秘密結社バリスタス第一部第三話「ネロス・クロノス・バリスタス」
響き渡る怒鳴り声。
「貴様ら、この神聖なるクロノスのアジトの面前で、何をしておるか!この不届者どもが!」
ガリレオ=ガリレイかレオナルド=ダ=ビンチか。そのころの時代の学者を思わせるもしゃもしゃの長髭に禿げ上がった頭の老人だ。背は短躯だが声はやたらとでかい。
その容貌をさらに特徴付けるのは表社会のものではない特殊なローブと、額にまるで第三の目のように埋め込まれた楕円の宝石だ。
「クロノス12神将の中でも最高指導者アルカンフェルの片腕的存在といわれるDrハミルカル=バルカス閣下のお出ましとは・・・」
クロノス。大半の秘密結社が既得権益を求める、事実上ただの悪徳企業と変わりなくなっているこの時代、数少ない世界征服を狙う組織であり、また十二神将と呼ばれる大幹部達の戦闘能力の高さは、他組織の容易な手出しを阻むほど内外に知られていた。その点は同じく世界征服を狙う組織BF団において、十傑集と呼ばれる超能力者集団がその威力を示しているのと類似している。
だが、今その日本支部のまん前に立っているこの男達は、微塵も臆することくそれと向かい合っていた。
「我等バリスタスも、実力が知れ渡りつつあるということかな?」
そう、バリスタス。世界征服を狙う、新たな秘密結社である。
このとき第三者がこの二者の軍勢の対比を見たら、まず間違いなく攻め込んできた側・・・バリスタスの方の指導者の正気を疑っただろう。
クロノスのビルに偽装したアジトの中から湧き出してきたのは、見るからにおぞましい獣人の群だ。人体に遺伝子改造・・・彼らの言う「調整」を施した生体兵器「獣化兵(ゾアノイド)」。調整による生産だけではなく遺伝子改造された生物として「繁殖」も行う一種の生態系兵器であり、その量産の容易さは他の組織の生体兵器の群を抜く。
それが、数百体から控えている。
対して、バリスタス側は、たったの七人。七人だけである。
戦力比、ほぼ百・・・!何を考えているのか、さっぱり分からないほどの絶対的格差。
敵襲ということで出てきてみた十二神将バルカスも、全くどういう意図かつかめないほどだ。だが、それを率いる二人の幹部らしき者のあまりの余裕・・・それもまた、クロノス最高の科学者たる彼の頭脳を持ってしても、分析しきれずにいる要素だった。
「何の用じゃ、と聞いておる!」
「聞かれたならば、名乗らずにはいられまい。我等は秘密結社バリスタス。そして我輩は、組織を束ねる大幹部が一人、第六天魔王「悪の博士」!」
その大仰な名乗りに、傍らの男は一瞬きょとんとした様子で仮面を見た。
(おい。その称号は一体なんだ?)
(十傑集や十二神将に対抗するには、われらにもそれっぽい階級名が必要と思ってな。ちなみに貴殿は第四天魔王、以下lucar殿が第一、JUNNKI殿が第五、まんぼうが第三、シャドー(ゴキラー)殿が第二。数字に特に意味も無いし、まぁハッタリじゃ、はったり)
この言葉で分かるとおり、確かに、たったの七体だがしかし。
そのうち二人までが大幹部・・・髑髏作戦において絶大な破壊力と超技術の精神兵器でアルフェリッツ=ミリィと渡り合った「悪の博士」、そして半径100m、高さ1000mの巨大な火柱を発生させて敵量産ヒーロー部隊を蹴散らした、影磁・・・改造人間AG。
そして、残りの五人も。
最初にして最も高レベルでバランスの取れた重攻撃型改造人間・蜘蛛男アラネス。
組織最高の怪力を誇る改造人狼フェンリル。
重装突撃用改造人間鎧武人。
無限分裂と胞子散布によって一体で面制圧を可能にするキノコ怪人マッシュ・茸。
そして、光子制御などという第六階梯超科学を持って改造されたコガネムシ怪人・ゴールド公爵。
整備調整に時間のかかり、損傷しやすい機蝗兵や妖斬鬼・麗斬鬼などの軽装改造人間を除けば、相当の精鋭をそろえている。
「我等世界征服を企む、世間的には悪の秘密結社と呼ばれ定義される存在である。諸君らもそうであろう。」
あっさりと言い放つ悪の博士。
それに続けて、影磁。
「確かに・・・あなた方には世界の所有権を主張するだけの根拠はある。」
「ぬ?」
意外なことを言う相手に、ややバルカスは驚いた。互いに限界ぎりぎりまで領域を拡張しあう組織間においてこういう譲歩的発言が行われることはほとんどない。それに。
「救星主」アルカンフェルのお噂は、かねがね。」
「うぬら、何故それを知っておる!?」
クロノス12神将の長、アルカンフェル。他の十二神将の「オリジナル」である彼は、実に数百、数十万年もの昔から若者の姿で生き続けている。
そして・・・その昔・・・
彼は、神の僕として人々を律する「王」の一人であった。
神、といえば人は笑うかもしれない。だがそれは確かに実在した。より正確に言えばこの世界とは異なるはるか高位の次元の意識生命体か何か、今となっては知る由も無い高度な、力を持った何かであった。この宇宙に働きかけ、ほとんどの生命を創造したほどの。
(それは伝承の中で様々に呼ばれた。「神」「降臨者」「ウラヌス」「ゲンジェス」「ガーライル」・・・)
人は、そしてすべての生き物は、神の統率下で生き、完全にその掌の上で命の全てを全うした。その時神の第一の僕として地を支配していたものたち・・・その中に、アルカンフェルはいた。
しかし。この世界は間違っている、そう感じるものが生まれた。すべてが神の掌の上にある世界。裸のまま、無知のまま、与えられた囲いのうちを楽園と信じ「飼われる」ことを拒否し、己の脚で立って歩こうとした者たちがいた。
人を直接管理する下級の神たち。彼らは人と交わり、人となり、人の運命を悲しんだ。そしてその悲しみの姿を、まだ純朴だった人たちは受け止め、そして立ち上がり「神」との戦いが始まった。
