急章 君戦わざる事無かれ

 



X1 終わりの始まり

その日は晴れていた。
いつものように。
余りにもいつものように、晴れていた。
もし、全能の神なるものがいて、運命を動かしているというのならば。そいつはよほど残酷で、かつ、皮肉好きに違いない。
あとから振り返ると、そう思わせるほど、その後の人々の運命をあざ笑うような、実にいい天気だった。

「敵襲ーーーーー!!」
突然の出来事だった。
完全に秘密になっているはずだった島に、敵艦隊が大挙して押し寄せて来たのは。
味方ですら、此処にいる物以外は、本当の上訴部しか知らない、この島に。
上空から見ても、ただの村にしか見えない、この基地に。
と、いうことは・・・・・・・。
大海原は走っていた。
(この島の隠蔽性からして、敵が自力で発見したとは思えない。だとすると、考えたくはないが・・・密告者がいる。)
司令部のドアを、ぶち破るようにあける。
(この島の全貌を知っていて、それを外に知らせられる、つまり無線を使うことが出来、かつそんな物を隠しておけるところを持つ。そんなことが出来るやつは・・・)
階段を駆け上り、一馬技術大佐の部屋のドアを、今度は、本当に蹴破る。
「一馬ァ!!」
「ち、もうバレたか。」
そういうと一馬は、拳銃を抜き、大海原に向けた。
「まあ、ここでお前を殺せば、同じことだけどよ。」大海原波、ぐっと拳を握りしめた。そして、言った。
「『わしがお前を殺す前に』一言聞いておく。なぜこんなことをした?」
「ケッ、何寝ぼけたこと言ってやがる。お前が俺に殺される前に、だろが。」
「答えろ。」
「はいはい。ここの研究内容を売りわたしゃ、向こうでいい暮らしができるからさ。」
「それだけか?それだけで、この島にいる全員を売ったのか?」
「そうだよ。だれだって自分が一番大事だろ?幸せになりたいだろう?死にたくないだろ?」
「だが人間、それだけじゃないんだよ。守らねばならぬ物があるのだ。貴様にはわかるまいが。」
がっ、っと軍刀の柄を握る。
「散っていった仲間たちに代わって、裏切り者を成敗する!いくぞ!!
ぐ、と一馬の引き金に掛けた指に力がこもった。
「もういい、死ね。」
銃声は、響かなかった。
「こんな、ばかな・・」
崩れ落ちる一馬。
「思い知ったか外道!!大義無き物に負けるわしではないわ!!」
そして再び駆けだした。 戦い、守るために。

X2 状況

「時間がないので手短に説明する。」
薄暗い地下の司令室に、大海原大佐の厳しい声が響いた。
「敵は戦艦三隻、空母五隻をふくむ大艦隊と、おそらく五個師団以上の上陸部隊だ。せいぜい全部で一個師団程度しかない我々の戦力では、たとえ一部の新兵器が投入出来る状態であろうと、勝つのはまず無理だ。そこで・・・」
ここでいったん話を打ち切ると、大海原は傍らの海軍の軍服を着た男に向き直った。
「神宮司大佐、号店号の状態は?」
神宮司とよばれた大佐は、苦い顔をして答えた。
「船体自体は完成しているのですが・・・。兵装の搭載がまだです。戦える状態ではありません。」
「船体自体は出来ているんだな?」
「はい。」
「ならばこうだ。号店号に全員を避難させ、その地中移動能力を使って脱出する!我々は撤退準備がすむまで敵を足止めするのだ!!」
「なるほど・・?」
「いいか?全民間人を避難させるのだ!!彼らの命運は我々にかかっているのだ!!出撃!!」
「ははっ!!」

