魔女っ子戦隊パステリオン・外典(二乗)の参 「友達たちよ、拍手してくれ。喜劇はこれで終わったのだ。〜ルードウィヒ=バン=ベートーベン最後の言葉〜

「ふぉふぉふぉ、<シャムシール>、お主ともあろうものが不覚をとったものよのぅ・・・」
「うーむ・・・」
学校裏の空き地に無断で設営された超魔科学イスラム戦士団のアジト・・・ちなみにテント。最初持ってきた移動要塞ジハードが日本侵攻の初手でライバル組織・新世紀十字軍の巨大空中戦艦クルゼイドとやりあってる隙にパステリオン・天乃兄妹にもろともに撃沈されたため、こんなところに間借りしている。
そのテントの中、鉤鼻と長い髭が特徴の、幾重にも肌に皺を刻んだ老人が笑う。彼のコードネームは<クンジャ>、超魔科学イスラム戦士団の主力戦闘要員、ヘルメス・トリスメギストゥスの古代技術で人体に動物の獰猛さと能力を移植した改造テロリストを製造する科学者だ。
首をゆらゆらと揺らす様は、どこか爬虫類じみた印象。それと相対する壮年の男・・・超魔科学イスラム戦士団大幹部<シャムシール>は、逆に渋い顔をする。
まともにやりあっては勝機少なき敵陣営を撹乱すべく天乃兄妹の家に潜入し、二人の「特殊な事情」の証拠を掴んでこれを利用しようとしたシャムシールだったが、突如乱入した謎の変態に記憶と証拠を奪われた・・・らしい。何しろ記憶を奪われているのでそのへんの前後の記憶がぼんやりして良く分からないのだ。
「ふむふむ。そやつ、天乃川玲と名乗っておった。天乃の家の関係者、じゃろうな。そしてあの二人の関係の成就を願っておる・・・と。」
通信機から状況を聞いていたクンジャの持っている情報を総合するしかないが、はっきり言って未知の敵に対してのデータはあまりにも少ない。
「ともあれ、これでは計画は白紙、といったところじゃろうな。」
「いや・・・まだだ。」
やれやれといった調子で呟くクンジャに対し、シャムシールは不敵にして獰猛な笑みを返した。
「その変態の目的が、「関係の成就」ならば、この現状を見過ごすはずが無い。動く・・・そこに我々はほんの少し力を加えればよいのだ。むしろこれは好機なのだよ。」
「ふむぅ・・・」
頷くクンジャに、畳み掛けるシャムシール。
「負けるとは降伏し屈従するということだ。諦めぬ限り、戦いを継続する限り、我々に敗北は無い・・・どれほど犠牲が出ようとな。」
呪う様に、刻むように、誓うように。
シャムシールは、言い切った。
「うむ、成る程な。新型の獣聖戦士が出来ておる、あやつも使おう。・・・ところでお主、今日の学校はどうしたのじゃ?さぼりか?」
「ぬおっ!?」
いい歳こいて無謀にも高校に潜入しているシャムシールの呻きとともに、こうして超魔科学イスラム戦士団の作戦が再び動き出した。

で、その日輪高校の中等部では。

「あれ、鈴璃は?」
「何言ってるの。鈴璃は高等部よ?」
空席に首を傾げるクラスメートの誤謬を、委員長の月夜美砂希が正す。
指摘された、大きな目と硬く黒いぼさぼさした髪を長く伸ばして強引にポニーテールっぽく纏めた少年は、学校指定制服の上に来た白衣の裾を翻して、わたわたと手を振った。その容貌は少年らしい元気さと高い知性が融合した輝きを持っており、なかなか基準よりも美しいと言えた。
「あ、そ、そうだな。鈴璃の奴は飛び級したんだっけな・・・」
その様子に、美砂希は珍しい者でも見るように眼鏡を軽く上げて呟いた。
「そうだけど、君らしくないわね「発明少年」、そんなこと失念してるなんて。」
彼は何故か本名を明かさず、名前ではなく常に先生の出席確認ですら相性の「発明少年」と呼ばれている。ちなみにこの男の子、何と鈴璃たちの母先代パステリオンと深い縁の有る漢、人呼んで「町の発明おじさん」の孫だったりするのだが、雪瑠たちは未だそれを知らない。
その発明でいつも大騒動を巻き起こし、時に味方、時に敵という実に不思議なポジションをとっている。

「そう、だよね・・・今頃鈴璃さん、高等部で・・・」
少し憂いを感じさせる表情で呟く水奈。元々妖精のように儚げな容貌の持ち主である水奈がそのような表情をすると、まるで今にも消えてしまう虹のような、危うげな輝きを感じさせる。

