<白き箱舟と戦神(いくさがみ)>

 

 

闇の只中を漂う一人の男。

ボロボロになった赤い戦闘服とオレンジ色のマフラー、後ろに逆立った髪と鷲鼻、そして何より目を引くのは破れた皮膚の下に見える機械。

 

 サイボーグ002

 

それが彼のかつての二つ名。

蝗の姿をした神の御使いに抹殺された9人の戦士の一人。

 

 

―002…サイボーグ002―

(…誰だ? 俺に…何の用だ?)

 

彼の頭に突如響いた声。

かつての仲間001のテレパシーのように、心に直接伝わる言葉。

 

―君に選択肢を与えよう。 死か、生存か、どちらを選ぶ?―

(何故そんな事を聞く…お前は何者だ?)

 

その言葉に答えるように彼の前にソレは姿を現した。

闇の如き黒衣を纏い、背に紫の血に染まったような幾枚もの翼を持った、長い黒髪の男。

 

―私は死を司る者。 故に問う、死か、生存か?―

(死神って奴か。 可笑しなことを聞くな、俺は死んだんじゃないのか?)

―君はまだ死んでいない。

君の内にある八つの魂が死に抵抗している。君を生かそうとしている。―

(八つ!?まさか、ジョー達の…何故!?)

―それは知らない。

だが彼等の魂を使えば君は生存できる。 彼等と一つになることで…―

(………)

―もう一度問う。 死か、生存か?―

(…何が目的だ? 俺は、生きたい。だがお前にとって俺を蘇生させることに何の得がある?)

 

当然の疑問だ。 一般に死神は命を刈り取る者。生かす者ではない。

その問いに答えるように、彼は自分の足元を指差す。

 

(! これはっ)

―アストラルライン…生命の大河、全ての命の源―

 

そこに在ったのは眩い光の本流。 漆黒の闇に流れる全宇宙の生命の源。

 

―君に此処の守人を頼みたい。

他の何者にも触れさせぬよう、自然の流れを曲げぬよう見守る者になってもらいたい―

(何故俺に?)

―…素質があった、と言っておこう。 受けてもらえるか?―

(……分かった、引き受けよう)

―では…―

 

002の左腕に手が触れる。

そこから何か、強い力が流れ込んできた。

体に力が漲るのを感じる。

 

―これより君はアストラルライン守護戦士、ソルダート…―

 

 

 

 

 

『・・・い・・・ェイ! J!』

「!」

 

頭の中に直接響く声に男が目を覚ます。

白い鎧に身を固め、鳥を思わせる大きな仮面を被り、左腕の篭手に輝く[く]の字型の赤い宝石。

嘗てサイボーグ002と呼ばれた男・・・ジェット・リンクの現在の姿。

 

『どうかしたのかい? ボーッとしていたけれど、疲れているのかい?』

 

テレパシーの声と同時に視界に映る、光る回路に囲まれた白い球体。

その中に浮かぶのは、嘗ての仲間の中で最年少だった001の姿。

 

「ん・・・いや、問題ない。大丈夫だよイワン」

『今はトモロ、か001だよ。ソルダートJ』

 

かつての名で呼ぶJに、総合伝達回路となった001が正す。

 

「そうだったな・・・」

 

少し寂しげに苦笑しつつ応える。

戦士として独立している自分。統合されコンピューター<トモロ>となった仲間達。

在り方が変わり、声も己にしか聞こえない。しかし共に在る現状。

 

 

しばしの沈黙。

それを破ったのは、白から薄桃に色が変わったトモロからの警告。

球体に映るの姿と声は003のもの。

 

『J! 前方1万キロより敵性反応! 破滅招来体、約4万!』

「来たか! 戦闘準備! 聖邪と九鬼にも出動要請」

『了解』

 

<トモロ>を囲む回路に七色の光が走り、各色ごとに艦内に散っていく。

 

『ジュエル・ジェネレーター出力上昇。主要回路001から009、オールグリーン!』

「よし! 発進!ジェイアーク!!」

 

艦尾から赤色のフレアを放ち、白亜の戦艦、不死鳥ジェイアークが宇宙(そら)を行く。

 

 

 

 

 

