「彗星ハレイ」


第二話“宇宙開拓史” フロンティア星人、パイロ登場

東京湾で戦艦のごとく浮かぶシルエットを見つけたなら、それはGGG日本支部基地のものだと確信していい。
数十年前に新設された科学の要塞は、今でもこつこつと改造が続いている。科学は常に、進歩する。それを象徴するかのように、今日も改築の音が響く。
近くに寄れば壁中を埋め尽くす窓、窓、窓。巨大な建造物だけあって、部屋の数も尋常ではない。
その一室。
「だーかーらー、いちいちあたしの行動にコメント入れるのはやめてって、何回言ったら……」
『う、うむ、申しわけない。以後気を付ける』
一人の女性地球人と、一人の地球外生命体が、床に正座して向かい合っていた。と言っても、後者は会話と状況をスムーズに進行するためのホログラムなのだが。

会話と状況から明白なことには、ヨウコは怒っていた。それはもう、ぷんすかと。
それでいて、何か衝動的かつ突発的な怒りではなく、日常のイライラトゲトゲから降り積もってできた厚い層に自己防衛本能がレジスタンスを試みた、すなわちもっとも和解が困難な類の怒りであったことが、このエイリアンにおける危機的状況を促していた。
「その台詞は百回くらい聞いたわよ!」
ヨウコの右手がベッドの上にあったの枕をキャッチ、スイング! しかし、ホログラムなのでダメージなし。
『いや、私の記憶ではまだ二十七か/』
「覚えてるなら実行しなさいよ!」
ヨウコの強烈な左ストレート! しかし、図らずともシャドウボクシング化。
『すまない。分かっては、いるのだ。ただ、この星の文化があまりに素晴らしくって……』
「お世辞はいいよ。ていうか、あんたって銀河ナントカの隊員なんでしょ? もうちょっと異星の文化に詳しくないわけ?」
『銀河特捜局だ。太古、「流星族」と「彗星人」の交流が途絶えたとき以来、この星に干渉はしなかったようだからな。なぜ交流を絶ったか理由はわからないが、我々は実に数千年ぶりの再会を果たしたというわけだ』
数千年――地球人類から見ればとてつもなく長い。ハレイの口調からして彼ら「彗星人」の基準でも長いのだろう。ただ、久遠にも等しい宇宙から見れば、第三惑星が恒星を数千周する時間などほんの一瞬に過ぎない。……やはり切っても切れない縁というわけか。
そんなことを考えながら、ヨウコは昨日の母親との会話を思い出した。
母と、「流星族」本家から聞き出した、集められる限りの情報――。

十数年前の夏、ヨウコは某所に位置する「流星族」の本家にて、巫女としての“洗礼”を受けた。
こう聞くと何だか凄そうだが、実際大した作業ではなく、全国に点在するリュウセイ家の親御さん達が義務的に行うものらしい。それだけに普通の日常を暮らす分には何のリスクもリターンもない。
ただ、そのときに本家より、一つのお守りが渡される。中にはもしも地球に危機が訪れた場合のための「流星系天術護神召還儀」セットが詰め込んである。暗雲を察知したときは直ちに天術を使い、地球を守れ、と。
流星系天術護神召還儀。地球上に宿る超自然的な力(太平洋諸島で“マナ”と称されるものと同じか?)を使って、異星人(これは「彗星人」でなくとも可能らしい)の潜在能力を最大限まで引き出す、天術の中でも高等クラスの技である。
――しかし、ヨウコ達は違った。なぜだか二人は一心同体の身になってしまったのだ。それについても、本家から説明を頂いた。頂いたのだが……。
「まさか、本家の“手違い”だったなんてねぇ……」
電子メールでその真相を聞かされたときといったら、ヨウコは脱力してぐうの音も出なかった。
流星系天術護神合一儀(りゅうせいけいてんじゅつごしんごういつのぎ)。地球上に宿る超自然的な力を使って、異星人(これはあらかじめ決められた種族――「彗星人」でなければ不可能らしい)と巫女とを一心同体の身にする、成功例はごくまれな天術の中でも最高クラスの大技である。
あのとき、ヨウコは確かにお札の呪文を正しく読み上げた。しかし、いかんせん何らかの手違いでヨウコのお守りには「合一儀」のお札が混入していたのだ。
そして「合一儀」のプロセスは、呪文とお札を除けば「召還儀」と全て同一……。
正直、本家へ怒鳴り込みに行きたかった。しかし、なかなかそういうわけにもいかない。一公務員として、大きな理由が二つほど。

ぴぴぴぴぴぴ……
思案中には特に耳障りに感じる、通信機の呼び出し音。ヨウコがそれに応えると、予想通りの人物がテレビ電話に映し出された。
「おはようございます、先輩!」
綺麗に整えた黒髪が童顔にマッチした好青年。その声は妙に輝いている。
「おはよー。早かったね」
「いえ、先輩の言われた通り七時ジャストです」
青年は時計を確認しつつ答える。
「えっ! もうそんな時間?! ごっめーん、じゃユウジ君、先に司令室行ってて」
「分かりました。……あの」
「何?」
「……いえ、何でもないです」
ユウジと呼ばれた青年は、やや赤面しつつ通信を断った。
彼こそ、ヨウコが休暇を取れなかった理由の一つである。フルネームはエノムラ・ユウジ。つい数日前にオーストラリア支部での第一期研修を終え、第二期研修の場として日本支部に派遣されてきた新人クンだ。知力、体力共に優秀で、任務はほぼオールマイティにこなす。性格は引っ込み思案ながらも、今後の成長に期待される……というのは報告書の文章。
――そして、彼の「教育係」をヨウコは隊長より抜擢されてしまったのだ。「研修」といっても第二期は本隊員としての活動とほぼ同じ立場を取らされるし、本人もそのことを自覚しているので「教育係」もそんなに気張る必要はない。だが、やはり迎え入れた直後に休暇など取ったりしていると、先輩としての示しがつかないであろう。なので、とりあえずユウジを指定の時間に呼び出したりしているのだが、こともあろうかヨウコの方が三日連続で遅刻という、示しもシメジもない記録を現在進行形なのである。
『とても先輩の行動とは思えないな』
「何よそれ! 誰のせいだ思ってるのよ!」
そんなヨウコは着替えの途中。青少年にはちょっぴり刺激的な映像だった。

宇宙。闇。
青い、外から見た地球。
ヒトの手により開発と汚染が進もうが、やはり別世界の住人には魅力的に映るのかもしれない。
そして、“彼ら”は何の躊躇もなく線を踏み越えた。

