秘密結社バリスタス第一部第七話「Sideバリスタス」
満月と星が、街中とは格段に違う輝きで、山間を照らし出す。秘密結社バリスタス本部アジトがある、そこを。
思えば、闇に潜むものとは皆この月星のようなものである。燦然と日輪が輝く昼間には、出ることの出来ない存在。それを多い保護する夜が、「悪の秘密結社」の本質。人は闇を恐れてきたが、闇とはただ恐ろしいものではない。それは本来、人に安寧をもたらす、静かな夜であったはずだ。
そう夜空に思いをはせながら、蜘蛛怪人アラネスは配下の戦闘員部隊を見回した。皆程よく緊張しながらも、十分の余裕を保っている。満足したアラネスは何度か頷いた。
秘密結社バリスタスは伝統的秘密結社の体裁をとっているが、それに収まらない部分も多々ある。人命の重視がその一つで、戦闘員達を一兵卒に至るまで重要な「仲間」と考えており、断じて使い捨ての駒にすることは無い。それどころか幹部や怪人が率先して戦闘員を守ることすら日常茶飯事、それが出来ないものは組織の一員としての資格を疑われる・・・もっとも。出来ない奴などこのバリスタスにはいないが。
先人達の伝統は受け継ぐべきではあるが、同時に悪いところは改革せねばならない。兵力の使い捨ては組織の早期弱体化の原因、そして兵の団結こそが少数組織であるバリスタスの勝利の鍵。そんな戦略上の理由だけでなく、より高度な目標として、「正義の支配する世界で生きていけない存在たる悪、それが安心してすむことが出来る国としての組織」を、バリスタスは目指しているのである。
「おう、新入りの。」
強化服を纏った戦闘員部隊の中で、隊長用の普通型より重装甲・通信装備充実型の服を着用した傍らの者に、アラネスは語りかけた。その中に入っているのは新人の幹部候補生、きっどである。
「お前、まだ未改造なのに戦闘員待遇で戦闘に参加すんのか。」
そのとおりであった。きっどはまだ改造手術を受けてはいない、従って肉体的にはただの人間である。だがあえて、戦闘員服を着て参戦してきていた。
その志はアラネスは高く評価した。だが同時に懸念も抱く。新兵の宿命といってしまえば仕方の無いことだが・・・きっどはがちがちに緊張していた。これでは激戦になれば危ない。
「は、はイィッ!」
甲高く裏返ってしまった声で答え、かっくんかっくんと張子の虎か何かのように首を上下させるきっどを見て、アラネスはため息をついた。
そしてまだ中学生ほどの年齢でしかない相手の背丈に合わせるように2mもある長身を屈ませ、その定規でも突っ込んだかのように一直線になったきっどの背中を平手で何度も叩く。
「わ、わぷっ!?」
息を呑んで咳き込み、目を白黒するきっど。その様子を横目で見ながら、アラネスは静かに語った。
「いいか、幹部候補か何か知らねぇが、戦闘員部隊の中ではお前はただの新兵だ。だから、緊張しようがびびろうが、泣こうが助けを求めようが俺は一向に構わん。お前が窮地に陥ったら他の戦闘員や怪人、特にこの部隊を預かる俺がしっかりと助ける。分かったな。」
静かだが、力のある低音。ようやっと咳の収まったきっどは、マスクの下で表情はうかがい知れないが神妙に聞き入っている。
「緊張してもいい。びびっても、泣いても小便漏らしてもいい。助けてやる、守ってやる。だがな、一つだけしちゃならねぇことがある。分かるか?」
説諭からの唐突な問いかけに、きっどは首をかしげることしか出来なかった。アラネスのほうでも答えを望んでいたわけでは無いらしく、言葉を続ける。
「これは、秘密結社の戦闘員としてというわけでも、戦士としてというわけでも無い。・・・もっと深く古い、男としての約束だ。逃げるな。退くな。一歩後ろ向いて退けば、お前の後ろにいる奴が一人死ぬと思え。死ぬときは前を向いて、敵を見据えて死ね。何も実際死ねというわけじゃねぇ、それくらい根性すえれば、見えねえチャンスも見えてくる、ってことだ。」
そういうと、アラネスは笑った。顔面の稼動部分が口の周りの触手と大顎にしかない顔なのに、はっきりときっどに分かる、男の笑いだった。
「はいっ!」
深く頷くきっど。大分緊張の取れたその仕草を確認するようにじっと見た後、アラネスは立ち上がった。
無線機を手に取る。
「こちらアラネス、配置完了、送れ。」
「感度良好、こちらフリーマン部隊、こちらも完了。」
いの一番に入った蚤男フリーマンの部隊からの通信に続き、各怪人から次々と配置完了の報告が入る。
「・・・了解、本防衛作戦の司令官、影磁だ。状況を説明する。」
続いて通信機から、全部隊に向けて大幹部・影磁の指令が飛ぶ。他の大幹部、JUNNKIは実戦部隊指揮、直接指揮より裏方で実力を発揮するシャドーが副官を務めている。
「現在悪の博士怪人軍団戦術指揮官・マシーネンカーネルが当直部隊を率いて敵を撹乱している。カナリアンヌの声帯模写能力を使った撹乱は思いのほか有効な手段だったようだ、敵をうまい具合に予定した位置まで引きずりこんだらしい。」
特殊な改造を施された改造人間カナリアンヌは、人間の声のみならず殆んどあらゆる音を真似することが出来る。その能力による撹乱・偽装が最大の任務という、使いどころが難しい改造人間である。が、この場合においてはまさにうってつけと言えた。
「カーネル嬢も流石にやるものですね。皆様もそれ以上の活躍を期待していますよ。」
続いて、副司令官のシャドー。
「では・・・作戦開始!敵HUMA量産型ヒーロー部隊を包囲殲滅せよ!!」
突撃の喚声は無い。奇襲の優位を保つための当然の措置である。・・・が、このときバリスタス怪人部隊はもっと重要なことに気づいていなかった。いや、錯覚ゆえ見逃したといってもいい。
HUMAの部隊であるから敵の主戦力は量産型ヒーロー、という錯覚である。そのため最初に敵の大まかな数を報告してきたカーネルの偵察結果だけで満足し、追加偵察の命令を出さなかったことにある。いや、この場合誰の責任ということも出来ないか。前線の指揮官もそれを怠ったと言えるし・・・いや、そもそも、「こんな事態」は流石に誰であろうと予測出来よう筈も無かった、か。
一斉に行動を起こし、森の中でも比較的開けた場所に陣取っていた敵を包囲、壊滅せしめるべく突進したバリスタス怪人軍団。
だが。
「な、に・・・?」
絶好と思われたその突撃は、まるで見えない壁に遮られたかのように停止した。それは、視覚的情報的な衝撃。
其処に居たのは、HUMAのヒーロー部隊ではなかった。均整の取れた、やや人工的でいかにもなデザインのヒーロー達と違う、もっと生物的な異形の集団だ。
ギィーラァーッ!
