輝竜戦鬼ナーガス

月間少年ガンガンの黄金期を支えた「ハーメルンのバイオリン弾き」「突撃!パッパラ隊」「ZMAN」に並ぶ名作の一つ。

最シィのほうこそ微妙にデビルマンに類似した(というか、オマージュか。明らかに「狙って」であるし、それに第一話の怪奇ムードはともかくデビルマンの「妖鳥シレーヌ」を思い起こさせる「北風のボレアース」はデザイン・描写ともに本家とはまたぜんぜん違う味を出していて秀逸・・・そもそも、シレーヌは女だけどボレアースは老人で武人気質の男だ)展開を見せるものの、・・・このディーパという精霊とも古代の自然神ともいうべき存在(劇中では「昔は神と呼んでいて、ここ二千年くらいは掌返して悪魔と呼んでいたもの」と)の闘いに巻き込まれた、人が火を燃やし機械を動かす・・・内燃機関を使うようになって力が異常に活性化し他勢力を侵略し始めた炎魔神と、自然の中でも特に生命に近しい存在で、昨今の環境汚染で追いやられつつある水魔神との両方の血と人間の血を受け継ぐ主人公、伝説の輝竜戦鬼ナーガス=霧山竜輝の戦いは、回を重ねるごとに輝きを増していく。

それは本当にごく早く。二番目に現れた敵、北風のボレアースから始まっている。ナーガスを試すように戦い、その戦いの中でナーガスの能力を覚醒させることを己の勤めとし、長き戦いの人生にピリオドを打った、炎魔神に滅ぼされた風魔神の世界一の戦士。

それ以降すこし間は空くが、このように魅力的なキャラクターはまだまだ現れる。

水世界のレジスタンスの副隊長、ラーザニル。大きな蟹のような姿をしているが、どうしてその内の心は渋く熱い男。最初は竜輝が本当にナーガスかどうか疑ってかかるも、最後は彼に希望であることを託し、再生グライマーの炎騎突撃衝を受けて砕け散る・・・決して煮えたぎるほどの熱さではないが、状況的にいかもの頑固な古参兵らしい「粋」を見せてくれている。それというのも、輝竜戦鬼ナーガスの「伝説」・・・それが実は実在しないものだと知ってしまったから。ナーガスの伝説は本来、かつて世界を支配しようとした魔神ウザテースのかけた、炎と水がともに滅びるようにという呪いに過ぎなかった。それをナーガスとともに彼ラーザニルは知り、そしてその事実を知ったナーガスが「伝説のためではなく仲間のために自分から戦う」と決意したのを見たとき、ラーザニルの目にはいかなる伝説よりも竜輝が輝いたであろう。そして、だからこそ言ったのだ。

「ウザテースが言ったことだがな・・・あれは俺たち二神だけの秘密にしとこうぜ!!俺たち反乱軍はずっとナーガス伝説だけを頼りに戦ってきたんだ!それを壊すようなことだけはするな!!てめえはいまでも水界の救世主なんだ!!」

と。そして、約束する、と言った竜輝の言葉、それを心底から信じた。

「よおし!男の約束だぞ!」

輝竜戦鬼ナーガスではなく、霧山竜輝という男を、彼は信じて戦った。

ここまで読めば分かるとおり、この過程は主人公たる霧山竜輝自身に魅力が無ければ成り立たないものである。そんな主人公竜輝に、対立しまた別の強き輝きを発した存在も、いる。

ナーガス抹殺者、ギレウス。そしてその部下、蜃気楼を司る風魔女神モリガン。

ナーガスは魔精界を支配した炎の王ヴァクーラと、滅ぼされた水界の竜の皇女マナーサの間に生まれた娘エスリーンが、人間と結ばれ生まれた炎の孫。(難しい系図だけど、ここが重要)炎と水をあわせもつナーガスが生まれたと知った時、ヴァクーラはそれに対抗するため、暗黒水竜の女に自分の子をもう一人生ませた、それがギレウス。

