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サイト「混天大聖の巣」、犬神長元坊殿作品の名台詞
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『あの時俺たちは自分の体に何が起きてるかなんて、本当に分かっちゃいなかったんだ。もし分かっていたら、あんなに能天気に笑いあってなんかいなかっただろうな。ただ、二人して笑いながら帰って、朝ごはんを食べてから学校に向かった。それが奇妙にはっきりと思い返される……。失って久しいのに変だな。もう二度と戻らないものだからこそ、余計そう思うのかもしれない』
発言者 正木脩一郎=仮面ライダー修羅
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

仮面ライダーシュラの第一話を要約するならば、この台詞をおいて他にあるまい、という台詞。ある日突如異形の怪物へと変化してしまい、それまでの日常を、家族を、総てを奪われた少年と少女の逃避行。
その冒頭における、かつての日常の回想の台詞だ。「もう二度と戻らないからこそ、余計そう思うのかもしれない」・・・まるで辛い先行きを暗示するような、第一話には珍しい台詞。

「お願い」
「脩一郎の顔を見ながら死にたい」
「……やめろ」
「お願い、ね……」
「やめろよ! 簡単に、死ぬなんて言うなよ!! だって俺、まだお前にちゃんと言ってないんだぞ! ずっとずっと一緒にいると思ってたから……! 永遠に今日が続くような気がしていたから……だからお前が」
 その脩一郎の口を塞ぐものがあった。
 柔らかい感触。……それが初めてのキスだった。

「駄目。その先を言わないで……。言われたら、余計つらくなるから。……お願い。もう、耐え切れない、の……」
「紫音……」
「脩一郎……」
 目と目が合う。……直後。
 かすかな衝撃が、紫音の体を小さく揺らした。

「……ありがとう」
「……さようなら、脩一郎……寧音を、お願い……」
 まだ紫音は生きている。
 完全にとどめを刺すにはどうすればいいのか、脩一郎は理解していた。
 しかし、まだ逡巡する。その逡巡する時間が長ければ長いだけ彼女が苦しむだけだと分かっているのだが、それでも迷った。

「……紫音」
「紫音、俺は……お前の顔を見ながら、お前を」
「……紫音を、殺す」

発言者 三島紫音 正木脩一郎=仮面ライダー修羅
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

主人公、正木脩一郎は高校生、隣家の三島家と家族ぐるみで付き合い、そして三島家の長女・紫音と淡い恋を育みながら、平和に暮らしていた。
しかし、ある日それは唐突に、根底から、完膚なきまでに崩壊する。実は修一郎たちは世界を裏から支配する組織の手により、体内に昆虫の遺伝子を転写した珪素生命体・クシー(ギリシャ語でX,未知数の意)を移植されていたのだ。
それが、発動した。結果修一郎はアオオサムシの外骨格を纏った異形の姿へと変化してしまう。しかし、それはまだましなほうだった。修一郎の妹せつなは覚醒に失敗し人と金属の昆虫が出鱈目に融合した怪物と化して発狂、家族を惨殺して死亡。
そして紫音も発狂こそしなかったがクシーと体が適応せず、羽や足が滅茶苦茶に生えた異形の姿へと徐々に変形していく。
もはや生は苦痛を長引かせるだけであり、命を絶つことこそが救いになってしまう。
あまりに突然の変転。
まだ好意も告げていない、しかし確かに恋をしていた二人の死という別れ。
せめて、と紫音は修一郎の手にかかることを望む。それはあるいは、「命をあげる」、という意味での、愛の告白だったのであろうか。
とにかく、ここから、旅が「始まってしまった」。

「脩一郎お兄ちゃん……わたしは……どこに座ったらいいの……?」
三島寧音=クシー・スクルド
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)
そして、脩一郎は自分と同じようにクシー発動に適応して生き残った紫音の妹、寧音(ねおん)と共に組織から逃れるため旅に出るのだが。
旅の足であるバイクには、サイドカーがついている。紫音を乗せるためにつけたサイドカー。そこによくふざけて寧音が乗り、実際には紫音は修一郎が座っている席の後ろに乗っていた。
つまり、両方とも「紫音のための席」であったのだ。奇しくも、姉と同じような顔で、姉と同じ人を、修一郎を愛してしまった寧音に、今この姉のいない状況、どちらに乗るにしてもそれは酷く苦い。
姉の代わりであるような、姉の死に便乗したような・・・苦い、苦い感覚。
この台詞はそれをあらわしている。この旅の苦難を、あらわすように。


「貴様……! この力、只者ではあるまい!? 何者だ!? 名を名乗るが良い!」
「俺か……? 俺は、脩……」
「……いや、修羅だ! お前らとどこまでも戦い、お前ら全てを血の海に沈めない限り戦いをやめない修羅だ!」
発言者 正木脩一郎=仮面ライダー修羅
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

そしてついに脩一郎が、「仮面ライダー修羅」と名乗るのがこのシーン。仮面ライダーの二つ名(V3とかXとかアマゾンとかクウガとかアギトとか龍騎とか)としては突出して激しく、強い意味を持ち、ゆえに凄くいい。
ここで絶妙に入るナレーション(ではないが、仮面ライダーという特撮をベースにし小説であるため、このシーンは特にそのように感じられる)がまた、いい。
あわせて、それを記す。

それは脩一郎なりの宣戦布告だった。
 『修羅』。阿修羅とも呼ばれる戦の神。元はゾロアスター教の主神『アフラ・マズダ』に源を発するとされ、ヒンドゥー教に取り入れられて鬼神アスラに変貌。のち、仏教に取り入れられてのちは正義の戦神の1人となり、その正義ゆえに帝釈天に恋人を暴力的に奪われたが故に戦い続ける神となった……という物語を与えられた。 国宝とされる阿修羅像は三面六臂、それぞれに異なる表情をたたえ、怒り、苦悩し、そして泣きながら永遠の戦いを繰り広げる様を表しているともいう。
 ……まさしく、今の自分にふさわしい名ではないか……!



