怪獣大戦ガメラ2026
第五章
「ふっ・・・どうやら臆病風に吹かれなかったようだな。」
そうシュラ・・・ジャイガーが「言った」
電波などによる通信ではなく、ジャイガーが直接声を発したのだ。若干変調しているが、シュラの声で。
「そりゃまあ、逃げたらこの町を吹き飛ばす、なんて言われたら逃げるわけには行かないでしょう。貴方こそ、よくまあ律儀に待っていたわね。」
普通、人類を滅ぼして自分の帝国を築く事を考えている者は、敵がいないからってぼけっと待っていたりはしない。町を壊し人を殺し、暴れ回るのが筋というものである。
「いくよっ!!」
ヴォォォォォンッ、と轟音を立てプラズマガトリングが連射される。
必中距離のはずだった。
が、次の瞬間、驚愕する事になった。
瞬時にジャイガーの姿がかき消えたかと思うと、プラズマガトリングをかわして次の瞬間には、あっと言う間に懐に潜り込んできていたのだ。
「っ!」
それでも海は咄嗟にガトリングバルカンから切り替えてフレイムクロウブレードを振り下ろした、が。
ばしぃぃぃぃんっ!
「!!」
その時海は、ジャイガーが得体の知れない防御障壁のようなものを展開してプラズマクロウを弾いたのかと思った。だがわずかに遅れて手首に走る痛みが、事実を教える。
シュラは振り下ろされるクロウブレードを見切り、手首に攻撃を加えて刃が体にとどく前に腕自体の軌道を変えたのだ。
「んな・」
「遅い!」
くぐもった音と共に、がら空きになったメカガメラの腹部にジャイガーの拳がめり込む。
「ああっ!」
「いえ、大丈夫でしょう。」
今にもパニックになりそうになる大迫に皆まで言わせない清川教授。普段も基地からメカガメラの戦闘をモニターし、分析しているだけに冷静な小枝。
「背面より薄いとはいえ、メカガメラの腹部は甲羅に覆われています。多少の打撃にはびくともしません。」
オペレーターの報告も、それを裏付ける。
「腹部装甲、多少のたわみはあるものの亀裂・剥落などの損害なし、オール・グリーンです。」
しかし、そのデータに目を通した整備班長の顔色が変わる。
「いや・・・こいつはまずいか!?」
「え?」
ズズ・・・ン。
「・・・・・・っ!」
一拍置いて、膝から崩れ落ちるメカガメラ。
「ああっ、海っ!」
「な、内部機関に軒並みエラー発生、マナエネルギー変換炉効率低下!」
「なっ、何っ!?」
突然の事態に、混乱に陥る司令室。
「げほっ、げほっ!」
狭いコクピットの中、体をくの字に折り曲げて苦しむ海。メカガメラの機関損傷が、内蔵をぐちゃぐちゃに引きちぎられたような激痛を海に与えている。
勾玉によるシンクロ以外メカガメラを動かす手段は喩え補助的なものにしても無いので、レバーもボタンも何一つ無いコクピットにつっぷし、呼吸できずに開きっぱなしの口から僅かに唾液を漏らす海。感覚だけでなく、肉体の損傷すらメカガメラと海は共にしているのだ・・・二、三度咳き込むと、口から漏れる液体に赤い、血の色がついた。
「骨法とか中国拳法にゃ、鎧を通り越して内蔵にダメージを与えるワザがあるとかいうが・・・」
唸る整備班長。詳しく知っているわけではないが、しかしそれらの手段はあくまで「押す力」の応用であり、速度ではなく押すことでもって中まで物理的に圧力をかけているに過ぎない。それにより内蔵だけが損傷したように見えるのは、外の筋肉のほうが頑丈だからそう見えるのだ。
それに対して今メカガメラが受けた攻撃は、まるで内蔵が丁度ヤツメウナギか蛭か何かに吸引され引きちぎられたような、複雑なダメージが内部機構に発生している。単なる打撃では断じて無い・・・おそらく、未知の攻撃手段だ。
四つんばいの姿勢のまま動けないメカガメラ=海を見下ろしながら、わざとらしいほどゆっくり歩いてジャイガー=シュラが近づく。
「ふふん、どうした?何時までもそうしているなら・・・次行くぞっ!」
余裕綽々で言うと、すっと、実に柔らかい動きで足を振り上げる。膝が胸につき脛が顔に触れるような、殆んど真上にといっていいほどの、人間の肉体なら鍛錬せねば出来ぬ高さまで。
そして、そこから一気にメカガメラの頭を狙って踵を振り下ろす!