神の軍勢に立ち向かったのはそれら下級の神・・・蛇や鴉や龍、髑髏や脳髄など多くは異形の姿を持っていた、そして後に復活した彼らは、皮肉にも「悪の秘密結社の首領」と呼ばれ、倒された・・・たちと、そもそもは神の兵士達として作られたグリゴリ(伝承によればグロンギ、ゴルゴムともいう)と呼ばれた原初の改造人間たち、神族と人との混血であるアギト、マーズ、バビルなどの本来は地上を監視するため派遣された者、神から鎧を与えられたが皮肉にもその力ゆえに魂を神の呪縛から開放された現在ガイバーと呼ばれるものの祖先、その同類たる不死神官の仮面を与えられた戦士たち、そして自らの意志で神の力を吸収し、次元を超えた力を振るうことが出来るようになったものたち・・・これを今に受け継いでいるのが僅かにその能力を受け継いだ「ゲートキーパー」、そして最もその超次元攻撃の血を濃く受け継ぐのが「ガーライルフォースマスター」あのアルフェリッツ姉妹。
この戦い、最初アルカンフェルは「反乱」と捉え鎮圧しようとするが、「神」が事態収拾のため全ての星の人類を・・・下級神やアルカンフェルもろとも・・・抹殺しようとしたことに生まれて初めて哀しみ、怒り、そして反抗した。
最激戦地である地球にいた彼は、地球を破壊するために神の送った、月ほどの大きさの小惑星を他の下級神とともに完全に粉砕し、力を使い果たし長い眠りについたのだった・・・
だがこれは、クロノスの中でも極少数の人間しか知らないことである。それを、何故。
「我々は「ちぎられし過去」「黄金の混沌」両方につながる知識を蓄えている。あの時代の出来事も、ほぼ把握しているつもりだ。」
「それ位せねば・・・この酷い現実を背負わねば・・・世界を支配するものの後継者は名乗れまい。」
ふ、と声を合わせるように深い笑いを影磁と悪の博士は漏らした。
本当に酷いアイロニー。だが実際には、もっと酷い、複雑な事情がある。それを知る故に、彼らの笑いはなお暗く黒い。
「ならば、うぬらも我が主の下にはせ参じたが良かろう。それを知るならば・・・」
「いや、こうして見て見るに、御主達は駄目だ。断る。」
当然とでも言うべきバルカスの誘いを、一刀のもとに博士は切り捨てた。
「何故じゃ!」
「一つは、お前の兵達だ。」
ぴん、と心理外骨格に覆われ鋭い爪のついた指を立てる博士。八つの目が同時に目の前に展開した獣化兵たちをじろりと睨み付ける。
「・・・洗脳によって操られるようでは、真の戦士ではない。そのようなデク人形を使い捨てにするのは、真の支配者の態度とはいえない。」
「そして、第二に!」
と影磁は言いかけたが、その暇はいきなりなくなった。
「!」
唐突に目の前すれすれをレーザーがよぎり、着弾する同時に次々と遺伝子改造で生み出されたクリーチャーと思しき者達と、火器を大量に搭載したアンドロイドたちが現れた。
「おんどりゃあ!わしゃネロス帝国モンスター軍団凱聖ゲルトリングちゅうもんじゃ!ここはワシらネロスのシマやど勝手に何してけつかるねん!ショバ代はらっとんのか!?」
緑色の皮膚の、カプセル状の頭部を持つクリーチャー・・・ゲルトリングはどういうわけか大阪弁でまくし立てた。
「ふっ。」
その言葉を影磁は、妄言と笑殺する。
「なんじゃこらぁ!なめとんのか!」
「我等は秘密結社バリスタス、その目標は世界征服!世界は我等のもの、貴様らにとやかく言われる筋合いはない!貴様らこそ、我等に服従を誓うがいい。」
激昂するゲルトリングに、影磁はすっぱりと言い切った。だが、ゲルトリングも負けてはいけない。巻き舌の大阪弁でなじり返す。
「はっ、世界征服?いまどき何夢みたいなこといってまんがな。今の時代は、銭やで銭!一辺うたわしてこの世の摂理っちゅーもんを教育したるわ!いてまえ!」
ほっとんど関西ヤクザそのまんまな感じの号令とともに、ネロスの兵達が突っ込んでくる。
その僅かな間、つとバルカスを睨みつけた悪の博士。
「我々は世界を征服する。あそこに来た悪徳商人の手先どもも、お前達も、この世の美しいものも醜いものもすべて。己の中に規範をおいて、手段をしっかりと選んで。その過程においてのすべての痛みを、当然と受け止めて、な!」
その言葉に、バルカスは目をむいた。
「つまり・・・戦うということか、我等クロノスと、そこの連中、いちどきに!」
「無論!」
そして、獣達が咆え、噛み合った。
「ぐおおおおおおっ!!」
クロノスの主戦力である獣化兵、その大半を占めるラチモスやグレゴールなどの白兵戦用タイプが突進してくる。この類は筋肉隆々とした姿が示すようにひたすら怪力だけを武器とするタイプなので、白兵戦しか戦闘方法が無い。
それも、せいぜいが力任せ、高度な技を振るうことなどおぼつかない。
「覇ァァァァァァ!!」
突進したアラネスの口から、裂帛の気合が放たれる。
同時に四本のサブアームと両腕が、大きく振り回された。だが、それは敵を前にしてではあるが、まだ届かない距離・・・素振りか?
と思われた、一瞬の後!
ズバーーーーーーーァッ!!
「ぐええええええ!?」
突進していた獣化兵の群れの前列が、同時に血しぶきを上げ細切れになった。
まるで巨大な剃刀の群が通り過ぎたように。
「ぬっ・・・単分子ワイヤー、それも高振動がかけてあるものを、一度に十数本放ちよったのか!」
バルカスの目が驚愕に見開かれる。
「その通りっ!だがそれだけではないっ!」
血に濡れてようやく見えるようになった指とサブアームの先から出る細い細い糸を、アラネスは素早く巻き取った。
先制の一撃で怖気づいた獣化兵達も、バルカスの思念波に指導されて再び動き出す。同時に、アラネスも。今度は先ほどのように振るうのではなく、突き出すような動き。
「単分子ワイヤーの生成を短く、多数を揃え、それを発射してやれば・・・食らえ、短針銃!」
バッシュ!バッシュバッシュバッシュ!!
数千本の微細な針が通過する・・・それを食らったものは針が刺さるどころではなく弾着面がぐずぐずになって大穴が開く。
今度は前列だけではすまない。貫通した針は後続の連中まで次々と大穴を開け、挽肉へと変える。
「うぬぬ・・・ならば受けて立ってくれるわ、射撃戦!ヴァモア部隊、生体レーザー発射じゃ!」
すかさずバルカスの思念波が飛ぶ。命令を受けたのは後方、基地の砲座のような区画に配備された、両肩に大きな瘤のある獣化兵たちだ。
その瘤が大きな口のように開くと、中には発光する瞳のような器官。生体で構成されたレーザー発振機。それが一体につき二門、合計二百近く。
たった六人相手には多すぎる火力に見えるほどの。
一斉に・・・発光!