ヨウコが司令室に着いたころには、GGG日本支部第一班のメンバーはすでにほぼ全員集まっていた。
「おはよー。あれ、みんな早いんだね」
通信機の時計機能で時刻を確認したが、集合時間よりかはまだ早い。
「おお、ヨウコ隊員おはようさん。やっぱ、みんな“あれ”が気になるみたいやで」
「やっぱりぃ」
ロクタロウが声をかける。
『ヨウコ、この男は一体何語を話しているのだ』
(っ! 関西弁よ関西弁。聞こえてたらめちゃめちゃシツレーでしょ。ま、あたしの脳味噌が標準語だから仕方ないけど)
ザト・ロクタロウ。GGG日本支部第一班専属オペレーター。小太りの容姿に反して頭脳労働に長け、日夜チームを影から支えている。また同時に、その朗らかな性格からチームのムードメイカーでもある。実は結構な歴史マニアとの噂もあるが……。
「ヨウコ隊員」
背後からの声にヨウコが振り向くと、ケイゴとユウジが並んで立っていた。
「ユウジ隊員の教育はお前の担当だろう。そんなことでどうするんだ」
「せ、せんぱい……」
ユウジの哀れむような目が、何を言わんとしているのかはよく分かる。
ナナビシ・ケイゴ。GGG日本支部第一班隊員。GGG採用試験をトップの成績で合格した後、研修先でも太鼓判を押されるほどの活躍を見せつけたジェネラリスト。特に狙撃の腕は殺し屋級で、GGG採用試験始まって以来初のパーフェクトを達成したのは有名。隊長の右腕として有能な働きを見せる反面、やや真面目過ぎるとの声も多い。
「仮にも軍人だというのに、規律が乱れすぎている。学校じゃないんだここは」
『そうだぞヨウコ』
「……」
ヨウコは今すぐにでもトレーニング室に行ってサンドバックをぼこぼこにしたい衝動に駆られたがそれを抑え、平常を装って謝った。
「あー、ごめんごめん。明日からはちゃんと」
「明日からはちゃんと?」
別の、太く年季が入った声。
「はっ! 隊長、おはようございます」「おはようございますっ」「おはようございますー」
「お、おはようございます」
ワンテンポ遅れて振り返ったヨウコの目に、見慣れた隊長の顔が映った。
「おはよう。で、明日からはちゃんと何なんだ?」
「はっ! 実はヨウコ隊員が/」
「ああーーっ! あんなところにUFOがっ!」
誰が聞いても分かる、苦肉の策。辺りに冷たい風が吹きつけた。
『ヨウコ、一体何のギャグだ、それは』
(うるさいっ)
額を冷や汗が通過する。口から苦笑いが漏れてくる。
「おおそうだ。先ほど月面観測所から連絡があってな、例の“あれ”、地球外生命体の宇宙船である可能性が高いらしい」
え、どういうこと? よく見ると、たまたまヨウコが指を差した方向にディスプレイがあり、そこに先ほど送られてきたらしい“あれ”の鮮明な映像――隊長の言う通り、いかにもエイリアンの船といった感じだった――が映し出されていた。
「今までにない形状ですね」
「恐らく新種だ。分析によれば我々と同じ等身大の種族で、あの船は兵器的な機能を兼ね備えているとか」
「!」
そもそも未確認地球外物体それは三日前から存在が露(あらわ)になっていた。地球に向かってはいるものの、大した質量でもなく、移動速度も遅いため、レベルC警戒体勢のまま現在に至っている。
レベルC。警戒態勢としては最も低い。どうしても外せない用事があるのなら、休暇を取っても怒られないレベルだ。しかし――ヨウコの体内に居候しているHさん(年齢不詳)が『これはどうも嫌な感じがする』などとのたまうため、ヨウコは行くに行けなかったのだ。それが、ヨウコが休暇を取れない二つ目の理由。
いかんせん彼の予感は的中した。“あれ”の正体が宇宙戦艦だとは……。突如として空気が重くなる。
全員の脳裏に浮かんだ単語は共通していた。
“侵略者”
否、約一名、別のことを考えている者がいた。
(あー、あっぶなかったー。隊長、ああ見えて規律には結構厳しいから、ヘタすりゃ一週間トイレ掃除だったよ)
『規律の乱れが清掃活動などで償えるとは、地球人の感覚はよく分からぬ』
(分からなくて結構。もうこれ以上口を出さないで。ていうか、出すなっ)
教育係だの宇宙船だの言う前に、もっと根本的な問題を見直す必要があるだろう。

