十二天星AFTER・上
足下の魔方陣が消えると、そこは懐かしい「街」だった。
一緒に居たはずの彩乃と荷物が現れていない。どうやら一人だけ別の場所に出てしまったらしい。
「しかし・・・」
自分の居場所を確認し呟く。
「なぜ屋根の上?」
村正宗の出た場所は「地天星」の入り口、後方に作物地帯が広がるプレハブ小屋の上。
さして高くない場所だが、ここからは「蒼月」「陽白」の両方が見渡せる。泉に隔てられた2つの「町」は、その名の通り「蒼」と「白」を基調とした色彩にそれぞれ彩られていた。
「あ、村正宗さん!おひさしぶりなのです!」
両町を眺めていた村正宗の下方から元気な声が響いた。
「エアルくん、か。久しぶり。」
「エアルでいいのです。ところで何で村正宗さんはそんな所に居るのですか?」
「よく分からない、基地から転移したら何故かここに出た。」
「不思議ですねぇ〜〜」
小屋の下に居たのは、この炎天下の中白いローブを着た、女の子みたいな顔の男の子、エアル=ラム。
非番なのか実にヒマそう。ノンビリした口調と着ている服が相まってその姿はまるで雲のよう。
「ところで・・・」
「はい、なんですか?」
「あそこに見える粉塵は何だ?」
気になる場所を指差し尋ねる。耳を澄ませば誰かが戦っているような打撃音と叫び声が聞こえる。
「ああ、神奈さんがレオンさんとアーツさんに稽古を付けてもらっているのです。」
「ということは神奈はあそこか・・・」
足をその方向に向ける。
「はい、そうなので・・・あれ?」
返事をしようとエアルが振り向くと、村正宗の姿は屋根の上から消えていた。
「はああああ!!」
「ガアアアッ!」
ドガガガガガガガガガ!!!!!
町外れの空き地で2つの影がぶつかり合っている。一方は規則的な文様の描かれた着物を着て、体に半透明の竜を巻き付かせた少女。もう一方はヨレヨレの作業ズボンとシャツを着た、金色のタテガミを持つ獅子頭の獣人。
「隙あり!」
少女が少し体制を崩した所に、もう一人草臥れたGパンにワイシャツを着た、左半身が樹木のような体表の青年が脇から一撃を入れんと
振り被る。
「なんの!」
ズドドドド!!
崩れた体制のまま片腕で青年の体側に連撃を浴びせる。
「っ!・・・いい拳だ。中々やるようになったね。」
地面を蹴って後退した青年が体勢を整えながら評する。同時に踏み込みかけていた獣人の方も動きを止め、片脚を後ろに引く。
「アーツがそう言うなら間違いねぇ。だが・・・こいつはどうだ!!」
一蹴。その軌跡から真空刃が飛び出す。しかし少女は口元に僅かに笑みを浮かべると
「ソニックブレード!」
自らも同じ真空刃を繰り出し迎撃。それも相手の攻撃と交差するように・・・
バシィ!
狙い通り攻撃が交差。二つの真空刃が十字に重なる。
「っソニック・・・トルネーーーード!!!!」
掛け声と共にその中心を蹴りぬく。貫かれた十字が脚を中心に変形し巨大な竜巻となって獣人の方に返される。
「どわっ・・・ははははははははは!!!!」
竜巻に飲まれ吹き飛ばされる獣人・第八星将レズィ=レオン。しかし何故か楽しげに笑っている。
その間も油断せず、目標を青年・第十二星将アーツ=ボーテックに変えて構える。と
「!」
不意に振り返り、その顔に満面の笑みを浮かべる。自分に向かって駆けてくる見覚えのある少年の姿を見つけたからだ。
「神奈ぁぁぁ!!!」
「村正宗ぇぇぇ!!!」
お互いに名を呼びながら駆け寄る。そしてあと数メートルと近づいたところで
「せりゃあああああ!!」
「てえぇぇぇい!!」
互いの眉間に向けて一撃を見舞う。影が重なり2人とも動かなくなる。
「・・・久しぶり、神奈」
「ひさしぶりだね村正宗」
互いに寸止めした状態で再会の言葉を交わす。
「やるようになったな」
「お互いに・・・ね」
自分の眼前で止められた小太刀と拳を見やり評価しあう。そして手を下ろして再度顔を合わせ