当代パステルレッド=天寺鈴璃は、つい先頃その類い希なる運動神経でもって体育特待生として指名され、一足早く高等部に飛び級していたのだ。

それにある危惧を憶える水奈を、心配そうな様子でテオは見つめていた。
「水奈ちゃん、鈴璃さんのこと心配なんですか?」
「え?ええと、あの、その・・・」
テオの真っ直ぐな目と心に、直視できず目を伏せてしまう水奈。
実際に水奈が心配しているのは、鈴璃ではない。鈴璃と、水奈が何よりも恋い慕う兄・柾利との関係の変化だ。鈴璃が兄を好いているのは、水奈は気付いていた。もし、もしも、柾利がそれに応じてしまったら・・・
(嫌・・・嫌!そうなったら、水奈、お兄ちゃんがいなくなったら、愛されなくなったら、水奈・・・!)
きゅうっ、と、制服のスカートの上に置かれた小さな水奈の手が縮こまり、震える。
苦悩する水奈。しかし、それ以上の行動はとれない。鈴璃と兄の関係が進展することを危惧しても、まさか鈴璃を排除するということが出来るはずもない。共に戦う仲間でもあるし、それに友達でもあった。
(でもっ・・・!)
それでも諦め切れぬ想い、そこからくる迷い。そして、兄を信じ切れぬ己の自覚。自分の浅ましさへの嫌悪に、水奈の心は引き裂かれる。

純粋過ぎるテオに、理解できる領域ではなかった。確かにテオは優しく親切たろうとしているが、この問題に適切な答えを出すことなど出来はしない。しかしそれでも気に懸けずにはいられず、結果悩まずにはいられない。答えない水奈に、涙ぐみながら首を傾げるテオ。
一見お似合いのカップルに見える可愛い二人だが、しかし断絶は深い。

「はは〜ん。」
にやにや笑いを浮かべ、雪瑠が「発明少年」の脇腹を指でつっつく。
「あんた、うちのお姉ちゃんに気があるでしょ?」
「はわっ?!」
犬に飛びかかられた猫のように、髪の毛が逆立つほど吃驚仰天する少年。
「ちちっ、違うわい!」
そんな動転に、にやああとチェシャ猫笑いで油を注ぐ雪瑠。
「まったく、硬派ぶってるわりに私といいお姉ちゃんといい・・・」
「う、うわああああっ!それを言うんじゃなあああい!!」
最初雪瑠を女だと勘違いして惚れていた、という暗黒過去をひけらかされて絶叫する「発明少年」。

少しは明るくなった空気に、ふう、と溜息を雪瑠はついた。
思春期特有の、硝子細工のように美しくも繊細な心の関係。それは、壊れそうに危うく、擦れるごとに美しくも悲劇の音色を奏でる。
雪瑠は知っている。姉・鈴璃は明らかに、同じく地球を守って戦う陽極神・天之柾利に惚れている。故に、「発明少年」の思いが届く可能性は低いと分かってしまう。
そして、天之兄妹とのつきあいの長い雪瑠には、その姉の思いが届く可能性の低さが熟知出来てしまうのだ。その思いは、鈴璃にとっても「発明少年」にとっても悲劇、しかし「思い」を止めることなどその本人にも出来はしない。それは、水奈とテオについても同じだ。
「切実だね・・・青春は余りにも切実すぎる・・・」
窓の外に父譲りの女性的な美貌を向けて、雪瑠は呟いた。


一方、話題の高等部では。
体育館。
マットの上を跳ねる人影。それはいわゆる新体操と呼ばれる競技だ。
重力を振り捨てたように軽々と、肢体が華麗に宙を舞う。その少女の体は、しなやかにして俊敏、運動性を感じさせる筋肉を薄い脂肪から僅かに浮かせながら、同時に壊れそうな華奢さを併せ持つ、スポーツをキチンとやりこんだ思春期の少女の美。
しかしその年齢に似合わす演技は、オリンピックの金メダリストが見た瞬間修行のやり直しに尻尾を巻いて山籠もりしてしまいそうなほどの超・高レベル。
軽い着地音を立てて、ぴしっとポーズを取る。
「ふぅっ・・・」
溜息をつく・・・天寺鈴璃。息を呑んで、というより圧倒されていた周囲の観衆が、一拍置いてどっと歓声を上げた。
見学している皆が、これだけの難技をこなせる彼女が未だ本来は中学生たるべき年齢であり、そして新体操のみならず陸上・格闘技など何でもこなす「運動の天才」である事実を認知してはいたが、それにしても凄い技である。しかし当の本人は、それを別段誇るでも鼻にかけるでもなく。
「ごめんなさいっ、数学の補習あるからっ・・・!」
ぺこっと頭を下げると同時に今度は高等部教室目掛けて駆けだしていく鈴璃。一見、いかにも快活で運動好きな女生徒の幸せな学校生活、といった感じだ。
しかし、その内実は寧ろ苦しい、といっていいものであった。必死に勉強したとはいえ授業について行くには相当の苦労を必要とする。そして体育特待生であるが故に、練習もサボれない。
そして、人間関係上の軋轢。あっというまに体育特待生として各部を総なめにしたことに対する、よくある嫉妬。
それまでの「敵」とは違ってあくまでも生身の人間。しかし、そうであるが故に鈴璃もまた「人間」として対処し傷つかざるを得ない。

