十二天星AFTER・下

最初に映ったのは破壊された町の様子。
かつては多くの人々が暮らす平和な町だったであろうそこは、まるで絨毯爆撃でもされたかのように多くの瓦礫が点在するだけ。

次に映ったのは5人の人影。
そのどれもが満身創痍で、自分達の眼前に立つ敵…上位次元の尖兵、ロードの大軍を見据えている。

「グゥゥ・・・コイツは、不味いな。」

肩を大きく上下させ、牙をむき出しにしたレオンが唸る。

「パンテラス・マギストラ率いるルベオーとキュアネウス。コルウス・ルスクス、イントンスス、カルウス。ステリオ・デクステラとシニストラ、更にはフォルミカ・レギアにエクエス2体、ぺデスが三個中隊規模ときた・・・笑っていいか?」
「笑いたきゃ笑ってなさい。まぁ住民の避難が済んだ後と言うのが唯一の救いか」

苦々しく敵の規模を予想し苦笑していいか訪ねるディムと、住民に被害がでないことに安堵するアーツ。
ちなみにディムの挙げた名はロードの真名。パンテラスはジャガーロード、コルウスはクロウロード、ステリオはリザードロード、フォルミカはアントロードを指す。

「暢気に話している暇は無さそうだ。アヤノ」
「了解。エキサ・ツォハル(霊輝石)発動!武曲「守人」!」

龍の言葉に応じると同時に、ヴン!という空気の振動と共に彩乃の首に透き通った白い宝珠の付いた首輪が現れ、足下に乙女座の記号が浮ぶ。

“♪私は願う 人々の幸いを 闇に瞬く星々のように 小さく そして美しい 命の煌きを”

歌声が響く。それは穏やかで、優しい祈り・・・

“我らは持つ 白き剣(つるぎ)を 血に染まりて尚鈍らぬ 鋭く そして強き 牙と爪を”

そして激しい、切なる叫び。

「オオオオオッ!」

最初に動いたのはレオンだった。額に朱色の宝珠ファイア・ツォハル(火輝石)が現れ、傷口が物凄い早さで塞がる。
そして右手に「獅子の大鎌」を出しロードの大軍へと突撃した。

“私は誓う 誰かが囁く絶望に この身を苛む光と闇に 抗うと 決して負けぬと”

「ふおおおおっ!!」

レオンが突撃すると同時にディムの眉間に琥珀色の宝珠グランド・ツォハル(土輝石)が出現、傷の修復と同時に角が光に包まれ倍の大きさに巨大化。眼前に浮かんだ牡牛座の記号を突き破り駆ける。

「タウ・ラーーッシュ!」

巨大な光角を突き出し突進。前方に固まっていたフォルミカ・ペデスを粉砕しながら駆け抜け、その軌跡で連鎖的な爆発が起こった。
その間も彩乃の歌は続く。

“たとえこの身が 滅びようとも 我等の想いは尽くことはない”

「ウインド・ツォハル(風輝石)発動!貫け、インドラの矢!」
「ウォーター・ツォハル(水輝石)発動!唸れ激流、四・頭・龍(スー・トゥ・ロン)!」

アーツの弓に射手座の記号が、龍の4つの砲口に水瓶座の記号が渦を巻いて吸い込まれ、輝く矢と4頭の水龍が放たれた。
矢はフォルミカ・ぺデス数体とステリオ・デクステラを貫き、水龍は4頭が互いに絡み合うようにロード達を粉砕していく。

“たとえこの身が 滅びようとも 我等は立ち向かう 背後の多くの無辜なる人々の 幸いの為に♪”

「ギシァァァァァ!!」

歌い終えようとした彩乃に猛攻を避けて近づいた赤いアントロード、フォルミカ・エクエスが奇襲する。

「っ!」

それを察知した彩乃は髪を2本の大鎌に変えて迎え撃つ。しかし純粋な力量では他の4人に劣る彩乃では防戦に徹するのが精一杯で、次第に押されていく。
大鎌にヒビが入り片方が砕けた刹那

