秘密結社バリスタス第一部第一話「発動!世界征服」

何度も日は落ち、登り、また落ちる。
何人も人・・・いや、人だけではない幾多の者達が生まれ、生き、死んでいく。

正義の味方は現れ、悪の秘密結社は打ち倒された。

それでもまだ、世界は戦っていた。

来るべき新世界、人は第四のエネルギー・シズマドライブを手にし、また宇宙への扉を徐々にではあるが開き、繁栄を謳歌していた。
だが。旧世紀来の、人類社会の裏の戦いは未だ続いていた。あるものは犯罪で暴利をむさぼらんと、またあるものは超技術を一手に握らんと、暗躍する犯罪組織。
それと戦う国際的治安維持組織、宇宙刑事機構、HUMA、国際警察機構。
その戦いは半ば慢性化し、その日々回る歯車は犠牲者をひき潰す。
そんなさなか。また新たな集団が、この戦いへと加わった。
その名はバリスタス。
世界征服を企む、悪の秘密結社である。


そこは地下、闇の空間。アジト、と呼ばれるところ。
円形というよりは円筒形と言うべき、縦に長く丸い部屋。その円周上に等間隔に扉が付いており、そこから伸び中央に至る道以外は深い闇のそこへと消える穴となっている。
そして、その道にいま一人の人間が現れる。
「ふっ・・・・・・」
きらり、僅かな光を反射してモノクルが輝きを見せる。表情が認識できるぎりぎりの暗さで覆われた空間で黒衣を纏っているため、まるで闇の中からその特徴的なモノクルとクールな鋭さを持つ表情を持つ顔のみが浮かび上がったような印象を受ける。
「アウト・オブ・ベース代表・影磁、参上。」
いや、彼が最初の一人ではなかった。
ぱたっ、ぱたっ。ゆっくりと煽がれる扇の音。
物静かな、世捨て人のような雰囲気を持つ男が既に立っていた。撫で付けられた黒い髪の中からふた筋ほど細い髪束が飛び出し、触角のようにも見える。
「ドクターゴキラー、既におります。」
そこに、駆け足で勢い込んで少年が駆け込んでくる。一見中学生か高校生とおぼしき元気がとりえの少年だが、使い込まれた、ファッションではなく明らかに実用している迷彩服を着こなし、修羅場慣れした雰囲気すら見受けられる。
「JUNNKI、今来ました!」
そしてまた、もう一人。白く縦に長く細長い帽子を被った少女が現れた。古代ギリシャの女神官を思わせる、ゆったりした白い布を纏っている。
・・・否。それは違った。彼女の真っ白な肌、金色の瞳、そして何より、地面につくほど長い彼女の髪と見えたものは、長い吸盤の付いた触手。衣服と見えたそれも外套膜で、帽子と見えたものもまた同じ。
彼女は烏賊と人間が合成された改造人間だ。だがその姿はあくまで水の妖精のごとく美しい。今世界の陰で争っているマネキンじみた機械兵士や獣そのものの獣化兵に比べ圧倒的な技術の高さが伺える。
その彼女が、手に持った身に余るほど長大な杖を振りかざし叫ぶ。
「天よ跪け、地よ讃えよ!夜闇の王者、捨て子らの父、「悪の博士」ここに出撃なされる!」
言葉とともに杖をもって床を突く。と、その付いた場所から紫の光が迸り、円を描いて床を覆った。・・・物質の瞬間転送に用いられる亜空間だ。それも、無駄なほど大きく明確に入り口が開かれている。
「くぁっはっはっはっはっはっ、くぁ〜〜〜〜〜〜〜っはっはっはっはっはっは!」
不気味に木霊する笑い声。紫色の光のの中からせりあがるように現れたのは、まさに異形と呼ぶに相応しい者だった。
纏っている服は、影磁のものと少し似ている。白衣の色を正反対にした「黒衣」だ。だがこちらは裏地に赤を使用しており、襟などの折り返しの赤と黒のコントラストが強烈だ。さらに同じ配色の高い襟がついたマントを纏っており、より鋭角的なシルエットを映し出している。
だがそれよりも問題なのは、黒衣の下だ。そこにあるのは人間の体ではなく、ぎらぎらと光る金属色の、昆虫の外骨格じみた鎧だ。指先まで鋭い爪の突いた籠手で覆われており、肌の見えるところは一箇所もない。いや、ひょっとしたらこれは鎧を纏っているのではなくこういう姿をした生物あるいは改造人間なのかもしれない。
そう思わせる根拠は、首から上にある。面鎧つきの兜のごとく、やはり金属光沢を持つ外呼格で覆われている。その頭部から鋭く一旦斜め上に、しかる後に横に向けて肩幅よりも長く伸びる二本の角と、その間、額に突き出すやや短い三本目の角。
それは、まだいい。問題なのは顔だ。やはり金属に覆われた、仮面のようなその顔。その奥にぎろつく、「八つ」の瞳だ。どの瞳もイミテーションとは思えない生物じみたもので、飾りではない証拠に統一された意思の輝きを見せている。さらに巨大な牙の生えた口は、開けば仮面の牙にじかに密着した口腔内粘膜と、爬虫じみた長い舌が収まっている。
そしてそれらがそろったと見る間に、唐突に部屋の中央に光の柱が生まれた。
いや、円筒形の水槽だ。その中に明かりがともり、まるで光の柱のように見えたのだ。
そして、天井と床を貫通してどこまで続いているのか分からないその中から、すいと一人の人間が泳ぎ出てきた。
これも人ではない。いや、改造人間、改造されていようと、あくまで人間だ。
蒼、翠、黒、複雑勝つ玄妙に混ざり合った自然の色、滑らかな皮膚。緩やかな曲線美を描く女性的な体。手足についた鰭。
イルカをベースに作られた改造人間らしい。
「きゅる・・・lucar、遅くなりまして。」
「まぼぉおう〜〜」
唐突に、変な声がした。イルカの改造人間、lucarではない。その下・・・
「キャッ!」
「うおあっ!」
lucarの水槽、その下から白くまんまるい、独特な鰭の配置の魚・・・まんぼうが一匹上がってこようとして、水槽の細さにつっかえている。むちむちした体の肉が水槽の壁にぴったりフィットして、凄く変な生き物に見える。
「こ、これ、なにをしとるか!」
「つまったまぼぉ〜」
変な口調だが、口を利いた。それに、微妙にほんもののマンボウと形が異なる。彼もまた、改造人間らしい。
この珍妙な参列者のおかげで、それまでの固く張り詰めた雰囲気は一気にほぐれた。
「ふっふ・・・」
「くはは。」
「くくくっ、」
「ははははは!」
「うふふ。」
「まぼぉ〜。」
ひとしきり、闇に満ちる笑い。
「ともあれ。時は満ちた。」
「ええ・・・」
「引き返すことは、出来ません。」
「誰が引き返すものか!ここまで来て!」
「左様、左様。」
「では、はじめようか!」
そして、六人の声が唱和される。
「「「「「「世界征服を!!!!!!」」」」」」」

「見よ、この青い空を!広い大地を!立ち並ぶ町並みを!そこに生きる人々を!」
まったき平和の、昨日と何ら代わりのない歩みを未来へと続ける町並み。そこに唐突に、ビルの窓硝子が震えるほどの大声が響き渡った。
「これがっ!!我々が征服する世界だっ!!!世界は、今諸君らの目の前にある!」
道行く人が何事かと振り返り、振り仰ぎ、見回す。声がどこから発せられているのか、一瞬見当がつかなかったからだ。
そうこうしているうちに、声の語りは佳境に入ったらしかった。ひときわ声が大きくなる。
「さぁ・・・・狩り取るがいいっ!!自分達の世界をっ!!」
ドッバァァァァン!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
耳を労する轟音と衝撃、そして大地の震え。いや正確には震えたのは大地ではなくその上に乗った浅薄なコンクリート。
マンホールの蓋がぶっ飛び、脆いアスファルトが引き裂かれる。
そう、声が聞こえてきたのは前後左右どっちでもなく、上でもない。地下から聞こえてきたのだ。省みられることのなかった、闇の奥底から。
そして、そこから湧き出てきたのは、異形の者達だ。いずれも半人半獣、人の目から見て世にもおぞましい。
それは、かつてあったもの。それは、その身に牙と爪を持つ者。知性、そして心ある獣。その精神性こそが問われるならば、そう、彼らは人、人なのだ。
・・・改造人間。
基地では人間の姿をしていた幹部達も、最初から人外の姿をしていたlucarや悪の博士を除けば、皆変化している。
落ち着いた様子の青年だったドクターゴキラーは、その名の通りゴキブリのような姿に、陰気な印象だった影磁は、対照的に猛々しい、古代の剣闘士のごとき甲殻に身を包んだ蟹人間の姿に。年若い少年のJUNNKIも、爬虫類、特にイグアナの類を思わせる鱗に覆われた姿になっている。
「ふふ・・・」
手びさしをして空を見上げた影磁・・・改造人間名A.Gは、まぶしげに目を細めた。
その間に次々と現れた改造人間達は体制を整え、散開し、所定の作戦通りの行動をとる。それを指揮するのは幹部達と、戦術指揮官と呼ばれる指揮能力を持った上級怪人たちだ。
「さぁさ、確保した人たちを傷つけちゃいけないよっ!!とっとと運び出しなっ!」
伝法な口調で指示を出すのは、妖艶な和服の女性だ。極めて人間に近い姿をしているが、腕や咽喉元を蛇の鱗が覆い、額にもう一対の目玉がついている。名を、蛇姫という。
「蝗軍兵集合!」
それよりか指揮官に見えやすいのは、鋭い爪を持った緑色の蝗型改造人間の軍団を率いている少女だ。名・・・といってもあくまでコードネームだが・・・をマシーネン=カーネル。傍らの蚤の改造人間や蜘蛛の改造人間とは異なる、漆黒の詰襟の軍服を着ている。腰や軍帽についている紋章も他のと同じものではなく「NS」という文字の左右に翼がついた、「黄金の混沌」期の大組織「新たなる衝撃を与えるもの」の幹部がつけていたものだ。
とはいえ蚤と蜘蛛の怪人が纏っている軍服もまたそれぞれ異なる。蚤男の纏っている軍服はオリジナルのもののようだが、蜘蛛の怪人が纏っている服は日本の自衛隊のものだ。彼らもまた、部隊を指揮している。
整列した部下達を見回すと、カーネルは顔の左半分に垂れて覆う前髪を跳ね上げるような仕草を取った。同時に全身が発光し、蝗軍兵達と似た作りの装甲を纏った、彼女本来の姿へと変身する。
ぴっと片腕を上げて敬礼し、黒い皮膜と手足・頭部の装甲で体を覆った戦闘員が報告する。バリスタスの戦闘員は強化服を纏った生身の人間。主力である改造人間より戦闘能力は大分落ちるため、戦闘任務は量産型改造人間である蝗軍兵やラプトノイドに任せむしろこのような作業に徹する計画だが、やはり改造人間量産には多額の資金がかかるため決起日までに戦力をそろえられず、一部戦闘員部隊は前線にも出ている。
「報告します。当該戦闘区域の民間人の確保・強制退去はほぼ完了しました。ひょっとしたらまだ報道関係や野次馬が残っている可能性もありますが」
「捨て置け。そんな馬鹿死んでも自己責任だ。それにマスコミ関連はHUMAが抑えるだろう。」
「ここまでは、計画通りに事が運んでいますねぇ・・・」
多少緊張した様子のlucar。
「ええ、うまくいっています。昔ならばヒーローがすぐさま止めに来てここまでの急展開とはならないのですが・・・やはり公組織化してはヒーローも即応性が低下するということか。この公組織という特殊性は今後も考慮する必要があるな・・・」
多少思案気味で、影磁が何度も頷く。
現在、かつて存在した幾多の防衛組織を統合する形で地球全土を守る組織、HUMA。宇宙刑事機構の下部組織という位置づけであるこの組織は極めて強大な兵力を有するが大軍と公共機関の常、必然的にかつての科学特捜隊や超警備隊のような対怪獣組織などのように報告即出動というわけには行かない。
だが・・・
「イシュタールサイクロン!」
「バイオニクスエンド!」
「バックレレインボゥ!」
「ゼブラァ、パンチ!」
「津波返し・・・」
「ジェノサイドバスター!」
「地獄極楽ご案内落としぃっ」
「豆鉄砲スパーク!」
「メンダーブゥメランッ!」
「プリズムフラーッシュ!」
「ベンケイキック!!」
ズドドドドドドドドド、どがんどがん、ばきゃっ!ズガーン!!
「どええええええええええっ!!」
連続して凄まじい爆発が起こり、重装甲型の改造人間たちすらひっくり返る。周りにいた戦闘員達はひとたまりもない。
「まだ生きていたか!」
「なんて奴だ!」
口々にあがる叫びに、鎧武人は憤慨したように怒鳴り返した。
「ひっ、必殺技を乱射するんじゃねぇ!!」
乱射、という言い方はどちらかというと正しくはない。相手はあくまで一発しか発射してはいない・・・一人一人は。
大軍、というのは伊達ではない。そして、長い過去の戦いにおける技術の蓄積から、彼らは既にかつての組織からの脱走者・・・伝説の戦士仮面ライダーたちのような・・・に頼ることもなく、自力で多数のヒーローと呼ばれる戦士を生み出し、組織し、兵力として運用するに至っていた。
一体ですら組織一つを滅ぼしうるほどの戦士が、大群となって襲いかかる。

だが、再び、だが!