ゾォーリィー!
ゲコゲコォー!
キキキキキキ・・・
シャア!シャアシャア!
森に満ちる、獣のごとき鳴声。そう、その姿はむしろバリスタスの面々に近い。
「これはっ!!ヒーローどもではない・・・現行の強化人間とは違う、改造人間っ、それも・・・!」
「確認した、間違いない!こいつら全部「黄金の混沌」期の秘密結社の怪人だっ!」
かつて栄え、滅んでいった、いわばバリスタスの祖先とでも言うべき「衝撃を与えるもの」を初めとする秘密結社。その死せる、そして製作技術も失われたはずの改造人間達が、其処には群を成して存在していた。
「そんなっ、そんな、馬鹿な・・・っ!」
「HUMAに、これだけの技術が!?馬鹿な、ありえない!」
グルルルァーーーーーーーッ!!
一斉に、攻撃を仕掛ける前で停止していたバリスタス部隊に逆に仕掛けてくる謎の怪人たち。いや、謎、ではない。彼等が腰に所属の証として巻くベルトのバックル。それはそれぞれの怪人のかつての組織から、HUMAの紋章へと変更されている。
「き、来たっ!」
「く、と、とにかく応戦なさい!!」
「ハーァヴラァーーッ!!」
「ぐっ!!」
二本の斧が何度もぶつかり合い、飛び散る火花が闇の中際立つ。
やや押され気味の戦いに、影磁・AGは焦るが、形勢は絶対的なまでに不利だった。戦闘員を含めた混成部隊のこちらに比べ、相手は全員が改造人間。それも・・・
これが最も絶望的な要素なのだが、相手はかつてのオリジナルに比べ劣化する再生怪人とはいえ「黄金の混沌」期の技術をすべて持っている。現在では失われ、再現すら大半の組織ではままならない、今とは比べ物にならないほどの高度な技術。バリスタス改造人間は現在ではその技術を最もオリジナルに近い形で継承し、幾分かの改良すら加えてはいる。だが「質の優位」という普段の戦いでバリスタスに最もアドバンテージをもたらす要素を封じられたことに変わりは無い。
まさに象徴的なその事例は、他ならぬ影磁とその戦っている相手だ。
相手の名は「破壊者」幹部「医学博士G」の正体たる機械合成式怪人「カニレーザー」。影磁が己の怪人体「AG」を作る際に参考にしたものだ。
皮肉に笑う暇は無い。一歩間違えば腕か首を叩き落されかねないぎりぎりの競り合い。
「でぇいっ!!」
普段の余裕綽々な様子とは打って変わった裂帛の気合とともに、回し蹴りでカニレーザーの手から斧を弾き飛ばすAGだが、カニレーザーの次の手は影時の予想よりはるかに早かった。
AGの装備には無い、腰の剣を引き抜くと、装甲の薄い影磁のわき腹を狙い突き出す。追撃のために前に出ていた影磁は、もろにこれを直撃させてしまった。
声にならない呻きとともに後退する影磁、その隙に取り落とした斧を拾うカニレーザー。
「フゥヴァッ!!」
「むぐっ!」
鈍い金属音とともに、二体の間合いが一旦開く。カニレーザーが持っていた楯を突き出し、AGのわき腹に刺さった剣をさらに深く押し込もうとし、そうはさせじとAGもまた楯で応戦し、互いを弾き飛ばすような格好になったのだ。
だが機械合成式怪人技術の精華ともいえるカニレーザーは、遠近両用の戦いに対応している。その名の通り額につけられたレンズから灼熱のレーザーが断続的に伸び、次々とAGの体に突き刺さる。
「ぬおおおおおおおっ!!」
傷口から血が噴出するのも構わず、叫ぶAG。全身から発する高熱火炎「メキドの火」が周囲の空気を熱で歪ませ、レーザーを拡散させる。そして今度は熱波がカニレーザーを襲った。
楯で防ぐことのかなわない、全方位から包み込むような熱に服を燃え上がらせて後退するカニレーザー。
その間にも戦いは続く。
「ナックルシザース・ブレイキング!!」
ぐぁらがっしゃーーん!!!