「なあっ・・・!」
だが、その光が貫いたのはバリスタス改造人間の体ではない。
光は、直進する。その法則を無視しヴァモア部隊の放ったレーザーは反転し、発射したヴァモア自身を撃ち抜いた。
「ぎっ・・・・・・!」
ひとたまりもなく蒸発して消えるヴァモア、貫通され、燃えるクロノス基地。
「なんじゃとっ・・・!」
科学者であり、超感覚能力を持つバルカスには分かる。それは、空気の屈折では不可能、重力レンズでも超大型ブラックホールなみの力でなければこんな芸当は出来ない。そして、そんなものではない。もっとより根源的な意味で光に干渉した、としか思えない。
「ふふ・・・」
それを行った者・・・全身金色という異常に目立つ配色の甲虫モチーフとおぼしき改造人間・・は、口ひげを蠢かせ不適に笑う。優雅にシルクハットなんぞ被っていて、甲虫の顔との取り合わせがユーモラスである。
「見たかね、このゴールド公爵の「光子制御」の力は。光に直接働きかけて自在にその方向を制御できる・・・とっ!?」
自慢げに講釈するゴールド公爵の後頭部を、何を思ったか悪の博士は杖で荒っぽく小突いた。
「自慢するでないわい。我輩が本来与えたスペックならば、おぬしは光の方向を曲げるなどという小手先技ではなく、光子そのものを材料として物質レベルに再構成し、エネルギーが一時的に物質のふりをしているが故に破壊不能の心理外骨格に並ぶ擬似存在、光子物質を自在に形成できうるはずだったのだからな。それが未だに出来んのはひとえに素体たるお主の精進不足なのだぞ!」
少々長広舌、まるで周囲にも言い聞かせるようだが、それも計算づくの威嚇だ。事実これだけの力がある、と知らしめれば、その後色々と有利に運ぶ。
「くっく、貴様ら組織の上級幹部「十二神将」にも人工的にブラックホールを作り出す、次元断裂を刃とする、天候を操作し雷を起こすなど超越の技を誇るものが多いようだが、我が組織では・・・一兵に至るまでそのレベルよっ!くはーっはっはっはっは!」
高笑いする悪の博士、だがこれもハッタリである。そういった大技を持つのは十数体の主力改造人間のうちの幾人か、大半はそれほどまでの力を持たず、残りは獣化兵よりは勝るが突出したレベルではない、そして物量では百分の一以下の量産型改造人間と戦闘員部隊に過ぎない。
外骨格に鎧われたその姿に似て、凄まじい面の皮の厚さで悪の博士はクロノスと渡り合っていた。
「それならば・・・超獣化兵部隊、突入じゃ!!」
と、また新たな群が倒れた獣化兵の死肉を踏み越えて現れた。
「むんっ!!」
「ふっっ!」
反応したアラネスとゴールドが、それぞれ短針銃と太陽光を歪めてレンズのように収束した熱線で攻撃する。
が、今度の連中は一部はその攻撃を受けて倒れるものの、大半は回避して反撃を仕掛けてきた。
それも放電、超音波、生体ミサイル、液体爆薬、分子振動など多種多様な攻撃でだ。それは、アラネスの単分子ワイヤーや短針銃などの武装にも引けを取らない。
だがなおアラネスは、猛々しく笑った。
「ほう、今度のは少し違うか!だが武装だけで勝負をしても勝てんぞ!」
受け、かわし、そして反撃。接近する生体ミサイルを切り落としてゴールド公爵を下がらせ、放電や超音波を発射前に相手の動きを読み照準を外す。そして接近戦にワイヤーを短めに出し、相手を刺すように装甲の隙間など急所を狙い、撃破する。
猛然と戦うアラネスの姿は、ほぼ同レベルの武装を持つはずの超獣化兵の中でも圧倒的だった。
「ひっ、ひぃ・・・!」
通常の獣化兵より勝る戦闘能力を誇っていた超獣化兵たちが、怯えはじめすらする中、材料たる蜘蛛の視力面の不安を解消するため単眼に取り付けられた電子ゴーグルの赤い光が、ぎらりぎらりとその姿を見据える。
「歯車として、上位者への奉仕を喜びとして戦うお前達。己の戦いの意味を見据え、一人一人が判断を持って誠を誓い戦う我等。どちらが世界を得るに相応しいか・・・この戦いで見せてやろう!」
雄たけびとともに単分子ワイヤーが放たれ、まるで叫びそのものに力があるかのように、また一体の超獣化兵を切り裂いた。
「博士ぇ、俺の出番まだですか!?」
と、その後ろでそれとはぜんぜん緊張感に劣る、だが別の意味では切実な叫び。
「お前は、「秘密兵器」だ。今回は温存路線。」
博士に出撃を懇願して拒否されているのは、全身が複雑な色の菌糸のより合わさった、かなり怪物的な外見のキノコ型改造人間、マッシュ・茸だ。
外見は物凄いが、意外にもその声はまだ幼い、せいぜいがとこいって高校生といったレベルの少年の声だ。
「そんな〜!俺も戦えますし戦いたいっ!」
(難儀な奴だの〜・・・)
がりり、と博士は頬をかく。マッシュの能力は広範囲における胞子の散布による生物兵器能力と、無限分裂による自己再生・自己増殖。使いようによっては一体で一軍に匹敵する能力だが、うかつに使えば生物災害間違いなしの、使いどころが難しい能力でもある。
「そうでなきゃ・・・俺何のためにこの姿になったんだよ!俺、役に立ちたくて、恩返ししたくて改造人間になったのに!」
「!・・・」
意外なまでに真剣な、その言葉。だから博士は、敵に向けるのとは全く違う表情を、向ける。慈愛。
「分かっておる。だがな我輩はお前達に恩を売ろうというわけではないし、それに意地悪でお前に力を借りないわけではない。」
そして、また向き直る。その表情を・・・
「おぬしらの手を煩わせるまでも無い。我輩一人で・・・十分だっ!!」
恐ろしく変えて。
「恐怖の夜を・・・思い知れ!」
その時、アラネスは苦戦に陥っていた。
「くそっ、こいつらっ!」
「キシュエア!シャアアアアア!」
新たに現れた、昆虫のような顔と手足、節くれだった尾に白い毛皮を持つ獣化兵の一団。
対ガイバー用獣化兵「エンザイムV」。
バッシュ!