ただナーガスを殺すために、造られた。愛もなく生み出され生後まもなくから辺境で地獄のような戦闘訓練を受けさせられた彼の生い立ちは、まさに造られたと言ったほうがいい。

その上彼の運命は、さらに歪められていた。ヴァクーラの子であり水と炎の混血であるギレウスが結婚すれば新たな炎の孫ナーガスを生むことになる。それを恐れたヴァクーラはギレウスの母をギレウスが生まれてすぐ焼き殺し、それをギレウスの炎の魔力に絶えられなかったせいであるとギレウスに教え込んだ。そのせいでギレウスは己に対しても強い憎悪を抱くようになり、その魂は黒い炎に染め上げられた。誰かに愛される、誰かを愛そうとするとき、体内で水の力が活性化し炎と反発、激しい苦しみとなるように。

「辛かった・・・助けを求めて泣き叫んだこともあった・・・だが俺をかばってくれる母親はいなかった・・・俺が殺してしまったのだから・・・・・・」

「これこそ俺が求めていた戦いだ!生まれてこのかた探し続けてきた俺の戦場なのだ!」「さあ上がって来いナーガス!今までの俺のすべての苦しみは今日この日のためにあったのだ!」

そして、ひたすらに悲しみと憎悪の固まりとなりナーガスを狙うようになったギレウスを、目付け役として派遣された女魔神モリガンは、そのあまりの悲しさに愛さずにはいられなかった。

「ああ・・・全身から煙を吹いて、あんなに苦しげに・・・それもわたしのせいなのですかギレウス様・・・もう私は何も望みません。ただ・・・生き延びてください!」

そしてそれは敵であるナーガスの愛する女沙知、そしてナーガス本人にも伝わっていく。

「悲しみと憎悪・・・それが貴方の心を満たしているものなのね・・・夢世界で初めて貴方に会った時「幸せなんて望んでいない」って言ったわね・・でもあたしにはそうは見えなかった、その理由が今やっと分かったわ。やっぱり貴方は幸せになりたいのよ、だって悲しみを知っているもの!幸せを望まない人は悲しんだりしないわ!」

「熱い・・・!苦しい!憎しみが聞こえる、この炎は奴の憎しみそのものだ!本当の地獄の業火だ!これほどの憎しみを心の中に溜め込んでお前は生きてきたのかギレウス!!むごい!むごすぎる!!」

それでも宿命に縛られたギレウスの前にあるのは、戦いだけだった。

「おのれなめたまねを・・・敵から愛や同情を受けるほどこのギレウス落ちぶれてはいない!!ナーガス!!貴様を殺す!!生まれてこの方今日ほど憎しみに燃えたことは無いぞ!」

ナーガスと戦い、散ったギレウス。モリガンはその体の竜玉(竜の魔神のもっとも重要な体の部品)を胎内に取り込み、再生させた。自らの命をも失いかねない賭けをなぜしたとギレウスに問われ、彼女は微笑み、そして答えた。

「なぜ・・・って、決まっていますわ。私はギレウス様を愛しているのですから」

生まれ変わったギレウス。もう愛の言葉に激痛の走ることも無い。

「とりもどしましょう!ギレウス様。貴方がヴァクーラのために失ってきたものを・・・もう一度一からやり直して手に入れるのです!!私がお手伝いいたしますから・・・!」

泣く様に、笑うように、愛そのものが形を成した表情で、モリガンはそう言った。

そしてこの二人が、最後の戦いで竜輝たちを助けることとなる。

その相手たるヴァクーラも悪行の報いとはいえ妻にも孫にも息子にも、そして唯一愛した娘にも裏切られ、絶望の末に自滅してしまうという、ある意味で悲しい最後をたどった。とはいえこれはむしろ、一種の引導であり、ある意味での救いの形だったとも言えるだろう。

まさにタイトルの如く、輝きをもつ物語である。

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