無理をして飛び級した高校は、その無謀さ相応に過酷であった。
それでも彼女が求めたものとして確かに、柾利に近づくことは出来た。
(でも・・・)
しかし、近づけば近づくほど、柾利が自分を見ていない、という事実だけが針のように突き刺さってくる。どれだけ想っても、どれだけ接しても、彼は自分を一定以上の存在として見てはくれなかった。
そして、教室で。
高校生として必要な学力を補うための補習を受けながらも、心はそれに集中できていない。横目で見ると柾利の周りには、幾人もの女性達がつきまとって話しかけていた。
綺麗ではあるけれども細く肉付きの薄い鈴璃とは違う、大人になりつつある女達。寡黙で厳しい顔立ちとはいえ、柾利は女子に人気がある美男だ。一種のアイドル的存在、とも言えるくらい最近はそれが過熱している。しかし柾利はそんなミーハーな女性達の誘いに決して反応することはなく、難病の患者を持った医師のように厳粛な無表情で、勉強道具を鞄に詰め込んでいた。
鈴璃は以前柾利が雪瑠に相談しているのを、聞いてしまったことがある。最近自分の存在感が濃くなって人につきまとわれるようになった、どうすればいい、と。
(私も、柾利にとってはつきまとって欲しくない、大事じゃない人なのかな・・・?)
鈴璃の祈るような視線に気付いてか否か、柾利は逃げるように教室から姿を消した。慌てて追う鈴璃、その数秒のタイムラグのあいだ。
「どうすれば、いいんだろうな・・・」
溜息と共に、ごつ、と鈍い音。柾利はうなだれると、窓硝子に額を預けた。窓の外を眺める。
普段陰鬱な印象を与えている長い髪の毛が顔にかからなくなり、窓硝子しか見ない中で少年の顔が露わになる。
正直、柾利は人に好かれるなど人生に置いて想定外であった。いや、それは自分の外形だけで勝手な想像などしてつきまとう相手を意味することではない。
自分の「守護対象」で、いつも自分についてこようとする、一歳年下妹と同い年の少女・・・鈴璃。
最初柾利は、あくまで彼女を「守護対象」としか見ていなかった。しかし、何度も戦いを続けるうちに、それは「仲間」となり、鈴璃は恐らく、それ以上の感情を自分に注いでくれている。水奈を愛する、この自分に。
しかし、もしも。
水奈以外に自分を愛してくれる存在があるのならば。それこそが、「半身」である水奈とは違う、正しい人と人とのあいだでの友愛ではないのだろうか?
だが、だとすれば水奈はどうすればいい?俺のこの思いは、天之の宿命だから、ただそれだけのものとは断じて違うと信じたい・・・
そして、声が聞こえた。鈴璃の声が。
「あっ、あのっ、お願い、その、補習すぐ終わるから・・・その、い、一緒に帰らない?」

悩む柾利、硝子細工の現状、しかしその崩壊は目前まで迫っていた。
「いかんっ、いかんなぁ・・・!」
そんな呟きが漏れたのは、普通なら人間の居るはずのない・・・日輪高校の通気孔の中だった。
いくら大拡張工事で巨大学園化した日輪高校といえど、通気孔が大きくなって人が通るようになったりはしない。普通に狭苦しいその空間の中に、人の声。もし不幸にもその声を聞いてしまった人がいて、何事かと中を覗いたら・・・もっと不幸になるだろう。
何故ならそこにいるのは、アロハシャツに下は袴、その上に「素敵変人」というビアル星で作られたスーパーロボットか日輪の力を剽窃するブルジョアロボの二つ名をもじったような陣羽織をつけた、無駄に美形だけど鬱陶しい長髪無精髭の・・・明らかに変な中年。
名を天之 川玲。ペンネームを天之川 玲という本名の区切りを変えただけのぞんざいさの割にはその甘美にして背徳的な文体から一部で評価の高い小説家。そしてまた、天乃兄妹の叔父であり、水奈にとっては一時自分を引き取って育てていた義理の父でもある存在。
これが。よりによってこんなのが。
「まさか編集者に追われて少し目を離していた隙に、柾利と水奈、二人いっぺんに悪い虫がつくとは・・・!!」
見てくれもアレだが、中身はさらにとんでもない。
何しろ柾利と水奈が実の兄妹であるのに好きあっているのを知っていながら、それを横から観察して小説のネタにしているという、作家魂のために倫理を振り捨てた男だ。
ともかくライフワークとして今まで天之兄妹の記録をつけてきた川玲だったのだが、今事態は彼の想定外の方向に進みつつあった。柾利に天寺鈴璃が好意を告白し、水奈にテオがラブレターを送った。状況は複雑混沌化しつつ、結果がどうなるか読めなくなりつつある。
もし二人のうちどちらかが心変わりしたら、川玲にとっても、そして神の力を継ぐ特殊な血を持つ、それゆえにこの因業作家と利害一致してしまう天乃家にとってもまずい事態になりかねない。
「これは急いで何とかしないと・・・むっ、はっ、とりゃ・・・ぬう、狭い!」
流石に普段持っている創作ノートの入ったトランクと背中に背負っている「正装↓」と大書された看板を外しているとはいえ、流石に狭いらしく、出るのに苦労する川玲だった。



放課後の帰り道。といってもやはり中等部と高等部では授業終了時間などが異なるので、帰るときも必然的にそれぞれ別れることとなる。
そして、その二つに別れたパステリオンたちに、とんでもない事態が襲い掛かろうとしていた。