シャドーことドクラーゴキラーの怪人形態、ハサミムシとゴキブリの合成怪人ゴキオンシザース。その必殺技・組み合わせた両腕を発射するナックルシザースブレイキングの直撃を受けた敵が木っ端微塵に砕け散る。
その体はすべての部品が機械で構成されており、「衝撃をもたらすもの」系列の改造人間ではないことを示す。
「キカイダーと戦った、暗黒、の破壊部隊ロボット、ですね・・・」
肩で息をつくシャドーの周囲には、既に数体の改造人間とロボットの残骸が転がり、木々は軒並みなぎ倒されている。
一旦周囲の敵が尽きたことを確認したシャドーは、武器にも生体レーダーにもなる触角を展開し、戦況を探った。
(あぁ、やはり犠牲が多い。戦闘員の被害が特に・・・とはいえ、これだけ戦力が拮抗している状況では、撤退させることは出来ません、ね。怪人にしても全部戦闘用の相手に対して、こちらは戦闘力のばらつきが激しい。敵も馬鹿ではなく、戦闘力の高い私や影磁さんをうまく足止めしている・・・しかし、おや?)
周囲の偵察から通信傍受のため、触角の機能を切り替えた途端。ゴキオン・シザースの超感覚はそれをとらえた。
(これは・・・この怪人自体に思考能力はなく、どこかからか司令が下っている。ECMでの妨害を恐れて、これは思考伝達魔法に近い、霊子通信・・・HUMAの技術とは、考えがたいほど!表向きの技術の低さはやはり三味線を弾いているだけ、か。そしてこれは、一旦中継している奴が、この近くに居る!)
恐らく送信機・受信機が小型化できなかったのだろう。その証拠に短距離すなわち各個の怪人への司令伝達はまた別の、より簡易な脳波同調通信で行われている。
(ならば!)
早速シャドーはこの事実とその通信中継している奴の座標を指揮下の全怪人に通達する。長い触角は偵察だけではなく、幹部として必要な司令伝達・通信にも有効な多目的発信機になっているのだ
「了解した。こちらカーネル。最大戦速で発信源へ向かう!」
情報送信から殆んど間をおかず、返事がかえってきた。
好ましい戦況に安心するシャドー。マシーネン=カーネル・・・悪の博士怪人軍団、いやバリスタス怪人中でも有数の機動力と実戦経験を持つ怪人・機蝗兵ならば、うまく・・・
そう、思った。だが不意に、自分の思考に疑念を感じる。
妙だ。そんな、軍団の弱点とも言える存在を、なぜ護衛なしでほうっておく?そして、いくらカーネルが強いとはいえ随分早く突破を許した。
(・・・罠、か!?まずい!)
「・・・・・っ!」
シャドーの直感は、半分は当たっていた。
対仮面ライダー、そのために作り上げられた高速戦闘用の体の力で、森の中を一気に突破したカーネル。途中にいた二、三体の怪人を、対応する暇も与えずすれ違いざまに切り倒して。
相してたどり着いた、シャドーから告げられた座標。そこに、確かに人影、もっとも実際には「人」ではないだろう影が一つ。
それまでの敵と同じく、一撃で切り伏せようとするカーネル。幸いにも相手は、改造人間のようだがまだ変身していない。カーネルと同じような黒を基調とした軍服を着て・・・
「カーネル=クリーチャー・・・」
その一言。
その一言を、カーネルは信じることが出来なかった。「新たなる衝撃を与えるもの」幹部時代の彼女の名を呼ぶ、その声。
そして影は振り向いた。
「我が娘・・・・・・」
彼女の一人目の義父、ヤモリの改造人間ヤモリジンの正体を持つ、「新たなる衝撃を与える者」大幹部。
ゼネラルモンスターの、顔と姿で。
「まずいまずいまずいっ!!」
両腕の刃、頭部の触角、胸部に仕込まれた生体独立攻撃ユニット。その全部を全力で振りかざしながら、シャドーは突進した。
バリスタスの中でも屈指のバランスの取れた戦闘力を持つ、改造人間ゴキオンシザース。その突進は確かに普段なら十分に先行したカーネルに追いついたであろう。
だが、今回は相手が悪かった。「暗闇」「影」「RRKKバドー」のロボット部隊を切り抜けた先に待っていたのは、大量の改造人間・・・それも初期にして基本の完全形と言われた「衝撃を与える者」「破壊者」それと第二期においてそれを継承した「新たなる衝撃を与える者」の改造人間部隊だったのだ。
「ぬっ、くっ!」
自分と同じゴキブリをモチーフとした怪人を真っ二つに切り裂き、まだ倒れきらない死体を飛び越えるように前に進もうとするシャドーを、横合いから投げつけられたクモンジンの投網が絡めとった。
そこにピッケルシャーク、クサリガマテントウ、ナイフアルマジロなどの接近戦等に適したタイプの機械合成怪人が一斉に襲い掛かり、それぞれの武器を振りかざす。動きを封じられかわすことのままならないシャドーは刃で二つまでを受け止め、残りは出来るだけ装甲の厚い部分で受け止めたが、次から次へと降り注ぐ打撃は、金属とは思えないほどの復元性と強靭さを持つ超弾性チタンをも砕いていく。
「ぐああっっ!」
打ち砕かれた装甲の隙にもろに入った一撃に、苦呻をあげるシャドー。このままうやられてしまうかと一瞬覚悟を決めそうになったその耳に、不意にそれは聞こえた。
ヴオオオオオオン!!