「ギィ!」
高圧空気が噴出するような音を立てて放たれるレールガン。普通の獣化兵に比べてさらに動きの早いエンザイムVだが、アラネスは攻撃を命中させた。
「ギキキキ・・・!」
「きかない、か!」
だが、そのぐずぐずの大穴すら、見る見るうちに回復し、傷口が塞がってしまう。
「キシャアアアアアア!!」
そして、傷をものともせず、自分の命も何も考えずに集団で突撃してくる。
鋭い爪が、次々とアラネスの外骨格を引っかく。
「ギギギギッ!」
「ぬっ!」
「ギギギ!ギィィ!」
「がっ!」
「ギィギィギィギイ!」
「ぬおおおおっ!」
バリスタス怪人の中では六天魔王や鎧武人のような特別に重装甲な部類を除けばかなり厚いほうのアラネスの装甲すら傷つける、鋭い爪。
しかもそれだけではない。
じゅううううう・・・
傷口が泡立ち、溶ける・・・
それは本来ガイバーの強化外骨格を侵食するために作られた消化酵素なのだが、調整に調整を重ねられたそれは十分に改造人間にも通用することとなっていた。この酵素は爪、牙、尻尾の先からも分泌されている。
挙句に背中についた折りたたみ式の虫の羽で飛行も可能。このハイスペックの代わりとして、エンザイムVの寿命は極端に短く、せいぜい数年。まさに放たれるためにいる、対ガイバーの「猟犬」の群れだ。
それが数体チームを組んで一気に襲い掛かるのだ。いくらアラネスが六本の腕を持っているからといって体は一つ。白兵戦で一度に相手に出来る相手には限りがある。
「よし・・・追い詰めたぞ。」
にやり笑う、ドクターバルカス。
「いくら強いとはいえ、我等にかなうものでは・・・。」
「ギヘェェッ!?」
「なにいっ!?!?」
唐突に起きたその事態に、バルカスは本日何度目かに我が目を疑った。
「な・・・何事かっ!?」
「ぎgげrlksdf歩ふぉえふぇぶおshぎうdぎpwgぢpwugdiowu!」
「ぎうぇcwがdfgのpウィルへおぴfhでぢあsjl;kwd!」
叫び・・・それは怒り。
叫び・・・それは混乱。
叫び・・・それは恐怖。
人外の、金属音に近いようなエンザイムVの声でも、それがそうであることははっきりと読み取れた。
その叫びは、悲鳴であると。
叫び狂い、のたうち回り、互いに殺し合い、自らの肉体を切り裂くエンザイムVの群れ。
そしてその混乱は一気に周囲に拡大、すべての獣化兵がそうなるまで時間はさほどかからないかと思われた。
「何事・・・ええい、静まれ、静まれ者ども!!」
バルカスの思念波が高圧的に獣化兵どもの怯え狂う精神を押さえつけ、なんとか混乱を終始しようとする。だが恐怖はなおも膨れ上がり、凄まじい押し合いは客体の精神を破壊していく。
「くっははははは・・・。どうかね見たかねドクターバルカス。所詮奴隷の兵どもなぞ、この程度だ。」
「貴様!貴様かぁっ!」
高笑いする悪の博士。八つの瞳が、ぎらぎらと攻撃的に輝く。
「バリスタスを・・・我等を・・・舐めないほうが身のためだ。恐れろ、逃げろ、手を出すな!くぁ〜〜〜〜〜っはっはっはっはっはっはぁぁ!!」
狂ったような笑いが、戦場のすべての敵を圧していた。
不思議なことに・・・いや、当然か。
「凄まじいものだな、博士の力は・・・」
「あぁ・・・」
味方には、何一つ苦しみとなることはなく。
一方・・・
「『メギドの炎』!」
轟!!
全周囲に発せられる高熱火炎が渦を巻き、ネロスのバイオテクノロジーで作られた兵器生物たちを焼く尽くし、また強熱された空気が膨張爆裂し、さらに多くの敵を吹き飛ばしていく。
ネロス側に突入したのはまず影磁、そしてその配下の兜虫怪人鎧武人(ガブト)。ともに重装甲、突撃戦を得意とする改造人間である。
奇しくも武装は斧と斧槍、それも似通っている。
「ぎへぇっ!」
「ひょげぇ!」
あるものはあっさりと切り倒され、またあるものは逃げ出そうと背中をさらす。
(妙ですね・・・いくら悪徳企業の私兵とはいえ、脆すぎる・・・)
「わっはっは!歯ごたえが無いのう!」
主の考えも気づかず(気にせず?)それでかさにかかった鎧武人は斧槍を大上段に構え、どんどんと地面を揺らして突っ込んでいく。
と・・・落ちた。
どぉぉぉぉぉぉん!
「何じゃぁぁぁ!?」
大穴の下から、鎧武人の叫び。いつほられたのか分からないが、おそらくモンスター軍団員の溶解液を使って地盤を溶かしたのだろう。
「や〜〜い、ひっかかったひっかかった!」
「ぬははははは、ざまぁみやがれ!」
と、だみ声で笑うモンスターがどうやら企みを思いついたものらしい。触手がわさわさ生えた力士サイズの蝦蟇蛙とでも言うべき、醜悪極まりない格好をしている。
「この雄闘ガマドーンさまの計略、おそれいったか!げへへへへ!!」
雄闘・・雄雄しく戦うものという意味であろうその階級が、これほどまでに似合わない奴も要るまい。ずるいけど策といえるレベルではないあまりにせこい罠、まぁはまる鎧武人もあまりに単純に過ぎるが。
「口八丁手八丁卑怯未練恥知らず!それがモンスター軍団オレのトレードマークよ!!」
「自慢できることかっ!このデブガマっ!」
がぁっと大顎を開き、AGが珍しく怒り怒鳴る。だが、これは確かに分かる。はっきり言って自慢どころか、それは普通悪徳という。
しかも、軍団そのもののトレードマークだというからには・・・
「カッカカカカカ・・・ぬるい、ぬるすぎるでわれら。とどのつまりこの世は勝ちことに価値があるんや、どんな汚い手を使おうとなあ。お前さんにゃ、卑怯さとエゲツなさがたりんのじゃ!!」
当然、軍団の長は率先して、一番酷い。
「ボォォォケェ!バァァァカァ!!アァァァホォ!!!顔洗って出直してこんかい!!やったれ野郎ども!」
と、マンモスを狩る原始人のように上からどんどん岩やら木やらをぶちこんでいく。部下どもも皆主が率先しているものだから気が大きくなってごみを投げるやらおしりぺんぺんの類の愚にもつかない挑発やら。
「卑怯さとエゲツさそしてこのタフさ!この全てを持ち合わせたワシが負けるはずないんじゃァ!!」
「その方法でのし上がるには、「賢さ」と「注意深さ」も必要不可欠だと思うがね。」
「ぐ・・・!?」
静かな、氷の怒声。ゲルトリングの動きが、液体窒素につけられた風船のごとく固まる。首筋に突きつけられた斧・・・鎧武人を落としたことに気をとられすぎて、AGのことをさっぱり忘れていたのだ、たしかに賢さが足りない。この辺も、ガマドーンとよく似ている。
挙句、鎧武人もまた背中に羽が生えているのであっさりと飛び上がり戻ってくる・・・黒い体を石炭のごとく怒りに燃やして。
「おわわわっ!」
「覚悟しろ、下種!せこい上に阿呆だから、なお軽蔑と怒りが先に立つ・・・生かしておかんぞ!」
「お助け〜〜〜〜!」
ゲルトリングのカプセル頭に、二本の斧が叩きつけられる!