X3 影

「やはり、始まったか・・・」
敵軍が来た、と伝えられたとき、ある程度予測していた水島は、割と冷静に受け止めた。
(この島で研究されている兵器が、実戦に参加したという記録はない。だとするなら、何処かで伝わらなくなったということだ。そして、『亡くなったときの』姿を写した桜花に、余りにも似ている博士の妹・・・これらのことから予想されるのは。)
本来の歴史なら、激戦の中で、芹沢博士をのぞくほとんどの人間が死んでしまったということだ。
(また、私の周りで人が死ぬのか?)
パッパラ隊に来てからは、見ることの無くなった、あの光景・・・人の死。
死なない身体をもっているので、確かに自分は死なない。敵も倒せる。
だが、味方は、皆自分を残して死んでいった。
今回も、そんな戦いになるのか?いや、そもそも、過去に介入することはできるのか?
「早く避難して下さい、芹沢博士!!」
「放してくれ!妹が・・・妹がまだ!」
沈んでいた水島の耳に、不意にそんな会話が飛び込んできた。
芹沢博士と兵士がもめている。
妹がまだ帰ってきてないらしい。やはり、そうなのか。
「わーかった!!ここはこのランコちゃんにおまかせっ!!」
「な、なんだって!?」
慌てて振り向くと、そこにはいつもの元気なランコの姿が。
「ラ、ランコ!?お前一体何を」
「とーぜん、助けにいくのよ!見殺しになんて出来ないでしょ!」
・・・・・・・・・・・・・ひょっとしたら・・・今度こそ・・・誰かを助けることが出来るかもしれない。
「わかった。・・・いくぞ!!」
ひょっとしたら、とびかげはこのために私たちをここに連れてきたのかもしれない。

X4 あるいは真実

「さー、ちゃっちゃと行くわよ水島君!」
「あ・・・ああ」
(それにしても、ランコはどうしてこういつもも元気なんだ?まるで戦闘してるとは思えないくらい・・・)
そのときだった。
バババババババ!
突如茂みの中から機関銃が発射された。水島に全弾命中する。いや、正確には、ランコに当たらないよう水島が飛び出したのだ。
「敵か!ランコ、下がっていろ。」
「大丈夫まかせて!いけっ、がいこつボンバー!」
ぼーーーん!
「弾が当たっても平気な水島」に驚く暇もなく、茂みに潜んでいた敵兵は吹っ飛ばされた。
「さっいこっ水島君!」
「うん」
歩き出す。
銃声。
「きゃあっ!」
「ランコ!」
後ろで倒れていた兵士が売ってきたのだと、水島が理解するのに一瞬かかった。が、すぐに身体が反応するかつて何回もやったことを。
「ランコ!大丈夫か!?」
「う、うん、かすっただけ。」
「ランコ、一つ聞いていいか。あの爆弾、人が死なないように出来てるのか?」
ランコはきょとんとした顔で答えた。
「当然よ。そうでなきゃ宮本とか普通の隊員にポンポン投げれないじゃない。」
「・・・・・・・・・」
「まあ、たいていなら立ち上がれないんだけど、今回はたまたま・・・」
(やはり、そうだったのか。だとするならば・・・)
「ランコ」
「え?」
「お前はここに残れ。あとは私1人で行く。」
ランコは一瞬きょとんとすると、猛然とまくし立てた。
「ちょっと冗談でしょ水島君!!何で私だけ仲間はずれ」
ズドン!ドン!バババン!ダン!ズダーン!
「戦闘音!?いいかランコ、ここでまってろよ。」
そう言いおいて、水島は走っていった。
「や、やだちょっとまってよ!!」

X5 回答

水島は戦っていた。ランコを強引においていってすぐに、敵と遭遇したのだ。
が、戦いながらも、水島は変に醒めた感じで、考え事を続けていた。
(やはりランコは、パッパラ隊でしか戦ったことが無い故に、「戦えば死んだり殺されたりする」ということを、あまりよく知らないのだ。)
敵戦車の発射した弾をつかみ、投げ返す。
(私は違った。『不死身である』から、常に無茶な作戦や、一番の激戦地に回され続けた。同じ部隊の連中がバタバタ死んでいく中、私1人だけで作戦目標を達成した。)
弾丸が何発も当たったが、やはりきかなかった。敵兵の顔が恐怖にゆがむ。射撃の轟音で聞こえなくとも、彼らが何を叫んでいるのか、水島には容易に想像がついた。
「化け物め!」
弾を受けて死ぬより精神が痛む。
正直、ランコがうらやましかった。殺すことも死なれることも体験せず生きてきたランコが、過激な性分にもかかわらず天使か妖精に見えたものだった。
そしてだからこそ、ランコを自分に近づけたくなかった。
水島にとって、周りに人がいると言うことは、その人が死ぬところを見なければいけないというのと、ほとんど同義語だったからだ。
ランコには、あの自分には無い物をもった陽気な少女には、ぜったいに死んでほしくないだけでなく、殺すも死なれるも味わってほしくなかった。
そして、どうしても今度こそ、だれかを助けたかった。
死に神でなくなりたい。
結局敵は殺さざるを得ないにしろ、せめて仲間を死なせたくない。
ドバーン!!
最後に残った戦車を叩きつぶしたのはちょうどそこまで考えたときだった。