ドン!!
地面を覆っていたコンクリートが砕け散る。咄嗟に頭を甲羅の中に引っ込めたので、メカガメラの頭部は無事だった。すかさず甲羅から頭を出しジャイガーの足に喰らいつきにいくメカガメラだが、ステップバックでジャイガーはそれをかわす。
その隙に跳ね起きるメカガメラ・・・だが、体勢を立て直したときには既にジャイガーは再び至近距離まで接近している。
「しゃ・あ・あ・あ・ああ・あっ!」
指を鉤爪のように曲げ、腰を落とした構えから一気に連撃を叩き込んできた。
「きゃあああっ!!」
更に吹っ飛び、地面を派手に削るメカガメラ。確かに攻撃がヒットしたのだろうが、余りに打撃が早すぎてほとんど肉眼では確認できない。
咄嗟にプラズマガトリングを地面に向けて発射、目くらましにしながら脚部を収納・生体ジェットエンジンを始動。上空に飛び上がるメカガメラ。今までジャイガーが見せた攻撃は基本的に格闘のみ、空へ舞い上がってしまえば手も足も届かない。
しかし。
「ふふ・・・それで逃げ切れるつもりか?」
嘲りの含み笑い。シュラが笑っているのが、はっきりとジャイガーの顔にも表れている。美少女であるシュラならともかく、黄褐色のぬめぬめした皮膚に覆われたジャイガーの嘲笑というのは、想像を絶しておぞましい。
不意にジャイガーの脇腹が蠢いた。それまで滑らかだった皮膚が変形し、まるで鮫の鰓のようなスリットが何本も生じて。
バシュッ!
「飛・・・いや、跳躍!?」
そこから一瞬強力な生体ジェット流が噴射され、その勢いでジャイガーは一瞬で空中のメカガメラに追いつくほどの大跳躍をして見せたのだ。
「っ!?」
慌ててメカガメラの飛行軌道を変える海。身を翻したメカガメラが、下から跳躍してきたジャイガーをかわす。
「今だっ!!」
そして再び反転し、ジャイガーに向き直る海。一瞬しかジェット噴射できないらしいジャイガーは、空中での機動はメカガメラに劣るはず。地面に降りるまでの間に、攻撃を見舞えば・・・
反転した海は、見た。
首、脇腹の鰓からのジェット噴射、それだけではなく手足に何か未知の力を宿らせて空中で姿勢を整えたジャイガーが、こちらに真っ直ぐ向き直って。
攻撃の、構えを。
「受けろ、我がジャイガーの矢を!」
両頬から生えた二本の角か牙がぱかっと開いた。
ズダダダダダダッ!
「きゃあああああっ!!」
そこから放たれたのは、無数の鋭い矢。機関砲のように連射され、一瞬でメカガメラの皮膚に十数本の長さ数メートルの矢が突き刺さった。
「それだけではすまぬぞ?そうれっ!」
突き出されたジャイガーの掌。そこには吸盤のような螺旋を描く奇妙な器官が。
ギュウウッ!!
そして、その器官の周囲の光景が一瞬歪んだように見えると・・・離れた場所に居たはずのメカガメラが一気に引き寄せられる。
未知の力。一気に間合いが詰まる。同時にメカガメラの体に刺さった針がまるで共鳴するように振動し、傷口から鮮血を搾り出す。
「うわあっ!!この!」
一気に接近した相手にフレイムクローブレードを振り下ろそうとする海。しかし主導権を握ったシュラは、それを許さない。
「フシゥアッ!!」
ジャイガーの首の鰓から呼気が噴出する。同時に身を捻ったジャイガーの掌がメカガメラの腕を弾き。
ドォオッ!
