアラネスのような体格の男と対照的なその女は、マシーネン=カーネルと同じくらいかそれよりも低いくらいの背丈しかもっておらず、一見小中学生かと間違いそうになる。スタイルがいいのでまだ区別が付く、というのもカーネルと似ているようだが、雰囲気は正反対といって良い。最近大分柔和になったとはいえやはり普段はクールな印象の漂うカーネルに対し、彼女は並の背丈の女性の十倍以上の元気を周囲にふりまいている。
おかっぱに近いショートカットと桜色のベストにミニスカートという、子供っぽいようで色気のある容姿を引き立てる格好もまたそれら複雑な印象の一要素も損なうことなく強調している。
「それで、任務は?まさかあたし達二人だけでHUMAぶっ倒してこい、なんて言わないですよね。」
相方の注意も功を奏さず、あいも代わらずな言葉遣いの娘にさして怒る様子もなく警視総監は告げた。
「まさか。それは我々・・・」
そう言ったところで、しばし総監は逡巡した。現状を憂うような、そんな顔。
「まぁ、あたし達はどーでもいいわよ。警察でも、総監の友人でも。」
あわてて女はフォローを入れるが、この特殊な状況に対してはこれはほとんどフォローになっていないどころか逆効果である。
「そうか。ともかく攻撃が開始される。君たちに頼みたいのは、その間にHUMA極東総本部に保管されている、彼等の切り札を奪うことだ。」
「切り札?プロトン爆弾とか?」
水爆以上の破壊力を持ちながら放射能を発しない、「黄金の混沌」期に盛んに破壊活動に用いられた兵器。しかし警視総監はそれを否定した。
「いや、そんな生易しいものではない。」
生易しい、すなわち「切り札」とはそれ以上の存在であると。
「・・・大神龍だ。」
「うぇっ!?」
「・・・!」
その一言だけで、状況を二人は理解したらしい。その顔が一瞬で緊迫する。
「地球レベルではない。あれは、惑星すら破壊しうる怪物。放っておけばことは全銀河に及ぶだろう。そうなる前になんとしても確保してくれ。」
「はいっ!戦史研究室扇桜・月形剛史、狂科学の回収任務に出発します!・・・月形さん、なんてったってあの伝説の仮面ライダー1号のお願いだよ、絶対成功だよね!」
「あったりめぇだ!」
と、颯爽と退出する二人の背中を見送り、本郷猛警視総監は扉が閉まるのを確認した後、ため息を付いた。
本郷猛。最初の「仮面ライダー」。ショッカーから世界を救った、そして何度も幾多の組織と戦い、若き戦士達を導いた男。
何度も、何度も。何度も戦った。一度たりとて悪は潰えたことはなかった。
彼が老い、変身能力をほとんど失っても。
そして今度は、よりによって正義として彼等の跡を継ぎ世界を守るべきHUMAが。僅かな力を振り絞り再生怪人達を退け、バリスタスとかいう悪の組織と争い合うその姿を、彼はその目で確認した。
自分のしてきたことは、何だったのか。
後輩達が戦いに赴く様を見送るしかできなかった彼は、顔を手で覆い机に肘をつくと、かつての戦士だった頃からは想像もできないような、老いた深いため息を付くのだった。
「頼むぞ。風見、神、村雨・・・」
そして、願った。かつて彼等が示したように、今の世代も自ら示して欲しいと。

正義・・・神も仏もないこの世界に、かつて彼等がうち立てた光を。

状況は、雪崩をうつような勢いで進行していた。全てが、誰もの予想を裏切るように早く、そして大きく進んでいった。
マントを変形させた翼を羽ばたかせるでもなく宙に浮きながら、悪の博士は白みつつある空と、ようようその縁を見せ始めた朝日に苦笑いを向けた。
lucar殿がHUMAシーファイター基地を襲撃して帰還、大慌てで救助したカブトレオンとオクトーガを手術し、悪の博士と蠍師匠が偵察部隊を助け脱柵ゲートキーパー達と共闘し、それと同時刻にはHUMA再生怪人部隊がバリスタスアジトに攻撃を仕掛け、自爆装置暴発で基地が消滅。そして今バリスタスは早くも逆襲を仕掛けようとしている・・・
これが、たった一晩の内に行われたのだ。状況の推移が早いなどと言うレベルではない。
悪の博士の苦笑が、ほくそ笑みに変わった。HUMAも、まさか基地をやられたバリスタスがこんなに早く逆襲してくるとは思うまい、と。
そして一転、心に応じて変化する心理外骨格の仮面は、鋭く強く引き締まった。
征服するのだ。
「今、ここに夜が来る。昇る朝日に抗い、貫かんとする光を殺す。弱き群れ集う業には安らぎの、流離う人形には墓所への回帰の、奢れる独善には死の。夜が来る。光よ、貴様等の時間は終わりだ。」
呪文のごとき言葉を長々と紡ぐ悪の博士。それと同時に背中の翼がどんどんと、水に流れる墨のように広がり、空を覆い尽くしていった。
黒く染まった空を攻撃的に睨み付け、博士は大音声で叫んだ。
「墜天の翼、展開!『魂の闘場』!!」
叫びに震える空気。いやそれ以上に、人間の精神と動物的感覚の微妙な境目に関知されるような、霊的な「震え」がHUMA基地を覆い尽くした。
悪の博士は、その時外から見たら奇妙なまでの無表情となっていた。感情のままに動く心理外骨格が、まるでその感情が喪失したかのように、冷たい金属のごとく硬直する。
大規模な力を使用するときこうなることを、知っているのは彼のごく側近の者だけである。そして、その理由を知るのは恐らく本人のみ。
博士の心理外骨格は、心の外壁の堅さ・・・敵意と怒りから成っている。屈するわけにはいかない攻撃を受けたとき、その拒絶の敵意は攻撃を防ぎ、己の心の規範に見過ごせない敵を前にしたとき、その否定の怒りは攻撃として相手を滅ぼす。
故に拒絶せざる者、友あるいは愛する者に破られることを宿命としたこの鎧は、人間としての博士自身の精神を切り刻む。人は怒りだけの存在ではないから。鎧の内側にかばった優しさが、そこから来る悲しみが、その悲しみを生み出す己に対する怒りが、敵に与えたのと同じだけの苦痛となって己の心を灼く。
歪んだ強さ。それでも、求めずに入られなかった強さ。苦痛の裏に明滅する記憶のまま、天とも地とも言えない中途半端な場所で、博士は呟いた。
「ウルトラマン・・・今、貴方がこの地球を見たら、誰と戦う?誰を守るんだ?」
真っ暗に、なった世界。
・・・と、突然その大地に光が走った。電光、レーザー光、そしてゲートの光。
「何っ!?」
その刺激で咄嗟に飛びかけていた意識を取り戻した博士は、慌ててその周辺を見た。まだ、バリスタスは攻撃態勢に入っていない。だがその光は、明らかに相争う戦闘の光だ。
どうやら予想できない事態が襲いかかるのは、HUMAだけではないようだった。


悪の博士の見たその光が何だったのか、を説明するには、少しばかり時間を遡らなければならない。

バリスタスが逆襲を仕掛ける、ほんの少し前のこと。
その時までは、一見いつも通りの平穏な時間が流れているように、表向きは見えていた。
「がんがんじいがバリスタスに寝返った!ゲート能力者二名を拉致し、逃亡している!全ヒーローは直ちに出動、捕獲せよ!」
その放送が、基地内に流れるまでは。
「・・・だとさ。」
一見順当なようで居て、実はこれは通常ではあり得ないことだ。ゲートキーパー部隊は隠密部隊として、白龍の支持のもと独立した行動をとり、通常部隊と接触は極力しないことになっている。そして何よりあのがんがんじいが、何故そのようなことを。第一普通の人間である彼がゲートキーパーを拉致するなど不可能なことだし、動機もない。
いい加減な調子で、マークハンターはスピーカーに顎をしゃくった。それとは対照的にロアは驚愕している。
「そんな・・・あのがんがんじいさんが、まさか・・・」
取り乱すロアを鼻で笑うと、マークハンターは、謹慎を解かれ戻ってきたミリィに問いかけた。
「・・・どう思う?」
「どう、って?」
きょとんとした顔で返事を返すミリィ。これに、逆にマークハンターの方があっけに取られた。
「あたしらの仕事、結局は戦うことでしょ?どういう状況であれ。それじゃ、先にいってるわよ!」
そう言うや否や、ミリィはとっとと駆けだしていってしまった。
それを止めようとするように半端に突き出された、そして届かなかった掌をマークハンターは一時見つめ、そして強く強く拳を握りしめる。
そして、何かこみ上げるものを必死にこらえるように、低い声を絞り出した。
「臭いな。この事件。何かある。おおかたどうしようもないほどうす汚ぇ企みがな」
それに対して、ロアは恐る恐る反論する。
「そんな、何かある、ってここはHUMAの司令部・・・」
「権力の集まるところ、腐敗集まる・・・常識だろ。」
対してマークハンターは、あっさりその疑問を斬って捨てた。
「でも・・・正義の味方ですよ!」
「そういえるやつは今、どれだけこのHUMAに居るかな。お前も、内心は解っているはずだ。」
なおも言い募るロアをひたと見据えるマークハンター。その様子は明らかに彼が常日頃自称する「ただの賞金稼ぎ」ではないことが明らかだ。
その様子を見て改めてロアは、彼が属する宇宙刑事機構そしてHUMAの様子を、そのマークハンターの姿という鏡に写すように、見た。
何十年来代わらない陳腐で空虚なスローガン、公務員的にルーティンワークをこなす所属ヒーロー、無闇に破壊力ばかり高い兵器の開発にのみ没頭する科学者、そして、どこからともなく湧き、つきまとう金。
このマークハンターという男にないもの、今のHUMAと宇宙刑事機構に溢れているもの。ありありと、改めて見るように思い出した。
「そもそも何で、ゲートキーパー部隊は別扱いなんだ?広大な研究区画で何が研究されているかが何故秘密なんだ?そしてこれだけの軍勢を維持するのに必要な資金はどこから来ている?通信が途絶したシーファイター基地について箝口令が敷かれたのは何故だ?そして収容されていたミリィが解放された途端性格が変わったのはどうしてだ?」
ロアも、それに気付く。
「ま、マークハンターさん、貴方一体・・・」
「その話は後だ。行くぞ。あのミリィの聞き分けの良さは変だがとにかく、自分の目で確かめるなり、止めるなり、従うなり・・・現場でなきゃ出来ねえだろが。」
きっぱりと、マークハンター。その声に、その姿に。訳もなくロアは懐かしさと胸のたかり、その関連のないような要素を感じて。
「は・・・はいっ!」
立ち上がった。

そしてまた、更に遡る。

「急いで!」
「はぁっ、はぁっ、はいっ!」
廊下を必死に駆ける、二人の少女。シエル=メサイアと更紗瑠璃。向かう先は、その必死の表情と、時々立ち止まったシエルが監視システムやトラップをゲート能力で破壊していることに聞けば解る。
目的は地上、動機は脱出だ。
連れ戻された瑠璃には願ってもないこと、そして連れ戻す側だったシエルにしてみれば、何故このような行動に出たのか正気を疑わせる行為である。
だが、先に立ち手を引いて、率先して行動しているのはシエルであり、その目には一途な決意の色がはきりと見えている。
実のところ彼女は自分の行動が自分自身でもよく分かっては居なかったが、それでも彼女は決意していた。瑠璃を助ける、地上へ送り出すと。その心の中には、これまでの経験が渦を巻いていた。特殊部隊としての日々、地上での任務、何度かの留美奈との戦い、そして。
馬鹿、スケベ、実力がない、小悪党、と色々と思いつく悪罵の類には事欠かない改造人間の男、ゲッコローマの言葉と行動と、そして、一緒に見た星空。それがぐるぐると胸の内で渦を巻き、彼女を突き動かしていた。
「こ、こらっ、貴様等!止まれ!」
「ゲートオープン・雷天尖!」
通路に飛び出してきたHUMA量産型ヒーローを、電光のゲートの一撃で吹き飛ばす。
「ふーっ・・・行くよ!」
深く息を付き、額に浮く汗を拭ったシエルは、また瑠璃の手を取り走り出そうとする。もう何度目かのその行為は、幼いシエルの体力を著しく消耗させていた。
だが、瑠璃は応じようとしなかった。その場に立ちつくし・・・そして、泣きそうな悲しい表情をしている。
「どうしたの?瑠璃お姉ちゃん!」
「駄目よ・・・」
たたらを踏んで振り向くシエル。瑠璃はそんなシエルに、静かに告げた。
「こんなことしたら・・・あなた、あなたまで不幸になってしまう。チェルシーにも、留美奈さんも、私を助けようとしたばっかりに、いつも戦って、血を流して・・・。私はもう、いいから。だからシエル、お願い、助けないで。」
諦観に満ちたその声。その顔。それを見、聞いた時。シエルの中で渦巻いていたもの、シエルを突き動かしていたが言葉となりシエルの口から迸った。
瑠璃の着ているゆったりしたワンピースの胸元を掴み、叩き付けるように言う。
「っ、瑠璃お姉ちゃんの馬鹿!可哀想な馬鹿だよ、瑠璃お姉ちゃんは!この世界で一番可哀想なのはどんな人かって、あたし今解った!自分が可哀想だって気付いても居ない、気付かないで諦めてる、それが一番酷い!チェルシーも、留美奈も、それに気付いたから戦ったんだ!あたしも!それであきらめから脱出した、それなのにっ・・・!」
瑠璃に詰め寄ったまま、感情が溢れだしたように涙を浮かべてしまうシエル。そのシエルより僅かに年上である瑠璃はそれだけで気付き、今度はすがるチェルシーをしっかりと抱きしめた。
そして瑠璃の体がうっすらと光り、疲れたシエルの体に新しい力をそそぎ込む。
これが、生命のゲート能力。未だ謎の多い「生命そのもの」を操る力。この力で一度HUMAの追っ手に殺された留美奈は蘇り、その拍子に突然変異的に疾風のゲート能力に目覚めた、という過去がある。
そしてそれ故に彼女は研究施設の奥深く閉じこめられ、そして。
(そして、「龍」計画の犠牲になろうとしている)
彼女自身もついさっき知ったことを、反芻するシエル。護送した瑠璃の処遇について上官・白龍に聞きに行ったとき、耳にしてしまった。
ダイレンジャー・ゴーマ間の戦いの時に確認された、争うもの全てを滅ぼすために生まれた超巨大気伝獣・大神龍。
小惑星すらうち砕き、数百キロ四方を一撃で灰燼に帰すプラズマ衝撃波を武器とする、全長優に5000メートルは下らないこの巨大な機械の龍は、かつて光の巨人の僕として、ドルなど電子星獣を元に作られたと僅かな伝承から推定されてきた。
争いを起こす者を、敵味方関係なく破壊する強大な第三の力。眠りについていたそれを確保し、自らの兵器として手に入れ目覚めさせれば、この世界いや宇宙の支配すら可能になるということ。
そして、その大神龍を目覚めさせる方法は、瑠璃の生命のゲート能力を彼女自身の命を絞り尽くすまで使用すること。
「ありがとう、シエルさん。私・・・」
「いいから、いくわよ!」
感謝する瑠璃への答えがつっけんどんになってしまったのは、その笑顔があまりに綺麗だったから。造作が美しいと言うよりもっと精神的な、澄み切った美しさだった。これは、チェルシーや留美奈が命がけで守ろうとするのもよく分かる、そんな笑顔。
(こんな人が、生贄・・・そうは、させない。)
そしてまた、シエルは決意し、走り出した。
が。