「今だぁ!!」
カチッ。
JUNNKIの掌中に握られた小さなスイッチが、鉤爪の生えた指で押し込まれる。
ドドガァァァァァァン!!
そして、爆発!ビルの上に勢ぞろいしていたヒーローたちの足元で大爆発が起こり、全員まとめて吹っ飛ばしたのだ。
「うのわあああああああ、あべしっ!」
ビルから悲鳴とともに落ちてきたヒーローの一人が、おもいきりコンクリの地面に叩きつけられる。黒こげになった体が、まだ少し煙を上げている。
「ぐ、くそ、一体何が・・・」
だが、生きている。これくらいで、普通だったらいくら改造人間や強化服着用者でも死ぬような状況でも死にはしない。それがヒーローの特殊能力「お約束」というものだ。
「くっはっはっはっはっはぁぁぁ!!!」
耳を劈く高笑い。八つの目玉と三本の角を生やした、異形の仮面が笑っていた。
「見ーたかぁ、この我輩の法則学の冴えは!貴様らヒーローが高いところから大見得切って現れるなど予想のうちよぉ!」
「それで、先にそれらしい場所に爆弾を仕掛けておいた、ってわけですね。」
むやみやたらと大きな悪の博士の声、対照的に静かな影磁、いやA.Gの声。

「く、くそっ、お前達何者だ!!」
やや状況と順序が逆転しているような気もするが、生き残ったヒーローたちは問いかけた。
そして・・・答えが帰ってくる。
「正義の敵・・・そして人類と地球の味方!世界征服を目的とする我等!秘密結社バリスタス!」
「矛盾したこというな!」
もっともらしく、有る意味定番どおりに怒るヒーローたち。そんな彼らをむしろ哀れむような口調でAGは言う。
「失礼な。全く矛盾などしていません。我輪は正義を信条として攻撃・妨害を仕掛けてくるあなた方と敵対しては居ますが、世界の住人と敵対しようとは思っては居ません。将来的に征服すればわれらの民になるものに、危害は加えませんよ。」
その言葉に嘘がないということは、戦いに当たって民間人を確保・移動させ、巻き添えを避けたことからも伺える。
「屁理屈を!」
「そう思うならば、かかってくるがいい!」
こうして、どこか変わった、新たな、戦いが始まった。

まず前に出たのは、路上を装甲車に分乗して現れた兵士達。特別装甲機動隊・・・略して特甲と呼ばれるHUMAの兵たちだ。
「くらえっ!」
一斉に短機関銃を構え、射撃する。
対してバリスタスは、いずれも徒手。普通で考えればあっという間にけりがつくはずだ。
が!
蝗の力を持った兵士達は、常人の目では追えないような速度で跳躍、一気に敵陣に踊りこんだ。それほどの速さはないが戦闘員たちも体制が崩れたすきに突入する。
鋭い爪や牙、鋸刃を持ち人の数十倍の力と反射神経を持つ蝗軍兵達は、一旦接近戦となれば生身の特甲は敵ではない。接近前に撃たれるものも少なからずいたが、一旦飛び込んでしまえばこちらの有利となる。
「ギギギギギ!」
次々と切り裂かれる特甲。
「とぉぉっ!!」
それに対してヒーロー部隊が反応、逆に接近戦により強大な力を持つ彼等が戦闘員と蝗軍兵を倒していきそしてそうはさせじと怪人たちが攻撃を仕掛け、一気に戦いが激化する。


「我が名は蠍師匠、流派の名は東方不敗!我と思わんものはかかって来い!」
紫の胴着を着た蠍の改造人間、蠍師匠が大音声で名乗りを上げる。
「マッスルスポーツジム所属、健康戦士ダレンジャー!ひぃっさつ、健康パンチ!」
「失せろ馬鹿者がぁ!」
一撃で吹っ飛ばされるダレンジャー。
「次っ!」
「けんぽうマスク参上!ワザのけんぽうの異名は伊達では・・・」
「それ以上名乗る必要は無い!」
問答無用、一撃必殺でそのけんぽうマスク、と名乗ったガスマスクをかぶり上半身裸でカンフーズボンはいた男を殴り倒す。
「マスク二号を忘れて・・・あべしっ!」
そしてビルの上から現れようとしたなにかを、不吉な予感もろとも気をこめた布で両断。
「他にはいないのかぁ!」
「帝王流拳法、七星闘神ガイファード!王気『烈火撃』!はぁ!」
がきぃっ、と受け止めた蠍師匠の腕の外骨格が鈍い音を立てる。かかってきたのは、銀色に赤というカラーリングながら、生物的な外観を持つヒーローだ。
「ぬうっ!」
「撃竜衝っ!砕撃蹴っ!風花乱舞っ」
次々と技を放つ七星闘神。その身のこなしは、確かに他のヒーローと比べて優れている。
だが、大技を次々繰り出すその一瞬の隙を蠍師匠は見切った。
「破ッ!」
素早く手に巻いた布を伸ばし、一瞬の隙をついてガイファードを絡めとる。師匠の気で覆われた布は鋼以上の強さを持ち、秘密結社によって肉体を改造され寄生生命体ファラーによって肉体を強化されたガイファードですら引きちぎれない。
「ぬっ!くっ!」
「お主・・・筋はいい!だが、拳に迷いがあるぞ!」
「!!」
それまで必死にもがいていたガイファードの動きが、師匠のその一言で止まる。
「大方、戦いたくない相手と闘わねばならない・・・そんなところか。」
正直、ガイファードは驚愕していた。事実今彼は組織クラウンの怪人となった実の兄と戦わざるを得ないところまで追い詰められていたのだ。
もしこれが戦場で敵味方としてであったのでなければ、教えを請うために跪いていたかもしれない。
「真の武闘家なら、拳で語るもの・・・戦い、その中で答えを出すがいいっ!」
布をコマの紐を引くように引っ張り、同時に掌底でガイファードを吹っ飛ばす師匠。弾き飛ばされたガイファードは、壁にめり込むほどダメージを受けたが、どこか吹っ切れたような表情で撤退した。
「さぁ、どうしたどうした!これでおしまいかぁ!?」
そう呼ばわりながら、蠍離床は一気に前へと進み出た。それを遠巻きにするように銃を構えていたHUMA特甲隊がわっとばかりのあとじざる。
「来ないのか!ならばこちらから行くぞ!そのまま、大人しく最後を迎えるがいい!」
シャ、と蠍師匠の布が唸る。が、突如銀光が疾り、今まさに周囲の特甲隊員の首を飛ばさんとしていた気功布を断ち切った。
「なにい!このわしの気功布がっ!おのれ何奴!」
「貴様達に名乗る名はないっ!」
上方から、裂帛の気合声。振り仰ぐ蠍師匠の八つの単眼に写ったのは、ビルの屋上に腕を組んで立ち、丁度ビルの谷間のようなこの道路上の蠍師匠を睨み付ける男の姿だった。
青いヘルメット、口元を覆う銀のマスク。全身に、金属光沢を放つトリコロールカラーの装甲で覆っている。
一見装甲服を纏っているように見えるが、間接部の構造がそうでないことを告げている。そしてアンドロイドとも、その構造は根本的に異なる。マスクの下の顔は人間のように見える彼は、全身が金属で構成された機械生命体なのだ。
「ほう、言うではないか!ならば力ずくでも名乗らせてくれる!ゆくぞぉっ!!」
一っとびでビルの屋上まで跳躍した蠍師匠。ビルの角を削らんばかりの角度ぎりぎりで飛ぶことにより死角から相手に一気に接近、間合いに入った瞬間凄まじい連続攻撃を繰り出した。
「だぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁ、っ!!」
拳の嵐が相手を呑みこむ一瞬の交差、直後蠍師匠はビルの壁をけり通りの反対側のビルに飛び移った。
同時に、蠍師匠の右手についた大鋏が砕け散った。その下に隠された普通の五指を備えた手が露となる。
「天空宙神拳、突指爆裂・・・むっ!」
同時に相手も脇腹をおさえ、苦痛にマスクから露出した目元を歪ませる。あの一瞬互いに拳を繰り出し、そして両者ともに相手に命中させていた・・・
互いに、相手が容易ならない相手であることをはっきりと悟った。
「なかなかやるではないか貴様!やはり気になるぞ、何者か!」
「天空宙神拳継承者、クロノス族のロム=ストール!ゆくぞっ!」
今度は、はっきりと名乗りを上げる。そして本気の武道家が二人、激突した。
「奥義・十二王方牌大車輪っ!!」
蠍師匠の構えた掌から十二人の小さな分身が生み出され、ロム=ストールめがけて突進する。
チュドドドドドド!
強烈な打撃を受け、ビル全体が崩壊した。が、そこから素早く飛び出す影が一つ。
「あぁまいわっ!」
それを捕らえた師匠は跳躍し接近。同時にロムの手首の部分についていた小さな狼を象った紋章が発光。その光が空中で片刃の剣を形作った。同時に剣からさらに光が渦巻き、青い装甲服となってロムの全身を覆う。どうやらこれがロムの「変身」した姿、すなわち今までは普通のヒーローで言う「生身」に類する状態だったということになる。
ケンリュウ・・・師匠はこのときは知らなかったが、そういう名前であった。
「なにっ!?」
「天空真剣! 真月斬り!!」
きゅんと空気を裂く刃を、ぎりぎりのところで回避する。バリスタス格闘教官、すなわち最も練達した格闘技の使い手の名は伊達ではない。同時に首を打ち振り、辮髪のように後頭部から生えた蠍の尾の毒針で相手を狙う。
「天空宙神拳! 旋風蹴り!!」
大きく脚を回したロム=ストールはそれを払い、同時に二の足で師匠の頭部にけりを入れて反動で別のビルに飛び移ろうとした。だがその打撃の力を逆に利用した師匠が、回転しながらの体当たりをかける。
「超級・覇王・電影弾ん〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ぬおっ!?」
これは、まともに入った。背中を押されるようにロムはいくつものビルのコンクリートの壁をぶち抜いて飛ばされる。
「・・・」
もうもうと粉塵が舞う。だがその向こうにめがけて、師匠は構えを解こうとはしない。
そして、それは正しかった。粉塵が収まったとき、そこにはしっかりと青い装甲服が立っていた。持っている剣を、天高く掲げる。
「天よ地よ、火よ水よ!我に力を与えたまえぇぇぇぇぇぇっ!!!」
その言葉に、再び剣が光を発した。その光構を成するフォトンそのものが空中で圧縮され、物質化。一瞬でさらに巨大な、赤い戦士の姿を描き出す。
その中に、ケンリュウを纏ったロムが吸い込まれ、一体化した。
「パァイルフォーメーション!パイカンフーッ!!」
「二重に、強化装甲服をまとうかっ!!」
豪胆な蠍師匠もうなる。強化された力を、さらに強化すれば。たしかに乗数的に強くなることが出来る。だがそれは微妙に違う二種類の増力が同時に着用者にかかることとなり、生半可な力の持ち主では引き裂かれてしまう。
「蛇姫!こちらも例のものを使うぞっ!蛇姫!」
「あいよっと言いたいけれど、ちょっと待っとくれっ!!」
蠍師匠の叫びに返る答えは、緊迫していた。
きりきりと刃物の擦れ合う音がする。蛇姫の首筋のすぐ近くでだ。相手の持つ剣と、蛇姫の腕に握られたドスがぎりぎりの均衡を保っている。
「この俺の鋼斬りを防ぐとは・・・やるなっ!」
サングラスをかけたような顔の、鎧とジェット機を融合させたようなロボットが、感嘆の声を上げて一旦剣を引く。
その身のこなしは、どこか師匠と戦うロム=ストールと類似したものだった。
「あんた、あのロムとか言うにいさんと同門で剣を学んだね?」
「ああ、天空真剣継承・ブルー=ジェットとは俺のことだ。」
ブルーというわりに体は赤を基調としているが、これは彼らの出身星の言葉の名前であり、おそらく関係はないのだろう。
「出来るねぇ。何でそんなに出来るあんたがたが、HUMAに従ってるんだい?」
緊迫に乾く唇をちろりと赤い舌で舐めながら、蛇姫が問うた。対してジェットも、驚いたように問い返す。
「おいおい、そりゃ、俺が言うせりふじゃないのか、普通。あんたの剣、いやドスの扱いに欲や驕りは感じられない。そんなあんたがなんでこんなことをしてるんだい?」
「あたしの問いに答えな。」
「俺の問いに答えろ。」
ギン!
また二人の刃がぶつかりあい、そして離れる。
「あんたがたの仕事はなんだい?人を守ること、かい。人を守るために人を殺し、人を守っても内側から人は崩れ続ける。なぁ、ジェットとやら。この灰色の町、子供が少年法を楯に人を刺し、未来への明確な展望も持てず、だらだらと自堕落に滅びへの道を歩くこの町、これを守るために仮面ライダーは戦い、これを得ようとしてショッカーは滅んだのかい?」
「・・・それは、人自身が行うことだ。俺たち正義の役目はそれまで、自分達で彼らが行く道を得るまでの間守り続けることだ、そう思っている。」
ジェットの答えに、蛇姫はその黄金の目を細めた。
笑ったのだ。嘲笑ではなく、むしろ優しい。
「いぃねえ、そう、そうでなきゃね。でも、あんた達の思うほど正義は正義じゃないし、悪は悪じゃないのさ・・・」
と、その時。
「どっひゃあ〜〜〜〜!!」
「きゃっ!」
唐突に、頭からドリルを生やした、というよりは頭部全体が大型のドリルのようなつくりになっているロボットと、ロム=ストールにどこか似た、青白と赤の装甲で体を覆った少女が爆発に吹っ飛ばされてくる。
「ひぇええ、なぁんて怪力なんだ!びっくりした!」
回すように首をふり、ドリルロボが驚愕の声を上げる。
「それはいいがドリル、お前レイナを下敷きにしてるぞ!」
ジェットの叱咤が飛ぶ。どうもドリルというのがそのまんま彼の名前らしい。ということは、レイナというのはあの女の子の名か。
「あ〜〜〜っ!ごめん!レイナちゃん!」
二メートル近い大柄なドリルに潰されて、レイナは失神してしまっている。これほどの勢いで大柄でしかも金属質のドリルを飛ふっばせるといえば・・・。
「フェンリルかい!」
「今だよ、蛇姐!」
まさしくそう答えたのは、奇しくもロムたちの紋章とする狼の怪人、フェンリルだ。
「しまっ・・・!」
「そぉれぇ!!」
慌てるジェットだが、もう遅い。大蛇を象っている片腕を鞭のように振り回すと地面に叩きつけ、目をくらましながら離脱する蛇姫。同時に、頭部のもう一対の目が怪しく輝いた。
「霊子制御ジェネレーター作動、招来、九龍闘鎧!!」
蛇姫の「力ある言葉」が大地を揺るがせ、巻き上がった粉塵や破片、大破した車などから一気に巨大な、中国の鎧を思わせる強化装甲服を形成する。
それを、蠍師匠は装着した。大きさはほぼパイカンフーと互角となる。
「これでまた五分と五分!今度こそ決着をつける!」
「望むところだっ!」
ばっ、と両者はそれまでとは明らかに違う、大きな構えに入った。明らかに、決めるための技だ。。
「ダァァクネス・フィンガァァァァァッ!!!」
「天空宙神拳! 招雷っ!!ライトニングスマァァァッシュ!!!」
雷を纏った拳と、漆黒の波動を帯びた掌が激突した。
あふれ出た衝撃波だけで、ビルが倒れ地面が割れる。
「ぬおおおおっ!」
「うわあああああああ!」
互いに、威力が強すぎた。破壊力に吹き飛ばされ、崩れてきたビルに埋まってしまう。
「しっ、師匠!?」
「兄さんっ!」
フェンリルとレイナが・・・どうやらロムの妹だったらしい・・・・が叫ぶ。
結果としてここでは双方味方の救助に専念せざるを得なくなり、決着は流れた。