「レオ・パーーンチ!」

助けに入ったレオンの必殺拳がエクエスを吹っ飛ばす。

「ありがとう、レオン」
「おうよ。…そろそろ行くか?」

レオンの問いに頷き、残ったロードの方を向き身構える彩乃。同時に背後に真空の逆十字が現れる。

「アーツ、龍、ディム、即行退避!いくぞ、レオ・トルネーーーード!!」

逆十字の中心をレオ・パンチが撃ち抜く。
エネルギーを纏った竜巻が彩乃を飲み込み、退避した3人の跡を竜巻が進み、周りに居たロードを跳ね除ける。
竜巻が過ぎ去った後、彩乃は敵地の真ん中に立っていた。首の宝珠が煌き、光の帯が収束していく。

ドスッ

鈍い音がして彩乃の胸にフォルミカ・レギアの槍が突き刺さった。そこは丁度肺のある所。彩乃の「歌」が危険と判断したレギアが投げたものだ。
肺を貫かれれば声は出ない。危険は排除したとばかりに残りのロードが彩乃を八つ裂きにしようと迫る。

『葬曲「冥王」』

静かに「声」が響いた。それを発したのは声が出ないはずの彩乃。そして彼女に近づいたロード達に異変が起こった。体が崩壊していく。神聖霊子によって構成された体が、まるで砂で出来ているかのように散っていく。そしてそれは彩乃に近づけば近づくほど加速する。


ふと声が聞こえた。聞き覚えのある声。それが告げる。

<これがツォハルの力だ。火水風土の四大とそれらを統合する霊力……失われし「王」の力の片鱗だ。君の欲する力は何か?>

その問いに答える。

<全てを斬る剣(つるぎ)、そしてこの目に留まる全ての人々を守り抜く力>




そこで目が覚めた。視界に入るのは3年前に来た時と同じ、ベッドと机しかない狭い部屋。唯一つ違う点はコオネが隣で寝ていること。

(そういえば一緒に寝てたな・・・潰さなくて良かった)

自分の寝相を思い浮かべ安堵しつつ、傍らに眠る少女の髪に触れる。ストレートに下ろされた黒髪のサラサラした感触が心地良い。

「ん・・・あ、むらまさむね?」
「おはよう、コオネ」

触れたことで起きたのか眠気眼のコオネ。その頭をポンポンと軽く叩いて部屋の隅に掛けてあるブレザーに手を触れ・・・瞬時に着替え終える。村正宗の着衣は一種の式神であり、放っておいても少々の損傷は自動的に修復し、今のように瞬時に着替えることも出来る。

「先に行ってる。着替えたらおいで」
「うん、わかった」

まだ眠たげなコオネを残し部屋を後にする。

(さて、朝食が済んだら昨夜の夢をオピウスさんに聞くとしよう)

3年前の気分を思い出すように胸ポケットから眼鏡を取り出し、顔にかけて食堂へと向かう。



その頃オピウスは応接室奥の円卓に座り、バレーボール大の球体に話しかけていた。

『・・・で、今回もまた同様の手段できました』
「ふん、相も変わらず力押しか」
『ええ。ただ最近は銀河連邦の戦艦の姿もちらほらと見えていますが』

球体から流れる凛とした女性の声。それも明らかに軍事関係の者である事がわかる要点を抑えた話し方と内容。
対するオピウスもまた、カタコトではない「本来」の話し方で応対している。