そしてこれにつながる台詞として、以下の二つ。

「『仮面ライダー』さ」
「仮面ライダーが出たのさ! 文字通り仮面をかぶったライダー。すごいヒーローだぜ!修羅って名前のな!」

発言者 太田道治
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

戦いが終わり二人が旅立った後来た警察に、あたりの惨状を見咎められて「怪物でも暴れたのか」といわれての、修一郎の先輩の台詞。
無論先輩は修羅の正体を知っているのだが、そもそも修一郎の闘争を助けるため偽装をしたのが彼なのだからそれを言うわけが無く、で、この台詞なのだが。
仮面ライダー・・・昨今の名ばかりのそれと違う。仮面ライダーとしては異端的要素を多く含みながら、なお明らかに「仮面ライダー」であると、この台詞は言っているように感じた。


「修羅か。平坦な道ではあるまい」
発言者 柳生警部
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

そしてそれを聞いた刑事の台詞だが、対照的に実に渋い。シュラが修一郎であるということに既に薄々気づいているために出た台詞なのだが、確かに若人を案じる大人の風合いが出ていて良い。


「戦いの経験を更に積み、老境に入った者は……若人をいくらでも出し抜く強力な武器を得る。その武器を『老獪』という。楠子は若くまだまだその域に達してはいないが、脩一郎にしてみれば十分以上に厄介な敵となろうさ」
発言者 トライデント
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)


下の台詞に出てくる遠山楠子=クシー・テュンブルグが仮面ライダー修羅と戦闘状態になったとき、部下に勝算を問われての台詞。
トライデントは敵・組織の日本における色感的存在で、組織側の動きや司令の指揮に良く出てくる。しかしこうした、何気ないキャラクターの何気ない台詞でもなんとも決まって格好いい。
作り手としては相当神経を使うであろうに・・・しかしこういう台詞がある無しで作品の文章的質は相当変動する。それが出来るというのは書き手の腕のよさを証明するというものだ。


「さっきお前は言っていたな。わたしたちの気持ちなんて考えもしないような連中は享楽をむさぼっている……と。それが嫌だったんだよな? 自分たちの気持ちとか、分かりもしない連中が。だが、お前も同類だ」
「な……」
「寧音が、実験材料にされるかもしれないという。解剖されるかもともな。じゃあ、そういう目に遭わされる寧音の気持ちは? それが分からないのなら、結局お前も『嫌なニンゲン』の一人だ!」

正木脩一郎=仮面ライダー修羅 遠山楠子=クシー・テュルフング
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

そして旅に出た修一郎と寧音の前に、立ちはだかるは彼らと同じようにクシーの移植を受けた組織の尖兵(いずれも昆虫の姿と超絶的な特殊能力、北欧神話にちなんだ名を持つ)。
その最初の一人、遠山楠子=クシー・テュンブルグは「わたしたちの気持ちなんて考えもしないような『嫌なニンゲン』は享楽をむさぼっている、ならば私たちも好き勝手楽しんでも撥は当たるまい(大意)」と言う。
それに対しての修一郎の反論。
他の人が悪い子としているから、自分もしていいという道理は無い。
人がどうであれ、己の気高さを決めるのは己である、ということだ。その基準で行けば、修一郎は紛れも無く気高い、英雄、ヒーロー、そう呼ぶに足るほどに。


「『組織』に入る気はないのか」
「前も同じ事を訊かれました」
「……そうか。で、何て応えた?」
「その気はない、と。人に勝手に『クシー』などというものを植え付けて、紫音や……妹のせつなに死をもたらした連中……そして寧音を実験台にしようとする連中に従う気には到底なれませんから」
「そうか、分かる」
「よく、分かる。けれども俺はそれでも……『組織』は必要だと思っている」
「俺には弟がいてな。やんちゃ坊主だったよ」
「過去形ですか」
「元気な奴だったのに、いつもすぐに胸を押さえてうずくまっちまうんだ。度重なるもんで両親が心配して、病院に連れてった」
「心臓の病気だったんだ。信じられるか?つい昨日まで走り回ってた子供だぜ? それが、移植が必要なほど重い心臓病だなんてよ」
「で、手術を?」
「できるもんか、阿呆」
「日本の法律じゃあな、子供の心臓移植は禁じられてるんだよ。弟はまだ4歳だった……。渡米して移植を待つしかなかった。……けどな、結局ドナーが現れる前に死んじまった」
「『組織』の事を知った時は、はじめ恨んだぜ。『組織』は効率が高くて拒絶反応も少なく、しかも子供に移植しても負担のほとんどない人工心臓の開発にとっくに成功してたんだからな。何で俺の弟に移植してくれなかったんだって『組織』の連中に食って掛かりもしたよ。けどなあ脩一郎。死んでしまった者はそんな事をしたって帰らねえ」
「原子力の技術は核兵器に代表されるように混乱を生んでいる。その徹を踏まないようにするためだったのさ。そしていずれはそれらの技術がこの世の役に立つ時が来るんだ。俺の弟のように、移植を待つ子供たちが助かる世界が来るんだ」
「俺も詳しい事は聞かされていない。だが、『クシー』の技術は確実に多くの人を救うことになるという『組織』の言葉を俺は信じる。……それでも、『組織』に来る気にはならないか、脩一郎くん?」
「ならない」
「多くの人を救うためでも、犠牲になる命があっていいはずがない。協力を頼んできたりもせず、まるで人を実験動物のように扱う以上、信じる気にはまるでなれない」
「医学とはえてしてそうしたものだよ。手術用の麻酔にしろ、予防接種の種痘にしろ、過去の人の犠牲の上に成り立っているものだ。未来を生きる者はその犠牲を決して忘れないよう学び、生きる意味を考えていけばいいと思っている」