「っ!?」
唐突に響く轟音に、一瞬だけ再生怪人たちの動きが止まった。そのエンジン音と思しき音に、まるで恐れをなしたかのように。
「!、しめた、なんだか分かりませんが今がチャンス!」
その隙に網を破り、包囲網を突破するシャドー。
ドルン!ドルン!ドルン、ドルン、ドルンドドドドド、ドルン・・・
「しかし、あれは・・・っ!!」
音をたどり、一瞬振り仰ぐ視線の先。彼方、崖の上。月の下、それは居た。
とどろくエンジン音と、それにかき消されることなく響く風の音を纏い。
バイクの上、炯炯と光る赤い複眼と第三の目、髑髏と昆虫の外骨格を融合したような仮面と、一見皮革製のように見える、改造体を覆う強化表皮。
・・・仮面ライダー。
(伝説のヒーロー、仮面ライダー。何故ここに!?そして、あの行動、我等を助けるようなあの行動は、一体なんだ!?)
その思惑の宿ったこちらの視線に気づいたのか、その姿はすぐに消える。一言も残さずに。そしてシャドーも、また。
そして、何とかシャドーは追いついた。
「死ねっ!死ねぇ〜〜〜い!」
バァァァァン!ズバァァァァン!!
地面を連続して爆発が走る。背中に大きな霊子通信装置を背負った以外は往時の姿のままの、ゼネラルモンスター怪人形態・ヤモリジンの鞭は打撃と同時に爆発を起こす仕掛けになっていて、爆導索のように地面を走る爆発は食らったらよっぽど装甲の分厚い改造人間でなければ直撃を受けると危ない。
だが、逆にそれによる攻撃が続いているということは。
「カーネルさん、無事で!」
「心配ない!ここは私が!」
加速装置まで使って駆けつけて、エネルギーを消費したため一旦その場に立ち尽くしたシャドーの眼前で、カーネルは次々繰り出されるヤモリジンの攻撃を完璧にかわしていた。
鞭の次に投げつけてきた、ヤモリジンの体細胞から構成された爆弾をレーザーで迎撃、空中で爆発させる。
「ぐお・・・!」
その一瞬、爆風に巻かれたヤモリジンに隙が生まれた。一気に間合いを詰めるカーネル。
マシーネンカーネル怪人形態・機蝗兵の速さ、とくに戦闘機動の素早さはバリスタスでもJUNNKIやゴキオン・シザースと一、二を争う。その速度で繰り出される単分子爪の威力も、また。
「う・・・く、えぇいっ!」
ヤモリジンを、一撃で破壊しえたであろう、その一撃。
しかしカーネルの爪は狙いを外し、いや、ヤモリジンの前で遮られたかのようにぴたりと停止していた。カーネルはその不自然な体制のまま、力を込めた苦しげな表情をしており、まるで何かの見えない障壁に攻撃を遮られているようにも見える。
いや、それはある意味では正しかった。
遮っている壁の名は、彼女の心だ。
無論理屈では、この再生ヤモリジンが自分の義父ではない、義父の心を持っていないただの人形だということは理解している。そして、ここで目の前の相手を倒せるかどうかが、この戦いの、ひいてはバリスタスの存亡に関わっていることも。
だが。
彼女の震える爪の先。いきなり変身をといたヤモリジン・・・ゼネラルモンスターの顔。
それに爪をつきたてることがどうしても出来なかった。変身を解いて見せたもの、こちらの精神に揺さぶりをかける策だと、分かっている、の、だが。
「くっ!」
そのがらあきの隙に、反撃とばかりに突き出される蹴りを飛び下がってかわすカーネル。
「何をしている、私・・・っ!あれは、敵だ!倒すべき、敵!皆にいままでどれだけ守られてきたと思っている・・・戦うことしか出来ない、私にとってこれが僅かでも恩返しの出来る機会なのだぞっ!」
(なるほど・・・そう言うことでしたか)
相変わらず、健気な娘だ。そして、優しい。
(本来、彼女のような優しい人はこんな秘密結社の戦士などではなく、光の中での穏かな幸せこそが似つかわしい・・・)
「っと!?」
そんなことを思い傍観している間に、こっちにも流れ弾の爆弾が飛んできた。慌てて避けるシャドー。
その時だった。
「カーネル。これは、俺がやる。」
低い、振り絞るような声。そして。
ドガァァン!!