「そうですか・・・報告ご苦労。引き続き頼みます「ガーディアンハーツ(魂を護る者達)」隊長殿」
『了解しました、「マネージャー(管理者)」殿。では』

会話が終了すると同時に球体が消える。
同時にオピウスの肩から力が抜け、背もたれに寄り掛かって仰け反る。

「まだ続けるのか・・・ガーライル神」

天井に顔を向け辟易したように呟き、その事を振り払うように頭を振ると、白衣から本を取り出し、己を「変化」させた。


しばらくして、食事を終えた村正宗が応接室にやってきた。なぜ応接室なのかと言えば、そこがオピウスの定位置だとコオネが言ったからである。
ドアを開け部屋に入る。と

「我に何か用か?」

そこにオピウスの姿はなく、白と蒼を基調色とした胸元の広く開いたドレスを着た女性がソファーに座り、読んでいた本から顔を上げた。しかもその容貌はどう見ても・・・

「アルク、髪伸ばしたんですか?」

アルクェイドだった。ただその金色の髪は腰元の少し下まである。
そんな村正宗の問いにアルク?は、その長い髪を手で軽く翻して答えた。

「否、我はアルクェイドではない。「剣」となりし者よ、この「器」より我の事、聞いておらぬか?」

どうやらアルクではないらしい。それにこの気品と圧倒的な霊子波動ははアルクを遥かに上回る。
その波動が村正宗の脳裏に回答を浮かばせる。

「(まさか・・・)最初の真祖、ブリュンスタッド王?」
「然り、眷属は「朱い月」とも「真月」とも呼び、この「器」はヴァーミリアと呼ぶ。真名は永き時の果てに忘れた故、ヴァーミリア・ブリュンスタッドと名乗ろう」

「呼び辛ければ好きに呼べ」と付け加え、視線でソファーに座るよう促す。村正宗は何となく状況に慣れてきたのか向かい側に座る。

「それで何が聞きたい?我も「器」の記憶を共有している故、問いに答える事は出来るぞ」
「では幾つか聞きます・・・まずは(何故貴女が出て・・・)」
「我が出てきた理由なら主人格が「睡眠」に入ったからだ。前回も本来の力を使った後は我が変わりに出た・・・もっとも身体も疲弊していたから動けなかったが」

心を読みでもしたのか、村正宗が聞こうとした事を先に答えられてしまった。あるいはパターンでも掴んだのか、何にせよ質問を続ける。

「昨夜の夢、あれは実際にあった事ですか?(それにツォハルの発・・・)」
「事実だ。ちなみにツォハルの力はロードクラスの強敵相手にしか発動できない。基本的に広範囲攻撃が主だからな」

またしても先読みされた。オピウスとは違い、まだ聞いていない質問まで答えられる。手っ取り早くていいが、ペースが乱れてしまう。

「・・・彩乃姉さんの能力は「霊子振動の「歌」だ。味方の能力を向上させる「守人」と範囲内の物質を原子分解する「冥王」の二種がある」・・・言わせてくださいよ」

今度は質問を遮って答えた。意外に子供っぽいのかと思ったが、最後に言った抗議の言葉に不思議そうな顔をした。

「質問には答えているではないか」
「いや、心を読まんでください。ペースが崩れるんで」
「ふむ。分かった気をつけよう。それで、次は何が聞きたい?」
「では・・・」

そうして幾つかの問答を繰り返し、昨夜の夢についての質問は尽きた。
そこでふと問答中テーブルに置かれていた本が目に入った。村正宗が部屋に来るまで朱い月が読んでいたものだ。深緑の表紙に金色の文字で書かれたタイトルが書かれただけのシンプルな物だが、それからは何か「力」を感じた。

「その本・・・魔導書ですか?」
「これか?ふふ・・・ああ魔導書だ。正確には改訂写本だがな」

本を手に取り表紙を撫でる。本を見つめる朱い月の目には懐かしさと僅かな軽い憎しみのようなものが浮かんでいた。そして次の言葉でその感情の意味が分かった。

「この本の名はヒエロゾイコン。原本は嘗て我を滅ぼしかけた男、黄金の瞳(ゴールデンアイズ)が所有している」
「黄金の瞳・・・!」

くくく、と皮肉交じりに笑う朱い月。そして村正宗はその所有者の名に驚いた。知っていたから。まだバリスタスに入る前、日本最大の怨憎霊域、イラズの森の霊達から聞いたルシファー再臨の噂。それを成したのが黄金の瞳と呼ばれる魔術師であると。