ぐがっ!
「お?!」
「ほうっ!」
と見えた瞬間、もう一つの影がゲルトリングめがけて飛び込んだ、ただし他の二つの影とは違う、正反対の目的で。
影が放った蹴りが鎧武人の斧槍を横に弾き、その斧槍がAGの斧と当たって起動をそらし、ぎりぎりのところで交差するような形でゲルトリングの頭をはずした。
「うわたっ、今やぁ!」
奇声を上げゲルトリングが体を液体化させ、するりと斧刃の間から逃げ出していく。
しかしAGと鎧武人はそれを無視した。横合いから一撃を加えた相手のほうが気になったのだ。
「ネロス帝国モンスター軍団軽闘士ヘドグロス!貴様らには悪いが、俺の夢のために・・・倒す!」
「ぬうっ?」
軽闘士といえば、ネロスの階級では奴隷を除けば一番下。だがAGにはこの男がとてもではないがそれほど下位に甘んじているものには見えなかった。少なくとも卑怯一本やりのほかの連中よりかはよっぽど見所があるように見える。
「いくぞぉっ!!勝負だァァァ!!」
「いいでしょう・・・貴方となら良い勝負が出来そうです!」
空気を唸らせ、縦横無尽に斧を動かして切りかかるAG、ヘドグロスはそれに身軽な動きで対応、攻撃をかわしていく。
「戦闘術、基礎が出来ている・・・相当の努力っ!」
「どあああっ!」
襲いかかるヘドグロスの拳、蹴り。しかしAGの楯と強固な甲羅はその攻撃を受けとおした。
「ぬぐッ!攻撃がきかん・・・ならっ!」
それを見たヘドグロスは一旦後ろに下がると、突如として怪しげな液体を吐き出した。
「俺の必殺技ヘドグロスシャワー・・・悪夢で体を縛られ地獄に落ちるっ!」
「っ、これは・・・っ!」
咄嗟に構えるが、よけきれないでAGは被ってしまった。
「ぬおおおおおおっ・・・!!」
体の筋肉がぎしぎしときしみ、同時に麻酔薬を盛られたような眠気と、悪夢、と確かに思わせる視覚野への幻覚作用。
「かっ・・・まだっ!」
何とかこじ開けた目には、再び飛び掛ってくるヘドグロスが写る。手に、先ほどゲルトリングが斧をかわすのに使った体組織液状化を施している。あれで、装甲の隙間を攻撃するつもりらしい。
なるほど、確かにその方法は正しい・・・科学者としてそう分析しながら、戦士として回避させるため体を動かそうとする。
何とか、意識して神経の流れを一つ一つ把握し、金縛り状態の体を再起動する。しかし急所は外せたが、かわしきれず肩の装甲隙間にヘドグロスの腕が刺さっていく・・・
!!
それは、おそらくヘドグロスシャワーの神経への影響と、液状化したヘドグロスの体細胞が神経と一緒にこちらの体内に入ったが故におきた現象なのだろう、そして戦闘用に開いていた鎧武人との改造人間間用脳内通信装置のせいで、AGと鎧武人二人ともが感じたのであろう。
ヘドグロスの記憶、心、夢・・・。
下級兵士の暮らし、将来を誓い合った、もっと貧しい奴隷階級の女ウィズダム、もうじき生まれる子供、二人が子供と暮らすために必要なもっといい環境、それは勝利による昇進でしか手に入らないと言われ、それに乗るより道がなかったこと・・・、
一瞬のその後。AGはヘドグロス以外の殺気をもう一つ感じた。・・ヘドグロスの真後ろ。重なる弾道。
「!」
咄嗟にAGが楯を突き出したおかげでそれは拡散したが、そうでなければヘドグロスもろともにAGを貫いていただろう。
それは・・・ゲルトリングの放った光線。
「ゲルトリング貴様ぁぁぁぁぁ!!」
激昂するAG、見ていた鎧武人も目をむく。だがゲルトリングは何を思いついてか逆に思い切り胸を張った。
「何を言う!わてはあくまで後方支援をしとるだけやでっ!たとえあたるかもしれん危険があっても、わいは勝機を増やすためあえて心を鬼にして撃つ!そう、いうなればこれは!ヘドグロスの夢へと向けたわいの愛の鞭なんやっちゅーねん!」
「お前のは・・・哀の無恥だろうに!!」
人が、どれだけ部下を死なせないかを苦慮しているというのに、この連中は・・・・!
影磁の怒りが、氷点下の冷酷から紅蓮の炎へと変換され、収束。
そして、普段は周囲に拡散させ放つ『メギドの炎』が、高密度に収束されゲルトリングに叩き込まれる。
「ヌゴォッッ!お、おのれ・・・」
「ゲルトリング様っ!」
自分を撃とうとした男に、それでも上司として敬語を使ってしまうヘドグロス。
(この男が出世しないのは、「口八丁手八丁卑怯未練恥知らず」というモンスター軍団の掟に反しているから、ではないのだろうか?)