「そうはいかんよ。」
その行く手に、黒い影が忽然と立ちはだかった。黒い長髪に嫌味なくらいぴしっとした黒いスーツ、それとは対象に縦に白く傷の走った顔と、蛇のような冷徹な目つき。
「白龍・・・・っ!」
その名は、白龍。ゲートキーパー部隊の隊長にして、現代最強のゲート使い。
「困った子だなシエル、こんないたずらをして。君はもっと賢い子だと思っていたのだがな。さぁ、早く瑠璃君を連れて元の部屋へ帰りたまえ」
まるっきり子供あつかいし、余裕綽々の態度をとる白龍。確かに二人の能力の強さの差を考えれば、それは当然と言えた。
「シエルちゃん・・・」
「大丈夫だよ。あたしは負けない。」
だがシエルもまた、不敵な表情を崩さない。
「嫌だね。あたしは決めたんだ。あんたを倒してでも、HUMAを滅ぼしてでも、悪として追われても瑠璃姉ちゃんを地上に連れていく!」
吠え長けるように言い放つシエル。それに呼応して白龍の表情も、それまでの余裕ぶった仮面を引き剥がし、邪悪に染まっていく。
「ほう・・・貴様、力の差が解っているのか?」
「あんたこそ、わかってないね。」
いいざま、シエルは先制の一撃をはなった。
「雷震球!!」
「ふん・・・!」
シエルが叩き付けた雷の球を、白龍は余裕の表情で迎え撃った。流水のゲートから生まれ出た大量の水が、壁となって立ちはだかる。
が、
「ぬあっ!?」
水の壁に激突した雷はそのまま水の中を放電し、使い手である白龍にダメージを与えた。
「あっはっは!どう〜よ白龍のおじちゃん!水は電気を通す、子供でも知ってるよ。今のあんたは、ピカチュウを前にした水ポケモンに同じっ!」
これがシエルの余裕の訳、属性での有利だった。とはいえ例えに子供向けのアニメ「ポケットモンスター」を持ち出す当たり、強いとは言えシエルもやはりまだ幼い。
とはいえ、肉体のレベルはそれほど強くはないが故にクリーンヒットが則決着となりうるゲートキーパー同士の戦いにおいて、防御を封じると言うことは圧倒的な有利となる。
だが、それでも白龍は笑っていた。
「くくくくくくっ・・・」
絶対的な優位と勝利、それと哀れみと嗜虐を現す、嫌な笑いだ。
「・・・何よ?その笑いは。」
「いや何。簡単な理科の授業をしようと思ってね。水が電気を通すのは、その内にイオンなど不純物を含んでいるからなのだよ・・・」
笑みがつりあがる。展開した蒼いゲートが、強まる力に呼応して輝いた。
それに危機感を憶えたシエルは、咄嗟に二度目の雷撃を放った。
「その不純物を除いた・・・純水ならば。電撃など通しはしないのだよ。」
その言葉通り、二度目の雷撃はあっさりと水の壁の表面で砕け散った。
「うっ!?」
強気だったシエルの表情が強張る。瑠璃も、シエルを案じて顔が曇る。
「さて、いくぞ。水珠!」
ばしゅっしゅ!
高圧の、テイルの穿水刃よりも更に高密度・高質量の水の弾丸がシエルに襲いかかる。

ばばばばっ!
「うぅっ」
少女一人肉塊に変えるには充分すぎるその攻撃は、しかし防がれた。シエルを守ったのは、暖かい印象を受ける、光の壁。「光の巨人」達が用いたウルトラバリアに近い。
「私だって、抗うことは、出来ます!」
それを放ったのは、瑠璃。シエルに手を引かれていた、チェルシーと留美奈に守られていた、瑠璃が。
「ふん・・・まぁ、好きにするんだな。後何回防げるかは知らないが、体力を限界まで消耗しきって、もう逆らえなくなるまでにしてからゆっくりと「龍」の餌にしてやる。
「ぅ・・・」
獲物を飲み込む蛇のもの、ではない。喰うためだけではなく生き物を殺す、人にしかできない残虐な笑いを浮かべる白龍に、瑠璃は怯んだ。事実彼女の体力はさっきの一度でもすでに消耗しはじめており、何度も攻撃されれば当たらなくても体力を使い果たして倒れてしまうのは必定だった。それを見透かし、白龍は笑う。
「ふっふ、何しろ、正義の味方は我々だからな。誰も助けにはこない。大人しく、贄になれ。」

パルンパルルルルルルッ!
「そうはいかんでぇぇっ、ガンガンっ、ブレイクッ!」
ぐわっしゃぁん!!
完全な奇襲だった。真後ろからバイク、いや軽いエンジン音のスクーターに跳ねられた白龍は瑠璃の方に向かって吹き飛ばされ、瑠璃の「生命の盾」にベクトルを変えられ壁に衝突する。白龍の着ているスーツがただのスーツではなく、シルベール繊維製の超衝撃吸収服でなければかなりの怪我を負っていただろう。
「く?!だ、誰だ!」
慌てて立ち上がり、誰何する白龍に大見得を切って答えたのは。
「ガンガンガンガラガンガガンガガンガガーーーーーン!日本一のヒーローがんがんじい様や!」
胸を張るドラム缶鎧のおっさん。一応スカイライダーと共闘した「黄金の混沌」時代のヒーローといえど、実際は役立たずのギャグキャラで、史上最弱ヒーローの名も高い、がんがんじい。
・・・・・・
間。白竜もシエルも瑠璃も硬直。だががんがんじい本人は大まじめだ。
「やいやいやいやい!年端もいかぬ女の子にえぐいまねしくさりよってからに!お天道さんが見過ごしてもそこいらの木っ端ヒーローが見過ごしても、この日本一のヒーローがんがんじい様は見過ごさんでぇ!」
がこがこと鎧を鳴らしながら、白龍に詰め寄るがんがんじい。
「ふん・・・何のようだね、がんがんじい君。これはHUMAの特別機密事項だ。関わらない方が身のため・・・」
「どアホったれぇ!ここで関わらなんだらなぁ、ヒーローじゃないやろが!」
真摯ぶる白龍を、がんがんじいは拒絶した。既に、彼はこの男の本質を見抜いている。その事実に気付いた白龍は、気分を害したようにその目に凶暴な光を宿らせた。
「ふん・・・折角生きられる機会を与えてやったのに、愚かな。もういい、お前は殺す。」
「やれるもんならやってみんかい!わいは負けへんで!」
精一杯胸を張るがんがんじい。白龍はその鎧の安っぽい表面をじりじろと眺め、鼻で嘲笑った。
「ふん、勇ましいことだな、己の力のなさも考えずに。お前のような普通の人間、時代遅れの中年風情が今更ヒーローごっこでもあるまいに?」
「ごっこ・・・やと?あぁ、そうや。わいのやっとることは所詮ヒーローごっこに過ぎんわ。わい一人ではとてもお前等倒すなんて出来へん、わいは洋さんみたいな本物のヒーローやあれへんからな。だがな・・・」
静かに、一見諦観があるように。だがその内に沸々と滾る物を持った声が、一気に叫びへと成長した。
「例え偽物でもええ!本物のヒーローがおらへんのならっ!わいは精一杯偽物になったるわい!それで誰かが救われるンならなぁっ!!」
「あ・・・あ・・・・・!」
目を丸くして、その様に見入り、その声に聞き入る二人の少女。
既に、シエルの硬直と、誤解、そう誤解は解けていた。そこにいるのは憧れだけのヒーローもどきではない。
瑠璃もまた同じく、はっきりと認識していた。己の弱さ、情けなさ、それら全てを認識し、尚その上に立たんと足掻き、世を覆う理不尽の前にただ一人立ちはだかる。
それはまさに、ヒーローだったのだ。
「乗るんや!嬢ちゃんたち!」
ずんぐりむっくりした姿とはうって代わってきびきびと、後ろにかばったシエルと瑠璃に叫ぶがんがんじい。
「で、でも・・・」
年端も行かぬ少女二人とはいえ、三人乗りは難しい。
「誰かを見捨てたら、正義の味方やあらへんからな!」
その一言は、その一瞬何よりも頼もしくて。
「・・・わかりました。」
素早く頷いた瑠璃、そしてその後ろにシエルが乗り込む。三人乗りと言うことになるが、シエルも瑠璃も華奢で軽い体なので思ったほど問題はない。
身を翻し、自分もスクーターに跨ろうとするがんがんじい。
「この道化が!いかせるものかっ!」
その後ろ姿をねらい打とうとする白龍に、シエルは逆上した。がんがんじいに与えられた勇気と希望が滾り、それまでにない程の強大なゲートが発現する。
「させないっ!!」
二色の叫びと、爆水と雷電が激突し。
水蒸気爆発を背に受けて、吹っ飛びそうな勢いでがんがんじいのスクーターは発進した。


ぱぁぁぁーーーん・・・
軽いエンジン音と共に、三人の乗ったスクーターは地上に飛び出した。本来小規模で、情報が広がる前に白龍が片を付けるつもりだったので非常態勢が整っていない、その隙をついてロックされていないゲートから脱出したのだ。
外はどういう訳か明け方なのに真っ暗だったが、かまっては居られなかった。ようやくと集合し始めた、海上基地のシーファイター達のように城町達の汚職に染まった量産ヒーロー達の攻撃、それと直援に上がっていたHUMAの戦闘機部隊の機銃掃射を次々とかわさなければならないのだ。
普通なら、かわしきれるはずのない攻撃。それをがんがんじいは、よくかわしきっていた。幾分か速度は遅く、多少格好は悪いかも知れないが、彼は守り、走った。
あの風のように。仮面ライダーという名の風のように。

「あんな馬鹿相手に何を手間取っている?」
司令室に戻った途端、次から次へと寄せられる阻止失敗の報告に声を荒げる白龍。その疑問も当然といえる。ルリたちはゲート能力をほとんど使いはたしている。ただの小娘二人を乗せたドラム缶鎧の中年操るスクーターに、数十数百からのヒーローが補足できずにいる。ある意味こっけいだ。
「腐っても伝説のヒーローの仲間・・・ということか。」
いすに腰掛ける白龍の後ろから、声がかかる。慌てて白龍は猫なで声を作り、振り返って礼をした。
「これは城町長官、とんだ不始末を・・・」
この基地でマモンのほかにもう一人、白龍が頭の上がらない相手・・・HUMA極東総本部司令官・城町満だ。
「とっとと捕らえろ。わしの拳で死にたくなければな。」
おおよそ正義の長官とは思えない、悪魔のような脅迫の笑み。現在最強のゲート能力者であるはずの白龍ですら、その笑みに震え上がった。
いや、正確には彼の腰に巻かれたベルトの威力に、か。それは、HUMAが数々の人体実験で得た成果、その先頃完成した究極形だ。
僅かに白龍の額に汗が流れる。そのとき、報告が入った。
「ハイパードール・マイカ、敵車両を大破。目標移動停止、包囲します。」
「よし。」 

キュバァァァァッン!!
小型の太陽が現れたかのような、爆発。粉みじんに砕け散るどころか、削り取られるように蒸発するスクーター。そこから振り落とされた瑠璃は、感じた。
自分をかばった男の背中を。そして・・・その背中が、撃ち抜かれるのを。
「がんがんじいさん!がんがんじいさん!しっかりしてください!」
泣き声が、ルリの唇からほとばしる。自身転倒の衝撃で肩を脱臼しながらも、必死にがんがんじいを治癒しようとする。
がんがんじいの胴体は、ほとんど真っ二つと言っていいほどに裂けていた。脊髄も断ち切れ、辛うじて左わき腹の一部でつながっているに過ぎない。死んでいないのは、凶器が高熱のプラズマ弾だったため傷が焼きついて出血がこれほどの傷だったことと、ルリの最後の力を振り絞った生命のゲートによる治癒である。
だが、もはや余力がルリにはない。全力なら死人も蘇るほどの力だが、どんどん治癒の力が落ちている。
「ああ・・・」
ルリの絶望のため息。それにかぶさる、それをなんとも思わぬ感情の欠落した声。
「あ、生きてる。」
「マイカ、あんたの攻撃は雑なのよ。」
「捕捉したじゃない。」
そういいながらふうわりと降りてきたのは、マントに露出度の高いビキニ型のコスチューム、というなんとも商業アピール的なデザインの二人の美少女。片方は栗色のロングヘア、もう片方は黒いショートヘア。
それを見た途端、シエルの表情がこわばる。宇宙刑事機構から派遣されたばかりの半生体アンドロイド、ハイパードールだ。機械部品と、採取された単分子結晶剣とプラズマ兵器で武装し、自分たちと違い疲労なしに無限のエネルギーを異次元から取り寄せることが出来る。
(勝ち目は、ない・・・)
だがルリは、そんなことよりも目の前の命の危機に憤る。
「あ、貴方たち・・・!こんな、こんなことをしてなんとも・・・!」
怒りか、悲しみか。声を震わせるルリに、至極事務的に二人は答える。
「そんなこと言われても、あたしたちハイパードールの目的は地球文明の保護育成だから。個々人の運命はどうでもいいって言われてるのよ。」
つまりそれは、宇宙刑事機構もこの件にかかわっているということだ。
その、全宇宙から見放され、取り残されたような感覚。
「世界から見捨てられた者、世界から拒絶された者・・・」
不意に、声が流れた。夜の闇から立ち上る、深く猛々しく、そして優しい声が。
「それを救うために戦う。世界を失った者たちのため、世界を奪い取り、我等の、新たなる世界を作る。」
闇の中から進み出た、その異形は名乗った。
「それが我等バリスタス。世界征服を企む悪の秘密結社。」