「何だ、知っておるのか?」
「多少は・・・詳しくは知りませんが、強大な魔術師であったと」
「正確には魔導師だ。この我を一夜で真滅寸前にまで追い詰めた、まったく・・・恐ろしい男よ」

その時の恐怖を思い出し、身震いを一つして話し出した。

「黄金の瞳」その名とは裏腹に黒髪黒瞳の東洋人の容姿をもつ魔導師。その実力はあのクロウリードに匹敵するかそれ以上。人の身にして旧神クラスの力を有すると言われ、ルシファーも一目置いていたという。
彼の所有する魔導書「ヒエロゾイコン」は47の妖魔を封じ、鬼械神ルシファーを召喚する。しかし名は知られているが、世界の表裏を問わず実在しないというのが定説であり、彼自身ほぼ完全に傍観者を決め込んでいる。

「よく生きてましたね・・・」
「見逃されたのだろう。この書にしても「器」が妖魔の記述のみを書き写した物、原本には到底及ばない。唯一勝っているとすれば召喚できる妖魔の数だけだ」
「多いんですか?」
「世界中から掻き集めた。少なくとも千は居よう・・・おお、そうだ、「器」よりお主に言伝があった。「敵襲があったら実力を見せてくれ」とな」
「は?あ、はい承りました」

突然話が変わり少し慌てたが気を取り直し頷く。そんな村正宗を見て微笑を浮かべ、本を取り開く。

「もう質問はあるまい、向こうからお主の可愛い妹が来ておるぞ、早く行ってやれ」

そう言って本に視線を向け読み始める。たしかにもう聞くことが無いのでソファーから腰を上げドアを開くと

「ムラマサムネー!」

朱い月の言っていた通り、廊下の向こうからコオネが駆けて来た。

「どうした、コオネ?」
「うん、上でカンナが呼んでるから一緒に行こ」
「ああ、わかっ・・・た」

コオネが村正宗の手を取った瞬間景色が変わった。どうやらテレポートしたらしい。

(・・・オピウスさんの影響か?)

いきなり転移したコオネの行動に、そんな事を考えずにはいられない村正宗だった。



昼。村正宗は神奈との手合わせ(それが用だった)を終え、昼食後の一時を陽白の広場でのんびりと過ごしていた所をいきなり呼び出された。急な用らしく、迎えに来たエアルがグイグイと背中を押す。

「どうした、敵襲か?」
「そうなのです、それでその・・・村正宗さんに向かって欲しいと」

理由を聞いた途端申し訳なさそうに告げるエアル。随分無茶なことを言うが、事前にそれらしい事を告げられていた村正宗は既に戦闘準備を終えていた。

「了解した。どこへ向かえばいい?」
「現場には僕が送るのです。後の事は着いてから」

言うなり魔法陣を発動させ転移。到着した場所は3年前、十二天星とツールが激突した場所のようだった。

「それで、何か作戦が?」
「いえ、特には無いそうです。ただ、全て貴方の判断に任せる。との事です」
「了解。好きにやって良いんだな?」
「そうです、じゃあ宜しくお願いします」

そう言ってまた魔法陣で転移し姿を消す。残された村正宗はこれから来るであろう敵軍を向かえ撃つべく地面に細工をする。


「来たか」

細工を終えた途端、未だ回復しない痛々しい荒地の向こうからソレはやってきた。

「あれは・・・そうか、ならば遠慮は無礼!」

視線の先、そこに居るのは死んだはずのツール幹部、グリフォン、チェシャキャット、マッドハッターの量産型と痛々しい灰硬人達、そしてAS三機と銀色の骸骨T‐800の群れ。

「改造強化状態限定封印、描画呪術「インドラの矢」!」

地面に描かれた稲妻のようにジグザグした三叉の矢尻を番えた弩、その全てに繋がる導火線部分に手を置き術を起動する。

ドドシュシュシュシュシュ・・・!