戦場へ向けられた艦首の上、真空であるはずのそこに一組の男女が立っていた。

片方は黒い服を着た20歳前後の男性、もう片方は舞姫のような衣装に身を包んだ10代前半の黒髪の少女。

 

「我らも行こうぞ、聖邪。」

「ああ。」

 

少女の声に男性―下位次元生命管理局エージェント、舞波聖邪―が応じる。

そして

 

「「来たれ!荒ぶる戦神」」

 

重なる2人の声。同時に周囲に円が描かれる。

少女の舞姫の衣装の一部が解け、そこから無数の文字が円の内へ放たれ、方陣となった円が球へと変わる。

 

「「スサノオ!」」

 

閃光と同時に球体が弾ける。

そこから現れたのは古代日本、大和の時代の鎧武者を思わせる50m程の巨神。

舞姫の少女―九鬼文書(くかみもんじょ)より召喚されし鬼械神、スサノオ。

 

「いざ、遊び奉らん!」

 

戦闘開始の言霊を受け、スナノオの目に光が灯る。

 

「天津風に乗り来たれ、ヤタガラス!」

 

スサノオの背に漆黒の翼が出現し、その身を戦場へと導く。

 

 

 

 

「反中間子砲、全砲門開け!」

『了解』

 

Jの号令に火気制御担当の004が応える。

艦砲が動き、蠢く招来体にその砲口を向ける。

 

「目標、敵密集部…撃てぇ!」

 

号令と同時に艦砲より赤色の光流が迸る。

光流は射線上、最前にいた居た数体を容赦なく飲み込むと、後続を幾百の光球に変え、余波で更に数十体が分解する様に消滅させる。

余波を逃れた招来体が、散会しつつジェイアークに殺到する。

 

「ES爆雷、投下!」

 

艦側から弾き出された爆雷が、出た端から赤く揺らめく『輪』を生じさせ、その中へと消える。

同時にあと数キロにまで接近してきた招来体達の頭上に無数の『輪』が出現し、頭上から爆雷がばら撒かれ、炸裂。

範囲内の全ての招来体が跡形もなく消滅する。

範囲外に残存していた者達も余波により体勢を崩し、再び放たれた光流により消し飛んでいく。

 

 

 

 

一方、聖邪とクカミの駆るスサノオは、ジェイアークから少し離れた宙域でその力を存分に振るっていた。

 

「享けろ。ヤタノ鏡、タケミカズチ!」

 

スサノオの腕に生えた刃から迸る雷光が眼前の円形の力場を潜って収束され、破滅招来体達を貫く。

爆光が辺りを照らす。

攻撃を逃れた数体が死角から迫る。

 

「聖邪、右上方から5、後方より7!」

「承知!圧殺せよ、タジカラオ!」

 

肩装甲についている結晶体から巨大な掌の形をした漆黒の重力場が伸び、迫ってきた招来体を握り潰す。

更にタケミカズチを広域放射し動きを止め、背の翼で切り裂いていく。

 

「まだまだ!」

「出でよ、フツノミタマ!」

 

クカミの声と共に手の中に剣が現れ、それを使って次々に切り刻みながら驀進する。

スサノオ――日本神話の戦神の名に違わぬ力で次々に敵を屠っていく。

 

 

 

 

「うわー、始まっちゃってるねー」

 

ジェイアーク、スサノオより更に離れた場所で、暢気そうに戦況を眺める一人の少女。

スクール水着のようなボディースーツ、両手首の腕輪と胸にクリスタルを付け、肩の後ろに浮かぶ球体から飛び出した白い翼を揺らすその姿は、天使又は戦乙女を思わせる。

 

「隊長! 暢気な事言ってないで、早く合流しましょう! もしもの事があったらどうするんです!」 

 

隊長と呼ばれた少女の後ろ、少女と似たような姿の数十人の少女達の内、一番近くにいる者が少々怒気を滲ませながら促す。

 

「あ、そうだね。っと、その前に・・・」

 

促された少女は、すぐさま行動に移・・・し掛け、思い出したように腕輪のクリスタルから光球を出し

 

「ジェイアーク及びスサノオへ、こちら上位次元生命管理局ガーディアンハーツ。

 管理者(マネージャー)からの要請により、これより参戦します」

 

現在、前方で戦闘を繰り広げる二体に向けて、自分達の参戦を知らせる。

 