「バリスタス怪人、蠍師匠ね。肉体強化はされているけれど、武装のぶの字もない、原始的な代物。」
上空から博士が見た戦闘を確認するため、既に総攻撃のため周囲に潜んでいる部隊の中から博士が選択したのは、マイカが簡素な怪人と侮った蠍師匠だった。
無論、博士が蠍師匠を選んだのは簡単な作りだから失っても惜しくない、という訳ではない。むしろその逆。
「電磁バリアも持ってない下等な装備を怨みながら、けっこうな口上と一緒に、消え去りなさい!」
ガーライルフォースマスターの細胞が組み込まれた掌から、ミリィと同じようなレモンイエローのプラズマ弾が連射される。
しかし、それは。
蠍師匠によってあっさり防がれた。それも特殊な手段では・・・いや、ある意味では物凄く特殊な手段か。
幅広のサラシ布。それが、蠍師匠の使った道具だった。それをまるで鞭のように振り回して、プラズマ弾を蠅か何かのようにたたき落としたのだ。以前も気を込めた布で鋼鉄や人間の体を切り落として見せた、蠍師匠の得意技。
だが、いきなりこんなものを見せられてはそうそう信じられる者ではない。魔法のような霊子操作でも、ここまでの無茶が出来る奴など、彼等の常識では存在しない。
「えぇ!?うそぉぉ!?」
ただの布が、数万度のプラズマをはじき返した。唖然とするマイカに、怒気をはらんだ声で蠍師匠は言う。
「教えてやろう。地球では、魂のこもらぬプラズマ弾一億発より、たった一発の魂のこもった拳のほうが、はるかに強力なのだ。」
そして。
蠍師匠の左拳は、ハイパードールを粉々に打ち砕いた。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
完全に戦意を打ち砕かれたミュウが、笛のような高音で叫ぶ。引きつった顔には、マイカを構成していた部品がばらばらと降りかかっている。
下手糞な踊りのように手足をばたつかせ、敵に背を向け泡を食って逃げをうとうとするミュウ。だがその動きはあっさり制止された。直上から「魂の闘場」を展開し終えて降りてきた、悪の博士の踏みつぶすような一撃によって、ミュウもまた砕け散ったからだ。
そんな決着など、いや恐らく今破壊したハイパードールなど恐らく敵としてどころか障害物としても認識しないような仕草で、降り立った悪の博士は静かに向き直った。
「なぁ・・・瑠璃ちゃん、シエルちゃん。」
「が、がんがんじいさんっ!」
たった今息を引き取ろうとしている、がんがんじいへと。遂にゲート能力を限界まで使い果たし、なす術なくちぎれかけたその体に取りすがる瑠璃とシエル。その様子の悲しさ、博士と蠍師匠を追って駆けつけてきた後続部隊、そして瑠璃達を救出するためについてきたゲートキーパーたちをも、漆喰で墓所に塗り込められたように重々しく沈黙させる。
「ぐれたら、あかんでぇ・・・すねたら、あかんでぇ。苦しかったは解るけど、世の中、あんな奴らばっかりや、ないんや・・・。ぐ、わ、わいは、わいはそれをこの目で、見てた、んやからなぁ・・・ごぼっ・・・」
その、男の声は、聞いた者の心の一部を確実にふるわせた。
「が、がんがんじい、さん・・・」
それからがんがんじいは自分の血に二、三度むせ、本当に最後とでも言うように、苦しみの消えた、魂の消滅する間際の声で問うた。
「なぁ、洋・・・わい、は、ヒーロー・・・なれた、やろか・・・」
洋。筑波洋。
スカイライダー。彼が若き日に、一緒に戦った、仮面ライダー。結果を見れば共闘などというのはおこがましいのかも知れない。だがともかく、あの日々、彼はそこに居たのだ。それを見たのだ。
「ヒーローです!ヒーローですよ!どんな力のある人より、どんな地位のある人より、強くて、優しくて、格好いい・・・ヒーローでしたよ!がんがんじいさん!!」
押し込められていた者が堰を切ったように、涙と共に迸る瑠璃の叫び。だが、その答えを彼が聞いたかどうかは、結局解らなかった。
「・・・・・・」
「がんがん、じい、さん・・・う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
優しく微笑んでいてほしい、誰もがそう願うだろう可愛い顔を涙で濡らしながら、瑠璃は思った。せめて、信じよう。彼がヒーローになったということを。
「ちっ・・・くしょおおおおおおおおおっ!!」
「こんなっ、ありかいな、こんなの!」
「許せない、許しちゃいけないわ、非道・・・すぎる!」
留美奈が叫んだ。シャルマが眼をむいた。チェルシーが歯を食いしばった。蠍師匠が唸った。蝗軍兵たちがどよめいた。そして、がんがんじいの言うヒーロー、スカイライダーを仇と憎んだカーネルすら、その拳を硬く握りしめた。
そして、博士は。
「ふむ。瑠璃嬢、そしてまたHUMAから離脱したシエル=メサイア嬢の安全は確保されたな。留美奈、チェルシー、それとおまけのロールパン。貴殿らの目的は達成された、潔く退くが良い。」
「なっ、何だって!?」
「どーゆーことや!」
博士の唐突な発現に、それまで押し黙っていた留美奈・チェルシー、そして捕獲されたあとチェルシーに事情を説明され寝返ったシャルマが一斉に騒ぎ立てる。
だがそれを敢えて無視するように、博士は歩みをすすめた。無言のままがんがんじいの骸、それにとりすがる瑠璃とシエルの横を通り過ぎ、彼等全員に背中を見せる姿勢となる。
そして激しくマントをはためかせながら杖を突き動作とはうって代わった静かな声で回答する。
「ここから先は我等悪の領域だ。お前達が染まる必要のない。・・・がんがんじいの、死せる英雄の遺言、無碍にする気か。」
「!」
その一言で、今にもバリスタスより先にHUMA基地に突入しようとしかねない勢いだった留美奈足が止まる。
「貴殿らは、世界で生きることができる。戦う意義を理解した貴殿らなら、ここで退いてもそれは貴殿らの勝利、生きるに足る。その世界が我々の制した世界になるかは、まだ解らぬがな。」
そう言い置いて、全軍に攻撃開始の合図を送るべく、杖に仕込まれた横笛型通信端末を構える。
「ばっ・・・バリスタスの皆さん!」
今しも合図を送らんとその間際、響く瑠璃の声。それに悪の博士は。
「何だ。」
つっけんどんな、あくまで最小限度の関わりとしようという、しかし必ずしも拒絶ではない意志の色のついた声で返答した。
しばし、言葉に詰まる瑠璃。喉元まで出かかっている言葉が、出てこない。息が苦しいかのように、服の胸元を小さな手が掴んだ。
その手に、そっとそえられるもう一つの手。
「瑠璃・・・」
彼女が会いたいと思っていた少年の手、そして声。
「瑠璃様。」
「瑠璃お姉ちゃん。
そしてまた、今まで彼女を守っていた女、そしてたった今共に戦った少女の声。
そして、彼等の声と、瑠璃の声が揃い、一つの意志を紡ぐ。
「ありがとう。そして・・・」
「了解した。では、征ってくる。」
皆まで言わせず博士は合図を発し、そして翼を広げ飛び立った。
征ってくる。来る、帰る、と言い残して。意案ずる言葉を受け取るわけにも行かず、TVの正義の味方と違い30分での確たる勝利の約束もない「悪」の、精一杯の運命への征服宣言だった。


「作戦名「呉爾羅」。状況開始せよ」
最前線に突出して「魂の闘場」の展開や状況偵察などを行っていた悪の博士から、笛の値に乗って合図が流れる。
そして。かつてこの世界を闊歩した、荒ぶる自然神獣たる怪獣、その中でも最強の「怪獣王」と呼ばれた存在の名を冠した、バリスタスによるHUMA本部攻略作戦が開始された。
「状況開始。」
「状況、開始!」
突如漆黒に覆われたHUMA基地周辺に、一斉にわき出るバリスタス怪人部隊。周囲は鬱蒼とした樹海、隠れる場所はいくらでもあった。それをカバーするためにHUMAは基地周辺に対人監視システムを張り巡らせていたのだが、脱走した瑠璃たちを探すのに気を取られていてバリスタスの侵入を見逃したのだ。
「敵襲だーっ!」
だが腐ってもHUMA、たちまち防衛体制に入る。裾野の森の中あちこちに発進穴が開き、数十機のメカが一度に出撃した。
そして、それぞれがあっという間にチームごとに編隊を組み、そして合体した。
轟音を立てて地面に降り立つ、鋼の巨人達。戦隊ヒーローの各チームごとに配備される、合体式の巨大ロボットだ。

「ふ、ふん・・・」
突然の、あまりに突然のバリスタスの登場。それに一次混乱に陥り駆けていたHUMA司令部は、並んだ巨大ロボットの姿に漸く安定を取り戻した。
「おのれ、バリスタスの貧乏人共。高々1000人単位の戦力でこの基地に仕掛けてきただと?馬鹿か連中は!」
「基地を守護する巨大ロボット軍団、そして入り口を固めるトラップ。我々に指一本ふれるどころか、基地には居る前に全滅するのがオチだな。」
と、口々に軽口をたたくオペレーター達。だが、城町は違った。瑠璃達にまんまと逃げられた怒りに目を血走らせながら、監視システムの一つが写す映像を睨み付ける。
「連中、何のつもりだ?」
そのディスプレイに映っていたのは、巨大ロボット相手にまるで臆することなく立つ、三人の改造人間達。

フェンリル、イカンゴフ、そして蛇姫。悪の博士配下の怪人軍団において特に「三貴子」という称号を持つ改造人間。「衝撃を与える者」の三人の大幹部怪人達と同じモチーフ、それ以外には特に位階も部下もなく性能もばらばらである。
はず、だった。
「ふむ、見せてもらおうか。博士が巨大ロボットなど敵ではないと言ってのけた、その力を。」
促す影磁に、三人は緊迫した表情で頷いた。
そして、ゆっくりと三人別々に構えをとる。フェンリルは、片手を大きく天に突き上げ。イカンゴフは、指を広げた手を目にかざし。蛇姫は両手の指を会わせた。

閃光と、暗黒。相容れないはずの二つの要素が、まるで渦を巻くコーヒーに入れられたクリームのように螺旋を描き混じり合い。
「お、おおっ・・・!」
司令室から見ていたHUMAの面々が呻き。
「ふむ・・・」
影磁が感嘆し、目を細め。
「うおおおおおっ!」
怪人達は驚き、喜び、歓呼し。
「・・・くはは・・・」
博士は笑うように大きく口を開け、そしてその割には静かな声で笑った。

混沌がかき消えたとき、そこに居たのは三人の巨人。フェンリルとイカンゴフと蛇姫がそれぞれ立っていた位置に、一人づつ。
それを影磁は、科学者の目で脳に刻み込むように眺めた。同時に制作者の言を反芻する。
・・・三貴子には、その精神の強さと輝きが満ちたとき、超人獣に変身できるように改造を施してある。我が輩自身が変身する「黒戦皇」は、いわばこの三体のプロトタイプだ。怪獣であり光の巨人である超人獣。黒戦皇は怪獣の割合が高いが故に人より獣に近い姿をしているが、三貴子の超人獣はより「光の巨人」に近い。故に実力を完全に出し切ればその戦闘能力は黒戦皇にすら勝る。
現れた三体の巨人は、確かに有機物とも無機物ともつかない、黒戦皇と何処か共通する超人獣独特の姿をしていた。だが、それと同時に、その体つきは確かに怪獣体型の黒戦皇より遥かに人間に近い。
ある程度の獣性を残しながら、手、足、体の比率・デザインは人間の体型をしている。同時にその加えられた獣性が、それぞれ変身者の個性を残している。
フェンリルのいた場所に立っていたのは、動物、ことに怪人の時の狼よりも勇壮な、獅子を意識した意匠になっている。熱く輝く炎の赤と、透明感のある鋭い氷河の青に、その体を彩っている。博士がつけたこの姿の名は、イミール。
その隣、イカンゴフの位置にいるのは、三度笠を被った騎士、あるいは鎧を着た人型の水母とでも言うべき独特なデザインをした巨人。月色、とでも言うべき微妙な色と純白が微妙なグラディエーションをなす装甲は戦闘的であるにもかかわらず例えようもないほどに美しい。その名は、ハテヨノエイゲツ。
そして、蛇姫の変身した姿は。人型の龍、と言うべきか。深緑の鱗に、黄金色の縞模様が走る。そして装飾のように小さな、雲のように白、夕焼色、濃灰色など様々な色にゆっくりと変化し続ける、八つの翼。名を、龍王姫という。
・・・最も、怪獣部分が多いが故に心の獰猛な面をも力に出来る黒戦皇の方が、我が輩の性にあっているのだが。そして確かに成長した三貴子だが、起動は出来るものの未だ完全とは言い切れない。変身持続時間にしても2分30秒程度と、ただでさえ短い「本物」の変身時間三分にも及ばない。だが。
手に手に剣を構え、その巨人達に機械の巨人が突進する。
・・・それでも、それだけの時間でも。
対してイミール、ハテヨノエイゲツ、龍王姫の三人も、またそれぞれ違った構えから戦闘を開始する。
・・・不完全でも十分黒戦皇に対抗しうる三体ならば、「本物」でもない限りは十分以上なのだ。

突進する戦隊ロボット軍団。戦隊結成順に古いものとなって行くロボットは、クルやデンジ、フラッシュなどの星系で製造されたり精霊や星獣などで構成された代替のきかないタイプを除けば、機体はいずれも改良ないしは新型化されている。
スーツの基本設計は同じなのでこれは変わっていないが、着用者は年と共に熟練ののち衰退するので、これもやはり古い戦隊ほど新しいメンバーを加えている。
故にいずれも第一線級の能力を持ち、同時に軍団として強固である。

はずだったのだが。
キュゴオン!
空気が悲鳴を上げる。同時に重い衝撃音。空気を揺るがし、一体の戦隊ロボが胴をくの字に折って弾き飛ばされ、地面に落下すると同時にスクラップになった。
「フゥァッ・・・!」
何が起こったのかよく分からないままに、また一体打ち倒される。
それを行ったのは、ハテヨノエイゲツの背中近くの空間から「生えて」いる、光り輝く鞭のようなもの。何本か生えたそれは複雑玄妙なくねりを見せながら、ロボット達が止まって見えるほど差のある超高速で相手を叩きのめした。
さらにそれらは相手に巻き付き、同時にその本性・・・光子物質から圧縮前の光へ戻り、光子爆弾となって相手を吹き飛ばした。
それでもそれをくぐり抜けた一体が、巨大化怪人や空中母艦程度なら一撃で真っ二つに出来る剣を振るう。
ずうううううん!ギギィィィィッ!
地響き、硬く鋭いもの同士が擦れる音。
その、ハテヨノエイゲツの硬質だが細い体に向けてふるわれたはずの剣は、全く別のものに当たって停止した。
氷色の、鋭い爪。一瞬で跳躍したイミールのものだ。
「ハァァァァァッ!!」
雄叫びと共に、イミールは剣を跳ね上げる。大きく体勢を崩しまた武器を失った相手と違い、イミールは両の腕がどちらも武器となるのだ。反対側の拳が絶対零度を纏った一撃となり、氷の欠片の煌めきとともに箱状の腹を粉砕する。
それと同時に龍王姫が八枚の雲の翼を展開した。
「デェェェェェイッ!」
巨大化と外形の変質故に幾分の変化があるが、紛れもなく龍王姫に変身した者、蛇姫の声で放たれる気合。
同時に地面から垂直に沸き上がったマグマが、炎の龍となって敵を飲み込んだ。熱気に当てられた木々が燃え、周囲の暗黒と共に超人獣を赤と黒に彩る。
(おっと、このままじゃ味方まで巻き込んじゃうねぇ。)
それを見た蛇姫はすぐさま天変地異を操る力を押さえ、マグマをもとの大地に返した。
それを横目でちらと見、イカンゴフの意志を持つ超人獣が頷いた。彼女自身超高速触手の他にワームホールを開き小惑星を落とす戦略級兵器「滅びの星」を持っているのだが、それを使ってはいない。
(そうですね。気をつけましょう、私達の力の意味を誤ってはいけませんもの)
イミールもまた、本来備わった高熱火炎も時空断烈も用いず、両手両足の爪で次々とロボットを破壊していく。おおよそ白兵戦において、生物のフォルムを持つ超人獣と、箱をつないだような格好の戦隊ロボ達では動きに雲泥の差が生じる。
だが、そんなハードのアドヴァンテージも、この超人獣という特殊な兵器にとっては些末なことに過ぎない。集積・結晶化することにより霊子の制御能力を持つようになる(この状況を光結晶。賢者の石、ブルーウォーターなどとも呼ばれる)光物質、それによって構成された種族「光の巨人」。それを再現するため、悪の博士は逆転の発想を行った。
逆に霊子を動かすことによって光に干渉し、すなわち能力保持者の心力によって光の巨人の肉体を生成する。もともと光物質の精製は通常科学の領域ではない故に、心理外骨格の制作技術の応用が利くこの方法のほうがまだ可能性があったのだ。
(いくよっ、例え地獄に堕ちても!世界のためとは言えないボクたちを、仲間と呼ぶみんなのために!)
すなわち、心の強さ、全ての強さに通じる要素が完成しなければ、そもそもこの姿になることすら不可能なのだ。
異世界での戦闘、博士や蠍師匠ら上級幹部と分断された怪人軍団。
それを必死に指揮し、支え導いた蛇姫。
敵の手に落ち、一時は屈服しかけながらも、再び自らの意志で立ち上がったイカンゴフ、フェンリル。
数に置いて数倍の開きがあろうとも、この程度では負ける気がしなかった。そしてそれは、強さにつながる。