人工衛星。この星を支配する、ある種族が打ち上げた宇宙の目。
未確認航宙船へ向け、交信電波が発進された。
“彼ら”はそれを拒絶した。

レベルB警戒体勢。戦闘体勢の二歩手前である。手前であるがゆえに、
「腹が減っては戦ができぬっと」
正午、交代で食事を取ることになったヨウコは食堂への道を歩んでいた。しかし今彼女の歩いている場所は……
かーん、かーん、かーん、
どがががががが……
工具、鉄鋼、作業員、戦闘機などなどがひしめき、汗臭い仕事が続けられる「格納庫」だった。
ヨウコはあちこち見まわしながら、ある人物を探していた。周りの迷惑を顧みず入念に首を回していると…………いた!
やや長めの白髪、白衣、左目に当てられた一昔前の海賊を思わせる眼帯。その三つが彼を見分ける大まかな基準だ。
彼は作業員にいろいろと説明していた。それから、Gスワンを指差してあれこれと指示を出した。
/きゃっ、タクミさん、お仕事してるっ
//もー、作業員のおじさん、あたしと代わってよっ
///あっ、タクミさんが私のスワンを指差したっ
心拍数は急上昇。
カザマ・タクミ。GGG科学課専属研究員。若くして生物学、物理学、化学、天文学、地学など、あらゆる分野の自然科学を網羅する超エリートで、GGG日本支部において「科学」の二文字が必要になったときはおおよそ彼の出番になる。性格の方は……これが随分と変わり者で、GGG日本支部取っ付きにくさランキングで一、二を争うといわれている。今どき科学万能主義で、ちょっと油断すると延々科学の素晴らしさを語りつくす。そんな具合で、せっかくのイケメン(ヨウコ基準)にもかかわらず女の気配は感じられない。つまり、チャンスは十分にあるわけで……
『おいっ、どーなってるんだ君の心臓はっ。医務室に行った方がいいんじゃないのかっ』
ハレイを気持ちよく無視し、ヨウコは心の整理を付けながら、彼が一人になる瞬間を狙っていた。
落ち着け、落ち着けヨウコ。用件は簡単。一緒にランチを――
「ヨウコ姉さんっ!」
鈍い音とともにヨウコの警戒態勢は一瞬にして崩れ去った。
いきなり後ろから誰かに抱きつかれたからだ。GGG本隊員にこんな大胆な行動を起こすのは一人しかいない。
「シグちゃん」
鉄と汗の臭いが支配するこの「格納庫」には気が滅入るくらいミスマッチな、まだ十代かと思われる少女がヨウコに密着していた。予想通り。
イシマツ・シグ。GGG専属航空エンジニア。青春を鉄とともに生き、汗とともに消費した男どもに混じって、GGGが所有する戦闘機の整備をしてくれている。気になるお歳は、聞いてびっくり十六歳。なぜ彼女のようなうら若き乙女がこのような場に存在するか、詳しくはヨウコも知らない。ただウワサによると、彼女には天才的なメカニックの才能があり、それを聞きつけたGGGが特別にスカウトしたのだという。GGG採用試験に五浪して未だに入れないような人からすれば激怒しそうな話だが、実際彼女のスパナ捌きは尋常ではない。「実は鋼の国からやってきた神様の生まれ変わりです」と言われても、多分すんなり信じてしまう。そんな彼女が――
「来てくれたんですねっ。感激!」
「ははは……」
何でか知らんけど、ものすごぉくヨウコになついてしまったのだ。たまたまヨウコが格納庫に訪れただけでこの調子である。
「Gスワンの復旧は超ペキカンですっ! いつでもフライトOKですよっ!」
「そう。いつもありがと」
と、シグがじゃれついている間に目標の白衣が遠ざかって行くのが見えた。
視界から消えて行く。消えて行く。消えて行く。
『ヨウコ、愛しの彼が行ってしまうぞ』
「うるさあいっ!!」
あ。
やっちゃった。ついつい声に出して叫んでしまった。
工事現場と空港を足して割ったようなやかましさを誇る格納庫でも、そりゃあやっぱり結構な数の視線が寄せられる。
「……」
ヨウコはまずいと思った。なぜ。自分を見上げるシグの目に、うるうると泉が湧いていたからだ。
「ヨウコ姉さぁん、シグのことうるさいですかぁ……シグいらないですかぁ……」
「い、いや、その、あの、あのね……」
本気だ。どうも純粋を絵に描いたような彼女には、よくペースを乱される。
これって、自分が不純だからか……?!
「そ、そう、ハエが飛んでたのよ。耳元をブンブンね。うるさいったらありゃしないわ」
必死の言い訳とともに、誰かさんに向かって「うるさい」の部分をやたら強調した。
「それよりほら、一緒にお昼しない? もうそんな時間だし、ね?」
額の冷や汗が頬を横断して顎に行きつくまでの微妙な「間」の沈黙、
後、
「嬉しいっ! 感激っ!」
切り替わった。大したことは言ってないのに、なんかすごい大喜びしていた。
「行きましょ行きましょ! わーい」
「あ、タクミさ……」
シグに手を引かれ、白衣は遠ざかってゆく。ヨウコに背を向けたまま、彼はどこかへ行ってしまう。
こんなに近くにいるのに。ちっとも縮まらない彼との距離が、もどかしかった。

星の支配者は“彼ら”に威嚇射撃を試みたが、効果はなかった。
なので、いよいよ本攻撃に入ったものの、やはり効果はなかった。

「未確認飛行物体接近! 総員、ただちに第六番戦闘体勢へ移行せよ!」
警報機と通信機のダブルパンチが食事中のヨウコを襲った。といってもさすがは軍人、動転する様子もなく食べかけのミートスパゲッティを口の中にねじ込むと、人知を超える速度で食堂を後にした。
「頑張ってねーヨウコ姉さんっ! ふぁいとぉー」
のん気な娘の声援が、果たして本人の耳に入っただろうか。

地球外知的生命体による宇宙防衛ライン強制突破(攻撃の危険性がある場合)における戦闘処置――すなわち、第六番戦闘態勢。
それによると、GGG日本支部第一班リュウセイ・ヨウコのポジションは「戦闘機内にて待機」だった。
「どう? 攻撃は?」
「あかん。見事に突破されたみたいや」
機内にロクタロウの声が響く。マニュアルどおりならGGG本部から放たれた空撃ミサイルが対象を撃墜しているはずだった。しかし、結果は聞いた通り。
(なんて奴らなの!)
『侵略者とあらば、それくらいの装備はしてあるだろう』
(ねぇ、あんた同じ宇宙人でしょ! なんか情報とか持ってないの?)
『むちゃくちゃだな。どうして君は「宇宙人」を一括りにするんだ。私から見れば君も立派な「宇宙人」で……』
(あーはいはい、どうもすいませんでしたー)
『……とか言いつつ、私も銀河特捜局の捜査官だ。ある程度の異星人なら把握している』
(何ソレ! 早く言ってよ)
『しかし、さすがに船だけでは判断し辛いな。本人を見てみれば分かるかもしれんが』
(結局だめじゃん)
『ふん、宇宙は君達が考えている以上に広大な海なのだよ』
「ヨウコ隊員?」
通信機からロクタロウ。
「どないしたん? しかめっツラしよってからに」
「あー、ごめんごめん。イメージトレーニングを、ちょっと」
傍から見たらなんとのん気な軍隊だろうと思うだろうが、天才というのはおおよそ気難しい。こういう柔軟な姿勢が大切なのだ……ということに一応なっている。
「次、第二段階へ移行。ヨウコ隊員、頼んだで」
「オッケイ。やってやろうじゃないのっ」

“彼ら”は近づいていた。星の大地へ、着々と。大気圏に突入した“彼ら”の船は逆噴射し、着陸の態勢へと入った。
次に“彼ら”は計画に従い、装置を投下する準備を始めた。
と、
“彼ら”のレーダーに高速の飛行物体が――
「!」
船は飛行物体からの攻撃で少し揺れたが、大したダメージはなさそうだ。
それより不意打ちを食らったことに“彼ら”は騒然としていた。先のミサイルは早めにレーダーが捉えていたため、対処できた。しかし今の飛行物体は――
「……」
「ー!!」
“彼ら”は計画に支障をきたさない範囲内で、反撃を開始した。