『こちらジェイアーク。了解した』

 

端的に答えるJ。

 

『下位次元生命管理局所属、舞波聖邪』

『同じく九鬼文書、ガーディアンハーツの参戦、了解した』

 

Jと同じく端的な聖邪と九鬼の返答。

それを聞き終わると光球を消し、後方の少女達に振り返る。

 

「これで良し。 さぁ皆、行くよ」

「「「「了解!!」」」」

 

背の翼を羽ばたかせ、輝く軌跡を残しながら少女達が往く。

 

ガーディアンハーツ。通称ガァーツ。

かつて旧神―ウルトラマンに仕え、同種の力を用いて共に戦ったという一族の末裔達が作った防衛組織。

ガーライルフォースマスターではなく、ウルトラマンと同じ「光」の力を使う戦巫女―星の戦士達。

 

 

 

 

赤い光流により多くを一掃するジェイアーク。

雷光、重圧、斬撃と多彩な攻撃で敵を屠るスサノオ。

先ほど参戦し、弓や銃器を模した武装による万華鏡のごとく多彩な光線でもって広範囲を攻撃するガァーツ。 

3つの戦力により着実に数を減らしていく招来体。

 

しかし

 

『前方宙域に空間歪曲現象!ワームホール内部より破滅体反応を確認!これは・・・』

 

同時にワームホールから巨大な頭部が出現した。

岩石を思わせる表皮を持ち、出現した頭部の後ろからその長大な体が姿を現す。

 

「ゾーリムか・・・」

 

Jがその名を呟く。

全長数千mという大神龍にも匹敵する体躯を持つ、最大級の根源破滅招来体、巨獣ゾーリム。

 

『J、ここはキングジェイダーで。 他の者には露払いを』

「(了解だ)総員に通達、ゾーリムはジェイアークが引き受ける!他の皆は露払いを・・・」

 

戦術回路の008の指示に同意し、通達。

しかし、言い終える前にゾーリムの口から炎が迸る。

 

「させん!」

 

丁度射線上にいたスサノオに迫った火炎を、船体でもって遮る。

 

「っ・・・すまん」

「気にするな、損害は無い。それよりも周囲の敵を頼む」

『この程度の攻撃では、ジェイアークの防御は貫けないネ』

 

防御機構担当の006が自信満々に言い切る。

それを肯定するように、船体を包む赤い防御フィールドが一度点滅する。

 

「承知。ガァーツの諸君も協力頼む」

「「「「了解!!」」」」

 

ジェイアークの無事を確認し、スサノオとガァーツが周囲の招来体達をその周囲から退けていく。

 

 

 

「ESミサイル発射の後に合体」

『了解、メガフュージョン・プログラムドライブ!』

 

発射管から打ち出された4発のミサイルがゾーリムの眼前で爆発。

即座に変形機構担当の007がプログラムを起動させる。その際に、禿頭の男が自らのヘソを押すイメージがJの頭に浮かんだ。

 

「ふっ・・・。 フューージョン!!」

 

微かな苦笑の後、合体コードを叫ぶ。

篭手の石が輝き、捻り回転しながら背後のレリーフまで跳躍、磔になるような格好でレリーフに溶け込み、赤色の光が艦橋を包む。

 

投下された爆雷がゾーリム眼前で爆発。その隙を突いてジェイアークが動く。

 

「Jバード!プラグアウト!」

 

艦橋と砲部分が船体から分離、更に艦橋部と砲部分が分かれ、砲部分が2分割され、肥大化しながらその下部から手が迫り出す。

ジェイアークも後部が艦首と90度垂直に可動、推進器部が噴射を保ちながら爪先部分に変形。

艦首部分の左右に変形した腕部が連結、上部に変形した艦橋部が合体。

額部装甲が上方に移動、中心に十字形の赤い宝石が迫り出し「J」の文字が浮かび、装甲の下からカメラアイが出現し口部が開き・・・咆哮。

艦首の"弓"状の部分が一旦エネルギー化し右腕に装着される形で実体化する。

最後に背部から赤い孔雀を思わせる羽根を展開。

 

「キング、ジェイダーー!!」

 

Jの声と同時に孔雀の羽が飛び散った。

 

 

ここに巨体対巨体の戦いが始まる。

 