「この力・・・」
体の力と、心の力。
全滅したロボット共、巨大な質量の高速移動により猛然と吹き荒れる風、そして熱と光。それらが渾然一体となって轟く様子を見ながら、影磁は笑った。笑い続けた。
「素晴らしい!素晴らしいぞ!!」
風に乗る高笑い。それと同時に、シャドーがすっくと立ち上がった。
手にした扇を振りかざし、戦国の世の武将のように怪人達に下知する。鳴り響く風に負けない、普段の控えめな様子とはうって代わった大音声だ。
「突入!突入〜〜〜!!」
その響きが消えないうちに、呼応する叫びが・・・降ってきた。
「どすこ〜〜〜い!」
ズゴォォォォォンっ!!
隕石か何かのように。大鉞をかまえた黒い装甲の塊が、巧妙にカムフラージュされた基地入り口へ落下する。
バリスタス一の重量級怪人、鎧武人(ガブト)の大鉞の一撃を受け、さしもの特殊合金防護扉もへしゃげ倒れた。
「ぬはははは、いくぞ野郎共!」
そのままの勢いで先陣きって突っ込んでいく鎧武人。基地の防御システムが火を噴くが、分厚い装甲にものを言わせ強引に突破。
その隙に空挺輸送用甲虫怪人・備遣人(ビイト)の部隊が一気に降下、次々と怪人を突入させる。
甲殻戦隊カニンジャーがすぐさま円陣を組み、それに守られながら基地端末にアクセスした幹部候補生きっどとが、バリスタスに参画するまでは怪盗とすら言われた手腕とチェルシーにもらったデータ基地コンピューターをハッキング、トラップを無力化させる。
「基地防衛設備、沈黙しました。これで軽装部隊も突入可能です!」
「よし、ゆけい!」
「承知。」
僅かな頷きと共に、機蝗兵へと変身するカーネル。カマキリ怪人妖斬鬼マギリ・麗斬鬼マギラ夫妻を加えた増強蝗軍兵大隊を率い、号令する。
「我等これより一陣の血風とならん!人あらば人を斬り、神あらば神を斬れ!突撃!!!」
「ギギギギギギギギギギギギギギギ!」
顎と爪をぎらつかせ、同時に人間の兵士としての練達を忘れない動きで各施設へと殺到していく。
「爪と牙を持つものよ!その力は何のため!その体は何のため!答えろ、今こそ示せ!心の指針に、猛きその身もて追いつくがいい!さあ、進め!」
「ギャオオオオオオオオン!グォオオオオオオオン!」
同時にこの戦いの直前になってようやく実働段階に入ったルストダイノとラプトルノイド、イグアナ怪人JUNNKIの指揮する化石怪人部隊も、咆吼をあげ突き進む。その様はまさに恐竜の群そのもので、見るものを震え上がらせずにはいられない。
この大反攻に、ゲートキーパー脱走で混乱していたHUMA基地は対応しきれなかった。一般職員が逃げ回り、防衛部隊は突撃してきた蝗軍兵・ラプトルノイドに(ミイラ怪人隊は動きが鈍いので予備戦力とされた)彼等が最も特異とする至近距離での乱戦を許し、次々とずたずたに切り裂かれていく。本来それをアシストし量産型怪人を蹴散らすはずのヒーロー達は、保安室から出撃するまえにバリスタス精鋭怪人部隊の攻撃を受け戦闘に突入、完全に分断されていた。
それでもまだ、ヒーロー部隊が怪人を倒せれば戦況はいくらでもひっくり返っただろう。だが・・・

「が・・・ぐげぇっ!!」
絞り出される呻き、骨の砕ける音。ヒョウモンダコ怪人オクトーガの強大な腕力に締め上げられ、バイオヒーロー・マクロファーGが全身の骨を砕かれて絶命した。必殺技・バイオニクスエンドで噴射する溶解液が漏れだし皮膚を焼くが、そんなこと気にもならないように死体を投げ捨て、威嚇のうなりをあげながら前進するオクトーガ。
その姿に、そして何より正義のヒーローが殺られたという事実に、他のヒーロー達は震え上がる。
「お、おのれよくも!正義の怒りを受けて見ろ!ゴールデンソード・はやにえ串刺し突き・・・っ!?」
半分思考停止状態で繰り出されたモズをモチーフとしたヒーロー、シルバーモズのゴールデンソードが、それを握った手と一緒に吹っ飛ぶ。
「ぎゃああああああああ!手、手がぁっ!俺の手ぇぇぇぇぇ!」
シルバーモズの両腕を切断したのは、トリカブト怪人アクニジン・・いや、そのもう一つの人格と体である、シーファイター・カブトレオンの、カブトガニの尾を元にした剣だ。
「けっ、ばーか。なぁにが正義だよ。」
床をのたうち回るシルバーモズを足で踏んづけてとめ、ぐりぐりと顔面を踏みにじる。十二、三歳の少女怪人とは、とても思えない残酷な仕草。
「悪徳企業から賄賂もらって犯罪を見過ごし、より強力な力のために人体実験をし、あげく人身売買にまで手を染めたてめぇらは、誰がどう見ても外道なんだよ。外道と悪、正義ってお約束なしで勝負すりゃ・・・あたし達が負けるわけねぇだろ!」
怒りの叫びと共に、シルバーモズを剣で滅多刺しにしてトドメを刺す。
「その上、口封じであたしを処分しようとしたしね・・・ざまぁ見な。」
「な、まさかお前、カブトレオ、んぎゃ!?」
問答無用、驚愕の余り武器のブーメランを取り落として 呆然としていたマスク・ザ・ビクトリーを頭のてっぺんから股まで一刀両断に切り捨てる。
「ふん・・・」
つまらなそうに鼻を鳴らすカブトレオン。それを一歩下がった地点から、異形の顔にも解るほどの悲しみを浮かべ、見守るオクトーガ。
そのような微妙な例外を除けば、総じてバリスタスのメンバーの意気は昂揚していると言ってもよかった。何しろ高々前線戦闘部隊千人程度の彼等が、「黄金の混沌」期以来長きに渡り世界を維持してきた組織HUMA、その中でも最大最強の極東支部を圧倒しているのだから。
「おぉーっしっ、行け!行けぇぇぇっ!!」
機能を停止、ごろごろと通路に転がる再生怪人軍団を踏み越え、叫ぶJUNNKI。バリスタスアジト周辺攻防戦であれ程彼等を窮地に陥れた再生怪人達は、悪の博士の「魂の闘場」で一体残らず機能停止している。
その号令に答えるように、通路に駆け込んできたHUMAヒーロー達を、マギラ・マギリ夫妻が迎え撃つ。
「ふっ!」
「はっ!」
攻撃、防御、また攻撃。二人が一体となったかのような連係攻撃に、単純に殺到した相手は為す術もない。攻撃を弾かれ、逆に切り刻まれていく。普段はふざけた印象の夫婦だが、影磁制作の戦闘能力は折り紙付きだ。
こうなってしまえば。強化服と改造武器、それと僅かな人体強化で作られた量産ヒーローより、完全な人体改造を行われ、かつまたシーファイター基地での戦いで見せた高い練度を持つバリスタスがその力を存分に発揮する。
「いい、いいですよこれは。・・・勝てる、勝てるっ!」
自らも両腕の刃でばっさばっさと敵を切り伏せ、黒い体を返り血で染めながら、シャドーは勝利を確信した。
しかし。
この激動、そう簡単に終わるはずもなく。更に新たなる要素の加入により正義と悪、ヒーローと怪人、ヒーローになろうとした者、老いたヒーロー、ヒーローを捨てたもの、悪を目指したもの、悪以上たらんとしたものの戦いが混じっていく。

「てっ、撤収〜〜っ!!」
量産ヒーロー部隊が目の前で壊滅するのを見て、特甲隊は大慌てで逃げ出した。元々現地国家、この場合日本の警察から選抜結成され、装備を配給されただけの彼等の戦闘力はHUMAにはるかに劣る。そのHUMAが劣勢となれば、彼等には手も足も出せない。判断としては極めて妥当である。
そしてまたバリスタスにしても、逃げるものを相手にしている暇はない。だが、それを見逃さない、否見逃すことがどうしてもできない者がいた。
カブトレオン。正義を名乗るものに手ひどく裏切られた彼女は、僅かでもそれに類似する者を許すことが出来なかった。
「がぁぁぁぁぁぁ!逃げるなっ!!」
喉を潰さんばかりの叫びをあげ、甲殻で作られた剣を振る。その射程圏に確実に逃げる特甲の背を捉えて。

ばきぃぃぃん!
「ぐぁっ!?」
手に返ってきた猛烈な反動に、カブトレオンは獣のような驚きのうなりをあげた。どう考えてもそれは、人間を斬った手応えではない。怒りと血に濁った頭にも、それははっきり認識できた。第一、逃げ延びる特甲の誰一人として傷ついた様子はない。
それは、横で見ていた シャドーも同じ事だった。確かにカブトレオンの剣は弾かれた。だが、ある意味突然変異で生まれたその剛剣を弾いたのがなんなのか、それを見切ることが出来なかったのだ。

その答えは、意外な形で示された。
音楽、ギターの音色という形で。
シャドーは気付いた。かなり古いうえに、そう有名なわけでもなかったが、昔見た「ある資料」によってその曲を知っていた。確か、「二人の地平線」という曲だったはず。
ギターの音色に続くように現れた、その姿を見て直感は確信へと変化した。
その奇妙な登場に、流石のカブトレオンも驚いたのかじっとそのギターを弾く男を見つめている。黒い皮の帽子に同じ素材のズボンとジャケット、赤いシャツ。年齢はどうにもよく分からない。飄々とした青年のようで、同時に落ち着いた印象もある。何にしろ年齢を感じさせない整った顔立ちの男だ。
男は言った。
「お嬢さん。お怒りはごもっともかも知れませんが、無関係な相手を背中から斬る、ってのは、ちとやりすぎってもんじゃあないですかい?」
気負いのない気障な口調。わざとやっているのではなく、素でのものだ。
いいざま男はひょいと、演奏していた白いギターを背中に背負う。
その態度に、カブトレオンは狂う。
「がぁぁぁっ!!」
ギッ!
再び、その剣は受け止められた。今度は弾くのではなくつばぜり合いになったので、それが何なのか確認できる。かなり変わった武器だ。十字型の赤い短剣で、先端部に折り畳み式の鞭が仕込んである。下手な持ち方をしたら自分の手を先に切ってしまいそうなその武器を使い、カブトレオンの剛剣を男は片手で受け止めていた。
「秘密結社バリスタスの改造人間、同時に元HUMAシーファイター部隊ヒロイン、アクニジン/カブトレオン。怒りと哀しみ、そして新たな体を得た剣術は、そのへんのヒーローなど及びもつくまい・・・だがその腕前、日本じゃあ二番目だ!」
言うなり、男の手が動いた。その場に居たバリスタスの改造人間、誰一人として関知できないほどの高速で。鞭が唸り、刃が煌めく。
バババシン!
硬い者が砕ける音と同時に、一瞬でカブトレオンの剣と装甲が砕け散った。それで居て、その下の肌には傷一つついては居ない。それら甲殻に加えられた攻撃に混じり同時に男の一撃はカブトレオンの腰ベルトのポーチも弾いていた。舞い上がるポーチを鞭が素早くたたき、礫のように錠剤をはじき出してカブトレオンの口に放り込んだ。その上で、薬を吐き出してしまわない程度の軽い、だが的確な当て身。
それだけのことを僅か一瞬でやってのけた。
「ぐぉっ!?」
当て身で飛んだカブトレオンをキャッチすると同時に勢いに負けて後ろに転がったオクトーガに、にぃっと男は笑う。嫌な笑い方ではない。むしろ得意満面の少年のような・・・若々しい印象を受ける笑い方だ。
「あぁ、そのお嬢さんに目が覚めたら伝えといてくれませんか。日本一の使い手は・・・」
くっ、と指先で帽子を押し上げると、親指で自分の顔を指さし、笑う。
「俺だ、ってね。」
ぱち、ぱち、ぱち。
ゆっくりと拍手をしながら、それでいてアクニジンを抱きかかえるオクトーガを守れる位置へ移動するシャドー。
「ふむ、流石流石。私立探偵早川健、あるいはさすらいのヒーロー快傑ズバット。」
彼の記憶していた、「ある資料」。それは黄金の混沌期、友を殺された復讐に日本中の犯罪組織を統べる大組織ダッカーをたった一人で壊滅させたさすらいのヒーローの情報。「二人の地平線」は、その男が友の鎮魂に、いつも弾いていた曲。
一発でそれを言い当てたにもかかわらず、男の反応は冷静そのものだった。軽く肩をすくめ、笑う。
「どちらでもいいさ、どちらでもありどちらでもない。ただ、悪党を倒すために俺は居る、それだけでいい。」
だが、シャドーの言葉はまだ終わっていなかった。否む城こちらこそが本命。叩き付けるように彼は言い放った。
「・・・それとも、風見志郎、仮面ライダーV3とお呼びしたほうがよろしいかな!」
「!!」
一瞬、男・・風見志郎は虚を突かれたような表情をした。が、またすぐに飄々とした風情を取り戻す。
「ほぉう・・・よく御存知で。」
「それだけではなく初代戦隊である秘密戦隊ゴレンジャーの副隊長アオレンジャー、二代目戦隊ジャッカー電撃隊の行動隊長ビッグワン・・・まさにヒーローの中のヒーロー。そんな奴が何人もいる、と考える方がむしろ不自然だ。最近日本のレスキューポリス長官に転属して、ヒーローは引退したと思っていたが・・・性懲りもなく昔の衣装持ち出して・・・」
「はっはっは。世の中の正義の味方が、こんな連中ばっかりと思われたら迷惑だからな。本物、ってやつを一つ教えてやろうと思ってな。強さにしろ信念にしろ、団結にしろ。」
「・・・団結?」
嫌な予感を、感じた。
「そう、団結だよ。」
笑い、上を指さす風見。つられて天上を振り仰ぎ、シャドーは叫んだ。
「まさかっ・・・!!」
同時に、腹に響く重い爆発音。そしてそれまでとは全く勢いの違う戦闘音が、基地の隔壁を通してゴキオンシザースの高感度感覚器に捉えられた。同時に、基地内に展開していた各部隊から、大量の通信が入ってくる。
「仮面ライダーZXが!?それとレスキューポリスに自衛隊の特務、撤退した特甲や戦隊の一部もそれに合流しただと!?」
幹部改造人間として調整された通信用触角、それで受信される情報はまさに予想外、驚愕に値する事態である。
相手はHUMAのみ、それも再生怪人部隊を押さえ込めばあとは数こそ多かれ練度で恐るるに足りない相手と踏んで決行した作戦である。
(それだけではない。上空に宇宙刑事機構の母艦が三隻。それもドルギラン、グランドバース、バビロス、宇宙刑事中最精鋭の三人、ギャバン・シャリバン・シャイダーの船。それに加えて、仮面ライダーXの存在も、今確認した。)
地上の三貴子からの報告に継いで入ってきたカーネルの偵察結果は、作戦の完全な破綻を意味していた。これでは地上から進撃するヒーロー達と、目の前に展開するHUMAとに挟まれたバリスタスは、三つどもえの中で一番最初に壊滅してしまう。
おまけに前線、JUNNKIの報告では、HUMAも最後の抵抗か、今まで温存していた未知の新型兵器を、実験段階の危険きわまりないものすら投入しているという。
さらに。
(きっどです!戦略兵器の管制室を占拠しましたが・・・兵器自体を押さえられています、ミサイル類は推進機関を壊されて、全部発射不能です!)
この報告である。この基地を襲撃した戦略目的である、大威力戦略兵器奪取により攻撃を抑止あるいは敵を撃滅するという計画は、根底から破綻してしまった。
「大丈夫です。」
「・・・lucarさん!?」
背後から聞こえてきた高いが静かな声に、交信に集中していたシャドーは驚いた。lucarは六天魔王、いやバリスタス怪人の中でも戦闘能力の低いほうで、本来前線に出るタイプではない。自分の能力は知っているし、それを卑下することもなく。むしろ皆の精神的支柱としてこそ彼女は機能している。
シーファイター事件の時は、あれは例外とでも言うべきものだ。
「大丈夫です、私達は負けません。なぜなら・・・」
イルカのような顔に似合わず、凛とした声を発するlucar。
「まんぼうさんのお姿、今日まだ見ていなかったでしょう?」
にこり。
一転、lucarは笑った。

