怪獣大戦ガメラ2026

第八幕

「目標は以前正面ゲート目指して真っ直ぐ市街地に接近!偵察機よりの報告によれば以前と同じ、「ジャイガー」とのことです!」
「分かった。戦車隊は既に配置を完了している・・・工兵の仕掛けももうじき終わるそうだ。」
臨戦態勢に入った軍隊特有の、緊迫しつつもきびきびとした雰囲気が天幕に覆われた野外司令部に満ちる。
接近してくる目標を今度こそ都市の外で迎え撃つため、主戦力をあえて要塞化された街の外に配置して迎撃戦を挑もうというのだ。前回のように突然街中に侵入されてしまったのでは手の撃ちようも無い。それならばまだ郊外で迎撃体制を取ったほうがいい・・・という判断である。
「早期に発見できたのが幸いでしたね。迎撃の準備はほぼ完全です。」
「・・・本当に芸も無く、真正面からかかってくる気としか思えん。我々を舐めているな、これは。」
歳若い大尉の吉報にも、部隊を率いる中佐の顔は苦々しい。何しろ本当に完全に真っ直ぐに、偵察機と接触してもわざと報告させるように無視し、かつての道路にそって歩いてきているのである。
人間に近い体型のジャイガーが胸を張り、大またで腕をふり歩いて、あからさまなまでに堂々と。ひとえにそれを行わせているシュラ、アトランティスの王女を名乗る少女の絶対の自信を伺うことが出来た。
「果たして、我々だけでどれほどやれるか・・・」
ごわごわとした黒髭で覆われた頬を撫しつつ、兵力の配置図を眺める中佐。
何故か最近イリエスたちの活動が鈍っている故近郊戦力のほぼ全力をぶつけられるのが救いといえば救いだが、相手はメカガメラを一方的に叩きのめした怪物である。
このころには既にメカガメラが破れ比良坂海が重態で入院していることは既に全軍に知れ渡っており、またもう一つの怪獣兵器であるギロンも街を滅ぼしかねなかった暴走の修正のため現在は出撃できないという事実も、廃墟と化した街の光景と共に隊員の心に焼き付いている。士気的には高いといえないどころか、相当の不調である。
中佐の弱気ともとれる言動は、ある意味部隊の意思を代弁していたと言えないこともない。
「しかし・・・やらねばなりません。」
重く、自分自身に言い含めるようにいう大尉。
そしてその言葉にはもう一つ意味が感じられる。それを中佐は、口にした。
「うむ、そうだ。そうだな。・・・今度は我々が彼女を、彼女の守ろうとしたものと共に守る番だ。」
頷く中佐。と・・・同時に遠くで、重々しい雲の中の雷のような音と、地響きがした。直後、報告が入る。
戦いの開幕を告げる報告が。
「ジャイガー、地雷原へ入りました!」
「攻撃開始!」

「ぬああああっ!!?」
ジャイガーと一体化して進撃してきたシュラは、起こった事態に驚愕していた。
突如足元の地面が爆ぜたのだ。一体化している感覚が痛みを伝えてくる、思わずつんのめって尻餅をつくとさらに爆発。周囲の地面、日夜の戦闘で荒れ果てた大地の土砂が舞い上がり視界を塞ぐ。
「罠か・・・抗うというのか我に!」
正直、この事態をシュラは全くといっていいほど想定していなかった。既にメカガメラを打倒した以上、今回はジャイガーの力でもって威容を示し、ギロンをおびき出してこちらの手にすればこのあたりの人類は降伏する、それで終わりだと考えていたのだ。
「小癪な・・・力の差がまだ分からぬか、愚か者!」
咆えると、シュラは一気にジャイガーを起き上がらせた。即座に跳躍、追撃と放たれた自衛隊戦車部隊24式対獣戦車の175mmレールガン一斉射撃は当たらず、地面をさらに砕いたにとどまった。

