文房具屋でシャープペンとノートを買うトヴァ。
何故か、ケロロ軍曹が印刷されているファンシーなペンとノート。
鳩が飛んでいる公園。遊ぶ子どもたち。街頭の近くでジャグリングをしている大道芸人。
時計屋はまだバイオリン・ケースを持っている。セロケースを持ったクリオネたちに近づく公園で暇をつぶしていた老人、若者、子ども。
「今日は何を演ってくれるのかい? 黒いオルフェ?
」
「あいにくと、今日は休業でね。」
不満そうな声を上げて散る人たち。
ベンチでいちゃついているカップル。その二人を分けるように、ど真ん中にセロケースがどかんと置かれる。
カップルが見あげると、逆光にシルエットで立つウサ耳女と長身アフロとゴスロリ少女。
最初はこそこそと、そしてトヴァたちの手の届かないところへ行くとダッシュで逃げるアベック。時計屋が言う。
「良かったな。今日も地球の平和に貢献したぜ・・・。どんな手品見せてくれるんだ、トヴァ。」
トヴァ、黙ってノートを一枚ちぎると、セロケースの上に重ねて、シャープペンを塗り始める。
ジャグリングをしていた芸人の目が光る。今度はナイフで大道芸をし始める。
トヴァは続けた。
「・・・たぶん、このセロケースの上で、何か書き物をしたんだろうぜ。」
勢いよく、トヴァの尻を掠めてナイフが飛んでベンチに刺さる。
やがてノートに浮かんでくる文字。
「女王の受難通り・・・406・・・Cブロック・・・106-D『remember
the time』・・・なんだよ。これ。」
「住所のようだが・・・。喫茶店・・・? 食堂?
バー? 」
続けてナイフが飛んできて、セロケースに刺さる。トヴァ、大道芸人の方も見ずに、M686を抜く。
「時計屋、てめーのパソで分かるだろ。」
時計屋、バイオリンのケースを開けると、今度は中にパソが埋め込まれている。
猛然と火を噴くM686。弾は思いっきり芸人を外れる。
「ふーん。ただの雑居ビルらしいけど・・・。」
「決まりだな、そこへ行こう。」
「でもでもっ、それって何か関係あるの? 」
「無かったらケースをドブ川にぶち込んで、カオハンで飯にする。」
「それ、いいー。あそこのチャイナ・ボウルすぐ売り切れるし。」
弾が外れたので、あざ笑う芸人の頭に、壊れた街頭が直撃する。トヴァは最初からそれを狙ったのだ。
梯子通りの東にある、雑居ビルが立ち並ぶ区域を歩くトヴァたち。
「どうもペットショップがあるらしい。うちと同じさ。」
「そういや、時計堂の爆発のあと、どうなった? 」
「何も変わらないさ。3階が2階になっただけ。」
「ねぇ。まだ目的地はまだまだー? 」
「もう少しだよ。黙って歩けよ。」
「ついたぞ。」時計屋がお目当てのビルを指差す。
次の瞬間、大爆発して崩壊していくトヴァの眼前のビル。
「ついてないな。あのビルは今日取り壊す予定だったそうだ。」
「知ってたら、住民訴訟起こして取りやめさせたんだけどな。」
警察の取調室。子犬と篭手がトヴァたちと向かい合って座っている。
「というか、どうして俺たちお前にしょっ引かれてるんだっけ? 」
篭手、にっこりと笑って
「お前の免許を取り消すため。道交法違反するのなら、警察のカメラを気にするべきだったな。」
言いながら篭手、写真を取り出す。トヴァが二人乗りで、豪快に車の天井をつぶしながら走っているのが写っている。
「篭手。やっぱりお前にっこりと笑わないほうがいい。」
「私もそう思う。」
篭手、仏頂面に戻りながら、煙草を取り出す。
「ゴロワーズ。両切り・・・。流行んないぜ。最近そういうの。」
「欲しいなら、セロケースよこせ。」
「言ったろ、あれはバナナの皮だって。」
篭手、ため息をついてタバコを渡す。
「分かった。釈放してやるから、バナナの皮もケースもきっちり処分するんだぞ。」
警察のエントランスから出てくる三人組。その後をばたばたと追ってくる警官。