そしてまた、別の戦場。
「いくぞっ!」
勇躍躍り出たのは他のHUMAに作られたヒーローとは大分違う姿をした戦士だ。基本的にパワードスーツが大半であるHUMAヒーローと異なり、頭部に生えた一本角といい全身を覆う青緑の装甲といい、まるで異星の生物のような、生々しい感触である。
それもそのはず、彼は組織クロノスの発掘した異星人の生物装甲服「ユニットG」に寄生された「強殖装甲」ガイバー、その一人目・・・ガイバーTなのだ。
「しゅっ!」
光が鋭く突き出され、退き、また突き出される。その動きはフェンシングのフルーレに近い。
光を自在に操る能力でもって光の刃へと変化させたステッキで素早い突きを繰り返す、輝く装甲に身を包んだコガネムシの改造人間、ゴールド侯爵。戦闘員と連携して攻撃するが、分厚い生体装甲で体を鎧うガイバーにはなかなかダメージにならない。
「ふむ・・・ならば、弱点をピンポイントでやらせていただく!」
「なにっ!?」
ゴールドの言葉に、咄嗟に最大の弱点である額の制御メタルをかばうガイバー1。それを見て、してやったりとばかりにゴールドは笑った。
「ふっふ、そこが弱点ですか。貴方もまだまだ若い・・・」
「しまった!」
焦るガイバー。制御メタルを破壊されれば、制御を失った生体装甲は主を食らう。敵として現れたガイバー2のその無残な最期が頭をよぎった。
近づかれてはまずい。
「メガスマッシャー!」
むしるように開かれた胸部装甲。その奥の発射機関から、高出力生体粒子砲が発射される。
光芒が一気に街路をなぎ、爆発が巻き起こる。
「やったかっ?」
「甘いぞ!」
即座に返る反応。煙を利用して、一気に別の怪人が接近してきていたのだ。今度のは、身長二メートルを超える、蜘蛛の改造人間だ。背中から生えた四本のサブアームが特徴的である。
「ちっ!」
咄嗟に、肘から生えた高周波ブレードを振りかざす。だが蜘蛛怪人アラネスはそれを腕を掴んでさばくと、がら空きのボディに思い切り鉄拳を叩き込んだ。
「ふ、武装は大したものだが、男の戦いは体がまず大事!・・・そして戦う理由もな。」
「え・・・?」
戦う理由。それまで、悪の怪人の口からは聞いたこともない言葉だ。
一瞬の戸惑いを見せるガイバーに、アラネスたたみかけるように問い続けた。
「若造!お前は何のために戦うのだ!?」
「何のため、って・・・!へ、平和を守るためだ!」
咄嗟、本当に咄嗟にガイバーはそう答えた。それがヒーローというものだと、知識として知っていたから。
「ふん・・・「人類の自由と平和」か・・・お前達はいつも同じことを言う・・・」
苛立ったように、アラネスはオレンジ色の単眼を光らせた。
「我々の大半は、平和であったことも自由であったこともなかった。そして残りは、そんな奴らをほうっておけなかった奴らだ。その集まりが、我々バリスタス、「悪の秘密結社」だ!」
言うなり、ショックを受けているらしきガイバー1をぶんぶんと振り回した。
「お前は、何のために戦うのだ!」
最初の問いをもう一度叩きつけ、同時に今度は物理的に、ガイバー1の体を地面にたたきつけた。



まるで舞踏会だな。
JUNNKIは、内心でそんな感想を抱いた。
きれいな衣装、踊りのようなステップ。だが、ここは一応戦場の一角である。
どうして、魔法使いのヒロインは、あんな派手派手な格好なのだろうか。こればかりは、尽きせぬ疑問だ。
矢継ぎ早に打ち出される、妙に綺麗な光・・・言語による収束霊子の物理干渉・・・すなわち魔法と呼ばれる攻撃。
だが、これくらいかわすのは簡単なこと。いくら集団になっているとはいえ、言語を発する、すなわち一定時間特定のリズムで空気を振動させなければ使えない魔法は、発射までの隙が大きすぎるのだ。
道のコンクリが凹むくらいの踏み込みと勢いで、一気に接近する。
「きゃああああああああっ!!」
「うあっ!?」
が、そのまま接近戦では並の人間程度の身体性能しか持ち合わせない相手を倒すチャンスだったというのに、思わずJUNNKIはそのまま相手を飛び越えてしまう。
「どうした!何をためらっている!?」
蚤怪人フリーマンの、幹部と怪人の階級を無視した叱咤、だがJUNNKIも言い分は有る。
「んなこといっても!十二、三歳のいたいげな少女を容赦なく殴打・撲殺するってのは、ちょっと抵抗が!!」
蝗の改造人間や宇宙刑事相手の戦闘訓練は受けているし、戦闘経験自体もあるJUNNKIだが、どうも魔法少女相手の戦闘経験がなかったらしい。
「それでなくてもあのくらいの年齢の女の子って、同年代の妹がいるから苦手なんだよ〜!」
「何を軟弱なことを・・・!見ておれ若造!このわしが一人残らず血液吸い尽くして、跳躍逆落としで首の骨へし折ってくれるわっ!!」
そう叫ぶと、フリーマンがずずいと前に出る。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「がをおおおおおおおおお!!!」
牙と髭と触覚とその他なんだか分からない棘棘をむき出し、両手を大きく振り上げて突進するフリーマン。
その様は非常におぞましく、ついでに全身に痒さを催すような感覚があった。
「きゃあ〜〜〜〜〜〜!!」
少なくとも、小さな女の子に耐えられるものではない。蜘蛛の子を散らすように、それまで頑強に抵抗していた魔法少女部隊は逃げ出していた。
「ふふ、どうじゃ見たか!!」
「殺すんじゃなかったの〜?」
なぜか冷や汗を流しながら胸を張るフリーマンに、ジト目でつっこみをいれるJUNNKI。
「ふん、殺すまでもない。おぬしも幹部ならば、全体の戦況を見て戦術を考慮するのだな。」
「じゃあ、今の行動がどう全体の戦略に影響するんだ?」
「早く片付ければ、その分他の戦線に力がまわせるということだ!早く行くぞ!」
言うが早いか、ぴょんぴょんとビルの上を持ち前の跳躍力で飛び跳ねて入ってしまうフリーマン。しかし、苦し紛れらしい口調の割には理にかなっていたので、JUNNKIも従う。こうして合理的に部下の提案を呑めるのは、有る意味強みだ。
ちなみに、正体がゴキブリとハサミムシの合成改造人間であるシャドーも、やはり同様の戦術を持って敵を追い払っていた・・・