X6 現状 
「・・・そっちの状況はどうだ?誠志郎」
大海原は無線機に問うた。彼の乗っている戦車は、既にあちこちぼこぼこに破損している。
「厳しいですね。もう戦闘力を維持できるぎりぎりの状況です。とにかく敵は圧倒的な火力ぶつけてきますから。」
「そうか・・・」大海原は苦渋の表情を浮かべた。
既に出来ることはすべて行った。
「ただ、新兵器はかなり役に立ちました。テツビトなんか、一体で戦車十台は潰しましたし。あと・・・いや、なんでもないです。それより、避難状況はどうなっていますか?」
「それよりってお前・・・。まあいい。避難状況はすでにほぼ完了しつつある。島が小さいのが幸いしたな。だが・・・」
「だが?」
「敵の無差別な砲爆撃で、かなりの死傷者がでている。洞窟に逃げ込んだところを、火炎放射器で焼き殺されたなんてことまである。」
ぎりっ、と無線機から歯を食いしばる音が響いた。
「わかりました。防戦に戻ります。交信終了」

X7 50年前の出来事

「さて、と。」
そう言いながら白銀は無線機のスイッチをきった。
「・・・・・・・・・」
黙って、彼の部隊を見回す。
つぶれた戦車に倒れ込むように、テツビトが倒れ込んでいる。
他にも、jinnragouや、目多流ダーなど、軒並みの新兵器が活動を停止している。
もっとも、その周りに転がっている敵の残骸の数と比較すれば、充分だと言えるだろう。
事実、白銀とその部下たちは、既に自分たちの何倍もの数の敵を撃退していた。もっとも、純粋に彼らだけの力ではないが。
「タコキューレ、大丈夫!?」
傍らでアーネが心配そうな叫びを上げる。
その視線の先には壁画に描かれた通りの、背中にコウモリと鳥の羽を備えた、巨大な蛸の姿が。
魔神タコキューレ・・・。 
白銀たちが窮地に陥ったときに、突然アーネと一緒に現れたのだ。
アーネによると、白銀の身を案じていたら、、突如神殿の地下から現れたのだという。この思わぬ援軍によって、白銀の部隊は何とか体勢を整えることが出来た。が・・・。
「きゅうう〜〜・・・」
「タコキューレ!!」
この巨大な守り神も攻撃を受け、ひどい傷を受けていた。
「だいじょ・・・くうっ!」
肩を押さえるアーネ。
タコキューレとアーネは一心同体らしく、タコキューレはアーネの意志のままに動き、守り神と巫女は共に戦った。島の民のために、愛する人のために。
その代償として、アーネもまた同じ傷を受けていたのだ。
それでも彼女たちは、自らの守りたい物のために戦おうとしている。
その痛ましい姿に、白銀はある決意を固めた。
それは偶然ではなく必然に、同じ戦士としての、水島と似た決意であった。ぼそっと、白銀は言った。が、顔には強い決意が現れている。
「アーネ、お前はもう逃げろ。」
「え?」
「恐らく次に敵が来たら・・・もう防ぎきれないだろう。これは本来僕達軍人の仕事。アーネがつきあう必要はない。」
アーネは一駿目を見開き、そして激しくくってかかった。
「な。・・・や、やだよ!白銀をおいていけないよ!だって・・だって!」
「わかっている。だからこそ、アーネには逃げてほしいんだ。」
互いに解っていた。相手が好きなこと、そして、ここで別れることの意味を・・・「死んじゃうよ、白銀!何で、何で自分だけ・・・」
「アーネと同じことだよ。アーネだって、自分の身を顧みずに僕を助けに来たじゃないか。」
「・・・それは・・・。ならせめて、私も一緒に!」
「だめだ!!」
珍しく、白銀は強い口調で言った。
兵士が走ってきた。その兵士もまた、白銀と同じ悲壮な決意を固めた表情をしている。
「敵軍が動きを再開しました!」
「わかった」
兵士が去り、白銀は言い含めるようにアーネに言った。
「アーネ。君の命が・・・君が生きているということが・・・僕の君への思いの証だと思ってくれ。さよなら!」
そう言って、白銀も兵士のあとを追って走っていった。しばらく立ちつくしていたアーネも、泣きながら反対方向に走り出す。
銃声が連続して響き渡った。