中等部グループは、水奈、テオ、雪瑠、美砂希、そして「発明少年」の四人。
それまで一緒だった鈴璃がいなくなった事を除けば、いつもと同じ普通の下校風景だ。
幼くしての戦いの最中僅かにそれを忘れる、少年少女としての「普通」の時間。
他愛ない話に花を咲かせ、雪瑠が冗談を飛ばして、美砂希がつっこみを入れ。それに水奈が笑い。
そして、テオが雪瑠のたわむれにあえて乗る格好で水奈に手を伸ばし。照れながらも、水奈が雪瑠のお姉さんっぽい(男なのに)笑みに勇気づけられて、その手をとろうとする。

が。突然その「普通」は、崩壊した。
突如通学路に立ちふさがる人影。
その姿は、アロハシャツに下は袴、その上に「素敵変人」というビアル星で作られたスーパーロボットか日輪の力を剽窃するブルジョアロボの二つ名をもじったような陣羽織をつけた、無駄に美形だけど鬱陶しい長髪無精髭の・・・以上前編のコピー&ペーストに、さらにフル装備として創作ノートの入ったトランクを持ち背中に「正装↓」と大書した看板を背負った、滅茶苦茶変な中年。

一瞬、全員硬直。一人「発明少年」だけは、面白そうな顔で口笛を軽く鳴らした。
そして、変態が口を利いた。
「はっはっは、水奈〜、いかんなあ。家族でもない異性と手をつなぐなど・・・!」
「・・・っ!?」
その言葉にこの男の正体に気付いた水奈が驚き、反射的にでかかった叫びを止めようと口を押さえる。
今まで川玲は、あくまで影から天之兄妹を見守り時にこっそりと手を下しては二人の絆の形成に手を貸してきた。しかし、この事態の意外な進展に、遂に自ら直接表舞台に立ち、絆をより大きく動かそうと出陣したのだ。
でもまあ、見る側にとってはどっからどうみても変態襲来としか思えないのだが。
「えっ・・・この人、水奈ちゃんの知り合い!?」
「しっ、知らないもん!水奈、こんな変態権現しらないもん!」
驚くテオ。咄嗟に水奈は、嘘をついてしまった。・・・まあ、明らかに仕方がないと思うが。
義理とはいえ娘に変態権現扱いされた川玲だが、別に気にしたそぶりも見せない。
(ふっふっふ、何と言われようとかまわん!二人の仲が成就すれば、そしてそれが小説として使えれば!己の創作に魂すべてを捧げ、抜け殻となり虫けらのように死んでこそ真の作家!)
と、内心決意表明すると川玲は即座に行動に移る。
「ふっふっふ・・・いかんなあ、水奈。いかんいかん、実にいかんともさ。遺憾なくらいにいかんよ、それは。お前の今抱いている感情は、柾利への裏切りというものだよ。その身に虚ろを抱え、お前を待ちわびる、柾利へのな・・・」
ダジャレが混じっては居るのに、きてれつな装束でごまかされていた精悍な風貌が、ふいに刃のようなぎらつきをもって水奈を見据える。
さながら息子ルークを暗黒面に誘惑するダース=ヴェーダーの如く、手招きしつつにじり寄る川玲。
「ひぁ・・・う・・・お、お兄ちゃんを、裏、切り・・・!?」
川玲言葉は、まさに氷刃となって水奈に突き刺さった。びくり、とその人形のような表情が引きつる。いつか見た、涙を流せずに雨の中「泣く」兄の姿が、思い出された。想いが溢れ、鎖のようにその体を縛った。
(つまり、この変態オヤジの目的は水奈とテオを引き剥がし、柾利とくっつけ直すこと、か・・・)
一瞬で、それを悟る「発明少年」。それは本来彼が望む鈴璃の愛を得る為には、好都合どころか必要条件であった。
だが、寧ろ「発明少年」の顔からは興味は失せ、苛立ちに近い顔となる。
(すまん、すまんぞ水奈!お前が憎いわけではない、否むしろ愛しいとはっきり言える!だが、仕方がないのだ!この道こそがお前の本当の幸せのため!そのためにならこの川玲、既に畜生道に墜ちた身を、無限地獄にさらに堕としつくす覚悟は出来ている!さあ、私を憎め!そして悲しめ!その激情が、柾利への愛へと変わるのだ!)
川玲の心も激しく乱れるが、しかしそれを表には出さない。
一方水奈の涙を見た瞬間、金色の光と共に美砂希の姿が変わる。月の光の色をした羽衣を纏う、地球を守る女神に。
「宝珠、天身!陰陽の理顕すニ天の日月その光もて身に纏わせよ七つの宝珠!一心・二天・三神・四界・五色・六光・七つのパステル、その身に纏えドミニオン!パステルイエロー!」
変身前はストレートヘアだったのがウェーブがかった髪質になり眼鏡も外されているのでまるで別人のようにがらりと印象が変わる。
そして雪瑠も変身する。蒼い光。
「宝珠、天身!地冥の青き闇と剣冠の光もて身に纏わせよ七つの宝珠!一心・二天・三神・四界・五色・六光・七つのパステル、その身に纏えドミニオン!パステルブルー!」
とんがった服の肩とボリュームのあるツインテール、それと短く湾曲した優美な刀身のカラサイ・ブレード。先代よりも活動的な印象のパステルブルーが、そこに現れた。
にじり寄る川玲にカラサイブレードを突きつけつつ、油断のない仕草で間合いを取る、
「ともかくそこの変態大明神!水奈ちゃんに危害を加えようってんなら、敵としてぶっつぶすわよ!」
「権現じゃなかったのかいHAHAHA!」
そしてびしっと指さし言い放つパステルブルーだが、構わず笑いまくる川玲。
「公然猥褻物陳列(きてれつな格好)と未成年者略取に名誉毀損(水奈ちゃんの親族だとの無茶な宣言)、更に誘拐未遂ね。情状酌量の余地無し。」
続けて父親が刑事であることを想起させる、美砂希の宣戦布告。その手に宿るは、巨大な魔導ロボット兵器すら一撃で破壊する魔弾の光。
しかしそれにも怯まずじりり、とその変態的コスチュウムに身を包んだ川玲が迫る。それを見たテオは、傍らの水奈をかばうように抱きしめた。嬉しさと、照れと大きなとまどいの混じった表情で、驚いたまま抱きすくめられる水奈。
「大丈夫っ、水奈ちゃん・・・大丈夫だから・・・あの人が何だろうと、僕は、君を守るから!」
「テオ、くん・・・」
穏やかな彼にしては珍しい、鷹の如き凛とした決意の表情。同時に威嚇するように、その背中から光で出来た翼のようなものが展開した。
彼の新世紀十字軍騎士としての特殊能力である、あらゆる魔法を遮断無効化する奇跡の力「大天使の羽」だ。
まさに悪鬼から少女を救わんとする天使の降臨。それは、その先の未来において二人が結ばれる可能性をより強める。
しかし、本来川玲の意図には反するであろうその現状を認識しつつも、なお川玲は笑った。思うように状況が進みつつあるのを確信した、策士の笑み。
彼はこう見えても天之の家を守る為に不死の力を授けられた衛士、であるのだ。こんな人格だけど。さりとてまた人格はアレであるがこの男、決して愚かではない。
戦闘状態に陥るまえに、じろり、と視線を横に移す。
彼の狙いの位置・・・遅れて帰宅に移った高等部に通う柾利達の方角を。
そしてその川玲の表情を、冷徹な、何もかもを貫くような瞳で見つめる「発明少年」。もしそれに美砂希と雪瑠が気付いたら、驚愕したであろう。
この少年がそんな目をするのは既に長い腐れ縁の過去数度のみ、普段飄々とした彼が本気の戦いを決意したときだからだ。