「元気だったか?」
「もちろんだよ、お兄ちゃん!」
「うおっ」
小太刀を収めた村正宗に思い切り抱きつく神奈。いきなりの衝撃に、耐え切れず倒れこむ。
「・・・まったく。お兄ちゃんはやめろと言っただろ、どっちが年上か分からんのに」
「別にいいじゃないの。それより・・・」
顔を上げた神奈が期待するような目で村正宗を見上げる。すぐにその意味を解し、上体を起こして神奈の体を離す。
「ほら」
なでなでなで。
「ふにゃ〜〜・・・」
仕方ないという(でも少し嬉しそうな)顔をして、神奈の頭を優しく撫でる。撫でられてる神奈は気持ちよさそうに目を細めている。
何だか完全に二人だけの世界ができていた。
そこに
「オラァ!!」
竜巻から開放されたレオンが「獅子の大鎌」を振り上げて迫ってきた。
シュッ
「!」
「っと!」
目の前に突き付けられた物に、近くまで迫っていたレオンと不意をついて攻撃しようとしていたアーツが同時に動きを止める。
「邪魔しないでくれます?」
いつの間に、そして一体どこから出したのか、両手に持った鉄板のような幅広の大剣をレオンとアーツに突き付け、交互に睨みつける。
射るような視線に2人が下がるのを確認すると、即座に大剣を回転させ逆手に持ち直し、そのまま元の場所―“ブレザーの内側”―にしまい、再び神奈の頭を撫でだした。
「・・・アーツ、今の見えたか?」
「いや、一瞬軌跡が見えただけで・・・目の前にくるまで何かは分からなかった。」
驚き顔を見合わせる2人。驚かせた本人はまだ神奈の頭を撫でている。
そうして撫で続けること数分。
ようやく満足したのか最後にポンポンと軽く頭を叩き、半ば呆れたような顔をした2人に向き直る。
「お久し振りですレオンさん、アーツさん。」
「お、おお・・・久し振り。」
「お久し振り村正宗くん。しかしまた随分と・・・」
言葉を切り、しげしげと村正宗を見つめる。
「凄まじくナったようだね、村正宗くン」
「あ、WILLさん・・・って、いつからそこに?」
「今さっきダ。君ノ気配を真似て走ってきたから気付かなかったダロウ」
「ぬ・・・」
いつの間にか現れたWILL=オピウスがニヤリと笑ってからかう。
何もしなければ背景に同化して気配を断てる(ようは影が薄い)という、本人にしてみれば不本意極まりない特技を真似されて、少し眉根を寄せる。
「まぁそレは置いといて・・・実現したヨウだね、自身が最強の刀となる『ムラマサムネ計画』が。」
「肝心の主武装と最終段階はまだですが、身体の方はほぼ完成しました。そちらの方も・・・」
カッ!ズドドドォォォォ・・・ン!!!
「雷のカンナカムイ、完成してるよ。あとはさっきの「銃闘技(ガンシュートアーツ)」と「逆十字闘技(ハングクロスアーミー)」を極めるだけ。」
数本の落雷と同時に神奈が話に加わってくる。
足下には雷が直撃して真っ黒の焦げた小石が数個。その周りの地面は多少焦げてはいたが殆ど何の影響も無い。
「ん、たしかに。しかし何で格闘技を?衣装も動き易いような形になってるし」
村正宗の言う通り神奈の服装は最初にデザインした着物型と違い上下に分かれていた。
文様はそのままだが、上は袖がタスキで縛ったように纏まり、下は膝丈のハーフパンツになっている。たしかに格闘に適した動き易い形状。
「あ〜・・・遠距離から狙い撃つのって私の性に合わなくて、だから格闘戦も出来るようにしようと、ね。勿論さっき見せた通り雷の使い方も練習して完璧にしてあるから大丈夫。それに・・・」
「それに?」
「ううん、なんでもない!(村正宗の力になりたいから・・・)」
それきり黙ってしまう。その胸中を知るレオンとアーツが頷きながら2人に熱い視線を送っている。
村正宗も怪訝な顔をしつつもそれ以上追求せず、話の相手をWILLに戻す。
「ところで、例の義肢を送る際、俺だけ別の場所に出てしまったんですが、どういう事でしょ・・・」