X8 

ランコは、震えていた。
目の前には、沢山の死体。
その死体の中には、ランコも何回も仲良く会話した、白銀という大尉も含まれていた。
ランコは、震えていた。
ついさっきまで、彼らも生きていたのだ。
だが、彼らは勝てぬと解っている相手に、他の仲間や護るべき物たちのために戦いを挑み、敵を必死に押し返し、死んだ。
死んだ。
ランコは、震えていた。
生まれて初めておちゃらけでない戦闘と死を目の当たりにして。
水島を追っていて偶然出会ったこの『真実』に、心の底から震えていた。
理解したのだ。何故水島がランコに残るよう言ったのか。そして、水島が背負ってきた物の重みを。
しばらくして、ランコはゆっくりと立ち上がった。
身体はまだ少し震えている。
でも、心はもう震えていない。
逃げないと決めたのだ。すべての真実から。

X9 死神の鎌

砲声が轟く。
「きゃっ!」
島にたくさんある洞窟の一つの中に、少女たちが避難していた。
「うう・・・ひっく・・もう、もうやだよう・・・」
「助けて・・・」
皆、おびえきっていた。
無理もない。
彼女らの心を、恐怖という名の鎖がぎりぎりと締め上げる。
「このまま、死んじゃうのかな・・・?」
その時、少女たちの1人が立ち上がった。
「あきらめちゃだめだ!きっと助けはくるよ!」
そう叫び、必死にみんなを勇気付けようとしているのは、誰あろう、芹沢博士の妹だった。とはいえ、彼女もつらい。
彼女はこの中で一番年上で、必然的にこの逃避行のリーダーになっていた。
何とかここまで無事で逃げてきたが、もう体力的にも精神的にも限界に近づいていた。
その時。
「きゃーーっ!!」
洞窟の入り口近くにいた少女が悲鳴を上げた。
はっとそちらを見ると、入り口に敵兵が立っていた。
その手には火炎放射器が握られている。無差別攻撃。
彼ら敵兵の論理において曰く。
スットンでは、民間人も軍需工場で働いたり、町工場が軍の下請けだったりする。
よって、民間人も広義の意味で戦闘員である。
彼らがこの論理を振りかざして、帝都イーストシティーを絨毯爆撃で焼き払ったのを、彼女らは知っていた。
もうおしまいだ・・・全員の脳裏に、この言葉が浮かんだ。
が、その敵兵たちはあっけなく吹っ飛ばされた。
「大丈夫か!?」
水島だ。全身ぼろぼろになりつつも、何とか間にあったのだ。
「さあ、早く逃げるんだ!上の敵兵はやっつけた!ここからすぐのところに、号店号への避難場所へ通じるトンネルがある!」
「は、はいっ!」
慌てて避難する少女たち。
(良かった・・・)
彼女らを誘導しながら、水島は思った初めて・・・初めて、人を護ることが出来た。殺すことしかできなかった自分が。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
桜花そっくりのあの少女が、水島にいった。
「ありがとうございます、水島さん!」
瞬間、目前が光に包まれた。
同時に、もっとも聞きたくなかった、轟音。
それは、砲弾の炸裂する音。
光が、消えた。どさ、と鈍い音がして、水島の足下に、何かが転がってきた。
それは、・・・首だった。たった今、『ありがとう』と言ってくれた少女の、死体の一部だ。
他の少女たちも、明らかに同じ運命をたどっていた、水島をのぞいて。トンネルまで、あと5メートル。
もはやたどりつけない5メートル。
がさがさと音を立て、敵兵が出てきた。
さっき水島が倒した連中ではない。偶然ここに来た、別の部隊だ。
運命の悪意としか思えない、偶然だった。
水島の絶叫が、大気を揺らした。

