<艦隊これくしょんZero「最終話・瀬乃内海(せのうちかい)海戦・中編(一部抜粋)」>
海戦は、終局に到達していた。
多くの命を飲み込んで、海面は激しく波打つ。その波と風が、火薬と炎上の煙をかき混ぜていた。
「・・・ココマデデスカ・・・」
下瀬火薬弾を受けて炎上し、小爆発を繰り返しながら、霊力蒸気機関を停止させた帝爾級が浮力を失い沈んでゆく。
敵深海棲艦の中では船体能力は旧式ながら、技巧に秀でた副官格。だが、それを撃沈したことを喜ぶ余裕は無かった。
「閣下・・・私ハ、最後マデ戦エマシタ・・・閣下モ、提督ニ抱キシメテ頂ケマスヨウ・・・」
そう呟くと同時に、水面下に没する。これで、既に敵艦隊は壊滅したも同然と成ったのだが・・・
「アイツの、願い、だったのか?今のは・・・にしても、くそぅ、八島、動けるか?」
これまで激闘を繰り広げていた「彼女」は、かつて最後まで戦うことなく降伏した艦であった。それが故の願いなのであろうか、と、漠然と悟る初瀬だが。
「駄目・・・霊力蒸気機関は保ってるけど、シャフトがどうにかなってる。初瀬は?」
「プロペラが大半駄目だ。1ノット出るか出ないか、ってところだ。これじゃあ、追いつけない・・・」
追いつけない。その言葉が、この終戦寸前の状態が未だ窮地であることを洗わしていた。
互いに単従陣で激しく機動して戦った艦娘と深海棲艦だが、互いの二番、三番艦が激しく打ち合いダメージで速度を低下させた結果陣が混乱。
結果、二番艦以降が団子状になって遅れてしまい、双方の一番艦・・・三笠と帝国旗艦戦姫が突出してしまったのだ。
帝国戦艦戦姫は呉鎮守府の破壊を目指し、三笠がそれを阻止しようとしている以上、お互い進行しながら撃ち合うことになってしまい・・・今や、彼女達の旗艦は一人で戦っている。そして彼女が負ければ、鎮守府は破壊されてしまうのだ。
「畜生・・・追いつけないのか!?」
「み、皆さ〜〜〜んっ!」
いつも必死に重荷を背負ってきた三笠が生死の際に要ることに歯噛みする初瀬の耳に、不意に聞こえたその声は。
「漣!?あ・・・か、春日も!?生きてた!無事だったの!?」
「自爆、するつもりだったんだけどねー・・・漣と水雷艇妖精たちに助けられたよ」
走り来る漣が肩を貸して助けるのは、長射程砲を利用して陸上からの狙撃戦を挑んで敵戦力を妨害していて消息を絶った春日だ。
陸上に上陸してからの奇襲という相手の意表を突く手段を用いていたが故、相手の足のある艦が強引に上陸追撃を仕掛けてきて逃げ切れなくなったときは、包囲攻撃下において集積した火薬で敵もろとも自爆する覚悟でいた彼女であったが。
それを、陸上で水雷艇を足に履くように展開して斜面を橇のように滑り降りるという離れ業を用いて包囲を破った漣が間一髪で救い出していたのだ。おかげで補佐した水雷艇妖精の水雷艇儀装は強引な扱い方をした結果使用不能になり、妖精はそれぞれ漣の頭の上にちょこんと避難していたが。
「状況は!?」
「三笠が、この先先で一人でっ・・・!敵の旗艦と戦ってるっ!」
「っ、春日さんをお願いします!」
そして端的な状況説明を受けた漣は、包囲攻撃によるダメージで自力航行能力を失った春日を初瀬と八島に預け、即座に全速航行に移った。
春日、八島、初瀬の三人も、この状態では浮くのが精一杯の足手まといである以上その判断に異存は無い。
「頼んだぞ、漣!!」
初瀬の声を瀬に受けて、漣は走る。最早手遅れかもしれないが・・・三笠に追いつき、彼女を助ける為に!
「ガァッ!」
ドン、と、帝国旗艦戦姫は自らの左手で自らの右肩を撃ち、燃え上がる右腕を切り離した。
艦霊化したことにより炎呪と化した下瀬火薬で炙られた腕を切り落とす、強引だが艦娘・深海棲艦にこそ可能なダメージコントロールだ。
事実切り落とされた直後に、炎熱によって切り落とされた右腕は火薬に着火、爆発した。
その上で三笠と帝国旗艦戦姫は水面を走り続け、旋回し、正面から対峙した。相互の距離が接近していく中、互いに構える。
互いに、情勢を認識していた。後続が追いつけない。追いつけるものも、恐らく間に合わない。即ち、ここで勝ったほうが戦術的勝利も戦略的勝利も総取りと成る。
帝国旗艦戦姫は、槍のように残った左手を構えた。
「(・・・腕ハクレテヤル)」
三笠刀を青眼に構えた、輝くが如き凛々しき、愛しき仇敵を見据えながら、帝国旗艦戦姫は怨念の集合の中にある自我を研ぎ澄ました。
お互い相当損耗しているが、右腕に搭載した砲を失った以上、砲撃戦では不利。
さりとて、近接戦闘では三笠には三笠刀がある。
故にこその左手だ。三笠と違い、此方には脚部にも主砲が搭載されている。半身に構えて被弾を避けながら突撃、左腕を突き出す事で相手への直接打撃を狙うが、それは、三笠の手によって切り落とされるだろう。
だがそれは構わない。
「(三笠ガ左手ヲ切リ落トスト同時ニ、片足ノ蹴リデ決着ヲツケル。今度コソ。今度コソ・・・)」
今度こそ勝つ。かつての戦いでは決戦とウラジオストク艦隊保全を迷い敗れた。三笠を倒す事に集中する。三笠を倒せば、その後ろにある鎮守府を破壊できるからだ。
はるばる、地球を半周するが如き我が航海が、今度こそ終わる。
遂に報われるのだ。
遂に、認めてもらえるのだ。
今度こそ、愛してもらえるのだ。
・・・何に?
「、イクゾォオオオオオオッッ!!!」
一瞬、ぶれかけた思考に鞭を当てるように、帝国戦艦は再度吼えた。会わせるように、三笠が構える。
そして・・・両者の煙突が煙を噴き上げ、最大戦速に突入する!