一方の高等部グループは、柾利、鈴璃、そしてシャムシールの三人。・・・といっても、鈴璃が随分離れて柾利の後ろについていき、その隣をシャムシールがつきまとう、といった格好だが。しかし高校の詰襟制服の上に砂漠で使うような防砂マントとターバンという格好は、凄まじいの一言である。
「何でついてくるのよ。戦う気?だったら、早くしようよ。」
後ろについてくるシャムシールに少しきつい視線を走らせると、鈴璃はぎゅっと拳を握りしめた。珍しく口調が荒い。
苦労と苦悩を重ねて折角思い人に近づいたというのに、そこに濃い口顔の中年が尾行してきていては、心中穏やかではないだろう。
そしてその焦燥を煽るように、シャムシールは髭だらけの頬を歪ませる。
「ふふん、その必要もないだろうさ。どのみちお前等は自滅瓦解する。」
「どういう意味?」
「お前が一番知っているだろう、鈴璃。」
聞き捨てならぬ言葉に問い返す鈴璃にそういうと、シャムシールは冷ややかな視線を前を行く柾利を見た。そして、語り出す。
「俺達一神教徒からすれば、お前達古き神々は超常の力を持つ化け物にしか思えぬ。だが、それでもお前らパステリオンはまだ人間に近いと思うことは不可能ではない。だが、あの男は・・・天之の兄妹は違う。」
「な・・・!」
唐突な言葉と、普段は問答無用とばかりに攻撃しか仕掛けてこないシャムシールの意外な態度が、相乗効果で鈴璃を驚かせる。
シャムシールは、構わず続けた。
「『あれら』の心は、人とは違う。兄の心は欠けていて、妹の心は過剰である。それ故、互いに求めあい補完することでしか世界に存在出来ぬ、他の人間とは交われぬ二つの異形・・・たとえ体が異なっても心さえ持っていれば人間だが、心の形すら違うというのなれば・・・それは、人間とは呼べない何かだ。」
言い放つシャムシール。咄嗟に、鈴璃は叫んでいた。柾利に聞こえないほどの小ささ・・・しかしそれは配慮と言うよりは、勢いのなさが原因であった。
「ち、違う!水奈ちゃんも、柾利も、人間だよ!普通の人間で・・・」
「お前の恋人、か?違う。お前も解っているのだろう?アマテラスの末孫。あれの虚ろな心を満たしうるのは、その正体の片割れである水奈だけであると。お前の思いは報われることはない、と。やめておけ、無駄な希望を抱かぬことだ。」
そう言った途端、パンとシャムシールの髭まみれの頬が鳴った。鈴璃の平手打ちだった。
戦闘開始か咄嗟に身構えかけるシャムシールの目に映ったのは・・・哀れなまでに引きつった、鈴璃の泣き顔だった。
「なっ、何をっ!何が、何が貴方に・・・!」
震え声で、言えない言葉を絞り出そうとする鈴璃。その涙を見た瞬間、シャムシールの戦闘的な気配が失せた。そして呟くように言う。
「虚しい願いを抱き続ける悲しさを、我々はよく知っている。」
「シャムシール、貴方・・・」
鈴璃にも解った。このシャムシェールの言葉は、パステリオン達のチームワークを乱すための小手先の嘘ではないことが。事実シャムシール本人も意外に思うことに、今までの操作から得た結論を、一度川玲の術で脳内から失った後改めてクンジャから聞かされた時、それまでただその力を手に入れるべき目標としか見ていなかったパステルレッド=人間・天寺鈴璃の境遇に、人と人とのあいだの感情である同情をはっきりと憶えたのだ。記憶を消された断絶で、何かが変わったように。
しかしそれが嘘ではない、真心の言葉であるという事実が、よりいっそう鈴璃の心には辛い。それが、シャムシールの言ったことが、事実ということになってしまうから。