 

 

『「五連メーザー砲!」』

 

変形完了と同時に、今まさに晴れんとする爆炎に向かって右手指先の砲が火を噴く。

その姿に、在りしの日の004の幻影が重なる。

かつてのチームの主砲が、白銀の巨体で蘇る。

放たれた光条は、炎を吹かんと待ち構えていたゾーリムの鼻先に命中、そのまま粉砕する。

 

『「ふぅん!!」』

 

怯むゾーリムの横面に握り締めた右拳を叩きつける。

巨体に重なる幻影、機体の運動制御を司る005の剛力が巌の如き顔面を拉げさせ、口内の炎をあらぬ方向へと吹き出させる。

 

『「おおおっ!」』

 

更なる追撃にと左拳を握って振りかぶる。

そこに

 

『J、上方にワームホール。来るわよ!』

 

レーダー等各種センサー担当の003からの警告。

頭部だけでは勝てぬと見たゾーリムが、上方に新たなワームホール開き、自らの片腕を呼び出し、キングジェイダーを叩き潰そうと迫る。

 

「何のぉ!!」

 

スラスターを吹かして強引に体勢を上方に向け、左拳で迫る掌を迎え撃たんとする。

しかし

 

『J、左!』

「なに!?」

 

再びの警告。

見ると左側からもう一つの掌が迫っていた。

このままでは上方を迎え撃てても、左側からの一撃を受けてしまう。

ダメージを覚悟するJ。

 

 

“カチッ”

 

 

スイッチが入る。

瞬間、全てが静止する。

 

『間一髪、かな?』

「ジョー・・・」

 

自身の隣に並び立つ幻影。

サイボーグメンバー最後の一人、009。

そしてこれは、彼と自身のみが有していた機構、加速装置の効果。

キングジェイダーの巨体でも機能するソレは、009の担当する特殊運動回路の恩恵に他ならない。

静止、否自身の加速による相対的な敵の遅延。

その隙に体勢を立て直して後方へと飛び退き、静止した両腕部に反中間子砲を浴びせつつ、加速を解除する。

 

再び動き出した両腕が撃ち出された光流によって砕かれる。

驚きと痛みに吠える巨獣をよそに

 

「おおおおお!!」

 

キングジェイダーが背中と足の裏のスラスターを吹かして飛び上がる。

かつての自分、そのままに。

 

 

 

 

「さて・・・」

 

ゾーリムの上方に移動したJが、口元に笑みを浮かべ呟く。

 

「なぁ、ジョー。今度はどこに落ちたい?」

 

以前は絶望的な状況で聞かれた問を、冗談めかして言うジェットに、ジョーの幻影もまた苦笑しつつ

 

『奴の頭上、脳天に』

「了解した! ジュエル・ジェネレーター出力最大!」

 

溢れ出すオーラが機体を一瞬真紅に染め上げ、すぐに右脚へと集められる。

キッと下方、ゾーリムの頭部に狙いを定めると同時に、背中のスラスターからエネルギーを噴射。

 

「ジェイ、キィーーーック!!」

 

右足と背に真紅の炎を迸らせ、白亜の流星が巨獣へと“落下”する。

迫る死の気配を察知し、今まさに顔を上げんとしたその頭頂部に、燃える右足が突き刺さる。

そのまま衝撃で拉げる頭部を粉砕しながら、キングジェイダーの巨体が通過する。

 

全身が通過した時点で制動を掛け振り返る。

頭部を失って尚、うねる頸部を視界に入れ、そこへ右腕を向ける。

 

「J‐クォース!」

 

弓状の武装へ光が集中。

一瞬後、右腕より真紅の不死鳥が飛び立ち、残された頸部に突撃。

先頭から順に粉砕しながら根元のワームホールに飛び込む。

 

数秒後、爆炎と共に閉じゆくワームホールから飛び出した不死鳥は、数度の羽ばたきの後、巨神の腕へと帰還した。

 

ワームホールが完全に閉じたのを確認し、再びジェイアークに変形すると、その舳先を次なる戦場に向け、その場より飛び去った。

 

 

 

 

 

キングジェイダーとゾーリムが戦っていた頃、周囲の敵を駆逐する間にガァーツと分かれたスサノオは、厄介な敵を相手にしていた。

 