耳を劈く轟音と閃光、人間では到底耐えられない反動を制御する、小型ロケットの噴射音。そして普通の銃ではありえない、特殊火薬の燃焼臭と電磁加速のイオン臭。
その匂いのする空気を引きずるようにして、倒れるゼネラルモンスター。
「この銃声は・・・悪の博士製作対改造人間拳銃・レイジング=ブル改「真理夜」。と、言うことは」
悪の博士が自ら作成し、何度かの実戦使用の後も改良を続けた対改造人間用拳銃。一つしかないそれを、与えられた男もまた一人。
「じ、磁力っ・・・!」
「・・・やはり貴方も来ていましたか。HV団戦闘員・生栗磁力。」
電脳世界の秘密結社・ヘルバーチャ団。そこの、濃緑色の軍服的な戦闘員服を身に纏った青年。両腕で、驚くほど大きなベンチテッド・リブと銀色の鏡面仕上げが特徴的な銃をしっかりと握り、射撃姿勢をとっていた。
軍事教練を受けたものが持つ精悍さがある、実直そうな顔。だが、それだけではない。それ以上。不器用だがしっかりとした、「男らしさ」がある顔だった。
「こいつがお前の父のはずはねぇ、何のためにお前が改造人間になったか思い出せ!再生させられた可能性を考えても・・・それほど強く魂が残ったなら、お前を殺そうとするはずが無い!殺すほど操られているなら・・・そんなことを、子殺しなんてまねさせるわけにはいかねぇ!」
激しく叫ぶ磁力。その声は強い思いであり力。まるで魔法が解けたように、カーネルはその声とともに体を壊さんばかりに込められた力が抜けていくのを感じた。
「・・・すまん。また助けられた。」
がっくりと、力尽きたようにうなだれるカーネル。本当にすまなそうな、悲しそうな声。
「・・・俺は、ここでトドメをさせないお前のほうが好きだぞ。これで抵抗なしで殺せるってんなら、ただの殺人機械か、目的のために手段を選ばない外道・・・あのカマドウマ男の野郎と変わりない。躊躇うのは、お前が優しい「人間」だって、証拠だ。」
その声を覆うように、というにはいささか力足りず、ぼそぼそっ、と生栗。そっぽを向いた横顔の赤く染まった様子から、照れているのだと分かる。
「・・・俺のほうこそすまない。こんなことしか、出来なくて。」
だがそれが逆に、何よりもの暖かさ。
「磁力・・・」
僅かに目を潤ませるカーネル。
「その通りです。」
「わっ、しゃ、シャドー閣下!」
そのカーネルの肩をぽんと叩き、シャドーは微笑んだ。
「我等の世界征服は、我等が光の中で生きる世界を作るための手段。その過程において心に悲しみの闇を増やしていては、本末転倒ですからな。
一方。
「うおわっ!」
HUMA怪人部隊はその質と量を生かして、とうとう本部アジト内までバリスタスを追い込んでいた。
必死に応戦するバリスタス部隊、その中にきっども混じっていた。
「うああああああっ!!」
初陣にして、圧倒的に不利な戦。そういう時人は結構醜態をさらしてしまうものなのだが、きっどは踏ん張った。先ほどのアラネスの言葉が支えになったのだ。
戦闘員を主とした部隊が、必死の連携で改造人間と戦う。その中できっどは幹部候補として教練で得た改造人間の知識を元に、うまく指揮していく。
武器と体、装甲のつなぎ目を狙う。機動性に富むタイプの場合は蝗軍兵を主とした部隊と共闘し、重量級の相手はトラップに誘い込む。
「やってるじゃないか!増援に来たけど、こりゃ大丈夫か!?」
そう、この区画に派遣されてきたJUNNKIが軽口を叩いたほどだ。
「いえ、まだまだ・・・」
それに答えるきっどの声にも、若干の余裕が生まれ始めていた。・・・アラネスなら、その時が一番危ないと言うであろう、半端な慣れが。
しかして、まさにその時それがやってきた。
ズゴガガガガガガガガガガン!!
ドゴォォォォォン!!
「うわあああああああっ!!」
通路いっぱいに吹き荒れる爆風。吹き飛ぶ戦闘員達。咄嗟に体を丸めやり過ごすJUNNKIは、同時に何とかきっどを自分の体でかばった。
「く、な、何だ・・?」
もうもうたる煙の向こうを、神経を集中して見通す。そこにいた相手は・・・
「げっ・・・パーフェクトUFOサイボーグ・タイガーロイド!!バダンの最強怪人かよ!」
背中、両肩、腰の左右に大砲を装備した猛虎の姿の改造人間の姿を確認したJUNNKIは、目を剥いた。
それ以前のすべての悪の組織を統括した組織バダン、その、全身の九割を機械化するパーフェクトサイボーグの機械改造と、時空魔法陣の力を用いた魔術改造の融合昇華体たる怪人の中でも「最強」と言われたもの、タイガーロイド。
「やべぇっ!」
全身に砲を積んだ姿から分かるとおりの重火力の持主で、その最大射程は50km、超高層ビルですら一撃で粉砕する。戦闘員やJUNNKIのような軽装怪人に対しては、ハンマーで卵を潰すようなものだ。
普通こんな重火力の怪人を室内戦闘で使うことなどないが、逆に最大限破壊して構わない相手基地での攻撃ならば、狭い通路をほぼ全域火力で制圧できるタイガーロイドは、JUNNKIたち機動性をもって敵の攻撃をさばくタイプには天敵と言える。
歯を食いしばり、JUNNKIはタイガーロイドを見据え突進した。タイガーロイドの全身の火砲は、0,7秒の間隔で機関銃並みの連射が出来る。だが仮面ライダーZXはそれを突破してこの難敵を下している、それと同じことをやるしかない、という判断だ。
砲弾が、衝撃波を皮膚で感じられるくらいの距離を通過していく。身をかがめ、天井ぎりぎりに跳躍し、急な加速と減速、時には後退を繰り返しながら砲撃の嵐をかいくぐる。
最後の砲弾が、肩口すれすれを掠めた。だがそれももう殆んどJUNNKIの意識からは外に追いやられている。今はただ、タイガーロイドの体にハイバイブネイルを突き刺す、それにのみ意識が刃の切っ先のように集中している・・・!!
ガギギギッ!!