その「歪み」がメカガメラの腕に進入したかと思うと、それを内側から爆砕した。
「きゃああああああああああっ!!!」
絶叫。
同時に推力を失ったメカガメラがきりきり舞いして地面に叩きつけられ、その上に明らかに狙ってジャイガーが着地、踏みつける。
「そ、そうか。さっきの甲羅を貫通した攻撃も・・・」
整備班長が呟くのを、大迫は聞いた。海の悲鳴で頭が一杯になり、目の前がぐるぐるとまわるような感覚を覚えながら、呆然と。
「恐らく、一種の高振動か何かで、周囲の空気自体を操作して自在に加圧・減圧を行えるのだろう・・・凄まじい力だ・・・」
目の前に繰り広げられる光景の余りの絶望と残虐に、声一つ上げることすら出来ず、目を見開き、震え続ける。メカガメラのコクピットとつながる通信機の映像は途絶え、スピーカーから凄まじい悲鳴が響き渡るのみ。
清川教授の声が、酷く遠く、空虚な感覚を持って耳に響いた。
「やむをえんな・・・こうなったら。」
「ううっ、あうううっ・・・」
内蔵を抉られ、矢を何本も刺され、傷を抉られ、さらに右腕を吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ踏みにじられ。
満身創痍、ずたずたのぼろ雑巾のような状態になって、メカガメラは地面に倒れ臥した。そして、コクピットの中の海もまた同じ。幾分か緊急時のフィードバック・カットシステムが働いているので流石に手が千切れたと言うことは無いが、メカガメラの受けた傷の反動が全身を蝕み、皮膚は筋肉もろとも破れ骨は軋み皹入り、内蔵にも相当のダメージが入っている。
「うぐっ、げほっ、ごふっ・・・」
意味の或る言葉をつむぐことも出来ず、本来笑顔が似合う年頃の少女の唇は激しく噎せ、血反吐を吐き出す。
「さて、これはどう見ても・・・贔屓目ではなくお主の負け、我の勝ち、であろうな。そして、今の人類には己より強いものはおらぬのだろう、メカガメラの巫女、比良坂海。」
返事がないことにかまわず、シュラは問いかける。そして暫く帰ってこないであろう回答を待つように間を置いたあと、ジャイガーの両腕を大きく広げ、宣言した。
「されば、我は人類に勝ったと同じこと。宣言しよう、我は人類に勝ったと。」
そして言い切った。確かに、今の人類にとって最強の力はメカガメラである。それ以上の力は無い・・・零ではないが、メカガメラに「勝る」ものはないのだ。
故にこのシュラの宣言には、確かに理が存在する。
「人よ、我が軍門に・・・ぬっ!!?」
得意満面で勝利宣言を続けていたシュラの声音が、唐突に凍った。同時に身を翻して跳躍する。
同時。
ズダァァァァァァンンンンン!!!!!
轟音がとどろいた。
強いて言うならば、超音速で刃渡百mの巨大なナタが超音速で叩きつけられたら、そんな音がするだろうかというような音。
そして、その比喩はほぼ事実を言い当ている、といえた。一瞬もうもうと巻き上がった砂塵が収まり、それを行ったものの姿が明らかとなったとき、それを見ていた人はすべてそう思った。
「グゥッ、グゥッ、グゥゴオオオオオオオオオオオオ!!
くぐもった声で咆える第三の怪獣。その姿は、鋭く尖った頭部から節くれだった胴体、尻尾に至るまで、巨大な刃の集合体で出来ていた。蝦蟇を思わせる関節構造の手足も、やはり折れ曲がった鋭い刃金のような、鱗とも外骨格ともつかないものに覆われている。
中でも分厚い刃そのものといった感じの頭部、その左右についた紅い目は、一見人間の目に近いが瞳の部分だけ複眼のような独特のつくり。その両目を左右別にぎろぎろと動かして世界を見据え、
三つに分かれた奇怪な顎で、再び咆えた。
「グギィゴゴゴオオオオオオオオ!」
「着地完了。状況データ入力修了。対怪獣生物兵器『ギロン』・・・攻撃、開始!」