X10 ブラッディ・ラブ

血の匂い。その、胸のむかむかする、そして同時にひどく気怠い匂い。
そのただ中に、水島がいる。
まるで心までその匂いの元・・・血の海の中に溶けてしまったかのように。
血溜まりなどという、生優しい物ではない。見渡す限りの、血、血、血。
そして、既に原型も解らぬほどに破壊された、死体の山。
ほとんど、あのとき島にいた敵兵全部ではないのかと思わせる、死体の山。
そんな中に、水島がいる。膝をつき、肩を抱き、返り血でぐっしょりと濡れて、そのまま死んでしまうのではないかと思わせるほど、がたがたと震えて。
必死に水島を捜していたランコに与えられたのは、そんな光景だった。
戦慄するランコに気付き、ゆっくりと、彼女を見た。
恐ろしく空虚で、絶望的で、そして・・・悲しい瞳で。涙を、浮かべて。ランコは既にその状況から、水島が・・・助けることが出来なかったことを理解していた。
そして、何も言えなかった。
何か言ってあげたかったが、麻痺したように口が動かない。
突然、水島がいった。
「死んだ。・・・みんな死んだ。」
黙って聞くことしかできないランコ。
「守れなかった。何もできなかった・・・殺すこと以外は。」
そこまで絞り出すように言うと、水島はがくりと下を向き、自らを断罪するように言い放った。
「結局どう足掻いても、私は死神だ。周りにいる人間すべてを死に追いやる、不死身の化け物だ。せめて死ねたら・・・まだ殺さずに済むだろうに。」
それを聞いた瞬間、ランコが動いた。
それは少なくとも水島には全く予想外の行動だった。
ランコは水島を思いきり抱きしめたのだ。
本当に予想外だった水島は、ほとんどパニックに陥った。
「な!?ラ、ラン・・・だめだ、汚れ、いや、早く離れろ!離れないと・・・」
かまわず、ランコは叫んだ。その瞳と頬を涙でぬらしながら。
「そんな、そんなこと言っちゃ駄目だよ水島君!今回が駄目でも、続けるしか無いじゃない!そうでなきゃ、だれも浮かばれないよ!」
必死だった。心底から、水島の心の力になりたかった。心の痛みを和らげたかった。
今まで命がけで護ろうとしたことも、信じてあげれたこともないのに、水島君は気がつかなかったにしろ、護ってくれたことへの、せめてものお礼として。
「それに、水島君は死神なんかじゃないよ。あたしのこといつも護ってくれたし、あの子達のために泣いているじゃない・・・」
「ランコ・・・」
水島は、さっきまでとは違う涙を流していた。
ランコの、暖かさに。 嬉しかった。希望、と言う言葉を思い出した。
償える、許される、希望を・・・

エピローグ THE END OF THE PAPARA ARMY






「水島さん、大丈夫ですか?」
「ん?あ、あれ・・・マイさん?」
気がついたら、マイさんがいた。
どうやら、ここは医務室のベッドのようだ。
窓の外は、もう夜。
「どうして、こんなところに・・・?」
「朝ご飯を食べてたら、突然ランコさんの料理が爆発したんですよ。なかなか目を覚まさなくて、心配しましたわ。他の皆さんは爆発の後かたづけをしていますわ。」
「そうですか・・・」
そう言ってから水島は、あれ、と思った。
おかしい。何か忘れている。それも、たった今までしていたことだ・・・。
それと同時に、なんだか妙な気持ちがした。
嬉しいような悲しいような、訳もなく涙が出てきそうな気持ちだ。
「?」
水島は知らなかった。
五十年前、ある島にいたすべての人間が、二人の人間のことを、同じように記憶から失っていたことを。
その二人とは、島の博士の1人にそっくりな軍人と、シュバルツランド第三帝国から来た少女だった。
その部屋の窓の外では、とびかげが木の枝に腰掛け、笛を吹こうとしていた。
が、とびかげは笛を一旦置いた。
そして、懐から、かなり古びて変色した白黒写真を取り出した。
それは、水島の記憶から消えた、あの島でとられた写真。
そこには、何とか助かった人達を乗せ、脱出する号店号が写っていた。
その写真には本来、全滅した島の様子が写っているはずだったのを、この世界ではとびかげ以外誰も知らない。
写真をしまい、また笛をとる。
澄んだ音色が、基地の夜を満たしていった。





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あとがき
これで終わりです。
最後まで読んで下さった方、どうもありがとうございます。
この作品は元々、前から考えていたパッパラ隊オリジナル小説の一つ(他には、マーテルとシルビーが源時ヨシツネを洗脳して、水島と戦わせる話とかだった。)です。いや、でした。
でした、というのは、すでに原型を留めない程全体として強化されているからです。
特にパッパラ隊の終了が決まってからは、自分なりの最終回、パッパラ隊へのレクイエムとして、全力を振り絞って書きました。
作品そのものに関しては、あれこれ言いません。
小説家は作品で語る者だからです。
それでは。
終わりゆくパッパラ隊に、永遠の愛を込めて

2000 6 24 悪の博士

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