図面の弩からいっせいに矢が放たれ、何mか進むと地面から飛び上がりAS目掛けて殺到し・・・全て足下の骸骨に命中。と同時に村正宗と敵軍の間に上空から何かが降ってきた。

「! これはっ!空間が歪曲する!?」

ソレを中心にして地面が深い窪地に変わり、両者ともその中に落ちた。どうやら強力な空間歪曲装置だったらしい。更にその端々に印が現れ、交錯して陣を描き出す。

「更に時空魔方陣まで!どこかへ転移させられるのか?」

村正宗の予見通りその場から窪地が消え元の荒地に戻る。そして飛ばされた両者が現れた場所は

(なるほど、ここなら遠慮なく戦える)

どことも付かない一面の砂漠だった。それも何らかの手段で砂地が固まっており移動にも困らない。
キッと村正宗が前方の集団を見据え、腰から二本の小太刀を抜く。いつの間にかその瞳は赤色に変わり、口元から鋭い犬歯が覗く。夜族化。日光のため皮膚から煙が上がるが無視。

「耐久3分・・・刀葬(とうそう)開始。我が刃にて眠れ!」

夜族の脚力で最も近い位置に居たグリフォンに肉薄、振りかぶる高振動剣を前に不意に地面スレスレまで体を沈める。これによって相手からは村正宗が視界から消えたように映る。

――我流剣術、風之型 双牙連昇

逆手に持った小太刀を揃え、下から一気に斬り上げる。そのままその胸を蹴って離れ加速する。村正宗の過ぎ去った軌道上を「魔剣」と「槍」が通過。眼前に立ち塞がった者は容赦無く切り刻まれた。
小太刀を順手に持ち直し更に速度を上げる。眼前には自分が最初に戦った、哀れな傀儡に変えられた無辜の人々。

(今度こそ、安らかに)

最終加速。同時に火を着けた大量のマッチを上に放る。

――林之型 瞬爪襲

祈りを込めた剣閃が無音で灰硬人達を通り過ぎる。バラバラと崩れ落ちる灰硬質人、その上に巨大な火弾が降り注ぎ、その死体を焼き尽くす。「魔剣」と「槍」をかわしながら村正宗は何度もそれを繰り返し、全ての遺体に火弾を降らせ焼き尽くした。

「っ!」

次の攻撃に移るべくUターンした瞬間、眼前に刃の群れを感じた。「魔剣アンサラー」の前面一斉斬撃、避けきるのは今の村正宗では不可能。その凶刃が村正宗を捉えた。
空間の断裂の前に村正宗は切り刻まれた・・・はずだった。

「くっ、流石に無傷とはいかないか」

村正宗の足下に引かれた一本の線。此方と向こうを「隔てる」障壁結界によって空間の断裂から逃れる事に成功。しかし線の長さが足りなかったのか体の端々に切り傷が出来ている。駆け出し、それを放ったチェシャキャットと周りに居た幾体かを瞬爪襲で斬り捨て、その勢いのままASへ突進。機体の装甲を蹴って跳躍。

――火之型 双翼乱舞

機体の天辺から落下しながら乱斬、乱斬、乱斬。足下に着いた頃にはASは無数の金属片に変わっていた。
着地の隙を突いて銀色骸骨達がプラズマ砲を放つ。それを回避しながら骸骨達の背後に回りこみブレザーの開く。ブレザーの内側から無数の呪符が出現し、一斉に上方へと撃ち出され雨のように骸骨達に降りかかった。
破壊された骸骨達を他所に村正宗は敵から離れるように駆け出した。追撃するのは残ったキースシリーズ数体。と、不意に村正宗は立ち止まり、向かってくる者達に向き直って、両腕を胸の前で交差させる。