JUNNKIがそちら側から反転して戻ってきたころには、戦局は当初の予想を大きく裏切る形で進行していた。
・・・HUMAにとって。
「黒旋風っ!!」
びゅうんびゅうんと風音を立てて、鎖の先につけた手斧を振り回す、中国風の身なりのごつい男。それとともに凄まじい気の旋風が巻き起こり、斧の刃と真空の刃が一度に襲い掛かっていく。
だが、対する黒色の装甲に覆われた、大柄な男よりさらに身長の高い、身の丈2メートル半を超える改造人間は、それをまともに受けても平気な顔だ。
「ぐははははは!国際警察機構、黒旋風の鉄牛とはこの程度か!!!この鎧武人(ガブト)に、こんなものが通じるか!」
そういうと。自分の得物、身長と同程度、生身の人間にはとても扱えない巨大な大鉞を振りかざす。間一髪かわした鉄牛の居た場所のコンクリートに、地割れと見まがうばかりの亀裂がっ走った。
「っひゅうあ、あぶねぇ、なんて野郎だい!」
鉄牛も思わず冷や汗をぬぐう。全身の甲冑、頭から生えた電気鋸状の角、そして手に持った大鉞、何もかも重いはずなのに、この力と速さ。
「太宗の兄貴がいりゃあな・・・」
思わずにぼやく。彼の兄貴分、九大天王にも数えられた太宗なら、確かに勝てるかもしれないが。
「がははははは!そんなちっぽけな手斧でわしに歯向かおうというのが第一の間違いよ!まさに蟷螂の斧!」
「失敬なことは言わないでくださいな。」
「私達の鎌は十二分に鋭い。」
と、蟷螂をモチーフとした改造人間の夫妻、マギラとマギリが言う。
「ん?あれは蟷螂に重い斧を持たせても役には立たない、やはり鎌が本分って意味じゃないのか?」
「ぜんぜん違います。大体、それじゃ意味が場に合ってないでしょうに。」
と訂正するマギラだが、そんなことを言っている場合ではなかった。
「スーパー気力バズーカ!」
「ギガブースター!」
「ボルテックバズーカ!」
「オーレバズーカ!」
「ハウリングキャノン!」
「ファイヤーバズーカ!」
「アースカノン!」
「Vターボバズーカ!」
エネルギー弾の嵐が次々と降り注ぐ。戦隊系ヒーローの必殺技の一斉射撃だ。
「ぬぉわ〜〜〜〜〜!!」
乱戦だったため直撃こそせなんだが近くにいたほかのヒーローや鉄牛までまとめて吹っ飛ばされるほどの大衝撃。
「うおぉ!?」
重装甲の鎧武人ですら横転、自分で地面に刻んだ地割れに落ち込んで身動きが取れなくなってしまう。
「いっ、いかん!」
いくらなんでも、こんなのを次々食らっては身が持たない。判断したマギリは即座に跳ぶ。マギラもまた以心伝心で、素早く動いた。
次弾装填に時間がかかるのを利用し突撃するが、戦隊は特甲と違い至近距離での戦いにも対応してくる。そして常に五人で行動するため、数でも有利。
だが、その戦隊が複数揃っている。そこからくる、イキナリ必殺技を使ってしまうような油断、それにマギラ夫妻はつけこんだ。
素早く鎌を振り回し、機動性で持って常に移動しながら次々相手を変え切り結ぶ。途中何度か包囲されそうになったがそのたびに互いにフォローしあい、なんとか反対側まで駆け抜けた。
「はぁはぁ、くっ・・・」
「マギリ、大丈夫?」
「大丈夫だ、これくらいの傷・・」
とはいえ流石にダメージが多く、妻をかばったマギラがよろめきを見せる。それに対して、戦隊たちは今度こそ決めようとした・・・が!
「え・・・」
「おっと、ありゃ?」
「こ、これはっ!!」
何か違和感がある。
互いに相手を確認し、そして仰天する。
「レッド・・って貴方誰!」
「オーレッドだ!そういうお前達、どこのチームだ?!」
「鳥人戦隊ジェットマンだ!」
「これじゃ、必殺技が使えない・・・!」
「しまった!これが狙いか!?」
その通りだった。いずれも五色で彩られたスーツに身を包んだ戦隊たちが合同で戦ううち、まじりあってしまったのだ。
「ふっ、徒に群れるからこうなる・・・ぐぅっ」
「あ、あなたぁっ!」
倒れこむマギリに駆けよるマギラ。いささか大仰といってもいい様子でマギリを抱きかかえる。
「しっかりして!このままだと・・・!」
「ふ・・・マギラ。お前の腕の中で死ぬなど贅沢は言わん。早く行け、敵が体勢を立て直す・・・」
「そんな、あなたぁっ!」
「って、この程度の傷なら大丈夫ですって。」
「え?」
ちょっと呆れたような、困ったような声。純白の水の女神、イカンゴフが眉尻を下げて傍らにしゃがんでいる。本人は戸惑っているようだが頭部から生えた十本の触手はそれぞれ改造人間用の特殊な手術道具を握りてきぱきと応急措置を施している。
「な〜に気分出してるんですか、まったくもう!」
すたっ、とイカンゴフとマギリを守るように、JUNNKIが鋭い爪の生えた腕を広げて立ちはだかる。
そしてさらに、後方から漆黒の改造人間が加わった。
「あなた方は大切な仲間、この戦いで失うわけには参りません、おひきなさい・・・」
そう囁くようにいい、ドクターゴキラー・・・怪人名ゴキオン・シザースは、シザースの名の由来であるゴキブリのほかのもう一つの素材・・・ハサミムシの鋏を模した両手甲に生える刃でもって退路を指し示す。同時に、その方角で強烈な赤が踊り狂う。半径百メートル、高さもそれと同じかそれ以上の炎の柱が立ち上っていた。
「あちらの敵は影磁さんが片付けています。さ、早く。」
ヒーロー部隊相手に「片付ける」など通常では考えられないこと。だが影磁・・・AGがあれだけのすさまじい能力を持っているのであれば、それもまんざらはったりとはいえない。
「い、いかせるか!」
とんでもない炎に一瞬驚きながらも、なんとか前に進む戦隊集団。
が、一旦立ちはだかったゴキオン・シザースは、それを行かせるつもりなど毛頭なかった。
胸を張るように立ち止まったゴキオンシザース。その突き出された胸部の装甲が観音開きにばくんと左右に展開する。
「食らい尽くせ・・・黒曜!!」
それまでの穏かさから一変、氷雪のごとき厳しさをはらんだ叫びとともに、黒い嵐が吹き出して突き進む相手を覆いつくした。
「うわああああああっ!?」
驚愕と嫌悪の叫び。ゴキオンシザースの胸から飛び出したのは、数百数千というゴキブリの群だった。それもただのゴキブリではない。改造人間であるゴキオンシザースト同じ超弾性チタンの装甲で形成された体の薄いエッジが鋭い刃と化した生物兵器だ。物質を腐食する細菌まで仕込んであるこの刃の群が超音速で飛びまわるのだ、強化服はひとたまりもなく引き裂かれる。
「ふ・・・」
薄く笑いかけたゴキラー。と。
「!!」
雷電がごとき速度で、頭部から生えた長い触角が動いた。
「ぐあ・・・あっ!」
「マギリくんも言っていたしたが・・・」
ぱっ、と人間のときも使っていた扇を広げる。
斬るというより刺すといったほうに近い動きをした触角は、後ろから接近していた、おそらく影磁の戦っていた方角から逃げてきたヒーローを串刺しにしていた。
「徒党を組むわ、後ろから襲うわ、破壊技をどかどか打ちまくるしか能がないわでは、到底ヒーローとはいえませんよ?」
扇子の向こうの目が、薄く冷たく、そしてどこか悲しく、笑っている。
「くっ、こいつら、手強いぞ!」
「当たり前だ、俺たちをその辺のクリーチャーやサイボーグと一緒にするなよ!」
慌てふためく敵に、胸を張るJUNNKI。
「改造人間・・・だな?生体部品・機械・呪術・遺伝子工学・・・サイボーグとも獣化兵とも次元の違う、複数技術を統合した完全な人体の強化。伝説の組織「衝撃を与える者」が編み出し、そして失われたはずの高度技術・・・」
「ご名答!よく知ってるね、あんた!」
ちょっとJUNNKIは驚いた。正直自分で解説するつもりだったのだが、前線に出る戦士でこれを知っている奴がいるとは思ってもいなかった。
答えたのは、黄金色の強化装甲服を身に纏った戦士だった。獅子のたてがみを思わせる頭部と、両目を一緒に覆うサングラスのような黒いアイ・カメラが特徴的だ。
「なぁに・・・商売上、ちょっとね。」
そして、応答をしながらの身のこなしも周囲の連中とは別格の油断のなさを示している。
強敵の予感に、JUNNKIは全身の筋肉を程よい緊張とリラックスの間におくよう勤めた。ゴキオン・シザースは既に別部隊との戦闘に突入している。
「商売?ヒーローじゃ、ないのかい?」
「いいや、俺の名はマークハンター。金目当てで動く薄汚い傭兵さ。」
自嘲とも誇るとも聞こえる、微妙な口調。その言葉とほとんど同時に、マークハンターは動いていた。
「っ!!」
ゴガン!!
目を剥いたJUNNKIがはねのいた道路のアスファルトが粉々に砕け散る。クレーターと見まがうばかりの巨大な弾痕だ。
瞬時に抜くことなど普通では考えられない大型のライフル銃だ。普通は拳銃用のリボルバー式で、当たったら改造人間でも致命傷になりかねない巨大な弾丸が僅かに隙間から見える。
「ちぃぃっ!!」
咄嗟にファマス短機とショットガンのスパス12を乱射するが、相手の装甲はそれを弾き、硝煙と弾着と跳弾と削れたアスファルトやコンクリがたちこめる。
だが、それはJUNNKIの狙い通りといえた。スパス12の弾丸には赤外線などの透視装置を妨害する一種のチャフを半分ほど混入してある。本命はこの煙幕にまぎれての改造人間としての本来の能力、両手に生えた鋼鉄をも切り裂く高振動爪・ハイバイブネイルでの一撃だ。
一瞬の煙の中に、斬光が走る。
「・・・やるじゃん、本当に。」
爪にかかる、微妙な感触。それだけでJUNNKIは目を使わずとも状況を理解した。弾着の瞬間一瞬でこちらの意図を見抜いたらしいマークハンターは、既にこちらと同じく白兵戦用の武器を選択、サーベルを抜き放って爪を受けている。
「ふんっ!」
「わっとぉ!」
力強く刀を振りぬくマークハンターの動きを受け流すように、JUNNKIはバク転で攻撃をかわす。
「それならこれだ!」
すかさずマークハンターは再びライフルを手に取ると弾を一旦全部抜き、一発だけ別の弾丸を装填する。
「カオティック・シューターッ!!」
ぐんっと凄まじい反動にマークハンターの上半身がしなる。それだけ重く、威力の有る超高密度炸薬弾丸だ。
再び跳躍して避けようとするJUNNKI・・・と、バイザーの下のその目が驚愕に見開かれた。まるで自ら弾に当たろうとするかのように、いきなり弾道を横切るように跳躍の方向を変更する。これには、マークハンターのほうも驚いた。

グォオオーーーン!!

そして、弾丸が炸裂。高熱と爆風で電柱が倒れ停めてあった車が木っ端のように宙を舞う。
「奴は・・・どこだっ!?」
猛烈な熱風にアイカメラを保護しながら、周囲に視線を走らせるマークハンター。
それに飛び込んできたのは、あまりにも意外な光景だった。
吹っ飛ばされた車二、三台の下敷きになりそうなのを懸命に片腕で支えながら、反対側の腕に小さな赤ん坊を抱えているJUNNKIの姿だった。
「ったく、なに考えてるんだ母親はっ。子供を置いて避難するなんて・・・とはいえ、気づかなかったのは俺たちのミスか。仕方がねぇ・・・」
うめくJUNNKI。場所がパチンコ屋の前であったことからも、母親の不手際で社内に放置されていたことがうかがえる。
「・・・・・・」
「くっそ・・・」
自分に向けられた銃口を見て、苦しげに舌打ちするJUNNKI。
ドゴンドゴン!
ぐわっしゃあーん・・・
「・・・あれ?」
乱暴な手つきでマークハンターが撃った銃弾は、JUNNKIにのしかかっていた車を吹き飛ばしていた。
「俺が今回引き受けた仕事は、悪の秘密結社との戦闘だ。戦闘中に赤ん坊に気ぃ取られるガキを撃つことじゃねえ。」
そして、そういって別のほうへと転進してしまった。
「えっと・・・助けてくれた・・・のかなぁ?」
残されたJUNNKIは首をかしげると、赤子を運ぶため一旦戦場を後にした。