「それは・・・そうですが。彼が何か仕掛けを?」
自信ありげなlucarだが、シャドーは首をひねらざるを得ない。まんぼう、あの兄に輪をかけて非常識ではあるが何処か稚気の抜けきらない性格の幹部。彼にこの状況をひっくり返せる何かがあるのかどうか、判断しかねたからだ。
もっとも、lucarも考えがあっての行動、抜かりの有ろうはずがない。
「まんぼうさんの能力、ものを際限なく吸い込んだり瞬間的に移動したりする能力は、体内にある次元の歪みを利用してのもの。いえ、より正確に言えばその次元のゆがみこそ彼の本体、空間自体に記録された意志のプログラムのようなもの。その歪み故に彼の周囲には喜劇的な事態が確率を無視して進行する。私をシーファイター基地から救ったのもそれ。そうでなければ、腹踊りなんかで相手の動きを止めるなんてまね、出来るわけがない。」
lucarの口から、それまでシャドーも知らなかったまんぼうの体の秘密が語られる。lucarも恐らくシーファイター基地襲撃事件の後に知らされたのであろう、いささか自信なさげだ。それだけ、あのまんぼうの正体は訳が分からない。
「今まんぼうさんはその喜劇空間と同じ要領で基地の中の空間配置を滅茶苦茶にしているわ。だから上から新しく来た人達は当分「彼等の意志では」私達の所にはこれないそれぞれの戦場はそれぞれ断片的に進行する。そうなれば数の少ないヒーロー、大半の部隊は妨害を受けずに行動できるわ。ヒーローと接触する部隊も、それに値する精鋭を選んでいる。あとまんぼうさんの指揮下に有る仮面怪人部隊も戦闘介入を始めたわ。・・・私達は、負けない。」
静かに、だが確信を持って。堂々と。lucarは風見志郎を、仮面ライダーV3を見据え、言った。
その様子を見て、ち、と風見は僅かに舌打ちをする。だがその僅かな音は、すぐにかき消された。
HUMAがロボットなどの装甲に使う特殊合金のかみ合う音、そして重みのある足音によって。既にかなりの深部、司令室に近いところまで突入していた彼等を迎撃するために上がってきた、HUMAの防衛部隊だろう。
風見志郎はその音のする方向を向き、lucarとシャドーに背を向けた。
「それに、あなた方は今、HUMAと戦っているのでしょう?私達とも・・・本当に本気で、ココまでかく乱された状況ででも戦いを強行しますか?」
同時にかけられるlucarの言葉に、やり返しながら。
「確かに、村雨や神の奴らはお前さんがたの事を高く買ってるようだ。だがな、俺はまだ信じた訳じゃない。・・・見せてみるんだな。俺がHUMAの連中を倒すまでの間にっ!」
風見志郎は跳んだ。


そして断片化しながらかつ同時進行する、地上。
「はぁ・・・」
戦隊ロボット部隊を破壊し尽くした三貴子は、超人獣形態を解きもとの姿へと返っていた。
金属製の巨大な手足が散乱する中、三人は地面に仰向けに寝転がっている。所詮「光の巨人」と比べればまがい物である超人獣の力をふるうには、相当な負担が体にかかる。
「つっ、疲れたぁ〜」
疲労した狼そのままに舌をだらんとたらし、荒い息を付くフェンリル。三人の内で最も体力のある彼女でもこの有様であり、戦闘などとてもおぼつかない。蛇姫は激しく息を付いていて放す余裕もなく、イカンゴフの至っては失神寸前だ。
故に彼等は基地内へ突入せず、既にHUMAの部隊が駆逐された地上に残るように命じられ、休息していたのである、が。
「っ、誰!」
立ち上がり、周囲を警戒するフェンリル。自分自身その感覚を間違いであって欲しいと願いが、改造人狼のとぎすまされた感覚が、それを確実な現実だと伝えている。
周囲を取り囲む、敵の存在を。疲労にがくがくと笑う膝を奮い立たせ、フェンリルは闇に目を凝らした。戦えるとは、勝てるとは思えない。だが、今辛うじて動けるのは彼女しか居なかった。
その金色の瞳の前に、気配の一つが突然に姿を現した。それまで光学迷彩に身を包み、それだけではなく気配を断っていたのだ。
闇の中に、緑色の複眼が光る。僅かに揺らぐロボットの燃える炎に照らし出されたその姿、力強い均質な装甲と、赤と銀と黒の色に彩られた姿は、何とか意識を保っているイカンゴフの増設頭脳ユニット中に存在していた。
伝説の十体の改造人間、仮面ライダー。その最後にして最強クラスの一体、仮面ライダーZX。内側からの改造だけではなく外側からも強化皮膜で体を強化するMRクラス、そしてさらに脳以外の体全てを機械に置き換えたパーフェクトサイボーグであるZXの姿は、極めて均整が取れている。
取り込んだ生物の要素がもろに出た、怪物のような普通の改造人間とは違う。だが。その体から立ち上る殺気は。
気圧されそうになる自分を、フェンリルは内心で必死に叱咤する。弱い自分とは決別すると決めた。だがその決意すら押し流しそうなほどに、全身から漂う強う殺気。敏感な獣だから解る、感覚。一歩でも押し出されたら、本能に任せて逃げてしまいそうな。それを必死で押さえ込む。
そして、ZXが一歩前に出た。
「ウルトラ旋風突きっ!」
「ジオ・インパクト!」
ズドォン!
一瞬後、巻き起こる風と重力の打撃を受け止め、一歩下がる。同時にその風がなんなのかを理解する者は、慌てて一歩前に出てしまった。
「待ちゃあがれっ!俺の目の黒いうちぁ、てめぇらに好きなまねさせねぇぞっ!」
「瑠美奈君っ!?」
「チェルシーさん・・・?」
疾風のゲートキーパー、浅葱瑠美奈。重力のゲートキーパー、チェルシー・ローレック。ひとたび退いたはずの彼等が、ZXの前に立ちはだかった。シャルマが居ないのは、恐らく瑠璃とシエルを護衛・脱出させるためだろう。
「何してんのさ、下がって・・・」
「うるせぇ!出来るかそんなこと!」
博士が彼等を下がらせた理由をはっきりと認識していたが故に、自分の現状を忘れた蛇姫。そしてそれを認識しているが故に、逆に退くことを捨てた瑠美奈。
言い合うゲートキーパーと改造人間を前に、ZXは間合いを計っているのか、いやそれ以外の何かをはかっているのか、暫く距離を置いて見ていた。
そして、自然に、そして不意に。再び一歩を踏み出し、
「この破壊・・・その三人がやったのか。そいつらも・・・怪人なのか?」
瑠美奈に問いかけた。
機械が発しているような、感情の音頭を感じない声。そして同時に、歯車が巻き込んだ者を押しつぶすように全てを蹂躙しそうな、機械的な殺気を感じる声。
「へっ、はずれだ間抜け。この人達がやったのは破壊じゃねぇ。正々堂々とした戦いだ。怪人なんて名は似合わねぇ。この人達はただの、善も悪もない、強い意志に見合う体の・・・人間だっ!」
ギリギリの緊張感に全身を絞られながら、何とか瑠美奈は言いはなった。
暫くの、沈黙。
「そうか・・・それが、聞きたかった。」
殺気が緩み、消える。仮面をその名に名乗るとおり、表情の掴めないMRタイプ改造人間の顔。それでも雰囲気ではっきり解るほどに、村雨、仮面ライダーZXは笑っていた。
「俺は無駄な戦いはしない。バダンの一員としても仮面ライダーとしても、もう飽きるほど殺したからな。だから両方の思いが解ってしまう。」
何処か寂しい、笑顔の仮面。語りながら、ZXは膝に付いていた楕円形の物体をあさっての方に放り投げた。強力な指向性爆薬であったそれは、一撃で地面の下に隠された装甲をぶち破り、突入口を作る。
振り返ると、ZXは言った。彼が率いてきた者達へ。ヒーローと呼ばれるほどの力を持てずHUMAに入れなかった者と、今しがた敗れ、そしてHUMAに入れなかった者に助けられ、漸くと真相を知り、この入り口の前に立った者に。
「行くぞ。お前達・・・だが、誓え。出来る限り殺すな。出来る限り、憎むな。きれい事だがな。沢山憎み、沢山殺した、出来の悪い先輩の忠告だ。」
そして彼等も、奈落の迷宮へ消えていった。
それを見送る者達、その瞳に、様々な色の影を残して。

まんぼうの能力、その根元の力による空間湾曲により、基地内の通行は分断され、それぞれの場所で同時に様々な自体が進行した。
混乱とも言えるが、案外陸戦では良くある状況である。単に相互連絡の取れない昔の戦に戻った、と言うことだ。

「だーっ!!」
こけつまろびつながら異常な素早さで、女は巨大なミサイルサイロから通路へと転がり出た。同時に、彼女が立った今まで居た空間が爆発する。突き抜ける爆風に、彼女の、実際酒が飲める年齢にも関わらず一見中学生程度にしか見えない小柄な体が吹っ飛ばされた。
「大丈夫、ですか?」
「な、何とか・・・?」
灰青色の装甲に身を包んだ、「黄金の混沌」期に制作されたロボット刑事・Kの後継機、機動刑事ジバン。金属製の彼の体がかなりの損傷を受けているにもかかわらず、意外にも女・・・戦史研究室の桜は転がって目を回した程度ですんでいた。
それが、一見可愛く元気がいいだけの女の子に見える彼女が、戦史研究室に所属する理由足る能力によるもの。
「ちっくしょう、バリスタスの連中、滅茶苦茶しやがるぜ。」
そんな桜と対照的に、爆風程度ではこゆるぎもしない巨躯の男、月形が獣を思わせる声で唸った。
「諦めた・・・?いや、ここでこの戦略兵器を手に入れることがそもそもの目的なんだから、それはないわよね。ならば・・・」
必要ないと判断した。より大威力の兵器、大神龍が有ればたしかにこんなものは必要ない。だが、それなら何故最初から大神竜確保に向かわなかったのか。
「ふん・・・」
その横で、壁により掛かりながらZXはつまらなそうなため息を付いた。突入したはいいが、まんぼうが作りだした空間湾曲のせいで、戦闘に介入することが出来ない。
横目を使い、騒ぐ桜達と、待機するレスキューポリス達や自衛隊の、原始的な装甲服を見るZX。
(とはいえ、こいつらに死者が出来ないと言うのはありがたいかも知れない)
「・・・この通路は通れるようだがな。」
いくつかつながっているはずの通路の内の一つを覗きながら、MRクラス改造人間特有の優れた感覚器官で空間湾曲が仕掛けられていない事を確認する。
それと同時に桜はジャケットの裏から中国風の短剣を一本取りだし、指と糸で結ぶと壁面に突き立てた。
「この通路の先、気伝獣の波動を感じる。大きい、大神龍だわねこれは。」
目を閉じ、精神を集中させながらも、桜の表情はますます不可解に彩られていく。大神龍に通じる通路が、まるでそこにいけとでもいわんばかりに封鎖されていないとは。
「?」
首をひねる桜。
だが、ZXには漠然と、、その理由が解るような気がしていた。

「っぐ、るぅ・・・っ!」
JUNNKIは、怒りと嫌悪に歯を食いしばっていた。同時に、ひっ捕らえたHUMAの科学者の腕にJUNNKIの爪が食い込み、みっともない悲鳴を上げさせる、
それは、ここを守備していた黒杖隊の霊子弾で傷つけられた皮膚のうずきが故ではない。目の前に、広がる光景。
「糞がっ!」
ようやく言葉になったそれは、普段の彼の言動とは思えないほど汚い。
だが、JUNNKIに言わせれば今現在彼の前に有る光景の方がよほど「汚い」。
潔癖なまでに消毒された研究室。分類され、保存処置され、並べられた標本。きちんと整頓された研究資料。JUNNKIによって破壊されたが、それを守護する防衛機構と兵士の整然たる配列。

そして、丁寧に解剖された、何人もの少女。

魔法少女と呼ばれる存在。それはHUMAの作りだした物ではない。JUNNKIも詳しくは知らないが、かつてこの世界のほとんどを創造し、干渉し続けてきた上位次元から派遣され、あるいは力を授けられるのだという。
故にその「魔法」という力はこの世界の科学からすれば異質、謎であった。魔法の不完全な模倣としての霊子兵器、その運用が始まったばかりである。だが・・・
(だからといってこんな方法でっ!)
カブトレオン、あの哀れな娘と同じだ。本当に純粋に、正義の存在を信じて集まった年端もゆかない者達を、彼等は知識欲のために生体解剖したのだ。見れば、彼女たちがまだ生きている内に施した様々な実験、その記録や使用した道具・施設も残されている。科学者であり戦士であるバリスタス幹部のJUNNKIには、それらからその実験の様子がまざまざと浮かび、苦痛となった。
更に腹立たしいのは、その実験の有様だ。残酷なだけではない。無意味なものがあるだけではない。科学的探求とはおおよそ離れた、歪んだ淫猥な楽しみのための、実験とは言えない行為までその形跡は少年の脳に教えていた。
「絶対、許さ・・・んっ!?」
どぉぉぉぉん!!
突然の、腹に響く轟音がそれまでJUNNKIの声以外に音の無かった空間を支配する。
その向こうから現れたのは、角張った寸づまりの姿をした、戦車ほどの大きさのロボット兵器だ。通路内を起動できるギリギリの大きさで、短い手足だがパワーはありそうだ。
「何だ?これまでの交戦データにない。」
「ふ、ふはははははっ!あれは我々が「魔法」研究で完成させた新兵器、ニューロノイド「覚醒人」だっ!魔法使いの脳を内蔵することにより」
「うるせぇ!」
どん。

ぐしゃ。

激昂したJUNNKIの回し蹴りをくらい、逃げだそうとしていた男は吹っ飛ばされニューロノイドの足下へ。あっさり踏みつぶされてしまった。
「ああっ、なんてことしやがる!」
仲間の科学者を踏みつぶしてミンチにしてしまい、悲鳴を上げるニューロノイドパイロット。
その情けない声に対してJUNNKIは怒号を返し、跳躍する。
「うるせぇ!てめぇらも同じようにぐちゃぐちゃの肉塊にしてやるっ!」
ダッシュの勢いを乗せて、高周波振動爪がうなりをあげて突き刺さる。
キン!
「舐めるな!ニューロノイドの力を!」
だがその怒りにまかせた一撃は、空中に張り巡らされた光の壁に防がれた。
魔力によるバリアー。JUNNKIの目が見開かれる。
MRクラス改造人間である彼の腰部エネルギー発生ベルト、その中枢をなす霊石ネオアマダム。「千切られし過去」に存在した、仮面ライダーの原型といわれる古代戦士のエネルギー源だった光結晶が、人間精神以外で唯一霊子に干渉しうる能力でもって、ニューロノイドの中で起こったことをJUNNKIの脳に伝えたからだ。
機械に接続された魔法使いの脳が電気的・化学的に刺激を与えられ、かすかに残る自我に苦痛を与えることによって操作されている。
その苦痛を感じるJUNNKI。それは、人としてはともかく、今戦っている戦士としてはまずかった。隙をつき、ニューロノイドが動く。
強制的に組み上げられる呪文。それによって得られる霊子の効率は低いが、それをただ単に放出するにとどめる魔法少女達の感性と異なり、より凶悪な、本気で相手を殺すつもりでの兵器の思考で、それは最悪の形で応用された。
「魔破戮!」
「がっ・・・!」
打撃と、肉を破る鈍い音。JUNNKIの体に打ち込まれたのは、人が生み出したもののなかで最も残虐な害悪の一種、放射能であった。より正確に言うので有れば、魔法による物質変換で作り出された高濃度放射性物質を、JUNNKIに打ち込んだのである。
改造人間相手に、並の毒物など効果をなさない。ならば分解されるかも知れない化学兵器より、生物であるなら何らかの変調を来すであろう放射能を。
幼稚なまでに単純で、それ故にあまりに非道。
重いウランによる打撃自体の反動で吹き飛ばされ壁に激突、崩れ落ちる瓦礫に埋もれJUNNKIは姿を消した。
「うははははっ、やったぞ!」
「おおーーっ!!」
歓声を上げるニューロノイドののパイロットたち。
が、それはすぐさま、凍り付く。
蒼い、炎によって。
「ぐ・・お・・・おおおおおおおおっ!」
バシバシバシッ!
何かが爆ぜるような音と共に、蒼い閃光に飲まれ、瓦礫が消滅する。
「せ、生体チェレンコフ光!?馬鹿な!」
ニューロノイドの分析機器はその光の正体を正確に分析した。だが、パイロットの思考はそれを拒む。
生体チェレンコフ光。それは奇しくも、バリスタスがこの作戦の命名に用いた、核の炎によって生まれた怪獣の王、呉爾羅に由来する。体内に放射能をエネルギーに変換する器官を持つ呉爾羅は、核から発せられる放射線を吸収し、余った光と熱を放出する。自然を癒しながら、物質の根元の力をもてあそんだ愚か者に粛清の炎を浴びせる、黒い荒神。
それが、それのみが発することの出来る、蒼い滅びの光。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛・・・・をおおおおおっ!!」

カッ!
更に激しく、迸る光。それは、研究室も、ニューロノイドも、全てを飲み込み。

まるでくりぬかれたような、球形の空間。その真ん中に、ぽつんとJUNNKIの姿。悔しいような、すっきりしたような、微妙な表情を浮かべて。
まるで何事もなかったかのように、傷のふさがった腹部を撫でる。
「・・・つ・・・。役には立つけど、使いこなせないんだよな、この力・・・。呉爾羅因子。おかげでただのイグアナ怪人、ってことになっちまったが・・・」
ぼやきながら、部屋のあった空間を後にして、進攻を再開するJUNNKI。