「第一斉射、かわされました!ジャイガーは空中に跳躍!」
「ちぃ、流石にあれしきではだめか・・・」
報告に唸る中佐。ジャイガーの武器は、その圧倒的なまでの機動性であることがメカガメラとの戦いで明らかになっている。メカガメラよりもさらに速度に劣る通常兵器ではまず当てられないであろうから、最初に地雷原で脚に攻撃をかけて動きを鈍らせようとしたのだが、地雷程度で止まるジャイガーではなかった。
しかし、それは予測範囲内である。圧倒的な力の差は承知の上、それを知恵で埋めるべく、既に戦場は二重三重の罠の巣としてあるのだ。
「さぁて、アトランティスの王女さんとやら。あんたの力と俺たちの知恵、どっちが上か・・・勝負だ!」

空中に跳躍したジャイガー。直後、戦闘機部隊が突っ込んでくる・・・いや、それは確かに少し前までの戦闘機のデザインと形が似通っているが、違う。
対怪獣兵器の一つで、高機動大型対空ミサイルだ。戦闘機ほどの全長とミサイルにしては大きな翼を持ち、従来のミサイルとは比べ物にならないほどの炸薬量と機動性でイリエスの中でも空中戦を得意とする「バイラス」タイプを打ち落とすために作られた兵器である。
高価であり兵器の生産が滞りつつある現在では名かな使用されることの無いそれが、数十発一斉にジャイガーに向けて突進した。
「ちぃぃぃ!」
身を捻りそれに向かい合うと、両頬の角から放つ、メカガメラを串刺しにしたニードル弾を連射してそれを迎撃するシュラ=ジャイガー。
全長数m、極超音速で放たれる針の群れがミサイルに襲い掛かり、次々と突き刺さっては空中で爆発させる。しかしそれでもいくつかのミサイルが針雨を突破して。ジャイガーになおも接近する。
ニードルでは迎撃しきれないと悟ったシュラは、今度は掌を突き出した。そこに装備された空気を震わせ気流による吸引、加圧減圧を自在に行うあたかも念力のような力を発動させる。
空気が揺れた。揚力と推力を歪められ強烈な風圧に押されて、進行方向を変えられたミサイルはジャイガーに直撃せず、その周囲で爆発する。
それでも強力な爆発がジャイガーを四方八方から包み込み、高熱と圧力、弾片がジャイガーを襲う。
「むうっ・・・!効かぬ!効かぬぞぉっ!!」
ジャイガーとシュラは叫ぶ。確かに褐色のジャイガーの皮膚はぬめぬめして柔らかそうな印象を一見受けるが、傷ついたようには見えない。
しかし直後、ミサイルにまぎれて接近していた戦闘機・F9が攻撃を続行した。先ほどの大型ミサイルよりも小型だがより高速な空対空ミサイルが放たれ、今度こそジャイガーに直撃する。
「効かぬといっておる!」
しかし、これでは威力不足で直撃しても大したダメージにはならなかった。逆にニードル攻撃と空中機動しながらの手足を振り回しての攻撃に、戦闘機が捉えられる。

「うっ、うわぁぁぁぁっ!!」
目の前の僚機が機体と同じくらい長いニードルに串刺しにされて爆発する光景を目の当たりにし、そのパイロットは咄嗟にそれを避けた。
しかしそこには、巨大な褐色の壁、否振りかざされたジャイガーの掌だ。すさまじい相対速度で迫り来る。
パイロットは、瞬時認識してしまった。もはや今からでは脱出装置を作動させても間に合わないと。死が、確実な存在として彼を捉えた。
目の前のジャイガーの掌。広げられた指。その中心に位置する吸盤状のジャイガーの武器の一つ。
刹那、パイロットはそのヘルメットとゴーグル、口を覆うマスクの下で泣き笑いのような表情を作った。引きつった、しかし決意の表情。
同時に操縦桿についたボタンを押し込む。
死ぬのならばせめて、まさに文字通り「必死」の思いを込めて。