思わず影時はそう思ったが、あまりヘドグロスにかわいそうな想像なので言うことは出来なかった。
「ワテはタフが売りの男や!そう簡単に死んでたまるかい!!消し炭一片だろうが残ってれば復活してやるわァァァ!」
そういい、確かに黒焦げになりながらも意外なまでの動きの速さで逃げ出していくゲルトリング・・・確かにしぶとい、この手のタイプは。
「何をしている、鎧武人!」
「す、すまん!ちょっと感動と悲しみのあまり涙で複眼が曇って!」
大雑把極まりない単純戦士の鎧武人。だがそれゆえに、「純真」といってもいい部分がその重装甲のうちには隠されていた。
「それには私も同意する。だが・・・」
「だが?」
「お前が目を曇らせているときに攻撃したの、ヘドグロスじゃなくて、ガマドーンだ。」
・・・ぶちっ。
そんな音がはっきり聞こえそうな勢いで、鎧武人の改造された肉体の内部で何かがキレた。
「この腐れ蝦蟇が、いい加減にせんかっ!どりゃどりゃどりゃどりゃあああ!!せいせいせい、くたばれぇぇぇぇ!」
とてつもなく重いはずの、鎧武人の主兵装の一つ角型長柄戦斧。それをまるで玉葱をみじん切りにする包丁のように連続して振り下ろす鎧武人。怒りでただでさえありあまる腕力がさらに倍増しているようだ。
ぶよぶよの巨体を切り刻まれ、ガマドーンが悲鳴を上げる。
「い・・・痛いよォ・・・結婚前の大事な体なのにィィッ!」
「どやかましぃわあ!!」
「というか、いるのですか、相手・・・?」
「・・・・・・・現在募集中だぁ!!」
「手加減無用。」
「わかっとる!絶対ぶっ殺す!」
かえって火に油を注いでしまう。
「ビートル・ハッグ!」
斧槍を頬リ捨てた鎧武人が、両腕を掴みかかるように広げる。同時にそれまで腹部を鎧のように覆っていたサブアームが起動、鋭い爪で脂肪だぶだぶの胴に食い入る。
「どうか… どうかお許しォォォ!!」
「今度は命乞いか・・・見苦しい、ビートル・ギロチンッ!!」
問答無用の一撃。鎧武人の頭部、モチーフとなった兜虫よりも凶悪な、チェーンソーの角が一気に振り下ろされるっ・・・。
ゴ・オァァァァンッ!!
「くわっ!?」
「おひょ?!」
その、まさに直前。
一発の砲弾が丁度振り下ろされようとしていたチェーンソーの横っ腹を撃ち抜いた。衝撃が頭を揺らし、思わず力が抜けたその隙に逃げ出すガマドーン。
「ヘッヘッヘッ・・・命あってのものだねっと・・・・・・」
「おのれ・・・逃げるとは卑怯なっ!」
でぶでぶの短足巨体の癖に、異常なまでに逃げ足が速い。その上さらに降り注ぐ銃弾が逃走をサポートする。
鎧武人は全身を重装甲で覆っているが、一箇所だけ弱点がある。それはまさにいま、ビートルハッグのためにサブアームを展開している間、腹部装甲ががら空きになることである。これではサブアームを折り畳むまで追撃できず、そしてその時間があっては相手は逃げてしまう。
「やれやれ・・・我々の出番か。」
それは、動き出したもう一つの軍団の放った砲弾だった。こちらはどうやらアンドロイド、それも重装甲と重火力を目指して設計されたタイプ。
「こちら機甲軍団、凱聖ドランガーだ。火力支援を開始する・・・全隊、撃てぇい!」
ドドドドドドド!!
大小火砲の一斉射撃が大地を揺るがす。
咄嗟に実体弾を吸収無効化する楯を構え、AGがそれを防いだ。しかし敵もそれを見るや周囲に着弾を散らし、無数の破片と衝撃波、炎でダメージを与える作戦に巧みに切り替える。
「ちぃ、やる・・・な。」
ギャグをはさまない分だけ、モンスター軍団より隙が無い。遠方から滅多うちにされては格闘戦用の鎧武人はどうしようもなく、AGもメキドフレイムを味方を巻き込まずに使える位置までうまく移動できない。
(まずいか、何か突破口があれば・・・)
「加勢〜〜〜〜〜〜っ!!」
「!?」
ぐわっしゃ〜〜〜〜ん!
そう影磁が考えるのと同時に、灰色の体が弾丸のように機甲軍団隊列に突入した。
物凄い力だったらしく鎧武人にも負けないほどの重装甲の機甲軍団アンドロイドたちが吹っ飛ばされ、ひっくり返り、倒れる。
「フェンリルか、いいタイミングだ、よく来た!」
装甲された頬をほころばせる影磁に、フェンリルは灰色の毛皮で覆われた手でVサインを送る。が、それと同時に飛んできたミサイルを振り向きざまに叩き落した。
隙が、組織に加わってすぐのころ力任せに腕を振り回すだけだったフェンリルから消えている。突入の方角、状況の判断もだ。
「どぉだっ、ボクもなかなかのもんでしょっ!伊達に異世界で戦火をくぐったわけじゃないぞぉ〜!」
「ふむ、確かに見事・・・」
敵から見れば大暴れ、味方から見れば大活躍するフェンリル。頷いながら、影磁は同時に考えをめぐらせていた。
(兵装に錬度が伴う改造人間は、あの伝説のヒーロー「仮面ライダー」の例を挙げるまでもなくその力を何倍にも発揮する。博士の言によればゴールド公爵もマッシュもまだ成長の余地があるようですし、蛇姫やイカンゴフ・カーネルさんも相当腕を上げている模様・・・欲しいですね、ああいった力)
「ちぃぃ!」
そうしている間も、戦闘は進行する。
「あの狼型改造人間を阻止しろ!弾幕射撃で動きを止めるんだ!」
号令を下すドランガー。それと同時に一糸乱れぬ動きで追随する機甲軍団。だがフェンリルもそうそうそれにかかるものではない。
と、フェンリルは気づいた。一体だけ、撃ってこない奴がいる。
「い、犬・・・」
「へ?」
突如戸惑いだした敵、戦車ロボブルチェックに首を傾げるフェンリル。対照的に相手は泣き出しそうな声で言った。
「だっ、駄目だぁ!俺は、俺は犬が大好きなんだぁ!半分人間とはいえワンちゃんを攻撃するなど・・・俺には出来〜ん!」
・・・・・・
「ボクは犬じゃない!狼だよ!」
プライドを刺激されたのか、フェンリルは頬を膨らませて抗議する。いや、そういう問題か?と胡乱な目を周囲は注ぐが。
「同じようなものだぁ・・・ど、ドランカー様、お、俺にはこの娘は撃てませぇん!」
「な、えぇいまた悪い病気を出しおってからに。どいてろ、ならば私がやる!」
ずしんとコンクリを歪ませドランカーが前に出る。シールドに仕込まれた強力な砲をすかさずフェンリルに向けた。
が。
「だっ、だめです凱聖!撃っちゃだめですぅぅぅ!」
「う、うおっ馬鹿やめんか!」
ブルチェックがドランカーの腕にしがみついた。慌てて振りほどこうとドランカーがもがく。
「ええいはなせ馬鹿者!敵に情けをかけるとは貴様それでもネロス帝国の一員か!」
いや、それ以前の問題だろ。
周囲の人間はみな心中でそう突っ込みを入れた。
「あ」
どんっ!