――山之型 裂甲陣

止まったままの姿勢で向かってくる者達全てを斬る。その軌跡は丁度交差する2つの放射線状をしていた。
残るは2機のASのみ。しかし村正宗は小太刀を納めた。

「時間切れ。あとは・・・」

それを好機ととったのか、ASがライフルの一斉掃射を浴びせる。舞い上がる土煙。
勝利を確信したのか一機がその中へ近づく。

「・・・上等だ」

不意に聞こえた呟き。同時に近づいたASが宙を舞った。
土煙が晴れ、村正宗が姿を現す。が、その姿は先程とは少し違っていた。
夜族化した時より鋭く伸びた爪、足下に届くほど長くなった髪、そして額に仄白い刃を思わせる角が生えていた。
掌を開け閉めして調子を見る。

(予想より抑え込めたか・・・流石だな)

満足気に笑みを浮かべ、そのまま両腕をだらりと下げ俯く。

「はぁぁぁ・・・」

ゆっくりと息を吐き出し、下から睨み上げるようにAS二機を視界に入れる。
照準・・・セット。両腕から湯気が立ち上る。

「あああああっ!!」

地を蹴り、跳躍。先程吹き飛ばしたAS目掛けて飛び掛る。
咄嗟にASもライフルを構えるが間に合わず、振り下ろされた村正宗の右腕に片腕を持っていかれる。
そしてその腕を持ったままもう一機に突進。脳天目掛けて振り被り・・・

グワシャ!

頭部を粉砕。持っていた腕を手放し着地、更に反転して頭部を失った機体に背後から一撃を浴びせる。と

ボジュウゥッ!

「!」

手が触れた部分が高熱に曝されたかのように融解・蒸発した。
驚いて自身の手を見てみるが特に変わった様子は無く、触れても熱くない所を見ると高熱が発生した訳では無いらしい。

(どうなってるんだ?)

不思議そうに眺めていると、片腕を失ったASが村正宗を踏み潰そうと足を振り下ろす。
それを片腕で受け止める。強化された腕力が難なくASの重量を支えきった。
と、今度は触れた部分から冷気が広がり、膝辺りまで達するとガラスのように砕け散った。

「???」

倒れるASを尻目に何が起こったのか理解できず混乱する村正宗。
ボロボロになったASは戦意を喪失したらしく攻撃してこない。

(一体何が起きたんだ?融解と凍結、全く逆の事象が発生し・・・)

唐突に2つの爆発が起こる。ASが自爆したのだ。
爆炎に包まれる村正宗。
暫くしてその噴煙が収まると・・・

「ケホッ」

中から煤で顔を真っ黒にした無傷の村正宗が、爆発に気付かなかったように自分の手を見つめて首を傾げていた。

何にせよ、戦闘終了。
まだ首を傾げて考えている村正宗の足下に魔法陣が展開、地天星へと転移した。



村正宗が戦闘を繰り広げていた頃、いつの間に元に戻ったのかWILL=オピウスが何者かと対峙していた。

「ふむ、君が今回の首謀者、で良いのかな?PPP(スリー・ピー)君」

眼前の人型機動兵器を思わせる純白の曲面構成の装甲と、肩部分に注射器を思わせる4本の突起を備えた人物?に問いかける。

「如何にも。全ては我が肉体の完成のため。ナノマシンテクノロジーによる完璧な肉体は人の新たな進化!そのための礎としてキースシリーズを造・・・」
「御託は良いんだ。それで?何故私と戦おうと思ったのだねPPP君」

長くなりそうな口上をバッサリ切捨て、現状について説明を求めるオピウス。
自分は長々と説明するくせに他人にそれを許さないオピウス。口上を邪魔されたPPPと呼ばれた男が、赤く鋭い目を僅かに細める。