ピカァァァァァッ!!
土星を思わせる、金環のハレーションが眩しい閃光。同時に、それを受けた壁が、防護扉が、HUMA兵士が、まるで風化した石膏像か何かのように粉々になって砕け落ちた。
それまでその防護扉並びに守備する部隊と交戦し、苦戦を強いられていた戦闘員・蝗軍兵部隊が歓声を上げる。
「おおおおおっ!」
「流石カーネル閣下!」
それに、歓呼に名を乗せられた女は、僅かな微笑みと、再び先陣を切ることで答える。
そんな今の彼女の装備は、普段のそれよりも更に危険だ。形態名機蝗駆逐兵マシーネンカーネル・ヤクト。
両手両足の隠し武器を外し、かわりに目一杯積み込んだのは・・・悪の博士謹製の強力な各種爆弾だ。外見は手榴弾だが、その炸薬は超科学の成果。
プラズマ爆弾、超合金弾丸クレイモア、電子冷凍爆弾、超音波振動弾、そして先程使用した、ケタ違いに強力な電磁波で分子間引力を切断し、全ての物質を崩壊・粉砕させるライノメタル加速器爆弾。
その破壊力でもって強行突破。カーネルはこの戦場に駆けつけたわけだ。その証拠に彼女の通り過ぎた通路や部屋は、全て完膚無きまでに破壊されて、後続部隊の安全な通り道となっている。
しかし今、カーネルはその装備を自ら強制排除した。全ての爆薬を使い切った今、デッドウェイトとなるホルダーと投擲装置は、もはや邪魔でしかない。もっとも、そうなると装備は手の爪のみとなってしまうが、カーネルにはまだ奥の手があった。
そして今、目の前でその奥の手が必要になりそうな戦いが起こっている。
彼女があけた穴、その先の部屋に居るのは、二人。その内の一人、ちょうどカーネルに背中を見せるようにして立っている男。その男の場合、特に。
彼の名、仮面ライダーX。それが故に。
「貴様は・・・許さんぞ。」
低く、迫力のある怒声。銀髑髏のようなXの仮面、その中でひときわ赤く輝く複眼が、はったとばかりに目の前の男を睨み付けていた。
水のゲートキーパー、白龍。
「それはこっちのセリフというものだ。貴様等のおかげで、俺が今まで築いてきた地位は滅茶苦茶、いやおしまいかもしれん。この鬱憤、はらさずに居られるか!」
普段のクールな印象をかなぐり捨てて、こちらも怒りに身を震わせている。
もっとも、その怒りの質は正反対といってもいいのだが。
「水珠!」
白龍のかけ声と共に放たれる、高圧縮水の弾丸の雨。
「ライドルスティック!」
パパパパン!
それは、Xの振りかざした棒によってあっさりとたたき落とされた。
もっとも、それは流石に白龍も予想していたようだ。仮にも相手は伝説の戦士たる仮面ライダーの一人なのだから。
実際、水珠はあくまでも牽制に過ぎなかった。その隙に、白龍はさらに巨大なゲートを展開する。
「かかったな・・・爆水洪!」
ドォォォォォォォ!!
「・・・効かないな。」
「なっ!?」
戦車すら潰してしまう程の、水の爆発。そのただ中に有りながら、Xはむしろ涼しい顔をして立っていた。
まるで、水を得た魚のように。
「残念だが、俺は元々深海開発用のカイゾーグだ。水を使った攻撃は通用しない。そして・・・命をはぐくむべき水を、人を傷つける悪の牙に用いるものを、俺は許さん。」
いいながら、流れるような動きでXはライドルスティックを構えた。
「とうっ!!」
先程白龍が放った水が、全て一気に逆流した。見るものにそう錯覚させるほどの激しさを持つ、白銀の棒の連撃だった。
咄嗟に水珠を放とうと延ばされた腕がへし折られ、強化繊維スーツを障子紙のように貫通して肉も骨もぐしゃぐしゃに叩きのめされる。
「ぐげべげこごぼっ!?!」
その打撃の嵐最後の一発で弾き飛ばされた白龍は、クレーターが出来てその中にめり込むほどの勢いで壁に叩き付けられた。それでも辛うじて生きていた彼の目に、ライドルを鉄棒の前周りをするように掴み跳躍するXライダーの姿が映った。
一瞬空にXの名を刻むように両手両足を広げた後、放たれる急降下蹴り・・・タイプMR特有の気流操作能力によって姿勢を制御せねばあり得ない機動。必殺の一撃、ライダーキックだ。
「X!!キーーーーーーーック!!!」
「!!」
まともに食らった白龍は、もはや声も出すことが出来なかった。その一撃で胸郭部を完全に破壊され、声も呼吸も命も、恐らく一緒に停止してしまったからだ。
残虐、といっても仕方がない。戦いである以上、むしろ命を懸けない方が非道なのだ。
何度も同じように敵の血で染め上げたであろうブーツを、今新しく倒した敵の体から引き抜き、Xライダーは着地した。同時に、背後からそれを見ていたカーネルにも緊張が走る。
仮面ライダーの卓越した感覚は、既に見守るカーネル達を捕らえている。白龍が消えた以上、正義を掲げる者と悪を名乗る者達の戦いは、何時始まってもおかしくはない。
だがこの間には、より微妙な心理的壁が存在する。
シーファイター基地での戦いを目撃した仮面ライダーX。部下の身を案じると同時に、仇の同族である仮面ライダーに対し複雑な思いを抱くカーネル。
緊迫に凝固せんばかりの空気。
そこに、不意に電子音が響いた。
Xとカーネル、そして蝗軍兵と戦闘員たちの視線が一点に集中する。
ぐしゃぐしゃになった白龍の体、そこからその音は発せられていた。

そのころ。
ぐぞぞぞぞ・・・
「ぬ!?」
突如、周囲に転がっていた再生怪人達が一斉に動き出したことに、隔壁をぶち破って降下中の悪の博士は眉をひそめた。彼の「魂の闘場」の力によって、意志を持たない再生怪人は機能を停止しているはず。
ならば。
博士の仮面にある八つの瞳が、それぞれ独立した生き物のようにぐりぐりと動き回る。
電波や霊子の流れを把握し、博士は状況を理解した。何者かが、再生怪人を直接操縦し呼んでいるのだ。そうすれば魂のないものにも操縦者の意志が反映され、「魂の闘場」の制限から外れる。
だがそれは同時に、極めて奇怪な事実をも現していた。
遠隔操作全てが「魂の闘場」を逃れうる訳ではない。自分を安全な場に置こうとする姑息な策を、博士は許さないからだ。つまりこれらは、比喩的な意味であると同時に実際的に・・・操縦者の体の一部となるということだ。つまり・・・

「なっ、何ぃ!?」
それは、Xライダーたちにとってはあまりに突然だった。突如、部屋の換気口などというとんでもないところから、再生怪人の群がなだれ込んできたのだ。
無論そんな狭いところから大量の怪人がそのまま入ってこられるわけはない。特に改造人間は武装や装甲の追加で、生身の人間より体格が大きい場合がほとんどなのだ。
だが、奴らは入ってきた。強引に。触角や角や腕や足や首が、もげてしまうのもかまわずに。
それは明らかに自分の意志を持っているものの動きでは無かった。だが、その群の全体としての行動はまるで群全体に意志が有るかのように整然としている。全員が一声も発しないので、まるで幽鬼の行列のようで見るものに恐怖を及ぼす。
彼等の目的は、白龍だった。そのぼろぼろになった体にしゃにむに突き進み、そして。
溶けた。
「っ!??」
白龍と接触した後、彼の体から発せられる定期的な電子音に呼応するかのように次々と輪郭を失い、それまでの体の部品を若干残した巨大な粘菌状の物体と化し、一つに融合していく。
そして、現れた怪人が皆その粘菌に融合し、広かった部屋の半分を占有したとき。
「あわああああああああっ、ひあああああああああああっ・・・・・・」
悲鳴のような奇怪な声を上げ、それは動き出した。

所々に構成する怪人の部品がでたらめに突き出た、そのあまりの異形にさしも歴戦の仮面ライダーXも威圧される。
咄嗟に繰り出されたライドルは、虚しくその軟体にめり込んだだけで何の効果も見せない。
ただ攻撃がきかないだけではない。対してこの怪物は巨体をふるわせ、反撃に出てきた。体の材料とした怪人の武器で。
大砲が、機関銃が、小型ロケット砲が、火炎が、溶解液が、毒ガスが、鎌が、斧が、鞭が、爪が、牙が。
次々とXライダーに叩き込まれる。
「うおおおおおっ!」
Xライダーはある者はかわし、またあるものはライドルでたたき落とした。だが、とてもではないがさばききれる量ではない。

ドンッ。

「ご・・・」
そして、致命的な一発が命中した。MRタイプの比較的装甲の薄い脇腹、そこを撃ち抜いた一発の銃弾。奇しくも彼が最初に戦った敵組織、「神の闇政府」の秘密警察第一室長、アポロガイストの銃だった。
それで、Xライダーの動きが止まった。そのままでは、続く攻撃で完全に倒されてしまうのは目に見えている。
と。
「どけ!」
恐ろしく乱暴な、だが殺すほどの意図は持っていないと解る一撃で、Xライダーは横に弾き飛ばされた。傷口のほうから転倒して床にいたたきつけられ、痛みが走る。
「君は・・・」
だが、Xはそんなことは気にならなかった。それよりも、自分を突き飛ばしたその女の意図が読めなかったのである。
彼女、マシーネン・カーネルのことは昔、彼の後輩であるスカイライダーから聞いていた。悪の組織に救われた者。大幹部の娘。仮面ライダーを仇と呼ぶ女。
そんな彼女の目は、仮面ライダーの一人であるXを見ていなかった。
まだ僅かに白龍の意識が残っているらしき怪人融合粘菌は、そんなカーネルのほうに気を取られ、Xへの攻撃をやめた。彼がこんな目に遭うようになったのは、元はといえば仮面ライダーではなくバリスタスのせいである。それが思い出され、躰の様々な部品が混ざり合った不定形の体にいくつもついた目が、怒りに染まる。
「躰は黒、真夜の星抱き、心は光輝、直日より煌々!時代王アルティメットブラック、参る!」
裂帛の気合いと共に、カーネルの姿が変わった。それまでは緑色だった装甲が、一瞬で黒を基調に赤と銀のラインを配した、より頑丈かつ戦闘的なデザインのものに変化したのだ。
これが、彼女の体内に埋め込まれた、アマダムと同等以上の力を持つキングストーンのコピー「星の石」の力を最大限に発揮する最終戦闘形態。
その力は、まさに圧倒的だった。
改造人間の目にすら残像も捕らえられないような動きで接近するや、何もない空間から掴みだした巨大な剣で、敵をただの肉塊か何かのように寸断していく。延ばされる触手を同じく魔法か何かのように出現させたボウガンで片っ端から叩き落とし、銃砲を手から発する光で消滅させる。更にXと同じような棒の一撃で、この怪物の巨体を軽々と吹っ飛ばして見せたのだった。
「ぐ、ぐひぃえ・・・」
部屋の隅で、混濁した意識と生存欲求のまま震えもがく肉塊に、静かにカーネルは歩み寄った。
ぼこり。
震える肉塊が泡立ち、その泡の中から不意に、一人の男の顔が現れる。白龍ではない。
「また」ゼネラルモンスターだ。そのままの顔が怪物の体に浮かび上がり、カーネルを見た。
「義父様・・・。」
カーネルもまた、かつての義父の顔を見た。そして、前に相対したときとは違い、静かな声で語りかける。
「私は、今・・・幸せです。有り難うございました。貴方を、救います。」
だいぶん落ち着いているようだが、それでもだいぶん緊迫した、故に変に断片的な言葉。だが、彼女の言いたいことは全部は言っていると言っても良かった。
弓弦のように引き絞られた、カーネルの腕。それが赤熱し、光を放つ。
白龍にとって幸いだったとしたら、それが彼の僅かに残った感情が事態を認識する前に行われたと言うことか。
怪人融合粘菌の巨躯は、一撃で蒸発した。

「・・・・・・」
暫く立ちつくしていたカーネル。と、その表情が急に苦しげになった。同時に、外骨格の色が黒から元の緑色へと半端に戻りかけ、二色の間で明滅する。
「っ、う、く!」
苦悶するカーネル。何とか元の、軍服を纏った人間形態へと戻るが、貧血を起こしたように倒れ込んだ。周囲の戦闘員達が、大慌てでわっと駆け込んできて抱きとめる。
「大丈夫か!?」
「あぁ、お前が居るなら、別にむちゃをしても大丈夫、だろ?」
青ざめた表情ながら、戦闘員の一人に照れたような笑みを浮かべるカーネル。他の戦闘員が、うらやましそうな表情でその一人を眺める。
周囲の視線を感じたその戦闘員は、赤くなった。バリスタスの異世界の友邦組織、ヘルバーチャ団からの派遣戦闘員にしてカーネルの夫、戦闘員303号生栗磁力。
「あぁ、まぁな。ともかく撤収しろ。もう戦闘は無理だろ?」
「ん、すまん。ちょっと待ってくれ。」
軽く頷くと、支えられてカーネルは少しふらつきながら立ち上がった。そしてXライダーを見据えると、確認するように念を入れて言った。
「言って置くが、私はお前を助けたわけではない。貴様が倒せないあの怪物をあのまま放置したら、我等のHUMA本部基地攻略作戦に支障が出る。私の可愛い部下達に、犠牲が出るのも避けられないだろう。そんなこと許せるものか。」
毅然としているが、同時に様々の感情を含んだ、依然と違い大分大人らしく成った、表情で語る。
「私は、貴様等仮面ライダーが憎い。だが、殺さないことにした。私の夫、私の可愛い息子、そして私の仲間達。全て守り通す。そして、私達の世界を見事作り、老いたお前達に見せびらかしてやる。そして、私達の世界でお前達を生かしてやろう。それが私の復讐だよ。」
そこまで言って苦しそうに息を付くと、やっとと言ったように彼女はきびすを返した。口では強がっていても、やはり体への負担が大きいらしい。
「お前達、後は頼んだぞ。」
うって変わってしおらしげに、後を任せる部隊にすれ違いざまつぶやき。対して蝗軍兵達はむしろ役に立てるうれしさにはち切れんばかりの戦意のある声で答えた。
「ハッ!お任せを!」
素早く、すり抜けるように前進していく蝗軍兵達と、去りゆくカーネル達。そんな中、負傷した脇腹を押さえて座り込んだXライダーは、静かに笑った。傷に障るが、かまうことではない。
正義が無くても、人はこんなにも輝けるのか。
まだまだこの世の中は面白そうだ。とても、引退してはいられない。例え陳腐なセイギノミカタでも。