と、その時突然。
「エイメン!エイメン!」
叫び声を上げながら、新世紀十字軍のナザレーノ、本来の意味は「受難者」という名を持つ戦闘員たちが、KKKのモトネタである三角頭巾を翻して次々物陰から現れ立ちはだかった。
「ち、邪魔をしおってからに!」
苦々しげに呟くと、シャムシールは素早く魔導書を取り出すと構えた。彼の作戦であるパステリオン陣営の撹乱を妨害しようとしての行動では無いのだが、結果的に同じ事となってシャムシールの怒りを掻き立てる。素早い仕草で魔導書のページを繰ると、転移呪文を発動させる。空間が一瞬螺旋を描くように歪み、その混じり合う一点が、「開いた」
「出ろっ、獣聖戦士イタチテロル!ナザレーノ共を蹴散らせ!」
その「開いた」穴からシャムシールの言葉とともに、古代技術によってその身を俊敏な鼬と融合した、半人半獣の戦士が現れる・・・と言えば、格好いいのだが。
その実体は寧ろ、ふぇれっとの可愛い着ぐるみをまとい口の部分から顔を出した濃い口アラブ面のおっさん、といった感じ。イメージ的には先代パステリオンのおり、「闇のカクテル」で魔物と化したDアーネに近いかもしれない、アレは黒ウサギだったが。
その威勢や信念と比べると何ともちぐはぐな格好だが、大まじめにナザレーノにむかい、蹴散らしていく。
無論、この襲撃はシャムシールもそうだがパステリオンを狙ってのことでもあるわけだ。従って鈴璃も即刻反応。
「宝珠、天身!天の光もて身に纏わせよ七つの宝珠!一心・二天・三神・四界・五色・六光・七つのパステル、その身に纏えドミニオン!パステルレッド!」
赤い宝珠が光を放ち、一瞬で「天寺鈴璃」を「パステルレッド」に変えた。
先代と基本的に同じ装束だが、ふわりとしたポニーテールが全体の印象に少女らしさを増している。
「陽極、転身」
同時に柾利も、その姿を変える。日本神話から抜け出してきたような戦士の装束。とたんにその表情が、すっと凍り付いた。最近人間味を増してきた少年から、以前の感情を持たぬがらんどうの闘神へと。
それを横目で見た鈴璃の顔を対照的に彩るのは、燻るような悔しさとも苦しさともとれる表情。「柾利」が「陽極神」になると、折角得た人間らしさが削がれる、それに馴れることが未だに出来ない。
「大体ヴァチカンは日本天皇家を公認しているんでしょう!?それが何で日本神話の末裔であるパステリオン排除に動くのよ!」
これは事実だ。
天皇家はヴァチカンが認めた現存する唯一の皇室で、靖国参拝も教皇庁公認である。
ヴァチカンは1934年に満州国を承認しているし、昭和56年2月23日、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世はローマ教皇として初めて来日した時、教皇は慣例を破って皇居に天皇陛下を訪れ、教皇自らが国家元首の相手を招くのではなく自分から赴くというのは前例のないことで物議を醸したほど。キリスト教、特にローマカトリックは本来日本天皇家・並びにそれに関連する存在でもある日本神道とは敵対関係にはないはずなのだ。
それを知っている意外と鈴璃、賢い。伊達に飛び級したわけではないということだ。
と、それに返事が返ってきた。半分期待していなかっただけに、少し鈴璃は驚く。

「んっふふ・・・可愛い異教徒さんだ、まるで砂糖菓子の人形のように可愛く、そして甘い。そのようなもの、異教徒異人種の奴隷共が自ら喜んで我等神に救われるべきキリスト教徒の奴隷として生きられるよう、洗脳として施したリップサービスに過ぎぬわ!」