「あ、それやったのわた・・僕だよ。」
「何でそんなことを?」
「やってみただけですよぉ」
自分が別の場所に出たという疑問に、ふざけた回答をするWILL。呆れた村正宗をよそに、辺りの景色が瞬時に変わった。先ほどまでの開けた空き地から見慣れた応接室へ。
相変わらずWILLという男はいきなり転移を慣行するらしい。
「ここで待っていたまえ、今コオネを連れて来る。久々に撫でタいと思っていたダろう。」
「はぁ・・・まぁ、はい。」
出て行くWILLに曖昧な返事をしてソファーに座る。
基地に居る時や戦闘中なら平静を保てるのに、この街に来て誰か(主に彩乃やWILL)にからかわれるとどうも調子が狂ってしまう。
そんな事を考え溜息をつく。しかしその表情は何故か嬉しそうだった。
「村正宗・・・でよかったかしら?」
ボーっとしていた村正宗に誰かが話しかけてきた。聞き慣れない・・・いや聞き覚えはあるが思い出せない声。
目だけ動かして声の主を確認する。軽くシャギーの掛かった金色の髪、射抜くような鋭い目つき、豊満な体にぴったりと合うスーツを着こなした白人女性。そしてその顔は村正宗もよく覚えている、あの男に似ている。
「顔を合わせたのはこれが初めてだったわね、バリスタス最強の改造人間「刀将」村正宗。」
「“近接戦”最強だ・・・キース=バイオレット。それにまだ完成していない。」
素っ気無い調子で答える。
キース=バイオレット・・・かつてマーチヘアとして十二天星と戦い、生き残った「ツール」の幹部。
「驚かないのね。」
「ツールが崩壊したのは聞いているし、どういう経緯があったにしろこの場所に居るのなら敵では無いだろう。」
そう答えると、バイオレットは口の端で微かに笑い、向かいのソファーに腰掛けた。優雅な動きはまるで秘書官のようだが、どれほど妖艶であろうと年下好きの村正宗には効果が無い。バイオレットも気にせず「話を聞いてもらえるかしら?」と訊ねてくる。
村正宗が頷くと、一呼吸置き話し始めた。
それは村正宗が帰国してからの話だった。
大幹部ホワイトを失ったツールは、技術者パルパレーパの造反で上位組織「タロン」に吸収され、協力関係にあったガイラスカルテルも敵対者「青玉姫」にその本部を知られ(後に十二天星が協力したのだと判明)壊滅した。
その後新たな降神用サイボーグが作られ、不要と判断され目的を失った自分とグリーンは捨て駒として十二天星と交戦し、そして・・・
「戦闘中、グリーンは彩乃を庇って死に、私はカンナに・・・あの恐るべき竜闘士に敗れた。」
「神奈に?」
「ええ・・・」
そう言うと村正宗の手を取り、目を閉じた。
一瞬の眩暈。
それが過ぎると、村正宗は自分が二つの感覚を同時に感じていることに気付いた。
一方はバイオレット。心を支配するのは自分に対する憎悪と悲しみ、そして諦め。
擬似空間に溶け込んで相手の動きを見ている。
「なぜあなたが戦うの?あなたの組織はもう無い、グリーンのように自由に生きることが出来る筈なのに!」
そしてもう一方は神奈。純粋にバイオレットを心配する気持ちと、仲間のために戦わなくてはならない意思が心の中でせめぎ合う。
擬似空間の中で見えないバイオレットに向かって叫ぶ。
「私はグリーンのようにはなれない。私には役割以外何も無いのだから・・・」
「きゃっ・・あうっ!」
全方位から放たれるレーザーが神奈を射る。必死に回避しながら神奈も雷撃で応戦する。
しかし
「きゃあああ!!!」
全面鏡張りのような擬似空間で雷撃を使えば当然のように跳ね返ってくる。着用している対呪力装甲のお陰で雷撃自体は大したダメージにならないが、ショックで動きの鈍っているところに容赦なくレーザーが降り注ぐ。
(私に躊躇うことは許されない。これが最後なのだから・・・私に挑んでくる全てをバロールの魔眼で撃ち倒す!)
