『キオク』


世界が燃えていく。
「・・・・・・・」
白い服、長い髪、金属質な紫の翼を広げ彼女は地上を見下ろす。
眼前に迫る無数の閃光、しかしそれは彼女に触れることなく消えていく。
彼女を覆う不可視の力場が攻撃そのものを消していく。
右手をかざす、今まで閃光を放っていた場所が炎に飲まれる。
また閃光
今度は横から、しかしこれもまた彼女には届ない。
そして炎に飲まれる。

地上に見えるのは、かつて最強を誇っていた大国。
全ての生命を人工物に置き換え、永遠を手に入れた者達。
この世界のみならず、全てを律する「力」まで欲したもの。
その下に数え切れぬ犠牲を積み上げて・・・

それが滅ぶ。
最強であったはずの軍事力も、至高と信じられていた権力も、一切が燃えていく。
今生きているのは、哀れな傀儡達。
権力の下で生き、己の意思を持たず、意思あるものを虐げてきた者達。
それが今生きようと抗う。
これまで犠牲になってきた者の気持ちなど露ほども考えていない愚かな者達。
それらが手に武器を持って、彼女に戦いを挑む。
「我らは最強」「我が国に栄光あれ」「アレさえ出ればお前など」
下から聞こえるのは、そんなセリフだけ。
誰も負傷者を救おうとはしない、するのは蹂躙、そして得物の強奪。
そこにいる誰もが自分達が滅ぼうとしているのに気付かない。

刹那、彼女が巨大な光に飲まれる。
その先には何か巨大な物、傀儡達が待ち望んでいた存在、絶対無敵の「正義」の象徴。
「ジャスティオ万歳」「我らが守護神」「我が国の真の力を見たか」
現れた巨人を前に傀儡達が狂喜に沸く。
しかしそれは直ぐに終わる。
「破壊神剣・・・」
呟きと共に巨大な斬撃が光を切り裂き、巨人を飲み込む。
唖然とするのも束の間、炎に飲まれる傀儡達。
光の向こうには彼女がいた。
瞳に怒りを、口元に笑みを、そして頬を涙に濡らして。
「・・・・・・」
彼女の思い、それはとても複雑で・・・それでいて単純

傲慢に力を振りかざす者に対する「怒り」、それを自分の力で倒せる「喜び」、壊していく「楽しさ」、そして破壊する事しか出来ない自分の「悲しさ」が頭の中を駆け巡る。

「陽極」、光・希望・喜びなどのプラス面を司るもの、そして・・・・・・破滅の象徴。









「はっ・・・!」
真夜中、いくつか在る自室の一つ、屋根裏部屋の布団の上で柾利が飛び起きる。
全身汗だらけで、呼吸も荒い。
「また、あの夢か・・・・」
呼吸を落ち着け、布団で顔の汗を拭う。
「ここしばらく見てなかったのに、また・・・・」
布団を握り締め、苦渋に顔を歪める。
それは2代前の陽極神・・・・祖母、天之美代香(みよか)の記憶。
全ての生命を蔑ろにして栄えた帝国を、圧倒的な力で滅ぼした時の夢。
柾利が・・・「陽極神」となった者が受け継ぐ戒めの夢、力に溺れない為に見る過去の罪悪。
「・・・・・・」
自分の目から流れ出る液体を手で拭う、頬を濡らすそれは涙ではなく・・・・
「赤い・・・」
おびただしい量の血だった。

戻る