ドォン!
「痛っ!?」
目をむくジャイガー=シュラ。叩き落そうとした戦闘機がやられる前に全弾を発射、それが機体もろともに爆発し、吸盤状器官を傷つけたのだ。
他の体の部分ならば打撃にはなりえなかっただろうが、空気を操るため極めて精緻な作りになっていたそこは強度に欠け、暗紫色の血を流し、暫くは使用できないまで損壊する。
だが。
その一撃を除いてダメージはなく、かつ戦闘機も相当数叩き落された。
(あとは地上に降りた後戦車を蹴散らし、そのまま市街に突入してくれる!)
勝ちが見えた、そう確信しシュラはジャイガーの体内、メカガメラのそれとは違い生物の内蔵のようなコクピットで、にやりと紫に塗った唇をほころばせる。
ズン!
ジャイガーの脚が地面を叩き、身をかがめることで衝撃を和らげ着地する。そこは既に地雷原の外。直後には前に踏み出すために、さらに脚に力が込められる。
その、ジャイガーの足音にまぎれて。
突き刺さる音が、した。

「かかったっ!」
映像でそれを見ていた中佐が、叫ぶ。
「今だ・・・全軍、全火力集中砲火!撃ちまくれぇっ!!」

ドドッ!!
それは、21世紀初頭にアメリカ軍が実用化したバンカーバスターといわれる、地面とその下の装甲を貫通して地下施設を破壊するための特殊爆弾、それをさらに強化し地対地ミサイルの弾頭として改造したものだった。
それの狙いはジャイガーではなく、その脚の乗った地面だ。
ジャイガーが着地し、走り出そうとした正にその瞬間に、その脚が乗った地面に斜めから突き刺さり、地面にめり込み、爆発。

突如として出来た穴に、ジャイガーは高速走行の姿勢のまま足を突っ込んだ。
「うっ・・・?!」
ジャイガー転倒、と同時に、石膏棒が折れるような音が巨大な音量で響く。
忍者屋敷の罠に出入り口に仕掛ける、脛ほどまでの高さの落とし穴がある。それを踏んでも体全体が落ちるわけではなく、踏み込んだ脛がそのままの勢いで打ち据えられ脚を取られ打撲、勢いによっては骨折すらありうるという罠。
原理的にはその大規模な応用である
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」
そして、完全に決まった。転倒してのたうつジャイガーの右足は、脛の骨が完全に折れていた。高い機動性を持つ莫大な脚力が、その機動性を自らの力で封じることとなったわけだ。
ドドドドドドドド!!
そして連続する爆発、爆発、爆発。自衛隊からしてみれば作戦は種切れ、これが事実上最後の勝機である。
地上に展開していた戦車部隊、そしてこの段階でまだジャイガーに叩き落されていなかった運と腕のいい航空部隊が機首を返し、全火力を一斉にジャイガーにたたきつけたのだ。
「ぐぉああああああああああ・・・・・!!」
ジャイガーが咆える。脚を穴から引きずり出して脱出しようとするが崩れた地面が既に穴を塞ぎかけており、さらにおこに休み無く砲爆撃が降り注ぐ。
「ぐぅぬ〜〜〜〜!!!」
ジャイガーの体内で、シュラは唸った。そして歯を食いしばり、ジャイガーの目を通して、眼前に展開する自衛隊をにらみつける。
ジャイガーとシュラは、メカガメラと基本的に同じながらさらに精度の高い同調をしている。ならば当然メカガメラが損傷したときの海のように自分の足が折れたのと同じ激痛を感じている筈である。しかし、歯を食いしばったシュラは唸りこそすれ決して悲鳴を上げない。
「くぁああああああああああっ!!!!!」
「ごぉああああああああああっ!!!!!」
そして、ジャイガーとシュラが、咆えた。脚は折れ掌の吸盤状器官は壊れたとて、まだ両頬の角から発射するニードルは使える。
咆哮と共にジャイガーは、それを放って応戦した。
「我はシュラなり!戦鬼にして殲姫、支配者にして死廃(死を廃する)者なり!汝等弱者、イリエスどもに淘汰されたくなくば我が支配庇護受け入れよ!」