追い討ちをかけるようにレーザーを集中させる。
ボロボロの体を引き摺りながらも神奈は雷撃を放ち続ける。それらが反射して自身に返ってきても構わず撃つ。
肩で息をしながらもその目は決して死なない。
(やっぱり強い。雷撃は跳ね返されるし、体も限界・・・でも何だろ?)
攻撃が掠める度に神奈の心に違和感が生じる。自分に殺意が、憎悪が向けられる度に心が震える。
段々正体が分かってくる。恐怖ではない。これは・・・
「・・・そうか、そうだったんだ」
動きを止めた神奈に無数のレーザーが殺到する。
だが神奈は少しも慌てず、何を思ったか両腕を広げた。無防備になった体に光りが突き刺さる。
(これで・・・終わっ・・)
「やっぱり、そうなんだ。それに・・・ふふっ、この感覚、久しぶりだな。」
射抜かれ絶命したと思った神奈が喋った。それもさっきまでとは違う愉快そうな声で。
実際神奈の心は楽しくて仕方ないと躍っている。
そう彼女は気付いたのだ。自分の本質、戦いによって荒ぶり躍る、自らの「心」に。
「あなたの攻撃・・・あなたの「思い」が、私の心を奮わせる。極限の緊張が、私の体を震わせる!」
心のままに叫び両腕を左右に広げる。大気に満ちる「力」が神奈を取り巻き、周囲に広がっていく。
「天翔ける竜よ、地の臥竜よ、その猛る心を解き放て!」
(また雷撃・・・いえ、これは!)
バイレットもその力の大きさを感じ戦慄する。そして対処する暇もなく、それは放たれた。
「荒神!!」
叫び。言霊は瞬時に実体を成した。天に、地に、数多の竜が駆巡り、偽りの世界を破壊していく。
ズタズタになった擬似空間の裂け目に銀色の人影が浮かぶ。逆立つ長い髪、嘴のような仮面、全身をナノマシンで覆った裸婦を思わせるシルエット・・・マーチヘアがその姿を現した。
その凄まじい威力に動揺するバイオレット。しかしそれ以上に彼女を動揺させたのは神奈の言動と態度だ。
あれほどダメージを受けたというのに平然として・・・いや寧ろ愉快そうに笑っている。自分がどれほど憎悪をぶつけても、全く動揺せずに向かって来る。
今まで経験したどの戦闘にもいなかったタイプに恐怖をも覚えかけた。
それでも
「結界を破壊しても無駄よ。私の姿は誰にも捉えられない、そして魔眼も潰れてはいない。」
言葉の通りバイオレットの姿が消える。体表のナノマシンが光の屈折率を変え周囲の色彩と同化しているのだ。そして自身をレンズにしてレーザーを作り出すことも出来る・・・負ける要素はない。
それなのに神奈は笑っている。まるで子供の他愛のない行動に苦笑する母親のように。
「無駄だよ。どんなに姿を隠しても、あなた自身の殺気がハッキリとその姿を示してる・・・雷刃!」
「!」
雷を纏った手刀がバイオレットの頬を掠める。あわてて距離を取るも追撃の雷が立て続けに落ちる。たしかに見えているようだ。
そして気合でも負けている。今やバイオレットは追い詰められた兎。
「それでも・・・それでも私は!」
「負けるわけにはいかない、でしょ。あなたがどんな生き方をしてきたかなんて私は知らない、でも私を傷付けてきた攻撃からその思いは
伝わってきた。憎悪、悲しみ、そして・・・」
言いかける神奈の頬を光が掠め、カウンターに雷刃が突き出される。指先は姿を現したマーチヘア・・・バイオレットの首筋に。
そのままの体勢で言葉を繋ぐ
「そして諦め。憎くて、悲しくて、でもどうにもならない。どうして良いのか分からないから・・・」
「そうだ、私は兵器として生まれ兵器として命令されるままに生きてきた。だから私にはもう何もない。唯一つ、ここで戦う事以外は!」
手刀を振り払い距離をとる。そして光を収束して・・・放つ前に倒れた。神奈の拳がバイオレットの胸部を撃ち貫いたのだ。
実際貫通したのは衝撃と放出された「気」だけだが、それでも彼女を戦闘不能にするには十分な一撃。
「じゃあ戦ってあげる、あなたの気の済むまで。その代わり、私は絶対に死なないよ。何度でも立ち上がって、あなたの思いを受け止めて
