子犬、手錠から手をはずしたクリオネに怒鳴り続ける。
貴様、ぼくを! いや本官をなめているのか! こうなったら・・・
「魔法の力で何とかするのか? ピリカピリララポポリナペペルトか? バカかお前? いやバカは俺だ。帰るぞクリオネ。」
クリオネ、手錠がつながったままの子犬を引きずって帰ろうとするが、とてもじゃないが体格差がありすぎてそれどころではなく。
離しなさいよ。いやそれよりも・・・押し問答をするクリオネと子犬。
しかし、そのうち、クリオネが「あれ、よく見るといい男じゃん。」
顔を赤らめる子犬をほっといて、篭手続ける。
「待て、セロケースは置いてけ・・・。」
「しつけーんだよ。お前はキューカンチョか?
」
「私だってこんなことはしたくない。建前上市民に対する安全を守るための危険物回収・・・のはずだけど、尻拭い・・・いや、どぶさらい・・・そんなとこだ。」
首をかしげるトヴァ。
「・・・実は、そのセロケースの中身は、諸説紛々でな。末端価格一億のアイスキャンディ。目薬。どこぞのマッドサイエンティストが作り出した眼球端末。某共産国から流れてきた生物兵器。白血病切り札の人口脊椎。グレイアッシュ。お気に召すまま、選り取りみどりなうわさが流れている。」
「で? 」
「私見を許してもらえれば、ばかげたうわさだと思っている。しかし、『捜査のイロハよりワインのテイスティングのイロハの方をよく知っている』ような上司が、気にし始めたんでな。しかし、そんな下らんことで波風を起こしたくない。お前と違って、まだ人生は楽しみたいんでな。それに・・・。」
声を一区切りさせて、篭手はささやく様に言う。
「ひょっとしたらお前が犯人役にされた、あの事件のタネとなった機密かもしれない。」
一瞬、ドアの方への歩みを止めるトヴァ。しかし、すぐに歩き出す。それを引きとめようとする篭手。
「おいトヴァ。」
「そっちこそ、こんなガラクタに費やす時間はねぇと思うぜ。大体中身の検討はついてる。」
「えっ? 」
「こんな話を知っているか? あるところで、少年がバナナの皮を洗ってた。実じゃねぇぜ。ゴミ箱へ直行するバナナの皮だ。それを拾い集めて、まるで子猫を洗うように丁寧に洗ってるのさ。それを見ていた男が、どうしてそんなことをするのか?
と聞いた。少年は5ドル払えば教えてやるといった。男は5ドル払った。」
不振そうに首をかしげる篭手。
「そのケースは、たぶんバナナの皮さ。」
おんぼろアパートから出てくるトヴァ、時計屋、そしてセロケースを持ったクリオネ。
「で、これからどうすんだー? 星にでも聞くか? 」
「いんや、直接ケースに聞く・・・。」