「完璧に近づいたこのプラスの力が、神に最も近き存在たるエルロード相手にどこまで通ずるのか・・・是非とも試してみたい」
「なるほど」

戦闘態勢に入るPPPを見て白衣を翻すオピウス。肩に装着されたパットから金属の蛇が顔を出し、威嚇する。

「貴様如き、本来の力を使うまでもない・・・来い、相手をしてやろう」
「そのままの姿でか・・・・・・嘗めるな!ゴッド・アンド・デビルゥ!!」

肩に着いていた突起を腕に装着し、巨大な鉗子状に変形させ突撃。巨大なアームは見事オピウスの体を捕らえ、めり込んだ先端から化学物質が噴射される。

「勝者は神となり、敗者は悪魔となる・・・それが物質世界の掟」
「・・・くっくっく、はははははは!!!!」
「ぬうっ!?」

突然笑い出したオピウス。巨大なアームが胸に突き刺さり、体内に化学物質を流し込まれたというのに、実に愉快そうに笑った。いや嘲った。

「何が可笑しい!」
「くくく・・・私は医師、薬物に精通する者、WILL=オピウス!ウィルスの書き換えは完了した!享けよ、究極の害毒物質を!」

肩の蛇が鎌首を伸ばし純白の装甲に喰らいつく。そして

「っ・・・!!がああああ!!!!こ、これは・・・カンケ・・・」
『ホロビヨ・・・』

純白の体が瞬時にドス黒く変色し、溶けるように崩れていく。
オピウスの体からアームが抜け落ちる。自由になった体で液状になった男の残骸に手を入れ、何かを取り出す。

「・・・やはりクローン体だったか」

取り出されたのはマイクロチップ。これによってクローン体を操作していたらしい。
チップを握り潰すと、何事も無かったかのように地天星へと戻っていった。



帰還した村正宗は今回の事の説明を受けるべく、応接室の前に来ていた。戦闘後の姿のままで・・・

「オピウスさん、先程の事なんで」

ばりばりぐしゃぐしゃばきばき・・・

「おお、おかえり村正宗君。おや?」ごくん

一瞬、両者とも動きを止めた。
村正宗は開いた扉の向こうの、オピウスが胸の大口で朱い月を飲み込んでいるという、中々シュールな光景を、オピウスは変貌した村正宗を見て

「・・・・・・」
「その姿、「鬼」か。角が一本で姿も似てないが、我王を思い出すな。」

固まる村正宗とは対照的に、懐かしそうに話すオピウス。口調は暢気だが床に広がる血が、その光景を異様なものにしている。

「え・・と、オピウスさん、今何を」
「うん?一時ヴァーミリアを切り離して留守番してもらってね。それをまた取り込んだだけ」
「いや、何も喰わなくても・・・」

床の血を見ながら言う村正宗に、「シュールだっただろう?」と笑って返すオピウス。
村正宗自身シュールレアリスト(超現実主義者)だが、いきなりこんな光景を見せられては流石に驚く。

「まあ良いじゃないか。それより君のその姿だが、これも計画に含まれているのかね?」
「いえ、関係ありません。これより計画の力のほうが強いですから」
「では何故その姿に?お陰でデータを取り損ねたのだが」
「何となく、です。もうこの姿になることは無いでしょうから・・・」

言い終わると同時に角や髪、爪など変化した部分が塵になって消えていく。
元の姿に戻った村正宗は、胸に手を置きフッと一息ついた。

「・・・試みに問う。先程の姿はなんぞや?」
「昔の古傷です。もっとも、バリスタスに入れたのは先程の姿があったからですが。」

オピウスの問いに笑みを浮かべながら答える村正宗。


その後、緊急招集で集結した十三星将と村正宗によって、『十二天星』と『バリスタス』の正式な同盟が結ばれた。

そして・・・

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