「きしえぇぇっ!!」
ごおっ、と空気を唸らせる牙を、ぎりぎりのところで見切ってかわす。
カーネルが戦っている相手は、装甲恐竜とでも言うべき姿をしていた。銀色の強化装甲服、白亜紀のヴェロキラプトルを思わせる俊敏で獰猛そうな爬虫類の体型。
だが、これでもこいつは知性体である、どころか。バラナス星系出身の宇宙刑事でもあるのだ。
爪、牙、尻尾、そして脚。凄まじい突進とともに、レーザーブレードと同じエネルギーをこめた爪や牙が次々と襲い掛かる。
同質量のヒューマノイドとレプタリアン(爬虫類系宇宙人)では、格闘においてレプタリアンが圧倒的に有利だという、ある宇宙傭兵と生物学者によって立てられた「リュート=バッカーの法則」というものがある。本来は大型兵器同士の戦いにおいてのものだが。
それだけ、バラナス星系の連中は戦闘的な体型をしている。そして、鍛えられた宇宙刑事ならばなおさらだ。
だが、僅かな時間やりあっただけでカーネルはすぐさま相手の弱点に気がついた。高速移動中のレプタリアンは脚の作りもあって突進力はヒューマノイドにはるかに勝るが、左右への動きはそれほどでもない。
瞬時に判断、そして行動。腰の羽を震わせて高速浮遊、一気に回り込む。咄嗟に相手も反応し、尻尾でカーネルの原を打ち据えようとする。だが、高速走行を安定させるために伸ばしていた尻尾をイキナリ動かしたため、慣性モーメントがかかりバランスが崩れる。
そんな隙があれば、カーネルにとっては十分だった。
直後、装甲服の首関節継ぎ目に刃が差し込まれる。噴水のように血を噴出して、そいつは倒れた。
「!」
その直後、まだ倒れないそいつの死骸をぶち抜いて高出力のレーザーが放たれた。大胆な奇襲だが流石にこんなやりくちでは照準など出来ない。
だが、これは最初から分かっていること。ようはカーネルがやったのと同じ、相手の姿勢を崩す牽制だ。
穴が開き、ようやくと倒れるレプタリアンの上を黒い影が飛ぶ。その姿は先ほどゴールド侯爵とアラネスが戦っていたガイバーTにそっくりだが、色が違う。黒いガイバー、対クロノスのレジスタンス「ゼウスの雷」リーダーの巻島顎人、ガイバーVだ。
「死ねっ! ドブネズミが!」
振り下ろされる高周波ブレード。が、それを読んでいたカーネルは手甲から出した刃でそれを受け止めた。ガイバーの高周波ブレードは肘に装着されているので、こうなると脇ががらあきとなる。
「しゅっ!」
すぐさま、つま先でけりにいく。とびずさりそれを避けたガイバー3だが、その前に既にカーネルは進み出ていた。
「ぬおっ!?」
「りゃあっ!」
裂帛の気合とともに突き出された左の突きが、強殖装甲の隙間をえぐった。
「があっ!き、貴様!」
「ガイバーTよりはやる・・・だが!」
「舐めるな!」
キィィィィン!
超音波までの可聴領域をもつ改造人間の鋭敏な耳でなければ、その音は捉えられなかっただろう。ガイバーの口に装備された超音波破砕兵器ソニックバスター。
とはいえ、通常ではその音を聞くことは出来ない。聞こえた瞬間には死んでいるのだ。
逆にそれが聞こえたということは、危険領域の外から周囲の威力のない振動を聞いた、すなわち回避できたということを示す。
カーネルがとったのは、ガイバーVの頭の角を掴んで引きずり倒すというものだった。無論身長が150センチくらいしかない彼女が、いくら改造されているからといって同じレベルで筋力も重量も強化されているガイバーを引きずり倒すなんてまねが出来るわけじゃない。
相手の筋力を利用した合気道の要領だ。戦場格闘技それも組織の体術はいかなる局面でも何でも出来ねばならない、あらゆる格闘技の要素を超越しているのだ。
「ごっ・・・!?」
同時に、頚椎に当たる部位を思う様かかとで踏みつける。・・・なみの相手なら一撃で首がへし折れただろうが、流石にガイバーの装甲はこの一撃に耐えた。
「おのれぇっ!」
即座に軽いカーネルの体を弾き飛ばすガイバーV。が、その途端視界が半分にせばまった。
仰け反り、顔面を押さえるガイバーV。
「うがあああああああ!!」
宙返りし、すたっと着地するカーネル。その踵から突き出た刃が、血に濡れている。あの一瞬、跳ね飛ばされて空中を舞う間に踵の刃でガイバー3の左目をえぐっていたのだ。
「こ、この俺がここまで追いつめられるとは!?」
衝撃を受けた様子で、ガイバーVが叫ぶ。
いくら普通の高校生だった深町晶よりは優れているとはいえ、五歳のころから殺人術を学び、普通の子供が中学生にあがるころには既に「新たなる衝撃を与えるもの」幹部として世界中を転戦していたカーネルとは格が違うのだ。
「・・・とどめ・・・!」
そして、全身に仕込まれた各種武器を作動させ、今度こそずたずたに引き裂こうとした、刹那。
咄嗟にカーネルはその場を飛びのいた。僅か一瞬の後、寸前まで立っていた場所に青いレーザーが突き刺さった。
「このっ!」
キュンキュン、と次々と、断続して放たれるパルスレーザーがコンクリの道路に突き刺さる。撃っているのは、赤い動力装甲服に身を包んだ、まだ少年といっても通る年頃の宇宙刑事、いやこの年齢ならばまだ巡査クラスだろう。
瞳の大きな目元と、逆立った固そうな青い頭髪が見えている。口元も一見露出しているように見えるが、口に見える造作があるだけで実際は装甲に包まれていた。
残った右目でその姿を見たガイバーVは、渡された資料の中から一致するものを思い出す。名前はロア、階級は宇宙巡査。配属されて三ヶ月、出動回数は四回・・・
とても、自分すらてこずるあの蝗の女改造人間に勝てる力はない。
ロアは手に余るほど大きなレーザーガンの引き金を何度も絞る。が、腰の羽を震わせ高速でホバー移動するカーネルにはどれもかすりもしない。
「な、当たらない!そんな・・・」
「確かにレーザーというのは光の速さ。だが、照準を構え、引き金を引く動きを見れば・・・よけることは可能だ!」
キン、澄んだ音を立ててロアの手から銃が叩き落された。
「おっ、女の子!?」
眼前に迫ったカーネルの顔を見て、ロアは驚いたようにそう、叫んだ。戦闘中という状況下限界まで高速回転する頭脳が、なぜかその意味を引きずり出す。
彼は、クロノスの獣化兵とかネロス帝国のモンスターやロボットのような、いかにも怪物全とした相手としかまだ戦ったことがない。彼女のような、微妙な存在を知らない。若く、未熟で、純粋。まだ正義と悪を信じていられる。
それが二つの感情を同時に呼び起こす。殺意と罪。自分との落差からくる殺意と、そんな純粋さという鏡に映し出される自分の血汚れ具合。相反する想いは、僅かに動きを鈍らせる。それは、その後の運命を大きき変えることとなった。
グワァーーーーンッ!
「うあっ!アラネス!?」
ロアとカーネルの間を横切るように、アラネスの巨体が弾き飛ばされてきた。
「く!」
ドドドドドドドド!
同時に、周囲で凄まじい爆発が連続発生する。咄嗟に変身後も外骨格に覆われない顔の左半分を防御するカーネル。
「えぇい、俺はこんなところでやられるわけにはいかんのだ!」
その間に、ガイバー3は遁走してしまう。
「あっ・・・」
「ぐっう・・・」
追おうとする。と、それより先に足元のアラネスが呻く。これでは、こちらのほうが先決だ。
「なんという、なんという火力!まさか敵にこれほどの強者がいたとは・・!」
よかった、生きている。
ふぅっ、微かに張り詰めていた息がもれ出る。が、すぐさま再びカーネルの体は臨戦態勢に入った。
敵が来る・・・ガイバー3なんかより、よっぽど強い。戦場の勘が騒ぐ。
溶けたアスファルト・・・いや、その下の土も溶岩化している。熱気に顔をしかめるカーネルの目の前に、妖精が現れた。
炎と溶岩に照らし出された、妖精だった。緑柱石色の長い髪を奔放な熱風になびかせ、露になった耳は伝説の妖精そのままに鋭く長く左右に伸びている。凛とした鋭い目付きと気の強そうな顔立ち、そして何より伝わってくる気迫は明らかに戦士のものだが、その容姿は同性であるカーネルすら一瞬はっと息を呑むほどの美貌であった。
彼女もまた人並みはずれた美少女であるというのに、だ。その姿は弓をとり魔物を射抜く、ファンタジーのエルフ戦士を想起させる。
だがすらっとした肢体を包む青いボディスーツと朱色の結晶で作られた肩甲、黄色い丈夫そうな上着とミニスカートという派手な格好は、彼女が神話の存在ではなく現実に目の前に居る敵であることを示していた。
「遠き者は星の音にも聞け! 近き者は刮目せよ!!ガーライルフォースマスター・アルフェリッツ=ミリィ。プラズマをまとってただ今参上!」
凛としたその名乗り、紛れもなく正義側のヒロインだ。
かなり有名な奴らしく、落ち込みがちだった正義側の士気が一気に盛り上がったように見える。
「ミリィさん!」
「おぉ、ミリィ!」
「アルフェリッツ=ミリィ!あのガーライルフォースマスターの!?」
「怪またミリィか!!」
怪また、というのはおそらく「怪獣もまたいで通る」という意味だろう。「竜の顎の前で尚笑う」など銀河の星のあちこちで、同種の比喩が用いられることは有る。だがそれはむしろ、怯え半分といった意味も有るはずだ。確かにそれを口にする回りのヒーローたちは頼もしげな目でミリィを見ているが、どこか遠巻きだ。
「殲滅っ!ティルトプラズナー!」
叫びとともに、ミリィの手からレモンイエローの光弾が放たれた。まるで発射機構に類するものの見たらないつややかで一見柔らかそうな掌から、唐突にだ。
「つっ!」
咄嗟にアラネスを突き飛ばし、自身も跳躍する。傷ついているとはいえそこはアラネスも改造人間、素早く現場を離脱する。
それを確認、したときには既にミリィは次の一手に入っている。今度は両手に生成した光球から、先ほどより小型のプラズマ弾が散弾銃のように無数に放たれる。
「スタンピードプラズナー!」
ズドドドドドドド!
散弾銃といったが、より正確にはアサルトショットガンのフルオート射撃のほうが近いかもしれない。プラズマの嵐が通り過ぎた後は、あらゆるものがちぎれ、溶け、爆発し、燃え尽きる。直撃しなくても通過する熱量だけで町は大惨事だ。それどころか周りのヒーローたちも巻き添えを恐れて逃げ出している。
(とんでもないっ!)
遠巻きになった理由を理解すると同時に、内心カーネルは相手の戦闘能力に驚嘆していた。今まで彼女が戦った多くの宇宙刑事や改造人間にも、これほどの火力をもつものはいなかった。
だが、それでも全力を尽くし抗う。
バリスタスの改造人間は基本的に志願制で脳改造は戦闘能力向上のため、おもに神経系に行われる。その光ファイバーなみの改造反射神経系で、超高速のプラズマ弾をかわすカーネル。
連射が終わった隙を突いて、一気に得意の接近戦に持ち込んだ。
彼女の両腕の鋭い爪は、MR級改造人間の胸部装甲すら条件がよければ貫通しうるほどの威力がある。グラニウム製パワードスーツや、主力戦車用の複合装甲などものの数ではない。攻撃力こそ高かれ防弾服に身を包んだ程度の少女など貫通できるはずだった。
・・・が!
「なんのっ!なかなかやるじゃないかっ!」
ミリィは、カーネルの爪を素手で受け止めていた。一瞬驚愕に目を見張るカーネルだが、同時に意識の中の冷徹な部分がすぐさま二の手三の手を繰り出す。
ミリィに掴まれた腕の掌からドリルを繰り出し、同時に左手の甲から刃渡り40センチほどの刃を繰り出す。いずれも光子物質とまではいかないが超高振動する単分子結晶体、そしてその攻撃が音速領域で行われる。
一瞬カーネルとミリィの両腕が掻き消えたと思うと、二人の間に何回も火花が散った。極音速度の剣戟。カーネルの攻撃も凄まじいがミリィの腕はまるでスペースチタニウムの剣のように鋭く強靭で、そしてしなやかだった。
ガギィン!
「ぐぅ・・・・っ!」
拳と拳がぶつかり合う形で、両者の手さばきが止まった。砕けかけた外骨格に、カーネルの右半分が装甲に覆われた顔が歪む。対して、ミリィの手には傷らしい傷は見られない。
一瞬視線が交錯する。美しいままであまりに高い戦闘能力をもつ少女と、力を得るために昆虫の外骨格で体を鎧った少女。
「だが・・・っ!」
その状況に、カーネルは脂汗を浮かべながらも笑った。好機。
必勝のタイミングで、カーネルの右目のレンズからレーザーを発射した。すなわち、ミリィの顔面へと。
「うわっ!」
「なあっ!?」
双方ともに、驚愕の声。ミリィは突然の攻撃に、カーネルはそれが防がれたことに。
ミリィの顔面に突き刺さり焼き貫くかに見えたレーザーは、張り巡らされた光の壁に反射され、関係ない自動車を真っ二つにしたのにとどまった。
とはいえいくらミリィでも光を見切ることは出来ない。万が一と思って展開していたものがたまたま作用したのだ。
「このぉ!ファイアブロウ!!」
一瞬で制御された驚きから立ち直ったミリィは、即座に電磁シールド影響されず攻撃できる高熱による衝撃波を放つ。
「がほっ!?」
「ぬおわっ!」
吹っ飛ばされたカーネル。後方にいたアラネスが慌てて六本の腕の間に網を張り受け止める。
が、ミリィはまさにそれを狙っていたのだ。
それまでにない、磁場を調整したとみえる有翼大型ミサイルを思わせる巨大なプラズマ弾だ。
「シルフィンハーレーッ!」
ミリィの意識により極超短波で誘導されたそれは、狙い過たず・・・
轟然、炸裂した。凄まじい熱と衝撃波が暴れまわる。百メートル四方が数万度の灼熱地獄へと変化する大技ゆえに、本当は正確な狙いすら必要がないほど。