正木脩一郎=仮面ライダー修羅 山中鹿太郎=クシー・グラム
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

先のテュンブルクのように、主敵であるクシー移植者たちも、「ただの敵」ではなくそれぞれ血肉と思考・理念を持つ存在として描かれているのがこの作品の素晴らしいところである。
その中でも特にその意志の強さを持っているのが、「山中鹿太郎=クシー・ファフニール(空間断裂を武器とする、シロスジカミキリの遺伝子を持つクシー移植者)」である。
読めば分かるとおり、あくまで彼は彼の意思と思想と理性で組織に従っている。そして彼なりの「正義」と、脩一郎の「正義」をこうして語り合うことによってきちんとぶつけ、互いのそれを譲れないことを確認してから戦いに挑んでいるのだ。
素晴らしい。これぞ闘争というものだ。昨今の戦闘気違いの血に酔った戦いとは格が違う。高貴、といってもよかろう。


「手に入らなくなったものほど、綺麗……」

三島寧音=クシー・スクルド
仮面ライダーシュラ 犬神長元坊(混天大聖の間)

しかしそれでも尚、悲しみの旅は続く。
もはや自分達がそこに加わることの出来ない、平和な町並みの灯火を見て、闇から呟く寧音。それが本当に何気ない、普通の人間には時にしがらみとかんじられるほどありふれた者であるがゆえに、この少女の呟きは重い。
明日無き夜を駆ける二人に、待ち構える運命やいかに・・・

『汝(なれ)は剣(つるぎ) 我が振るう剣
 共に不死を否定せん 万象の愛を否定せん
 終末を叫び 共に舞うべし
 我は汝とこそ 契約を結ばん』

『我は剣 汝が振るう剣
 共に不死を否定せん 万象の愛を否定せん
 終末に叫び 共に舞うべし
 我は汝とこそ 契約を結ばん』

発言者 片倉景彦=クシー・ホズル クシー・ミストルテイン
仮面ライダー修羅 著・犬神長元坊

組織アスガルド派の中でも最も凶暴と言われる戦士、クシー・ホズルがもう一体のクシー・ミストルテインを武器として右腕に融合するのに使う「詩」である。
「万象の愛を否定せん」というのは名前の由来である北欧神話に絡んでのことなのだが、それを上手く組み込んで悪のライバル系な「らしさ」に仕立てているのが見事。


「……やっぱりホズル様は優しい方です」
「……どこがだ。いいか、優しい野郎ってのはな、人のいい男を殺そうと付けねらったり、女の子がひどい目に逢うと分かっていながら追っかけまわし、寝ている老人をぶち殺すような人非人じゃ無いやつのことなんだよ」

発言者 クシー・ミストルテイン 片倉景彦=クシー・ホズル
仮面ライダー修羅 著・犬神長元坊

偽悪者。偽善者の反対語で、悪人ぶっている人のこと。
実際に戦いで人を殺めたりなんだりしてはいるのだが、それでも何故かこの言葉が似合うホズルらしいやり取りである。

(ちなみにこのクシー・ホズルは元々我輩がデザインしたキャラだったりするのだが、犬神殿のアレンジで一段と魅力を増したキャラになっている。キャラとしての魅力のほぼ全部は犬神殿の手柄といっていい)

サイト「空科傭兵団」、清水三毛殿作品の名台詞
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『貴様の苦しみなど、知ったことか! 貴様に食われた数千、数万もの地球やその他の星の人々の無念の思いを、貴様は考えたことがあるのか!』
『お前もくどいな。何度いえばわかる? わしの、高貴な永遠の生命を保つために奉仕させてやるのだから、彼ら下等な生物には感謝してもらいたいぐらいなんじゃよ、わしとしてはな』
「なにが…なにが、高貴な、だ…」
『ほう、まだ生きていたか。下等な生物にしては、大した生命力だな』
「下等なのはどっちだ! てめえの命のことばっか考えて、他の人間の命を犠牲にしてまで生きていこうとするヤツの方がよっぽど下等じゃないか! なにが、高貴な永遠の生命だ…身体だけじゃなくて、心まで腐ってやがるぜ、てめえは!」

発言者 レッサー レグナ=マゴット 岩戸アズマ
追跡者S 清水三毛(空科傭兵団)

長い追跡者の物語は当初、地球の近くで星連(宇宙人の連合政府)の囚人護送船が反星連(それとは対立する宇宙人の集団)に撃沈され、宇宙犯罪者とそれを取り締まる星連保安要員が地球に下りてくるところから始まる。
そしてひょんなことから肉体を失った保安要員レッサーの精神体に寄生?されてしまった主人公岩戸アズマが、対立する星連と反星連の命運をかけた戦いに巻き込まれていく・・・という筋書き。

このレグナ=マゴットは宇宙犯罪者の一人。元々優秀な科学者だったが不老不死になるという考えに取り付かれ、幾多の人体実験を重ねしまいに自らを他の生命体を次々吸収する巨大な腐肉の塊へと改造した。
無限に再生・増殖する自らを究極永遠の命と証するマゴットは、その維持のために周囲の人間を食い散らかす。
そんな傲慢だが強靭な生命であるマゴットへの、生命としては弱いが心はまともなアズマの反論が強い。
命と心のありよう、それは実に複雑である。