きって・・・そして勝つ!」
力強い言葉に己の負けを悟るバイオレット。でも何故か心は穏やかで、でも一つ疑問が浮かんだ。
「ねぇ、どうして貴女はそんなにも強くいられるの?」
この問いに神奈は少し考え、そして答えた。
「私には・・・つまらない意地が、安っぽいプライドがある。そしてそれに命を賭けている。ただそれだけ・・・別に強くない。」
「・・・・・」
唖然とするバイオレット。何故ならそれは男性心理特有の「つまらない意地に命賭けて、それを貫き通す」という強さだったからだ。
そのことについて数秒考え、ふっと口元に笑みを浮かべると
「私の・・・負けだ」
自らの敗北を認めた。
暗転。
気がつくとバイオレットに手を取られたままテーブルに突っ伏していた。体を起こし手を引くと、まだ余韻に浸っている頭を醒ますべく側頭部を軽く叩く。
「どうかしたの?手を取った途端気を失った様だけど。」
「それは・・・後ろに居る人に聞いたほうが分かり易いと思う。」
言われてバイオレットが振り返ると、先ほど「コオネを連れて来る」と言って出て行ったオピウスが、「自分の出番が来た!」という顔で立っていた。説明好きの血が騒いでいるのだろう。
そして一緒に来るはずのコオネは・・・
「ムラマサムネ!」
「おお。」
テレポートで村正宗の上に落ちてきて、そのままちょこんと膝の上に座った。顔の前を黒髪のツインテールがひょこひょこと揺れる。
「ひさしぶりー、ムラマサムネー。」
「久し振り・・・ん?」
振り返ったコオネに応え、その顔を見て違和感を覚える。
が、放って置けばオピウスが説明するだろうと思いそのまま待つ。
「さて、事情はさっき見てもらった通りだ。君は残留思念を直接吸収し、擬似的に体感することができるらしいね。」
「一応ここみたいに霊感が高まる場所でなら・・・2人同時に見たのは初めてですが。」
バイオレットの手の中にあった藍色の紐を見て答える。それは村正宗が神奈にあげた反応速度倍加の効果を持つ髪留めの紐。
「ふふん。なるほど、前に見せた「夢」の理屈が分かったようだな。」
「それで?見た部分だけでは彼女がここに居る理由が分からないんですが。」
ニヤリと笑うオピウスを一部無視してバイオレットの方を見る。一瞬視線が交差し、先に目を逸らしたバイオレットが苦笑する。
「そんなに睨まないで。」
「睨んでませんよ。それに目付きが悪いのはお互い様でしょう。」
真顔でボケる村正宗に周囲が一瞬固まり
「あははははは!」
「くっくっく・・・」
「・・・くっ・・・」
ボケと理解したコオネとオピウスが笑い出し、遅れてバイオレットも口元を押さえて笑いを堪える。
その笑顔を見て村正宗も満足げに口元を緩めた。
しばらく笑い声と堪える音が続き、大体収束したころオピウスが本題に戻った。
「話を戻そう。たしか彼女がここに居る理由だったな。」
頷く村正宗
「私の秘書兼遊撃要員として引き抜いた。放って置いても殺されるだけだからな。ついでに再改造して「魔剣アンサラー」も使えるようにしてある。」
「・・・・・ああ、そういうことだったんですか。」
「なんだ今の間は?(と言うかそれだけなのか?)」
「ちょっと考えただけです。それで・・・」
視線を下げ、自分の膝の上に座るコオネに向ける。
振り向いて見上げてくる笑顔のコオネ、その顔・・・を含めた肌全体の色が最初にあった時と違う。前に見た時は血色の失せた死人のような紫じみた肌だったが、今は少々白くはあるが生気に満ちた黄色系の肌になっている。
「(なるほど)コオネのことだね。」
「はい、前に会った時よりこう・・・生き生きしてるという感じが」
「正にその通りだ。その言葉の通り、コオネ=ペーネミュンデは「蘇生」したのだ。以前の『活ける人形』から、生きた『人間』へと!」
そう言って白衣の隠しから一冊の本を取り出し、テーブルの上に置く。年代物のようで所々痛んでいるが、表紙に書かれた字から察するに日本の物らしい。その表題は・・・