「・・・何という力だ・・・」
退避していたガイバー3は、ミリィの凄まじい力に目を奪われた。それは、それまで彼が自慢にしてきた強殖装甲の力などみすぼらしく見えるほどのもの、まさに絶対的な力だった。
「あれほどの力が、俺にもあれば・・・」
彼の胸の奥が、嫉妬と野心に激しく燃え立つ。

「やったかっ・・・!我ながらいい爆発だっ!」
にやりと笑いすら浮かべるミリィ。戦いを心底から楽しむ、ある意味狂戦士と言われてもしかたがないほどの、空恐ろしい微笑み。
と!
グォン!
唐突に、強烈な熱風が再び巻き起こった。爆発の中で何かが起こり、熱せられた空気と煙が吹き飛ばされたのだ。
「おっ・・・!?」
ぐつぐつと煮え立つ地面、そのなかにぽっかりと無傷な空間がある。その中にはカーネル、アラネス、そして。
「くぁ〜〜〜〜〜っはっはッはっはっはっはっはっはぁ!!」
異形の科学者が立っていた。顔の中心線上に縦に二つ、右に三つ、左に顕微鏡のレンズのように円周上に三つ、合計八つの目。斜め上にと左右に向けそれぞれ突き出した三本の長い角、それらがついた、牙の生えた金属光沢のある仮面の頭部。表が黒、裏が赤の高襟のついたマントと黒衣、そしてその下には顔と同材質の鎧。腕に、角を入れずに180センチほどある背丈と同じほどの長さの、石突にドリル、柱頭にパラボラのついた杖を握っている。
「我輩の名は悪の博士!貴殿がアルフェリッツ=ミリィか・・・妹のリュートはどうした!?」
「博士・・・ご存知なので?」
カーネルの問いに、博士はミリィを見据えたままで頷いた。
「あぁ。昔我輩が大恒星皇國装甲邀撃艦アキツ付技術士官をしていたころ・・・な。」
「どこですか、それは。」
「別の星系だがな昔のことだ、気にすることではないよ。宇宙に輝く二つのエメラルド、アルフェリッツ姉妹。数百〜数千年の不老の寿命と、降臨者ガーライルと同じ異次元から莫大なエネルギーを取り出し操ることの出来る超戦闘種族ガーライルフォースマスター、その王族純血種最後の生き残りだったはずだ。この地球でもまれにゲートキーパーとして類似の能力が発現するものもいるが、その戦闘能力はケタが違う。ここは・・・我輩がじきじきに相手をしよう。」
「へぇ・・・あたしのこと知ってるのか。それなら・・・」
再びミリィの全身にエネルギーが地上の基準では無尽蔵といっても過言ではないほどにあふれかえる。
「それでもやりあおうっていうんなら、手加減はしないよっ!!」
「無論・・・我が全力で!!」
同時に博士にも、黒い気配とでも例えられそうなおぞましい気配が高まる。そして!
つ、と。意外なほど静かな動きで、博士は装甲に覆われた掌をミリィに向けて突き出した。
ゆら・・・
「!」
脳をわしづかみにされたような感覚。一瞬眼前が真っ暗になり、ミリィはよろめいた。
が直後にその感覚が消える。変わって・・・
「あ・・・あ・・・・・・!!」
目を開けたとき、ミリィは一人になっていた。
居場所も、たった今までの街中ではない。
見渡す限り、黒い空と赤い大地。
ぶちまけられた何千リットルかわからない、血だ。
足元で、ぐじゅりと音がする。
巨大な力でひねり潰されたように、ぐちゃぐちゃになった死体だ。
凄まじい死臭が鼻を突く。
それ自体は、かつて戦場で何度もかいだことがある。だが、ここはどこだ。何が起こった。それがまるで分からないということが、ミリィに不安を生む。
一歩足を踏み出した、その時。
がくっ、と体が沈んだ。
「な・・・!」
慌てて下を見たミリィは、絶句する。ぐずぐず、ぐちゃぐちゃになった死体が、しっかりとミリィの足を掴んでいた。
そして、それを合図としたかのように、周囲の死体が一斉に立ち上がる。
「なっ!」
ミリィが驚いたのは、死体が動き出したことではない。それに類似した現象を起こす手段など、いくつもある。
「ミリィィィィィ、久しぶりだなぁ・・・・・」
「待っていたぞぉぉぉぉ・・・」
「ようやく来てくれたか、んん?」
声を発するたびに、ごぼごぼと血の泡が傷から吹き出す。歩くたびに、内臓や肉がぼたぼた足元に落ちる。
そいつらは・・・全員、ミリィが今まで幾多の戦場で殺した相手だった。それに関しては、戦いの上でのことと割り切っていた。

だが、怖かった。自分でも信じられないほど、恐怖という感情が全身を侵食していた。心構えとか自制とかそういうものがまるで働かない。むき出しの自我に剣を突きたてられたよう。
咄嗟に、後ろを振り返る。
ああ、居た。仲間だ。友だ。
と、見た瞬間。そいつは、見る間に老い、朽ち、死んでいく。
「ああ・・・」
それに驚くまもなく、肩に腐肉の触れる感触。
「うあっ、このぉ!!」
掌を広げ、ガーライルフォースを集中・・・出来ない!
「えぇ!?」
驚いている暇もない。兵士として、最善が尽きたら次善を即座にとる訓練は出来ている。振り向きざまの蹴り・・・が、ずぶずぶと腐肉の中に受け止められる。
そのまま、全身が冷たい腐肉に飲み込まれていく。
いや、熱い。冷たい。痛い。感覚が喪失する。ミリィの精神に、それはじかに、回線をつないだコンピューター同士の情報交換と似たようなものだが、それの数億倍の、加熱するほどの濃密さと千切れるほどの速さと破壊されるような激しさ。
そして、その内容は恐怖、憎悪、殺意、苦痛。それらがじかに、感覚を媒介せず純粋要素に精神を塗りつぶしていく。幼児が夜の闇に分けもなく不安を抱く、あの感覚に僅かに近く、はるか彼方に遠く強い。
「わああああああああああああああっ!!きゃああああああああああああっ!!」
制御できない叫び声が咽喉からもれる・・・が、その声が自分では聞こえない。奇妙な違和感。まるで、夢の中のようだ。
一点の疑惑。そして、もう一つの一点が。厚く冷たい奇怪な感覚の中、ただ一点。誰かの掌のような、温かい感覚がある。
これは・・・・・・
「ミリィさんっ!!」
「はあっ!?」
目が開いた。飛び込んでくるのは町並み、自分を見つめるロアの顔、そして眼前に立つ悪の博士の姿。
「だ、大丈夫ですか!凄く苦しそうでしたよ!?」
「あ、ああ・・・」
なにがあったのかまだよく分からない。
「くはは、やはり流石だミリィ。我が「恐怖の夜」をまともに受けて発狂も自殺もせなんだとはな。」
笑う博士。すると、先ほどのはこの男の精神攻撃か。
「そして小僧、貴様も意外と面白い。」
笑う博士。ロアは、今更ながらの戦慄に身を震わせながら、必死に博士の視線から自分の目をそらさないようにした。
ミリィもまた、冷や汗を禁じえない。周りの・・・直接攻撃を受けたわけではない特甲の隊員が、全て死に転がっている。それもただの死に方ではない。あるものは瞬間の恐怖で心臓麻痺を起こして。またあるものは脳内の恐怖から逃れるために自分の頭を打ち抜いて。
「目視範囲内の相手にしか使えないがな。高空から使用すれば町一つ全域の人間を狂死させることも可能だ。」
そういうことだったのかと、ミリィの表情が微妙にこわばる。心中とはいえあれほど取り乱したことに、少々の不甲斐無さを感じた。そして、より戦闘的に気が引き締まるのを感じる。戦うために自らの遺伝子を改造し続けた一族の末裔は、より強い敵に、より激しい戦いに激しく引かれる。
「・・・下がってな、ロア。これから、ここは修羅場になる。吹っ飛びたくなかったら、とっとといくんだよ」
低い声、戦いを前にした雌虎の唸りのようだ。事実ミリィが全力を振るって敵と戦えば町も味方も巻き添えでプラズマと高熱蒸気と成り果てるのはさっきの大破壊で目に見えている。
「で、でもミリィさん・・・!」
声に、ためらいの色が含まれている。眼前の身内をかばう「悪」・そして先ほどの恐怖の攻撃・ミリィのダメージと、今のミリィの言葉という状況に、困惑しているのだろう。そして困惑しながらも、気遣いと真実への意志をもち、それがさらに認識している己の無力さと反応し困惑を作り出す。
だがそれを、ミリィは受け取りながら微妙に拒絶する。途端に、ミリィの目付きが険しくなった。真っ向から眼前の宇宙巡査をみすえる。
「現実の戦いは、特撮ドラマみたいにゃいかないことだってあるんだ。ロア、よく覚えておきな。戦場で真っ先に死ぬのは、安っぽい人道主義をふりまわすヤツなんだよ。あたしは、今まで腐るほどそういう奴らを見てきたんだ」
おさえた声だった。表情は、幾多もの修羅場をくぐり抜けてきた星間戦士のそれだ。ふつうの十代後半の少女なら、こんな顔はしない。いや、できない。
「たとえ200年連れそった戦友が目の前で銃弾に倒れても、撃ちあいのさいちゅうなら無視しなきゃいけないんだ。感情に流されない、それが一流の戦士なんだ」
「んくぁっはっはっはっはぁ!笑止!!未熟、未熟ぞミリィ!」
と、それを聞いた悪の博士が爆音と聞き違うばかりの大哄笑を発した。
開けた大口の中、爬虫じみた長い舌と、生物の常識を無視して外側に反り返った鋭い歯が見えるほどに。
「戦場で最初に死ぬのは人道主義者やも知れぬ。だが戦場でもっとも略奪など回りに迷惑をかけるのは中途半端に達観した者だ!まあしなきゃ死ぬというなら仕方ないがな、そうでない場合でもするやつはそうなのだ。そして!目の前で戦友が倒れたらそいつを助けて敵も倒して自分も生き残る!己の想いを貫徹する!それが!!「超」一流というものよぉっ!!!くぁ〜〜〜〜っはっはっはっはっはぁ!!!!」
「超」を思いっきり強調しながら、博士は怒鳴るように言った。そして、よく見ると「超一流」のところで親指を使いびしっと自分を指差している。
事実、真後ろに自分の部下をかばっているのだから説得力はある。
「・・・そういうことは、本当に全員を救ってから言うもんだよ。」
だが、ミリィはごまかされない。この戦場、こうして今二人が語り合っているそのさなか、特甲と戦闘員部隊が激突し、双方に死者を出しながら戦闘を続行しているという事実。
それが、ある。
「確かにそうだ。我輩は全能ではなく、護る腕の長さにも限度が生じる。だがな、100を望んで半数しか達成されなんだとしても、五十は残る。最初から五十と思っていれば、二十五しか救えぬ。向上せんとするものこそが、何かを成しえるのだ。例え悪の魔の手が人々を傷つけたとしても、その一回で全てを諦めるようなものは、貴様ら正義の味方の仲間には昔は居なかった。だからこそ我等悪は勝てなんだのだ。・・・違うか!?」
ぎしっ、と空間がきしむほどの圧力でにらみつける博士。
「博士・・・」
背後にかばわれたカーネルとアラネスがかける声に、正面を向いたまま博士は微妙に口の端を歪め笑った。
「ふ・・・強き者の体は、弱き友を救う楯となるためにあるのだ。見よミリィ、この町の惨状を!貴様が無定見にプラズマ弾を乱射したばっかりにこの有様よ!滅びたりとはいえ王家の末裔たるお主が、民草のことを考えず戦をするとは何事か!恥を知れ、恥を!お主の父母が草葉の陰で泣いているのが見えるようだわい!」
「自分でことを起こしといて、よく言うじゃないか!」
今は亡き父母のことを言い出され、ややかっとなってミリィはまたつっかかった。
「ふっ、我等にここまでの破壊の意図はないわ。征服後には我等の民となるものを、殺戮せんとするのは愚か者の所業よ!あくまで堅気の衆には犠牲を出さずに済まそうと人払いをしたというに、貴様のせいで滅茶苦茶ではないか!」
「・・・・・・・・」
確かに理屈は正しいかもしれないが、どこか奇妙な話だ。
「戦う際、周りに構っていてはやられる・・・それは、戦士としては完璧に正しい。しかし、しかしだ。勝つ以上に重要なことを背負った戦士というのも、存在する。それは義を背負うもの、すなわち「ヒーロー」と呼ばれる存在だ。無論その道は厳しくつらいが・・・我輩は、おぬしならばなれるかもしれないと思うておる。そして、そうなったもの相手ならば倒されても悔いはないとも、思うほどだ。もっとも、我が愛しきものたちの命をやるつもりはないがな。」
ひた、と八つの瞳がミリィを見据える。うって変わって、その声は優しいといっても過言ではないほどに穏かになる。
「そして・・・おぬしならあるいはその「義を背負うもの」になりうる、我輩はそう見る。あまりに長き悲しみの堆積を持ち上げることが出来れば、ともに持ち上げるものがあり続けるならば・・・お前は、到達できるであろう。」
ぴくり。再びミリィの柳眉が動く。
「・・・あんた、あたしの何を知っているって言うんだい?」
「硬き体、凄まじい破壊の力、数百〜数千年の長命。人よりははるかに高く、神にはかなた届かない。それが、おぬしの心を引き裂くか。」
「・・・・!!」
今度は、目を見開くミリィ。限界の歯がゆさと、隔絶の孤独。奇しくも二人同じ悩みを、博士は言い当てた。
「だが、長きとはいえ、基本は人の生と何変わることあろうや。別れの数が多い・・・それは紛れもない。だが、それはまた出会いの数が多いということでもあるではないか、ミリィよ。」
一瞬、静寂が満ちる。だがその静寂は周囲の戦闘音をより鮮明に響かせ、
「かもね・・・でもさ・・・・」
「今は戦・・・・!」
再びの決意を促す。
「拳でなく、言葉で、本当・・・やってくれるよ!!」
叫びとともに、ミリィの手から再びプラズマ弾が放たれる。
が、次の瞬間ミリィは驚きに目を見張る羽目になった。
がっこぉん!
博士に向けて突進したプラズマ弾。それは、まるで鉄板に石がぶつかるような音を立てて弾かれた。
「んなぁ!?なんなんだその装甲!????!」
プラズマとは、物質を構成する原子が数千〜数万度の高熱でばらばらになっている状態である。それは当たった対象物も同じこと。磁力によってまとめられているので電磁波で撹乱しそらすことは可能だが、装甲で弾き返すなんて事原子で出来ているすなわち物質である限りできるはずがない。
咄嗟に第二激、今度はエネルギーの放出形態を変え数十万ボルトの高圧電流で雷撃する。
「サンダーメガボルトッ!!」
これも威力的には同レベルなのだが、やはりまるで金属の弾丸が装甲で弾かれるように防がれてしまう。
その雷光の青さがまだ目に焼きついている間に、博士が動く。
「今度はこちらからだ!」
杖を前に突き出す博士。同時にパラボラが激しく光る。
飛んで、ミリィは避けた。その、イエローのじぐざぐした、だが放電とは明らかに異なる爆発を伴った光を。
「くははっ!これこそ我が喪失技術研究の成果がひとつ、「怪光線」だぁ!「黄金の混沌」期に多用されながらも、その原理が消失してしまった、「幻の主力兵器」!しかしてその実態はレーザー・放電・粒子ビームの複合これならば不可視のレーザーが出すイオンに誘導された可視の電流がジグザグを示し、着弾点で粒子が反応爆発を引き起こす!まさに芸術的一品よぉ!!」
さらにじゃっ、じゃっ、と音を立てて飛ぶ怪光線をかわしながら、ミリィは一気に急上昇した。
高機動戦において、相手に位置エネルギーで勝る上を取るのは基本である。だが博士は、あえてそうしなかった。
「ミリィよ、なぜ貴様を飛ばせたのか、知りたいか?」
「何だって?」
思わず問い返すミリィに、博士はそれはもう凶悪な笑みを浮かべた。
「空に向かってなら、周囲の被害を考えずに思う存分力を振るえる・・・・!」
いいざま突き出した博士の両腕は、さながら発射装置の見本市といった奇怪な、まるで皮膚病にでもかかったかのように様々の発射穴が開いた有様になっていた。
「種明かしをしてやろうミリィぃ!我輩の体を覆うこの鎧は名を心理外骨格!光子圧縮の要領で霊子を実存領域まで圧縮した、ものにしてものにあらざる装甲!その強度はわが精神の強さであり、相手から受ける損傷はその敵の攻撃に乗る意志霊子の度合いによるっ!!」
(霊子を装甲に使うだとっ・・・!)
宇宙刑事としての訓練を受けたミリィは、博士の小難しい解説の概要を一瞬に理解し、舌打ちした。
霊子。近年になってようやく科学からのアプローチが始められた、宗教的オカルティシズムではない技術としても魔法や仙術・呪術などの種。一種の素粒子らしいのだが、「思考」と呼ばれるに足る脳波に反応して初めて実体の有る存在として振る舞う奇妙な粒子だ。霊子から物質への干渉は行いうるが、逆に物質から霊子への干渉は・・・脳波に当てはまる領域の電磁波以外では・・・出来ない。通常でも意思的行動では僅かに伴われ効果を及ぼすのは確認されている。
だが脳波なら出来るといっても、それは常人レベルではありえないほどの出力と集中を擁されるものであり、故にこそ実用にたる魔法の類は使用可能なものが非常に限られていたのである。
それをこいつはおそらく未だ魔法方式に比べ未発達な科学的手法で、収束した霊子が物質化するまでかき集めて装甲としている。方向性や人格はともかく桁違いの精神質量でなせる業か。
要するに、博士の精神で統率された霊子装甲を打ち破るには、攻撃時の精神でもってまず凌駕せねばならない。そうしなければ、いくら高熱のプラズマだろうが高圧の電気であろうが、まるでダメージにはならない。逆にこれは攻撃に乗る霊子の量が十分であれば、とりたてて強い攻撃でなくても、極論すれば蟻も殺せない一撃でも突破は可能ということになるが。
一瞬で考えきったミリィ。だがその次に博士のつむぎだした言葉は、更なる戦慄。
「そして、これはそのもう一つの利点、形質を思うが侭に変質させうるという事象を応用すれば、我が脳内に在りし兵器理論全てを実存化することが可能なのだッ!!!・・・レーザーメーサー荷電粒子中性子反物質、重力衝撃波に人工極小黒恒星、共鳴振動に超弦励起、次元断絶剣にオルゴン生体エネルギー砲にスカラーシステム、・・・どれでも食らえっ!」
恐るべき早口で無数の兵器名をとうとうと言い立てると、それらを一斉に・・・発射した。