『レグナ・マゴット、お前もここまでだな。お前の身体の細胞は、凍結時に発生した氷の結晶によって全て破壊された。脳が破壊されれば、もう二度と再生することはできない』
『ふ…ふふ、このわしが、まさかお前達に負けるとは、信じられんな…。今度生まれてくるときには、もっと完全な生命体を創りあげねば…』
『遺言は、それだけか』
『…なぜわしが、こういう研究を始めたのか、お前は知っているか…?』
『いや、知らないな』
『……お前の、その命がうらやましかったのだ。ガーライルフォースマスターは、何千年も若さを保ったまま生き続ける…それが、うらやましかった…。だからわしは、永久に死なない生命を創りあげたいと思うようになったのだ…』
『ガーライルフォースマスターとて、不死身ではない。いつかは必ず死ぬときがくる。人は皆、いつかは必ず次の世代に自分の居場所を譲らねばならんのだ。永遠の生命など、この世には存在せんのだよ』
『…だとすると、わしのやってきたことは、所詮絵空事にしか過ぎなかったわけだ…』
『そうかもしれん。だが少なくとも、心だけは、誰かの思い出の中で生きていくことができる。それで十分じゃないか』
『ふ、昔とかわらずセンチな奴だ、お前は…』

発言者 レッサー レグナ=マゴット
追跡者S 清水三毛(空科傭兵団)

そして、そのレグナ=マゴットを倒して、かつての友レッサーとマゴットとの最後の会話。命、について色々考えさせられるやり取り。
この「生命」というものはおおよそ命を賭ける戦闘を描写する小説においては避けて通れない要素だが、、追跡者シリーズ匂い手は特に一つの重要なテーマとなっており、後に(続編・追跡者SSなどでも)も幾つもの名シーン名セリフを産み出していくことになる。

「なんだと…王女、あなたはまだ分かっていないようだな。この銀河系の主は、我々なのだぞ。我々こそがこの銀河を支配する資格のあるただ一つの種族なのだ。我々があのちっぽけな星に閉じこもっている間に勝手に銀河を我が物顔で支配してしまった愚かな下等生物どもに、本来の主である我らの力を思い知らせてやるのだ!」
「あんたは馬鹿だよ、極めつけのね!そんなことをして何になるっていうんだい。戦いからは何も生まれやしないんだ。あたしらの祖先と同じ過ちを、もう一度繰り返そうっていうのかい、あんたは!」
「貴様、やはり親子だな。あの愚かな男が言っていたこととそっくり同じことを言いよるわ」
「結局あんたは、六百年前から何も進歩してないんだね」
「我々の祖先は、三百万年前に強大な敵と戦ってこの銀河の覇権を手にした。わかるか?インファルト人は、戦うために生まれた種族なのだ。貴様にもインファルト人の戦闘種族としての血は流れている。生体兵器として自らを改造した種族の血がな。いくらきれいごとを言ったところで、その血までは抑えることはできん。戦って、かつての栄光をこの手に取り戻すのだ!」
「………」
内心、ぎくっとしたミリィであった。確かに、自分が戦闘好きであることは否定できない。
「たしかにあたしは、戦いが好きだよ。自分の力で生きる権利はもぎとるもんだ。けど、あの戦争は違っただろう! 単なる大量虐殺の塊だったじゃないか!」
「百二十万年前、インファルト帝国の皇帝もあんたと同じことを言ってて結局、最後には殺されたんだよ。また同じことの繰り返しさ、大戦争が起きて、この銀河のほとんどの生物が死に絶える。そんな馬鹿なことにあたしは加担しない!」

発言者 ガランムア=リクター アルフェリッツ=ミリィ
追跡者S 清水三毛(空科傭兵団)

そして、追跡者Sの物語も大詰めを迎えて。反星連のリーダー・ガランムア=リクターは地球に眠る古代インファルト文明の超兵器を蘇らせるため、それに必要なインファルトの王族であるミリィを捕らえる。
自らの仲間になるよう説得しにかかるリクターだが、親の仇であるリクターの言葉など当然ミリィは聴く耳持たない。しかし、リクターのこの言葉はミリィの心に突き刺さる。
戦うための命。ミリィたちは、確かにそういう存在だ。かつて宇宙を支配していたガーライルと戦うため自らの種族を戦闘兵器へと改造した種族の末裔だ。事実ミリィは戦闘になると周囲の迷惑など顧みない物凄い乱暴な戦い方をし、戦闘に最大の充実を覚える。続編「追跡者SS」での、このやり取り

「覚えておきな。インファルトの女はね、敵が強けりゃ強いほど、熱くなれるんだよ!」
「ハヤト、よくみとけよ」
「これが、インファルト人だ。戦いにすべてをささげた、銀河最強の種族だ」

発言者 アルフェリッツ=ミリィ ライロス
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

など、特にそれを露にしている。
しかし、それは生命としては歪んだありようである。戦うために生きるのではなく生きるために戦う、それが正しい命と戦いのありようというものだ。
ゆえに、ミリィは抗う。

「リクター、あたしは何としてでもあんたのやろうとしてることを阻止してみせる!」
「貴様に何が出来るというのだ。高潔な我らが祖先の栄光を忘れ去り、百二十万年前の掟にしがみついてあのちっぽけな星にへばりついていた憶病者の子孫が!」
「違う! 憶病だったのはあんただ! あたしたちの祖先は、強大な力を制御できなかったが為にこの銀河系を滅ぼしかけた…一旦は手にした強大な力を放棄して平和を掴むことの方が、よっぽど勇気のいることなんだ!」
「面白い。見せてもらおうではないか、その勇気とやらを!」

発言者 アルフェリッツ=ミリィ ガランムア=リクター
追跡者S 清水三毛(空科傭兵団)