結局大砲は発射された。・・・上にむかって。ビルに命中し、崩れ落ちるコンクリートが二人を直撃する。
「ぬぐわああああ!?」
「だああああああっ!」
埋もれる二人。
・・・・・・・・・
ぼごん!
だがコンクリの山の下から、すぐにドランカーが姿を現した。重厚な装甲は埃っぽくなったものの、損傷は見られない。
「機甲軍団の重装甲その身をもって思い知ったか!!」
「あ、いや・・・・・」
・・・そうしている間にも、戦闘は進行する、のである。
激しい混戦の中、クロノスの部隊は徐々に押され始めていた。それというのも当初の位置関係では間にバリスタスが挟まれていたのだが、それを察知した影磁がネロスに、悪の博士がクロノスへそれぞれ突入を指示。これにより一気に切り込んできたバリスタス怪人との戦闘で生じた損害、またバリスタスを内側に取り込んだ格好で今度はやはり同じように内側にバリスタスを潜り込ませてしまったネロスと、バリスタスという緩衝帯なしで接触する羽目になりさらに損害が拡大したのだ。
「プルクシュタール!プルクシュタール、何をしておる!!」
バルカスの獣結晶が激しく明滅する。同じ獣結晶を有する獣神将を呼んでいるのだ。
「応答せいプルクシュタール!」
(ドクターバルカス!)
ようやく、バルカスの脳内に応答があった。が、それは予想外のもの。
「プルクシュタール、本来の日本支部長のうぬが一体どこで油を売っておる!」
(ドクターバルカス、それどころでは・・・ぬうっ!)
不意に思念波が混濁する。
「どうしたのじゃ!」
(こちらはHUMAの襲撃を受けている!それも、アルフェリッツ姉妹にだ!!)
「何じゃとぉお!!?」
「ティルトプラズナーッ!!」
レモンイエローの光弾が次々と空気を裂いて突進し、
「おのれぇっ!」
バリアーに弾き返されて町を火の海にする。
それから僅か0コンマ数秒の単位でレーザー機銃が掃射される。が、今度はバリアではなく光学兵器を吸収する黒いビームアブソーバが受け止めた。おそらく装甲内でレーザーを何度も屈折させ、熱エネルギーの形で吸収しているようだ。当然掃射であるからビーム機銃は町を滅茶苦茶に穴だらけにする。
その黒い装甲と、白色の生体装甲で覆われた体をもつ、獣神将プルクシュタール。その姿は獣そのものの獣化兵よりガイバー、いやそれよりも人間に近く見える。
「なんという奴らだ・・・」
攻撃を受けきりながらも、獣神将プルクシュタールは冷や汗を流した。とんでもない破壊力、命中率、そして躊躇のなさ。
「あいにくあんた相手じゃ手加減は出来そうになくてね!」
緑柱石色の髪を翻し、ミリィが咆える。
「誰が相手でも手加減しないくせに・・・」
小型戦闘機・ウィンスパローに乗っていたリュートがぼやく。
「お前達の相手をしている時間はないのだ!くらえっ!!」
精神を集中させ、プルクシュタールは拳をぐっと天につきあげ、そして平手にして振り下ろした。
途端に暗雲が渦巻き、凄まじい雷が連続してアルフェリッツ姉妹を狙う!!
ドドドドドドドドドドドン!!!
一発一発が高層マンションを蒸発させるほどの熱量が有る。
「ぬぅ・・・!」
だがプルクシュタールはその端正な口元を僅かに歪めた。着弾のタイミングより、アルフェリッツ姉妹の動きのほうが僅かに早い。
「ならっ!」
即座に攻撃を切り替えた。出の早い額の結晶からのレーザーで牽制する。
「きゃあっ!」
唐突に切り替わった攻撃に判断を誤ったか、ウィンスパローの横腹にビームが突き刺さった。煙を上げて反転、離脱するウィンスパロー。
「リュートをやったなっ!!」
なおも襲い来るミリィに、再びレーザーで応戦する。
が・・・
「効くかっ、んな低出力のレーザーがっ!!」
拘束飛行のために張り巡らされた空力制御バリアが、それだけでレーザーを弾いた。
「オルクスフューリー!」
反撃と放たれたプラズマ弾性体の戦輪を、ぎりぎりのところでプルクシュタールはかわした。だがそのままの勢いで、ミリィは接近してくる。
「ぬぅん!!」
ドガーン!!
「うわ!」
なんとプルクシュタールは、自らの体に雷を落とした。高熱で膨張した空気に張り飛ばされるミリィ。
高圧の電流は、プルクシュタールの体を駆け巡り、胸部に集中していく。
「なめるなぁっ!!サンダーブラスト、受けよっ!!」
まるでビームのように収束された雷がなぎ払われ、ミリィにも直撃する。
「うわああああっ!!」
「ええい、何と言うことか・・・」
「何だと?」
「ぬ?」
だが、この事態に驚いたのはバルカスより影磁のほうだった。
「まずい、皆逃げろっ!!」
「プラズマバースト!デルタスピリッツ!シルフィンハーレーッ!!!」
影磁が叫ぶのと同時。叫び声とプラズマ弾の嵐が一時に襲い掛かった。
業炎!
数万度の熱が地上で争っていた獣化兵やモンスター軍団を飲み込み、ビルを倒し大地を引き裂く。
超音速で行われる戦闘は、その範囲を信じられないほど広くする。はるか彼方と思われていた戦いは、プルクシュタールがこちらにこようと常に移動していたせいで、一気に市街地までなだれ込んできてしまった。
「ミリィ〜〜〜〜ッ!貴様また町を破壊しおってぇ!人の星だからって好き勝手するんじゃない!」
「そりゃあたしゃここの星の生まれじゃないけど、何であんたが「この星は自分の星」みたいな態度なんだよ!」
「知れたことぉ!この星はその内我が組織が征服するのだっ!」
「そういう寝言はきちんと征服してからほざきなっ!」
早速、前回の続きとばかりに開始される悪の博士とミリィの舌戦。
と、その隙を突き、AGが一気に跳躍した。
「なぬっ!?」
咄嗟に空中を動き回避の構えを取るバルカスだが、それを無視してAGが突き進んだのは、近隣の倒れかけたビル。
まっすぐ目指す先には、これといって何も無い・・・ように、見えた。だがAGの複眼は捉えた。激しい炎から来る空気の揺らぎ、それとまた別のもう一つの揺らぎ。それは、彼の脳の中の情報では、周囲の風景の保護色で同調する光学迷彩が対応しきれずにおきる揺らぎに、最も類似していた。
「ふっっっ!!」
火の粉舞う空気を切り裂いて、振り下ろされる斧。
「ぬおおっ!?」
「!?」
と・・・!