ズドォッ、ガーーーン!
ニードルの貫通した戦車が、一溜まりもなく爆散する。元々この24式対獣戦車は「そもそも戦車の装甲では怪獣の攻撃を受け止めきれない」という事実を見据え、装甲をあえて軽視して機動性と攻撃力のみに特化した車両となっているのだから。
激しく方向転換を繰り返し各車両必死の回避運動をしながら、しかし射撃も同時に間断なく行われる。
隣の車両が撃破された爆風が他の車両を叩き、装甲や砲の欠片や搭乗員の肉片がぶつかってきても、しかし戦車たちは、戦車に乗る兵士たちは、攻撃を止めない。
戦い続ける。
「畜生っ、怖えぇ、怖えぇ、けどよ・・・!」
また一発の砲火を放ちながら、戦車兵の一人はこういった。
「いきなりやってきて暴れて支配を要求するような奴に屈服できるか!そんな理不尽を戦って食い止めるのが俺たち兵士だ!」
やや震えている。歯の根が在っていない。しかしそれは決意。
それを聞いた同じ車内の兵士も、汚れた顔に辺に生える白い歯を無理に剥きだす様な引きつった笑顔で、言う。
「人間の不始末は人間がケリぃつけるさ、アンタの支配はいらねぇ!「ましてやテメェはやっちゃいけないことをやった・・・!俺たちの海ちゃんを痛めつけた以上、倍返しだこん畜生っ!!」

戦いは、続く。


同時、欧州。
ウィリデは、考えていた。
この間の通信で言われたこと。そして、短い生を受けてからこれまでの、様々な経験。
こうしている間にも戦っている日本での戦闘状況は、サイボーグ化され通信網とリンクしたウィリデ01=イリアスから刻々ウィリデ02の脳に入ってくる。
(苦しみ・・・)
この前の通信。言われた。比良坂海の苦しみを、知らないかと。それについて考えていた。
それは思うとまではまだいかない。どこかコンピューター的な、論理以上の何かが不足した、考え。
しかし、思いに至るため、考え続ける。
(苦しみ。人間の感情の一つ。)
比良坂海の戦闘データーにアクセス。戦闘時に感じる、肉体的な、ウィリデ02には体の損傷のデータとしてしか感じられない、苦痛。
そして比良坂海の日常生活における感情の推移。心理同調器官である勾玉のデータを見ればそれが分かる・・・本来ならばプライバシー保護のためアクセスは厳禁となっているが、ウィリデ02の能力を持ってすればその程度のプロテクト無に等しい。
様々な、ウィリデ02にはいまいち理解しきれない感情の推移。それはやはり、苦しみと呼ばれるマイナスの刺激を海の自我に与えているようだ。
自分が何であるのか、ということ・・・兵器である、と定義しているウィリデ02には分からない。
大迫という少年整備兵との軋轢・・・人間関係というものを殆んど持たないウィリデ02には分からない。
敵であるシュラのこと・・・これは、特に分からない。相手は破壊すべき目標、それ以外の難だというのだろう。
おおよそ兵器であるウィリデ02には、必要の無いものに思われる。
しかし、何故だ。何故だかウィリデ02は、それを調べるのを止めることが出来なかった。
(苦しみを生む「思い」を、私は目指している?)
何故だろう。メカガメラの例を見れば、心とは苦しいものであると言えるのかもしれない。彼女が共に戦った兵士達も、ただ「壊れる」だけの兵器と違い、死ぬ間際に皆苦しそうにしていた。あれは心があるからではないのだろうか。
そのような苦しみがあっては、自分も兵器として十全の性能を発揮しうるとは言いがたい。
なのに何故、それを求めるのだろうか。理解できない・・・そうウィリデが判断しかけたとき。
(違うよ)
「!?」
不意に、誰かに離しかけられた、否「思いかけられた」。彼女の分身であるウィリデ01との接続のように、意思が直接流れ込んでくる感覚。
それは、ウィリデ02の薄い胸に取り付けられた勾玉から感じられる。それしか考えられなかった。こちらから海の勾玉にアクセスしたのと同経路で、向こうから語りかけられているのだ。
だとしたら。
(比良坂・・・海?)

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