トヴァ、振り返ると、子犬がいる。
「篭手はうまくいいくるめたかもしれないが、本官は違う。言え。あのケースの中身はなんなんだ? いや、お前たちとの関係は? 知ってること全部話せ。」
「良くある馬鹿話なんだ。脳がありゃ分かンだろ? 」
「お前には質問に答える義務がある。」
「んじゃ、500イェンくれる? 」
トヴァ、近くの煙草の自販機を指しながら言う。
自販機から出てくる、赤地に紋章が映える箱のペルメル。パッケージを空け、一振りするトヴァ。煙草葉の、辛味のあるスパイスのような味がフィルターにしみこんでくるのを待つ。
「・・・早く言えトヴァ。」
いらいらを隠しもしないで叫ぶ子犬。
トヴァ、トリガーバーつきオイルライターを取り出す。トリガーバーに人差し指を突っ込んで、くるりと回すと火がつく。それで煙草をともしながら・・・。
「ああ、バナナの皮を洗っていた少年のオチね。少年は5ドル受け取りながらこういったんだ。『お前みたいなマヌケから5ドルせしめるために、バナナの皮を洗ってる。』これが、あたしの知ってることの全部よン。」
子犬、沈黙し、怒りが顔に回り、真っ赤になり、真っ青になり、
「ほ、ぼくをなめてんのか!? 」
「信号機じゃないんだからさ。冗談ぐらい分かろうよ。だからお前はいつまでも子犬なんだろう。」
「捜査妨害と警官侮辱罪で、一生ぶち込んでやる! 」
「警官侮辱罪なんてあったか? 」
「ぼくが! 今! ここで作った! 」
肩を震わせて、子犬が叫ぶ。トヴァ、まるで本物の雨にぬれた子犬を見るような目つきで、彼を見ているが、やがて首を振りながら。
「分かったよ。ケースは車の中に入れている。」
「ばかっ!? それを早く言えっ!? 車はどこだ! 」
あそこ・・・と言いながら警察の前を指差すが、そこには何も無く。
通りがかった婦人警官が言う。
「ああ、あの車なら、違法駐車でレッカー移動するって・・・。」
再び警察所内へ戻るトヴァたち。篭手、渋い顔をしながら出てくる。
「今調べているが、レッカー移動してった警官、この島の署員にデータが無い。」
「ニセ警官か! 」
頭を抱える子犬。まるで目の前の殺人事件を止められなかったように悔しそうな表情をする
篭手、仕方ないなという表情を子犬に向け、トヴァに目をやる。
トヴァ。煙草を取り出し、くわえる。
一瞬の間のあと、トヴァは言う。
「・・・分かったよ。」
トヴァが来たのは、警察の遺失物係。
職員の警官に話しかける。
「さっきさぁ、落し物のセロケースを届けたチェルシー・ローレックってもんだけど、落とし主が出てきたんで、返してくれる? 」
言いながら、篭手を指差すトヴァ。
係の警官、激しく敬礼をしながら、慌ててセロケースを持ってくる。
「・・・お前はチェルシー・ローレックじゃないし、警察は物置じゃないぞ。」
篭手、苦々しく言う。
「似たようなもんだろ。」
トヴァは答える。さらに苦々しい顔をすると、セロケースを持っていこうとする篭手たち。
「待て。」
篭手たちは歩みを止め、トヴァの方を振り返る。
「お前たちがそのセロケースをどうしようと勝手だ。だけど、絶対に中身は見ねぇ方がいい。特に、その上司に見せるなんて事は、絶対に避けるべきだぜ。間違いなくお前ら全員、不幸になる。」
「知ったような口を聞くんだな。」
「いや、知っていなくても分かるんだ。そいつはパンドラの箱と同じさ。たぶん開けたら、例外なくみんな不幸になる。それだけの覚悟があるっつーんで、開けるって言うのならいいけど、そこまで考えてないなら止めた方がいい。」
篭手、一瞬凍りつく。子犬、不安そうにトヴァを、そして篭手の方を向く。
しかし、子犬に柔らかに笑いかけ、そしてトヴァにも笑い。
「ご忠告。ありがとう。」
さてと、長々と書いてきたが、そろそろクライマックスが近い。あなたは・・・。
1 もうこの辺でお開きにしたい。
2 冗談じゃない。パーティは続行だ!