それによって、一瞬まるで空間が切り裂かれたように見えたが、そうではない。光学迷彩能力を持ったマントが切り裂かれ、その下に隠れていたものが露になったのだ。
それは三人の男達だった。一人はアフリカ人と思しき巨漢、もう一人は妙に肩幅の広く見える肩鎧を身につけたマントにターバンを巻いたアラビア人、そして最後の一人は満州族の服を着た小柄な老人だ。
その三人には、共通する特徴があった。額に水晶体・・・バルカスと、プルクシュタールと同じ、獣神将の証。
「クルメグニク!ジャービル!カブラール!うぬらそこで何をしておるっ!?」
くわっと目を見開き、バルカスが一喝する。彼らがそこに隠れていたということは、それまでのクロノス側の苦戦をずっとそこで見ていた、ということに他ならない。
何らかの、意志を持って。
「ぬ、それは・・・」
「我等は戦闘加入の時機をうかがっていただけで・・・」
返事も、今ひとつ歯切れが悪い。その様子を見て、影磁はため息をついた。
「これが、貴公らクロノスと同盟しない理由だ。・・・綱紀をしっかりと保ちたまえよ、ドクター。・・・だが、貴殿の忠誠心には見上げたものがある。もしよろしければ、貴殿と個人的な協力関係を結ぶのは、やぶさかではない。では、目的は達した。失礼!!」
と、いきなり影磁は地面に斧を叩き付けた。コンクリートがひび割れ砕け散り、その下にはぽかりと穴。
「お迎えにきたわよぉ!」
「さ、早くするだ!」
悪の博士配下のみみずおかま、同盟組織HV団の土竜男だ。一瞬でバリスタスメンバーが穴に飛び込んだのを確認し、素早く穴をふさいでしまう。
「な、ちょ、ちょいまたんかいっ!」
「ぬぬっ!」
慌てるネロス、クロノスの面々、だが彼らにそんなことを気にしている余裕はなかった。
「っちぃ・・・しかたない、あんたたちに相手をしてもらうよっ・・・!!」
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
緑髪の戦闘妖精が、やる気満々で控えていた。
作戦終了後、バリスタス大幹部会議室にて。
「クロノスとの同盟はやはり失敗ですか・・・」
水槽の中、lucarが嘆息する。
「やむを得まい。連中は過去にも十二神将の一人、日本支部長のギュオーが反乱を起こしておる。そんな連中と組んでごたごたに巻き込まれるよりかはよかろう。」
「内紛は、組織崩壊の序曲・・・ですか。全く嘆かわしいことです。ふっふっふっふ・・・・」
「くっはっはっはっは・・・」
薄暗く、培養水槽を通して色のついた光で下からぼんやりと照らされる空間。そんな中で彼らのごとき異形が体を揺らして笑うさまは、はっきり言って物凄く気色悪くおぞましい。
だが、彼らの笑いの理由・・・それに比べれば大したことは無い、そういえるかもしれない。
まさに、太古の繰り返し。
グリゴリとアギト、人の連携による神への反抗は、結果として敗退といっていい結果に終わった。それは、神の力強きが故ではない。
半分神の血を引くアギトへの不信、グリゴリの方針混乱による、グロンギとゴルゴムへの分裂。力を持つ戦士たちへの、力持たぬ民リントの恐れと嫉妬・・・それが故の内乱で、彼らは滅んだ。
しかし神も大きな痛手を受け、姿を消した・・・そう、言われている。この世に、「正義の味方」「正義が悪に勝つ」という恐ろしい定義を植えつけて。空しく悲しい過去の戦い。それは今も続いている。
爾来人は正義を求め、己の体を切り苛み、見たくないものを悪と呼んで滅ぼしてきた・・・次々生まれるそれは、傷口を蔽うかさぶたに過ぎないというのに。人類という体がある限り、傷が塞がろうとすることを止めることは出来ない。そしてこのままでは・・・空しくはがされた傷が、いずれ膿む。
「でも、もう一つの計画のほうは成功したのですね?」
「ええ。そもそもこの「ス」号作戦において、クロノスとの折衝・ネロス、クロノスとの折衝が失敗した場合の示威武力行使は、あくまでおまけ。」
皮肉な考えを中断し、僅かに口を歪め影磁はうなづいた。対照的に博士は同じ考えを大口を開けて笑い、胸をがんと叩く。
「しかり。彼奴等の一人として、我々の作戦が陽動に過ぎなかったことなど気づきもしなかったぞ。」
「そして貴公の情報にあった「光子力研究所」の位置も確かだった。そしてなにより・・・」
がつり、と影磁は机の上に一塊の鉱物を取り出した。鈍く光を放つ黒っぽい金属、一見なんの変哲もない。
「ドクターゴキラー、JUNNKI君、お試しを。」
影磁に促され無言のままゴキラーは怪人体に変形。僅かに精神を集中させ、同時に拡散させるような・・・微妙な表情
それに呼応して、腰のベルトにつけられた変性アマダムが緩やかに発光し始める。
JUNNKIもまた、怪人体に変身。腰のネオアマダムを光らせる。
と。
呼応するかのように鉱物も発光を始めた。輝きはまばらで、部分部分に輝度も異なる。が、確かに呼応している。
「間違いない・・・光物質。「千切られし過去」の遺産。」
「「黄金の混沌」期にはこれはジャパニウムという金属だと思われていた。当時最強とうたわれた巨大人型兵器「魔神」の装甲であり動力源。無限の硬度と光エネルギーを持つこれが光物質ではないかと読んだのは、あたりだったな。」
「我が組織のエネルギー問題も、これで解決だ。こいつは原子力の数千倍以上の効率を誇る。」
「しかし、一つ問題がありましてな。あの鉱脈は富士樹海、HUMA極東本部に近すぎる。下手に掘り進めば発見されてしまう」
「ふむ・・・」
「兵力の損耗も激しい。ここはそろそろ・・・」