HUMA極東総本部基地を巡る戦いが、その最終局面を迎えようとするころ。マークハンターとロアは、混乱の渦中にいた。が、同時に彼等もまた、いま一つの最終局面へと移行しようとしていた。
他の連中と違いこっそりと瑠璃たちを追跡、地上に出た彼等は、そこで起こったことの一部始終を目撃。そしてZXの乱入後また地下に帰ってきて、・・・そして。
今目の前に、バラバラに切り刻まれた死体が転がっている。イエローを基調とした戦闘服。ちぎれた手足。妖精のような長い耳と、緑柱石色の髪の生えた頭。
それはきちんとした人体を構成していた切り刻まれる前なら、アルフェリッツ・ミリィと言われる存在だった。
だが、今は違う。生命の失われた肉塊と化しているからではない。否、それが肉塊ではないから。
鋭利な刃物で両断されたその切り口。そこに見えるのは血と肉、だがそれは僅か。大勢を占めるのは、機械だ。レスキューポリスや機動刑事などとは違う、ヒューマノイド用の特に細かい部品がこぼれ落ちている。
たった今まで見た光景。
「姿も能力もまねることは出来る。だが技量と、そして魂まではまねられなかったようだな。我が輩が苦戦し、興味を抱いたものは、こんな人形ではない。お前達とて薄々気付いていたと思うが・・・」
突如、現れたアルフェリッツミリィ。二人を狙い、放たれるプラズマ弾。それを叩き落としたのは、突然に現れたバリスタスの大幹部だった。以前も、ミリィと闘っていた仮面の男。
そして彼はプラズマ弾をはじき返し、あっさりとそのミリィの姿をした者を破壊した。ミリィに襲われたことに驚いていた二人は、更に驚く羽目になった。バラバラになったミリィと思っていたのが、実は精巧な偽物だったのだから。
「我が輩が破壊したまがい物は、これで四体目だ。もっとも、姿まで似せているのはこれだけのようだがな。」
さらりと凄いことを言うそいつは、呆気にとられる二人に次のようなことを言った。
「かくのごときまがい物を作らしめた罪は、己らが自身で償うがいい。とっとと行け。場所はマモンの研究室。そこに行けば・・・お前達にもこの事件の「原因」が解るはずだ。ロア、滝。疲れ果て退いたはずの貴殿が戦いに復帰し、敵であれ嬉しいぞ。宇宙傭兵の長、ギラ軍曹によろしくな。」
それだけ言うと、実に素っ気なくかつ素早い仕草で、彼は次の戦場へと向かっていった。
更にとんでもない驚きを残して。
「滝、って・・・まさかあの伝説のインターポール捜査官、滝一也!?」
目を白黒させるロア。あの「衝撃を与える者」と戦った伝説の男が、ナント宇宙傭兵になって目の前にいるとは。
宇宙傭兵協会。地球の歴史に置いて傭兵は長らく半分ごろつきや山賊のような連中で構成されてきたが、一般宇宙において傭兵はむしろ地球で言うところの義勇兵的分類にあることが多く、ことに統率者である宇宙傭兵協会代表・ギドラーグ=ル=ドージーニャ、通称をギラ「軍曹」と呼ばれる女の個性から、超星系国家級の軍事力を持つ組織として時に宇宙刑事機構と同等以上に宇宙の安全保障に貢献しているのだ。
「あぁ、まあな。」
そんなことを、割と素っ気ない口調でマークハンター・・・滝一也は同意した。だが、ロアにはまだ疑問がある。
「でも年齢が・・・」
確かに、彼が捜査官として現役だったのは「黄金の混沌」においても相当の初期だ。本来なら仮面ライダーと同じくらいの壮年から初老の年齢になっていなければおかしいはず。
「宇宙傭兵になるとき、ちょいと事件に巻き込まれてな。跳躍航法が故障したんで宇宙を長時間亜光速で飛ぶ羽目になって、それで年齢がずれちまったんだ。ウラシマ効果ってやつだな。」
「はぁー・・・」
「悔しいことに大半あのオヤジが言ったとおりなんだよな。迷っちまったのさ、色んなことに。それで新天地でやり直してみたくなった・・・この戦いが終わったら聞きたきゃ聞かせてやる。ともかくあの野郎、気になることをいいやがったな。いくぜ!」

「ほっほっほ・・・」
「ええいっ、畜生!」
「・・・・・」
泰然と笑うマモンの前で、檻の中の獣のようにミリィは唸った。リュートも、憔悴した様子でその隣にいる。
今の彼女の境遇は、事実それをあまり変わりはない。多重に展開された、次元間のエネルギー移動を阻害しゲート能力やガーライルフォースを使用不能にする多次元量子壁に囲まれ、プラズマ操作や電撃などの操作能力どころか体内にエネルギーをめぐらせることによる身体強化すら出来ない状態なのに、さらに宇宙刑事のパワードスーツの装甲にも使われるグラニュウム製の手かせ足かせを何重にもはめられ、とどめとばかりに正体不明の怪しげなマモンの私兵たちが周囲を取り囲んでいるのだ。
過剰どころか偏執狂的な警備である。
じろりと自分の周りを取り囲む、女性型の半生体アンドロイドたちを睨み付けて、ミリィははき捨てた。
「随分厳重な警備ね。そんなにあたしが怖いの?」
「それはもう、と〜っても怖いで〜すよ。」
ぬけぬけと、マモンは答える。
「降臨者ガーライルと同じ強大なち〜からを、貴方は自由自在にに操れ〜るので〜す、人間なら怖くないはずないので〜す。」
にまりと笑い、傍らのアンドロイドの肩をぽんぽんと叩く。
「力ないもの、力あるもの恐れる、当然デ〜ス。力ないもの、力ほしがる、当然で〜す。でぇすからワターシ、このハイパードール作りま〜した。」
皮肉。皮肉、だが。
「クローニングしたミス・ミリィの脳細胞でガーライルフォースを制御する、半生体アンドロイド・ハイパードール。そして、自由意志を持つ試作型二体と違って、意志を持ちながらかつ服従を喜ばせることによる、命令に背かない忠実な兵士。制御の利かない人間怪獣のあなたとは、比べ物になりませ〜ん!これを量産すれば、地上のいかなるものも敵ではありませ〜ん!」
ほーっほっほっほっほ、と太鼓腹をゆすり大笑いするマモン。
と。
ギンギンギンッ!
「ほぉ!?」
瞬間、銀の閃き。
一瞬で、多次元量子壁発生装置とミリィを縛る枷が切断された。ミリィ本人も驚愕する。
「えっ!?」
「な、何事!」
そして、それとほぼ同時にばらばらになった扉の向こうに、立っている影がある。
「いかに強き戦士といえど、窮地に陥るときはある。されど、確かなる友があるならば、その助けは必ず来るであろう・・・人それを、「戦友」と言う!」
「誰でーすか!?」
「貴様らに名乗る名前はない!そして、その必要もあるまい・・・」
陰になっているとことから、ゆっくりと部屋の中へ歩み出る。金属の強化装甲服を纏った武道家を思わせる、均整の取れたその姿は。
「ロム=ストール!」
驚愕の声を上げるマモン。咄嗟に周囲のハイパードール達に命令する。
「殺しなさーい!」
プラズマを放とうとするハイパードールを素早くかわし、ロムはマモンを抜くようにして消えた。すれ違いざま、
「貴様の相手は、俺ではない。」
と言って。
マークハンター。ロア。そして、それだけではなく更に三人。白銀、紅玉、紺碧の色の輝く強化装甲服を纏った男達。仮面ライダーが姿を消した後、この宇宙を護ってきた者。伝説の三大宇宙刑事、ギャバン・シャリバン・シャイダー。
「ミリィさん!リュートさん!」
「・・・来たぜ。ミリィよ、・・・仲間が、な。」
ロアの心配そうな叫びと、マークハンターの低い声が合わさり響く。
彼等は、来たのだ。


各所で戦闘が繰り広げられる中、ついに基地最深部・司令室までたどり着くものが現れた。それも、一気に六人。
「人には責任を持って果たすべき己の使命がある。それを忘れ、己の私欲のまま権勢を悪用する、そのような者を自浄し、新たな明日を開こうとする・・・人それを新風という!」
剣の銀光が走り、扉を切り裂いて現れた、ロム=ストール。
「悪の組織と通じ金儲けをし、人身売買・人体実験に手を染め、あまつさえ秘密を知った者達を抹殺しようとした城町満!ゆるっさぁん!」
そして、鞭と短剣を兼ね備えたZ剣と、特殊金属製の弓・ブルーチェリーをかまえた風見志郎。ズバットでありアオレンジャーでありビッグワンでもあった、仮面ライダーV3。
「もはや年貢の納めどきじゃ!」
さらに、奥義・超級覇王電影弾で雑兵を吹き飛ばしながら、蠍師匠。
「胡散臭い正義すら欠片も残さず失った愚か者・・・」
静かな、だが同時に炎を内に秘めた声。基地の壁を高熱でどろどろに溶かし、溶鉱炉さながらの溶けた金属を全身に平気で纏いながら、影磁・AGも現れた。
「我等バリスタス、あなた方を許すわけには参りません。」
そして、対照的に静かに、何時は行って来たのか解らないほどに、だが同時にそれだけ隠密性に優れた動きで入ってきたのは、ゴキオンシザースになったシャドーだ。
「観念して我が組織の贄となれぃ!」
そして最後に天上を粉々にぶち砕き、さんざん浴びた返り血と機械油の赤と黒を撒き散らしながら、悪の博士が降り立った。
これで、六人。ヒーロー二人、悪の怪人四人。
思わず一緒に「決めて」しまい、顔を見合わせる正義と悪。それを、城町満は醜悪な、嫌がらせ以外の意味を持たない笑いで出迎える。
「くっくっく・・・悪の組織とつるんでいるのは、あなた方も同じ事ではありませんか、ロム=ストール、風見志郎。」
確かに、この状況は、そうか。だが、次の風見志郎の切り返しはそれを「乗り越えた」
「残念ながらてめぇの外道っぷりが日本で一番みたいなんでな!」
だがそれすらも、城町にとっては嘲笑いの対象だった。
「ふん、違うな。わしらは愚か者ではない。賢いのだよ、むしろな。未だにセイギノミカタなどという馬鹿なことをしている連中よりは確実にな。」
「何だと!」
くってかかる風見。ロムもまた、凄い目で城町を睨み付けている。
「わしらHUMAが今まで、どれだけ戦ってきたと思う?何度戦っても、いくつ組織を滅ぼしても、結局悪というものは尽きることがない・・・そんな無駄なことをこれ以上続けるのはあきあきしたんだよ。」
へらへらと卑屈に笑いながら、城町はぼやくように言った。否、むしろ本当にぼやきだったのだろう。だがそこで、不意に城町の顔から取っ繕った軽薄さが消えた。
「それにな。我々は、知ってしまったのだよ。どのみち今のこの世界の寿命は、もうそう長くはないということをな。」
「どういうことだ!?」
「降臨者が、来る。」
「な・・・!」
降臨者ガーライル。かつて、この宇宙全て、生命全てを掌握し、支配していたと言われる高次元生命体。「神」とも呼べる存在。
「もうじきだ。もうじき再び、奴らが来る。神が。かつて反乱を鎮めるだけのために、星を砕こうとした神だ。今のこの世界を、腐っていると認識しないはずがない、全てが裁きの炎の中に消える!だからせいぜいそれまで、今までの分楽しんでも罰は当たるまいて。はは、はははは・・・・」
自棄になったように、城町はけたたましく笑い出した。その姿に嫌悪を覚えた風見だったが、言い返すことが出来ないでいた。
確かに、そうなのだ。戦いは終わった試しなど無い。セイギノミカタは、正義を守るために無限の戦いを行い、その結果常に脅かされる正義はある意味で守られてはいないとも言えるのかも知れない。
「ふん・・・なんだ、そんなことか。そんなことが、この乱稚気騒ぎの理由か。下らない。全く下らないな。少なくとも我等秘密結社バリスタスからすれば。」
そこで、それまで黙っていたバリスタス、悪の博士が口火を切った。肩をすくめ、城町の狂態を冷ややかに見下す。
対してその視線に、城町もまた食いついてきた。言葉と言葉の、激しいつばぜり合いが始まる。
「神が邪魔をするのなら、神を倒せばいい。それだけのことではないか。こんな簡単なことも解らないなんて、全く愚かきわまりないな。」
「愚かは貴様だ!勝てるものか、ガーライルに!」
「勝つ!勝たねばならないのならば、他に道はない!ならば勝つことを考えて行動する以外あるまい!戦う前から負けることを考える阿呆がおるかっ!」
「ふ、ふん、今まで一度も正義に勝ったことがない悪に、何が出来るものか!」
「いいや・・・お前は根本の所から間違って居るぞ城町。我々は、これは正義もそうかも知れないが、勝ったことはないかも知れないが負けたこともないのだ」
「なん、だと?」
あまりにとんでもない、こじつけとも思われる発言に城町は虚を突かれた。そこに、博士はとどめとばかりに彼の結論を言い放った。
「我々は皆、正義と呼ばれたものも悪と呼ばれたものも、かくあるべしと信じたこの世界の明日のために戦ってきた。明日があるかぎり、それは変わらない。そして、どちらが勝ったかということも、また同じ。我等は影響しあい、共に未来を作り続けてきたのだ。悪の刃でこの世界を試す我等と、正義の拳でそれまでの世界を守る彼等が、共同で、生きてきたのだ」
その言葉。確かに無茶苦茶かも知れない。こじつけかも知れない。だが、確かに。その場にいた、ヒーロー二名を含む、城町満とその歪んだ思想に立ち向かおうとしている彼以外の五人の心に火をつけた。
「未来に進む意志の無い者に、生きる資格など無い。敵にも値せぬ単なる障害物が、踏みつぶしてくれるわ!」
「くだらん!くだらん!くだらん!くだらぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
叫ぶ城町。その、腰にまかれたベルトが、光を放ち・・・


