「・・・結局、『Remenber the time』って店、分からずじまいだったな。」
瓦礫さえも撤去され、土ぼこりの舞うに空き地となったビル跡に戻ってきた三人。
トヴァ、何気なく、足元にあった空き缶を蹴飛ばす。
飛んでいった缶が転々と跳ねて、そこの地面だけが妙に響く音を出す。
顔を見合わせるトヴァと時計屋。
真っ暗な地下に、一筋の光明が差す。
空洞のような音を出すところの土を掘り返すと、案の定地下へ続くトンネルが出てきたのだ。重くぎしぎし言う扉を開けると、地下への階段が見つかる。
トヴァ「・・・ビンゴ、かねぇ? 」
さっさと中へ入ってしまうトヴァ。時計屋とクリオネ、地上に残ったまま。
トヴァ、上を見上げて
「どうした? オバケが怖いのか・・・。」
「何か悪い予感がする。地下は・・・。あのうわさもあるしな。」
「なーに。少なくともリチャード・キールは出ねぇだろ。」
地下へどんどんと降りていくトヴァ。階段は曲がりくねっていて、狭かった。
点滅を繰り返す蛍光灯の中、「立ち入り禁止」「一方通行」などと書かれた標識が浮かぶ。
そのうちに、「この門をくぐるもの、一切の希望を捨てよ。あと財布も置いていけ。」という標識が浮かび上がり、最終的に駅に着く。
しかし、電気が通っているのも不思議なくらい荒れ果てた駅。ホームを歩くと、瓦礫が足に当たる感覚が。レールをなでてみると、さびが浮かんでいる。つまりは廃棄された路線。トヴァ。煙草をつける。ライターの火に点されて、壁に「ようこそ! 虐殺の迷宮へ」と書かれた文字が浮かび上がる。
トヴァ、煙を深く吸い込み、吐き出す。
そこへ、べこべこなボディをした地下鉄が入ってくる。横には、「ギルガメッシュ酒場」と書かれてある。
鮮やかな火花を出しながら停車する地下鉄。
ドアが開くと、モヒカン狩りにスキンヘッド。中世の騎士風なボディアーマーやら特殊部隊風の戦闘服やら着込んだ連中が、ショットガンからツヴァイ・ハンダーまでさまざまな獲物を持っている。
「ようこそ。新米ドラゴンスレイヤー。」乗客の一人が言った。「あんたも『狂王の試練場』へ行くんだろ?
」
地下鉄に乗り込むトヴァ。
賞金稼ぎたちが喋っている。
「しかし、狂王もひでぇことしやがる。来るべき戦争だか、一市民にもテロと戦う力を、とか言って、島の全員改造するなんざ、狂気の沙汰だぜ。」
「もっとも、その狂王も、そいつらに殺されたんだろ。」
「らしいな。まったく、飼い犬に手をかまれる、以下だぜ。」
「世界一愚かな王にはふさわしい。」
「で、俺たちは飼い主がいなくなった残した白ワニを有効利用しようってはらだ。」
トヴァ、全神経を耳に集中させる。ウサギの改造人間の耳は、まるで超音波のソナーのように、今いる状況を分析し始める。
・・・なるほど、島を出て南南西の方向へ走ってる・・・。スピードから考えて、もう『海の家』から出たのか。飛行機械も船も使えないなら、地下からか。くだらねぇ。
「で、あんたの武器は? 」
トヴァ、セロケースを出す。笑い出すドラゴンスレイヤーたち。
「そういう無い。俺の音楽は、演る、んじゃねぇ。殺る、んだ。」
「あんたはマノウォーかい? 」
やがて、闇が消え、そして空の色が・・・。トンネルが会場へ出、列車は海へあがる。
空の色より鮮やかな波を蹴立てて走る地下鉄。外に無限に広がる海。ここにいる陸のものは電車だけ。
「・・・できれば、休暇とって来たかったぜ。」
飛んでいく島影や、海鳥、魚を見ながらつぶやくトヴァ。
煙草に火をつけようとするが、「車内で禁煙するのはマナー違反。」といわれ、しぶしぶ煙草を引っ込める。
着いたぜ、いよいよ狂王の試練場だ。
誰かの声とともに、勢いよく電車が止まる。
慣性の法則で、前の方へ吹っ飛ぶトヴァ。しかもこの列車には、窓ガラスが無かった。
飛び出して電車の前に転がるトヴァと有象無象。
その前に、にょっきりと足が生えている。いや、誰かがトヴァの前に立っていたのだ。
背は小学生ぐらい。魔法使いのような三角帽子と、ローブをかぶった老婆。
老婆、猫が敵を威嚇するように、思いっきり背と手を伸ばして叫ぶ。
「この島を荒らすもの許すまじ! 即刻出て行くがいい! 」
賞金稼ぎの一人が叫ぶ。
「そうはいかねぇぜ。なんせここまで来るまでに、俺のクレジットからになっちまったもんでな!
」
構えられる銃器。H&KやらAK47。果ては火炎放射器まで。
「愚かな! 死を持って愚かさを味わえ! 」
老婆、叫ぶ。
そのとたんに、恐竜みたいな巨大なトカゲが現れる。そして、背中には巨砲がついている。恐竜の体当たりで、列車が壊れる。
「か、帰れないジャン! 」
誰かの悲鳴をよそに、今度は海から鱗も鎧も不気味に元気に光っている半漁人が現れる。そして、賞金稼ぎを襲い始める。
雲の子を散らすように逃げる賞金稼ぎたち。
鬱蒼と茂った森の中をトヴァが逃げる。木の上を伝って、サルの怪物が黒い稲妻のように襲い掛かる。
「ああ、本格的なセッションをするんだったら・・・。」
M686を構えるトヴァ。
「ちゃんとした楽器を持ってくるべきだった! 」
火を噴くM686。体中を打ち抜かれて転がるサルの怪人。
と、次の瞬間、新手が後ろから襲い掛かる。
回し蹴りを叩き込みつつ、M686の回転胴を引っ張り出すトヴァ。
蹴り飛ばした怪人の体が地に着かないうちに、六発の空薬莢が金の軌跡を描きながら飛び、ロッダーが6発の弾を弾倉に叩き込む。
もう弾は、今のワンラウンドだけか・・・。しかも38口径。
トヴァ、「たま・・・。」と言いながら股間に手を伸ばす。
バックルに仕込まれているラスト一発。いつもは安全対策のため、空きスペースにしてあるに七発目の弾倉の穴に弾を込める。
やがて、森が切れて、ビルが建っている市街地へ出る。
トヴァはあたりを見まわす・・・いや、聞きまわす。
確かに聞こえる、何か生命を持ったものがこちらへ近づいてきている。
しかし、それはどうやらトヴァに歓迎のレイをかけに来ているのではないくらいは分かる。トヴァ、人っ子一人いなさそうな廃墟へ向けて走り出す。
おっと行き止まりかよ!
地盤が陥没しているのか、突然地面が消えて、かわりに海の中に揺らぐ建物が見える。
そこから飛び出してくる半魚人二人。
トヴァ、一人の頭を蹴り飛ばし、その勢いで空中を一回転。かかとを別の半魚人の頭にめり込ませる。
次の瞬間、アスファルトを突き破って出てくるたこの足。
トヴァ、銃を乱射する。しかし、蛸の柔らかいからだで弾丸がはじかれてしまう。
トヴァはバカなんで、むきになって全弾使ってしまう。
ちょっとちょっと、と叫びながら、蛸の触手を避け、逃げるトヴァ。
「勘弁してくれ、俺はただ、届け物をしに来ただけだぜ。」
続く