『校舎の一コマ』

金曜日の放課後
月夜美砂希は、読んでいた本を棚に戻し図書室から出てきた。
「もう夕方か・・・ちょっと長居しすぎちゃったかな?」
窓の外を見て呟く。
「あ、鍵返してこなくちゃ」
小走りで職員室へ向かう。





♪〜・・・♪〜・・・♪〜♪〜

「ピアノの音?」
図書室の鍵を返し、職員室をあとにした美砂希の耳に聞きなれた楽器の音が聞こえてきた。
「誰だろう、こんな時間に」
疑問に思った美砂希は音のする方角、音楽室へと向かう。



音楽室の近くに来た美砂希は、ふとある話を思い出した。
この学校の七不思議の一つ、『金曜日、放課後のピアノ』。
内容は「金曜日の放課後、音楽室から聞こえるピアノの音、しかしドアを開けると誰も居ない」というものだ。
信じていなかったが、現実にそれらしいことが起こると不気味に感じてしまう。
恐る恐る、音楽室へと近づく。
だんだんと大きくなるピアノの音色。
そしてドアを開け中を覗くと・・・
(!!ほっ本当に誰も居ない)
音はするのにピアノの傍には誰も居ない。
もう一度中を覗きこむと、窓が開いていたのか一瞬風でカーテンが大きく巻き上がる。
そしてカーテンが下りると、そこには一心不乱にピアノを演奏する少年の姿があった。
歳は自分と同じくらいか、整った顔立ちで背も高そうだ。
しかしそれ以上に美砂希の気を引いたのは、その音色。
ピアニストの母を持つ彼女さえ惹き込まれる美しい旋律と、それを生み出す繊細な指使い。
更に驚くべきことに少年は目を閉じて演奏していた。
まるで手だけが別の生き物のように鍵盤の上を動き回る。
(すごい・・・こんなに綺麗なパッヘルベル、初めて)
弾かれている曲は「パッヘルベルのカノン」
しかしそれは美砂希がこれまで聞いてきた中で、最上級の音色だった。
知らぬ間に頬を涙が伝い、床に零れ落ちる。

一度弾き終えたあとも、また同じ曲を弾く。
そうして3回ほど繰り返された時・・・
「あ・・・あの・・・」
美砂希が少年に声をかける、と
「わっ」
強い風が吹き、一瞬美砂希が目を閉じる。
もう一度目を開けたとき、少年は既に部屋から消えていた。
すぐにピアノに駆け寄るが、そこには何の痕跡もない。
「誰だったんだろう?」
顔と胸に手を当てる。
顔が熱い。
ほんの少し、鼓動が早くなっていた。

窓の外は赤く染まった空、夕暮れの校舎での一コマ。

戻る