大量の核兵器を手放さない地球上の大国どもに聞かせてやりたいセリフである。
冷戦が終わったとき、人類は核を手放せなかった。ゆえに日本は半島の気違い国家のミサイルに怯え、アメリカはミサイル防衛システム構築に血道をあげ対テロ戦争に戦術核兵器の投入を検討するなどと言い、世界は未だ滅びの危機に怯えている。
ゴジラ以外「反核」は日本怪獣映画の重要なファクターだが、その特撮を色濃く受け継ぐ空想科学小説であるところの「追跡者」にもそれは受け継がれているようにも思える。



「今まであなたがいたせいで、あたしたちシャーク傭兵商会は宇宙傭兵業界二位の座に甘んじていたけど、これからは違うわ! あなたを倒したあと、ばかすかお金をかせいだら惑星トールキンあたりに庭とプール付きの豪邸を建てて、それから素敵な恋人を見つけて結婚式を挙げるのよっ!」
「日曜日には二人で惑星トカイトカイあたりでデートして、それからスタープラチナの指輪を買って貰ったりなんかしちゃって、それから、それから…きゃーっ、恥ずかしいわん♪」

「日曜日には恋人と一緒にライフルや熱線銃の手入れをして、射撃訓練をしたあと怪獣映画なんか観て、んで戦闘訓練ってのがいいかねえ。悪い怪獣を退治したりするのもいいデートコースかなあ」

「爆発は…爆発は…女のロマンだああああああああああっ!!」
「断固として違うわ! 切断こそが真の芸術なのよ!!」

発言者 シャーク=ラスター アルフェリッツ=ミリィ
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

続編である追跡者SSから登場するミリィの自称ライバル、シャーク=ラスターとの掛け合いなのだが・・・
両者の性格の変っぷりが滲み出ている台詞である(汗)
傭兵のクセに変に乙女チックな願望を持っているラスターも変(トールキン、トカイトカイ、スタープラチナなどさりげないネタが混じってるのが秀逸だけど)だが、心底、完全、完膚なきまでに戦闘に染まりきっているミリィの思考パターンはさらに変。
っていうか、怪獣退治のどこがデートコースか!
そして、「爆発」のどこが女のロマンか!こっちに関してはラスターも相当変。「切断」のどのへんが芸術か!(笑)


「ひとつ訊きたい。なぜそいつはミリィをかばった?」
(お、お前、喋れるのか! いったい−)
「質問に答えろ。なぜそいつは自己の生命保存より他者の生命保存を優先した?」
(ばっかやろ! んなこたぁ決まってらあ!)
(仲間だからだよ!)


発言者 ダークミリィ ライロス
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

追跡者SS「地上編」の中においても屈指の傑作(と我輩は思う)、<アルフェリッツ傭兵事務所、南へ!>のゲストキャラクター、ダークミリィ。
ミリィにそっくりでありながらやや幼く色黒であるためそう呼ばれた彼女は、ミリィのクローン体であり同等の戦闘能力を持つ「兵器」として作られた存在。
感情を持たなかった彼女が心を宿し始めるきっかけとなったやり取り。追跡者SSの主人公竜紋寺ハヤトがミリィをかばって手傷を追い、必ずしも戦術的に最良解というわけでもなく生命の自己保存本能にも逆らうその行動に興味を覚えるダークミリィ。
ライロスの、「決まってる」と断言できる熱さが無感情なダークミリィと好対照を成し快い。

「現実の戦いは、特撮ドラマみたいにゃいかないことだってあるんだ。ハヤト、よく覚えておきな。戦場で真っ先に死ぬのは、安っぽい人道主義をふりまわすヤツなんだよ。あたしは、今まで腐るほどそういう奴らを見てきたんだ」
「たとえ200年連れそった戦友が目の前で銃弾に倒れても、撃ちあいのさいちゅうなら無視しなきゃいけないんだ。感情に流されない、それが一流の戦士なんだ」

発言者 アルフェリッツ=ミリィ
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

どう見ても小さな女の子にしか見えないダークミリィと戦うのを嫌がる竜紋寺ハヤトだったが、ミリィはそれを一蹴してこう言う。
ミリィの強さと・・・そして悲しさと弱さを浮き彫りとする台詞である。
確かに、そういう考えで割り切れれば、それは強さである。しかしそれで、失うものも多い。余りにも。

戦って、敵を殺して、生き延びても、己の心やその心に根ざす大切な者を失っては、それは勝利と言えるのだろうか?

このセリフに関しては本当に色々考えることが可能で、三毛殿の許可を頂いて「追跡者」のキャラクターを登場させた大量共演二次創作小説「秘密結社バリスタス」の第一話においてやはりミリィにこのセリフを発言させ、我輩のキャラクターと議論させている。

『ミリィ、頼む! あの子を解放してやってくれ!』
 鳴咽のようなそれは、ハヤトの声だった。ミリィの脳裏に、ついさきほど見たハヤトの顔がよぎった。記憶のなかのハヤトは、照れくさそうな表情で、ダークミリィのことをきりだしていた。
(「あの子を説得して、仲間にできないかな?」)
 そうしてやりたい。いまごろになって、ミリィはおもった。
(ああ、早く)
「いま、楽にしてやるからね」
「バム・レイランス!」
「ごめん」
(ありがとう、お姉さん)

発言者 竜紋寺ハヤト アルフェリッツ=ミリィ ダークミリィ
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

少しではあるが心通わせ、そして同じ数少ないガーライルフォースマスター同士、仲間になれるかもしれないと思った。
しかしダークミリィは彼女を作ったモラーグに解剖され、新型強化獣スーパーコンガマトの部品にしてしまう。必要なのはあくまで強力な兵器で、意思を持つ人間ではなかったという理由で。
僅かに残る自我で、ダークミリィは殺してくれと訴える。既に部品として分解されてしまった以上、もはや助けるすべなどない。
そして・・・
ミリィたちは、ダークミリィを殺し。
ありがとうと・・・・言われた。
このダークミリィの目覚めと悲しい別れ、少しOVA作品「冒険!イクサー3」のEDテーマ曲「Revolution」を思い起こす。我輩の大変気に入ったくだり。