ドォォッォォォォンンンンン!!!

びりびりと空気が振動し衝撃波にビルの硝子が割れる。それでもこの程度の損害で済んでいるのは目標へ到達する以外の熱や重力を相手を次元後と切り裂く攻撃としても用いている次元断裂が吸い込んだからで、本当なら空気が灼熱化し町が全滅しても可笑しくはない。
「やったか!?」
「まだまだぁぁぁっ!!」
凄まじい機動性でこの攻撃すらくぐりぬけたミリィ。まるでかわせみのような勢いで急降下し博士に向けてプラズマ弾を再び発射、がっぉん!と凹んだ博士の外骨格が、またすかさず復元する。が、その速度は注意して見なければ分からないほどではあるが、確かに落ちていた。
(なるほど!)
ミリィは納得した。あの男は自分を、「戦うに足る」と認めていた。すなわち、自分の攻撃には霊子が宿っていると。僅かではあるが、こちらの攻撃に乗った霊子は、博士の心理外骨格を削っている。
ミリィは以前金属宇宙人グロウダイン星人と戦ったときを思い出した。連中は体の表面に電磁的結界を張り巡らせ硬度を上げ、こちらの攻撃をことごとく弾いて見せたが、体力を使い果たすと同時にその体は通常金属並みに落ち、プラズマ弾の貫通を許し破壊された。
あれと同じことだ。何度も何度も攻撃して、相手を消耗させる!!
そうミリィが決めるのと同時。
ばさっと、博士がマントをひらめかせる。するとそれと同時にマントが蝙蝠の羽のような、いやむしろジャンク船の帆を思わせる骨格に膜の張った羽へ変化する。
「くはははははっ!ミリィよ、ここではやはり手狭!お主も我輩も全力は出せん・・・ついてこい!我等が闘場へっ!!」
言うなり飛び立つ。一気に超音速まで加速し、ミリィをおいていく。当然、ミリィも後を追った。
落ち着いて考えれば博士を無視して他の連中を倒しておくという手もあったかもしれない。が、ミリィはそういった手を使うなどという卑怯な考えは毛頭なかった。彼女はよい意味でも、あくまで純粋戦士だった。

ぎゅん!
空気を切り裂くように飛んでいた二人は、唐突に停止した。
場所は海上。周囲には船もなく、多少の流れ弾も問題にはならない。
そう見て取った博士は、にやりと笑った。
「ふむ、ミリィ。ここなら互いに全力を出せようぞ!さぁ、切り札を出せ!」
「よぉし!」
ミリィは応じた。腕を上に突き出すようにして叫ぶ。
「来たれ!バムソード!」
叫ぶミリィの足元から、衝撃波と蒼い閃光が幾重にも重なって同心円状に広がる。
光り輝く微粒子が、閃光を伴って虚空に現出した。光の粒子群は嵐のように渦を巻き、ミリィを覆い隠すようにして瞬時にある形を作っていく。
それは、竜。
光で描かれた竜の輪郭線が、一瞬、空中に浮かび上がって輝いた。
初めに、ミリィの体に近いところから、彼女の体を包むようにコクピットが形成されそれが厚みを増すように胴体そこから腕、脚、尾が生えて、首が伸び最後に頭部。形成と同時に、機械音と入り混じった咆哮を発する。
白銀の装甲を身に纏った肉食恐竜といった印象だ。ティラノサウルスより頭部は小さくスリムだが、貧弱な二本の指でしかないティラノの前足と異なり、白兵戦に適した立派な腕が生えている。
獣鬼兵。ガーライルフォースマスターが使う、今では作る技術も失われた戦闘生物。その中でも大型で使用者が直接操縦する第三世代と呼ばれるタイプだ。
身長は16メートルほど、今表の世界で主力兵器として使われている人型戦車アームスレイブの倍の大きさを誇るが、50メートルが平均のHUMA戦隊ロボに比べれば大分小さい。しかし、攻撃力と機動性ではこちらのほうが勝っているという、ミリィの切り札だ。
そして同時にもう一匹、こちらはむしろ機械的な、全翼機型の機体が飛来する。コクピットのミリィに通信が入る。それを操る、彼女の妹、リュートだ。姉より若干温和な表情で、耳も少し短く丸っこい。
「お姉ちゃん、支援するわ、いくわよっ!獣鬼合身!」
「獣鬼合身!」
ミリィも答える。そして、声が一つに。
「獣鬼合身、ソードスパルナー!!」
「ほう!」
全翼機型の機体が龍を思わせるバムソードの背中にくっつき、飛行可能な形態へと変貌する。両者生物であることを考えれば、信じられないほどの複雑さだ。
「さぁ、どうするっ!」
感心したような声を上げる博士。だが、同時に猛々しい、好戦的な笑いが顔を支配する。
ふわ。
広げられた博士の掌上に、赤と青、二つの光の球が浮かび上がった。
「ここならよかろう・・・かつてこの地上を何度も焼き払ったといわれる超存在、怪獣。竜が森湖にて発見したその体細胞と、南太平洋ルルイエ島の遺跡で発見した、かつて宇宙を支配したという光の巨人の残骸・・・それを分析して得たこの我輩の力、見るがいいっ!超人獣変!黒戦皇!!!」
叫びとともに、二つの球が一つとなる。
カッ!
紫色の閃光。一瞬目を細めたミリィだが、次の瞬間にはかっと見開いていた。

身長、50メートルほど、うねる長大な尻尾を入れれば、全長は100メートルを超えているだろう。背中に生えているのは、さきほどまで博士のマントが変化していたジャンク帆型の翼と同じ形だが、翼長は200メートル近いのではなかろうか。
黒と赤に縁取られた黄金色の装甲に覆われた体は、太い手足とやや長め首を持つ。恐竜と違い踵が地面につき、直立した怪獣体型だ。しかし、全体的にどこかいびつな、歪んだ印象をうける。
頭には、鋭い三本の角。そして八つの目が、爬虫類的な前後に長い顔についている。
そして、それが咆えた。人の言葉で。
「グァガガガガガガガガガガガガァ!!!これが我が最大の力、超人獣「黒戦皇」!!ゆくぞミリィィィィィ!!!」

ぎゅぎゅぎゅん!
オーケストラの指揮者のように、突き出された博士・・・いや、黒戦皇の両腕。その全ての指が一度に伸び、超音速の銛と化して突き出されてきた。
「なんのぉっ!」
背中に融合したバムスパルナーの生体ジェットをふかし、一気に宙を舞いかわすミリィ操るソードスパルナー。同時にリュートは機体の知性核・・・生体コンピューターのようなもの・・・と意識を接続、全力で飛行をサポートする。
いや、操るという言い方は適切ではないだろう。ソードスパルナーは完全にミリィの意識下におかれており、感覚的には一体化、いやソードスパルナーがミリィの体になっているというのが正しい。
ぎざぎざの節のついた指は、いちどに地面突き刺さった後ほぼ同速度で巻き戻され、再び放たれる。この速度ではいずれも電気鋸のようなもの、触れただけで小柄なソードスパルナーは完全に真っ二つになってしまうだろう。
(・・・抜けたっ!)
だが、相互に音速を出し相対速度がマッハ10を超える状況で尚、ミリィは全てをかわしきった。一気に巨大な黒戦皇の胴体に接近する。
ぼごぼごっ、とソードスパルナーの両肩が膨れ上がった。高速増殖細胞球バイオスフィアが生体ミサイルを生成したのだ。
(ロック・・・出来ない!?)
肉眼では、たしかに確認できる。だが電子の目で狙いを定めようとすると、まるでそこにはなにもないかのように反応しないのだ。
だが。
(発射!)
この距離では目をつぶっても当たる!
ズドドドドド!
ミシンで縫うように、黒戦皇の巨躯に生体ミサイルの爆発が発生する。即座に機体を反転させ、急上昇!