「悪いねー。でもオイタが過ぎるよ、エイリアン」
鋼鉄の白鳥は、今日も全開だ。標的は高速で降下中だというのに、的確に全弾命中させてみせる。
少しの間をおいて、敵のビーム砲らしき機関が閃光を上げ始めた。
『ヨウコ、来るぞ報復が』
「分かってるって!」
敵船からビームが無造作に撃ち出される。だが、ヨウコはビーム砲の角度から弾道を予測して難なく回避した。
「何あの攻撃。やる気あるの?」
『どうも予定に忠実なエイリアンらしいな。見たまえ』
見ると、敵船の側面四ヶ所から巨大なコケシみたいなものがせり上がってきた。
「何?!」
「分析結果、兵器の可能性は3,4パーセント。何かの装置としてみるのが妥当だろう」
通信機。隊長の声だ。
「装置?」
「恐らくは侵略用仮設基地の支部だろう。中央のでかいのが本部で、そこらを拠点に攻めるって魂胆だ。前にもいたぜ、こんな奴」
経験豊かな隊長は貫禄たっぷりに言う。
「で、どうするんですか」
「うむ、コケシが本体と分離する前にシステムをぶち壊せば、このまま山中に落ちて被害は最小限。あの装甲を破るには三機による一点集中攻撃……3Cだ」
「了解」「了解」
Gスワンのヨウコ、Gコンドルのケイゴ、そしてGファルコンの隊長はすぐさまフォーメーション3Cの体勢に入る(ちなみにユウジはまだGコンドルを与えられていないので基地待機)。が、プロ三人が攻撃を加えようとしたそのとき、
がくっ
何かが外れたとき特有の、場合によっては背筋が凍る嫌ぁな効果音が全員の耳に入った。
「遅かったか!」
四つのコケシが本体を離れ、四方に散らばっていく。
「隊長!」
「何だ」
ロクタロウの荒い声。
「分離しよった装置ん中で、北側の奴の落下予測地点に、村がありますぅ!」
「何だとっ!」
緊急事態。一気に緊張が高まる。
「他の装置は大丈夫なんだろうな!」
「あ、はい」
「よし! ヨウコ、北側はお前に任せた。軌道を変えろ。俺とケイゴは本体を叩く」
唐突の重大任務。しかし、今は心の準備などしている暇はない。地上まで後わずか。現状、リアルタイムで進行中。
「りょーかいっ!」
気合を入れ、ヨウコは新たな標的に狙いを定める。
ミスは許されない。今ある弾薬と、自分の腕に、地上で暮らす人達の命がかかってるんだ!
「くらえぇっ!」
ヨウコは撃った。コケシの先端目掛けて、ありったけの火力をもってして。



今回の戦闘は極秘裏で行われていたため、本体及び四つの分離体が墜落したときの報道陣といったら、それはそれはテンテコ舞いだったという。そしてヨウコも当然、そのお祭りには巻き込まれた。
「今回飛来したのは未確認飛行物体でしょうか」「危険性はあるんですか」「中にはエイリアンがいるのでしょうか」「彼らの目的は一体何なんでしょう」「四つの分離体についてはどのような解釈を」「危うく村に直撃しそうだったというのは本当ですか」「この件についてGGGは何と」「今後はどのような対策を」
ヨウコは村を救った。それが仕事だから当然なのだが――脇目も振らず仕事熱心になられるのも困ったものだ。ヨウコはひどく狼狽してしまった。
『ヨウコもえらい人気者だな』
「お願い、黙ってて……」
――目の前には、異星人の航宙船。全長およそ45メートル。戦闘機二機による一点集中攻撃によりダメージは与えたものの、致命傷には至らず、日本時間午後三時八分、某山中に墜落。現在一時間が経過も、未だ沈黙。航宙船周辺には電磁バリアが張られており、通信を除いて干渉は不可能。GGG日本支部はレベルA警戒態勢を維持。
まだまだ問題は山済みだ。前線テントでヨウコは頭を抱えた。
「ほら」
目の前に缶コーヒーが突き出される。隊長だった。
「よくやったな、ヨウコ。俺の奢りだ」
「あ、ありがとうございます」
こんなときにのん気なものだと、(普段の自分は棚に上げ)ヨウコは思った。いや、今に始まったことではないけれど、何かといえば隊長は穏やかだ。特に、事件が重大であればあるほど。ケイゴは隊長のそんなところが少し不服のようだったが――
「どうだった? 村に行ったんだろ」
「はい。ひどい目にあいましたけどね」
いきなりの事態だ。避難を促すのも楽ではない。ちなみにGスワンは村近くの分離体(北)落下地点に停めてある。
「コケシの精密な分析結果が出た。生命反応はなく、支部というのはハズレだったようだ。外見は全部同じだが、構造や質量は二通りあるらしい。奴(やっこ)さんも妙なことしてくれるよな」
深く考え込む隊長。宇宙人の考えることはわからないといった面持ちだ。
(ハレイ、なんか心当たりないの?)
『やはり宇宙人の考えることはわからないな』
(……)
びー、びー、びー
ぴぴぴぴぴぴ……
本日二度目のダブルパンチ。ヨウコと隊長の通信機が別の発信音を鳴らしている。
「どうしたロクタロウ!」
「隊長! エイリアンが動き出しはりました」
「何だと! ヨウコは?」
「Gスワンから……自己防衛システム! 村で何か起こってる!」

数時間前まで当たり前のようにあったものが、ことごとく破壊されていた。
燃え盛る民家の破片。クレーターだらけの地面。煙が喉に進入して暴れだす。
「他人(ひと)の星で好き勝手やってくれんじゃねぇか」
「村でよかったですね。大都市だったら避難が間に合ってませんでした」
不幸中の幸い。だが不幸中であることには変わりない。なにせ、侵略目的のエイリアンが目の前の石垣の陰にでも潜んでいる危険が、常に付きまとっているのだから。少し遠くから爆音らしきものも響いてくるし。
と、
『ヨウコ、近いぞ!』
ハレイがそう言ったときにはもう、隊長は構えていた。
「ヨウコ!」
「!」
Gホッパーを向けた先にエイリアンが――
レーザー音。
相手は何の躊躇もなく撃ってきた。警戒すらしていないようだ。
「この野郎!」
隊長がGホッパーを立て続けに放つ。ヨウコもそれに続いた。エイリアンの体に次々と火花が咲く。
「!!」
こちら側の的確な狙撃に少しは脅威を覚えた様子で、奴は撤退した。
「待て!」
二人はエイリアンを追いかける。いくつか角を曲がると、奴の行き先はやはり本体だった。
奴が解読不能の言語で何かを叫ぶと、本体と外界を隔てるバリアに、人ひとり通れるくらいの小さな通り道が開いた。
「行くぞヨウコ!」
「ま、マジですか」
隊長の意図はつかめる。しかし、それを実行に移すのは幾分勇気を必要とする。
ヨウコは体力には自信がある。が、こんなに必死になって走ったのは久しぶりだと、一瞬だけ思った。文字通り、命懸け。別名、無謀。だが、この機を逃せば奴らの計画が始動してしまうだろうし、他の作戦も浮かばない。
二人はエイリアンのすぐ後に続いて、その通り道をくぐった。
直後、バリアは閉じた。実質、奴らの箱庭の中に閉じ込められたことになる。
「もう後には引けねぇな」
「……」
隊長の過去はよく知らないが、案外戦隊モノのレッドでもやっていたのかもしれない。
『……宇宙人を一人見つけた……』
(えっ)
『テレパシーで、あのエイリアンがそう言った』
(どういうこと? あたし達、二人いるのに)
『さあ、分からん……ん、ヨウコ、何かおかし……』
(ちょっと、どうし……)
ヨウコは息苦しくなって胸を押さえた。頭痛もひどい。めまいがする。なんだか体中の神経を押さえつけられるような感覚。毒ガス? 自然と息が荒くなる。あいつらめ、直接戦闘なら負けないのに。くそ……。
最後の意識を振り絞って、体を向ける。
「た、たいちょ……」
ヨウコの目の前で、隊長がばったりと崩れ落ちる映像が、ぼやけた。