爪は、見事タイガーロイドの体を捉えた。それは、JUNNKIの狙い通り。だが問題は、それだけではタイガーロイドが死ななかったという事実だ。
虎の両腕が上がり、腰につけられた小型砲が旋回し、JUNNKIの脇腹に狙いをつける。
「JUNNKIさんっ!」
咄嗟にきっどが、JUNNKIが突撃の際放り出していった、彼が独自に作成した対改造人間拳銃をひっつかみ、撃つ。一発目は見事に小型砲の一つに命中、破壊。すかさずの二発目、だがタイガーロイドも流石に伊達で最強怪人の称号を持ったわけではない。その時は既にJUNNKIを狙っていたもう一門は、きっどへ狙いを変えていた。
発射音が、重なる。砕け散ったのは、両方の武器だ。
「くあっ・・・!!」
手の中で砕け散った銃の破片で傷を負い、また強力な銃の反動に押されて倒れるきっど。だが、そんな自分の身を案ずる気配はない。タイガーロイドにはまだ両腕がある。JUNNKIの首をもぎ取ることだって十分に出来る怪力の。
起き上がる、すでにタイガーロイドの腕はJUNNKIにかかりかけている。だが、もうきっどの手元にはそれを阻止する手段がない。だが、それでも教わったとおりきっどは前を見た。
そして、それが、立ち上がろうとしたことが、一つの結果を生み出した。
「動かないで。狙いをつけるから。」
「えっ?」
急に耳元で、そう囁き声がした。無理に大人のふりをした子供のような、不思議な声。
そして、きっどの肩に声と同時に重みが加わった。咄嗟に横目で見ると、それはきっどの肩を支えにするようにして真っ直ぐ伸ばされた手だ。手の甲の部分に緑色の葉のようなものがついて、それと手の間のスリットから、何かの発射機構のようなものが覗いている。
ビシシュシュッ!!
耳元で劈く発射音。その手から放たれた銃弾が、タイガーロイドの両肩に食い込んだ。何らかの強力な毒素が含まれていたらしく、一見傷は大きくないものの、苦しみもだえるタイガーロイド。
それだけの隙があれば、追撃を加えて手負いのタイガーロイドを倒すには、JUNNKIには十分だった。
「ふーーっ・・・危機一髪・・・。えぇと、どうもありがとう。君・・・誰?」
何とかタイガーロイドを倒したJUNNKIは、命の恩人に対して振り返った。
と、そこに居たのは見たことのない姿の改造人間だ。一応JUNNKIはバリスタス最高幹部・六天魔王の一人だというのに。
だが、見たことはないが、見覚えが無いわけではない。青紫の花弁を象った頭巾と、緑の葉をあしらった体、何より十二、三歳ほどの少女など、このバリスタスには今のところ一人しか居ない。その幼い容貌に似合わない、頭巾と同じ青紫色の口紅と爪とアイシャドウが一種独特の危うげなアンバランスさを示す。
「あぁ、君は確か・・・」
あの、シーファイターの少女だ。彼本人がトリカブト怪人用にジュン部していた部品で体を直したのだからもっとすぐ気づいてしかるべきかも知れないが、あのときは体をつないだだけなので、変身後の姿がどうなるかなんて想像もつかなかったのだ。
「はい、手術、ありがとう御座います、JUNNKIお兄ちゃん。バリスタス怪人・アクニジンです。」
「・・・え?」
一瞬、胡乱な目になるJUNNKI。
とりあえず、最初に感じた違和感は何とか自分の中で説明がついた。どうやら、心的外傷は記憶の自己封印という形で現れたのだろう。あの出来事を、覚えていないのならばそれはそれで幸せなのかもしれない。
だが。
「ちょいと待って、えっと、アクニジンちゃん。なぜJUNNKI「お兄ちゃん」?」
「えっと、影磁閣下とシャドー閣下が、そう言うようにって。」
あん畜生、まだ拘っていたのか。しかもシャドーさんまで一緒。
「それで、lucarさんがJUNNKIお兄ちゃんのこと助けに行けって・・・あれ?どうしたの?」
思わず頭を抱えるJUNNKIのことを、不思議そうに覗き込むアクニジン。
何とか気を取り直したJUNNKIは、身を起こすと適当にはぐらかした。
「いや、まぁ、なんでもない。それにしても・・・」
機能停止したタイガーロイドを眺めるJUNNKI。その爬虫類の顎を象った頭部装甲の内の表情に、内心の複雑さが現れる。
「ふっふっふ・・・どこの組織か知らないけれど、あたしたちバリスタスに歯向かおうとしたのが間違いってとこね。・・・なんちゃって。」
対してアクニジンは、いかにも悪の女といったような仕草で言うと、少し恥ずかしかったのかちろっと舌を出して取り消したりしている。
その仕草は自然で、あれほどのことをされ、苦しんだことも忘れ、元気になったように見えて。
だからJUNNKIは、あまり警戒せずに呟いてしまった。
「HUMAだよ、正義の味方。・・・行状はとてもそうは思えないけどな。」
「せい・・・ぎ・・・」
「!?」
咄嗟に、一瞬恐怖に近い感覚を覚えアクニジンのほうにJUNNKIは振り返り、そして凍りついた。
たった今まで、得意そうに微笑んだりはにかんだり、朗らかな少女の表情を見せていたその顔が、雰囲気そのものが、別人のように変化している。
今其処に居るのは、どす黒い憎悪と灼けるような怒りに身を染めた、戦鬼だ。
「正義!?この、大嘘吐きの、偽善者どもがっ・・・!!」
ぎりぎりと食いしばられる歯。その据わった目は、今目の前にあるものではなく、どこか別の・・・彼女が一度死んだも同然の、あのときを見ているようだ。
それと同時に、体も変化していく。
べきべきと音を立てて、全身を覆う葉型の皮膜が、硬質で鋭角的な外骨格へと変化する。その姿は彼女のもともとの変身形態「シーファイター・カブトレオン」に似ているが、それよりもさらに戦闘的で凶暴な印象がある。
変化の最後に甲羅の一部がスライドし、其処から現れた暴力的なデザインの大剣を、節くれだった手が掴む。
「こ、れは・・・!人格の分裂が、その人格が司る体にも作用したというのかよ!?」
そのような設計を、JUNNKIはした覚えはない。それ以前に、彼女の体はきちんとした設計のもと造られたものではない、つぎはぎだ。これは一種の、暴走といったほうがいいかもしれない。
「うわああああああああっ!!」
「だぁっ!?」
その口から放たれる、少女のものとは思われない怒号。そして、滅茶苦茶に振り回される剣。
ズガン!