誰も 何か守るために争っても 心の奥でそう 優しさがあふれ出す・・・

「まいったなあ。俺、こんなとこで死にたくないよ。あと2週間で除隊なのに」
「けどよ、あの妹のほう、可愛いよなー」
「なにっ! お前がリュート派だったとは。このロリコンめ」
「なんだとう。ミリィなんてあんな頭の悪そうな乳尻女、どこがいいんだ」
「お前こそなんだ! 胸もまだロクにないガキの、いったいどこがいいってんだ!」
「リュートちゃんのぷにぷにほっぺの可愛さがわからないとは、お前それでも軍人か?」
「お前こそミリィさまのとんがり耳の良さがわからないとは、人間じゃねえっ」

発言者 名も無き兵士二人
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

一見、ただのギャグいやりとりだが、しかしてこんな些末な部分でもきちんと活用するのが三毛殿流儀。
このあとこの場所「ネオ奄美」は戦場になるのだが、その後数話してこの二人が再登場するのだ。それが下の台詞。

「ちきしょう、せっかく、ネオ奄美の、あの戦闘から生きて帰ったってのに」
「除隊しないで、宇宙軍に転属願いを出したのは失敗だったな。まさかまた、巻きこまれるなんてよ」
「俺ら、二階級特進かもな」
「けどよ。こんなときこそ……」
「こんなときこそ、あいつらが、きっとなんとかしてくれる」
「たのむぜ……」
「ミリィちゃん!」「リュートちゃん!」

発言者 あのときの名も無い兵士AとB
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

相変わらずミリィ派・リュート派に別れているのが可笑しいが、しかし可笑しいだけではなくこうして名も無き兵士を活写し、かつそれを再登場などでつなげることにより、戦場描写に深みというものが出てくるのだ。
ギャグと見せかけて、かなり考えられた台詞である。


「お前を連れていくわけにはいかなかったからよ、あんな危険な旅に」
「ライロス」

発言者 ライロス フラッフィ
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

・・・ちょっと読むと、なんてことの無い男女の会話である。
いや、事実そうである。昔些細なことで離れ離れになり、誤解などが重なって別れていた恋人同士が、再びよりを戻そうとしている会話である。
しかし、ちょっと変わったことが。
この二人・・・ふわふわもかもかした兎みたいな姿と大きさの、非人間的デザインの宇宙人なのだよ。中身の精神は大人でも、みてくれはマスコットキャラ。
しかし原典を読んでみると、それできちんと大人っぽいラヴシーンになっているのだ。きちんと。違和感無く。
これって・・・凄いことである。

「レドル、あなたは気にならないの? こんな、ジャダー銀河大帝国とかいう得体の知れない奴らのために働くことが」
「俺は別に、誰のために戦ってるわけでもない。ただ、強いヤツとマシンでぶつかり合うのだけが楽しみでな。それさえありゃ、後はどうでもいいのさ。あんたこそ、なぜそこまで強化獣にこだわるんだ? 俺の目から見たって、尋常じゃあないぜ」
「あなた、ムベンベって宇宙傭兵、しってる?」
「ああ。たしか、機動兵器の優秀なパイロットだったよな。ファカール社の人型機動兵器でオリオン原子竜と戦って、戦死したって奴だろ」
「そう、そのとおり。それでね、そいつ」
「わたしの、婚約者だったのよ」
「あいつ、ファカーリオンとかいうヒューマノイド戦車をずいぶん気に入ってた。とくに、主兵装であるM−78対艦ライフルの威力にほれこんでてね。だけど」
「たしかに威力はあったが、ありゃあ、宇宙傭兵たちの間じゃ、評判わるかったな。弾倉の電圧が、ライフル本体の規定電圧と適合してなかったんだ。オルディアス連邦445星系の自治政府が、予算をケチって、メーカー指定の弾倉を使わなかったからな」
「そ。でね。惑星掃討任務で、そのM−78、ジャムったのよ。よりによって、原住生物最強の、オリオン原子竜と交戦中にね。武器をなくしたヒューマノイド戦車は、同等の質量をもつ原子竜には勝てない。絶対に」
「<リュート・バッカーの法則>だな」
「いまにして思えば、当然よね。ヒューマノイドは、本来、素手で格闘をやるために進化したわけじゃないんだもの。だけど、原子竜の一族は違う。あいつの乗った機体は、手足を原子竜に食いちぎられて、ばらばらにされたわ」
「あいつのためにも、わたし、究極の機動兵器をつくらなきゃ、って誓ったの。インファルトの第3世代型獣鬼兵にも負けないような、究極の竜型兵器をね!」

発言者 モケーレ=ミゴー ザード=レドル
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

ミゴーも、レドルも、敵の中では本来ギャグキャラとでも言うべきポジションの存在なのだが。
それでも、このやりとりは渋い。
一つのキャラクターを、たとえば敵キャラとかギャグキャラとか、そういった単一能の存在としてしか物語の中で動かせないのは二流だという。キャラクターといえど人間である、人間というのはそんな単純な者ではなく、もっと複雑玄妙な存在であるということだ。
そこいくとこのへん、三毛殿の一流っぷりが伺えるというもの。