肌寒さで目が覚めると、ヨウコは椅子に座らされていた。耳には機械音。目の前には――
「!」
『ウェルカム。ゲスト』
あのエイリアンが、自分の目の前に立っていた。無機質な仮面に、複眼のごとく光る目と牛のそれのようにたくましさを象徴する角が付いた顔。肋骨がまがまがしく突き出た胸板に、大きめの缶をはめ込んだかの風貌の両腕。
薄暗く視界は不鮮明。ただ見えるのは正面に立つ偉そうなリーダー格と、周りを取り囲む下っ端っぽい兵隊達。
『ここは我がフロンティア星開拓部隊の前線基地だ。按ずるな。同士には手厚くもてなすのが我々のルールだ』
テレパシー。いつもハレイがするのと同じ感覚。
「ちょっと、どーいうことよ!」
フロンティア星人は黙っている。
「隊長はどこへやったの!」
フロンティア星人は黙っている。
「あんたたちって、やっぱり地球を侵略しに来たの!」
フロンティア星人は黙っている。
「ねぇ、何とか言いなさいよ!」
『ゲスト、どうかしたのか?』
「……」
宇宙のどこを探しても、これほどまでに繋がってない会話は見当たるまい。というより、お互いに一方通行だ。
『お前が話したいのは、私だな』
「は、ハレイ?」
『そう、私が呼んだのはあなただ、ゲスト。心から歓迎しよう』
同時、周りを取り囲んでいた下っ端(に見える)フロンティア星人が、歓迎の意を込めて一斉に右腕を突き上げた。
「な、何よそれ……」
頭から湯気を揚げるヨウコをよそに、異星人二名の対談が始まった。
『尋ねたい。お前達の目的は、この星の侵略か?』
『侵略とは人聞きの悪い。我々はただ、この星の「開拓」がしたいだけだ』
「か、開拓……」
ヨウコの脳内辞書で「開拓」といえば「野山を切り開いて新しい土地を耕すこと」とあるが……。
『お前達はこの星の住民が発信した交信電波を拒絶したという。これは航宙士としてのマナーに反してはいないだろうか』
その行為は実に無礼だと、(以前の自分は棚に上げ)ハレイは抗議した。しかし――
『む、あれは交信電波だったのか。あんなデキソコナイで我々と交渉しようなどと……それこそ無礼というものだ』
「な、何ですって?!」
ヨウコはフロンティア星人に飛びかかろうとしたが、停止せざるを得なかった。奴が、右腕に付属されたビーム砲をすでに突き出していたからだ。
『野蛮な下等生物め』
「この……」
『ヨウコ! 抑えろ!』
拳が震えた。自分の星をここまで馬鹿にされて黙っている奴はいない。けれど、今ここで自分が行っても何にもならないことが明白な分だけ、全身をやるせなさが駆け回った。
『ヨウコ……』
「……」
『フロンティア星人、地球人類の意思を私が代弁しよう。今一度、この星の政府と掛け合って頂きたい。それができないならば、即急に撤退を要求する』
実際ハレイが分かるのはヨウコの意思だけだから「地球人類の意思」というとやや乱暴かもしれない。だが、彼の言うことは間違っていない。遥か太古より交流を続けてきた異星人だからこそ、なのだろうか。
『ゲスト。その前に私からひとつ質問をさせてくれないか』
作り物のような複眼が、ハレイを見据える。
『何ゆえあなたはこのような下種と行動をともにするのだろうか』
あっさりと、言い放った。
『何かメリットでも? 自分より劣った存在なのだぞ。そんなもの、下等生物に決まっているだろう。そんなゴミども、宇宙には至るところに蠢いているではないか。我々の計画を教えようか? 現在この星を支配している下等生物は近いうちに殲滅するつもりだ。野蛮なうえにデキソコナイの科学力で我々にはむかったのだからな。我々は我々にとって不要なものなど興味はないのだ。この星は我々の用途に合わせて「開拓」させて頂く。それでも下等生物のおもりをするというなら、知的生命たるあなたも/』