「ちっ・・・また分化したか」

「落ち着け聖邪。まずは奴等を一箇所に集めよう。 闇雲に攻撃しても滅し切れぬ」

 

わかっている。と返しながら周囲の招来体を薙ぎ払う聖邪。

切り裂かれ、雷光に貫かれた招来体の体から緑色の粒子が噴出し、他の肉体へと移っていく。

乗り移られた肉体は、緑の粒子が先ほどまで宿っていた肉体の特徴を模倣するように変形する。

 

―絶滅因子生命体ゴーデス―

他の生物の体に宿り、その肉体を戦闘的に変化させ、最終的には死に至らせる群体生命。

カオスヘッダーの原型とも言われる、最古の破滅招来体。

「黄金の混沌」末期、火星と地球に出現し光の巨人「G」によって退けられ、細胞単位となって宇宙へと去った旧支配者の一部。

 

戦力的に圧倒しているにも関わらず、倒しても倒しても宿主を代え、しつこく向かってくる招来体達に、徐々に消耗していくスサノオ。

 

 

「ぐ・・・おおおおっ!」

 

両手がコッヴとパズズの頭部に変わったキリエロイドの光弾と雷撃を翼で防ぎ、タケミカズチを広範囲に放射。

周囲の招来体達を牽制し、タジカラオで一転に集め圧殺する。

だが幾ら倒してもゴーデス細胞自体は中々滅することが出来ず、別の肉体に移っては突撃を繰り返してくる。

 

「くっ・・・やむを得ん。 クカミ、アレを使うぞ!」

「承知! 黄泉より、現世(うつよ)より、火神の御霊よ、集いて我が剣に宿れ!」

 

クカミの言霊によりフツノミタマに青白い光が集まっていく。 刃が輝きを増し、光が焔のごとく揺らめく。

それはスサノオの持つ最大・最強の<昇滅技>。 国生みの女神を焼き殺し、男神によって斬り殺された忌子、ホノカグツチの憎悪を使った一撃。

 

「大蛇、薙ぎーーーーー!!」

 

一閃。

フツノミタマの刃が青白い大蛇(おろち)と化し、その軌道に並ぶ招来体達を薙ぎ払い、更には自ら蠢いて周囲の招来体に襲い掛かり、瞬時に内部から蒼炎となって炎上・消滅させる。

細胞はおろか存在そのものを焼き尽くす一撃に、それまで周囲を覆っていた招来体達は一体残らず消え去った。

だが

 

「くっ・・・やはり堪えるな、この技は」

「大丈夫か、聖邪?」

 

心配そうに主に問いかけるクカミ。

この技『大蛇薙ぎ』は、その絶大な破壊力の代償に使用者の精神力を著しく消耗させるという欠点がある。

そのため戦闘時にあまり多用できない、正に切り札というべき技なのである。

 

「ああ、問題ない。それより、他に招来体の気配は?」

「今のところ感じな・・・拙い! 集結したゴーデスが本流に向かっておる!」

「なんだと!」

 

消耗した体に鞭打ち、再びスサノオを動かす聖邪。

その視界が捉えたのは、両腕部から翼竜を思わせる皮膜の羽を生やし、アストラルラインへと突っ込んでいくバランガスの姿。

慌てて追撃しようとするものの、消耗したスサノオの飛行速度では間に合わず、長距離武器もギリギリで届きそうに無い。

それでも諦めずスサノオを急がせた、その時。

 

「ソウル・チェーーン!」

 

バランガスの背後から無数の黒い鎖が伸び、その巨体を雁字搦めに縛り上げた。

それを行ったのは

 

「何とか間に合ったか。 危ないところだった」

 

青を基調とし各所に銀色のライン、胸に黒のラインが入った金色のプロテクターの付いたボディースーツをまとい、胸の中央に菱形のクリスタル、背に純白の翼を生やした黒髪サイドテール(右)の少女。

 

『『深月(みつき)!』』

「む、聖邪さん・・・とクカミ。

 珍しいですねあなた方が見逃すとは」

 

手のひらから出した鎖で縛り上げたバランガスを見つつ、深月と呼ばれた少女が追いついた聖邪たちに話しかける。

 

 