「ふうん、こんなとこにまでバラナスやオリティアの連中がねえ。時代も変わるもんだ」
「エミが生きてたら、きっと喜んだだろうな」

発言者 アルフェリッツ=ミリィ
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)
アルフェリッツ=ミリィは、数百年数千年の寿命を誇る宇宙人である。それゆえに、寿命の遥かに短い地球人と付き合っているとしばしばこのような郷愁が発生する。
エミというのは追跡者Sに出てくる特撮マニアのヒロインなのだが、既に年月の流れた未来である(セリフの通りに、宇宙との国交が開けてバラナス、オリティアなど宇宙人が地球に来るほどに)追跡者SSでは、ただの地球人である彼女は当然生きていよう筈が無い。その子孫が出てくるほどだ。
・・・ミリィは、中学生ほどの年齢から高校生ほどに成長した程度だというのに。
それは寂しく、悲しい。
この長い寿命も、ミリィたちアルフェリッツのキャラクターを決定する重要な一要素である。

「お前さあ、ミリィのこと、どう思ってるんだ?」
「ど、どうって、そりゃ、すごい傭兵だとおもってるさ」
「お前が今、どんな顔してるか、見なくてもわかるなあ」
「ミリィはああいう奴だから気づいてないけどな、俺からみりゃ、バレバレなんだよ。もちろん、リュートにもな」
「なんで、そんな話をするんだよ、急に!」
「悪いことはいわねえ。フォース使いの女だけは、やめとけ」
「なんでだよ」
「<フォース使いの最良の友は、永劫の孤独である>って文句があるんだけどよ。お前の若さじゃ、知らないか」
「おまえ、今のロザムとの戦いが終わって、ミリィたちが地球からオサラバするときにはよ、まともな地球人に戻りたいンだろ? ふつうに生きていきたいだろ?」
「まあ、な」
「お前を殺さずに<ガーライルクリスタル>のリセットシステムを作動させる方法、リュートの奴、調べてくれてるらしいぜ。もうすぐ、この戦いが終わったら、お前はふつうの地球人に戻れるだろうよ」
「お前がふつうの地球人に戻ったら、その後はもう、俺たちに会わないほうがいい」
「なんでだよ。戦いが終わったら、また一緒に合宿したりできるんじゃないの?」
「銀河のどんな種族よりも、ガーライルフォースマスターって奴は、長生きするんだ。成長速度も考え方も、なにもかも、ふつうの奴らとは、ぜんぜん違うんだよ。自分は年くって死んでくのに、いつまでも若い奴らが身近な場所にいるってのぁ……辛いぜ、お互いにな」
「だから、ガーライルフォースマスターは、ふつうの奴らとはダチにならねえ。そういうもんなんだ。ずっと昔から、そう決まってるんだ。そうしないと、何度でも、辛い別れを繰り返すことになる。永久に」
「だからな、どうせ別れるなら、恋人になんかならないほうがいいんだよ。お互いのためにな」
「リュートは、リセットシステムのこと、俺には教えてくれたけど、たぶんミリィには言ってないと思うぜ。だけど俺は、お前に言っとく」
「じゃ、ライロス。俺、どうしたらいいんだよ」
「うむ」
「男なら、突撃あるのみ! ぶちあたって、砕け散れ!」
「なんだよそれ! さっきと言ってることが違うじゃないか!」
「わかってねえなあ、戦友! いずれ別れちまうからこそ、今のうちに、自分の気持ちをはっきりさせとくんだよ。もやもやしたもん抱えたままじゃ、安心して背中をあずけられねーだろ?」
「でも、なあ」
「がんばれよ! 応援してるからな。行き詰まったら、俺に相談しろや。なにしろ、恋愛にかけちゃ、このライロス様は専門家だからなァ」
「専門家のわりには、逃げた恋人をとり返せてないじゃんか」
「それを言うなあああッ!!」


発言者 竜紋寺ハヤト ライロス
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

それを周囲から見たのが、この台詞。確かに自分達よりもずっと長生きし若いまんまの存在と付き合うというのは、苦難の道である。
しかし、それでも。
このライロスのアドバイス、実にいい。そしてその後の、それを受けたハヤトの行動も。



「どうしてなんだろう」
「いつもあたしたちが後に残されるんだ。あのときみたいに。大切な人を守れずに」
「ハヤト。ハヤト、ハヤト、ハヤト、ハヤト! あたし、もう嫌だよこんなの! もう、泣きたくないって、あのとき誓ったのに、どうして!」
「リュート」
「リル エクト レイシャ ル=アルフェリッツ」「ヴィダン リ カルナ ティルム ユルヴァト」
「お姉ちゃん、この歌を覚えてる?」
「誇り高きアルフェリッツの戦士 勇気とともに星の海をわたり 希望のもとに銀河をゆく 未来と愛する人のために−− 忘れるわけがないじゃないか、母さまが寝床でいつも唄ってくれた歌を」
「この歌を唄ったとき、いつもお母さまがおっしゃってたわよね。どんな苦しいときでも、あきらめちゃ駄目なんだって」
「あたしだって覚えてるさ。忘れようったって」
「だったら、どうしてあきらめちゃうの! まだハヤトさんを助けられないって決まったわけじゃないじゃないの!」
「あ、あたしは別に」
「それとも、もう兜を脱いじゃうわけ!? それでよく、全銀河最強の星間傭兵だなんて言えるわね!」
「あたしはあきらめないよ!」
「あたしは絶対、あんな奴らには負けない!」
「そ、それでいいの。あきらめるなんて、お姉ちゃんらしくないもんね」
「今度は必ず、守ってみせる! 絶対にね!!」
「見ててね、レッサー。あたし、きっと勝つから」

発言者 アルフェリッツ=ミリィ アルフェリッツ=リュート
追跡者SS特別篇 清水三毛(空科傭兵団)