『ふざけるなっ!』
――、一喝。
「……ハレイ?」
聞いたことのない声だった。でも、確かに声色は自分の同棲相手。やたらと口うるさく、迷惑ばかりかけて、鬱陶しくてたまらない、肝心なときに頼りにならなくて――違う。
ハレイという男の、ヨウコの知らない部分。一心同体でも、分からなかった彼。
『私は知っている。この星の人々は毎日を生きている。日々進歩を重ねながら、新しい自分を築き上げている。私もこの星に来て間もないが、彼らの生命力がひしひしと伝わってくる。何が下等だ。お前らはそんなに上等なのか? 戦闘機に攻撃一発当てられないくせに? 「開拓」だ? 言っておくが私達にとっては「侵略」でしかない。他者の文化を認めようとしないお前たちには、異星との交流なんて絶対無理だ。気に入らない奴は皆殺しか? 子供かお前らは! そうやっていくつの星を滅ぼしてきた?! お前ら、一回自分の星に帰って頭を冷やせ! それでも「侵略」を続けるというのなら――、――私はお前たちを叩き潰す!!』
全身全霊を以ってして、言い放った。
フロンティア星人はしばらく沈黙を保っていたが、やがて吹っ切れたように叫んだ。
『るっせえな、うるせえんだよっ、下等種族があああああ! 義侠ぶってんじゃねえええええ!』
プライドを捻じ曲げられ、本性を露にした男が、そこにいた。
奴は左腕の缶を振り上げると、それをドリルに変形させた。
『ちったあ自分の立場をわきまえろぉ。今のてめぇらにはなぁ、穴あけられるか、黒焦げになるか、どっちかしかねぇんだよぉっ!』
周りの連中が一斉に武器を構える。両腕に装着済みの缶はレーザー・ドリル変形キットだったようだ。
『グッドバぁイ。愚かなるゲぇスト』
『……』
が、
その、絶妙なタイミングで、その一報は届いた。
ぐぃん、ぐぃん、ぐぃん
フロンティア星ならではのサイレンらしい。皆がモニターに注目する。
『非常事態! 敵襲で/』
通信を試みたフロンティア星人は倒れた。代わりに映ったのは――
「隊長!」
「ヨウコ! そこにいたのか」
隊長の制服は汚れていたが、たいした怪我はなさそうだ。
『な、なぜだぁぁぁぁぁ!』
フロンティア星人は全身を震わせた。
『麻酔で三日は動けないはずだろぉ!』
「隊長、麻酔は?」
「ああ、あの毒ガスか。あのとき、変な匂いがしたんで息を止めてたんだよ。案の定、ヨウコはふらついてたし。この状況で考えられるベストな作戦は一つ……やられたフリをして敵の陣地に潜入。ま、古典的だが」
何でもねえとでもいうふうに、にやりと笑って見せる。
これが――
そう、これが隊長だった。彼についての曖昧な情報がフラッシュバックされる。
ワンダバ・ソウスケ。GGG日本支部第一班隊長。若手時代は世界中を転々と異動し、数々の伝説を打ち立てた最強の男。昇格してからはすっかりおとなしくなり、部下を穏やかな目で見守っている。が、ひとたび大きな災いが襲うと昔の断片を垣間見せる。ちなみに既婚。美しい奥さんと反抗期の娘がいるとか。
『敵は全滅しているようだが……どういうことだろうか』
「ど、どうやって倒したんですか」
今度はハレイからの質問。先ほど一戦交えたときは撤退させるのがやっとだったのに、今は圧倒している。
「油断してたのか毒ガスを過信してたのか知らねえが、こいつらは俺を拘束しなかった。それが運の尽きだ。隙を見て生体スキャンした後、そいつらの「弱点」を分析してケミカル・カートリッジで――」
隊長の後ろに慌しくフロンティア星人が現れたが、隊長は一発でしとめてしまった。
「ケミカル・カートリッジ4.6。最大出力なら一発で失神するぜ」
ざっ、とヨウコの周りが一斉に引く。
『バカぁっ! 早くそいつを殺せぇっ!!』
遅かった。ヨウコは採用試験トップ生。恐怖を感じたのが運の尽き。ワンダバ・ソウスケを敵に回したのが運の尽き。
早撃ち、
早撃ち、
早撃ち、
『クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
銃声。
沈黙。
『こんな特技もあったんだな』
(これくらいは当然よ)
荒い息を抑えながら、ヨウコはモニターの向こうの隊長を見る。命の恩人、だ。
「外のケイゴには連絡してある。俺達はさっさと脱出だ。とりあえず、そっち行くから待ってろ」

同じレベルA警戒態勢でも、今と先では明らかにピリピリ度が違う。何せ、敵本拠地に行動隊長(+α)が潜入捜査をしているのだ。それもアドリブで。
戦車も戦闘機も総動員して、臨戦態勢を継続。テレビ局は実況生中継など始める始末。
待機して一時間。ようやく通信が入り、直後、本体の一部に小さな爆発が生じた。
「おっと、今、爆発ですか? 爆発が起きました! 一体何が、あ、ご覧ください! 地球人が二人います! 報告によるGGGの二人の姿が、地上10メートル、宇宙船の壁にあいた穴から覗いています。二人は元気そうです。宇宙人の姿は見えません。地球人二人だけが、遠くからですが確認できます。えー、今GGGの戦闘機が救助に向かっています」

「いつにも増して怒り気味でしたね、ケイゴ隊員」
通信を終えたヨウコはリモートコントロールでGスワンを動かしつつコメントした。バリア発生装置(らしきもの)は解除したので、後はこれに乗って帰ればいい。
「出番が少ないからだろ。それより気になるんだが――」
隊長はヨウコをじっと見る。
「俺とお前で待遇がえらい違ってたのはなぜだ? 俺は倉庫だかトイレだかよく分からねぇ場所にほうり投げられてたが、お前はボスらしき奴らと一緒にいたじゃねぇか」
「え、えっと……」
回答に詰まった。冷や汗が体内から急上昇し、乙女の危機的状況を演出する。
「そりゃもう、あたしの美しさのなせる業ですね。敵のボスに求婚されちゃって、いやー参った参った」
『かなり苦しいな』
(うるさいっ!)
私の言葉を鼻で笑いながら、「もう一つ」と隊長は続ける。
「俺は息を止めてたからよかったものの、お前はもろに吸ったはずだ。あの毒ガス、計算では三日はおねんねのモーレツな代物だぜ」
「……」
実を言うとヨウコ自身にも分からない。だが、流星族の特異体質なのか、ハレイと一心同体だからなのか、どっちにしろ明かすわけにはいかない。かと言って、言い訳も思いつかないし……。
「実はお前、宇宙人か?」
半分正解。
隊長の視線が痛い。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、
「……ま、深いことは追求しないが、なんか悩んでるんだったらいつでも相談に乗るぜ」
た、助かった……。この人の部下で、ホントよかった。
『ここまできて謎を解かないのか、この男は』
(い、いいじゃないの、別にっ)
「ただなぁ」
静まりかけた心拍数が一発で吹っ飛んだ。
「遅刻はまずいぞぉ。「教育係」だろ。しかも三日連続で」
「! い、いやっ、そ、そ、それは、そのっ」
お見通しだった。小学校の先生に責任を追及されてるみたいだ。こればかりはどうしようもない。
「明日からトイレ掃除一週間な」
「う……」
ヨウコは深いため息をつ/唐突に――!