彼女の名は渡(わたり)深月。

ガァーツと敵対種族「魂の連鎖(ソウルチェーンド)」(略して「ソウド」)の融合体『ガウル』の父と、葉斬流宇宙忍者の母を持つ「新・光の六姉妹」の一人。

バランガスを縛り上げた鎖はソウドの特徴である「魂を繋げる鎖」の応用。 父からソウドの因子を多く受け継いだ深月が持つ特殊能力である。

 

 

『すまない、切り札を使ったせいで発見が遅れた。君のお陰で助かったよ、ありがとう』

「い、いえ!当然のことをしたまでです!」

 

聖邪の言葉に顔を赤らめる深月。

 

「むぅ・・・油断するな深月! 聖邪、タジカラオでアレをこっちに引き戻すぞ!」

 

そんな深月の態度が気に障ったのかクカミが声を荒げる。

事実バランガスは体をガス状にして鎖から逃れようとしており、聖邪も「そうだな」と言ってタジカラオを展開しバランガスを掴み寄せる。

 

(深月・・・聖邪は私の主ぞ。妙な真似をすれば唯ではおかん)

(人が誰に憧れようと勝手でしょう)

 

片方は姿を見ることができないはずなのに、確かに目をあわせ火花を散らす2人。

そんな状況をよそにスサノオがバランガスを引き上げ、そのまま本流とは反対方向に放る。

重力場から開放されたバランガスは、四足獣を思わせる姿からゴーデス本来の蛸と芋虫を組み合わせたような姿に変わり、再度こちらに向かってくる。

 

「タケミカヅチ!」

「フォトン、ソード!」

 

ソレを見て邪魔するなとばかりに雷光と光刃を繰り出すクカミと深月。

しかし、両方とも命中はしたものの、すぐさま再生してしまう。

 

『ちっ! 寄せ集めだが再生能力は原体並みか』

「完全消滅させなければ駄目なようですね」

 

攻撃を繰り返し何とか近づかせないようにしているものの、聖邪は『大蛇薙ぎ』を使えるほど回復しておらず、深月の技でも決め手に欠ける。

どうすべきか悩んでいる内に徐々に近づいてくるゴーデス。

 

(くっ・・・仕方ない)

 

状況の不利を認めたクカミが、苦い顔をしながら手元の端末を操作し、聖邪の眼前にスクリーンを出す。

 

「聖邪、これを見「スプリーーーーーーーーーム!」

 

起死回生のソレを映しかけたところで、キーの高い少々幼げな声に遮られた。

 

直後

 

「キィーーーーーーーーーック!!」

 

先ほどの続きの言葉と同時に、迫り来るゴーデスの横っ面に光輝く一撃が決まった。

皺?だらけの顔が大きく歪み、そのまま吹っ飛んでいく。

 

飛んでいくゴーデスを尻目に、一撃を放った本人が聖邪たちのほうに向き直り。

 

「お待たせしました。ガーディアンハーツ、新・光の六姉妹が長女、渡ヒノメ参上ですー!」

 

ムダに陽気が迸っている銀髪サイドテール(左)の少女―渡 ヒノメ。

ガァーツの母を持ち、深月とは正反対に高純度のガァーツ因子を持つ“自称”長女(深月と同日生まれの為)

 

「ヒノちゃん・・・」

 

その様子を見てなんともいえない表情の深月。

 

「あ! もー、深月ちゃん! みんなを置いて一人だけ聖邪さん達の所に行くなんてズルイですー」

 

深月の姿を捉えたヒノメが近寄っていって文句を言う。

見れば二人のボディースーツは、若干の違いはあれどほぼ同じもの。

 

相違点はヒノメのスーツが赤を基調としていることと、胸のクリスタルが逆三角形であること。

 

「いや、それは・・・ちょうど私のいる位置が、一番近くて支援しやすかったからで・・・他意は」

 

似たような格好の二人が妙に微笑ましい空気を作っている。

聖邪がそれに若干和み掛けるが

 

『来たぞ!』

 

というクカミの言葉に再び気を引き締める。

飛んでいったゴーデスが戻ってきたのだ。 心なしか米神のあたりに井桁状の皺が増えているような気もする。

 

「ちっ!」

 

ともかく近づけまいと腕をかざし、雷光を放って牽制する。

 

(どうする? 依然奴を消滅させる手段がない。ジェイアークは・・・)

