『4月バカ 紫暮の場合』


バリスタスの拠点。
そこで与えられた一室で、一文字紫暮は一人思索に耽っていた。

思い出すのは、これまでの日々。

タロンに目を付けられ、真田家に引き取られたこと。
別れた弟妹の為の努力。
再会した弟とのすれ違い。
ハウンドの長としての日々。
戦い続けた先の絶望。

そして

「奪われて……しまったな」

ほうっ、と溜息をつく。
今でも鮮明に思い出せる。戦いの終わり、自分の前に屹立していた、あの雄々しい姿を。

『刀将・村正宗の名において、一文字紫暮(及び、その仲間たち全て)を、タロンより強奪する!!』

鞘に収めた刀の小尻を地面に突き立て、背を伸ばし胸を張り、怒涛のごとき大音声でそう宣言した、その言葉を。
(一部聞き漏らしたが)

無力に嘆き、弱さに涙した。守れず失わせるだけの、救われてはいけないはずの自分。その全てを包み込んでくれた。
もう大丈夫。なんの心配もない。この男が守ってくれる。
惚けてしまうほどの圧倒的な信頼感。

「む…いかん。思い出したら…」

下腹部から湿った音が。
一人赤面する。

(し、仕方ないだろう! その、か、格好良かったんだから)
誰も聞いていないのに心の中で弁明する。
ごまかすように手近な急須(なぜか久助と書いてある)から湯呑(なぜか由乃実…)に茶を注ぎ
ふと、机の上に手紙があることを発見する。

(なんだ?いつの間にこんな)

封筒には“一文字紫暮様へ”と書いてある。
突然現れた手紙に訝しみながら、自分宛の手紙を開き、読み始める。

一通り読み終えると、その内容を判読する。
しばし熟考

「なるほど、つまり私と村正宗の子がいるのか」

結論を口に出し、納得したのか湯呑に口をつけ、茶を一口啜り
擬音にすれば“パァンッ!”という感じに湯呑が爆ぜた。

久助(ゆ、由乃実ーーーー!!!!)

急須から声がしたようだが、それに気づくことなく咽る紫暮。
ひとしきり咳をした後、息を大きく吸い込み

「な、なななな、ナニィィィィィィィィィ!!!!!!わ、私と村正宗の、こ、子供ーーー!?!?」

絶叫
耳まで真っ赤、どころか頭から湯気を立てながらバタバタと暴れる。

「た、確かに好きだって言ったけど…そういうのは、こう、……してから、って違っ…わないけど!けど!」

あーだこーだと騒ぎつつ、右往左往する。
その後、騒ぎを聞きつけて駆けつけた村正宗に

「認知しろーーー!!」

と叫んで飛びかかり。
なんとか宥め(撫で)られ、落ち着いて事情を話し。
 
手紙の隅にあったApril Foolの字を見て……卒倒した。


「身に覚えがない」
「顔に…」
「!?」


戻る