Get it up 4 Love



マティーニはウォッカで作らない。マティーニはシェイクで作らない。だけど、そんなものよりももっと効き目がある魔法を知っている。それは・・・。

 スラム街「LN'P」通り。それを大通りに沿って北に下がっていくと、街からあぶれた人々が、マッチ箱のようなボートハウスに住んでいるのが分かる。
そして、その中のボートハウスの中の一つ。キッチンに、二人の男女がいる。
 一人は女。カウンターにだらしなく体を投げ出している。黒のタンクトップと、まるでコロンボのコートのように使い古した黒いライダースーツが似合う女。顔つきも、猫科の猛獣を思い起こさせる精悍さがある。目までかかった乱れがちな髪とだらけた態度が台無しにしているが。そして、彼女は普通の人間とは少しばかり違うところがあった。頭からにょっきり生えている兎耳。そう、ウサギ耳のかわいさが彼女の精悍さも、りりしさも、その他すべてのトンがった部分を台無しにしている。彼女はウサギをベースにした改造人間。名はトヴァ・マシロ。彼女はその辺のことを多くを語りたがらない。ただ、分かっていることは、彼女に生を与えた奴は、みんな天国へ行ったということ・・・。
「なぁ・・・。」
 ウサギ女はつぶやいた。
「あぁ? 」
グラスを磨いていた男が返した。黒めがねに黒スーツ。赤ネクタイの長身アフロ。トヴァの相棒兼武器調達屋である時計屋だ。
「マティーニ、っつったよな。」
「言ったが? 」
目の前のグラスを突っつきながら、トヴァはぼやく。
「オリーブが入ってないんだけど。」
「お前がそこまでこだわる伊達者だと思ってなかったんだ。」
「ついでに、シェイクじゃねぇ。ステアするもんだろが。」
シェイカーを突っつきながら、トヴァは続ける。
「するんだよ、シェイクは、俺のとこじゃ。」
トヴァは思い切りアタマを抱え込んだ。露骨にため息をつく。
「おまけにこれは、ジンベースじゃねぇ。ついでに言わせてもらうなら、ウォッカもベルモットもサケも入ってねぇ。いつの間にマティーニはソフトドリンクになったんだ。」
「そういう台詞は、稼いできてから言え。」
トヴァは露骨にため息をついた。現実問題として、トヴァの財布には、実際、金が入ってなかった。そりゃ、ちょっとこっちが乱暴すぎたのは分かっている。ちょっとあごをなでるつもりが、思いっきり全治二週間の怪我になってしまったことも知っている。しかし、どうしても分からないのが、それとトヴァが職務停止になったことの関連性。
「実際。お前はいつもやりすぎてる。今回も、お前国営放送の集金に行ったよな・・・。」
「ああ。」
「実際、国営放送の受信料集金で、十人もは病院送りにならねぇ。」
「ひどい奴だな。そんなに病院に送ってない。マヌケなバカが手榴弾抜いて、抜いた腕が横にいた奴のヤッパに当たって、痛! とかっている間に、手榴弾が地面に落ちて全員自爆。というか、月々2000イェン、払えない奴は地獄へ行ったほうがいい。この世はタフで優しくないと生きられないようだが、2000イェン出し渋る奴は間違いなく生きている資格がねぇ。」
「とは言ったものの、お前そのものがたががマティーニに金払うだけの余裕がなくなってるじゃねーか。」
「だからオタクんところに来て酒せびってるんじゃないのよー。」
時計屋、あちゃーと首を振って・・・。
「マシロ・トヴァは改造人間である。彼女を改造した悪の秘密結社はもう滅び去った。これ幸いと、トヴァは今日も惰眠をむさぼるのだった、か? ふざけんな仕事しろトヴァ! 」
「うるせー。手前ぇがやってくれよ。」
「いいヤマがあるんだよ。お前向きの。」
「何だ? 白わにが尿道結石でも起こしたのか? 」
「その通りだ。」


続く