がぎぎゃっ!!

「っがあっ!!?」
がくん、と後方に引き戻されるような感覚。同時に、全身に突き刺されたような痛み。さらに、上下からの激烈なる圧迫。
「ぐるぉおおおおおおおおおおおっ!!」
至近距離からの咆哮で、ようやく分かった。黒戦皇が、その巨大な口でソードスパルナーに食らいついていた。首が収縮していくのを確認。
(まさか、首まで伸びるとはね。)
軽口を叩くミリィだが、この状況はかなりまずい。たいてい、この手の怪獣体型のやつは、たいがい口中にその最大兵器を仕込んでいる。
先手を打って逆に打ち込んでやれば自爆させられる可能性は高いが、下半身を噛み付かれているのでそれは出来ない。
急速にエネルギーチャージを開始。
思い切り首をねじる、ぎりぎり長い角の端が射界に入る。
これでは駄目だ。さらにひねる。間接が悲鳴を上げる。構わず、さらに。さらに。さらに!
びきびきびき、と首の筋、装甲、筋肉、しまいには主骨格までもが悲鳴を上げる。意識に伝わってくる激痛と、無数の警告を完全に無視。黒戦皇の咽喉の奥で、凄まじい霊子の集中が確認されている、時間がない。
真正面、黒戦皇の巨大な顔、左半分についているレンズ形の目が三つ、真正面にある。ここならば。
既にソードスパルナーのエネルギー蓄積の影響で重力偏差が発生し、口元から紅い光の筋がもれ出ている。が、一向気にする様子もなく黒戦皇もエネルギーを充填している。口の中にある下半身に、振動が感知される。
(早く、早く、早く!)
じりじりしながらエネルギー充填完了の報告を待つミリィ。先に撃たれたら負け、単純明快のチキンレースだ。
(充填完了!)
知性核・・・早い話が生体コンピューターが、神経で接続されたミリィの脳に報告する。
「マグナム・ブレイズッ!!」
衝撃波で吹っ飛ばされたプラズマ化空気の作る光輪を纏わせたワインレッドの光の奔流が、もろに眼球に突き刺さった。
流石に、これは効いた。重力子を使って加速した荷電粒子をぶつける、荷重力荷電粒子砲。本来は全長数キロメートルはある大型宇宙戦艦を破壊するような兵器だ。
顔面左半分は完全壊滅。目玉は三つどころか中央部にあった二つも余波で粉砕され、左側の角の根元まで閃光は貫きそれを粉砕・・・早い話が、顔面のほぼ半分を吹っ飛ばしてしまった。
「ぐあああああああああああああああああ!!!」
絶叫とともに、がっちりとソードスパルナーを挟み込んでいた顎が開いた。牙に刺さった筋肉と皮膚を引きちぎり、一気に脱出する。
(決まったか!?)
全バーニアをふかし離脱しながら、後方を確認しようとしたソードスパルナー=ミリィの目に写ったのは。
頭部のほぼ半分を吹き飛ばされながらも、残った右側三つの目でこちらを睨みつけている黒戦皇の大きく開かれた顎、その中で燃え盛る「黒い炎」としかたとえようもないもの。


轟!!!!!!!!!!


「黒い炎」は、放たれた。突き進んだそれは、正確には完璧な威力とはいえなかった。左上顎骨が千切れているためうまく収束されず、また狙いも正確ではなかった。
しかし、一撃でソードスパルナーは右半身をすっぱりと、ミリィが入っているぎりぎりのところまで切断されていた。それだけではない、この黒い炎は通過した空間の空気まで完全に「削り取って」いた。
ぐぼぉぉぉぉぉぉん!
真空になった空間に、周囲の空気がなだれ込む内向きの爆発とでも言うべき現象に翻弄されるソードスパルナー。追撃とばかりに、翼が蠢く。一瞬にして翼から巨大な手に変化したそれは、ソードスパルナーをわしづかみにして大爆発。さらにその爆炎を両断するように、振るわれる長い尻尾の一撃。

ぐわぁぁぁぁん!

海面をバウンドして数キロ吹っ飛ばされたソードスパルナー、いやもはやソードスパルナーの残骸とでも言うべきそれは思い切りコンクリートで護岸された岸壁にめり込んだ。
「くぅあ、は・・・・・・・・」
途切れかかっていた意識が、ぎりぎりのところで復旧する。ぐしゃぐしゃになったソードスパルナーの体内で、ミリィは自分が無意識のうちに接続を切っていたことに気付いた。そうでなければソードスパルナーの知性核が完全停止した状態では、命はない。
しかしそれでも、死んでいるのに近い。いくらソードスパルナーの中に居たとはいえ、これだけ食らっては肉体のほうもぼろぼろだ。
次の一撃で、終わりだろう。
・・・・・・・・・
だが、いつまでたってもそれは来なかった。
「?」
体内で骨の欠片と肉がシェイクされる激痛に絶えながら、ミリィはソードスパルナーの胸部装甲版を押し開け、外に出た。
理由は分からないが、何故攻撃がなかったのかは分かった。
岸から十数メートル内側にめり込んだソードスパルナーからも見える。
波打ち際で、黒戦皇の形態を解いた博士が、ぐったりと倒れていた。粉砕された左顔面は元に戻っているが、黒衣がどろどろのヘドロ状に溶けて海水と混濁しており、金属色の外骨格がむき出しだ。呼吸がうまくいかないらしく、時々背筋がびくびくと動く。
「くそくそく、ひゅーっ!げぼ次元障壁ごほっ!展開に力を使いすぎたはぁっふヴヴヴ、がっちくしょげぼぅう〜〜〜っ!」
呼吸困難を無視して言葉を吐こうとして苦しむ、そして苦しんでいることに腹を立ててさらに何か言って、もっと苦しんでいる。
「次元、障壁・・・?」
攻撃と守護対象の間に次元的な断裂を形成し、攻撃を別次元へ逃がしてしまう究極レベルのバリアだ。だが今までの戦い、博士は自分の心理外骨格の硬さを頼りにしてそのようなワザは使わなかったはず。
「あ・・・!」
最初だ。普通ならば博士が心理外骨格を楯にして防いでも、周囲にぶちまけられる熱量で後ろの怪人は丸焦げになったはず。あの時使ったのだ。
苦笑いがもれる。何と皮肉な世界か。
だが、それゆえに生きる戦いに手加減はしない。
構えたが、もはやプラズマ球を生成する余力がない。ミリィは腰から重熱線銃を引き抜いた。違法な改造が施してあり、威力は戦闘機でも破壊できる。
「・・・・・・」
震える手で照準を博士の頭部にあわせる。と、がばりと博士が顔を起こした。真正面から銃口を睨みつけながら、ぐっと腕を突き出した。
「・・・・・・」
戦闘の一番最初に使った、杖だ。光線を発射するパラボラがミリィの顔を写す。
にらみ合う一瞬。そして。
ばっしゃん!!
意外にも音は蓋路地は違うところから起きた。博士の後ろ、海。そこから真っ黒い影が飛び出した音だ。
影の正体は、忍者装束に身を包んだ鴉の改造人間、鞍馬鴉天狗だ。水中で背中の羽が濡れないように、覆いをつけている。
「やらせぬ!!」
「!」
翼を覆っていた皮膜は一羽ばたきで外れ、鞍馬鴉は博士を掴むと一気に上昇した。同時に、海面に叩きつけられた爆雷が作動。水しぶきの壁を作りミリィの視界をふさいだ。
「くっ!」
咄嗟、水の向こうに透ける影を狙撃する。熱線が突き刺さり水が蒸発し、それが見えた。
黒い、爆弾。
「しまっ・・!」
爆発!
空気の壁に蹴り飛ばされ、ミリィは仰向けに転んだ。ひっくり返ったその視界に、先ほどまでの戦場に次々とレーダー電波や赤外線まで遮断するらしい特殊な煙幕がたかれている。
引き潮だ、どうやら相手は引き上げていくらしい。
「くぁ〜、やるねぇ・・・・・・」
大の字に手足を伸ばし、起き上がる体力も失せたまま、ミリィは笑った。なんだか、ひどく気持ちが良かった。
ミリィの笑いは、衝撃による失神から目覚めたリュートが、姉の気が違ってしまったのではないかと心配する叫び声を聞くまで続いた。


「ともかく、今回の「髑髏」作戦・・・成功、といえば成功でしたな。」
基地に帰還後、ドクター・ゴキラーはやや慎重な感じで切り出した。
影磁は逆に強くはっきりと、同意する。
「ええ。「髑髏」作戦の意義は、主敵たるHUMAの戦力・戦術・システムに対するいわば威力偵察。それに限っては完全に成功といえるでしょう。」
記録された映像データなどを素早く検索し整理しつつ、影磁は続けた。
「まず明らかになったのが敵の錬度。これは、予想外に低い数値です。ヒーローの数は多いですが、一体一体の数値はかつての「黄金の混沌」期のヒーローには及びもつきますまい。特甲隊も、こちらの量産型で対処可能であると判明しましたし・・・」
「反面、警戒するべき敵も分かりましたね。」
と、今度はlucar。
「まず第一に、格闘においてこちら側最強である蠍師匠と互角以上に渡り合ったロム=ストール。そして、JUNNKI君と当たったマークハンター。博士が引き受けてくれたけど、もしそうならなかったらとんでもない被害が出たと思う破壊力の高いアルフェリッツ姉妹・・・」
「今後は、まず彼らに注意した作戦が必要、か・・・だが、それ以外には対処は不可能ではない・・・われらも、技術を研鑽した甲斐があったというものだ。」
やや技術者としての愉悦を含む影磁の声。
と。
それを博士の横の席で聞いていたカーネルがこわばった表情で立ち上がった。何かをこらえているような仕草で、いそいそと退出しようとする。
気づいた影磁は、やや慌てて呼び止めた。
「おや、カーネルさん、どうなさいましたか?」
対して、カーネルの答えは返らない。見かねたように影磁は、彼女に命を与えた。
「戦死した戦闘員達の仲間や家族に説明をお願いします。」
「・・・はい。」
そう何とか言い切ったような声で言うと、身を翻すように扉の向こうに消えた。
一気に、会議室の空気が沈うつとなる。戦いの必然ではある。が。
「・・・また・・・一人で泣くんでしょうね、カーネルさん・・・声を殺して・・・」
静かに、自身も泣いているように、lucar。
「だが、そんな彼女の様子を見れば、兵達も納得しようというもの・・・」
「影磁さんっ!」
JUNNKIの語気が強まる。それではまるで、人の悲しみを利用しているみたいではないかと。
影磁は、あえて答えなかった。そういう意図がないといえば、嘘になってしまう。それを悲しむ皆は、まことの人として尊い。だが、いやだからこそ。汚れ役が必要となるのだ。そして、影磁には自分でそれが出来るのが自分であるとわかっていた。
既に世の影、既に悪。ならばその影の中のなお暗く悲しい澱み、せめて自分が引きつけよう。砂鉄にまみれた磁石のように。それで他のものが、砂にまみれないのであれば。
沈黙のまま、会議は終わって。

「・・・影磁殿。」
「何か?」
会議終了後、立ち上がりかけた影磁の隣で、博士が言うともなく呟いた。
「我が娘が。「わかって、おります。すいません。」と。そして、それは我輩も。皆も同じであろ。」
「・・・かたじけない。」
背を丸め、肩をすくめるような独特の歩き方。だがその背で、博士は返事を受け取った。
そして、ほんの僅かながら。
心が。
安堵ではなく、安らぎではなく、癒しではなく。それでも、確かな何かが。

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