轟音。

振動。

絶叫。
『かかかかかかかかかか下等種族どもおおおおおおおおおお! ぶっっっっっ潰してやるああああああああああ!』

「あいつ……」
「ちっ、どうやらボスは人一倍強靭だったらしいな」
鈍い騒音がこだまして、本体が傾きはじめた。
そんな状況の中、救助に来たGスワンを何とか近づけようと努力するヨウコ。だが――
「うわっ」
本体が飛んだ。

「おい! 何が起こってるんだ!」
ただでさえ怒り気味のケイゴがさらに声を荒らげる。
「本体、分離体、ともに上昇! あっ、四つの分離体が本体に集合しとる!」
計五つの震源を持った大地震は、確実に前線テントを直撃している。立っているのも不可能な状況だ。
「どういうことだ!」
「わいも知りたいわ!」

「ただいま、地上で激しい揺れが起きている模様です! その惨状が上空からも見て取れます! 原因はこの宇宙船にあると思われ、おっと、今、今四つの飛行物体が本体に向かって飛んで、おお、本体のほうも変形しています! 宇宙船の上部が左右に割れて、そこからなんだか、頭のようなものが覗いています! 下のほうも変形をして、そこへ、飛行物体がふわりふわりと飛んできて、あっ、合体します! 二本の柱のようなものが、おっと、本体の左右にも同様に、これは、これは、もしかして――巨大ロボットでしょうか!!」

「こいつはちょっと、予想できなかったぜ」
「でも、今のうちに……」
ヨウコ達のいる穴は仁王立ちする巨大ロボットの脇腹あたりに位置する。そこを目掛け、一気にGスワンが上昇。
「乗り込みましょう」
ヨウコは助走距離をとると、走り幅跳びの要領でジャンプ! 危なっかしく白鳥の翼に着地した。
「隊長!」
「ヨウコ! 後ろ!」
「え?」と振り向いたときにはもう遅い。巨大ロボの右手がGスワンを引っ掴んだのだ。
「きゃあ」
「ヨウコ!」
手は乱暴にGスワンを持ち上げる。必死にしがみつくヨウコだが、無力なことこの上ない。
「ちょっと、あたしのマシンに何するのよ!」
『カトウシュゾクぅ、カトウシュゾクぅっ、思い知ったかぁっ!』
フロンティア星人はヨウコの叫びを無視して怒鳴り散らす。
『我らが最終兵器、パイロの力を見たまえぇっ! こんなデキソコナイでぇ、この私にぃ、勝てるとでも思ったかあああああ!!』
激昂するフロンティア星人は、勢いそのままにGスワンをほうり投げた。

風圧が――手がもげる! 痛っ! 脱臼したか?!
『ヨウコ、バトンタッチだ!』
「ええ?」
『この前のように、両腕のブレスレットを交差させるのだ』
「そ、そんなこと――」
そんなことをするためには、今翼を掴んでいる手を離さなければならない。空中にほうり出されるのだ。
「できるわけが、ないじゃない――」
『このまま掴んでても地面に落ちてぺしゃんこになるだけだ。Gスワンなら私が助ける。ヨウコ!』
「――」
『私を信じろ!』

夕焼け色に突如射し込まれる青い光。視界のすべてを飲み込み隠したその光が晴れたとき、巨人は君臨していた。
巨人は手の中のGスワンを下ろし、巨大兵器に振り向いた。

「ああっ! 出ました! 先週、都心に出現して巨大怪獣を倒していった謎の巨人が、再び! 私達の前に姿を現しましたぁ! 今回も巨大な敵を前にして、同様に撃破していくつもりなのでしょうか?! お互い、睨み合って、今にも取っ組み合いを始めそうな緊迫した空気が漂っています!」

「相変わらず、違和感に満ち満ちた空間ね」
体が水に溶けているような感触。プールか温泉ならゆったりできるが、残念ながらここは戦場だ。
『私は常時この状態なんだぞ。少しは私の立場も踏まえてだな……』
「あーごめんごめん」
正面には相手側の最終兵器らしい巨大ロボット、パイロ。それを操縦しているであろう、フロンティア星人。
『ゲストぉ、てめぇは甘いんだよぉ。捨てちまえぇ、弱い奴なんてぇ。殺しちまえぇ、カスどもなんてぇ。明らかに自分より劣った奴らと仲良しごっこしてぇ、なんになるんだぁぁぁん?』
テレパシー。相当に荒れている。
『お前らのような偽善者がぁ、宇宙をだめにしてるって分かってるのかぁぁぁぁぁ?!』
『その言葉、そっくりお前に返そう!』
パイロが動くか否や、ハレイが飛び掛かり、動きを封じる。そして右手をパイロの脇腹あたりに伸ばそうとした――が、
『うぐぁっ』
ハレイの腹にパイロが膝蹴りを叩き込んだため、ハレイは小さく吹っ飛んで倒れてしまった。
ここぞとばかりにパイロは太い足でハレイを踏みつける。悶えるハレイ。
『だからてめぇはぁっ、甘いって言ってんだぁよっ! さっさとぉ、くたばりなっ!』
「ハレイ!」
何度も、何度も、ストレスをぶつけるかのように繰り返す。そして、もうそろそろと思ったのか、パイロは右腕を大きく振り上げた。
『てめぇの生温い頭に穴あけてやるよぉ』
右手の装甲が分解したと思ったら、中からそれは長いドリルが現れた。高速回転を始めたそれを、パイロはハレイ目掛けて振り下ろす。
「ちょっと、ハレイ!」
『……』
ドリルは突き刺さった。地面に思いっきり食い込んで。
『なんだとぉっ!』
『瞬発力には自信がある。なめてもらっては困るな』
一瞬のうちに後ろに回っていたハレイは、パイロの脇腹の穴に手を差し伸べる。人質は、救出した。
「ハレイ?」
『ああ、これで思う存分やれる』

疑えるものは疑え。それが指揮官の基本だ。
行動隊長たるワンダバ・ソウスケも指示を出す立場上、この教えを踏襲してきた。信用の安売りは大いに危険である。
さて、この場合はどうだろう。一度我々を助けてくれた(ように見える)未知の地球外生命体が、再び自分を助けようとしている(ように見える)。自分は――彼を信用してもいいのだろうか。
「救世主は善意でことを成したと思いたい、か」
一笑。
そしてワンダバは乗った。