ざっとナザレーノが退き、次の瞬間ひきっと硬直する鈴璃。返答が望んだ平和的な者ではなかった以上、待ち受けるは激闘なるが故に。
「ぬっふっふっふ・・・わしは新世紀十字軍露西亜教会長!鞭身派のアガペー!!」
ナザレーノの群の中から現れたのは僧服に異形じみた筋肉の塊を包んだ、顔下半分をほぼ全部覆う濃い髭と、無意味に彫りの深い顔とアイスブルーの瞳が特徴な壮年の男。
鞭身派とは露西亜で発生したキリスト教の少数派異端の一種で、自ら体を傷つけ背徳をなし、罪或る、群から離れた羊として神に救われることを目指すという日本仏教における密教と悪人正機を混ぜたような感じの特徴を持つ。
男は、僧服がはち切れんばかりの筋肉に覆われた肉体でびしっとポーズを決めた。
「そこな異教徒!このわしがキリスト教の神の愛ってぇやつを惚れて足腰立たなくなるまで教え込んで改信させてくれるわっ!」
「あ、あわわ・・・!」
目下中等部チームと戦う川玲に加え、変態が増えた。
何でロシア正教を差し置いてこんな奴が露西亜支部長なのか謎だ。
「こ、このっ・・・!グレイトギガトンコークスクリューーーッ!!」
がぎいいいっ!!
巨大ロボットすらふっとばす最大出力の拳が、、もろにアガペーの顔にヒットした。
が。
「な・・・倒れない!?」
目を丸くする鈴璃。威力自体は何の鈍りも迷いもない、会心の一撃だった筈。それが何故。
そして、宣言するアガペー。
「主は言われた。「右の頬を打たれたら左の頬も差し出せ」と・・・なんとよい言葉でしょう・・・!さあ、わしの左の頬を思いきり殴るがよい!」
「え、えと・・・」
過去体験したこともない反応に戸惑うレッド。
「くっ、この!ハイパーメガトン流星キックッ!」
それでも何とか蹴りを見舞うが、パステルレッドの二大技を両頬に受けても、やはりアガペーは小揺るぎもしない。
「どうです、神の愛は!さあ、貴方も愛してさしあげる・・・!」
そして叫ぶや否や、パステルレッドに抱きついた!
「うわひゃああああ!」
悲鳴を上げる鈴璃。咄嗟に助けようと駆け出しかけた柾利だが、直後その動きは鈍り、そして止まってしまう。
「いやっ、嫌だよっ、やめろこの変態オヤジぃ!!」
じたばたと抵抗する鈴璃に、委細構わずアガペーは小さな鈴璃の体を抱きしめると、その濃厚な髭を頬ずりでこすりつけてきたのだ。
鈴璃、鳥肌ゾゾゾ〜ッ。
「ふっふっふ、いざ行かん、神の境地へ・・・!」
「やあっ、あっ・・・!?」
キリスト教神秘学におけるカバラ理論に基づき、人体上にセフィロトの木を展開、その体の霊的特質を塗り替えようとするアガペー。
しかし傍目にはそれは嫌がる少女の体をごつい中年の手がその瑞々しい肌の感触を貪っているようにしか見えず、事実鈴璃も悲鳴を上げている。
「・・・ええと・・・」
攻撃とは言えないような行為に、どうすればいいのか戦意を奪われた、というかやや呆れた柾利。
「っ、ともかく、あれは敵だ!」
一瞬そうしていたが、すぐさま本来の意志を柾利は取り戻した。ともかくパステリオンを襲う敵を排除する、ばからしい相手であろうと。
「落ち着け鈴璃!そんなものダメージにはならん、早く脱出し・・・!?」
しかし、柾利は再び凍り付かざるを得なかった。
「嫌ぁ!やめてぇ!あたしの、あたしの体も心も、柾利のものだぁ!!」
それは、鈴璃の必死の悲鳴。他者も己も偽ることなど思いつく余裕もない中での、魂の具現の叫び。それが柾利を、射止めた。
静寂の一瞬。が、破れる。