その一撃が、先ほどのタイガーロイドの砲撃にも耐え抜いた基地の壁を砕くのを見て、JUNNKIは。
悲しみを覚えた。この力の大きさが、彼女の苦しみと哀しみの大きさであるということに。
「って、そんな感傷に浸ってる場合じゃねぇ〜〜!!」
振り回される剣が自分を狙ってくることに気づき、泡を食ってかわすJUNNKI。きっどもまた、荒れ狂う剣舞に舞い散る壁の破片を必死に避ける。
「くっそ、どうすりゃ・・・?」
その拍子にタイガーロイドの後から現れた敵があっという間にずたずたになったが、それとは別にまた大変である。彼女を抑えなければ。
だが、これではとても近づけない。
「ごおおおおおっ!」
「って、わぁっ!!」
そんないっぱいいっぱいの状況下、突如後ろから咆哮が轟きわたった。慌てて後ろを振り返ると、オレンジ色の鬼のような姿をした改造人間・・・同じくHUMA基地で保護されたヒョウモンダコ型シーファイター「オクトーガ」が、物凄い勢いで突進してきていた。
度重なる実験により既にかなり人間離れしたシルエットとあいまって、物凄く恐ろしく見える後門の狼だ。
「きっど、よけろっ!」
「っでぇあああああ!?」
カブトレオンの暴走を避け回っていたきっどは、まだ改造人間ではないこともあって一瞬後ろの事態に反応するのが遅れた。その間に、オクトーガは既に至近に迫っている。
「かぁっ!」
「ああああ・・・あ、あれ?」
目を白黒させた後、取り残されたように戸惑うきっど。オクトーガは彼に衝突も攻撃もせず、ばねのような筋力で上をひょいと飛び越えたのだ。
そして、それだけではなく。
「おおおおっ、ぐぉろっ、るろろぉ!」
飛び越したその先、暴れまわっていたカブトレオンを、振り回される剣に傷つきながらも、強引に取り押さえていた。
「う・・・あ・・・彪・・・?」
オクトーガの腕の中で、カブトレオンは何かほっとしたように大人しくなっていく。そしてオクトーガの巨大な腕が、それに秘められた怪力に似合わない細やかな優しい動きで、カブトレオンのベルトにつけられたポーチから何か錠剤を取り出し、口に含ませる。
程なく、眠りについた「彼女」は、甲羅に鎧われた狂戦士から、花の姿(まぁ、毒花だけど)を持った少女に戻っていく。
その様を見て、幾分悲しげな、そして同時に安心した、低い唸りを漏らすオクトーガ。
「あ・・・あんた・・・」
JUNNKIのかけた声に、振り返るオクトーガ。その胴体部についた目は、怪物的な体の見てくれと異なり、知性と意志の輝きを放っている。
「そうか・・・よかった・・・心は、無事だったんだ・・・」
そう呟き、へたり込むJUNNKI.嬉しさと、姿だけで怯えてしまった、まるで改造人間も下位次元民も遺伝子改造生物も一緒くたに「バケモノ」と恐れるその辺の半端な愚民みたいなまねをした自分への呆れから、ため息をつく。きっども、やはり同じようにため息をつく。
(まだまだ、俺も未熟だ。)
と、安心の後自戒したJUNNKIはようやく気づいた。
それまで次々現れていた敵再生怪人部隊が、ぱったりと姿を見せなくなっていることに。
「・・・?そういえば、敵は?」
JUNNKI達が騒いでいる、そのころ。地上でヤモリジンが破壊され、命令を下すことが出来なくなった途端、再生怪人たちは突如きびすを返して撤退を始めた。
「敵が逃げ出していく!、どうやら指令が途絶えたら自動帰還装置が作動するくらいの仕掛けはしてあったようだな、だが!」
牙と棘と節足で覆われた口を開き、にんまりと笑う影磁。
「戦闘には使用できないレベルのオートパイロットで逃げる相手を、取り逃がすものか!総追撃・・・!いや、退避!!」
咄嗟に直感が発した警報に従い、飛びずさる。重装甲に似合わぬ機敏な動き、それが幸いした。たった今まで立っていた場所に直撃した砲火は、食らえば確実にAGの装甲を貫いただろう。
「増援!こいつらの撤退を援護するためか・・・っ!しかし、この威力は・・・!」
彼らは今、浅い階層とはいえアジト内で戦闘を行っていた。当然地下であり、かつその上は何重もの装甲で防御されている。それら全てをぶち抜いて、敵の攻撃はここまで届いたことになる。
あの呑気な顔のまんぼうですらそれを理解したらしく、比較的深刻そうな顔をしている。
「こうなったらしかたないまぼっ!!」
いいざま、まんぼうは口の中に胸鰭を突っ込むと、掌大の扁平な四角いものを取り出した。
黄色と黒の縞々で、髑髏マークのかかれた真っ赤なボタンがくっついている。
「兄者が「ピンチになったら押せ」と言ってたこのボタンを押すマボ!ぽちっとな。」