 

そんな事を聖邪が考えていると

 

「ひにゃ? もしかして一気にいかないとダメ、っていう状況ですか?」

 

ヒノメが母親ゆずりの口癖を口頭に置いて聞いてくる。

隣で深月が頷くと

 

「だったら問題ないです。クカミちゃん、ヒノメ達の前にヤタノ鏡を出してください」

『なに? どうするつもりだ』

 

クカミの問いにヒノメが薄っすらと笑むと

 

「クリスちゃん、琴美ちゃん、メルちゃん、芽衣ちゃん、そういう訳なので」

『『『『了解!!』』』』

 

ヒノメの声に名を呼ばれた四人らしき声が応える。

 

『まさか・・・』

「深月ちゃんもタイミングを合わせるですー」

 

ヒノメの真意を察した深月が軽く目を見開き、構える。

 

 

「「フォトンーー」」『ゼペリオン』『ソルジェント』『コズミューム』『ビクトリューム』

 

 

次々と挙げられる名称。

それらを聞き取り得心がいったクカミが聖邪を見やる。

うなずく聖邪

 

『いくぞ!』

 

雷光に体勢を崩したゴーデスに向かってヤタノ鏡が展開する。

そして

 

『『『『「「クラッシャー!!!!」」』』』』

 

ヒノメと深月、そしてその後ろから迸る四条の光線が鏡の表面付近で合流、一条の太い光線となってゴーデスを飲み込む。

増幅された光流の中で、抗うことすらできず一瞬にして消滅するゴーデス。

 

『新6姉妹合体光線』

 

ゴーデスを消し去った光線を見てつぶやく。

かつて地球においてウルトラ6兄弟が使用した、全員の必殺光線を一斉に放つという技。

サイズの違いから本家より劣るものではあるが、それをヤタの鏡を用いてカバーすることでこの威力を実現した。

なお太古の光の国において大神龍の制御データを取りに来たオピウス=サリエルを粉砕したのもこの技である。

 

『話には聞いていたが、実際に見ると凄いな』

『ああ』

 

光線の威容に呆然とした様子の聖邪とクカミ。

 

そんな2人をよそに、先ほどの4条の光を放った残りの姉妹が合流した。

 

 

「やりましたね。 さすが伝説の最強攻撃」

 

技が再現できたのが嬉しいのか、弾んだ声で他の姉妹に話しかけるのは、服の力で力を高めるという特性を持つレスランシュ星人の母を持つ六姉妹の一人―渡 クリス。

上から銀・赤・青紫の配色のスクール水着のようなボディースーツに、銀枠に2本の金ラインが入った胸部プロテクター、その間に挟まれるように、逆さにした雫に似た基部に嵌ったクリスタルが煌く。

 

「でもみんな揃ってからやりたかったね」

 

それに残念そうに答えたのは、巫女が星を導くという変わった習慣を持つカルティー星の巫皇(みこ)を母に持つ(以下略 ―渡 琴美

クリスと似たようなスーツだが、上から順に赤・銀・青の配色である事と、胸のクリスタルが逆五角形である点が異なっている。

 

「まったくですわ。せっかく伝説の御技を再現するというのなら、きちんと横並びで行いたかったですのに」

 

高飛車な口調の琴美に同意するのは、変身すると10歳くらいの魔法少女になるリルト星女王を母に持つ(下略 ―渡 メル

そのスーツは、体側から緩やかな波状に青・銀、中央に赤が配色され、それを挟むように浮き上がる金色のラインと、同色で雫の半分を点対称に反転させ中央にクリスタルを配した基部が特徴的。

 

「まったくだ、非常時だからってもうちょっとやり様があっただろ」

 

微妙にやさぐれた口調で答えるのは、地球の名家・皐月家を実家に持つ母(略 ―渡 芽衣

赤を基調とし、体側に銀・黒と配色され、菱形の金色の基部のクリスタルと、そこから胸の上部と肩に開かれた金色の翼を思わせる意匠スーツを装着している。

 

 

以上が新六姉妹の総員である。

ちなみに上記に挙げたように、彼女たちは其々母親が違う。

能天気で蒼銀の髪のヒノメ、生真面目で黒髪の深月。

温厚で栗色の髪のクリスに、無邪気で若干灰色がかった髪の琴美。

高飛車・金髪・お嬢様気質のメル、苦労性なのか若干やさぐれ気味な芽衣は黒髪。

といった性格・特徴は全て母親譲り。

 