ドッゴォォォォン!!!
唐突に、大爆音。道路沿いの木々が吹っ飛んだかと思うと、現れたるは変態と天使と妹と二色の神。
別の場所で戦っていたはずの中等部チームが、戦いながら移動してここまで来てしまったのだ。
そしてそれこそが、川玲の策略。
「水奈!?それに・・・!」
乱入者を見て驚く柾利。水奈と、そして。
カラサイブレードでかっさばかれたと思しき腹部から無限再生能力を用いハラワタをまるで触手のように伸ばして水奈をからめ取る、奇天烈な格好の中年。咄嗟にテオが光る「大天使の翼」を羽ばたかせ、いくつかの触手にかかっていた無限再生能力を無効化して切り裂くが、しかし焼け石に水で男を止めることが出来ない。
「川玲っっっっっ!!!」
その男の顔を見た瞬間、柾利の精神が灼熱した。一瞬で跳躍すると、水奈を奪い返す。そして過剰にも、咄嗟に駆け寄ろうとしたテオを突き飛ばす、それほど激烈な怒りが彼を支配していた。
「むひょひょ〜、甲斐性なし♪水奈ちゃんしっかり捕まえとかんと〜」
「うるさい黙れ死ね死ね死ね死ねっ!」
右手にテラノスナックル左手に天上天下・真・破壊神剣で、滅茶苦茶に川玲の体を「破壊」する柾利。しかし、川玲はやられたはしから増殖し片っ端から再生する。
「な・・・」
あまりに激烈な有様に、呆然とする美砂希。普段の彼ならば絶対にあり得ないこと、だ。
そして状況を把握した雪瑠は、唇を噛みしめる。この柾利の激情は、結果として・・・鈴璃を見捨てて水奈に走ったも、同然のこと。
気丈に敵に抗いながらも、ショックを受け血の気の引いた姉の表情が、雪瑠の心に痛い。
「ちぇえーーーいっ!G・フレアァァァァァッ!!」
とうとう周囲の被害も顧みず、大規模攻撃魔法すら繰り出す柾利。その一撃をまたもかわし、素早く蠢く川玲。そのまま一気に水奈の後ろに回り込もうとする。この戦いの焦点を水奈と柾利の二人とし、そこでイベントを起こすことにより己を敵役として強制的に二人の関係を親密化させる、という目論み。
しかしそれは破綻した。直後この乱闘戦場においても未だ人の居なかった方角から飛んできた一撃が、川玲を吹っ飛ばす。
「ぬう、何奴!」
咄嗟に身を起こし叫ぶ川例に、答える涼やかな声。
「別に名乗るほど格好いい奴じゃない。あんたと同じ人の恋路に横槍入れる馬鹿野郎・・・」
同じ、とその声の主は自らを号したが、外見ははっきり言って正反対と言ってよかった。つまり、その声の主は格好よかった。
身長は、180cm近いであろうか。すらりとした長身で、その全身を白い装束と覆面で覆っている。僅かに露出した目元と声音は男性とも女性とも取れるが、また年齢も不詳でありながら、しかし凄絶なまでの美しさの持ち主だった。
「仮の名を、夜の海神(ワダツミ)としておこうか。」
やや含み笑いをもってそう名乗ると、ひらり身を翻した「夜の海神」は川玲の前に立ちはだかった。
・・・
実はこいつ、正体は裾野雪彦だったりする。仮にも天乃の一族である川玲相手に変身して正体明かすわけに行かないので、こんなご大層な格好をしているのだ。
その目的は、愛娘・鈴璃の恋の成就・・・というか、女と女の恋の一騎打ちに乱入する変態の排除。
「いくぞ、川玲!」
ひらりと飛びかかり、正体をばらさないためクサナギブレードは使わないが、それでも素早い動きで川玲と互角の戦いをしてみせる「夜の海神」。
「何故だ、何故こんな真似をする!天之の家の宿命があるといえど、何故パステリオンに危害を加えるような真似をしてまで!」
「真似ではない、のだよ!」
剣と共に言葉を発した「夜の海神」が、一瞬怯む。それほど凄絶真剣な顔で、川玲は答えた。
「天之の家の宿命自体は肯定しているが、私の子供達がそれを苦にするのは許せぬ!ましてや、パステリオンの盾として短命にその命を燃やし尽くすなど、認められようものか!だが、それはあくまで天之が、アメノミナカヌシだけの力を受け継ぐ存在であるが故・・・!」
ぎらり、川玲の瞳が光る。それは、狂的なまでに強い意志の具現。その光に、「夜の海神」は戦慄に近い予感を憶えた。
「な・・・まさか!」
「そのまさかだ!パステリオンの、「世界を律する力」を取り込み、天之の家自体を地球守護にして世界照覧の、絶対の神とすれば!私の子供達は何悩むことなく、完全の幸福を愛を得る事が出来る!子の幸せを望む親として、邪魔はさせんぞ「夜の海神!」」
恐るべき野望を口にする川玲。
皮肉にもそうなれば彼を利用しようとした超魔科学イスラム戦士団のもくろみは完全に破綻するが、その中途に待っているのは超魔科学イスラム戦士団の行い以上の惨劇だ。
「ふぁあっ!」
「うっ!」
川玲のトランクに横っ面を張り飛ばされ、一瞬剥がれかけた覆面を慌てて直す「夜の海神」。驚愕に怯んだ「夜の海神」が劣勢となり、川玲が押し返す、かに見えたが。
直後、二人とも吹っ飛んだ。
「「なぁ・・・!?」」
思わず声をそろえる川玲と「夜の海神」。その視線にぶつかるのは、ぼさぼさの長髪を束ねた少年の、火を噴かんばかりの怒りの目。
そして、その手に構えられた、エレキギター風の三味線に銃器を融合したような、奇怪な武器の発射孔。
「なんだか知らんがごちゃごちゃと、それは気になるのであとで調査するにしてもとにかく今!俺達の、俺達が解決すべき問題に・・・茶々入れるんじゃないっ!!」


さらに猛る陽極神と混乱する陰極神にテオ、アガペーに捕らわれたパステルレッドに川玲が「夜の海神」と「発明少年」に謀殺されているうちにその奪回を目指すイエローとブルー、そして作戦破綻するも待避不能なほど巻き込まれた超魔科学イスラム聖戦士団・・・

騒ぎは更に加速し、混迷していく。
そんな中でも、少年少女達は、生きていく。

泣いて、笑って、傷つけて傷つけられて。
恋して、愛して、生きていく。


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