「えっ、ちょっ・・・!」
それはまずい、絶対まずい!と瞬時に判断した・・・というか、もう見た時点でオチが予想できた影磁が止めようとするが、そのときにはもうスイッチは押し込まれていた。
ピーーーッ。
甲高い電子音。そして。
「自爆装置が作動しました。繰り返します、自爆装置が作動しました。当基地は自爆モードに突入します。全動力炉暴走、全燃料、全爆薬、全弾薬点火。解除は不可能です。総員脱出せよ。繰り返す、総員脱出せよ・・・」
・・・・・・
「まぶぉぉぉぉぉっ!?兄者何考えてるマボ〜〜〜〜〜!!」
「い、いかん!!全員脱出!!急げ!」
いきなり最後を迎える、バリスタス本部基地。
「やむをえん、資材は放棄しろ!」
「病棟の負傷者搬出を急いでください!」
「まんぼうの馬鹿〜〜〜!!」
「兄者が悪いマボ!!」
「責任の所在を争っている場合か!急げ!!」
ぎりぎりのところで、最後の一人の負傷戦闘員を連れてイカンゴフが転がり出てきた直後に大爆発。爆風で背中をつき押され、前転する二人。
大混乱、している暇も無い!
次々と降り注ぐ砲撃。幸いにしてそれらは再生怪人たちの撤退援護が目的らしく、こちらに直接向かってくる気配は無い。
命令電波も途絶しているところを見ると、どうも今度の奴は意志を持っているか自動型・・・恐らく自動型。最初の命令を実行して居るがゆえ、この好機を見逃したのだろう。
そして、基地から焼け出されたバリスタスの上に、待っていたといわんばかりに砲撃者は舞い降りた。
夜空に浮かぶ、人の姿。マントのようなものを羽織っているので分かりにくいが、優美な曲線を描く女性のシルエットだ。
砲撃の破壊力、そしてその影の特徴から、JUNNKIは正体を推測してみた。
「あれは、アルフェリッツ?」
そう呟くのとほぼ同時に、もう一体、もう一体・・・次々と同じような姿をしたものが現れる。総勢、十体。
「いや、違う!」
そう、影磁が叫んだ刹那。その空を飛ぶ人影はそれぞれ掌にプラズマ球を発生させた。それが一斉に炸裂すれば・・・地上に展開した怪人部隊は焼き払われる。
声を発する間もない、一瞬。
放たれるプラズマ弾。
一瞬で、特殊能力次元転移を使って前に出るまんぼう。
巨大化し、大きく口を開く。
ずばぅぅぅぅん!!
「うわっ!!」
凄まじい突風が発生し、舞い上がる粉塵に思わずJUNNKIは顔を覆う。プラズマ弾とその熱、それによって発生する爆風を防ぐためまんぼうが丸ごと周辺空間を転移、その際に周囲の空気が吸い込まれ突風が起こったのだ。
先ほどの失態(というか何と言うか)を補うような活躍を見せ、満足そうにその分厚いたらこ唇をほころばせるマンボウ。
だが、敵も素早く、第二弾の準備を整えようとする。それも今度は陣形を散開させて。これなら防ぎきれないどころか、まんぼう自身もダメージを受ける危険性がある。
「まぼっ・・・!」
動転するマンボウに対して、敵は全くの無言。そのまま攻撃・・・
「奥義・十二王方牌、大車輪!」
「真空ミサイル!」
「シャドウエッジ!!」
空中で連続発生する爆発。
そして、月を背中に背負い、展開する巨大な翼。
「・・・いい加減にしろ。」
獣の唸りのような勧告。放つは月影の、怪獣と見まがうばかりの巨大な翼の男。
「まったく・・・演出が過剰なんですよ・・・」
思わず影磁がぼやく。が、その声音には嫌悪の色はなく、むしろほっとした風情が漂う。
偵察部隊を救援にいっていた博士と蠍師匠が、帰還したようだ。
「でもなんで、ゲートキーパーと一緒なんでしょうね?」
「・・・さぁ」
確かに、たった今の攻撃。最初の一発は蠍師匠の技だったが、残りの二撃は違う・・・ゲート能力による攻撃だ。
それを確認した敵は、全員気味が悪いほど同じ動きで反転。来たときと同じように唐突に消えていった。状況を分析したのか、目的を達したのか。
それは、いいのだが。
「・・・さて、これからどうするのでしょう?」
「・・・基地、吹っ飛んじゃいましたしねぇ」
口調はぼんやりしているが、この会話を交わした影磁、シャドー、ともに内心では物凄い勢いで今後の戦略の組み立てに入っている。とりあえず、
「兄者、何で自爆装置だっていわなかったマボか!」
「やっかましぃ!あのデザインみて気づかないほうがどうかしとるわ!」
「ほんとにもう兄者は昔からいつもこうまぼ!そもそもつけるなまぼ、自爆装置!」
「何を言うか自爆装置は男のロマンだ!」
などと激しく言い争うお馬鹿兄弟は、完全に無視である。
・・・次回に続く。