「鉄人第二計画?」
「旧日本軍の作った生体兵器の一号案だ。ロボット工学を用いた「鉄人」・・・一昔前に活躍した「鉄人28号」が有名だな。それの生物工学版で、偶然にも西洋のF式人造人間とほぼ同じ製造法が記されている。」
「・・・・・」
押し黙り本を眺める。恐らくオピウスが言わんとする意味が解ったのだろう、眉間に僅かに皺が寄っている。
『活ける屍』・「鉄人第二計画」=「F式人造人間」。その言葉から導き出される答え。
「この「鉄人第二計画」を元にしたナチス・ドイツの「ペーネミュンデ計画」、予め遺伝子操作で特殊能力が発現できるようにし、その体を別の肉体と挿げ替えることで強化する人造人間。コオネはその完成体“だった”。」
「だった?」
過去形であることに疑問を抱き口を挟むと、これまた待ってましたと言わんばかりに一呼吸置いて説明を再開した。
「うむ。「ペーネミュンデ計画」の際には確かに完成体―生きた人間と同じ―だったのだが、どういった訳か我らがその存在を突き止めた時には「死亡」していた。正確には超能力で組織を寄せ集めただけの「人形」になっていたのだ。」
「・・・それが・・・『活ける人形』の意味ですか。」
「一般生物学で言えば「死んで」いたからね。そこから先は君も知っての通りだ。「ツール」の手に堕ちかけた所を奪還し、私がここで手を加え「蘇生」させた。終了したのは君が帰国してからだったがね。」
そう結んで一息つくオピウス。いつものカタコトの調子を抑えて喋っていたため少し疲れたらしい。
説明の間思案顔だった村正宗も頬を弛めてコオネの頭を撫で始めた。コオネも嬉しそうに笑顔になる。
なでなでなで。
「ん〜・・・」
目を閉じ、されるがままになるコオネと、その顔を優しい目で見つめ頭を撫で続ける村正宗。その様子は少し年の離れた仲の良い兄妹のようだ。撫でるほうも、撫でられるほうも、とても幸せそうな顔をしている。
しばし部屋の中を穏やかな空気が包む。
「とこロで村正宗くん、ちょっと質問しテもいイかね?」
「なんですか?」
撫でながら問いに応じる。
「撫でてル所を見て思い出しタが、あれカラ身体の具合はドうなった?」
「身体?ああ、それなら・・・」
ふ、と目を閉じ体から力を抜く。(でも撫でるのは止めない)
そして再び瞼を開くと・・・
「ほう・・・」
血のような赤い瞳に変わっていた。口元も喋るたびに白い牙が覗く。
「ご覧の通り、あの時以来任意でこの状態になれるようになりました。」
「任意で?そレでは・・・」
言い終わる前に変化が始まった。牙が縮み、瞳の赤が濃さを増して黒に戻る。
「元に戻ルこトも出来る、と。ウむ、なるホど・・・」
「変化後は身体能力が上がるんで、改造前は重宝しましたよ。」
「ふ〜む・・・」
考え込むオピウス。その間にコオネを横に座らせようと村正宗が視線を下げると
「すー・・すー・・」
寝ていた。村正宗の胸に頭を預けるようにして、これ以上ないほどの安心しきった寝顔を浮かべて。
その様子に笑みを浮かべる。いつもの仏頂面が信じられないほど優しい、慈愛に満ちた顔。眠れる少女を起こさないよう、撫でる手も更に穏やかになる。
「コれはやはリ・・・その傷ガ要因なノかな?」
「恐らくは」
考えをまとめたのか、オピウスが村正宗の(今はコオネが頭を預けている)胸元を指差す。
そこには初めてこの『街』に来た時、彩乃の「歌」を持ってしても消えなかった古傷が、左の鎖骨下から右脇腹に至る大きな刀傷がある。
まるで何者かに正面から袈裟懸けに斬られたような・・・
「ふんふん・・・ソレについて詳しク聞きたい所だが、ソロそろ医師とシての仕事を始めネばならない。今日はこれにテ失礼する。暇だったらソこに置いてある本を読むとイイ、きっと役に立つはズだ。では」
片隅の本棚を指してオピウスが部屋から出て行った。それを追うようにバイオレットも出て行く。
残された村正宗は
(この状況でどう暇になれと?)
コオネを撫でるのに忙しかった。