これは深月と芽衣の母(葉斬流“宇宙”忍者なのだが本拠は地球)以外の故郷の星が一夫多妻可能だったことに由来し、父がガァーツ本星に籍を移した事で正式に決まった合法重婚の結果である。

某刀将が聞けば、その父がミイラになっていないか心配することだろう。 

 

 

ともあれ

 

「ふむ、どうやらアレが最後だったらしい。

 他はジェイアークが粗方片付けたようであるし、問題なかろう」

 

そう言って、やれやれと一息吐くクカミ。

その拍子に先ほどまで操作していた端末のスイッチを押してしまう。

 

クカミと同様、肩から力を抜いた聖邪の眼前に再びスクリーンが浮かび

 

『がんばって、お兄ちゃん!!』

 

両手で大鎌を握り締めたロングヘアの少女――聖邪の最愛の妹、舞波優希の応援動画が再生された。

 

「ゆ、優希っ………うおおおおおおおおお!!!」

 

気力大回復。

今なら大蛇薙ぎ八連発でも余裕で放てるだろう。

 

「くっ……これさえなければ、これさえなければなぁ」

 

クカミが嘆く。

若干18歳にしてこの仕事に就くエリートである聖邪の、唯一と言っても良い欠点。

それがこれ―妹・優希への溺愛である。

彼と共に在るようになってから今日まで、これほど彼女を悩ませたものはない。

 

六姉妹の面々も、それぞれ苦笑したり頭を抱えたり、不機嫌そうに頬を膨らませたりと、聖邪に対しての気持ちを表している。

 

 

その後、聖邪とクカミはジェイアークに戻り、ガァーツの面々も報告と交代の為に自分達の待機場所へと帰っていった。

 

彼らの戦いはこれからも続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広大な大宇宙。

その中を流れる眩い光の奔流、この宇宙を巡る全ての生命の源・アストラルライン。

その流れの一端付近に物々しい一団が迫っている。

 

それは艦。 銀河連邦政府の、その中でも特に強力な武装を施された戦艦群。

それは獣。 神の下僕、根源破滅招来体の群れ。

それは光。 翼を持つ人型の光、智天使級光霊体の軍勢。

 

ガーライル神に仕えし強力無比なる「兵団」

しかしそれに対峙する者があった。

 

宇宙(そら)の暗黒にも似た漆黒を基調色とした体に鎧―否、体の一部なのだろう。間接は屈強な筋肉を思わせ、その要所が金属質になっている―を纏い、両肩に意匠化した目を模した巨大な肩鎧。

背に血のような深紫の翼を12対24枚生やし、顔は人に似て瞳は金色に輝く。

全長数十kmはあるだろう「巨兵」

それが眼前に迫る「兵団」を睥睨するように立ちはだかる。

 

 

これこそがアストラルラインの真の守り手。

元ガーライル直下三大天第二位・死天サリエルの「暗黒体(アウゴエイデス)」

 

 

「兵団」が動いた。

先頭に立つ光霊体がサリエルに向かい手を突き出す。

一斉に放たれる無数の光線の雨。

しかし

 

 

カッ!!

 

とサリエルの両肩の[目]が閃光を放つと、同時に空間が水面の如く激震し、光線とそれを放った光霊体が風に吹き飛ばされる塵のように粒子になって消えていく。

 

続けざまに両腕を交差させ、背の翼を広げる。

ほぼ円形に展開された翼、その羽根の一枚一枚が光り、腕が開かれるのと同時に一斉に「兵団」に向けて射ち出される。

翼から離れた羽根は、種々様々な鍵の形に変化して飛んでいく。

が、その様子を確認できたのは放ったサリエルのみ。

何故なら、先ほどの光霊体が放ったものが雨ならば、こちらは奔流。大河のごときソレが「兵団」の残りを飲み込む。

 

 

 

光が止み、宇宙(そら)が静けさを取り戻す。

「兵団」は元々存在していなかったかのように、残骸も残さず消えていた。

 

それを確認したサリエルは、何処へとなく飛び去っていった。