「と、まぁ。我々側としての「理由」は、こんな所なのですが・・・」
ぷつり。そこまで写して、マモンは彼の研究室に備えていた立体投影ディスプレイのスイッチを切った。
「ハイパードールは、けっこう自慢の品だったのですがねぇ。以外と役に立ちませんでしたか。」
「みたいだな。」
きっぱりと返答したのは、紅玉色の強化装甲服の男、シャリバン。その足下には、一見あれだけ強大な力を持っているかに見えたハイパードール達が、マネキンかなんかのように死に転がっている。
「当たり前だ!ミリィさん達ガーライルフォースマスターの体ばかりまねしたって強いもんか!ミリィさん達の心をまるで理解していないんなら、同じ強さなんて得られるわけがない!」
「嬉しいこと、言ってくれるじゃないか・・・」
そう呟くミリィの頬には、柄にもなく涙が伝っている。彼女は強かった。だがそれ故に、孤独だったのかも知れない。助けられるということ、共存、共にあることのうれしさを、ミリィははっきりと認識した。
「あ、いや、まぁ、受け売りみたいなもんなんですけどね。」
照れるロア。
「いいですよ、受け売りでも!ロアさんに意ってもらえれば・・・あ」
もっと照れるリュート。何故か姉妹の間で変な緊迫が流れる。
「何やってんだか」
この切迫した状況下で、と滝は笑った。途中で宇宙刑事機構の本部から派遣されてきたギャバン達三人と合流し、ハイパードールを全機破壊したからって別にまだ勝ったわけではないのだが。
とはいえ、その笑いは別に悪い意味ではなかった。いや、むしろこの心の動きは、力になりうる。
そんな様子は、マモンの気にさわった。それまでの超然とした様子をかなぐり捨て、前に出てくる。
「ふふん、それで?たかがパワードスーツ五体で、この私と戦う?愚なことでーす。いまのわたーしの力は、ガーライルフォースマスターをも超越する。そこのミリィさんリュートさん諸共、葬って差し上げましょう!」
ぎろりと眼を剥くと、マモンは両腕を左右に広げるような姿勢をとり、叫んだ。
「最終・融合!」
グゴン!
突如、研究所の設備が動いた。様々な資材、壁や床までがちぎれ飛んで、マモンの体に吸い込まれた。
そして、その体自体が変化する。悪の博士や仮面ライダー一号二号に類似した、びっしりと牙のついた顎と、二本の稲妻形の角を持つ頭。全翼ステルス機を背負ったかのような翼を生やし、胸部には奇形的に獅子の頭が生まれ、咆吼する。それを支える手足も、全身もクロノス星人のように金属的で、恐ろしくがっしりした重量感がある。
「レーザー!Zビーム!!」
「ビデオビームガンッ!」
ギャバンの指先とシャイダーの銃から、同時に高出力ビームが放たれる。しかしそれを、マモンであったものは掌をかざしただけであっさりと防いだ。
局地的な重力以上、空間も光もねじ曲げるほどの力が、ビームを弾いたのだ。
「ぬうっ!?」
「ロンヴァルト!!」
リュートが叫んだ。それに呼ばれ、虚空から唐突に大型の肉食獣、狗か狼に似たオレンジ色の生物が現れる。主の命令を聞いて独立活動する第二世代獣鬼兵、その中でも王族専用とされた最高級種、ロンヴァルトだ。
「ファイヤーストームよっ!」
主の命令に間髪おかず、ロンヴァルトの口から青白い熱線が放たれる。だがそれも、やはり張り巡らされた局地的・指向的な超重力の壁にそらされてしまった。
「ホーッホッホッホッホッホ!コノ「がおがいがー」ノ重力壁ニ、ソンナ攻撃ハ通用シマセンヨォ!解リマシタネ!?解ッタラ・・・死ニナサイ!」
叫ぶと、マモンは両手を組み合わせ、それぞれの腕から逆向きの重力を放った。
「ぬおおおっ!?」
何とかかわすギャバンだが、マモンの攻撃の進路上にあった者は等しく滅茶苦茶にかかった重力で引き裂かれていた。
「奴の力は、重力を操ることか!それも、自由自在にその加重のベクトルを変化させられる・・・」
「ソノットオリィ!ペシャンコカ、バラバラカ、ソレトモ重力衝撃波デ光子レベルマデ分解シテアゲマショウカァァァァァツ!!」
振り下ろされたマモンの右腕は、巨大なハンマーを思わせる姿に変化し、当たった床を一瞬で分解粉砕してしまった。光の粒子がキラキラと舞い散る。
「舐めるなぁ!!」
と、大質量を振り回したマモンに隙が出来た。その隙にギャバンが突進する。
「レーザーブレードッ!!」
「チイイイイイッ!!?」
ギャバンの抜きはなったレーザーブレードが、空気の揺らぎで視認出来るマモンの重力壁に食い込んだ。
「おおおおおおっ!!ギャバンダイナミックッッ!!」
「グゥウウウウウッ!」
凄まじい押し合いとなる。あくまで直進しかしないビームや、最初に与えられた力に反って動くしかない実体弾と異なり、白兵武器であるレーザーブレードなら。
重力を押し切り、ぶれそうになる剣の方向を腕で修正して何とか相手に当てられるかも知れない。そう読んだギャバンの賭けだった。
「ぬっ、どわああああああああっ!!」
凄まじい加重のかかる競り合いに、とうとうコンバットスーツが限界を超えた。両腕の部分にひびが入り小爆発を起こし、ギャバンは後方に吹っ飛ばされる。
それを自らの勝利と見たマモンが高笑いを仕掛けた、同時。ミリィ達が先に勝利を確信した笑みを浮かべた。
「ム?」
いぶかしがるマモン。
「見えましたね、勝機が。」
「ああ、確かに!」
「行くぞっ!」
頷き合うリュートと、シャリバン・シャイダー。
「召還・ギドラスレイヤー!」
リュートの手に、昆虫のナナフシを思わせるごつごつと節のついた、明らかに握って使うことを前提とした形の兵器生物が現れる。リュートの手がそれを掴むと同時に、上の方から眩く輝くプラズマ弾性体の刃が飛び出した。
獣鬼兵ギドラスレイヤーは、装備して使う第一世代の獣鬼兵で、強力無比な剣となるのだ。
「「レーザー・ブレードっ!」」
同時に、二人の宇宙刑事もレーザーブレードを抜きはなった。刀身に、光の輝きが満ちる。
それを見てマモンは相手の意図を掴んだ。宇宙刑事の使う技の中で、複数の刑事が揃って初めて使用可能になる強力技。
「「「いくぞっ!宇宙刑事必殺連続斬りっ!!」」」
三つの刃が、一点を時間差で交差するように息のあった斬撃が繰り出された。本来これはギャバン・シャリバン・シャイダーの三人でやる技だったのだが、リュートとて技量で劣る者ではない。
「オ・オ・オ・オ・オ・オオオッ!!」
重力壁がきしむ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
我知らず、リュートは叫んでいた。戦闘種族であるが故の血の滾りではない。心からの、使命と熱血の叫びだ。
「ナァァァァァッ・メェェェェッ・ルゥゥゥゥッ・ナァァァァァァァァッ!!!」

ずどおおおおおおおおおおおおおおおん!!

重力壁が弾け飛んだ。それまで重力のかかる方向を曲げて攻撃を反らしていたものを、マモンが全て外側向けの力へと変えたのだ。
空気が爆発したような衝撃に、吹き飛ばされる三人。
だが、それでもリュートの顔は勝利への確信に輝いている。はっとなったマモンは、転倒したリュートの背後の光景に気付く。
ミリィ、ロア、マークハンター。三人が揃って構えていた。
「オ・・・」
「あたし「達」の、勝ちだ。」
放たれた三つの弾丸は、まっしぐらにマモンの体に飛び込んだ。それからほんの僅か遅れて、重力壁が再展開される。
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
重力の壁の中で、断末魔も爆発も外に出ることなく荒れ狂う。マモンは、欠片も残さず自らのバリアの中で燃え尽きた。

「ふぅ・・・別に終わった訳じゃないけど、少なくともあたし達のケリはついたね。」
ミリィはそれを見ながら、こう呟いたという。


一方、城町満を追いつめたかに見えたかに見えたバリスタス・ヒーローの変則共闘部隊だったが、そのころは大苦戦に陥っていた。
その理由というのが、これまで戦いを有利に進めるのに一役買ってきた悪の博士だったりする。
「ここに来るまでに力を使いすぎたか・・・。もうほとんど技使えん」
何度か敵の攻撃を次元障壁で受け止めただけで、激しく頭痛のする頭を抱え、壁により掛かるようにして崩れ落ちる悪の博士。
「ったく、あんたはもう!あれだけ言っておきながら!!」
思わず呆れてしまう影磁。と、そこにさらに敵の攻撃が来る。
「ぐぬっ!」
咄嗟に防ごうと突き出された盾。それをすり抜けるかのように、城町・・・いや、城町であった者の拳は影磁の胴にクリーンヒッとした。たまらず吹き飛ばされ、血反吐を吐く影磁。
「はっは、うはははははっ!どうした貴様等、その程度か!」
げらげらと笑いながら、地面に倒れたゴキオンシザースの背中を踏みにじる城町の姿は、既に人間ではない姿に変身していた。
仮面ライダー、特にこの場にいないストロンガーに若干近いかもしれない。鋭い角が頭に着いていて、大きな複眼と、腰にベルトがあり、胸部を甲殻が覆っている。
だが似ているのはそこまでだった。後はもう、ぐちゃぐちゃといってもいい。角は前後に突きだしているし、複眼は大小あわせて五つもあるし、中には人間そのままの眼も混じっている。皮膚は粘液にまみれ、いびつな甲殻や棘が所々皮膚を突き破るように生えている。
城町に言わせればこれは神の遺伝子を持つと言われるアギトを、合成型の強化服として模倣したのだそうだが、はっきり言ってしまえば奇形である。明らかに、失敗しているのだ。あるいはそれも、城町の絶望の原因だったのかも知れない。
だが失敗作であっても、その戦闘能力は高かった。
「ウルトラブルーチェリーッ!」
風見、仮面ライダーV3の力で放たれることにより、超音速となる矢。飛んでくるそれを城町は手でつかみ取った。更に、それをほぼ同速度で投げ返し反撃する。
「天空宙神拳! 九頭竜蹴り!!ほああああああっ!!」
続いて飛びかかったロムの目にも留まらぬ九連発の蹴りを、これも完全に見きってかわす。挙げ句の果てには、無数の刃が一斉に周囲から襲いかかり、対象を喰らい尽くすゴキオンシザースの「黒曜」すら、襲いかかるその全てを拳で叩き落としてしまった。
更にその反撃も、MRクラスの力を持っているだけではなく、ほとんど確実に、一発も外さずに当ててくる。
「ぬううっ、何故だ!何故こうまでも・・・っ!」
「くっくっく・・・不思議でしょう、何故攻撃が当たらないのか。」
余裕たっぷりと言った様子で、城町は語った。
「このアギトスーツには、短期的な未来をほぼ確実に予測するという能力が備わっているのだよ。その力を持ってすれば貴様等の攻撃を読むことなど、容易いことだわい」
「なんてこった・・・」
呻く風見。これでは、いくら攻撃しても徒労に過ぎないではないか。
「いいや、絶望するべきではないっ!」
それでも、むしろ自分の中の意志を振り絞るようでは有ったが、ロムは諦めずに叫んだ。蠍師匠も、それに同意して頷く。
「その通り、流石儂と互角に戦っただけはあるなロムとやら。未来とは、可能性があるから未来なのだ。あんなやからにそれが支配されてたまるものか。」
「この手の予知能力を持つ敵に対する作戦はいくつか有る。一つは自らを不確定化するため完全に心を無にして攻撃する・・・だが、相手が未来自体を見ているとなると、使えない。もう一つは、相手がこちらの行動を読んでも反応する暇のない程の速度で攻撃すること、とはいえそれも苦しいか。」
思案するシャドー、だが答えは見えてこない。と、不意に博士が何かを思いついたらしい。心理外骨格の表情がにぃぃぃぃと笑いに歪んでいく。
「からくりは見破った。我が輩が隙を作る。その隙に全力攻撃せよ、者共。」
「誰が者共だっての。」
軽口をたたくV3だが、その気配はその一撃に賭けて限界まで引き絞られている。
「くっくっく、そろそろとどめ・・・」
余裕たっぷりに、城町が一歩踏み出した、刹那。
「きしゃあああああああ!」
悪の博士の牙だらけの口から、怪物じみた奇声が迸る。影磁は感じた。声と共に発せられた殺気の怒濤が、城町を飲み込むのを。
「ひぃっ!?」
悲鳴。城町は、悲鳴を上げた。そしてそれと同時に奇怪なことが起きる。体の各部分がバラバラの行動を起こそうとしたかの用に奇妙に蠢いたかと思うと、一瞬硬直してしまったのだ。
一瞬、それだけで十分だった。
「V3!!必殺キィィィィィィックゥッ!!!」
「ゴッドハンドファイナルッ!ファイヤァァァッ! チョォォォップ!!!」
「メ!ギ!ド!フレイィィィィィィィムゥッ!」
「ナックルシザーーーースッ、ブレイキングッッッ!!!」
「流派東方不敗が最終奥義ぃぃっ・・・!石破! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
五人の必殺技がいちどきに炸裂する。善も悪も超越し、それは人の怒りの力。
「・・・・・・・・!」
城町満を原子どころかニュートリノ・クォークを通り越して完全消滅させ、その向こう、更に向こう、基地を横断して射線上にあったものを全てぶち抜いた。
「終わった・・・。」
すさまじい轟音の後に、風見の声は随分静かに聞こえる。実際自分たちヒーローの仲間にこんな奴が居て、それを悪の手を借りて倒さざるを得なかったことを考えれば、心中複雑なのであろう。
「見事だな、だがどうやった?」
影磁が、さっきの絶叫技に大量のエネルギーを消耗したらしく、壁により掛かるように座っている悪の博士に問う。それはやはり武術の使い手として蠍師匠やロムも気になったらしく、興味津々である。
「奴のスーツは、限定的に未来を読むことにより機械的に持ち主の体を最大効率的に動かす。・・・だが現実、特に、人間の心はそう言う風に行かない。そこで我が輩は強烈な「殺気」を、城町めにぶつけた。小心な奴は恐怖し、反射的に逃げようと身をひねる。が、機械は殺気に反応せず、そのまま進もうとする。従って中の人体に逆方向の力が掛かり・・・ぐきゃっ。」
「むむ・・・」
思い切り想像してしまったらしく、頭を抱える周囲。対して、悪の博士はすっくと立ち上がると、杖を構えマントを翻し、戦いの構えを取る。
「さて、快傑ズバット、バイカンフー。邪魔者は消えた。我が輩等はらしくもない義賊的行為に手を染め、お主等は己で己の一部を誅せざるをえなかった。正義の正義たるを、悪の悪たるを示し、堂々渡り合おうではないか。」
その一言に、救われたように、双方気合を取り戻す。

「たっ、大変よぉぉぉぉ!!」
「うわぅ!桜!?」
そんな場に唐突に走り込んできたのは、日本政府の命を受けHUMA極東支部制圧と装備の確保に向かった、戦史研究室の扇桜。
全く違う方面にいたはずの桜が飛び出してきた壁に明いた大穴を、ひょいとのぞき込む。ずっとむこうまで、綺麗に透けて見えた。
「・・・ちょっと、やりすぎてしまったかな?」
「ちょっとじゃないわ!あたし達を殺す気かぁぁぁぁ!?」
バリスタスのカーネルとおっつかつの、小さな体を大きく動かして怒りを表現する桜。飛び上がった拍子に本来飛び込んできた用件を思い出し、はっと驚きに表情を変える様もくるくるとして面白い。
「って、そんなことしてる場合じゃない!あんたらなんてことしてくれたのよ!」
「したって、何を?」
「大神龍よ大神龍!忘れてたんじゃないでしょうね!」
実は全員忘れていたのだが、皆そんなことをおくびにも出さずに聞く。
「大神竜、あれに何かあったのか!?」
「あんたたちの放った技が壁ぶち抜いてもろに大神竜の制御機構に直撃したのよ!つまり、風水具現法で作られた超大型気伝獣である大神竜が、制御を解かれて元の地脈エネルギーに戻ってしまうのよ!」
「・・・と、言うことは・・・」
「気」の力に詳しいロム=ストールと蠍師匠も、自身でズバットスーツを完成させ、超力を研究し戦隊オーレンジャーを組織した風見も、そしてそろって狂科学者である影磁とシャドーと悪の博士も、事の重大さを瞬時に理解する。
「一気に大神竜の全質量が地脈エネルギーに還元され、それがこの基地を通る地脈に爆発的に流れ込み、霊峰富士の龍穴がオーバーフローして・・・基地が大爆発するどころか下手すれば富士山大噴火、日本真っ二つ!?・・・ひぇ〜〜〜〜〜!!!」
「たっ、たいへんだぁ〜〜〜〜!!!」
パニックに陥る基地。もうバリスタスもヒーロー達も、決着をつけるどころではない。地上付近にいたZXや三貴子、中層で戦っていたXとカーネル達はともかく、かなり深いところまで来ていたここの六人とマモンと戦っていたミリィ達は、大急ぎで脱出しないことには基地と運命を共にする羽目になる。
バリスタスにしてみればHUMA打倒に成功はしたが作戦自体は失敗。ヒーロー達にしてもHUMAを倒すことは出来たがバリスタスにはほとんど手も着けられなかったので、これも勝ったとは言い難い。
だが、それにしては皆、妙に晴れやかな気分だった。下手をすればこのまま未曾有の大災害に発展するかも知れないと言うのに。
崩れゆく基地、振る瓦礫に遮られるようにしながら、撤収する際、バリスタスの誰かが、次のように言い残した。それを、ヒーローの誰かが、はっきりと聞いた。誰が言ったのかも、誰が聞いたのかも、定かではないのに、はっきりと。
「朝に咲き、夕べに散る花のように、我々は何度でも生きるだろう。枯れても踏まれても千切れても、再び種を蒔き、根を張り、この大地に花開く。・・・また会おう。」
それは、その言葉がむしろ、全てから全てへ向けての言葉だったから、かも知れない。

結果、決着はお預けとなった。HUMA極東支部は完全に消滅したが、幸いにして心配された地脈の暴走はなかった。
だがこの戦いにより事実上日本における対秘密組織防衛戦力は壊滅し、また、全てが明らかになるに従いHUMA他支部どころか上部組織である宇宙刑事機構まで巻き込んだ大スキャンダルが発生し、HUMA長官に就任した風見志郎、現役復帰して宇宙刑事機構長官となった宇宙刑事ギャバンの力を持ってしても日本支部再建どころか混乱収拾すら難しかった。
この結果、それまでただれきった安穏のもと停滞していた歴史は、思わぬ方向へと、そして激しく動き出すことになる。
HUMA基地近郊で。
「ふっ、バリスタスか。案外やるではないか。だが、やってくれたほうが好都合だよ、この俺にはな。世界を征するのは正義でも悪でもない、この俺、ガイバーVだ!」
「何でも願いが叶うの?う〜んそれじゃ、世界を統べる王様にして!え?実在する地位じゃないと駄目?じゃしかたないから、日本国総理大臣でいいわよ。」
そして遥か異次元の彼方で。
「そう・・・。地上の秩序を守護する聖四天として、放っておく訳には参りませんね。予備役の徴収を始めなさい。」
既に、その動きは始まっていた。

この戦いはまだ、序章に過ぎない。世界一長い前哨戦は、終わりを告げたが。
世界征服を完遂するその日まで、バリスタスは戦うのだ。

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