怪獣大戦ガメラ2026
第三章
「なあおい、待てってば!」
みすぼらしい地下都市の、昔の基準で言うならば辛うじて地方の、何とかそう名乗れる程度の人口の市の通り、といった程度の、だがれっきとした「繁華街」の通りを歩く、一組の、これまた昔の基準なら義務教育である中学生程度の男女。
つかつかと先に行ってしまう、ショートカットの黒髪の女の子、海に追いつこうとあせり、付いていく気弱そうだけど、その分優しそうな少年大迫力也は、 名前とは全然合わない声で呼び止めようとした。
「・・・」
その声が一応届いたらしく、海は首だけで振り向いた。
だが、その目に怒っているようないらだった様な表情を浮かべ、すぐにまた歩き出してしまう。
「・・・・ああ・・・もう!」
焦って追いかけながら、大迫は悔恨と共にこうなるまでの過程を思い出していた。
メカガメラの整備も大迫の出来る部分を離れ、さりとてまだまだ出撃には遠く、珍しくも二人が同時に非番になったのが、そもそもの始まりだ。普段は大迫が休みの時は海は出撃しており、海が暇なのは大迫達整備班が死にものぐるいでメカガメラを整備しているときだけだからだ。
殺人的スケジュール、である。だが、大迫の上司であり、生きる工具とあだ名を取るほどの、つまり作業の腕がすこぶるいい、同時に金属みてえな堅物ジジイの整備班班長にいわせれば、「死んでいる暇なんかねぇ!」のである。このご時世、誰だってうかうかしてれば怪獣の餌となってしまうのだから、まこと名言と言えた。
言えたが、あんまりである。
大迫はそう思った。
そして、そう言ってしまった。若さの特権である。
前にも、二度ほど不平を言った。一回目は、三時間メカガメラの装甲版の上に座らせられて説教された。二度目は、物も言わずに工具で頭を殴られた。もっとも、誰に対してもジジイはそんなモンだったが。
そんなジジイが。一体どういう風の吹き回しか、今回は急に休むのを許可した。
思えば、それがそもそもの間違いだったのかも知れない。舞い上がった大迫は、海を誘った。一緒に久しぶりに町に出ないかと。深い意味があったかどうかは、まだこの年頃の少年には自分でも理解できないが。ともかく、海は来た。
ごくごく普通の友達として歩く町の散策は、二人にとって楽しかった。例え、そのつかの間の幸福が、世界によって大幅に制限されたものであったとしても。
町の外れ、人気もまばらな区画でようやっと力也は海に追いついた。体がたがたなくせに海の足はかなり速く、しかも途中から本気で走ったので時間がかかり、双方かなり疲れていた。暫く、互いに相手が息を整える様子を見るしかできない。
「あ・・・」
何とか力也が言葉を絞り出そうとしたとき。
「ふ・・・」
「!?」
「な、誰!?」
何か言う暇もなく不意に聞こえてきた笑い声に、二人は慌てて周囲を見渡した。
そんな二人の前に、ゆっくりと現れたのは、意外にも海よりも年下、せいぜい十二、三歳ほどの少女だった。それにしては、声も、仕草も、妙に大人びている。
「不完全な兵器、それに生け贄を捧げ、なお異端視してはばからぬ愚民、気遣って居るつもりのうつけ者、中途半端な覚悟しか持たぬ戦士・・・所詮は下等種族、か。」
「・・・?」
あざけるような言葉。だが、それが気にならない、否気にするほどの余裕がこの少女の姿を目にした二人からは消えていた。
少女は、ギリシャ神話の登場人物のような、白い布を体に巻き付けた格好をして、腰の所をベルトで絞め、そこに複雑な、何かの生物の模様をほりこんだ笛をさしている。
「・・・あなた。何者?」
ようやっと気を取り直し、厳しいまなざしで海は誰何する。
それに対し、少女は余裕の笑みを浮かべた。
「ふむ・・・こういう者、かの?」
そして、腰に差していた笛を、すらりと抜き出して、横笛のスタイルで構える。
溢れ出る、妙なる音色。この世に存在するどの笛のようでもあり、同時にそれらとは明らかに異なり、かつ、一線を画して美しい・・・強いて言うなら、人類が作り出した笛は、全てこの笛の粗雑で下等なコピーでしかないような・・・そのような音色。
「き、綺麗な音・・・」
魂を抜かれたような顔で聞き惚れる海。それを見て、少女は面白そうに目を細めた。
「ほ、この音色が分かるか、」
同じくしばし恍惚としていた大迫は、不意に気付いた。
笛が発光している。まるで、まるでそう資料で見たガメラやイリスと感応する勾玉のように。
ずずずずず・・・
「?」
笛の音が続く中、それに地響きが混じる。流石にこれには、ぼうっとしていた海もはっとなった。
「な、何!?」
答えるように、少女はつ、とその柔らかそうな唇を笛から離した。そして、かすかに笑う。
ず、ズドォーーーーーーーーーンッ!!!!
「わああああっ!!」
ほぼ同時に、分厚く固められたはずの壁が粉々に吹き飛んだ。激しく破片が落下し、慌てて下がる海と大迫、だが。
少女は下がらない。そして、まるで馬車に乗った貴族が雨に降られて困る徒歩の庶民を見やるような目で、二人を見る。事実、彼女の上に瓦礫は降らない。
「あ・・ああ・・・」
「その理由」を「見上げ」、あんぐりと、メロンでも丸飲みに出来そうなほど大きく口を開ける大迫。
「我が名はシュラ、この星の正統なる支配者アトランティスの皇帝にして・・・」
そう名乗る少女、シュラはそこで言葉を切り振り返ると、彼女を瓦礫から守り、同時に瓦礫の原因となったものを見上げる。
「我が帝国の守護神、ジャイガーの巫女である。控えよ、下民!」
がるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
シュラの声に応じるように、それ、ジャイガーは吠えた。
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