そして、本人から捉えたのがこの独白。
種族としての宿命で戦闘を好む性分では在るが、本質的にはミリィは優しい、と我輩は思う。そうでなければ、そもそもあの普段見せる優しさの擦り切れたような老成し戦慣れたた風情もない。
無いモノは壊れないのだから、もし最初から無いならばもっと機械じみたそれこそ最初期のダークミリィのような性格になっているはず。それが証拠に追跡者Sで最初に登場した時、レッサーの存命を知ったときの彼女の喜びようはとても少女らしいものだったし、ダークミリィのときも、そしてこのまえのハヤトのときも、やはり普段から言っていた傭兵的覚悟の元に行動しながらも最終的には躊躇や迷いを見せた。
ゆえに別れに苦しみ、孤独に涙し。

・・・そして、再起。

優しい、という字は、優れているというのと全く同じ字。優れているには色々意味があろう。しかしこのミリィの場合、それは強さ。
ミリィの強さは、その優しさに起因しているであろう、と我輩は思う。そしてそのような優しき者と付き合うに、成長速度だの寿命だのなんの妨げにならん、と思う。己一人がおいていくのを嫉妬するなどという卑小な精神、彼女を前にして恥ずかしくて持てるはずあるまい。
となればあとはミリィたちの心次第。別れの悲しみなど、希望で癒せる筈。であるならば、その未来は・・・

「みんな! この一戦に、銀河星系連合、いえ、全ての善なるものの興廃ありよ! 一層奮励努力しちゃいなさい!」
『アイアイサー!』
『アイサー!』
「さぁみんな!」
『ギラ閣下、萌えーー!!』

発言者 ギラ軍曹 部下達
追跡者SS特別篇 著・清水三毛

一応最終決戦なんだけど、こんなときでも・・・っちゅうか、なんちゅう挨拶か(笑)
説明不要な「清涼剤」である。


「戦いが戦いを呼んで、憎しみ以外の何にも生み出さなかった、それはそのとおりかもしれない。だけど、本当にそれだけなのか? あたしらインファルトのやったことは、何にもならなかったのかい」
発言者 アルフェリッツ=ミリィ
追跡者SS特別篇 著・清水三毛

戦いは何も生み出さない。よく聞く言葉である。よく聞く結論である。
それに疑問を、投げかける。
そして下の文が、その答え。

「あたしは誓ったんだ! もう絶対、仲間を見捨てやしないって!」
ミリィがハヤトの首に腕をまわし、抱きしめた。光る涙が、ハヤトの頬を濡らす。
「だから、あたしも……あたしも行く!」

いま、ミリィは気づいた。かつて、インファルトの人々が、どんな思いをいだいて、戦地に臨んだのか。

決して、憎しみや恐怖だけを遺すために戦ったわけじゃない。戦いから何も生まれないなんて、嘘だ。

悲しみを終わらせることができるから。そう信じて、インファルトの戦士は戦ったのだ。

そうだ……あの、子供を叩きつけていた獣鬼兵の乗り手は、恐怖と憎しみだけで戦っていた。だけど、そんな戦いのためだけに、あたしたちは創られたわけじゃない!

あたしの祖先みんなが戦ったのは、大切な誰かの悲しみを終わらせるため。ガーライルなんかのために、もう誰も泣かせないため。だからこそ、いま、あたしも!

「行って、戦うよ! 最期まで! それが、あたしの生きる意味だから!」
発言者 アルフェリッツ=ミリィ
追跡者SS特別篇 著・清水三毛

独白的な地の文と一緒に味わってこその台詞なのでまとめて掲載。

よく聞くありがちを超えて、しかしひねくれない真っ直ぐな熱い答えである。
戦うために生きるのではない。生きるために戦う、それも少し違う。生きることは、戦いなのだ。恐怖でもなく憎しみでもなく、悲しみを断つために、かつてを、今から、次へとつなげるために。

戦いの物語の結末として実に発展的であり、素晴らしい。


「やってくれたんだ。本当によ。さすが、オレたちの……」
「ミリィちゃん!」「リュートちゃん!」

発言者 相変わらずの名も無い兵士AとB
追跡者SS特別篇 著・清水三毛

そして最後まで。あんとき(ネオ奄美)の兵士を出すなんてお遊びをしかける余裕もあるのがまた素晴らしい。

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おまけ。

「私は、私の正義を見つける!」
発言者 プロトガーライルフォースマスター(奇鋼仙女)ロウラン
秘密結社バリスタス第二部大陸編

「最後まで・・・前を向いていればいい!」
発言者 秘密結社バリスタス幹部怪人まんぼう
秘密結社バリスタス第二部大陸編

さて皆様。
ちょっとまて、これは己の作品であろうが、自画自賛かゴルァとお怒りの向きもありましょうが、まずは気をお沈めください。
この二つ・・・確かに我輩の作品の台詞。しかし、この二つの台詞に限っては自画自賛では御座いませぬ。
何故ならこれは我輩ではなく、我が弟HNまんぼう(注・読者参加小説ということで秘密結社バリスタス幹部怪人として同名で作品に登場している)が考えた言葉なのである。
上のロウランの台詞は、共演型二次創作として出場作品の一つに「奇鋼仙女ロウラン」があった(ある程度共演のため設定をいじっている)のだが、その最終回、我輩は見ていなかったのだが弟はチェックしていて、その粗筋を弟が説明したとき。
原作ではもうちょっと長かったロウランの台詞を弟が要約したのがこの「私は私の正義を見つける」という文。これ、はっきり言ってしまえば元の台詞よりも段違いで格好いい。故に即断即決で採用。
そして下の台詞だが・・・これはなんと、弟が考えたのではなく、会話の中であるとき弟が「言った」、実際の台詞なのである。
その余りのかっこよさにしびれた我輩は、弟をモティーフにしたキャラクターを登場させるに当たってこの台詞を言わせた、という寸法。
つまりいずれも「弟の作った台詞」であり、我輩の自画自賛ではないというわけ。そして我輩はそれを評価に値すると捉えた。

分かったかな?