光を放つ渾身の右ストレートがパイロの頭を直撃する。
が、パイロは恐ろしいまでの強度を誇る装甲に守られ、よろけただけだった。
「なんて硬い……」
『どうやら打撃では勝てそうもないな』
ハレイのブレスレットに輝きが増す。光の剣、シャイニングエッジ。
『たあっ!』
ハレイはそれを頭上に掲げ、振り下ろした。が、パイロのドリルによってそれを阻まれた。
がぃん
鈍い音とともに両者はぶつかり合った結果、シャイニングエッジは消え、ドリルは砕けた。
相打ち。
『くそ……』
「でも、相手の武器は砕いたんだから、何とかならないの?」
『……何とか、する』
そんなハレイをよそに、フロンティア星人は信じられないことを言う。
『くくくくくははははは……下等種族よぉ、もう終わりかぁ? 悪いがこっちはぁ、これからが本番なんだなあああああ!』
まず、右腕が砕けたドリルを収納すると、パイロは上昇。両手と両足それぞれのパーツが浮遊して入れ替わると、奴は再び降り立った。
『何のまねだ……/がっ!』
「ハレイ!」
パイロの重いパンチが、ハレイを打った。そう、さっきより確実に重い。
『足のパーツを腕に回したことにより、パンチの打撃を上げたか』
『そのとぉりっ』
重圧なパンチがハレイを襲った。回避が間に合わず、ハレイは派手に吹っ飛ばされた。
『ひひひひひ……いいざまだなぁっ』
パイロがゆっくりと近づいてくる。そうだ、今の奴は――
『だああっ!』
ハレイは腰をかがめて突進した。
足の代わりに腕のパーツを使っている今の奴は、大いに鈍足なはず。ならば、足に攻撃を集中すれば――
『そうはいかねぇ』
パイロは――
――「腕を切り離し」て急上昇。ハレイの攻撃は、空振りに終わった。
『何っ!』
そして、「切り離された腕」は浮遊し――
――上空のパイロの「足に合体」。
そして――降下。
「何、あれ……」
奇々怪々。そんな言葉が似合うパイロ第三形態は腕がなく、代わりに足が約二倍の長さになっている。
『ふざけてんのか』
どういう意味でハレイがそう言ったのかは分からない。ただ確かなのは、ハレイがこの第三形態に押されていたということだ。自分の身長とほぼ同じ長さの足が、容赦なく迫ってくる。
「ちょ、大丈夫?!」
『……』
足が二倍なら当然、腕はない。ジャンプして上半身を攻めれば勝てるが、敵の足はその隙を与えない。ハレイの体力も限界に近かった。
ダメージが蓄積されていく。気が遠くなる。チャンスは、チャンスはないのか……
「ハレイっ!」
ぼんっ、と
小さな爆音。敵の内部から。
一瞬、
だが、それで十分。
ハレイの回し蹴りを受け、長身パイロはなす術なく転倒。轟音を響かせ山に埋もれた。
パイロに追い討ちをかけるように、ハレイは馬乗りになる。そしてパンチを流星群のごとく浴びせた。
これには装甲板も耐え切れず、少しずつひしゃげ始める。
『ぐがあああああっ! ならばっ、ならばっ、最後の切り札だぁっ!』
「まだあるの?!」
パイロの両手両足が分離、上昇し、上空200メートルあたりで固定する。身軽になった胴体もハレイから抜け出し、空中へ。
そして、合体した。それは一本の槍のように。
「あれが、切り札?」
『! 来るっ!』
――/突/――
つい刹那前までハレイの胸があった空間を突っ切って、槍は槍らしく猛進した。そしてハレイの後ろで、山を削ったクレーターの中央に、パイロはその体を埋めている。
「あたし、見えなかった……。ハレイ、あんたすごいね」
『私も見えなかった。今のは、まぐれみたいなものだ』
「……なんであんたはそう、人の不安を煽るかな」
パイロはすぐ体勢を立て直し、第二波の準備にかかる。
『くくくくくははははは、これで終わりだ! 下等種族ぅぅぅぅぅっ!』
当たったら、終わりだ。クレーターの大きさから判断できる。胸板に穴どころの騒ぎではなく、確実に上半身と下半身が分裂する。
「ど、どうするの、ハレイ」
『方法は、一つしかあるまい』
「え?」
『“受け止める”』
両手が、光る。
――/突/――
光。
光。光。光。
ハレイの両腕とパイロの先端が、唸りを上げて衝突する。
ハレイとパイロが、エネルギーを噴出し衝突する。
ハレイとパイロが、衝突する。
そして、
弾き返された。パイロは空中を不安定に舞う。
『隙だらけだ』
『ばかなああああああああああっ!』
ハレイは右足を振り上げる。そう、それは――

““打””

――カカト落とし。
『カトォォォォォシュゾクゥメェェェェェェェェェェッ!』
パイロは墜ちた。フロンティア星人は堕ちた。
そしてハレイはまた、光の中へと姿を隠した。

薄暗い林の中、獣の鳴き声がせめぎあっている。野生の営みが未だ回り続ける自然。
一人の女性地球人と、一人の地球外生命体が、地に直立して向かい合っていた。と言っても、後者は会話と状況をスムーズに進行するためのホログラムなのだが。
『しかし、戦いの最中に敵の体内で爆発が起きたようだが』
ハレイが言ったのは、戦いの決め手になった「隙」だろう。あの爆音の後、敵の動きがわずかながら鈍った気がする。最後にハレイが奴の突撃を弾き返せたのも、出力がだんだん低下していたからだ。エンジントラブルか何かだと考えるのが妥当だろうが。
「多分、隊長だと思う」
ヨウコはぽつりと返す。
「あの人、転んでもただでは起きないから、脱出するときに時限爆弾でも仕掛けておいたんじゃないかな」
『ふっ、恐ろしい男だ……』
彗星人ハレイに地球人のような口はない。けれど、ハレイはふっと笑った。なんとなく、そんな空気を漂わせて。
普段は穏やかな人物も、局面が変われば別の顔を見せる。そう、例えば――
「あ、そういえば」
『何か』
「あんたにもあんな一面があったとはねー。未確認の宇宙人相手に大激怒っ。熱血教師ばりに説教かましてさ」
『あ、あ、あれはだな、その……』
まごつくハレイ。何を言ったか覚えてない、そんな感じ。
『この星とは深い交流があったのもあるが、私はただ、異星の文化を認めない輩が許せなかっただけで、その、いや、高慢だったかも知れない。いや、申し訳な/』
「ありがと」
『え』
「スカッとしたな、ホント。あんたもさ、やるときゃやるじゃん」
会話と状況から明白なことには、ヨウコは嬉しかった。それはもう、にっこりと。
同棲なんて嫌だけど、異星人なんてまっぴらだけど、彼とならなんとか、やっていけそうな気がした――。

ぴぴぴぴぴぴ……
「あー、やばいやばいやばいっ! どうしよどうしよーっ!」
慌しさ指数はGGG日本支部基地の中でも一番。
『これで一週間連続か。ヨウコ、ひょっとして記録でも狙っているのか』
「うるさぁぁぁーいっ!」
乙女の朝は絶体絶命だった。


<次回予告>
『過去を知るのは大切だぞ、ヨウコ』
「だからって、なんであたしのアルバム見てるのよ」
『ふむふむ。ところで、このやたら映ってる男の子は誰なのだ?』
「それ、あたし……。それより、あんたのアルバムも見せなさいよ」
『ま、待て、やめないかっ! こら、ヨウコ!』
次回、“星の軌跡”。
「きゃああああああああああ!」
『だから言ったのに……』

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